繊維構造体の処理方法
【課題】繊維の容量を減少させることなく、独特な風合いの付与および毛羽の除去が可能であるうえに、繊維強度をも向上し得る繊維構造体の処理方法を提供すること。
【解決手段】イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、例えば、下記式(1)で表されるイオン液体を含む媒体に接触させて繊維構造体の引張強度を向上させる繊維構造体の処理方法。
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【解決手段】イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、例えば、下記式(1)で表されるイオン液体を含む媒体に接触させて繊維構造体の引張強度を向上させる繊維構造体の処理方法。
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体の処理方法に関し、さらに詳述すると、イオン液体を用いた繊維構造体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維等から構成される繊維構造体の風合いを向上させたり、毛羽を除去したりする目的で、繊維構造体を各種処理剤にて処理することが行われている。
例えば、特許文献1(特開平7−189125号公報)には、セルロース繊維をN−メチルモルホリンオキシド水溶液で処理し、風合いを硬化させることなく、染色性および柔軟性を向上させる加工方法が開示されている。
特許文献2(特開平8−3869号公報)には、セルロース系繊維を酒石酸鉄IIIナトリウム水溶液などのセルロース溶解能を有する溶液に浸漬し、糸の毛羽を溶解除去して糸の容量を減少させる加工方法が開示されている。
【0003】
特許文献3(特開平8−209535号公報)には、セルロース繊維布帛を、N−メチルモルホリンオキシド等のアミンオキシドを含有する溶液に加熱下で浸漬し、セルロース単繊維の構造を変化させることで、セルロース繊維布帛の強度を維持しつつ、布帛に様々な風合いを付与する加工方法が開示されている。
特許文献4(特表2005−530910号公報)には、イオン液体を含む布地処理剤が開示され、この処理剤で処理されたセルロース系布地は、機能的または美観的に優れた外観を示し、繊維強化効果が発揮され得ることが開示されている。
【0004】
しかし、上記特許文献1の加工方法では、繊維の染色性および柔軟性が向上するものの、処理後の繊維強度が20〜30%も低下してしまうという問題がある。
また、特許文献2の加工方法では、糸の毛羽を効率的に除去し得るものの、糸の容量が減少してしまうという問題がある。
特許文献3の加工方法では、繊維の強度は維持し得るものの、強度向上という点では不十分である。また、溶媒が可燃性であり、120℃以上に加熱すると無水物となり、さらにそれ以上に加熱すると爆発の危険が生じるという点も問題である。
特許文献4の加工方法では、イオン液体を処理剤として用いることで、セルロース系布帛の繊維強化効果が得られることが示唆されているものの、その具体的手段は何ら明らかにされておらず、イオン液体を用いてどの程度の処理を行えば、繊維強化効果が得られるかは不明である。
【0005】
また、上記特許文献1〜3の方法では、混合系溶媒を使用せざるを得ないため、各成分の濃度を厳密に管理する必要があることから、取り扱いが非常に複雑であるという問題がある。
さらに、いずれの特許文献においても、セルロース以外の繊維からなる繊維構造体を処理して、毛羽の除去や風合いの向上を図ることについては開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−189125号公報
【特許文献2】特開平8−3869号公報
【特許文献3】特開平8−209535号公報
【特許文献4】特表2005−530910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、繊維の容量を減少させることなく、独特な風合いの付与および毛羽の除去が可能であるうえに、繊維強度をも向上し得る繊維構造体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体をイオン液体を含む媒体に接触させることで、独特の風合い付与効果や毛羽除去効果を与えつつ、繊維構造体の強度が向上し、しかも処理後の繊維容量が減少しないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて前記繊維構造体の引張強度を向上させることを特徴とする繊維構造体の処理方法、
2. 前記高分子化合物が、セルロースおよびタンパク質から選ばれる少なくとも1種である1の繊維構造体の処理方法、
3. 前記イオン液体が、前記媒体中に80〜100質量%含まれる1または2の繊維構造体の処理方法、
4. 前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする1〜3のいずれかの繊維構造体の処理方法、
5. 前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である1〜4のいずれかの繊維構造体の処理方法、
【化1】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
6. 前記R1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、2−メチルアリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(R4およびnは、前記と同じ意味を表す。)である5の繊維構造体の処理方法、
7. 前記イオン液体が、式(2)で示される6の繊維構造体の処理方法、
【化2】
〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
8. 前記イオン液体が、式(3)で示される7の繊維構造体の処理方法、
【化3】
9. 前記接触が、0.01秒から120分間行われる5〜8のいずれかの繊維構造体の処理方法、
10. 前記イオン液体が、イミダゾリウムカチオンと、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンとからなるイミダゾリウム系イオン液体である1〜4のいずれかの繊維構造体の処理方法、
11. 前記接触が、0.01秒から60分間行われる10の繊維構造体の処理方法、
12. 1〜11のいずれかの処理方法で処理された繊維構造体
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維構造体の処理方法によれば、繊維の容量を減少させることなしに、繊維構造体に独特な風合いを付与でき、かつ、繊維構造体の毛羽を除去できるうえ、その繊維強度をも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る繊維構造体の処理方法は、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて繊維構造体の引張強度を向上させるものである。ここで、イオン液体とは、100℃以下で液状を呈する有機塩をいう。
本発明において繊維とは、太さに対して十分な長さをもつ、細くてたわみやすいもの(「繊維」東京電機大学出版局、石川欣造監修、3頁)をいう。
繊維構造体とは、繊維状物を構成単位として形成される構造体をいい、具体的には、糸、織物、編物、不織布、紙、シート状物などが挙げられる。
溶解とは、媒体中で高分子化合物の分子鎖の凝集状態が解かれることをいうが、ここでは高分子化合物が媒体中に均一相として存在するように視認されることをいう。
膨潤とは、媒体が高分子化合物の凝集分子鎖中に浸入し、分子鎖同士の相互作用が緩和されているが、完全に分子鎖の凝集が解かれるまでには至っていない状態をいう。
【0012】
本発明において、高分子化合物としては、イオン液体に溶解または膨潤するものであれば特に限定はなく、糖鎖もしくはタンパク質、またはこれらの混合物が挙げられる。
糖鎖としては、セルロース、キチン、キトサンなどが挙げられる。
セルロースとしては、植物由来セルロース、動物由来セルロース、バクテリア由来セルロース、再生セルロースが挙げられる。具体的には、綿、麻、竹、バナナ、月桃、ハイビスカスローゼル、ケナフ、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、レーヨン、キュプラ、テンセル、イオン液体による再生セルロースなどが挙げられ、イオン液体に溶解,膨潤し得る限り、それらの誘導体も含まれる。誘導体としては、例えばセルロースの水酸基をエーテル化またはエステル化した誘導体や、シアノエチル化した誘導体などが挙げられる。
なお、セルロースの結晶構造は任意であり、I型、II型、III型、IV型、非晶のいずれか1つの構造またはそれらの組合せからなる構造を有するセルロースを採用できる。また、セルロースの結晶化度に関わらず本発明の方法が適用できる。
タンパク質としては、絹、羊毛、コラーゲン、ケラチン、セリシン、フィブロイン、カゼイン等が挙げられる。
【0013】
本発明の繊維構造体は、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物以外のその他の高分子化合物からなる繊維状物を含んでいてもよい。
このようなその他の高分子化合物としては、イオン液体に溶解,膨潤しない高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等)、プロミックス、ポリアミド(ナイロン)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアニリン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、トリアセテート繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ロックウールなどが挙げられる。
なお、その他の高分子化合物からなる繊維状物の含有量は任意であるが、繊維構造体全体に対して、5〜95質量%程度が好適である。
【0014】
繊維構造体の処理に用いられるイオン液体は任意であり、従来公知の各種イオン液体を用いることができるが、上述したセルロースなどの糖鎖や、羊毛などのタンパク質の溶解性の点から、アニオン成分が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンであるイオン液体が好ましい。
ハロゲン化物イオンとしては、Cl-、Br-、I-が挙げられ、総炭素数1〜3のカルボン酸イオンとしては、C2H5CO2-、CH3CO2-、HCO2-等が挙げられ、擬ハロゲン化物イオンとしては、一価でありハロゲン化物に類似した特性を有するCN-、SCN-、OCN-、ONC-、N3-等が挙げられるが、セルロースの溶解性を高めるという点から、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、または擬ハロゲン化物イオンが好ましく、特に、Cl-、Br-、HCO2-、SCN-が好ましい。
【0015】
一方、カチオン成分の点から、イオン液体はイミダゾリウム系イオン液体と4級アンモニウム塩系のイオン液体とに大別されるが、本発明の繊維構造体の処理方法では、どちらも用いることができる。
4級アンモニウム塩系のイオン液体としては、下記式(1)で示されるものが好適である。
【0016】
【化4】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【0017】
式(1)において、炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基等が挙げられる。炭素数3〜5のアルケニル基としては、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基(クロチル基)、3−ブテニル基、イソクロチル基、2−メチルアリル基(メタリル基)等が挙げられる。R4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシまたはエトキシメチル基、メトキシまたはエトキシエチル基が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、式(1)におけるR1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、メタリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(特に、メトキシエチル基またはメトキシメチル基)であるものが好ましい。
より具体的には、下記式(2)で示されるイオン液体を好適に用いることができる。
【0019】
【化5】
〔式中、nおよびYは上記と同じ意味を表す。〕
【0020】
特に、n=2およびY=Cl-である、下記式(3)で示されるジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムクロライド(DEMECl)が、糖鎖やタンパク質繊維の溶解能に優れているうえに、繊維構造体を構成する高分子化合物の分子量低下を引き起こしにくいことから、好適である。
【0021】
【化6】
【0022】
また、イミダゾリウム系イオン液体を構成するイミダゾリウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウムカチオン、トリアルキルイミダゾリウムカチオン等が挙げられ、具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−(1,2または3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられる。
イミダゾリウム系イオン液体としては、糖鎖やタンパク質繊維の溶解能を考慮すると、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl)が好適である。
【0023】
なお、繊維処理時の処理温度との兼ね合いから、イオン液体は、100℃以下で液体であるものが好ましく、80℃以下で液体であるものがより好ましく、70℃以下で液体であるものがより一層好ましい。
【0024】
本発明においては、1種以上のイオン液体を組合せて用いることも可能である。これによって繊維構造体の風合いや毛羽、強度等の諸特性をコントロールすることができる。この場合、カチオンのみが1種以上であってもよく、アニオンのみが1種以上であってもよく、またカチオン、アニオン共に1種以上であってもよい。具体的には、DEMEClとBMIMClとの組合せ、DEMEClとその塩素イオンをチオシアンイオンに置換したジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムチオシアネート(DEMESCN)との組合せ、DEMESCNとBMIMClとの組合せ等が挙げられる。
【0025】
本発明の繊維構造体の処理方法において、処理媒体中のイオン液体含有量は、本発明の効果が得られる限り任意であるが、イオン液体含有量が多いほど、短時間で処理効果が発揮されることから、10〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がより好ましい。
処理媒体にイオン液体以外のその他の溶媒を用いる場合、イオン液体と相溶かつ分離回収が容易な溶媒が好ましい。
具体的には、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類などが挙げられる。回収効率を考慮すると水やアルコールが好適であり、環境面をも考慮すると水が最適である。
【0026】
イオン液体を含む媒体と繊維構造体との接触は、少なくとも繊維構造体の表面部分を、媒体で一定時間覆う処理である。この接触処理により、繊維構造体の少なくとも表面部分が溶解、膨潤するものと考えられる。それによって風合い変化や毛羽の減少がもたらされるだけでなく、繊維状物表面にある構造ひずみや構造欠陥が解消し、また繊維構造体を構成する単繊維同士の融着が生じるため、強度が向上するものと考えられる。
接触手法としては、浸漬、媒体槽通過、噴霧等の任意の手法を用いることができる。また、接触処理は、繊維構造体の張力下、非張力下のどちらで行ってもよい。布地のような二次元的な繊維構造物を張力下で処理する場合、張力は一方向だけでなく、直交する二方向にかけることも可能である。
【0027】
イオン液体を含む媒体と繊維構造体との接触時間は、使用するイオン液体の種類(高分子化合物の溶解能)や媒体中のイオン液体の濃度にもよるため一概には規定できないが、上述したイオン液体濃度の媒体を用いる場合、0.01秒から180分間程度が好ましい。
特に、4級アンモニウム塩系イオン液体を用いる場合には、0.01秒から120分間程度が好ましく、1秒から20分間がより好ましく、1秒から5分間がより一層好ましく、1秒から3分間がさらに好ましく、1〜60秒が最適である。
一方、イミダゾリウム系イオン液体を用いる場合には、0.01秒から60分間程度が好ましく、1秒から5分間がより好ましく、1秒から3分間がより一層好ましく、1〜60秒が最適である。
【0028】
接触温度は、処理媒体が液体を呈し、それに含まれるイオン液体が分解しない程度の温度、かつ、繊維構造体が着火や炭化を引き起こさない程度の温度であれば任意である。一例を挙げると、処理媒体としてDEMEClを100wt%で使用した場合には59℃(DEMEClが液状を呈する温度)〜197℃(DEMEClの分解点)である。
処理効率を高めるためには、加熱下で接触させることが好ましく、60〜190℃程度、特に70〜150℃程度の加熱下で接触させることが好適である。加熱手段は任意であるが、オーブンによる加熱、水浴や油浴による加熱、電磁波による加熱などの一般的な加熱手段を用いればよい。
【0029】
本発明においては、上述した接触処理後に繊維構造体を洗浄してもよい。
洗浄媒体は、イオン液体と相溶であって、繊維構造体を溶解させない媒体が好ましく、上述の「その他の溶媒」と同一の溶媒を用いることができる。また、接触処理媒体としてイオン液体とその他の溶媒との混合媒体を用いる場合、溶媒回収の点から、接触処理時のその他の溶媒と同一の溶媒を洗浄に用いることが好ましい。
洗浄方法としては、浸漬、洗浄槽通過、噴霧等の通常の洗浄手段を用いることができる。また、この場合も張力下、非張力下のどちらで処理することもできる。布地のような二次元的な繊維構造物を張力下で処理する場合、張力は一方向だけでなく、直交する二方向にかけることも可能である。
【0030】
接触処理および必要に応じて行われる洗浄処理後、繊維構造体を乾燥させる。乾燥手法は任意であり、公知の各種方法を用いることができる。具体例としては、ヒートドラム、熱風、赤外線、天日による方法などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[合成例1]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライドの合成
【化7】
【0033】
ジエチルアミン(関東化学(株)製)71質量部と2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)88質量部とを混合し、オートクレーブ中、120℃で24時間反応させた。この時、最高到達内圧は4.5kgf/cm2(0.44MPa)であった。24時間後、析出した結晶を、テトラフヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)を用いて洗浄して濾別した。濾液を常圧蒸留し、沸点135℃付近の留分を81質量部得た。この化合物が2−メトキシエチルジエチルアミンであることを核磁気共鳴スペクトル(NMR)により確認した。
続いて、オートクレーブ中にてテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)80質量部に2−メトキシエチルジエチルアミン9.0質量部を溶解し、攪拌を行いつつ15%塩化メチルガス(窒素中、日本特殊化学工業(株)製)を導入した。内圧が4kgf/cm2(0.39MPa)になるまで塩化メチルガスを加えた後、3時間かけて徐々に60℃まで昇温した。この時、最高到達内圧は5.4kgf/cm2(0.53MPa)であった。この後、攪拌を続けながら放冷し、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(以下、DEMEClという)を12質量部得た。
【0034】
[合成例2]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネートの合成
【化8】
【0035】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(20g:152.4mmol)を、テトラフヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)中で攪拌し、これにヨウ化メチル[シグマアルドリッチジャパン(株)製](11.29ml:182.9mmol)を滴下した。室温にて約24時間攪拌した後、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムヨーダイド(以下、DEMEIという)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。次に文献(J. M. Pringle et al., Journal of Materials Chemistry, 2002, vol.12, p3475-3480)記載の方法に準じて、DEMEIのI-イオンをSCN-イオンに置換し、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネート(DEMESCN)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。
【0036】
[合成例3]N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライドの合成
【化9】
【0037】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(3.43g:0.026mol)をアセトニトリル中で攪拌し、これに3−クロロプロペン[東京化成工業(株)製](2.6ml:0.031mol)を滴下した。暗所、室温にて約72時間攪拌した後、真空ポンプで原料および溶媒を除去し、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライド(以下、DEMPClという)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。
【0038】
[実施例1]
50mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)(含水率1400ppm)30mlを入れ、乾燥機(Yamato CONSTANT TEMPERATURE OVEN DN−42)内に投入し、100℃で加熱して融解させた後、これに50番手3撚綿糸(カネボウカタン糸)(カネボウ繊維(株)製)30cmを1秒間浸漬させた。その後、糸を水で数回洗浄し、充分に乾燥させ目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0039】
[実施例2]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0040】
[実施例3]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0041】
[実施例4]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0042】
[実施例5]
DEMEClを1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl、融点73℃)(ACROS ORGANICS社製)(含水率3670ppm)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0043】
[実施例6]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例5と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0044】
[実施例7]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例5と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0045】
[実施例8]
DEMEClを含水率35000ppmのものに代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0046】
[実施例9]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0047】
[実施例10]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0048】
[実施例11]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0049】
[実施例12]
DEMEClを含水率10質量%(100000ppm)のものに代えた以外は実施例2と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0050】
[実施例13]
浸漬時間を30秒間から60秒間に代えた以外は実施例12と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0051】
[実施例14]
浸漬時間を30秒間から180秒間に代えた以外は実施例12と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0052】
[実施例15]
DEMEClを含水率20質量%(200000ppm)のものに代えた以外は実施例2と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0053】
[実施例16]
浸漬時間を30秒間から60秒間に代えた以外は実施例15と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0054】
[実施例17]
DEMEClをDEMPCl(含水率340.4ppm)に代え、温度を110℃に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0055】
[実施例18]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0056】
[実施例19]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0057】
[実施例20]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0058】
[実施例21]
DEMEClを、DEMEClとDEMESCNとの混合物(DEMECl:DEMESCN=4:6(モル比率)、含水率1718ppm)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0059】
[実施例22]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0060】
[実施例23]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0061】
[実施例24]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0062】
[実施例25]
浸漬時間を1秒間から1200秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0063】
[比較例1]
DEMEClをN−メチルモルホリンオキシド(NMMO・H2O、含水率155800ppm)(和光純薬工業(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。
【0064】
[比較例2]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0065】
[比較例3]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0066】
[比較例4]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0067】
[実施例26]
50番手3撚綿糸を48番手単糸綿/ポリエステル混紡糸(50%/50%)(日清紡績(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0068】
[実施例27]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0069】
[実施例28]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0070】
[実施例29]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0071】
[比較例5]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。
【0072】
[実施例30]
50番手3撚綿糸を50番手絹糸((株)東神製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0073】
[実施例31]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0074】
[実施例32]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0075】
[比較例6]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。
【0076】
[実施例33]
50番手3撚綿糸を14番手羊毛糸(日本毛織(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0077】
[実施例34]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0078】
[実施例35]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0079】
[比較例7]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。
【0080】
上記実施例1〜35、および比較例1〜7で得られた各繊維構造体について、風合い、毛羽の増減を目視にて観察した結果、および引張強度を下記手法により測定し、未処理繊維構造体と比較した結果を表1に示す。
[引張強度]
インストロン万能試験機(5582型)(INSTRON社製)を使用して、つかみ間距離25cm,引張速度30cm/minとし、JIS L1095−9.5に準じて行った。
なお、強度比は、未処理の糸の強度を1として表した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示されるように、実施例1〜35で得られた繊維構造体は、イオン液体による接触処理により風合いが変化し、かつ、毛羽が減少していることがわかる。また、比較例のNMMOにより処理された繊維構造体はすべて強度が低下しているが、実施例1〜35で得られた繊維構造体は全て強度減少がなく、場合によっては10%も強度が向上していることがわかる。
【0083】
[実施例36]
50番手3撚綿糸を綿ガーゼ(日清紡績(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0084】
[実施例37]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0085】
[実施例38]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0086】
[比較例8]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0087】
[比較例9]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例8と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0088】
[比較例10]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例8と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0089】
[実施例39]
50番手3撚綿糸をろ紙((有)桐山製作所製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0090】
[実施例40]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0091】
[実施例41]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0092】
[実施例42]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0093】
[比較例11]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0094】
[比較例12]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0095】
[比較例13]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0096】
[比較例14]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0097】
上記各実施例36〜42および比較例8〜14で得られた各繊維構造体について、風合い、毛羽の増減(実施例36〜38、比較例8〜10について)を目視にて観察するとともに、引張強度を測定し、未処理繊維構造体と比較した。なお、引張強度はインストロン万能試験機(5582型)(INSTRON社製)を使用して、JIS P8113、JIS L1096−8.12.1(B法)に準じて行った。強度比は、未処理のガーゼおよび布の強度を1として表した。また、実施例38については剛軟度を下記手法により測定した。結果を表2に示す。
[剛軟度]
ガ―レ式試験機を用いて、試料1×1.5インチ(縦×横)をJIS L 1096 A法により測定した。なお、未処理綿ガーゼの剛軟度は0.1mNであった。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示されるように、実施例36〜42で得られた繊維構造体は、イオン液体による処理により風合いが変化し、かつ、毛羽が減少していることがわかる。また、実施例36〜42で得られた繊維構造体の強度は、全く減少が見られなかっただけでなく、ガーゼの横糸方向を除き、10%以上向上していることがわかる。
【0100】
上記実施例5、12、31、35、37、41、および比較例1で得られた繊維構造体、並びに未処理の50番手3撚綿糸、50番手絹糸、14番手羊毛糸、綿ガーゼ、およびろ紙を、それぞれSEM(S−4800、(株)日立製作所製)にて撮影した電子顕微鏡写真を図1〜12に示す。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】未処理の50番手3撚綿糸(カネボウ繊維(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例5の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例12の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】比較例1の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】未処理の50番手絹糸((株)東神製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】実施例31の絹糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】未処理の14番手羊毛糸(日本毛織(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例35の羊毛糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】未処理の綿ガーゼ(日清紡績(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例37の綿ガーゼの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図11】未処理のろ紙((有)桐山製作所製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図12】実施例41のろ紙の電子顕微鏡写真を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体の処理方法に関し、さらに詳述すると、イオン液体を用いた繊維構造体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維等から構成される繊維構造体の風合いを向上させたり、毛羽を除去したりする目的で、繊維構造体を各種処理剤にて処理することが行われている。
例えば、特許文献1(特開平7−189125号公報)には、セルロース繊維をN−メチルモルホリンオキシド水溶液で処理し、風合いを硬化させることなく、染色性および柔軟性を向上させる加工方法が開示されている。
特許文献2(特開平8−3869号公報)には、セルロース系繊維を酒石酸鉄IIIナトリウム水溶液などのセルロース溶解能を有する溶液に浸漬し、糸の毛羽を溶解除去して糸の容量を減少させる加工方法が開示されている。
【0003】
特許文献3(特開平8−209535号公報)には、セルロース繊維布帛を、N−メチルモルホリンオキシド等のアミンオキシドを含有する溶液に加熱下で浸漬し、セルロース単繊維の構造を変化させることで、セルロース繊維布帛の強度を維持しつつ、布帛に様々な風合いを付与する加工方法が開示されている。
特許文献4(特表2005−530910号公報)には、イオン液体を含む布地処理剤が開示され、この処理剤で処理されたセルロース系布地は、機能的または美観的に優れた外観を示し、繊維強化効果が発揮され得ることが開示されている。
【0004】
しかし、上記特許文献1の加工方法では、繊維の染色性および柔軟性が向上するものの、処理後の繊維強度が20〜30%も低下してしまうという問題がある。
また、特許文献2の加工方法では、糸の毛羽を効率的に除去し得るものの、糸の容量が減少してしまうという問題がある。
特許文献3の加工方法では、繊維の強度は維持し得るものの、強度向上という点では不十分である。また、溶媒が可燃性であり、120℃以上に加熱すると無水物となり、さらにそれ以上に加熱すると爆発の危険が生じるという点も問題である。
特許文献4の加工方法では、イオン液体を処理剤として用いることで、セルロース系布帛の繊維強化効果が得られることが示唆されているものの、その具体的手段は何ら明らかにされておらず、イオン液体を用いてどの程度の処理を行えば、繊維強化効果が得られるかは不明である。
【0005】
また、上記特許文献1〜3の方法では、混合系溶媒を使用せざるを得ないため、各成分の濃度を厳密に管理する必要があることから、取り扱いが非常に複雑であるという問題がある。
さらに、いずれの特許文献においても、セルロース以外の繊維からなる繊維構造体を処理して、毛羽の除去や風合いの向上を図ることについては開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−189125号公報
【特許文献2】特開平8−3869号公報
【特許文献3】特開平8−209535号公報
【特許文献4】特表2005−530910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、繊維の容量を減少させることなく、独特な風合いの付与および毛羽の除去が可能であるうえに、繊維強度をも向上し得る繊維構造体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体をイオン液体を含む媒体に接触させることで、独特の風合い付与効果や毛羽除去効果を与えつつ、繊維構造体の強度が向上し、しかも処理後の繊維容量が減少しないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて前記繊維構造体の引張強度を向上させることを特徴とする繊維構造体の処理方法、
2. 前記高分子化合物が、セルロースおよびタンパク質から選ばれる少なくとも1種である1の繊維構造体の処理方法、
3. 前記イオン液体が、前記媒体中に80〜100質量%含まれる1または2の繊維構造体の処理方法、
4. 前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする1〜3のいずれかの繊維構造体の処理方法、
5. 前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である1〜4のいずれかの繊維構造体の処理方法、
【化1】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
6. 前記R1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、2−メチルアリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(R4およびnは、前記と同じ意味を表す。)である5の繊維構造体の処理方法、
7. 前記イオン液体が、式(2)で示される6の繊維構造体の処理方法、
【化2】
〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
8. 前記イオン液体が、式(3)で示される7の繊維構造体の処理方法、
【化3】
9. 前記接触が、0.01秒から120分間行われる5〜8のいずれかの繊維構造体の処理方法、
10. 前記イオン液体が、イミダゾリウムカチオンと、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンとからなるイミダゾリウム系イオン液体である1〜4のいずれかの繊維構造体の処理方法、
11. 前記接触が、0.01秒から60分間行われる10の繊維構造体の処理方法、
12. 1〜11のいずれかの処理方法で処理された繊維構造体
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維構造体の処理方法によれば、繊維の容量を減少させることなしに、繊維構造体に独特な風合いを付与でき、かつ、繊維構造体の毛羽を除去できるうえ、その繊維強度をも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る繊維構造体の処理方法は、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて繊維構造体の引張強度を向上させるものである。ここで、イオン液体とは、100℃以下で液状を呈する有機塩をいう。
本発明において繊維とは、太さに対して十分な長さをもつ、細くてたわみやすいもの(「繊維」東京電機大学出版局、石川欣造監修、3頁)をいう。
繊維構造体とは、繊維状物を構成単位として形成される構造体をいい、具体的には、糸、織物、編物、不織布、紙、シート状物などが挙げられる。
溶解とは、媒体中で高分子化合物の分子鎖の凝集状態が解かれることをいうが、ここでは高分子化合物が媒体中に均一相として存在するように視認されることをいう。
膨潤とは、媒体が高分子化合物の凝集分子鎖中に浸入し、分子鎖同士の相互作用が緩和されているが、完全に分子鎖の凝集が解かれるまでには至っていない状態をいう。
【0012】
本発明において、高分子化合物としては、イオン液体に溶解または膨潤するものであれば特に限定はなく、糖鎖もしくはタンパク質、またはこれらの混合物が挙げられる。
糖鎖としては、セルロース、キチン、キトサンなどが挙げられる。
セルロースとしては、植物由来セルロース、動物由来セルロース、バクテリア由来セルロース、再生セルロースが挙げられる。具体的には、綿、麻、竹、バナナ、月桃、ハイビスカスローゼル、ケナフ、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、レーヨン、キュプラ、テンセル、イオン液体による再生セルロースなどが挙げられ、イオン液体に溶解,膨潤し得る限り、それらの誘導体も含まれる。誘導体としては、例えばセルロースの水酸基をエーテル化またはエステル化した誘導体や、シアノエチル化した誘導体などが挙げられる。
なお、セルロースの結晶構造は任意であり、I型、II型、III型、IV型、非晶のいずれか1つの構造またはそれらの組合せからなる構造を有するセルロースを採用できる。また、セルロースの結晶化度に関わらず本発明の方法が適用できる。
タンパク質としては、絹、羊毛、コラーゲン、ケラチン、セリシン、フィブロイン、カゼイン等が挙げられる。
【0013】
本発明の繊維構造体は、イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物以外のその他の高分子化合物からなる繊維状物を含んでいてもよい。
このようなその他の高分子化合物としては、イオン液体に溶解,膨潤しない高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等)、プロミックス、ポリアミド(ナイロン)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアニリン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、トリアセテート繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ロックウールなどが挙げられる。
なお、その他の高分子化合物からなる繊維状物の含有量は任意であるが、繊維構造体全体に対して、5〜95質量%程度が好適である。
【0014】
繊維構造体の処理に用いられるイオン液体は任意であり、従来公知の各種イオン液体を用いることができるが、上述したセルロースなどの糖鎖や、羊毛などのタンパク質の溶解性の点から、アニオン成分が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンであるイオン液体が好ましい。
ハロゲン化物イオンとしては、Cl-、Br-、I-が挙げられ、総炭素数1〜3のカルボン酸イオンとしては、C2H5CO2-、CH3CO2-、HCO2-等が挙げられ、擬ハロゲン化物イオンとしては、一価でありハロゲン化物に類似した特性を有するCN-、SCN-、OCN-、ONC-、N3-等が挙げられるが、セルロースの溶解性を高めるという点から、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、または擬ハロゲン化物イオンが好ましく、特に、Cl-、Br-、HCO2-、SCN-が好ましい。
【0015】
一方、カチオン成分の点から、イオン液体はイミダゾリウム系イオン液体と4級アンモニウム塩系のイオン液体とに大別されるが、本発明の繊維構造体の処理方法では、どちらも用いることができる。
4級アンモニウム塩系のイオン液体としては、下記式(1)で示されるものが好適である。
【0016】
【化4】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【0017】
式(1)において、炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基等が挙げられる。炭素数3〜5のアルケニル基としては、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基(クロチル基)、3−ブテニル基、イソクロチル基、2−メチルアリル基(メタリル基)等が挙げられる。R4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシまたはエトキシメチル基、メトキシまたはエトキシエチル基が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、式(1)におけるR1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、メタリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(特に、メトキシエチル基またはメトキシメチル基)であるものが好ましい。
より具体的には、下記式(2)で示されるイオン液体を好適に用いることができる。
【0019】
【化5】
〔式中、nおよびYは上記と同じ意味を表す。〕
【0020】
特に、n=2およびY=Cl-である、下記式(3)で示されるジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムクロライド(DEMECl)が、糖鎖やタンパク質繊維の溶解能に優れているうえに、繊維構造体を構成する高分子化合物の分子量低下を引き起こしにくいことから、好適である。
【0021】
【化6】
【0022】
また、イミダゾリウム系イオン液体を構成するイミダゾリウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウムカチオン、トリアルキルイミダゾリウムカチオン等が挙げられ、具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−(1,2または3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられる。
イミダゾリウム系イオン液体としては、糖鎖やタンパク質繊維の溶解能を考慮すると、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl)が好適である。
【0023】
なお、繊維処理時の処理温度との兼ね合いから、イオン液体は、100℃以下で液体であるものが好ましく、80℃以下で液体であるものがより好ましく、70℃以下で液体であるものがより一層好ましい。
【0024】
本発明においては、1種以上のイオン液体を組合せて用いることも可能である。これによって繊維構造体の風合いや毛羽、強度等の諸特性をコントロールすることができる。この場合、カチオンのみが1種以上であってもよく、アニオンのみが1種以上であってもよく、またカチオン、アニオン共に1種以上であってもよい。具体的には、DEMEClとBMIMClとの組合せ、DEMEClとその塩素イオンをチオシアンイオンに置換したジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムチオシアネート(DEMESCN)との組合せ、DEMESCNとBMIMClとの組合せ等が挙げられる。
【0025】
本発明の繊維構造体の処理方法において、処理媒体中のイオン液体含有量は、本発明の効果が得られる限り任意であるが、イオン液体含有量が多いほど、短時間で処理効果が発揮されることから、10〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がより好ましい。
処理媒体にイオン液体以外のその他の溶媒を用いる場合、イオン液体と相溶かつ分離回収が容易な溶媒が好ましい。
具体的には、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類などが挙げられる。回収効率を考慮すると水やアルコールが好適であり、環境面をも考慮すると水が最適である。
【0026】
イオン液体を含む媒体と繊維構造体との接触は、少なくとも繊維構造体の表面部分を、媒体で一定時間覆う処理である。この接触処理により、繊維構造体の少なくとも表面部分が溶解、膨潤するものと考えられる。それによって風合い変化や毛羽の減少がもたらされるだけでなく、繊維状物表面にある構造ひずみや構造欠陥が解消し、また繊維構造体を構成する単繊維同士の融着が生じるため、強度が向上するものと考えられる。
接触手法としては、浸漬、媒体槽通過、噴霧等の任意の手法を用いることができる。また、接触処理は、繊維構造体の張力下、非張力下のどちらで行ってもよい。布地のような二次元的な繊維構造物を張力下で処理する場合、張力は一方向だけでなく、直交する二方向にかけることも可能である。
【0027】
イオン液体を含む媒体と繊維構造体との接触時間は、使用するイオン液体の種類(高分子化合物の溶解能)や媒体中のイオン液体の濃度にもよるため一概には規定できないが、上述したイオン液体濃度の媒体を用いる場合、0.01秒から180分間程度が好ましい。
特に、4級アンモニウム塩系イオン液体を用いる場合には、0.01秒から120分間程度が好ましく、1秒から20分間がより好ましく、1秒から5分間がより一層好ましく、1秒から3分間がさらに好ましく、1〜60秒が最適である。
一方、イミダゾリウム系イオン液体を用いる場合には、0.01秒から60分間程度が好ましく、1秒から5分間がより好ましく、1秒から3分間がより一層好ましく、1〜60秒が最適である。
【0028】
接触温度は、処理媒体が液体を呈し、それに含まれるイオン液体が分解しない程度の温度、かつ、繊維構造体が着火や炭化を引き起こさない程度の温度であれば任意である。一例を挙げると、処理媒体としてDEMEClを100wt%で使用した場合には59℃(DEMEClが液状を呈する温度)〜197℃(DEMEClの分解点)である。
処理効率を高めるためには、加熱下で接触させることが好ましく、60〜190℃程度、特に70〜150℃程度の加熱下で接触させることが好適である。加熱手段は任意であるが、オーブンによる加熱、水浴や油浴による加熱、電磁波による加熱などの一般的な加熱手段を用いればよい。
【0029】
本発明においては、上述した接触処理後に繊維構造体を洗浄してもよい。
洗浄媒体は、イオン液体と相溶であって、繊維構造体を溶解させない媒体が好ましく、上述の「その他の溶媒」と同一の溶媒を用いることができる。また、接触処理媒体としてイオン液体とその他の溶媒との混合媒体を用いる場合、溶媒回収の点から、接触処理時のその他の溶媒と同一の溶媒を洗浄に用いることが好ましい。
洗浄方法としては、浸漬、洗浄槽通過、噴霧等の通常の洗浄手段を用いることができる。また、この場合も張力下、非張力下のどちらで処理することもできる。布地のような二次元的な繊維構造物を張力下で処理する場合、張力は一方向だけでなく、直交する二方向にかけることも可能である。
【0030】
接触処理および必要に応じて行われる洗浄処理後、繊維構造体を乾燥させる。乾燥手法は任意であり、公知の各種方法を用いることができる。具体例としては、ヒートドラム、熱風、赤外線、天日による方法などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[合成例1]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライドの合成
【化7】
【0033】
ジエチルアミン(関東化学(株)製)71質量部と2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)88質量部とを混合し、オートクレーブ中、120℃で24時間反応させた。この時、最高到達内圧は4.5kgf/cm2(0.44MPa)であった。24時間後、析出した結晶を、テトラフヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)を用いて洗浄して濾別した。濾液を常圧蒸留し、沸点135℃付近の留分を81質量部得た。この化合物が2−メトキシエチルジエチルアミンであることを核磁気共鳴スペクトル(NMR)により確認した。
続いて、オートクレーブ中にてテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)80質量部に2−メトキシエチルジエチルアミン9.0質量部を溶解し、攪拌を行いつつ15%塩化メチルガス(窒素中、日本特殊化学工業(株)製)を導入した。内圧が4kgf/cm2(0.39MPa)になるまで塩化メチルガスを加えた後、3時間かけて徐々に60℃まで昇温した。この時、最高到達内圧は5.4kgf/cm2(0.53MPa)であった。この後、攪拌を続けながら放冷し、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(以下、DEMEClという)を12質量部得た。
【0034】
[合成例2]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネートの合成
【化8】
【0035】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(20g:152.4mmol)を、テトラフヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)中で攪拌し、これにヨウ化メチル[シグマアルドリッチジャパン(株)製](11.29ml:182.9mmol)を滴下した。室温にて約24時間攪拌した後、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムヨーダイド(以下、DEMEIという)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。次に文献(J. M. Pringle et al., Journal of Materials Chemistry, 2002, vol.12, p3475-3480)記載の方法に準じて、DEMEIのI-イオンをSCN-イオンに置換し、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネート(DEMESCN)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。
【0036】
[合成例3]N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライドの合成
【化9】
【0037】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(3.43g:0.026mol)をアセトニトリル中で攪拌し、これに3−クロロプロペン[東京化成工業(株)製](2.6ml:0.031mol)を滴下した。暗所、室温にて約72時間攪拌した後、真空ポンプで原料および溶媒を除去し、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライド(以下、DEMPClという)を得た。構造確認は核磁気共鳴スペクトル(NMR)により行った。
【0038】
[実施例1]
50mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)(含水率1400ppm)30mlを入れ、乾燥機(Yamato CONSTANT TEMPERATURE OVEN DN−42)内に投入し、100℃で加熱して融解させた後、これに50番手3撚綿糸(カネボウカタン糸)(カネボウ繊維(株)製)30cmを1秒間浸漬させた。その後、糸を水で数回洗浄し、充分に乾燥させ目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0039】
[実施例2]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0040】
[実施例3]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0041】
[実施例4]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0042】
[実施例5]
DEMEClを1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl、融点73℃)(ACROS ORGANICS社製)(含水率3670ppm)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0043】
[実施例6]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例5と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0044】
[実施例7]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例5と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0045】
[実施例8]
DEMEClを含水率35000ppmのものに代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0046】
[実施例9]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0047】
[実施例10]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0048】
[実施例11]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例8と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0049】
[実施例12]
DEMEClを含水率10質量%(100000ppm)のものに代えた以外は実施例2と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0050】
[実施例13]
浸漬時間を30秒間から60秒間に代えた以外は実施例12と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0051】
[実施例14]
浸漬時間を30秒間から180秒間に代えた以外は実施例12と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0052】
[実施例15]
DEMEClを含水率20質量%(200000ppm)のものに代えた以外は実施例2と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0053】
[実施例16]
浸漬時間を30秒間から60秒間に代えた以外は実施例15と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0054】
[実施例17]
DEMEClをDEMPCl(含水率340.4ppm)に代え、温度を110℃に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0055】
[実施例18]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0056】
[実施例19]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0057】
[実施例20]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例17と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0058】
[実施例21]
DEMEClを、DEMEClとDEMESCNとの混合物(DEMECl:DEMESCN=4:6(モル比率)、含水率1718ppm)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0059】
[実施例22]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0060】
[実施例23]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0061】
[実施例24]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0062】
[実施例25]
浸漬時間を1秒間から1200秒間に代えた以外は実施例21と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0063】
[比較例1]
DEMEClをN−メチルモルホリンオキシド(NMMO・H2O、含水率155800ppm)(和光純薬工業(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。
【0064】
[比較例2]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0065】
[比較例3]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0066】
[比較例4]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は比較例1と同様にして目的の糸を得た。
【0067】
[実施例26]
50番手3撚綿糸を48番手単糸綿/ポリエステル混紡糸(50%/50%)(日清紡績(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0068】
[実施例27]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0069】
[実施例28]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0070】
[実施例29]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0071】
[比較例5]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例26と同様にして目的の糸を得た。
【0072】
[実施例30]
50番手3撚綿糸を50番手絹糸((株)東神製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0073】
[実施例31]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0074】
[実施例32]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0075】
[比較例6]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例30と同様にして目的の糸を得た。
【0076】
[実施例33]
50番手3撚綿糸を14番手羊毛糸(日本毛織(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0077】
[実施例34]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0078】
[実施例35]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0079】
[比較例7]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例33と同様にして目的の糸を得た。
【0080】
上記実施例1〜35、および比較例1〜7で得られた各繊維構造体について、風合い、毛羽の増減を目視にて観察した結果、および引張強度を下記手法により測定し、未処理繊維構造体と比較した結果を表1に示す。
[引張強度]
インストロン万能試験機(5582型)(INSTRON社製)を使用して、つかみ間距離25cm,引張速度30cm/minとし、JIS L1095−9.5に準じて行った。
なお、強度比は、未処理の糸の強度を1として表した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示されるように、実施例1〜35で得られた繊維構造体は、イオン液体による接触処理により風合いが変化し、かつ、毛羽が減少していることがわかる。また、比較例のNMMOにより処理された繊維構造体はすべて強度が低下しているが、実施例1〜35で得られた繊維構造体は全て強度減少がなく、場合によっては10%も強度が向上していることがわかる。
【0083】
[実施例36]
50番手3撚綿糸を綿ガーゼ(日清紡績(株)製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0084】
[実施例37]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0085】
[実施例38]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0086】
[比較例8]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例36と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0087】
[比較例9]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例8と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0088】
[比較例10]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例8と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0089】
[実施例39]
50番手3撚綿糸をろ紙((有)桐山製作所製)に代えた以外は実施例1と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0090】
[実施例40]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0091】
[実施例41]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0092】
[実施例42]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。繊維構造体の質量は処理前後で不変であった。
【0093】
[比較例11]
DEMEClをNMMO・H2O(含水率155800ppm)に代えた以外は実施例39と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0094】
[比較例12]
浸漬時間を1秒間から30秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0095】
[比較例13]
浸漬時間を1秒間から60秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0096】
[比較例14]
浸漬時間を1秒間から180秒間に代えた以外は比較例11と同様にして目的の繊維構造体を得た。
【0097】
上記各実施例36〜42および比較例8〜14で得られた各繊維構造体について、風合い、毛羽の増減(実施例36〜38、比較例8〜10について)を目視にて観察するとともに、引張強度を測定し、未処理繊維構造体と比較した。なお、引張強度はインストロン万能試験機(5582型)(INSTRON社製)を使用して、JIS P8113、JIS L1096−8.12.1(B法)に準じて行った。強度比は、未処理のガーゼおよび布の強度を1として表した。また、実施例38については剛軟度を下記手法により測定した。結果を表2に示す。
[剛軟度]
ガ―レ式試験機を用いて、試料1×1.5インチ(縦×横)をJIS L 1096 A法により測定した。なお、未処理綿ガーゼの剛軟度は0.1mNであった。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示されるように、実施例36〜42で得られた繊維構造体は、イオン液体による処理により風合いが変化し、かつ、毛羽が減少していることがわかる。また、実施例36〜42で得られた繊維構造体の強度は、全く減少が見られなかっただけでなく、ガーゼの横糸方向を除き、10%以上向上していることがわかる。
【0100】
上記実施例5、12、31、35、37、41、および比較例1で得られた繊維構造体、並びに未処理の50番手3撚綿糸、50番手絹糸、14番手羊毛糸、綿ガーゼ、およびろ紙を、それぞれSEM(S−4800、(株)日立製作所製)にて撮影した電子顕微鏡写真を図1〜12に示す。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】未処理の50番手3撚綿糸(カネボウ繊維(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例5の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例12の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】比較例1の綿糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】未処理の50番手絹糸((株)東神製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】実施例31の絹糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】未処理の14番手羊毛糸(日本毛織(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例35の羊毛糸の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】未処理の綿ガーゼ(日清紡績(株)製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例37の綿ガーゼの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図11】未処理のろ紙((有)桐山製作所製)の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図12】実施例41のろ紙の電子顕微鏡写真を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて前記繊維構造体の引張強度を向上させることを特徴とする繊維構造体の処理方法。
【請求項2】
前記高分子化合物が、セルロースおよびタンパク質から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項3】
前記イオン液体が、前記媒体中に80〜100質量%含まれる請求項1または2記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項4】
前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項5】
前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【化1】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【請求項6】
前記R1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、2−メチルアリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(R4およびnは、前記と同じ意味を表す。)である請求項5記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項7】
前記イオン液体が、式(2)で示される請求項6記載の繊維構造体の処理方法。
【化2】
〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
【請求項8】
前記イオン液体が、式(3)で示される請求項7記載の繊維構造体の処理方法。
【化3】
【請求項9】
前記接触が、0.01秒から120分間行われる請求項5〜8のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項10】
前記イオン液体が、イミダゾリウムカチオンと、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンとからなるイミダゾリウム系イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項11】
前記接触が、0.01秒から60分間行われる請求項10記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の処理方法で処理された繊維構造体。
【請求項1】
イオン液体に溶解または膨潤する高分子化合物からなる繊維状物を含有する繊維構造体を、イオン液体を含む媒体に接触させて前記繊維構造体の引張強度を向上させることを特徴とする繊維構造体の処理方法。
【請求項2】
前記高分子化合物が、セルロースおよびタンパク質から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項3】
前記イオン液体が、前記媒体中に80〜100質量%含まれる請求項1または2記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項4】
前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項5】
前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【化1】
〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【請求項6】
前記R1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、2−メチルアリル基、またはR4−O−(CH2)n−で表されるアルコキシアルキル基(R4およびnは、前記と同じ意味を表す。)である請求項5記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項7】
前記イオン液体が、式(2)で示される請求項6記載の繊維構造体の処理方法。
【化2】
〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
【請求項8】
前記イオン液体が、式(3)で示される請求項7記載の繊維構造体の処理方法。
【化3】
【請求項9】
前記接触が、0.01秒から120分間行われる請求項5〜8のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項10】
前記イオン液体が、イミダゾリウムカチオンと、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンとからなるイミダゾリウム系イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項11】
前記接触が、0.01秒から60分間行われる請求項10記載の繊維構造体の処理方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の処理方法で処理された繊維構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−303033(P2007−303033A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133558(P2006−133558)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
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