説明

繊維強化複合セラミックス材料の製造方法、及び繊維強化複合セラミックス材料

【課題】セラミックス繊維の空隙にセラミックススラリーを含浸させた後の乾燥・硬化、あるいは乾燥及び焼成の際に生じるクラックを細分化、あるいは抑制し、より緻密なマトリックスを形成できる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法及び耐衝撃性に強い繊維強化複合セラミックス材料を提供する。
【解決手段】セラミックススラリーの中に、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維を0.2vol%以上11vol%以下添加、分散させる工程と、前記セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、セラミックス繊維を浸漬し、前記セラミックス繊維表面にセラミックス粒子とセラミックス短繊維を付着させる工程と、前記セラミックス繊維を所定形状に形成し、乾燥、硬化させる工程と、前記工程で得られた硬化体を所定温度で焼成する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス材料を繊維で強化した繊維強化複合セラミックス材料の製造方法、及び繊維強化複合セラミックス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミックス材料を繊維で強化した繊維強化複合セラミックス材料を製造する方法として、種々の方法が知られている。
例えば、セラミックス繊維を3次元形状に編んで、そのセラミックス繊維間の空隙をCVI(Chemical Vapor Infiltration)によりマトリックスを形成し緻密化する方法が知られている。
【0003】
また、特許文献1に示されるように、短繊維束組成物を含む被覆材で被覆されている炭素含有長繊維を用いることにより、強度を高めた繊維強化複合セラミックス材料の製造方法が知られている。
具体的には、第一段階で束の状態に集められていてもよくかつ短繊維束組成物を含む被覆材で被覆されている炭素含有長繊維、樹脂およびピッチの中から選択されたバインダー、および場合によっては他のフィラーからなる混合物を製造し、この混合物を第二段階で型中に高温高圧で圧縮してグリーンボディーを製造し、第三段階でこのグリーンボディーの炭化および/またはグラファイト化を実施して多孔質成形体、特に炭素繊維で強化された炭素を含む成形体を製造し、そして第四段階で、多孔質成形ディスクに珪素溶融物を浸透させそして炭素と珪素とを少なくとも部分的に反応させてSiCを生成することによって、成形されたC/SiC−ボディーを形成し、その際に長繊維を選択された方向に巻くかまたは並べそして短繊維束組成物が、珪化した後に長繊維を被覆する短繊維強化されたC/SiCが生成される様に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−201184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記CVIによりマトリックスを形成し緻密化する方法にあっては、セラミックス繊維を3次元形状に編み込む作業に多大な時間と労力を要し、またセラミックス繊維間の空隙の内部にガスを反応させてマトリックスを形成させる工程に長時間かかるという技術的課題があった。
また、上記した特許文献1に記載されている方法にあっては、高温または加圧により成形しなければならず、パイプ状またはタンク状の成形が困難であるという技術的課題があった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、上記技術的課題を解決するために鋭意研究し、セラミックススラリーを使用してセラミックス繊維体の空隙を埋める方法を想到するに至った。
即ち、セラミックス繊維体をセラミックススラリーに浸漬し、セラミックス繊維の空隙にセラミックススラリーを含浸させ、その後、前記セラミックス繊維体を焼成する、繊維強化複合セラミックス材料の製造方法を想到するに至った。
【0007】
しかしながら、上記方法は、セラミックス繊維の空隙にセラミックススラリーを含浸させた後の乾燥・硬化、あるいは焼成の際、マトリックスの収縮が大きいため、マトリックスに大きなクラックが生じやすいという新たな技術的課題を有するものであった。更に言えば、セラミックススラリーにセラミックス繊維を含浸させる方法により製造された繊維強化複合セラミックス材料には、大きなクラックが生じあるいは生じ易く、またクラックが伸張しやすいため、耐衝撃性が小さいという技術的課題があった。
【0008】
本願発明者らは、このような課題を解決するために更なる研究を重ね、セラミックススラリーの中にセラミックス短繊維を添加することにより、スラリー法でマトリックスを得る場合に回避できない乾燥・硬化時あるいは焼成時に生じるクラックを細分化でき、より欠陥の少ない緻密なマトリックスを形成できる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法及びこのセラミックス材料を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、セラミックス繊維の空隙にセラミックススラリーを含浸させた後の乾燥・硬化、あるいは焼成の際に生じるクラックを細分化あるいは抑制し、より緻密なマトリックスを形成できる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法を提供することを目的とするものである。また、より緻密なマトリックスを有する繊維強化複合セラミックス材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法は、セラミックス粒子をバインダー及び有機溶剤中に分散させてなるセラミックススラリーの中に、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維を0.2vol%以上11vol%以下添加、分散させる工程と、前記セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、セラミックス繊維を浸漬し、前記セラミックス繊維表面に前記セラミックス粒子と前記セラミックス短繊維を付着させる工程と、前記セラミックス繊維を所定形状に形成し、乾燥、硬化させる工程と、前記工程で得られた硬化体を所定温度で焼成する工程と、を備えることを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法は、前記セラミックス繊維を所定形状に形成する工程と、セラミックススラリーの中に、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維を0.2vol%以上11vol%以下添加、分散させる工程と、前記セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、所定形状に形成されたセラミックス繊維を浸漬し、前記セラミックス繊維間にセラミックス粒子とセラミックス短繊維を含浸させる工程と、前記セラミックス繊維間にセラミックス粒子とセラミックス短繊維を含浸させたセラミックス繊維を乾燥、硬化させる工程と、前記工程で得られた硬化体を所定温度で焼成する工程と、を備えることを特徴としている。
【0012】
このように本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法によれば、セラミックススラリーの中にセラミックス短繊維を添加し、そのセラミックススラリーにセラミックス繊維を含浸させる方法により製造することができるため、上記したCVIによりマトリックスを形成し緻密化する方法に比べて、短時間で、容易に製造することができる。しかも、この製造方法により、製造された繊維強化複合セラミックス材料は、セラミックスマトリックスに含まれているセラミックス短繊維によりクラックが細分化されるため、優れた耐衝撃性を備える。
【0013】
また、セラミックススラリーに含まれるセラミックス短繊維の長さを0.5mm以上10mm以下とするのは、10mmより長い場合、分散性が低下してセラミックス短繊維の絡みが発生するためである。また、0.5mmより短い場合、セラミックス短繊維の添加の効果が認められないためである。
また、セラミックス短繊維の添加量を0.2vol%以上11vol%以下とするのは、0.2vol%未満の添加量の場合、セラミックス短繊維を添加することによる効果が認められないためである。また、セラミックス短繊維を、11vol%を超えて添加した場合、セラミックス短繊維同士が絡まり易くなり、セラミックス短繊維の分散性が低下するため、好ましくない。
【0014】
ここで、前記硬化体を所定温度で焼成した後、Siを前記繊維強化複合セラミックス材中に含浸させることが望ましく、更に繊維強化複合セラミックス材料にSiを含浸させることにより、より緻密体になすことができ、耐衝撃性をより大きくすることができる。
【0015】
また、前記セラミックス短繊維の平均直径は、セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径の0.15倍以上になされていることが望ましい。
このように構成するのは、セラミックス短繊維の平均直径が、セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径の0.15倍未満の場合に、セラミックス短繊維とセラミックスマトリックスとの接触箇所が減少し、セラミックス短繊維のセラミックスマトリックスへのアンカー効果が発揮されず、その結果、クラックの伸展を阻止することが困難になるためである。
【0016】
また、上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料は、セラミックス繊維と、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維が0.2vol%以上11vol%以下含まれているセラミックスマトリックスと、を備えることを特徴としている。
この繊維強化複合セラミックス材料は、セラミックスマトリックスに含まれているセラミックス短繊維によりクラックが細分化されるため、優れた耐衝撃性を有する。
【0017】
ここで、前記セラミックス短繊維の平均直径は、前記セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径の0.15倍以上セラミックス繊維の繊維束平均厚み以下になされていることが望ましく、このように構成することにより、クラックの伸展をより阻止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セラミックス繊維の空隙にセラミックススラリーを含浸させた後の乾燥・硬化、あるいは焼成の際に生じるクラックを細分化あるいはクラックを抑制し、より緻密なマトリックスを形成できる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法を得ることができる。また、より緻密なマトリックスを有する繊維強化複合セラミックス材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の繊維強化複合セラミックス材料の製造工程を示したフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態の繊維強化複合セラミックス材料のセラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径と、セラミックスマトリックスに含まれるセラミックス短繊維の平均直径との関係を示した模式図である。
【図3】本発明の実施形態の繊維強化複合セラミックス材料のセラミックスマトリックスを構成するセラミックス短繊維の平均直径と、セラミックス繊維の繊維束平均厚みの関係を示した模式図であって、(a)は上面図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、先ず、セラミックススラリーの中にセラミックス短繊維を添加し、ミキサー等で混合してセラミックススラリー中にセラミックス短繊維を分散させる(S1)。ここで、セラミックススラリーは、所定粒径を有するSiC、あるいは、炭素、ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、ZrB2、HfO2、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ジルコニア等をセラミックス粒子として、エタノール、2−ブタノール、IPA等の溶媒に混合することによって得られる。このとき、所定粒径を有するAl、B、Ca、Cr、Fe、Li、Ni、Zr及び、前記元素の酸化物、炭化物等を1×10-5vol%以上5vol%以下入れ、また混合する際のバインダー成分としてフェノール樹脂、PVA、フラン樹脂等を固形分に対し0.001vol%以上20vol%以下添加してスラリーを作製することが好ましい。
【0021】
また、セラミックス短繊維としては、セラミックス長繊維の持つ特徴、例えば純度、耐酸化性などの性質を劣化させないため、また熱膨張係数などの物性をそろえ、内部応力を緩和するため、スラリーに浸漬するセラミックス繊維体またはマトリックス粒子と同質のセラミックス短繊維が好ましい。一例を挙げれば、炭化珪素長繊維強化炭化珪素セラミックスでは、炭化珪素短繊維が好ましく、炭素繊維強化炭化珪素セラミックスの場合は炭化珪素または炭素繊維が好ましい。
【0022】
また、セラミックス短繊維の添加量は、0.2vol%以上11vol%以下の量が好ましいが、分散性を考慮すると0.2vol%以上5vol%以下の量がより好ましい。
このように構成するのは、セラミックス短繊維を、11vol%を超えて添加した場合、セラミックス短繊維同士が絡まり易くなり、セラミックス短繊維の分散性が低下するためである。なお、セラミックス短繊維に絡まりが生じた場合、得られた成形体にセラミックス短繊維が塊状に存在することになり、乾燥時のクラックの抑制が困難になるためである。
また、セラミックス短繊維の添加量が0.2vol%未満の場合、セラミックス短繊維の添加の効果が認められないためである。
【0023】
また、添加するセラミックス短繊維は、長さ寸法が0.5mm以上10mm以下になされていることが望ましいが、分散性を考慮すると、1mm以上6mm以下になされていることがより好ましい。ここで、セラミックス短繊維の長さとは、平均長さをいう。
このように構成するのは、セラミックス短繊維が10mmを超える場合、分散性が低下して絡みが発生するためである。また、0.5mm未満の場合は、セラミックス短繊維の添加の効果が認められないためである。
【0024】
特に、図2に示すように、セラミックス短繊維1の平均直径bは、セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子2の平均粒径aの0.15倍以上(b≧0.15a)になされていることが望ましい。
セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子2の平均粒径aを仮想的に球状としたとき、細密充填した場合の粒子間の隙間はセラミックス粒子2の平均粒径aの0.15倍程度である。セラミックス短繊維1の平均直径bがセラミックス粒子2の平均粒径aの0.15倍を下回る場合、セラミックス短繊維1とセラミックス粒子2の接点は3点から2点へと減少する。すなわち、セラミックス短繊維1の平均直径bがセラミックス粒子2の平均粒径aの0.15倍未満の場合には、セラミックス短繊維1のセラミックスマトリックスへのアンカー効果が発揮されないためである。
【0025】
次に、セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、セラミックス繊維束を潜らせ浸漬する。そして、セラミックス繊維のセラミックス繊維束表面にセラミックス粒子とセラミックス短繊維の分散したスラリーを付着させ、マトリックスを形成する(S2)。
このセラミックス繊維は、材質としては、炭素、炭化珪素、酸化アルミニウム、ホウ素、酸化ケイ素、などがあり、またこれらの含繊維を混合した繊維束、等が挙げられる。なお、このセラミックス繊維は、本発明においてはセラミックス短繊維と長さ寸法で区別され、いわゆる長繊維であることが好ましい。
【0026】
ここで、図3に示すように、セラミックス短繊維1の平均直径bは、前記セラミックス繊維の繊維束3の平均厚みc以下であることが望ましい。
このように構成するのは、セラミックス短繊維1の平均直径bがセラミックス繊維の繊維束3の平均厚みcを超える場合、セラミックス繊維束の積層する間隔よりもセラミックス短繊維1の直径が大きくなり、セラミックス繊維束同士で形成された空間以上にセラミックス短繊維1が占有することで、セラミックス繊維束を圧迫して強度低下及び、強度のムラを招いたり、セラミックス繊維束の積層をゆがめるなど、繊維束に不要な荷重を与えるためである。即ち、繊維束同士が重なって図3(b)に示すような空間を形成し、ここに短繊維が挿入されている場合、短繊維直径bが繊維束厚さcより大きいと、接触している各繊維束を圧迫し、繊維束が歪んだ状態となる。この結果、セラミックス繊維束の積層をゆがめて、セラミックス繊維束の強度低下を招くことがある。
【0027】
続いて、マンドレルにより、表面にセラミックス粒子とセラミックス短繊維が付着したセラミックス繊維をパイプ状に巻き取り、マトリックス先駆体を取り込み、乾燥させる(S3)。本ステップで乾燥させることにより、パイプ状に巻き取り得られたセラミックス繊維が硬化した硬化体が得られる。
なお、フィラメントワインディング成形の際のマンドレルの回転数、繊維の移動速度、繊維の方向などは、所望する製品の応力方向に応じて任意に設計される。
また、マンドレルの直径を部分的に変えることで単純なパイプ形状から複雑なパイプ形状のタンクや、ルツボにも対応できる。また、パイプ形状にしたものをマンドレルから脱型した後で折り曲げ、乾燥、硬化することでエルボーなどの形状になすことも可能である。
【0028】
次に、S3で得られた硬化体をAr雰囲気中1600℃以上2300℃以下で熱処理を行い、焼成体である繊維強化複合セラミックス材料を得る(S4)。即ち、本ステップにより、セラミックス繊維と、セラミックス短繊維が含まれているセラミックスマトリックスとを備える繊維強化複合セラミックス材料が得られる。
このように、セラミックス短繊維が含まれたセラミックスマトリックスを備える繊維強化複合セラミックス材料にあっては、添加したセラミックス短繊維の架橋効果によりクラックが細分化されるため、機械特性の低下を抑制でき、耐衝撃性を大きくすることができる。
【0029】
ところで、上記工程を経て製造された繊維強化複合セラミックス材料には、気孔が存在するため、緻密体に比べて耐衝撃性は劣る。
そのため、例えば、欠陥となる気孔を埋めるためにSiを含浸することが好ましい。この含浸は、上記工程を経て製造された繊維強化複合セラミックス材料上にSi粒子を載せて減圧下で熱処理を行うことができる。あるいは溶融Si中に、上記工程を経て製造された繊維強化複合セラミックス材を浸漬させることにより、Siを前記繊維強化複合セラミックス材中に含浸させても良い。
【0030】
また、上記実施形態にあっては、セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、セラミックス繊維を浸漬し、その後セラミックス繊維をパイプ状に巻き取り、所定形状になした後、乾燥・硬化させているが、セラミックス繊維を所定形状になした後に、セラミックススラリーの中に浸漬し、乾燥・硬化させても良い。
【0031】
続いて、本発明の実施形態の繊維強化複合セラミックス材料のマトリックス中のセラミックス短繊維の分散性とクラック幅について、以下に示す実施例および比較例に基づいて検証する。
【0032】
[実施例1〜30]
スラリーに添加するセラミックス短繊維の長さ毎に複数の添加量を設定し、その設定した添加量毎に、以下に示す手順にしたがい繊維強化複合セラミックス材料を製造し、その製造した繊維強化複合セラミックス材料のセラミックス短繊維の分散性とクラック幅を検証した。
【0033】
具体的には、平均粒径0.5μmのSiCに対して、平均粒径0.3μmのB4Cを5%入れ、エタノール溶媒中で10時間ボールミルにて混合した。また、混合する際のバインダー成分としてフェノール樹脂を固形分に対し3%添加してスラリーを作製した。
また、上記スラリーに、SiCからなるセラミックス短繊維を添加し、せん断力の強いミキサーを用いて混合分散を行った。このセラミックス短繊維の長さ寸法、添加量を変えて、その繊維の分散性を確認した。
【0034】
また、セラミックス短繊維が添加されたスラリーをFW装置(フィラメント・ワインディング装置)のバスに移し、セラミックス繊維をスラリー中に潜らせ、φ30×200Lの金属製のマンドレルに巻き取った(5mm度の厚みで巻き取った)。
また、上記のようにマンドレルに巻き取った後、マンドレルごと乾燥機に入れて乾燥させ、有機溶媒の除去、及びフェノール樹脂の硬化を行った。このときの温度は、40℃から徐々に温度を上げて最終的に180℃まで昇温させ、その後温度を20℃(室温)まで下げた。この時点での成形体は硬化体になった。
その後、マンドレルを取り除き、2000℃で1時間、Ar常圧雰囲気中で焼成処理を行って複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を得た。得られた複合セラミックスの寸法は、φ37×φ27×180Lであった。
そして、この得られた複合セラミックスのクラックの細分化を目視で確認した。
【0035】
そして、実施例1〜12による確認結果を以下の表1に示し、実施例13〜30による確認結果を以下の表2に示す。
なお、表1および表2に示す繊維分散性は、混合分散後の成形体への付着状態を基準とし、短繊維の塊が見られない場合は、「○」で示し、短繊維の塊は見られないが部分的な集中が見られる場合は、「△」で示し、短繊維の塊が見られた場合は、「×」で示した。 また、表1および表2に示すクラック幅は、製造した複合材料に形成されたクラックの平均幅dを計測し、その平均幅dが「0.1mm以下(d≦0.1)」のものを「○」で示し、平均幅dが「0.1〜1mm(0.1<d<1)」のものを「△」で示し、その平均幅dが「1mm以上(d≧1)」のものを「×」で示したものである。本発明においては、クラックの平均幅dが「○」、「△」のものを、本発明の効果が得られたものと判断した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
[比較例1〜34]
スラリーに添加するセラミックス短繊維の長さ毎に複数の添加量を設定し、その設定した添加毎に、上述した実施例1〜30と同様の手順にしたがい繊維強化複合セラミックス材料を作製し、その作製した繊維強化複合セラミックス材料のセラミックス短繊維の繊維分散性とクラック幅を検証した。
そして、比較例1〜18による検証結果を以下の表3に示し、比較例19〜34による検証結果を以下の表4に示す。
なお、表3および表4に示すクラック幅は、上記の表1および表2と同様の基準にしたがっている。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
そして、上記表1の「実施例1〜6」から、スラリーに長さ寸法が「0.5mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.8〜8vol%」の範囲にすると、クラック幅が「0.1mm以下」となり細分化され、添加量を「0.2vol%」或いは「11vol%」にすると、クラック幅が「0.1〜1mm」となることが確認された。また、上記表3の「比較例10」から、長さ寸法は「0.5mm」であるが添加量を「16vol%」にすると、製造した複合材料においてクラック幅が「1mm以上」であったが、その一部でクラック幅が「0.1〜1mm」となる事が確認され、実施例1〜6と比べると劣るものであった。また、添加量を「比較例9」に示すように、「0.1vol%」にすると、クラック幅が「1mm以上」となり、クラックを細分化できないことが確認された。
【0042】
また、上記表3の「比較例1〜8」から、スラリーに長さ寸法が「0.3mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、セラミックス短繊維は、マトリックス中に分散するが、クラックを細分化させることができないことが確認された。
【0043】
また、上記表1の「実施例7〜12」から、スラリーに長さ寸法が「1mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.2〜8vol%」の範囲にすると、クラック幅が「0.1mm以下」となり細分化され、添加量を「11vol%」にすると、クラック幅が「0.1〜1mm」となることが確認された。また、上記表3の「比較例12」から、添加量を「16vol%」にすると、セラミックス短繊維が分散せず、且つ製造した複合材料においてクラック幅が「1mm以上」であったが、その一部でクラック幅が「0.1〜1mm」になる事が確認され、実施例7〜12と比べると劣るものであった。また、添加量を「比較例11」に示すように、「0.1vol%」にすると、クラック幅が「1mm以上」となり、クラックを細分化できないことが確認された。
【0044】
また、上記表2の「実施例13〜18」および上記表3の「比較例13〜14」から、スラリーに長さ寸法が「3mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.2〜5.5vol%」の範囲にすると、クラック幅が細分化されることが確認された。また、添加量を「8vol%」或いは「11vol%」にすると、セラミックス短繊維が分散せず且つクラック幅が「0.1〜1mm」になる事が確認された。
また、添加量を「0.1vol%」或いは「16vol%」にすると、クラック幅が「1mm以上」となり、クラックを細分化できないことが確認された。
【0045】
また、上記表2の「実施例19〜24」および上記表3の「比較例15〜16」から、スラリーに長さ寸法が「6mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.2〜5.5vol%」の範囲にすると、クラック幅が細分化されることが確認された。また、添加量を「8vol%」或いは「11vol%」にすると、セラミックス短繊維が分散せず且つクラック幅が「0.1〜1mm」になる事が確認された。
また、添加量を「0.1vol%」或いは「16vol%」にすると、クラック幅が「1mm以上」となり、クラックを細分化できないことが確認された。
【0046】
また、上記表2の「実施例25〜30」および上記表3の「比較例17〜18」から、スラリーに長さ寸法が「10mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.2〜11vol%」の範囲にすると、クラック幅が「0.1〜1mm」になる事が確認された。
また、添加量を「0.1vol%」或いは「16vol%」にすると、クラック幅が「1mm以上」となり、クラックを細分化できないことが確認された。
【0047】
また、上記表4の「比較例19〜26」から、スラリーに長さ寸法が「15mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、添加量を「0.2vol%」或いは「0.8vol%」にすると、製造した複合材料においてクラック幅が「1mm以上」であったが、その一部でクラック幅が「0.1〜1mm」になる事が確認された。
また、添加量を「0.1vol%」、又は「2〜16vol%」にするとクラックを細分化できないことが確認された。
また、上記表4の「比較例27〜34」から、スラリーに長さ寸法が「20mm」のセラミックス短繊維を添加する場合、クラックを細分化できないことが確認された。
【0048】
このように、実施例1〜30および比較例1〜34により、スラリーに添加するセラミックス短繊維の添加量は、体積換算で「0.2〜11vol%」の量が好ましく、さらに、「0.2〜5.5vol%」の量がより好ましいことが確認された。
また、スラリーに添加するセラミックス短繊維の長さ寸法は、「0.5〜10mm」になされていることが好ましく、さらに、「1〜6mm」になされていることがより好ましいことが確認された。
【0049】
さらに、平均粒径0.5μmのSiCを用いて、エタノール溶媒中で10時間ボールミルにて混合した。また、混合する際のバインダー成分としてフェノール樹脂を固形分に対し3%添加してスラリーを作製した。このスラリーに、SiCからなり平均直径が0.05μm,0.075μm,0.1μmの3水準になるようなセラミックス短繊維を準備して、それぞれの水準のものを添加し、せん断力の強いミキサーを用いて混合分散を行った。その後は、実施例1〜30と同様にして、複合セラミックスを作製した。この複合セラミックスを、実施例1〜30と同様の評価方法でクラック幅を比較した。
【0050】
その結果、セラミックス繊維の平均直径が0.05μmのものについては、クラック部分の繊維に対しての粒子付着が少なかった。これに対して、平均直径が0.075μmと0.1μmのものについては、クラック部分の繊維周囲に対する粒子付着が顕著であった。特に平均直径が0.1μmの場合は、前記2つの平均直径のものより、よりクラック幅が減少していることが確認された。
【0051】
以上説明したように、クラックの伸展がセラミックス短繊維により阻害されるため、マトリックスとセラミックス繊維との間がクラックにより完全に乖離することがなく、耐衝撃性に強い繊維強化複合セラミックス材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 セラミックス短繊維
2 セラミックス粒子
3 セラミックス繊維の繊維束
a セラミックス粒子2の平均粒径
b セラミックス短繊維1の平均直径
c セラミックス繊維の繊維束厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子をバインダー及び有機溶剤中に分散させてなるセラミックススラリーの中に、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維を0.2vol%以上11vol%以下添加、分散させる工程と、
前記セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、セラミックス繊維を浸漬し、前記セラミックス繊維表面に前記セラミックス粒子と前記セラミックス短繊維を付着させる工程と、
前記セラミックス繊維を所定形状に形成し、乾燥、硬化させる工程と、
前記工程で得られた硬化体を所定温度で焼成する工程と、
を備える繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス繊維を所定形状に形成する工程と、
セラミックススラリーの中に、長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊を0.2vol%以上11vol%以下添加、分散させる工程と、
前記セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーの中に、所定形状に形成されたセラミックス繊維を浸漬し、前記セラミックス繊維間にセラミックス粒子とセラミックス短繊維を含浸させる工程と、
前記セラミックス繊維間にセラミックス粒子とセラミックス短繊維を含浸させたセラミックス繊維を乾燥、硬化させる工程と、
前記工程で得られた硬化体を所定温度で焼成する工程と、
を備える繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
【請求項3】
前記硬化体を所定温度で焼成した後、Siを前記繊維強化複合セラミックス材中に含浸させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス短繊維の平均直径は、セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径の0.15倍以上になされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
【請求項5】
セラミックス繊維と、
長さ0.5mm以上10mm以下のセラミックス短繊維が0.2vol%以上11vol%以下含まれているセラミックスマトリックスと、
を備えることを特徴とする繊維強化複合セラミックス材料。
【請求項6】
前記セラミックス短繊維の平均直径は、前記セラミックスマトリックスを構成するセラミックス粒子の平均粒径の0.15倍以上セラミックス繊維の繊維束平均厚み以下になされていることを特徴とする請求項5に記載の繊維強化複合セラミックス材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12240(P2012−12240A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148769(P2010−148769)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)