説明

繊維製品の洗濯方法、供給方法および洗濯された繊維製品ならびに人間の皮膚に接し得る製品へ癒される感覚等を付与する方法

【課題】健常者であればより高位の肌なじみ感や癒され感等を有し、皮膚が過敏な者や早産児等であっても、従来の柔軟剤等を用いた場合に感じるストレスや種々の問題を生じない繊維製品等を提供することができる繊維製品の洗濯方法、供給方法および洗濯された繊維製品ならびに人間の皮膚に接し得る製品へ癒される感覚等を付与する方法を提供すること。
【解決手段】繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品の洗濯方法、供給方法および洗濯された繊維製品ならびに人間の皮膚に接し得る製品へ癒される感覚等を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品等を洗濯すると洗濯回数の増加に伴って、その繊維製品等の肌なじみ感や癒され感等が悪化する傾向がある。この悪化を緩和するために、一般家庭や洗濯業者等では柔軟剤等が用いられる場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、例えば柔軟剤等を使用したからといって、必ずしも肌なじみ感や癒され感等を感じるとは限らなかった。
また、このような肌なじみ感や癒され感等を感じる程度は、より高いことが望ましい。
また、例えば、特に皮膚が過敏な者や早産児等にとっては、健常者が肌なじみ感や癒され感等を感じる繊維製品等であっても、それを皮膚に接触させると皮膚の炎症を起こす等の問題を生じたり、ストレスを感じたりする場合があるが、このような者であっても肌なじみ感や癒され感等を感じる繊維製品等がより好ましい。また、このような繊維製品等は、健常者にとっては非常に高位に肌なじみ感や癒され感等を感じるものである。
【0004】
従って、本発明の目的は、健常者であればより高位の肌なじみ感や癒され感等を有し、皮膚が過敏な者や早産児等であってもストレスや種々の問題を生じ難い繊維製品等を提供することができる繊維製品の洗濯方法、供給方法および洗濯された繊維製品ならびに人間の皮膚に接し得る製品へ癒される感覚等を付与する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、肌なじみ感や癒され感等の感覚が繊維製品等の性状を表す特定の指標と関係があること、および繊維製品等を洗濯する際に特定の表面処理剤を用いて表面処理することで、前記特定の指標を調整することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は次に示す(1)〜(14)である。
(1)繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
(2)繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の圧縮特性の線形性および圧縮仕事量が、所定の圧縮特性の線形性および所定の圧縮仕事量よりも高く、かつ、前記繊維製品の圧縮レジリエンスが所定の圧縮レジリエンスよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
(3)繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の平均摩擦係数が、所定の平均摩擦係数よりも高く、かつ、前記繊維製品の表面粗さが所定の表面粗さよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
(4)繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品のJIS L 1018:1999に規定する通気性が、所定の通気性よりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
(5)前記洗濯後繊維製品が、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法。
(6)さらに、前記洗濯後繊維製品が、細かく、柔らかく、肌なじみよく、さらに癒され感がある洗濯後繊維製品である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法。
【0007】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法によって洗濯された繊維製品。
(8)SD法による官能試験を行って評価した細かさ、柔らかさ、肌なじみ感、および癒され感の各項目の評価が、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法における表面処理をしていない同じ繊維製品について、同様に前記官能試験を行って評価した同じ項目の評価と比較して、より細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、より癒され感があると評価される、アミノ酸誘導体含有繊維処理剤で表面処理した上記(7)に記載の繊維製品。
(9)布、糸、織布、不織布およびリネンからなる群から選択される少なくとも一つを用いている上記(7)または(8)に記載の繊維製品。
(10)前記繊維製品が、肌着、寝具、タオル、手拭い、靴下、マスク、ハンカチ、スカーフまたは小児繊維製品である、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の繊維製品。
【0008】
(11)サプライ業者が客から繊維製品を回収する回収工程と、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の初期熱流束最大値が、所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る洗濯工程と、前記洗濯後繊維製品を前記客に供給する供給工程とを具備し、前記回収工程における前記繊維製品の回収、および前記供給工程における前記洗濯後繊維製品の供給を各々所定日時毎に行い、前記回収工程における前記繊維製品の回収量、および/または前記洗濯工程における前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤の使用量に応じて課金する、繊維製品の供給方法。
(12)前記洗濯工程が、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯する前に、前記繊維製品の初期熱流束最大値を測定し、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記初期熱流束最大値が、予め測定した所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る工程である、上記(11)に記載の繊維製品の供給方法。
【0009】
(13)人間の皮膚に接触し得る製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理して、前記製品に、前記製品を皮膚に接触させた人間がより細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、さらにより癒される感覚を感じる性質を付与する方法。
(14)前記人間の皮膚に接触し得る製品が、皮製品、金属製品またはパルプ製品である、上記(13)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、健常者であればより高位の肌なじみ感や癒され感等を有し、皮膚が過敏な者や早産児等であってもストレスや種々の問題を生じ難い繊維製品等を提供することができる繊維製品の洗濯方法、供給方法および洗濯された繊維製品ならびに人間の皮膚に接し得る製品へ癒される感覚等を付与する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について詳細に説明する。
始めに、本発明の洗濯方法について説明する。
本発明の洗濯方法は、繊維製品の性状を表す特定の指標に着目し、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記指標の値に応じて前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る繊維製品の洗濯方法である。
本発明の洗濯方法は、この着目すべき特定の指標によって、以下に説明する第1〜第4の4つの態様に分かれる。
【0012】
特定の指標について説明する。
特定の指標とは、次に説明する初期熱流束最大値、圧縮特性の線形性、圧縮仕事量、圧縮レジリエンス、平均摩擦係数、表面粗さ、および通気性である。
【0013】
初期熱流束最大値(q−max)について説明する。
本発明でいう初期熱流束最大値は、従来用いられる熱物性測定装置を用いて測定する値を意味する。
本発明の第1態様の洗濯方法では、この初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高くなるようにする。
ここで所定の初期熱流束最大値とは、本発明の洗濯方法の洗濯対象物である繊維製品の、洗濯前かつ予備洗浄後における初期熱流束最大値を意味する。また、予備洗浄とは、繊維製品の製造過程で付着した付着物を取るため1度だけ行う洗濯を意味する。
なお、後述する他の特定の指標における所定の圧縮特性の線形性、所定の圧縮仕事量、所定の圧縮レジリエンス、所定の平均摩擦係数、所定の表面粗さ、および所定の通気性の意味についても同様である。
【0014】
本発明の第1態様の洗濯方法では、上記のように、前記初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高く、さらに0.04W/m以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の第1態様の洗濯方法では、繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理する。つまり、洗濯後の繊維製品の初期熱流束最大値が、所定の初期熱流束最大値超であれば表面処理は行う必要がないが、所定の初期熱流束最大値以下であれば表面処理を行う。
【0016】
ここで前記初期熱流束最大値が前記所定の初期熱流束最大値よりも高いか否かは、繊維製品の初期熱流束最大値を実際に測定して把握して判断することが好ましい。ここで初期熱流束最大値は5回実測し、その平均値をもってその計測値とする。ただし、実際に測定しなくても、例えば洗濯回数と初期熱流速最大値との関係が予め明確になっているならば、洗濯回数を計測することでその判断をすることもできる。
【0017】
次に、圧縮特性の線形性(LC)、圧縮仕事量(WC、[gf・cm/cm])および圧縮レジリエンス(RC、[%])について説明する。
本発明でいう圧縮特性の線形性(LC)、圧縮仕事量(WC、[gf・cm/cm])および圧縮レジリエンス(RC、[%])は、従来用いられる圧縮試験機を用い、加圧面積:25cm円形平面、最大荷重:50gf/cm、圧縮速度:0.2mm/secで測定する値を意味する。
【0018】
本発明の第2態様の洗濯方法では、ここでいう圧縮特性の線形性および圧縮仕事量が所定の圧縮特性の線形性および所定の圧縮仕事量よりも高く、かつ、圧縮レジリエンスが所定の圧縮レジリエンスよりも低くなるようにする。
【0019】
本発明の第2態様の洗濯方法では、繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の圧縮特性の線形性および圧縮仕事量が所定の圧縮特性の線形性および所定の圧縮仕事量よりも高く、かつ、前記繊維製品の圧縮レジリエンスが所定の圧縮レジリエンスよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理する。つまり、前記繊維製品の圧縮特性の線形性または圧縮仕事量が所定の圧縮特性の線形性または所定の圧縮仕事量以下である場合や、前記繊維製品の圧縮レジリエンスが所定の圧縮レジリエンス以上である場合は、必ずしも表面処理を行う必要はない。ただし、このような場合であっても表面処理を行えば、より高位な癒され感等を有する洗濯後繊維製品が得られるので好ましい。
【0020】
ここで前記圧縮特性の線形性、前記圧縮仕事量および前記圧縮レジリエンスと、前記所定の圧縮特性の線形性、前記所定の圧縮仕事量および前記所定の圧縮レジリエンスとの値の大小比較は、前記繊維製品のこれらの値を実際に測定して把握して判断することが好ましい。ここでこれらの値は5回実測し、その平均値をもってその計測値とする。ただし、実際に測定しなくても、例えば洗濯回数と前記圧縮特性の線形性、前記圧縮仕事量および前記圧縮レジリエンスとの関係が予め明確になっているならば、洗濯回数を計測することでその判断をすることもできる。
【0021】
次に、平均摩擦係数および表面粗さについて説明する。
本発明でいう平均摩擦係数(MIU)は、前記繊維製品を20cm×20cmの試料とし、これをKES−FB4表面試験機に供して移動距離と摩擦係数との関係(図17に例示する)を求め、次に示す式(i)によって平均摩擦係数を求める試験を5回行い、それらの値を平均して求めた値を意味するものとする。
また、本発明でいう表面粗さ(SMD)も同様であり、同じ試料を用い、これを同じ表面試験機に供して移動距離と試料の厚さとの関係(図18に例示する)を求め、次に示す式(ii)によって表面あらさを求める試験を5回行い、それらの値を平均して求めた値を意味するものとする。
なお、式(i)、式(ii)において、μは摩擦力を試料を圧する力で除して求められる摩擦係数を意味し、xは試料表面上の位置を意味し、Xは移動距離を意味し、Tは位置xにおける試料の厚みを意味し、tはTの平均値を意味する。
【0022】
【数1】

【0023】
本発明の第3態様の洗濯方法では、ここでいう平均摩擦係数が、所定の平均摩擦係数よりも高く、かつ、表面粗さが所定の表面粗さよりも低くなるようにする。
【0024】
本発明の第3態様の洗濯方法では、繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の平均摩擦係数が、所定の平均摩擦係数よりも高く、かつ、前記繊維製品の表面粗さが所定の表面粗さよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理する。つまり、前記繊維製品の平均摩擦係数が所定の平均摩擦係数以下である場合や、前記繊維製品の表面粗さが所定の表面粗さ以上である場合は、表面処理を行う必要がない。ただし、このような場合であっても表面処理を行えば、より高位な癒され感等を有する洗濯後繊維製品が得られるので好ましい。
【0025】
ここで前記平均摩擦係数と前記所定の平均摩擦係数との大小比較、および前記表面粗さと前記所定の表面粗さとの大小比較は、前記繊維製品のこれらの値を実際に測定して把握して判断することが好ましい。ここでこれらの値は5回実測し、その平均値をもってその計測値とする。ただし、実際に測定しなくても、例えば洗濯回数と前記平均摩擦係数および前記表面粗さとの関係が予め明確になっているならば、洗濯回数を計測することでその判断をすることもできる。
【0026】
次に、通気性について説明する。
本発明でいう通気性は、JIS L 1018:1999に規定する通気性を意味する。
【0027】
本発明の第4態様の洗濯方法では、この通気性が、所定の通気性よりも低くなるようにする。そして、さらに通気性が400cc/m/sec以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の第4態様の洗濯方法では、繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の前記通気性が、所定の通気性よりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理する。つまり、前記通気性が前記所定の通気性以上である場合は、表面処理を行う必要はない。ただし、このような場合であっても表面処理を行えば、より高位な癒され感等を有する洗濯後繊維製品が得られるので好ましい。
【0029】
ここで前記通気性と前記所定の通気性との値の大小比較は、前記繊維製品のこれらの値を実際に測定して把握して判断することが好ましい。ただし、実際に測定しなくても、例えば洗濯回数と前記通気性との関係が予め明確になっているならば、洗濯回数を計測することでその判断をすることもできる。
【0030】
次に、本発明の洗濯方法におけるアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いた表面処理について説明する。
【0031】
ここで用いるアミノ酸誘導体含有繊維処理剤は、アミノ酸やその誘導体を含有する処理剤であれば特に限定されない。例えばアミノ酸誘導体のアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、アルギニン、リジン、オルニチンが挙げられる。また、例えばアミノ酸誘導体としての誘導体部分は、アミノ酸のN−アシルやN−アルキル等のN−誘導体、メチル、エチル等の低級アルコールのエステル化体のアミノ酸系カチオン界面活性剤が挙げられる。また、その塩であってもよく、例えば一般の鉱酸(塩酸、硫酸等)の塩、有機酸(クエン酸、リンゴ酸等)の塩、アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸、ピロリドンカルボン酸等)の塩が挙げられる。
また、例えばN−アシルアミノ酸塩を含むもの(5%水溶液であることが好ましい。)、第4級アンモニウム塩とN−アシルアミノ酸エステル塩の配合物を含むもの(5%水溶液であることが好ましい。)、およびトリメチルグリシン(3%水溶液であることが好ましい。)が挙げられる。
また、前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤は塩化第四級アンモニウム塩(モノメチル体、ジメチル体、トリメチル体等)の配合物を含んでもよい。
【0032】
また、このようなアミノ酸誘導体と塩化第四級アンモニウム塩配合物を溶かす溶媒も特に限定されない。例えば、水、有機溶媒(エチレングリコール、イソプロピルアルコール等)が挙げられ、特に水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
上記のようなアミノ酸誘導体と塩化第四級アンモニウム塩を溶解、配合した溶液での繊維処理には例えば0.1〜10.0質量%での処理で良いが、好ましく1.0〜5.0質量%の処理が良い。
【0033】
このようなアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて繊維製品を表面処理する方法は特に限定されない。例えば、前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤を繊維製品に従来公知の方法(スプレーなど)を用いて吹き付けたり、前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤中に繊維製品を浸漬させる方法が挙げられる。また、後述する洗濯と同時に表面処理してもよい。つまり、洗濯時に洗濯するために用いる液体(例えば水等)に前記アミノ酸を含有させることで、洗濯と表面処理とを同時に行うことができる。
【0034】
次に、本発明の洗濯方法で洗濯する繊維製品について説明する。
【0035】
本発明の洗濯方法の洗濯対象物である繊維製品は特に限定されない。例えば、布、糸、織布、不織布、リネンなどの天然繊維および化学繊維との混紡を用いてなるものが挙げられる。なかでも布、糸、織布、不織布およびリネンに好ましく適用することができる。その多くは天然繊維および化学繊維との混紡を用いているので、天然繊維の繊維イオン構造から、イオン的にアニオン側に帯電しているので、カチオン側に帯電している繊維加工仕上げ剤が結合、付与しやすいからである。
また、このような繊維製品は、一般着衣に適用できる。具体的には、例えば肌着、寝具、タオル、手拭い、靴下、マスク、ハンカチ、スカーフ、小児繊維製品が挙げられる。
【0036】
次に本発明の洗濯方法における洗濯について説明する。
本発明の洗濯方法において一回の洗濯とは、通常、家庭等で行われる洗濯と同様であってよい。具体的には、例えば、30リットルの水に対して、3kgの被洗濯物、および30gの洗剤(「モノゲン」(登録商標)、第一工業製薬株式会社製)を投入し、10〜15分間、35〜40rpmで攪拌する方法による洗濯である。
【0037】
本発明の洗濯方法は上記の洗濯方法であり、このような洗濯方法により、洗濯後繊維製品を得ることができる。
この洗濯後繊維製品は、細かく、柔らかく、肌なじみよく、さらに癒され感を感じる繊維製品である。
このような感覚を感じる洗濯後繊維製品とは、SD法による官能試験を行って評価した細かさ、柔らかさ、肌なじみ感、および癒され感の各項目の評価が、本発明の洗濯方法における表面処理をしていない同じ繊維製品について、同様に前記官能試験を行って評価した同じ項目の評価と比較して、より細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、より癒され感があると評価される洗濯後繊維製品を意味する。
【0038】
ここで、SD法(Semantic Differential)による官能試験とは、健康な成人を被験者とし、上記のような本発明の洗濯方法に供したもの(:本発明の洗濯後繊維製品)、および本発明の洗濯方法における上記のような表面処理を行わず、上記のような洗濯のみを同一回数行ったもの(:比較繊維製品)に、被験者が指で触れ、その際の心理反応を第1表に示した4種類の評価項目に対して5段階の評定で印象を評価する試験である。ここでは5段階評定に対して、−2〜+2の評点を付けて行う。
【0039】
【表1】

【0040】
本発明の洗濯方法で洗濯して得られる本発明の洗濯後繊維製品は、上記のような官能試験において、前記比較繊維製品と比較して、より細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、より癒され感があると評価される。
【0041】
ここで、より細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、より癒され感があるとの評価に、統計的有意性があることが好ましい。
本発明において「統計的有意性がある」とは、有意水準が1%または5%のレベルであることを意味する。
【0042】
また、前記洗濯後繊維製品(本発明の洗濯後繊維製品)が、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.2以下となる洗濯後繊維製品であることが好ましい。この指標は1.0〜1.2であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。
また、前記洗濯後繊維製品が、副交感神経活動測定試験を行った場合に測定される副交感神経活動指標が1.0以上となる洗濯後繊維製品であることが好ましい。この指標は1.0〜1.1であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。
【0043】
この交感神経活動測定試験および副交感神経活動測定試験について説明する。
本発明において交感神経活動測定試験および副交感神経活動測定試験は、健康な成人を被験者とし、袋状に加工した洗濯後繊維製品の内部に5gのシリコン板を入れて被験者の前腕内側にこすりつけた際の、被験者の心臓に伝わる電気を被験者の体表面に装着した電極によって心電図に記録して行う試験である。ここで、洗濯後繊維製品の被験者へのこすりつけ、および心電図の記録は、被験者が実験開始2時間以上前に食事を済ませ食物の消化に伴う生理活動が無い状態で行う。また、被験者は身体を圧迫しない服装とし、温熱的にも快適である20℃、65%RHで、安静状態で行う。なお、本発明において心電図の記録方法は胸部誘導方法である。
心電図では、心臓が一回収縮するたびに図1のような波形が一組、心電図の上に記録される。図1中、アルファベットが波の名前である。そして、このような心電図波形より得られたR波ピーク時間よりRR間隔を算出し、それを基に心拍パワースペクトルを算出する。そして、高速フリーエ変換による周波数解析をすると、低周波域(LF:0.05〜0.15Hz)と高周波域(HF:0.15〜0.5Hz)にピークが生じる。
ここで、LF/HFが本発明における交感神経活動指標であり、HF/(HF+LF)が本発明における副交感神経活動指標である。
【0044】
次に本発明の供給方法について説明する。
本発明の供給方法は、サプライ業者が客から繊維製品を回収する回収工程と、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の初期熱流束最大値が、所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る洗濯工程と、前記洗濯後繊維製品を前記客に供給する供給工程とを具備し、前記回収工程における前記繊維製品の回収、および前記供給工程における前記洗濯後繊維製品の供給を各々所定日時毎に行い、前記回収工程における前記繊維製品の回収量、および/または前記洗濯工程における前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤の使用量に応じて課金する、繊維製品の供給方法である。
【0045】
ここで、洗濯工程が、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯する前に、前記繊維製品の初期熱流束最大値を測定し、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記初期熱流束最大値が、予め測定した所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る工程であることが好ましい。
【0046】
つまり、本発明の供給方法は、所定日時毎にサプライ業者が客から繊維製品を回収した後、回収した前記繊維製品を本発明の洗濯方法に供し、前記洗濯後繊維製品を得て、特定値に応じて課金して、前記洗濯後繊維製品を所定日時毎に前記客に供給する方法である。
【0047】
ここでサプライ業者とは、本発明の洗濯方法を業として実施しうる者を意味する。例えば洗濯業者やこれに類する者が挙げられる。
また、客とは、前記サプライ業者に、自己の所有する繊維製品を本発明の洗濯方法に供することを依頼する者であり、例えば一般消費者や、ホテル、病院などが挙げられる。
【0048】
また、前記回収工程における回収や前記供給工程における供給の行為自体は、特に限定がなく通常の方法でよい。また、この回収や供給は所定日時毎に、少なくとも2回以上繰り返し行うが、所定日時とは、例えば週に1回とか、毎週月曜日とか、客が所定時間使用したらとかを意味する。
さらに、前記回収工程における前記繊維製品の回収量、および/または前記洗濯工程における前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤の使用量に応じて、前記サプライ業者が前記客に課金する。
【0049】
次に、本発明のより細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、さらにより癒される感覚を感じる性質を付与する方法(以下、本発明の癒し感付与方法ともいう。)について説明する。
【0050】
本発明の癒し感付与方法は、人間の皮膚に接触し得る製品を、上記のような本発明の洗濯方法で用いるアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用い、上記のような本発明の洗濯方法における表面処理と同様の方法で表面処理して、前記製品に、前記製品を皮膚に接触させた人間がより細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、さらにより癒される感覚を感じる性質を付与する方法である。
【0051】
ここで、人間の皮膚に接触し得る製品は特に限定されないが、例えば皮製品、金属製品またはパルプ製品が挙げられる。
繊維製品、皮製品、金属製品またはパルプ製品は、これを皮膚に接触するとストレスを感じたり、皮膚の拒絶反応を起す人間が多数存在する。本発明の癒し感付与方法を適用すると、そのようなことがないので好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明の実施例について説明する。
<試料>
タオル布地を複数枚用意し、洗濯回数による風合いの変化、アミノ酸誘導体含有繊維処理剤(以下、「アミアート」ともいう。)による表面処理(以下、「アミアート処理」ともいう。)による風合いの変化を計測するために、アミアート処理を行った群と行っていない群に分け、それぞれ洗濯処理回数を段階的に分けたものを用意した。
具体的には、予備洗浄として洗濯を一回だけ行ったものをアミアート処理を行っていない群とした。また、予備洗浄として洗濯を一回だけ行った後にアミアート処理を一回だけ行ったものをアミアート処理を行った群とした。ここで、一回の洗濯とは、30リットルの水に対して、3kgの被洗濯物、および30gの洗剤(「モノゲン」(登録商標)、第一工業製薬株式会社製)を投入し、10〜15分間、35〜40rpmで攪拌する洗濯である。また、ここでアミアート処理とは、予備洗浄後のタオル布地の3kgを30リットルの水に浸漬し、ここにアミアートである「アミアートF」(登録商標)(味の素ヘルシーサプライ株式会社製)を1.5リットル投入し、40℃、25分間攪拌した後、脱水し、タンブラー乾燥する処理である。
このようなアミアート処理を行った群と行っていない群とについて、各々、上記の洗濯を1〜50回繰返して、それぞれについて洗濯回数を段階的に分けたものを用意した。
【0053】
試料(タオル布地)に施した洗濯回数とそれに基づく試料番号を第3−1表に示す。
なお、第3−1表において、「ol 0」は予備洗浄として洗濯を一回だけ行ったものを意味する。また、「al 0」は予備洗浄として洗濯を一回だけ行った後、アミアート処理を一回だけ行ったものを意味する。また、「ol 1」、「ol 10」、「ol 30」および「ol 50」は、「ol 0」に対して1回、10回、30回および50回洗濯を行ったものを意味する。また、「al 1」、「al 10」、「al 30」および「al 50」は、「al 0」に対して1回、10回、30回および50回洗濯を行ったものを意味する。したがって、「al 0」、「al 1」、「al 10」、「al 30」および「al 50」は、アミアート処理は一回しか行っていない。これに対して「al 50a」は「al 50」の後に再度アミアート処理を一回行ったものである。
なお、試料(タオル布地)は実験前に環境(温度:20℃、相対湿度:60%R.H.)下に24時間以上暴露して、実験試料とした。
【0054】
【表2】

【0055】
<被験者>
健康な成人男女の大学生13名を被験者として、試料を接触した際の生理、心理反応を測定した。
被験者は、食事を実験開始2時間以上前に済ませ、食物の消化に伴う生理活動が無い状態とした。身体は圧迫しない服装とし、温熱的にも快適である20℃、65%RHとし、着座安静状態を維持するように指示した。
【0056】
<実験手順>
第5−1表にある一つの試料についての実験プロトコルを示す。試料は、袋状に加工し、その内部にシリコン板(230g)を入れてすべての試料についてほぼ同様の圧迫条件として実験した。
【0057】
【表3】

【0058】
<生理反応試験>
布地に触れた際の生理反応を計測し、数値解析によって心身ストレスの指標として用いられている生理指標を算出した。測定した生理反応は第5−1表の測定項目に示したように、心電図、手指先の末梢血流、呼吸、唾液(アミラーゼ)である。自律神経活動は、ストレス状態を評価する際に用いられる代表的な生理反応である。測定された生理反応データを解析し、自律神経活動の状態を示す生理指標を計算した。
【0059】
具体的な計算方法を示す。
<心電図(瞬時心拍数(BPM)、心拍変動係数(CVRR)、LF/HF、HF/LF+HF)>
交感神経活動指標(LF/HF)および副交感神経活動指標(HF/LF+HF)は、上記の本発明の洗濯方法において図1を用いて説明した交感神経活動測定試験および副交感神経活動測定試験を行って算出する方法で算出した。
【0060】
具体的に示す。
心電図は心臓の収縮に伴って発生する電位変化を、胸部皮膚表面に装着した2つの電極間の電位差として測定できる。通常心電図は、心房の興奮を示すP波、心室の脱分極を示すQRS複合、心室の再分極を示すT波からなる。これより求めたRR間隔は心電図R波とR波の間隔で、心臓交感神経と心臓副交感神経の拮抗支配を受けている。そして、RR間隔を1分あたりの心拍数に換算し、瞬時心拍数(BPM)が求めた。精神的負荷などにより心臓交感神経の賦活が起これば、RR間隔は短縮し、瞬時心拍は上昇する。
図19に、心電図波形の具体例を示す。
心臓が一回収縮するたびに、図19中にP、Q、R、SおよびTで示した部分からなる1組の波形が心電図上に示される。そして、このような波形のRR間隔から瞬時心拍が求められる。これを1分あたりの心拍数に換算したものが瞬時心拍数(BPM)である。
【0061】
また、心電図における連続する100個のRR間隔データから、その平均値と標準偏差を求め、次に示す式(iii)からRR間隔の変動係数である心拍変動係数(CVRR)(Coefficient of Variation )を算出することができる。本発明においては100個のデータではなく、100秒間に含まれるRR間隔データから算出した。副交感神経系指標とされている。
【0062】
【数2】

【0063】
<手指先の末梢血流>
手指先の末梢血流(平均血流)は、レーザードップラー血流測定法による血流計を用いて測定した。具体的にはプローブを右手第2指に装着し、サンプリング周波数10Hzで測定した。末梢血流の単位はBPUである。解析方法は次の通りである。測定は、安時120秒、生地接触120秒で行った。末梢血流(平均血流)は、各状態の始めと終わりの10秒間のデータを除いた血流量である。末梢血流(BPU)の測定結果を例示する図を図20に示す。
末梢血流(平均血流)は各解析区間の血流量の平均である。血流を示す信号をfとして次の式(iv)から求める。
【0064】
【数3】

【0065】
<呼吸>
呼吸(呼吸深度)は、被験者の鼻部に装着したサーミスタで呼気・吸気の温度を測り温度変化曲線とし、サンプリング周波数200Hzで測定を行った。解析方法は、得られた呼吸曲線に対しFFT処理を行ってパワースペクトルを算出し、呼吸周期のピークの前後0.1Hzで積分を行った。この実施例では呼吸統制を行ったため、ピークは0.25Hzに出現し、0.15Hz〜0.35Hzの積分を行った。この値は、呼吸深度として呼吸の深さを表す指標であると考えた。
【0066】
<唾液(アミラーゼ)>
唾液(α-アミラーゼ活性)は、唾液アミラーゼセンサ(ヤマハ発動機製の装置(α-AMY)を用いた。まず、先端に不織布の付いた唾液採取用チップを30秒間口中の舌下に差し入れ唾液を採取し、それをこの測定装置にかけて、唾液中のアミラーゼの活性度を測定した。単位はKU/Lである。
【0067】
各生理指標は第5−2表に示したように交感神経、副交感神経の活動によって変化が異なる。交感神経活動が優位である場合、興奮性ストレス状態であることが示唆され、副交感神経活動が優位である場合、生理活動の抑制、安静状態への生理活動状態であることが推測される。
【0068】
【表4】

【0069】
<心理反応試験>
布地に触れた際の印象である心理反応をSD法(Semantic Differential)による官能検査で測定した。第5−3表に示した6種類の評価項目に対して、5段階の評定で、印象を評価した。集計のため、5段階評定に対して−2〜+2の評点を付けて結果をまとめた。
【0070】
【表5】

【0071】
<材料特性試験>
洗濯回数やアミアート処理による材料の物理特性の変化を比較するために第5−4のような試験を行った。
【0072】
【表6】

【0073】
<生理反応試験結果>
1.心電図からの生理指標
各結果は、第5−1表に示した実験過程ii安静時で測定された値を基準とした相対値である。
(1)瞬時心拍数(BPM):試料間での差はなかった。
(2)心拍変動係数(CVRR) :一貫した傾向は得られなかった。
(3)交感神経活動指標(LF/HF):洗濯回数10回以降まで両試料とも、値が減少傾向であり、興奮ストレスが減少傾向にあることを示している。洗濯回数10回以降から未処理布が高くなっており、アミアート処理布が来処理布に比べてストレスが低いことを示している(図2参照)。
(4)副交感神経活動指標(HF/(HF+LF)):(3)のLF/HFの変化と逆の値を示し、アミアート処理布のストレスが洗濯回数10回以降でも小さいことがわかる(図3参照)。
(5)アミアート再処理によって、交感神経活動優位のストレス状態への推移を抑えて、ストレスが増加を抑制している(図2、3参照)。
【0074】
2.末梢血流
(1)洗濯回数10回以降からアミアート処理布における手指先の血流が高くなっていることから、副交感神経活動が優位に活動していることが推測される(図4参照)。なお、図4は安静時の値を基準とした相対値を示している。
(2)アミアート処理の布は未処理の布よりも生理的な興奮性ストレスになりにくいことが予測される。
【0075】
3.呼吸:呼吸深度
(1)洗濯回数1回のみ未処理布が大きな値をとっていたが、それ以外は大きな差は見られなかった。
【0076】
4.唾液:アミラーゼ活性
4名の被験者の平均を示す(図5参照)。
(1)全般的にアミアートを処理した群のアミラーゼ活性値が小さかった。特にアミアートを処理後10回洗濯したサンプルの場合、より低い値をとっている。
(2)洗濯50回後再びアミアートを処理したサンプルの場合、アミラーゼ活性値が下がることから、アミアート処理によって接触によるストレスを減少させる傾向があることがわかった。
【0077】
<心理反応試験結果>
図6から図9に結果を示す。**は、統計的に有意水準が1%で有意な差があることを意味し、*は有意水準が5%で有意な差があることを示す。
(1)細かさ:アミアート処理をしなかったサンプルは洗濯10回以後細かさが減少しているが、処理したサンプルは洗濯を重ねても細かさを維持した(図6参照)。
(2)柔らかさ:未処理のサンプルは洗濯によって硬くなるように感じられたが、処理サンプルは洗濯を重ねても柔らかさを持続させている。洗濯回数10回から柔らかさに差が見られた(図7参照)。
(3)快適感:アミアートを処理したものは洗濯回数によらず快適な傾向を見せたが未処理サンプルは不快には至らないが、快適感が減少した。
(4)温かさ:洗濯10回以後は多少未処理群の暖かさが減少した傾向を見せているが両方の有意な差は見られなかった。
(5)肌なじみ:アミアート処理したサンプルは洗濯を重ねても肌なじみを保っていることに対して、未処理群は30回以後減少して50回以後には肌なじみが悪く感じられた(図8参照)。
(6)癒され感:未処理サンプルは洗濯によって癒され感が徐々に減ることに対して、アミアートを処理したサンプルは割りと癒され感を保っていた(図9参照)。
【0078】
<材料特性試験結果>
1.含水率(吸湿性)
アミアート処理布は、吸湿性にともなう含水率が未処理に比べて低い。アミアート処理布は洗濯回数が増えるにしたがって、含水率が高くなる。しかしながらアミアートの再処理によって低下した。未処理布は、洗濯回数にしたがって含水率が低下した。
【0079】
2.通気性
未処理布は、通気性が高く、洗濯回数10回以降、処理布との差が大きくなった。未処理布は洗濯回数にしたがって通気性が高くなった。これは洗濯によって糸が痩せ、糸密度が疎になったことが原因している。逆に、処理布は、洗濯回数にしたがって、通気性が低下した(図10参照)。糸痩せがなく、繊維がばらついて、編穴を覆う状態になったことが原因と考えられる。これらは、表面撮影画像からも確認できた。
【0080】
3.圧縮特性
(1)圧縮特性の線形性(LC)はアミアート処理布が未処理布に比べて高く、特に洗濯処理30回以降の試料で差がみられた。また両試料とも洗濯処理10回の試料で一番高い値がみられた。LCの大きさは圧縮長さが微小な際の生地の反発力を反映していることからパイルの座屈しにくさと関わりがあると考えられ、アミアート処理布はパイルを座屈しにくくする効果があると考えられる(図11参照)。
(2)圧縮仕事量(WC)はアミアート処理布が未処理布に比べて高く、圧縮してやわらかいという傾向にあった(図12参照)。
(3)圧縮レジリエンス(RC)はアミアート処理布が未処理布に比べて低く、反発性(反発戻り性)が低いという結果となった。また、洗濯処理30回以上の試料においてアミアート処理布と未処理布間に大きく差がみられたことから、アミアート処理布は洗濯を重ねても反発性が大きくならないという結果になった(図13参照)。
(4)圧縮された長さは、パイルの座屈した長さを表していると考え、計測値が小さいほどパイルが座屈した状態になっていると考えられる。アミアート処理布は未処理布に比べてパイルが座屈しにくいと考えられる。
【0081】
4.表面特性
(1)平均摩擦係数(MIU)はウェール方向においてアミアート処理したものが未処理のものに比べて計測値が大きくなった。洗濯回数10回で最も大きくなり、すべりにくいことが示された。アミアート処理がパイルを保持する役割をし、このタオル地が洗濯10回でパイルの特徴が最も引き出される状態になることが示唆される結果であった。コース方向では明確な差が無かった(図14参照)。
(2)表面あらさ(SMD)から、ウェ-ル方向において処理布の凹凸が小さい傾向にあった。洗濯回数にしたがって、凹凸が増す傾向になったが、アミアート再処理によって、凹凸が低下した。コース方向では試料間の差を示す傾向が得られなかった(図15参照)。
【0082】
5.接触冷温特性、吸水特性
(1)接触冷温特性では、アミアート処理布は未処理布に比べてq−maxが高く、ヒンヤリ感がある試料であることが示される結果となった(図16参照)。
(2)吸水性ではアミアート処理布が未処理布に比べて吸水性が低い結果となった。
【0083】
6.テクスチャー
Micro CCD scopeを用いて表面を観察した。
(1)未処理布では、原布と比べて洗濯処理30回行った試料がパイルの太さや数が洗濯によって細くなり、数が減っていた。
(2)アミアート処理を行ったものは洗濯50回行ったものでも原布とあまり変わりないことが観察された。このことから、アミアート処理布は洗濯によるパイルの磨耗や脱落を軽減する効果があると考えられる。
【0084】
<考察>
ストレス指標である瞬時心拍数の変化、心拍変動(CVRR)、自律神経活動、交感神経活動指標(LF/HF)と副交感神経活動指標(HF/(LF+HF))、末梢血流、呼吸深度、アミラーゼ活性を測定した結果、自律神経活動に支配されている(LF/HF)や(HF/(LF+HF))、末梢血流、アミラーゼ活性において、試料間の差が認められた。しかしながら瞬時心拍数や呼吸深度についての差はなかった。この結果から、未処理布が人体に接触する刺激は、心拍数などを変えるほどの大きなストレスではないが、身体に弱く加えられる興奮性ストレスであると考えられる。このストレスがアミアート処理によって軽減され、健康の観点から風合いの良い布の特性を持つ効果があると考えられる。
洗濯回数10回以降において、明確に風合いの違いが心理的にも生理的にも知覚されており、アミアート処理の風合い特性は、洗濯回数が多いほどはっきりと差が出ることが示された。
材料特性からアミアート再処理は、洗濯によって低下してきた風合いを回復すると考えられる。但し、心理反応からは、この回数が知覚できていない。しかし、生理反応では、ストレス反応の改善が確認できたことから、洗濯回数が多くなった段階で、再処理することが風合いを保持すると考えられる。
材料特性からアミアート処理布の吸湿、吸水特性が未処理布より悪い結果が得られたが、心理反応、生理反応から、この吸湿水特性の影響は測定されなかったことから、利用上問題にならないと思われる。
圧縮特性や表面特性の結果から、アミアート処理は、繊維を保護して、糸構造の劣化を防ぐ機能を持つことが推測された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、一般的な心電図波形を示す概略図である。
【図2】図2は、心電図からの生理指標(交感神経活動指標)を示す図である。
【図3】図3は、心電図からの生理指標(副感神経活動指標)を示す図である。
【図4】図4は、末梢血流測定値(安静時の測定値を基準とした相対値)を示す図である。
【図5】図5は、アミラーゼ活性測定値(安静時の値を基準とした相対値)を示す図である。
【図6】図6は、細かさの官能試験測定結果を示す図である。
【図7】図7は、柔らかさの官能試験測定結果を示す図である。
【図8】図8は、肌なじみの官能試験測定結果を示す図である。
【図9】図9は、癒され感の官能試験測定結果を示す図である。
【図10】図10は、通気性測定結果を示す図である。
【図11】図11は、圧縮特性測定結果(線形性)を示す図である。
【図12】図12は、圧縮特性測定結果(圧縮仕事量)を示す図である。
【図13】図13は、圧縮特性測定結果(圧縮レジリエンス)を示す図である。
【図14】図14は、表面特性測定結果(平均摩擦係数)を示す図である。
【図15】図15は、表面特性測定結果(表面あらさ)を示す図である。
【図16】図16は、接触冷温特性測定結果(q−max)を示す図である。
【図17】図17は、平均摩擦係数(MIU)を求める場合の、表面試験機に供して求めた移動距離と摩擦係数との関係を例示する図である。
【図18】図18は、表面あらさ(SMD)を求める場合の、表面試験機に供して求めた移動距離と布の厚さとの関係を例示する図である。
【図19】図19は、心電図を例示する図である。
【図20】図20は、手指先の末梢血流の測定結果を例示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、
前記繊維製品の初期熱流束最大値が所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
【請求項2】
繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、
前記繊維製品の圧縮特性の線形性および圧縮仕事量が、所定の圧縮特性の線形性および所定の圧縮仕事量よりも高く、かつ、
前記繊維製品の圧縮レジリエンスが所定の圧縮レジリエンスよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
【請求項3】
繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、
前記繊維製品の平均摩擦係数が、所定の平均摩擦係数よりも高く、かつ、
前記繊維製品の表面粗さが所定の表面粗さよりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
【請求項4】
繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、
前記繊維製品のJIS L 1018:1999に規定する通気性が、所定の通気性よりも低くなるように、前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、洗濯後繊維製品を得る、繊維製品の洗濯方法。
【請求項5】
前記洗濯後繊維製品が、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法。
【請求項6】
さらに、前記洗濯後繊維製品が、細かく、柔らかく、肌なじみよく、さらに癒され感がある洗濯後繊維製品である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法によって洗濯された繊維製品。
【請求項8】
SD法による官能試験を行って評価した細かさ、柔らかさ、肌なじみ感、および癒され感の各項目の評価が、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製品の洗濯方法における表面処理をしていない同じ繊維製品について、同様に前記官能試験を行って評価した同じ項目の評価と比較して、より細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、より癒され感があると評価される、アミノ酸誘導体含有繊維処理剤で表面処理した請求項7に記載の繊維製品。
【請求項9】
布、糸、織布、不織布およびリネンからなる群から選択される少なくとも一つを用いている請求項7または8に記載の繊維製品。
【請求項10】
前記繊維製品が、肌着、寝具、タオル、手拭い、靴下、マスク、ハンカチ、スカーフまたは小児繊維製品である、請求項7〜9のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項11】
サプライ業者が客から繊維製品を回収する回収工程と、
前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記繊維製品の初期熱流束最大値が、所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る洗濯工程と、
前記洗濯後繊維製品を前記客に供給する供給工程と
を具備し、
前記回収工程における前記繊維製品の回収、および前記供給工程における前記洗濯後繊維製品の供給を各々所定日時毎に行い、
前記回収工程における前記繊維製品の回収量、および/または前記洗濯工程における前記アミノ酸誘導体含有繊維処理剤の使用量に応じて課金する、繊維製品の供給方法。
【請求項12】
前記洗濯工程が、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯する前に、前記繊維製品の初期熱流束最大値を測定し、前記繊維製品を洗濯した後、または洗濯と同時に、前記初期熱流束最大値が、予め測定した所定の初期熱流束最大値よりも高くなるように、前記サプライ業者が前記繊維製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理し、交感神経活動測定試験を行った場合に測定される交感神経活動指標が1.0〜1.2となる洗濯後繊維製品を得る工程である、請求項11に記載の繊維製品の供給方法。
【請求項13】
人間の皮膚に接触し得る製品をアミノ酸誘導体含有繊維処理剤を用いて表面処理して、前記製品に、前記製品を皮膚に接触させた人間がより細かく、より柔らかく、より肌なじみよく、さらにより癒される感覚を感じる性質を付与する方法。
【請求項14】
前記人間の皮膚に接触し得る製品が、皮製品、金属製品またはパルプ製品である、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−223159(P2008−223159A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60333(P2007−60333)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り アミアートFの製品パンフレット、頒布日 平成18年9月27日(納品日 平成18年9月13日)、印刷所 株式会社大川印刷。 2006年繊維学会予稿集、2006年9月19日発行、社団法人繊維学会発行。 ホームページでの公開、2006年9月29日掲載、株式会社たまき公開。 ホームページでの公開、2006年10月3日掲載、株式会社たまき公開。
【出願人】(592004600)株式会社たまき (8)
【Fターム(参考)】