説明

繊維及びその製造方法

【課題】目的とする着色を行った場合でも実用上十分な強度が維持された繊維が得られる、繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程と、溶融した繊維材料樹脂に前記混合粉末を添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、を有する繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体を粉砕して得られた植物粉末を用いた繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地場産業で発生した茶葉等の廃棄副産物を有効利用して資源循環型社会の構築を目指すという観点で、葉等の廃棄副産物を粉砕した粉砕物を樹脂成形材料に混合させて配合した樹脂成型品の開発が行われている。
具体的には、例えば特許文献1には、廃棄副産物である茶葉を平均粒径0.5mm以下に粉砕した茶葉粉砕物を、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂等の樹脂成形材料に配合し、成形機によりシャープペンシル用替芯ケース等の樹脂成形品を作製する技術が開示されている。また特許文献2には、食物残渣を乾燥して大きさを30ミクロン以下とし、生分解性樹脂と混合して固化させ、成型品を製造する技術が開示されている。また特許文献3には、茶殻等の天然有機物抽出残渣を平均粒径300μm以下に微粉化し、高密度ポリエチレン等のバインダー樹脂に配合して、食品用トレー等の成型品を作製する技術が開示されている。
また特許文献4には、樹脂成形品に芳香性等の機能を持たせるため、粒径100μm以下、含水率5重量%以下の茶粉末を、ポリエチレン樹脂等の合成樹脂に配合して成型品を得る技術が開示されている。
また特許文献5には、植物の表皮等を粉砕して得られた5mmまでの大きさの微細な粉末と、高分子量の脂肪族ポリエステルとを含む木材代用品を形成するための物質が開示されている
【0003】
一方、繊維に機能を持たせる技術として、例えば特許文献6には、平均粒径30μmの茶粉末と水酸化カルシウム水和物粉末とをアクリルエマルジョンに配合した繊維処理剤を、ポリエステル系基布に積層及び乾燥させ、繊維処理剤層を有するシートを得る技術が開示されている。また特許文献7には、植物由来のエッセンシャルオイルを内包するマイクロカプセルがバインダー樹脂を介して繊維に固着した中わた用繊維材料が開示されている。また特許文献8には、マイナスイオンを発生する竹繊維と合成繊維とを混用した複合糸が開示されている。また特許文献9には、平均粒子径が5〜100nmの稀土類酸化物超微粒子を配合した合成樹脂を紡糸して得られた可逆的変色性を有する合成樹脂繊維が開示されている。また特許文献10には、特定の特性を有するカーボンブラックを特定量繊維に配合することで、化粧料の効果をより引き出す特性に優れた黒色着色短繊維が開示されている。
【0004】
また、高分子有機材料を着色する方法として、例えば特許文献11には、高分子有機材料の懸濁物または溶液の中に、平均粒度が0.5乃至25μmの非小板状顔料である撹拌混入型顔料を撹拌することによって、高分子有機材料内に撹拌混入型顔料の着色有効量を均一に分散させる工程を有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−226492号公報
【特許文献2】特開2000−141396号公報
【特許文献3】特開2000−281917号公報
【特許文献4】特開2003−155353号公報
【特許文献5】特表2004−503415号公報
【特許文献6】国際公開第2004/089092号パンフレット
【特許文献7】特開2004−244756号公報
【特許文献8】特開2004−44059号公報
【特許文献9】特開2000−144520号公報
【特許文献10】特開2007−39861号公報
【特許文献11】特開平8−198973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように合成樹脂等の樹脂に植物粉末や顔料等の固形分を混ぜ込んで樹脂成型品を得る場合に比べて、樹脂に固形分を練り込んだ繊維を製造する場合は、紡糸して得られた繊維の強度が低くなってしまう懸念がある。
特に、繊維を目的の色に着色するために、植物体を粉砕して得られた植物粉末と顔料粉末とを繊維材料樹脂に練り込んで繊維を製造する場合、目的の色に応じた量の植物粉末及び顔料粉末を練り込む必要があり、着色と強度とを両立することが困難であった。
そこで本発明は、目的とする着色を行った場合でも実用上十分な強度が維持された繊維が得られる繊維の製造方法を提供することを目的とする。また本発明のさらなる目的は、前記製造方法によって得られ、目的とする着色がなされつつ実用上十分な強度が維持された繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程と、
溶融した繊維材料樹脂に前記混合粉末を添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程と、
繊維材料樹脂の一部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の一部に前記混合粉末を添加して成型し、前記繊維材料樹脂の一部及び前記混合粉末を含む処理用混合物成型体を形成する工程と、
前記繊維材料樹脂の残部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に前記処理用混合物成型体を添加して、前記混合粉末及び繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法である。
【0009】
請求項3に係る発明は、
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を、溶融した繊維材料樹脂の一部に添加して成型することで得られた処理用混合物成型体を、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法である。
【0010】
請求項4に係る発明は、
前記混合粉末の添加量が、前記繊維形成用組成物に対して4.0質量%以上15.1質量%以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、
前記多糖類がデンプンである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法である。
【0012】
請求項6に係る発明は、
前記植物体が植物廃棄物である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の繊維の製造方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造された繊維である。
【0014】
請求項8に係る発明は、
繊維材料樹脂と、前記繊維材料樹脂に分散された混合粉末と、を有し、
前記混合粉末は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と、体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と、多糖類と、を含み、
前記混合粉末の含有量が繊維全体に対して4.0質量%以上15.1質量%以下である、繊維である。
【0015】
請求項9に係る発明は、
前記多糖類がデンプンである、請求項8に記載の繊維である。
【0016】
請求項10に係る発明は、
前記植物体が植物廃棄物である、請求項8又は請求項9に記載の繊維である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、目的の着色を行っても強度の高い繊維が得られる、繊維の製造方法及びその製造方法により得られた繊維が提供される。また本発明によれば、発色と強度とを両立した繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における繊維の製造方法に用いる製造装置の一例を示した模式図である。
【図2】本発明における繊維の製造方法に用いる製造装置の他の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
[繊維の製造方法]
本発明における第1の繊維の製造方法は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程(以下「混合粉末調整工程」と称する場合がある)と、溶融した繊維材料樹脂に前記混合粉末を添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程(以下「混合粉末添加工程」と称する場合がある)と、前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程(以下、「射出工程」と称する場合がある)と、を有する繊維の製造方法である。
すなわち第1の繊維の製造方法では、予め植物粉末、顔料粉末、及び多糖類を混合させて混合粉末を調整し、その混合粉末を溶融した繊維材料樹脂に添加してから射出することで、繊維を製造する。
【0020】
また本発明における第2の繊維の製造方法は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を、溶融した繊維材料樹脂の一部に添加して成型することで得られた処理用混合物成型体を、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程(以下「処理用混合物成型体添加工程」と称する場合がある)と、前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程(すなわち前記射出工程)と、を有する繊維の製造方法である。
すなわち第2の繊維の製造方法では、植物粉末、顔料粉末、及び多糖類を含む混合粉末を溶融した繊維材料樹脂の一部に添加し、成型して得られた処理用混合物成型体を、溶融した繊維材料樹脂の残部に添加してから射出することで、繊維を製造する。
【0021】
そして本発明における第2の繊維の製造方法で用いる前記処理用混合物成型体を製造する方法は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程(すなわち前記混合粉末調整工程)と、繊維材料樹脂の一部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の一部に前記混合粉末を添加して成型し、前記繊維材料樹脂の一部及び前記混合粉末を含む処理用混合物成型体を形成する工程(以下「処理用混合物成型体調整工程」と称する場合がある)と、を有する。
【0022】
上記本発明における繊維の製造方法を用いることによって、目的の色相及び濃度を有する色に着色を行っても実用上十分な強度が維持された繊維が得られる。すなわち、固体の粉末を繊維材料樹脂に練り込んで射出して繊維を製造する際に、前記固体の粉末として、前記範囲の粒径を有する植物粉末、前記範囲の粒径を有する顔料粉末、及び多糖類を含む前記混合粉末を用いることで、目的の色相及び濃度を有する色に着色され、かつ、強度の高い繊維が得られる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0023】
植物体を粉砕して得られた植物粉末と顔料粉末とを繊維材料樹脂に練り込んで得られた繊維は、顔料粉末のみが練り込まれた繊維とは異なり、独特な色彩に着色された繊維となる。しかしながら、上記のように独特な色彩に着色された繊維を得るために植物粉末及び顔料粉末を繊維に練り込むと、繊維の強度が弱くなってしまうことが考えられる。特に、植物粉末及び顔料粉末を繊維に練り込むことで繊維を着色する場合、顔料粉末のみを繊維に練り込む場合に比べて、同じような濃さの色に着色するためには、より多くの粉末(植物粉末及び顔料粉末)を用いる必要があるため、さらに繊維の強度を維持することが難しくなると考えられる。
【0024】
これに対して本発明では、前記範囲の粒径を有する植物粉末、前記範囲の粒径を有する顔料粉末、及び多糖類を含む前記混合粉末を用いることで繊維の強度を維持している。
具体的には、まず、植物粉末及び顔料粉末として上記のように粒径の小さなものを用いることで、粒径の大きな粉末を用いた場合に比べ、繊維中に含まれる繊維材料樹脂のネットワークが強固になり、粉末の存在に起因する繊維の力学的強度の低下が抑制され、繊維の強度が維持されると考えられる。
【0025】
一方、植物体を粉砕して得られた植物粉末は、植物体の細胞内に含まれていた水分が抜けて多孔質となっていることから、顔料粉末や繊維材料樹脂に比べて比重が軽いと考えられる。そして、植物粉末の比重と顔料粉末の比重との差が非常に大きいことによって植物粉末と顔料粉末とが混合しにくくなり、かつ、植物粉末の比重と繊維材料樹脂の比重との差も非常に大きいことにより、植物粉末が繊維材料樹脂内に分散しにくくなることが考えられる。
【0026】
しかしながら本発明では、混合粉末に含まれる多糖類が植物粉末に付着することで、顔料粉末に対する比重の差が小さくなり、植物粉末と顔料粉末とが均一に混合されやすくなると考えられる。そして、多糖類が付着した植物粉末は、植物粉末単体に比べて、繊維材料樹脂に対する比重の差が小さいことに加えて、多糖類が繊維材料樹脂と化学的に親和性が高いことから、混合粉末全体が繊維材料樹脂の内部に入り込みやすくなると考えられる。そのため、粒径の小さな植物粉末及び顔料粉末が凝集せずに繊維材料樹脂内に均一に分散しやすく、植物粉末のように天然の成分を用いた場合でも、実用上十分な強度が維持された繊維が得られやすいのであると推測される。
【0027】
このように、本発明では、前記範囲の粒径を有する植物粉末、前記範囲の粒径を有する顔料粉末、及び多糖類を含む混合粉末を用いることによって、粒径の大きな植物粉末又は顔料粉末を用いた場合や、植物粉末、顔料粉末、及び多糖類のいずれかを用いない場合に比べて、目的の色相及び濃度を有する色に着色され、かつ、実用上十分な強度が維持された繊維が得られると推測される。
【0028】
本発明では、前記混合粉末の添加量が、前記繊維形成用組成物全体の4.0質量%以上15.1質量%以下であることが望ましい。前記混合粉末の添加量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも少ない場合に比べて繊維を目的の色に着色しやすい。そして本発明では、上記の通り、前記混合粉末の添加量を上記範囲としても繊維の強度が維持される。
また前記混合粉末の添加量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも多い場合に比べて強度の高い繊維が得られる。
前記混合粉末の添加量は、繊維の着色と強度とを両立させる観点から、5.0質量%以上15.1質量%以下であることがより望ましく、7.0質量%以上15.1質量%以下であることがさらに望ましい。
【0029】
また本発明では、上記の通り、植物粉末と顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を予め準備してから、混合粉末を繊維材料樹脂に添加するため、粒径の小さな植物粉末及び顔料粉末を凝集させずに繊維材料樹脂の内部に分散させることができる。そのため本発明では、混合粉末を繊維材料樹脂に添加した後に撹拌等を行わなくても、繊維材料樹脂の内部に植物粉末及び顔料粉末を練り込むことができる。よって、例えば溶融した繊維材料樹脂を流しながら混合粉末を添加し、連続的に繊維の製造を行ってもよい。
【0030】
そして本発明では、上記のように、撹拌等の操作を行わなくても容易に繊維材料樹脂中に植物粉末及び顔料粉末を練り込むことができる。そのため、例えば貯留部内の繊維材料樹脂ではなく、貯留部から排出された後の繊維材料樹脂に混合粉末を添加することによって、貯留部内において繊維材料樹脂と混合粉末とを攪拌する場合に比べて、混合粉末に含まれる植物粉末及び顔料粉末等によって貯留部内が汚染されることが抑制される。そして、それによって、繊維を製造した後に、他の植物粉末又は顔料粉末を用いた繊維や、植物粉末を用いない繊維等を製造する場合においても、植物粉末及び顔料粉末による貯留部内の汚染が抑制され、貯留部内を清掃する工程が不要となる。
【0031】
さらに本発明では、繊維材料樹脂の内部に多糖類が存在しているため、繊維廃棄後に生分解が行われる生分解繊維が得られる。
以下、本発明における繊維の製造方法について、詳細に説明する。
【0032】
[第1の繊維の製造方法]
まず、第1の繊維の製造方法について説明する。第1の繊維の製造方法は、前記の通り、混合粉末調整工程と、混合粉末添加工程と、射出工程と、を少なくとも有する。
【0033】
<混合粉末調整工程>
混合粉末調整工程では、前記の通り、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する。
【0034】
−植物粉末−
植物粉末とは、植物体を粉砕して得られた粉末である。植物体としては、例えば、植物の葉、茎、樹皮、根、花、実、又は種等が挙げられ、植物そのものであれば特に限定されるものではない。上記植物は、海中植物及び陸上植物を含む。
植物粉末としては、例えば、大豆、さつまいも、ジャガイモ、砂糖大根、こんにゃく、コーヒー、茶等の食物の粉末等の他に、下記植物廃棄物を粉砕して得られた粉末等が挙げられる。
植物廃棄物としては、例えば、穀物の稲藁、もみがら、又はピーナッツの外皮等の廃棄物、野菜の選定除外物又は規格外品等の廃棄物、園芸用の出荷除外物又は規格外品等の廃棄物、林業関連の間引き樹木又は選定物等の廃棄物等が挙げられる。また植物廃棄物としては、例えばコーヒー、茶、ジュース等の飲料、しょうゆ等の調味料、加工食品等の残渣や、レストラン等の飲食店から排出される食物残渣等も挙げられる。
【0035】
植物粉末に用いる植物廃棄物の由来については特に限定されず、上記植物廃棄物以外のものを用いてもよい。植物廃棄物の具体例としては、例えば、建材廃棄物、繊維廃棄物、産業資材廃棄物、食品廃棄物、レジャー産業で発生する廃棄物等が挙げられる。
建築廃棄物としては、例えば、公共建築物や民間建築物の取り壊しからでたもの、木材片(例えば柱など)等が挙げられる。繊維廃棄物としては、例えば、繊維製品の製造の過程で発生する端布等、繊維製品で廃棄することとなったもの(具体的には、廃棄された木製のボタン、廃棄された木製のファスナートップ、木製の布(例えば薄く切った木材からなる布等)等)等が挙げられる。産業資材廃棄物等としては、例えば、木製(例えばコルク製)の内装材料、化粧品産業で発生する天然由来の原料廃棄物等が挙げられる。食品廃棄物としては、例えば、豆腐のかす、小豆の煮汁、茶殻、ダシの絞りかす、ジュースの残渣(果物からジュースを絞った絞りかす)等食品抽出後の残渣、または食品の選定によって廃棄処分となったもの等が挙げられる。レジャー産業で発生する廃棄物としては、例えば、木製の船を粉砕したもの、甲板や船体、木製のバットなどの運動用具等が挙げられる。
【0036】
繊維の着色の目的で用いる植物粉末としては、例えば、インドール誘導体(青色)、カロテノイド(カロチノイド)(オレンジ色)、ジケトン(黄色)、イソヒノリン誘導体(黄色)、アントシアニン又はアントシアン(赤色)、クロロフィル(葉緑素)(緑色)、カルコン誘導体(黄色)、フラボノイド(黄色)、タンニン(茶色)、ナフトキノン(紫色)、ジヒドロピラン(黒色)、アントラキノン誘導体(赤色)等の化合物が含まれた植物体を粉砕して得られた植物粉末が挙げられる。
【0037】
繊維の着色を顔料又は染料のみで行った場合、顔料及び染料における反射光の周波数分布が狭く、場合によっては単一の周波数からなる光を反射するため、反射光を見る者に与える印象は「人工的な、ハッキリとした色調」となりやすい。一方、植物粉末における反射光の周波数分布は広いため、植物粉末を用いて着色を行うと、反射光が幅広い周波数に分布し、反射光を見る者に与える印象は「見た目が軟らかい色調」となりやすい。そして、上記顔料又は染料と植物粉末とを併用することにより、顔料及び染料が有するハッキリとした色調を和らげた色調を表現することができる。
【0038】
植物粉末の体積平均粒径は、上記の通り、0.001μm以上1.2μm以下であり、得られた繊維の力学的強度を維持する観点から、0.001μm以上1μm以下が好ましく、0.001μm以上0.6μm以下がより好ましい。また、体積平均粒径の異なる複数種類の植物粉末を併用してもよい。
【0039】
また植物粉末の体積平均粒径は、得られた繊維の力学的強度維持の観点から、製造する繊維の直径の1/3倍以下であることが好ましく、1/5倍以下であることがより好ましく、小さければ小さいほど好ましい。例えば、1デニールに相当する直径が3.2μmの繊維を製造する場合、配合する植物粉末の体積平均粒径としては、例えば0.3μmのものが挙げられる。
【0040】
上記体積平均粒径の測定方法は、測定装置としてレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(ホソカワミクロン社製、製品名:レーザー式オンライン粒度分布測定機 INSITEC)を用いて粒度分布を得る。そして、得られた粒度分布において、個々の粒子の体積について小径側から累積分布を描き、累積50%となる粒径を体積平均粒径とする。
【0041】
植物粉末は、体積平均粒径が上記範囲であり、かつ、1.2μmを超える粒子が存在しないことが望ましい。すなわち、植物粉末の粒径がすべて1.2μm以下に分布していることが望ましい。
【0042】
植物粉末の添加量は、繊維形成用組成物全体に対し、繊維の強度維持の観点から15質量%以下の範囲が好ましく、植物粉末による着色の効果と繊維の力学的強度維持との両立の観点から3質量%以上7質量%以下の範囲が好ましい。
また、植物粉末と顔料粉末との添加量比は、繊維の着色と強度との両立の観点から、植物粉末1質量部に対し、顔料粉末0.05質量部以上1.1質量部以下が望ましく目標色によって最適な添加量比が異なる。植物粉末1質量部に対する顔料粉末の添加量は、淡色を表現するときは0.05質量部以上0.15質量部が望ましく、中間色を表現するときは0.5質量部以上0.6質量部以下が望ましく、濃色を表現するときは1質量部以上1.1質量部以下が望ましい。
【0043】
植物粉末の製造方法としては、例えば、植物体をミル等の粉砕装置によって粉砕することにより植物粉末とする方法が挙げられる。粉砕方法として、具体的には、例えば、連続してミルにかける方式、石臼を使用した粉砕方法等が挙げられる。上記ミル等による粉砕の前に、植物体をフリーズドライ等の手法により冷凍乾燥させた後に、上記粉砕を行ってもよい。また粉砕の後に、電子レンジ又は熱ヒーター等を用いて乾燥を行ってもよい。
【0044】
植物粉末は、得られた繊維の力学的強度を低下させない観点から、乾燥した状態の植物粉末を用いることが好ましい。乾燥した状態とは具体的には、例えば、植物粉末に含まれる水分の割合、すなわち粉末の全質量に対する水分の質量の割合(以下「水分含有率」と称する場合がある)が4質量%以下であること(すなわち絶乾状態)が挙げられる。
上記水分含有率の測定方法は、絶対乾燥測定乾燥機を用いて、乾燥前と乾燥後の質量比から求めている。
【0045】
−顔料粉末−
顔料粉末としては、例えば、合成有機顔料(化学構成による顔料)、金属含有無機顔料、天然無機顔料(天然岩絵具材等)、炭素含有顔料、レーキ顔料等が挙げられる。
合成有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フロロカーボン顔料等が挙げられる。
【0046】
金属含有無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、アルミ酸コバルト、等が挙げられる。
天然無機顔料としては、例えば、アパタイト鉱石紛体、水晶粉体、アズライト粉体、モナズ石粉体(慣用名:レアーズ鉱石粉体)、ブラックトルマリン鉱石紛体、レンガ紛体、宝石粉体、クジャク石粉体等が挙げられる。
炭素含有顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0047】
レーキ顔料としては、例えば、アントラキノンレーキ顔料等が挙げられる。
【0048】
顔料粉末の体積平均粒径は、上記の通り、0.001μm以上1.2μm以下であり、得られた繊維の力学的強度を維持する観点から0.001μm以上0.6μm以下がより好ましい。また、体積平均粒径の異なる複数種類の顔料粉末を併用してもよい。顔料粉末の体積平均粒径を上記範囲にする方法としては、例えば前記植物粉末の場合と同様に、ミル等を用いて粉砕する方法が挙げられる。
【0049】
また顔料粉末の体積平均粒径は、得られた繊維の力学的強度維持の観点から、製造する繊維の直径の1/3倍以下であることが好ましく、1/5倍以下であることがより好ましく、小さければ小さいほど好ましい。例えば、1デニールに相当する直径が3.2μmの繊維を製造する場合、配合する顔料粉末の体積平均粒径としては、例えば0.3μmのものが挙げられる。
上記体積平均粒径の測定方法は、前記植物粉末における体積平均粒径の測定方法と同様である。
【0050】
顔料粉末は、体積平均粒径が上記範囲であり、かつ、1.2μmを超える粒子が存在しないことが望ましい。すなわち、顔料粉末の粒径がすべて1.2μm以下に分布していることが望ましい。
【0051】
顔料粉末の添加量は、繊維形成用組成物全体に対し、着色の効果の観点から繊維質量の7.5%以下が好ましく、着色の効果と繊維の力学的強度維持との両立の観点から0.5質量%以上7.5質量%以下の範囲が好ましい。
【0052】
−多糖類−
多糖類としては、例えば、デンプン、セルロース、デキストリン、シクロデキストリン、キチン、キトサン、オリゴ糖等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。
またデンプンとしては、例えば、トウモロコシ澱粉、サトウダイコン澱粉、コンブ澱粉等が挙げられ、これらのように量産化した植物の澱粉を用いてもよい。
【0053】
多糖類は粉末の状態で用いられることが好ましい。また多糖類の粉末は、多糖類を含んでいれば多糖類単体の粉末に限られず、例えばキチンやキトサンを含む甲殻類廃棄物の粉末等のように多糖類以外の成分を含む粉末であってもよい。
多糖類の体積平均粒径は特に限定されないが、例えば、0.001μm以上1.2μm以下の範囲が挙げられ、得られた繊維の力学的強度を維持する観点から、0.6μm以下が好ましい。多糖類の体積平均粒径を上記範囲にする方法としては、例えば前記植物粉末の場合と同様に、ミル等を用いて粉砕する方法が挙げられる。
また多糖類は、体積平均粒径が上記範囲であり、かつ、1.2μmを超える粒子が存在しないことが望ましい。すなわち、多糖類の粒径がすべて1.2μm以下に分布していることが望ましい。
また多糖類の添加量としては、投入物を充分に分散させる観点から、混合粉末全体の0.5質量%以上6質量%以下の範囲が好ましい。また多糖類の比重は、例えば1以下が挙げられる。
【0054】
用いる多糖類の質量比は特に限定されないが、投入物を充分に分散させかつ繊維の強度を維持する観点から、植物粉末の添加量と顔料粉末の添加量との合計に対する多糖類の添加量の比率は、例えば、植物粉末と顔料粉末との合計1質量部に対し、多糖類は0.005質量部以上0.03質量部以下用いることがより好ましい。
【0055】
−その他の粉末−
混合粉末には、その他の粉末が含まれていてもよい。
その他の粉末としては、例えば、染料の粉末、その他の添加物等が挙げられる。なお、上記その他の粉末は、混合粉末に混合して用いてもよいし、混合粉末とは別に繊維材料樹脂に添加してもよい。
染料としては、例えば、分散染料、反応染料、直接染料、酸性染料、スレン染料等が挙げられる。
その他の添加物としては、例えば、タンパク質の粉末、セリシンを含む繭の粉末、羽毛の粉末、微生物の乾燥粉体、土の粉末、金属粉末等が挙げられる。
その他の粉末の体積平均粒径は、得られた繊維の力学的強度を維持する観点から、0.05μm以上1μm以下が好ましい。
【0056】
−混合粉末の調整−
混合粉末は、上記粉末を混合することにより得られる。上記粉末の混合方法としてはとくに制限はなく、例えば、顔料、植物粉体、多糖類をビニール袋の中に入れ、よく振って混合する方法等が挙げられる。
混合粉末は、得られた繊維の力学的強度を低下させない観点から、絶乾状態であることが好ましい。混合粉末の水分含有率としては、例えば4質量%以下が挙げられる。
混合粉末に用いられる粉末の体積平均粒径は、互いに異なっていてもよく、材料種が同じであり体積平均粒径の異なる粉末を併用してもよい。
【0057】
<混合粉末添加工程>
混合粉末添加工程では、前記の通り、溶融した繊維材料樹脂に前記混合粉末を添加して、混合粉末及び繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する。
【0058】
−繊維材料樹脂−
繊維材料樹脂としては、例えば合成樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、アセテート、トリアセテート、アクリル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニールビニリデン、ビニロン等が挙げられる。
【0059】
混合粉末は、前記の通り溶融した繊維材料樹脂に添加される。溶融した繊維材料樹脂の温度は、繊維材料樹脂が溶融する温度であれば特に限定されない。
【0060】
<射出工程>
射出工程では、前記の通り、混合粉末添加工程で調整された繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する。
射出口の形状は特に限定されず、製造する繊維の形状に応じて選択され、例えば円形のものが挙げられる。射出口の口径(円形以外の形状である場合、その面積を円に換算して得られた円の直径)は、製造する繊維の太さ等に応じた口径となっており、具体的には、例えば、1.0μm以上70μm以下の範囲が挙げられる。
【0061】
射出工程においては、例えば、繊維形成用組成物が射出口を通って水中に排出されてもよい。それにより、射出口から排出された繊維形成用組成物が水によって冷却されて固まり、繊維が得られる。上記冷却は、水中に繊維形成用組成物を排出する方法に限られず、例えば、射出口を通って排出された繊維形成用組成物に冷却用の液体や気体をかけて冷却する方法であってもよい。
射出工程においては、射出口から排出された繊維形成用組成物が、冷却されて繊維となった後に巻き取り器等によって巻き取られる工程を経てもよい。
【0062】
<繊維の製造装置>
図1は、本発明における繊維の製造方法に用いる繊維の製造装置の一例を示す模式図である。図1の製造装置は、繊維材料樹脂と混合粉末とを混合する混合部を備えた形態である。
【0063】
図1に示す製造装置10は、例えば、繊維材料樹脂を貯留する貯留部12と、繊維材料樹脂を貯留部12に導入する導入部14と、繊維材料樹脂を貯留部12から混合部22に導入する導入管16と、繊維材料樹脂と混合粉末とを混合する混合部22と、混合部22に混合粉末を添加するホッパー18と、混合部22において繊維材料樹脂と混合粉末とが混合して得られた繊維形成用組成物を混合部22から排出する排出管24と、繊維形成用組成物を排出管24から射出する射出口20と、を含んで構成されている。
【0064】
貯留部12には、例えば、貯留部12に貯留された繊維材料樹脂を加熱する加熱装置(不図示)と、溶融した繊維材料樹脂を攪拌する攪拌装置(不図示)が備えられている。なお加熱装置は、貯留部12に備えられた形態に限定されず、導入管16に備えられていてもよい。
上記加熱装置は特に限定されず、例えばヒーター等が挙げられる。
【0065】
混合部22には、例えば、溶融した繊維材料樹脂と混合粉末とを混合する混合部材(図示せず)を備えている。混合部材としては、例えば、ローラー、撹拌子等が挙げられる。
また混合部22には、繊維材料樹脂と混合粉末とが混合して得られた繊維形成用組成物に圧力をかけて射出口20から射出するための加圧手段(図示せず)を備えている。
ホッパー18の形状は特に限定されず、例えば、メガホン状の部材をホッパー18として用いてもよい。
【0066】
また、射出口20の外側には、例えば、射出された繊維材料樹脂を冷却する冷却手段(不図示)が備えられている。
冷却手段は特に限定されず、例えば射出口20から射出された繊維材料樹脂が直接水中に射出される構成の冷却装置等が挙げられる。
【0067】
図1に示す製造装置10を用いた繊維の製造方法は、例えば、予め植物粉末、顔料粉末、及び多糖類を含む混合粉末を調整する混合粉末調整工程と、繊維材料樹脂を導入部14から貯留部12に導入し、貯留部12に貯留された繊維材料樹脂を加熱装置(不図示)によって加熱して溶融させる溶融工程と、溶融した繊維材料樹脂を貯留部12から導入管16を通じて混合部22に導入し、繊維材料樹脂に対してホッパー18から混合粉末を添加し、混合部22の混合部材(不図示)によって繊維材料樹脂と混合粉末とを混合して繊維形成用組成物を調整する混合粉末添加工程と、混合部22に備えられた加圧手段(不図示)によって混合部22内の繊維形成用組成物に圧力をかけて排出管24を通じて射出口20から冷却装置(不図示)内に射出する射出工程と、を有する。
【0068】
上記溶融工程における加熱は、繊維材料樹脂の温度が目的の温度となるように加熱すればよい。溶融工程は、上記の通り、貯留部12において繊維材料樹脂が加熱されることにより行われてもよいが、混合粉末を添加する際に繊維材料樹脂が溶融していれば上記形態に限定されない。具体的には、例えば、貯留部12に加えて又は貯留部12に代えて導入管16において繊維材料樹脂の加熱行われてもよい。また、例えば、貯留部12を有さず導入部14から繊維材料樹脂が直接導入管16に導入された後、導入管16の内部を繊維材料樹脂が移動しながら加熱されて繊維材料樹脂が溶融する形態であってもよい。
【0069】
射出工程においては、射出口20から繊維形成用組成物が射出されれば上記形態に限られず、上記のように混合部22の加圧手段によって圧力をかけて射出してもよいし、例えば減圧によって射出口20から繊維形成用組成物を射出する形態であってもよい。
【0070】
図2は、本発明における繊維の製造方法に用いる繊維の製造装置の他の一例を示す模式図である。図2の製造装置は、前記混合部を備えず、貯留部から排出された繊維材料樹脂に、排出管内で混合粉末を添加する形態である。
【0071】
図2に示す製造装置100は、例えば、繊維材料樹脂を貯留する貯留部112と、繊維材料樹脂を貯留部112に導入する導入部114と、繊維材料樹脂を貯留部112から排出する排出管116と、排出管116を通る繊維材料樹脂に混合粉末を添加するホッパー118と、混合粉末の添加により得られた繊維形成用組成物を排出管116から射出する射出口120と、を含んで構成されている。
【0072】
貯留部112、導入部114、ホッパー118、及び射出口120については、前記図1に示す製造装置10における貯留部12、導入部14、ホッパー18、及び射出口20と同様であるため、説明を省略する。また加熱手段及び冷却手段についても、図1の製造装置10と同様である。
図2に示す製造装置100においては、例えば、貯留部112に加圧手段(図示せず)が設けられており、その圧力によって繊維材料樹脂が貯留部112から排出管116に排出され、排出管116内で混合粉末が添加されてそのまま射出口20から射出される。
【0073】
図2に示す製造装置100を用いた繊維の製造方法は、例えば、予め植物粉末、顔料粉末、及び多糖類を含む混合粉末を調整する混合粉末調整工程と、繊維材料樹脂を導入部114から貯留部112に導入し、貯留部112に貯留された繊維材料樹脂を加熱装置(不図示)によって加熱して溶融させる溶融工程と、貯留部112に備えられた加圧手段(不図示)によって溶融した繊維材料樹脂を貯留部112から排出管116に排出し、繊維材料樹脂に対してホッパー118から混合粉末を添加して繊維材料樹脂と混合粉末とを含む繊維形成用組成物を調整する混合粉末添加工程と、排出管116内の繊維形成用組成物を射出口120から冷却装置(不図示)内に射出する射出工程と、を有する。
【0074】
以上説明した図1に示す製造装置10及び図2に示す製造装置100は、貯留部から排出された後の繊維材料樹脂に混合粉末を添加する方式であるが、溶融した繊維材料樹脂に対して射出工程の前に混合粉末の添加が行われれば特に限定されない。具体的には、例えば、貯留部内の繊維材料樹脂に対して混合粉末の添加が行われてもよい。ただし、貯留部が植物粉末及び顔料粉末等によって汚染されることを防止する観点からは、貯留部内の繊維材料樹脂に添加を行うよりも、貯留部から排出された後の繊維材料樹脂に添加を行う形態のほうが好ましい。
【0075】
[第2の繊維の製造方法]
次に、第2の繊維の製造方法について説明する。第2の繊維の製造方法は、前記の通り、処理用混合物成型体添加工程と、射出工程と、を少なくとも有する。なお、射出工程については、前記第1の繊維の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
<処理用混合物成型体添加工程>
処理用混合物成型体添加工程では、前記の通り、混合粉末を溶融した繊維材料樹脂の一部に添加して成型することで得られた処理用混合物成型体を、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する。
【0077】
−処理用混合物成型体−
処理用混合物成型体は、前述の混合粉末を、溶融した繊維材料樹脂の一部に添加して成型することで得られたものである。
混合粉末及び繊維材料樹脂については前記と同様であるため、説明を省略する。
処理用混合物成型体に用いられる「繊維材料樹脂の一部」としては、例えば、繊維を構成する繊維材料樹脂の全体に対し、0.4質量%以上1質量%以下の範囲の繊維材料樹脂を用いる。
【0078】
処理用混合物成型体の製造は、前述のように、例えば、前述の混合粉末調整工程と、繊維材料樹脂の一部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の一部に前記混合粉末を添加して成型し、前記繊維材料樹脂の一部及び前記混合粉末を含む処理用混合物成型体を形成する処理用混合物成型体調整工程を経て行われる。
処理用混合物成型体を製造する装置としては、例えば、図1に示した製造装置10又は図2に示した製造装置100において、射出口20又は射出口120の代わりに、繊維樹脂材料の一部と混合粉末との混合物を成型する成型部を備えた装置が挙げられる。そして、前記第1の繊維の製造方法において、繊維材料樹脂の代わりに繊維材料樹脂の一部を用い、繊維形成用組成物を射出口から射出する代わりに繊維材料樹脂の一部と混合粉末との混合物を排出管から排出して成型する以外は、同様の操作を行うことで、処理用混合物成型体が製造される。
【0079】
処理用混合物成型体の添加は、前記第1の繊維の製造方法における混合粉末添加工程において、繊維材料樹脂の代わりに繊維材料樹脂の残部を用い、混合粉末の代わりに前記処理用混合物成型体を用いる以外は、同様の操作を行う。
第2の繊維の製造方法に用いられる製造装置としては、例えば、前述の図1に示した製造装置10又は図2に示した製造装置100と同様の装置が挙げられ、上記のように、繊維材料樹脂の代わりに繊維材料樹脂の残部を用い、混合粉末の代わりに前記処理用混合物成型体を用いて、繊維の製造を行う。
【0080】
[繊維]
本発明の繊維は、繊維材料樹脂と、前記繊維材料樹脂に分散された混合粉末と、を有し、前記混合粉末は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と、体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と、多糖類と、を含み、前記混合粉末の含有量が繊維全体に対して4.0質量%以上15.1質量%以下である。
混合粉末及び繊維材料樹脂については前述の通りであるため、説明を省略する。
【0081】
上記本発明の繊維は、例えば、前述の本発明における繊維の製造方法によって得られ、繊維材料樹脂に植物粉末及び顔料粉末が練り込まれたものである。
そして本発明の繊維は、上記構成であることにより、粒径の大きな植物粉末又は顔料粉末を用いた場合や、植物粉末、顔料粉末、及び多糖類のいずれかを用いない場合に比べて、目的の色相及び濃度を有する色に着色され、かつ、実用上十分な強度が維持された繊維となっている。また本発明の繊維は、繊維内に多糖類が存在していることにより、繊維の廃棄後に容易に生分解が行われる生分解繊維となっている。
【0082】
本発明の繊維の太さは特に制限されないが、繊維の直径が、混合粉体に含まれる粉体の最大の体積平均粒径の10倍以上であればよい。例えば混合粉体に含まれる粉体の体積平均粒径が1μm以下であれば、繊維の直径が10μm以上であればよい。なお、繊維の直径としては、例えば10μm以上34μm以下の範囲が挙げられる。
また、得られた繊維の長さについても特に制限されず、長繊維であるフィラメント状であってもよく、短繊維であるステープル状であってもよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0084】
[実施例1]
<混合粉末調整工程>
以下の粉末1〜粉末7をビニール袋の中に入れよく振り混合し、混合粉末を得た。
・粉末1:コーヒー残渣(植物粉末、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.5μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.5質量部
・粉末2:酸化亜鉛粉体(顔料粉末、製造元:宮澤薬品製、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.3μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.5質量部
・粉末3:アパタイト鉱石粉体(顔料粉末、ブラジル産、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.3μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)1.0質量部
・粉末4:ブラックトルマリン鉱石粉体(顔料粉末、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.3μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)1.5質量部
・粉末5:モナズ石粉体(顔料粉末、通称:レアーズ鉱石粉体、オーストラリア産、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.3μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.5質量部
・粉末6:合成顔料(顔料粉末、製造元:松美顔料会社製、型番:マツミネオカラー茶、体積平均粒径:0.3μm、粒径分布:0〜0.6μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.5質量部
・粉末7:澱粉(多糖類、トウモロコシ澱粉、製造元:日清製粉製、体積平均粒径:1μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.05質量部
【0085】
なお、前記粉末1は、コーヒー豆からコーヒーを抽出した残りの残渣を、水でふやかしてミルで粉砕し、メッシュで越した後、乾燥させて絶乾状態にしたものである。なお、粉末1は絶乾物で水分含有率は4質量%以下である。
また前記粉末2〜粉末5は、砕岩機及び油圧プレスで粉砕して粒径3μm以下にした後に、湿式粉砕法により水と混合してミルで体積平均粒径が1μmとなるまでさらに粉砕し、メッシュで越した後、水分を蒸発除去して乾燥させたものである。
また、得られた混合粉末の水分含有率は4質量%以下である。
【0086】
<混合粉末添加工程、射出工程>
繊維材料樹脂としては、ポリエステル樹脂(東レ社製)を95.75質量部用いた。すなわち、混合粉末の添加量が、混合粉末及び繊維材料樹脂全体に対して4.25質量%となるように、混合粉末と繊維材料樹脂との添加比率を調整した。
また、繊維を製造する製造装置としては、図1に示す製造装置10を用いた。
【0087】
まず、前記混合粉末調整工程において得られた混合粉末を、製造装置10のホッパー18から混合部22に少しずつ投入し、混合部22内を攪拌した。次に、混合部22内の繊維材料樹脂と混合粉末とが均一に混合して繊維形成用組成物が調整されたのを目視で確認した後、混合部22に圧力をかけて繊維形成用組成物を射出口20から射出して、ポリエステル繊維を紡糸した。
【0088】
<繊維の評価>
得られた繊維は、太さ3デニール(直径34μm)であり、茶色(具体的には茶とグレーの間の色)のポリエステル繊維(長繊維)であった。また本実施例で得られた繊維は、植物粉末及び顔料粉末が樹脂中に分散したものであるため、植物粉末又は顔料粉末の単体では得られない独特の色調(見た目がやわらかい色調)に着色されていた。
【0089】
−強度の評価−
強度の評価は、日本工業規格規格番号JIS L1096:2010『織物及び編物の生地試験方法』による試験を行った。その結果、実施例1で得られた繊維の強度は以下の通りであり、実用上十分な強度が維持されていることが確認された。
引張強さ :4g/D(すなわち3g/D以上)
乾湿強力比 :77%(すなわち70%以上)
引掛強さ :3.4g/D(すなわち2g/D以上)
標準時の伸び率 :25%(すなわち20%以上)
湿潤時の伸び率 :23%(すなわち20%以上)
3%伸長時の伸長弾性率:23%(すなわち20%以上)
初期引張抵抗度 :80g/D(すなわち50g/D以上)
【0090】
[実施例2]
<混合粉末調整工程>
以下の粉末11〜粉末14をビニール袋の中に入れよく振り混合し、混合粉末を得た。
・粉末11:コーヒー残渣(植物粉末、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.5μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)7.0質量部
・粉末12:モナズ石粉体(顔料粉末、通称:レアーズ鉱石粉体、オーストラリア産、体積平均粒径:1μm、粒径分布:0.3μm〜1.2μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)3.0質量部
・粉末13:合成顔料(顔料粉末、製造元:松美顔料会社製、型番:マツミネオカラー黒、体積平均粒径:0.3μm、粒径分布:0〜0.5μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)5.0質量部
・粉末14:澱粉(多糖類、トウモロコシ澱粉、製造元:日清製粉製、体積平均粒径:1μm、粒径が1.2μmを超える粒子の割合:0%)0.79質量部
なお、粉末11及び粉末12は、前記粉末1及び粉末5と同様にして得られたものである。また得られた混合粉末の水分含有率は4質量%以下である。
【0091】
<混合粉末添加工程、射出工程>
繊維材料樹脂としては、ポリエステル樹脂(東レ社製)を84.95質量部用いた。すなわち、混合粉末の添加量が、混合粉末及び繊維材料樹脂全体に対して15.05質量%となるように、混合粉末と繊維材料樹脂との添加比率を調整した。
混合粉末及び繊維材料樹脂を上記のようにした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル繊維を紡糸した。
【0092】
<繊維の評価>
得られた繊維は、太さ3デニール(直径34μm)であり、グレー色のポリエステル繊維(長繊維)であった。また本実施例で得られた繊維は、植物粉末及び顔料粉末が樹脂中に分散したものであるため、植物粉末又は顔料粉末の単体では得られない独特の色調(見た目がやわらかい色調)に着色されていた。
【0093】
実施例1と同様にして強度を評価したところ、実施例2で得られた繊維の強度は以下の通りであり、実用上十分な強度が維持されていることが確認された。
引張強さ :4g/D(すなわち3g/D以上)
乾湿強力比 :77%(すなわち70%以上)
引掛強さ :3.4g/D(すなわち2g/D以上)
標準時の伸び率 :25%(すなわち20%以上)
湿潤時の伸び率 :23%(すなわち20%以上)
3%伸長時の伸長弾性率:23%(すなわち20%以上)
初期引張抵抗度 :80g/D(すなわち50g/D以上)
【0094】
以上のように、本実施例では、目的とする着色がなされ、かつ、実用上十分な強度が維持された繊維得られることが分かる。また本実施例では、生分解性が良好な繊維が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
10、100 製造装置
12、112 貯留部
14、114 導入部
24、116 排出管
18、118 ホッパー
20、120 射出口
22 混合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程と、
溶融した繊維材料樹脂に前記混合粉末を添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法。
【請求項2】
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を調整する工程と、
繊維材料樹脂の一部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の一部に前記混合粉末を添加して成型し、前記繊維材料樹脂の一部及び前記混合粉末を含む処理用混合物成型体を形成する工程と、
前記繊維材料樹脂の残部を溶融させ、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に前記処理用混合物成型体を添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法。
【請求項3】
植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と多糖類とを含む混合粉末を、溶融した繊維材料樹脂の一部に添加して成型することで得られた処理用混合物成型体を、溶融した前記繊維材料樹脂の残部に添加して、前記混合粉末及び前記繊維材料樹脂を含む繊維形成用組成物を調整する工程と、
前記繊維形成用組成物を射出口から射出して、繊維を形成する工程と、
を有する繊維の製造方法。
【請求項4】
前記混合粉末の添加量が、前記繊維形成用組成物に対して4.0質量%以上15.1質量%以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項5】
前記多糖類がデンプンである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項6】
前記植物体が植物廃棄物である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の繊維の製造方法によって製造された繊維。
【請求項8】
繊維材料樹脂と、前記繊維材料樹脂に分散された混合粉末と、を有し、
前記混合粉末は、植物体を粉砕して得られた体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の植物粉末と、体積平均粒径0.001μm以上1.2μm以下の顔料粉末と、多糖類と、を含み、
前記混合粉末の含有量が繊維全体に対して4.0質量%以上15.1質量%以下である、繊維。
【請求項9】
前記多糖類がデンプンである、請求項8に記載の繊維。
【請求項10】
前記植物体が植物廃棄物である、請求項8又は請求項9に記載の繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180614(P2012−180614A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44189(P2011−44189)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(505266651)蝶理MODA株式会社 (1)
【出願人】(511054765)
【Fターム(参考)】