説明

繊維強化耐火物

【課題】本発明は、耐火物の引張強度を改善でき、亀裂発生や破壊を抑制でき、耐火物の寿命や信頼性を向上できる繊維強化耐火物を提供することを目的とする。
【解決手段】耐火物の表面の一部または全体に、該耐火物よりも引張強度の高い繊維からなる一方向の束、撚り紐あるいは織物が接着された繊維接着層が配置され、その表面に、酸化防止下地層が配置され、さらにその表面に酸化防止層が配置されたことを特徴とする繊維強化耐火物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、500℃程度以上の高温で使用される窯炉やノズル用の耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物は、使用中に発生する機械的な応力および熱応力に十分に耐えることが要求される。耐火物は、引張強度が極端に小さく、圧縮強度に比べ3分の1から10分の1程度であり、引張応力による破壊が主問題となる。
従来、耐火物の引張強度を改善するため、耐火物よりも引張強度が高い繊維(以下、高引張強度繊維と称す。)により強化する方法の開発が進められてきた。高引張強度繊維としては、炭素繊維が代表的である。
【0003】
例えば特許文献1では、内部に貫通孔を有する耐火物の、炭素繊維による補強方法が開示されている。特許文献1では、炭素繊維の束または網状物を耐火物の貫通孔の長手方向と垂直方向に巻付けることにより目的のものを得ている。
【0004】
一方、コンクリートの分野では、コンクリートの引張応力を改善するために、高引張強度繊維によるコンクリートの補強が実用されている。例えば特許文献2では、炭素繊維に、エポキシ樹脂を含浸させ、それをコンクリートの表面に接着し、強化する方法が開示されている。
【0005】
また、耐火物は、高温(例えば500℃以上)で使用される場合では、高引張強度繊維の高温酸化による劣化を防止する必要がある。特に炭素繊維は、高温の大気雰囲気においては、著しく強度が低下するため酸化を防止する必要がある。
例えば特許文献3では、耐酸化性炭素繊維強化炭素複合材料およびその製造方法が開示されている。特許文献3では、炭素繊維強化炭素複合材料の表面に、複数のセラミックスのコーティング層を、例えば化学気相蒸着法、イオンプレーティング法、溶射法などの方法によって設けることで目的のものを得ている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−133166号公報
【特許文献2】特開平3−224901号公報
【特許文献3】特開平6−234570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、高引張強度繊維を巻きつけるだけでは、高引張強度繊維同士または高引張強度繊維と耐火物の摩擦抵抗により拘束されているのみである。そのため母体となる耐火物に応力が発生したとき、その応力が高引張強度繊維に伝達されても、確実に固定されていないため、高引張強度繊維がすべってしまい、強度を向上させる効果は小さい。
また、巻き回数を増やすことで拘束力を増加させ、強度を向上させることはできるが、高引張強度繊維と耐火物の間、または高引張強度繊維同士の間には、少なくとも間隙が存在し、密着できていないため、使用に伴い徐々に拘束が緩くなり強度を向上させる効果が小さくなる。
【0008】
また、コンクリートの分野では、特許文献2のように、樹脂をマトリックスとした接着剤を用いて高引張強度繊維を接着し、コンクリートを強化する方法がある。この場合、高引張強度繊維は、接着剤を介してコンクリートおよび高引張強度繊維同士が一体化しており、高引張強度繊維が容易にすべらないため、室温での強化効果が大きい。しかし、これらに使用される接着剤は、高温で80質量%以上分解してしまい、耐火物に適用しても、高温で十分な接着強度が得られず、簡単に高引張強度繊維が剥離してしまう。
【0009】
また、高温において、高引張強度繊維の酸化を防ぐ必要があるが、例えば特許文献3のように、コーティング層を設ける方法は、専用の特殊な装置が必要となる。また、装置により形状が制限される。さらに、耐火物は、高温での使用中に急激な温度の変化を受けるため、コーティング層は、その状況では亀裂を発生し、耐用性が劣る。
【0010】
本発明は、耐火物の引張強度を改善でき、亀裂発生や破壊を抑制でき、耐火物の寿命や信頼性を向上できる繊維強化耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高引張強度繊維により強化された繊維強化耐火物において、高引張強度繊維による強化作用および耐用を最大限に発現させた耐火物を検討した結果、高引張強度繊維を耐熱性の接着剤を用いて接着し、さらに酸化防止下地層、および酸化防止層を配置することで、500℃程度以上の高温における高引張強度繊維や高引張強度繊維を接着する接着剤の酸化による劣化を防止でき、耐火物を高強度のまま、長時間保持できることを新たに見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1)耐火物の表面の一部または全体に、該耐火物よりも引張強度の高い繊維からなる一方向の束、撚り紐あるいは織物が接着された繊維接着層が配置され、その表面に、酸化防止下地層が配置され、さらにその表面に酸化防止層が配置されたことを特徴とする繊維強化耐火物。
【0014】
(2)前記酸化防止下地層が、無機酸化物、炭化物セラミックス、または窒化物セラミックスの少なくともいずれかと、バインダーの混合物であることを特徴とする(1)に記載の繊維強化耐火物。
【0015】
(3)前記酸化防止層が、軟化点が300℃から700℃のガラス、無機酸化物、および無機系バインダーの混合物であることを特徴とする(1)または(2)に記載の繊維強化耐火物。
【0016】
(4)前記繊維の接着に使用する接着剤が、炭素を40質量%以上含有する合成樹脂であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【0017】
(5)前記繊維の接着に使用する接着剤が、フェノール樹脂であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【0018】
(6)鉄鋼の製造工程に使用されるロングノズル、浸漬ノズル、スライディングノズルの一部または全部が、前記の繊維強化耐火物で構成されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【0019】
(7)複数の耐火物からなる目地を含む構造物の一部または全部が、前記の繊維強化耐火物で構成されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維強化耐火物は、表面に高引張強度繊維が耐熱性の接着剤により接着されることで、もとの耐火物よりも引張強度に優れている。さらに、酸化防止下地層および酸化防止層が配置されることで、高温における高引張強度繊維または高引張強度繊維を接着する接着剤の酸化による劣化を防止でき、従来よりも、耐火物を高強度のまま、長時間保持される。これにより、耐火物の引張強度を改善でき、亀裂発生や破壊を抑制でき、耐火物の寿命や信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、対象とする耐火物よりも引張強度の高い繊維、すなわち高引張強度繊維からなる一方向の束、撚り紐、または織物を、耐熱性を有する接着剤により、母体となる耐火物の表面に接着して、繊維接着層が配置され、その上に酸化防止下地層が配置され、さらにその層の上に酸化防止層が配置される。
【0022】
高引張強度繊維としては、特に規定するものではないが、例えば炭素繊維、SiC繊維、ガラス繊維、Al2O3繊維、ZrO2繊維、Si-Ti-C-O繊維などが挙げられる。また高引張強度繊維は1種だけでも良く、また複数種からなるものでも良い。汎用的な炭素繊維は、引張強度が2000MPaから5000MPaのものが例示できる。耐火物の場合、例えばMgO−黒鉛質の耐火物であれば、引張強度が3〜10MPaのものが例示でき、炭素繊維は耐火物に比べ100倍以上引張強度が大きいため、好ましい。
【0023】
耐火物を使用する際に、特定の方向に応力が発生する場合は、高引張強度繊維を一方向に揃えて束にしたもの、撚って紐状にしたもの、または織物にしたものを接着することが推奨される。一方、耐火物に発生する応力の方向を特定できない場合は、2次元方向引張強度を有する高引張強度繊維の織物を接着することが好ましい。
【0024】
耐火物を使用する際に、特定の場所に応力が発生することが予めわかっている場合は、該当する箇所のみに高引張強度繊維を接着すれば、高引張強度繊維の使用量が削減でき、好ましい。一方、応力を受ける箇所が特定できない場合は、全面に高引張強度繊維を接着することが好ましい。
【0025】
高引張強度繊維の接着に使用する接着剤は、耐熱性を有することが好ましい。具体的には、フェノール樹脂やフラン樹脂などの合成樹脂、コールタールピッチ、第一りん酸アルミニウム、アルミナゾル、シリカゾルなどを主成分としたものが例示できる。
【0026】
特に、高引張強度繊維の接着に使用する接着剤は、高温の接着力の点において炭素を40質量%以上含む合成樹脂が好ましい。炭素を40質量%以上含有することで、高温において炭素が残存しやすくなり、高引張強度繊維と耐火物または高引張強度繊維同士を強固に接着できる。炭素の含有量が多い点においてフェノール樹脂がより好ましい。
【0027】
前述の通り、高引張強度繊維としては、炭素繊維を使用することが好ましい。炭素繊維は、耐熱性に優れ、高温において優れた引張強度を持つ。しかし、耐火物を酸化雰囲気で使用する場合は、炭素繊維の酸化を防ぐ必要がある。なぜなら、酸化により炭素繊維は気化して消失し、引張強度の強化効果が発揮されないためである。
【0028】
そこで、本発明は高引張強度繊維または高引張強度繊維の接着に使用する接着剤の高温酸化防止のために、高引張強度繊維を接着した層の表面に、酸化防止下地層が配置され、さらにその表面に酸化防止層が配置されるものとした。炭素繊維または炭素を含む繊維を使用する場合、また、接着剤にフェノール樹脂やフラン樹脂などの炭素含有量の多い合成樹脂を使用する場合は、特にこの効果が顕著に発揮される。
【0029】
酸化防止層は、軟化点が300℃から700℃のガラス、無機酸化物、および無機系バインダーの混合物である。軟化点が300℃から700℃のガラス(以下、低融点ガラスと記載することがある。)としては、例えばSiO2が60質量%以下で、その他にB2O3、P2O5、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物やフッ素化合物などが配合されたものが例示できる。軟化点の調整は、これらの配合量を適宜調整することで、実施できる。なお、ガラスの軟化点は、JIS R3103-1に規定される試験法により測定される。
【0030】
無機酸化物はSiO2、Al2O3、ZrO2、CoOなどが例示できる。また、無機系バインダーはコロイダルシリカ溶液などのコロイダル金属酸化物バインダー、けい酸ナトリウム溶液などのアルカリ金属塩バインダー、第一りん酸アルミニウムなどの酸性金属塩バインダーが例示できる。
酸化防止層には、さらに、酸化防止の機能を有するSiC、B4Cなどの炭化物セラミックスやSiやAlの粒子が配合されることが好ましい。
【0031】
酸化防止層は、耐火物の使用温度(例えば500℃程度以上)において一部または全部が溶融し、溶融ガラスの膜を耐火物の表面に形成することで、酸化性雰囲気から耐火物を遮断し、高引張強度繊維、高引張強度繊維の接着に使用する接着剤および耐火物の酸化を防ぐ。
【0032】
酸化防止層は、耐火物の使用温度に応じて溶融ガラスの膜を耐火物の表面に形成できるように、混合される低融点ガラス自体の軟化点を調整すること、または、酸化防止層に占める低融点ガラスの混合割合を調整することが好ましい。
【0033】
すなわち、耐火物の使用温度が比較的低温(例えば500℃〜800℃程度)の場合における酸化防止層は、混合される低融点ガラス自体の軟化点を下げるか、または、酸化防止層に占める低融点ガラスの混合割合を増加させ、比較的低温の領域における使用温度において、低融点ガラスの一部または全部が溶融し、溶融ガラスの膜を形成するように調整することが好ましい。
上記の低温用の酸化防止層を、比較的高温(例えば800℃〜1500℃程度)で使用すると、溶融ガラスの粘性が低下して流れ落ちやすくなるため、溶融ガラスの膜の形成を維持し難くなり、酸化防止の効果は小さくなる。
【0034】
一方、耐火物の使用温度が比較的高温(例えば800℃〜1500℃程度)の場合における酸化防止層は、混合される低融点ガラス自体の軟化点を上げるか、または、酸化防止層に占める低融点ガラスの混合割合を減少させ、比較的高温の領域における使用温度において、低融点ガラスの一部または全部が溶融し、溶融ガラスの膜を形成するように調整することが好ましい。
上記の高温用の酸化防止層を、比較的低温(例えば500℃〜800℃程度)で使用すると、高温用の酸化防止層は、ほとんど溶融しないため、溶融ガラスの膜を形成し難く、酸化防止の効果は小さくなる。
【0035】
耐火物が低温から高温にかけて広い温度幅で使用される場合は、酸化防止層を多層に配置することが好ましい。例えば、低温から高温まで昇温する場合では、耐火物側(すなわち内側)である1層目に高温用の酸化防止層を配置し、外側である2層目には、低温用の酸化防止層を配置することが推奨される。
この様な構成にすることで、低温の段階では、外側(2層目)の低温用の酸化防止層の一部または全部が溶融し、溶融ガラスの膜を形成することで酸化を防止できる。しかし、より高温になるにつれて、外側の酸化防止層の溶融ガラスの膜の粘性が低下し、流れ落ち始めて、溶融ガラスの膜を維持できなくなるが、次に、内側(1層目)の高温用の酸化防止層の一部または全部が溶融し、溶融ガラスの膜を形成することで高温の酸化を防ぐことができることで、低温から高温までの幅広い温度領域において、酸化を防ぐことができる。
上記の例では2層の酸化防止層を配置した場合を示したが、3層以上の複数層を同様に配置しても良い。
【0036】
しかし酸化防止層の溶融ガラスは、高引張強度繊維や高引張強度繊維の接着に使用する接着剤との濡れ性が低いため、繊維接着層の上に、直接、酸化防止層を配置しても、溶融ガラスが弾かれ膜を形成できず、酸化防止層が有効に働きにくい。そのため、酸化防止下地層を、繊維接着層と酸化防止層の間に配置することで、酸化防止層との密着性が向上し、安定して酸化防止層が形成できることを見出した。
高引張強度繊維や高引張強度繊維の接着に使用する接着剤に炭素を含む場合は、この効果が特に顕著に発揮される。
【0037】
酸化防止下地層は、無機酸化物、炭化物セラミックスまたは窒化物セラミックスの少なくともいずれかとバインダーの混合物である。無機酸化物は、Al2O3、SiO2、ZrO2などが例示できる。炭化物セラミックは、SiC、B4Cなどが例示できる。窒化物セラミックスは、AlN、BN、Si3N4などが例示できる。バインダーは、フェノール樹脂、フラン樹脂、コールタールピッチ、第一りん酸アルミニウム溶液、コロイダルアルミナ溶液、コロイダルシリカ溶液などが例示できる。なお、バインダーは、高温における接着力の点においてフェノール樹脂が好ましい。
【0038】
酸化防止下地層は、無機酸化物、炭化物セラミックス、または窒化物セラミックスの少なくともいずれかが、耐火物の使用温度において、酸化防止層の溶融ガラスと濡れやすいため、酸化防止層を密着させることができる。これにより、酸化防止層が有効に作用し、高引張強度繊維、高引張強度繊維の接着に使用する接着剤および耐火物の酸化を防止でき、長時間の高強度維持が可能になる。そのため、酸化防止層中のガラスとの濡れ性の高いものとして、特に無機酸化物が酸化防止下地層中に多く配合されることが好ましく、例えば、50質量%以上配合されることが好ましい。
【0039】
また、酸化防止下地層は、Si、Al、またはMg単体の粒子またはSi、AlまたはMgを主成分とする合金粒子が混合されることがより好ましい。これらの粒子は、高温で炭化物や酸化物を形成し、高引張強度繊維の接着層との接着力を増加させる。
【0040】
本発明の繊維強化耐火物の製造方法の例としては、まず、耐火物の表面に、この耐火物よりも引張強度の高い繊維を、接着剤により接着させ、乾燥して硬化させる。
次に、無機酸化物、炭化物セラミックス、または窒化物セラミックスの少なくともいずれかと、バインダーの混合物スラリーを塗布し、乾燥および硬化させて酸化防止下地層を配置する。
さらに、軟化点が300℃から700℃のガラス、無機酸化物、および無機系バインダーの混合物スラリーを塗布し、乾燥させて酸化防止層を配置することで、得ることができる。
【0041】
本発明の繊維強化耐火物は、具体的には鉄鋼製造における連続鋳造工程に使用されるロングノズル、浸漬ノズルおよびスライディングノズルに使用される耐火物の一部または全部に適用できる。これらの耐火物は、使用中に激しい熱応力を受け、亀裂の発生による損耗が非常に起こり易い。しかし、本発明の構成の耐火物を適用することにより、亀裂発生を抑制でき、寿命を向上できる。
【0042】
図1に、ロングノズル2に本発明を適用する場合の、高引張強度繊維を接着した状態の模式図を例示している。この図1では、ロングノズル2の一端側に高引張強度繊維からなる格子状織物1を配置し、他端側に高引張強度繊維からなる一方向シート3を配置した構成を例示している。
この様に、繊維接着層が配置され、その表面に酸化防止下地層が、またその表面に酸化防止層が配置される。
【0043】
ロングノズル2、図示しない浸漬ノズルまたはスライディングノズルに高引張強度繊維を接着する場合、円周方向に発生する引張応力が問題となるときは、高引張強度繊維を円周方向と平行またはらせん状に巻くことが好ましい。
【0044】
また、本発明の繊維強化耐火物は、複数の耐火物からなる、目地を含む構造物の一部または全体に適用できる。具体的には、鉄鋼製造における転炉やトーピードカーの内壁などである。これらの設備の内壁である耐火物の構造物へ本発明を適用することにより、耐火物の亀裂発生や剥離を防止でき、寿命を向上できる。
【0045】
図2に単体の耐火物構造物4から構成される転炉の炉壁において、本発明を適用する場合の、高引張強度繊維を接着した状態の模式図を例示している。
この図2では、耐火物構造物4に、高引張強度繊維からなる一方向シート3を配置した構成を例示している。
この様に、繊維接着層が配置され、その表面に酸化防止下地層が、またその表面に酸化防止層が配置される。
【実施例】
【0046】
本例では、以下の3種の試験片を作成し、3点曲げ法により熱間曲げ強度を比較した。曲げ強度は、試験片の下面に発生する最大引張応力で表されるため、曲げ強度を評価することで、材料の引張強度を簡易的に評価できる。
(a)通常試験片
(b)従来技術試験片(比較データ)
(c)本発明
【0047】
(a)は、通常のAl2O3−黒鉛質耐火物であり、炭素繊維を接着せず、酸化防止剤を配置した試験片とした。
(b)は、Al2O3−黒鉛質耐火物にフェノール樹脂で炭素繊維を接着し、さらに酸化防止剤を配置した試験片とした。
(c)は本発明であり、Al2O3−黒鉛質耐火物にフェノール樹脂で炭素繊維を接着し、さらに酸化防止下地層および酸化防止層を配置した試験片とした。
【0048】
耐火物の原料としては、(a)〜(c)の試験片に共通して、Al2O3粉末を70質量%、鱗状黒鉛を30質量%の粉末原料と、外掛けで17質量%のバインダーを用いた。またバインダーには熱硬化性のフェノール樹脂を用いた。
これらの原料を混練し、円筒状にCIP(冷間静水圧成形)により成形し、還元焼成し、Al2O3−黒鉛質耐火物を得た。
得られた円筒形状のAl2O3−黒鉛質耐火物から、25mmm×25mm×160mmの直方体を切り出した。
【0049】
(a)には、この直方体の前記耐火物に酸化防止剤を塗布し、乾燥装置を用いて110℃で乾燥させた。酸化防止剤は、軟化点400℃〜500℃のガラスと、溶融シリカ、ムライトおよびZrO2粉末の混合物100質量部に対し、コロイダルシリカ溶液を外掛け30質量部配合したスラリー状物としたものを用いた。本例で使用した酸化防止剤の化学成分を表1に示す。なお化学成分は蛍光X線分析法により分析した。
【0050】
【表1】

【0051】
(b)には、Al2O3−黒鉛質耐火物の直方体について、25mm×160mmの片面に、熱硬化性のフェノール樹脂溶液を25mm×90mmだけ刷毛により塗布した。そこに単線を24000本一方向に収束した炭素繊維を接着し、さらにフェノール樹脂を薄く塗布した。
【0052】
炭素繊維を接着した状態の直方体試験片6を図3に示す。
炭素繊維の一方向束5は90mmの長さで、中央に接着した。接着したときの炭素繊維の幅は約13mmであった。
この様に、炭素繊維の一方向束5を接着した後、乾燥装置を用いて、フェノール樹脂を80℃で予備硬化させ、さらに150℃で硬化させた。その後、(a)に用いた酸化防止剤を塗布し、110℃で乾燥させた。
【0053】
(c)には、(b)と同様の方法により炭素繊維を接着し、炭素繊維を接着した場所に酸化防止剤下地層を約1mm塗布した。酸化防止剤下地層は、500μm以下の粒径のAl2O3粉末が96質量%およびAl粉末が4質量%の混合粉末に、炭素繊維の接着に使用したフェノール樹脂を外掛けで30質量%添加し混合したスラリー状物を使用した。次いで、乾燥装置を用いて80℃で予備硬化させ、さらに150℃で硬化させた。その後、(a)に用いた酸化防止剤を塗布し、110℃で乾燥させた。
【0054】
得られた(a)、(b)、(c)の試験片を、熱間曲げ強度試験に供した。試験は3点曲げ法とし、JIS R 2213に規定される耐火れんがの曲げ強さの試験方法を応用して、高温の電気炉内で実施した。
【0055】
台座に試験片を設置するとき、(b)および(c)は、炭素繊維を接着した面が下になるようにした。これは、試験片の下面に最大引張応力が発生するため、炭素繊維の接着による効果を評価できるからである。
【0056】
試験片を台座に設置し、(a)、(b)、(c)それぞれ3本ずつ電気炉内に挿入し、大気雰囲気のまま1200℃まで、5℃/分の加熱速度で加熱した。炉内が1200℃まで加熱された時点を0分とし、曲げ強度を測定した。試験は、(a)、(b)、(c)それぞれ3本ずつ実施した。同様の試験を、0分から10分後、20分後、40分後、60分後、90分後、120分後にそれぞれ開始し、曲げ強度を測定した。
【0057】
図4に試験結果を示す。横軸を1200℃での経過時間、縦軸を曲げ強度としたグラフである。
【0058】
(a)の通常試験片は0分の曲げ強度が、約6.8MPaであり、時間経過後も変化は小さい。それに対し(b)の比較試験片は、0分の曲げ強度は約7.4MPaであり、通常試験片よりも高強度である。しかし、時間経過と共に、曲げ強度は減少し、30分後には約6.2MPa、60分後には約3.8MPaとなり、強度が激減している。これは、炭素繊維が酸化防止剤を弾き、そこから酸化が進行し、炭素繊維および耐火物に含まれる黒鉛が酸化され消失してしまったためと考えられる。
【0059】
(c)の本発明は、0分の曲げ強度は約8.4MPaであり、120分後もその強度が維持される。(b)に比べれば、120分後の曲げ強度は、3倍に近い。したがって、本発明は、従来よりも炭素繊維の接着による強化効果が持続されており、(a)および(b)よりも優位であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を適用したロングノズルの高引張強度繊維を接着した状態を示す図である。
【図2】本発明を適用した耐火物構造物から構成される転炉の炉壁の高引張強度繊維を接着した状態を示す図である。
【図3】実施例に使用した、炭素繊維を接着した状態の試験片を示す図である。
【図4】実施例で得られた試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 高引張強度繊維からなる格子状織物
2 ロングノズル
3 高引張強度繊維からなる一方向シート
4 耐火物構造物
5 炭素繊維の一方向束
6 直方体試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物の表面の一部または全体に、該耐火物よりも引張強度の高い繊維からなる一方向の束、撚り紐あるいは織物が接着された繊維接着層が配置され、その表面に、酸化防止下地層が配置され、さらにその表面に酸化防止層が配置されたことを特徴とする繊維強化耐火物。
【請求項2】
前記酸化防止下地層が、無機酸化物、炭化物セラミックス、または窒化物セラミックスの少なくともいずれかと、バインダーの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化耐火物。
【請求項3】
前記酸化防止層が、軟化点が300℃から700℃のガラス、無機酸化物、および無機系バインダーの混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化耐火物。
【請求項4】
前記繊維の接着に使用する接着剤が、炭素を40質量%以上含有する合成樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【請求項5】
前記繊維の接着に使用する接着剤が、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【請求項6】
鉄鋼の製造工程に使用されるロングノズル、浸漬ノズル、スライディングノズルの一部または全部が、前記の繊維強化耐火物で構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化耐火物。
【請求項7】
複数の耐火物からなる目地を含む構造物の一部または全部が、前記の繊維強化耐火物で構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化耐火物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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