説明

繊維補強コンクリ−ト

【課題】 高強力、高弾性率でかつ耐衝撃性に優れたコンクリ−トを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される繰り返し単位から実質的になり、かつ、m−クレゾール中60℃で測定した溶液粘度が1.3〜4.0dl/gの範囲内であるマルチフィラメントヤ−ンまたは該マルチフィラメントヤ−ンの短カット糸を含むコンクリ−ト構造物からなる繊維補強コンクリ−ト。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は優れた補強効果を有するコンクリ−トに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、繊維補強コンクリ−トの繊維素材としてはステンレススチ−ル等の金属繊維、ガラス繊維、アスベスト、カ−ボン等のセラミック繊維などの無機繊維が主として使用されており、有機系の合成繊維はスレ−ト等一部の用途に使用されている。しかしながら、主要構造部材に使用されている金属繊維は比重が高く、プレキャスト化における湿式抄造法では沈降してしまう問題があり、使用され得る工法が限定される。また、金属繊維、ガラス繊維、カ−ボン繊維などは繊維素材としては良好な物性を有してはいるが高価格であるために、大量生産化になるとコストパ−フォ−マンスの点で問題が生じる場合がある。価格の点ではアスベストが有効ではあるが、取扱い性の点で問題がある。
【0003】このように、繊維補強コンクリ−トの繊維素材として、従来主として使用されている金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維は多くの問題を抱えており、価格の点で量産化が可能な有機合成繊維の使用が検討されてはいる。しかしながらコンクリ−トに該合成繊維を混入することにより、コンクリ−トの曲げ強力、衝撃強力が向上し、さらにコンクリ−トのエネルギ−吸収量が大きくなる等の特徴があるにもかかわらず、該分野で合成繊維があまり使用されていなかった原因の1つとして、従来の合成繊維は強度、初期弾性率が小さいことが挙げられる。
【0004】上述のような背景のもとで、該分野にわずかに使用されているビニロンは改良がすすみ、高強度、高い初期弾性率を有するものが各種提案されているが、ビニロンは耐熱水性に若干の問題があり、コンクリ−ト構造物を作成する際、場合によってはオ−トクレ−ブ養生の工程を得ることが必要であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は優れた補強効果、すなわち、高強力、高弾性率でかつ耐衝撃性に優れたコンクリ−トを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位から実質的になり、かつ、m−クレゾール中60℃で測定した溶液粘度が1.3〜4.0dl/gの範囲内であるマルチフィラメントヤ−ンまたは該マルチフィラメントヤ−ンの短カット糸を補強用繊維として含むものである。
【化2】


【0007】本発明に係わる繊維補強コンクリ−トの構成繊維であるマルチフィラメントヤ−ンを構成するポリマ−とは、一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、実質的に高分子中のCO単位がオレフィン由来の単位と交互に配列されているコポリマーのことである。すなわち高分子鎖中で各CO単位の隣に、例えばエチレンのようなオレフィンの単位が一つずつ位置する構造をとる。該コポリマーは、一酸化炭素と特定の1種のオレフィンとの真のコポリマーであっても、あるいは一酸化炭素と2種以上のオレフィンとのコポリマーであっても良い。
【0008】一般式(1)で示されるポリマーに使用することが可能なオレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、およびスルニルホスホン酸のジエチルエステルなどが挙げられるが、力学特性、耐熱性などの点からエチレンを主体としたポリマーが好ましい。
【0009】エチレンとエチレン以外のオレフィンとを併用する場合、エチレンとエチレン以外のオレフィンとのモル比は4/1以上であることが好ましい。4/1未満の場合、ポリマーの融点が200℃以下となり、耐熱性が不十分となるおそれがある。ポリマーの結晶性、耐熱性および該ポリマーより得られるポリマーフィラメントの力学的性能の点から、エチレンと他のオレフィン系モノマーのモル比は8/1以上であることがより好ましい。
【0010】該当する交互コポリマー、触媒および製造方法は、例えばヨーロッパ特許公開第121965号、第213671号、第229408号および米国特許第3914391号から公知である。また、遊離基触媒を使用して製造される交互構造を持たないその他公知のエチレン/COコポリマーの使用は本発明では考慮されない。
【0011】上記したコポリマーよりなる繊維の繊維化方法は特に限定されないが、一般的には溶融紡糸法または溶液紡糸法が採用される。溶融紡糸法を採用する場合、例えば特開平1−124617号公報に記載の方法に従って、ポリマーを最低(T+20)℃、好ましくは(T+40)℃の温度で溶融紡糸し、次いで最高(T−10)℃、好ましくは(T−40)℃の温度で好ましくは3倍以上、より好ましくは7倍以上の延伸比で延伸することにより容易に所望する繊維が製造可能である(ただしTは上記ポリマーの結晶融点である)。
【0012】また溶液紡糸法を採用する場合、例えば特開平2−112413号公報に記載の方法に従って、ポリマーを例えばヘキサフルオロイソプロパノール、m−クレゾールなどに0.25〜20%、好ましくは0.5〜10%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトンなどの非溶剤浴、好ましくはアセトン浴中で溶剤を除去、洗浄して紡糸原糸を得、さらに(T−100)〜(T+10)℃、好ましくは(T−50)〜T℃で延伸して最終的に所望の繊維を得ることができる(ただしTは上記ポリマーの結晶融点である)。
【0013】本発明では、かかるコポリマ−の重合度が重要である。コンクリ−ト構造物の補強用繊維として使用するには、該コポリマ−の重合度は、m−クレゾール中60℃で測定した溶液粘度(LVN)が1.3〜4.0dl/gの範囲内であることが必須である。LVNが1.3dl/g未満の場合、得られるフィラメントおよびコンクリ−ト構造物の力学強度が不十分となる。また4.0dl/gを越える場合、繊維化時の溶融粘度、溶液粘度が高くなりすぎて紡糸性が不良となる場合があるのみならず、かえってコンクリート構造物の力学的物性が低下する。より好ましい溶液粘度は1.5〜3.0dl/gの範囲である。
【0014】このようにして得られたマルチフィラメントヤ−ンは、単糸間での膠着がなく、引張強度が6g/デニ−ル以上、初期弾性率が120g/デニ−ル以上である。該繊維の繊度はとくに限定はないが、補強用ということを考慮して5デニ−ル以下であることが好ましく、総フィラメント数は20本以上であることが好ましい。
【0015】本発明の繊維補強コンクリ−トは、かかるマルチフィラメントまたは該マルチフィラメントの短カット糸をコンクリ−ト中に混入することにより製造される。コンクリ−ト中に混入される該繊維の形態としてはコ−ド、織物、不織布またはカットされた短繊維等が用いられる。
【0016】例えば、コンクリ−ト施工法において、打設施工法、吹付工法などでは、カットされた短繊維をコンクリ−トまたはモルタルに混合した状態で施工される。また、スレ−ト製造に適用される抄造法、またはセメント板製造に適用されるプレキャスト工法等では設計品質に応じて、コ−ド織物、不織布または短繊維が用いられる。
【0017】該繊維をカットして短繊維化する場合、カット長は3〜50mm、好ましくは5〜35mmのものが一般に採用される。カット長が長すぎると混合工程で繊維が絡み合い、ファイバ−ボ−ルとなりやすい。
【0018】該繊維へのコンクリ−トへの混入量は、一般にセメント重量に対して0.3〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。また混入に際しては、必要に応じて混和剤や分散剤等を使用してもよい。繊維のコンクリ−ト中への混入形態は、上述のように、いろいろな形態がある。例えば、該短繊維がコンクリ−ト中に均一に分散混入した形態や、該繊維からなる織物、不織布またはコ−ドとコンクリ−トとの積層混入形態などがある。
【0019】本発明による繊維補強コンクリ−トは、一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリマ−からなるマルチフィラメントのもつ高強度、高弾性率、および合成繊維特有のエネルギ−吸収能に由来して、曲げ強力が高く、耐衝撃強力にも優れ、かつエネルギ−吸収量が大きく、さらに単糸間が膠着していないので補強効果が高いなどの特徴があるとともに、該繊維とセメントとのなじみ、コンクリ−トへの分散性、混合性などに優れており、スレ−ト、セメント板、建物の壁、道路舗装、トンネル、法面保護、各種海洋構造物、各種水埋構造物、一般左官モルタルなどとして好適に用いられる。
【0020】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の各物性値は以下の方法により測定した値である。
(1)繊維の溶液粘度(LVN)
試料をm−クレゾールに0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ型粘度計を使用して60℃で測定した。
(2)繊維の強度(g/デニ−ル)および初期弾性率(g/デニ−ル)
JIS L 1013に準拠した方法で測定した。
【0021】実施例1プロピレンを7モル%共重合したエチレン/プロピレン/一酸化炭素ポリマー(LVN2.0dl/g)を紡糸温度275℃で紡糸し、次いでプレート温度200℃で6倍延伸した後、熱固定、捲縮付与、切断して、単繊維繊度2.0デニール、長さ51mmの短繊維を得た。この繊維のLVNは1.9dl/gであり、引張強度は13.0g/デニ−ル、初期弾性率は140g/デニ−ルであった。得られた短繊維を2部、パルプ3部、ポルトランドセメント57部、シリカ(ブレ−ン値3500cm2 /g)38部の配合でハッチェクマシンを用いて湿式抄造し、スレ−ト板を作成した。該スレ−ト板の曲げ強度は高く、また該スレ−ト板の断面を観察するに、繊維は均一に分散混入されていた。
【0022】実施例2エチレン/一酸化炭素ポリマー(LVN2.5dl/g)をヘキサフルオロイソプロパノールに1%濃度で溶解し、20℃で直径1.75mmのノズルより押し出して繊維化し、アセトン浴を通過させてヘキサフルオロイソプロパノールを除去し、次いでプレート温度265℃で26倍に延伸した後、熱固定、捲縮付与、切断して、単繊維繊度4.5デニール、長さ51mmの短繊維を得た。この繊維のLVNは2.5dl/gであり、引張強度は16.8g/デニ−ル、初期弾性率は180g/デニ−ルであった。実施例1と同様にして、得られた短繊維を補強用繊維として用い、スレ−ト板を作製した。該スレ−ト板の曲げ強度は高く、また該スレ−ト板の断面を観察するに、繊維は均一に分散混入されていた。
【0023】比較例1LVNが0.9dl/gのコポリマ−を用いて、実施例1と同様にして繊維化し、短繊維を得た。この繊維のLVNは0.8 dl/gであり、引張強度は5.8g/デニ−ル、初期弾性率は100g/デニ−ルであった。実施例1と同様にして、得られた短繊維を補強用繊維として用い、スレ−ト板を作製した。該スレ−ト板の曲げ強度は実施例1に比較して低いものであった。
【0024】比較例2LVNが4.5dl/gのコポリマ−を用いて、実施例1と同様にして繊維化し、短繊維を得た。この繊維のLVNは4.1dl/gであり、引張強度は8.5g/デニ−ル、初期弾性率は130g/デニ−ルであった。実施例1と同様にして、得られた短繊維を補強用繊維として用い、スレ−ト板を作製した。該スレ−ト板の曲げ強度は実施例1に比較して低いものであった。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、特定の溶液粘度を有する特定のポリマ−からなる繊維を補強繊維として用いることにより、単に、セメントに混入するだけで高強力、高弾性率でかつ耐衝撃性に優れたコンクリ−ト構造物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記一般式(1)で示される繰り返し単位から実質的になり、かつ、m−クレゾール中60℃で測定した溶液粘度が1.3〜4.0dl/gの範囲内であるマルチフィラメントヤ−ンまたは該マルチフィラメントヤ−ンの短カット糸を含むコンクリ−ト構造物からなる繊維補強コンクリ−ト。
【化1】