説明

繊維製品用張り付与剤組成物

【課題】洗濯乾燥後の繊維製品に張り性を与え、アイロン滑りも良好であり、かつ繰り返し洗濯による繊維の傷みや見た目、着心地の悪化を軽減できる繊維製品用張り付与剤組成物及び繊維製品の張り付与方法の提供。
【解決手段】平均繊維径が200nm以下で、カルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含有する繊維製品用張り付与剤組成物、並びにこの張り付与剤組成物を、洗濯乾燥後又は濯ぎ工程において繊維製品に付着させる、繊維製品の張り付与方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯乾燥後の繊維製品に対して、好ましい張り性を付与し、良好なアイロン滑りを与える繊維製品用張り付与剤組成物及び繊維製品の張り付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭で使用される代表的な繊維製品処理剤として、柔軟剤・糊剤がある。柔軟剤は衣料等の繊維製品を柔らかく、肌触り良く仕上げるものであり、糊剤は繊維製品に張り性を付与し、新品に近い感触を与えるものである。これらは、ユーザーの好みや、適用する繊維製品の種類や目的により、使い分けられてきたが、近年、糊剤よりも柔軟剤の仕上げ感の方が好まれる傾向にある。この理由は、従来の糊剤のバリバリ感、ごわつき等が敬遠される為と考えられる。
【0003】
一方、衣料の洗濯を繰り返すと、繊維の傷みによる襟や袖口の縮みが生じ、張りもなくなる為、見た目や着心地が悪くなる。このような衣料を、従来の柔軟剤や糊剤で処理すると衣料の形が崩れたり、本来の風合いが更に損なわれる事となり、快適な着用が困難になる。そのために糊剤特有のバリバリ感やごわつき感を回避しつつ、繰り返し洗濯による繊維の傷みを軽減し、形態保持性を維持できる繊維製品処理剤が求められている。
【0004】
そこで、この様な課題を解決する方法として、特許文献1,特許文献2,特許文献3には、加工澱粉等やセルロース誘導体等の水溶性高分子を、シリコーン化合物、非イオン性界面活性剤と併用する処理剤が開示されている。さらに、特許文献4には、張り剤成分として、融点が30℃以上の非イオン性界面活性剤を使用し、アミノ変性シリコーンを併用する処理剤も開示されている。しかし、これらの使用は、洗濯浴中での処理が必要となり、洗濯後の衣料に対して、簡便な処理を与えるものではない。
【0005】
一方、世の中では、アイロン処理用の糊剤スプレーが知られている。この剤を使用すると、必要な繊維に対してだけ、簡便な操作により張り性を与えることができる。しかし、処理された衣料を洗濯すると、剤は完全に洗い流されてしまうので、張り性は失われ、繰り返し洗濯後の、繊維の傷みや、見た目や着用地の外観の悪化を軽減させる事もできない。また、この様な目的で使用される糊剤スプレーには、アイロン使用時の操作性、すなわちアイロン滑りが良好である事も求められる。
【特許文献1】特開2000−129577号公報
【特許文献2】特開2000−129578号公報
【特許文献3】特開2000−239970号公報
【特許文献4】特開2006−176920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、洗濯乾燥後の繊維製品に張り性を与え、アイロン滑りも良好であり、かつ繰り返し洗濯による繊維の傷みや見た目、着心地の悪化を軽減できる繊維製品用張り付与剤組成物及び繊維製品の張り付与方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均繊維径が200nm以下で、カルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含有する繊維製品用張り付与剤組成物、並びにこの張り付与剤組成物を、洗濯乾燥後又は濯ぎ工程において繊維製品に付着させる、繊維製品の張り付与方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、洗濯乾燥後の繊維製品に張り性を与え、アイロン滑りも良好で、かつ洗濯後にも張り性付与効果を持続させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[セルロース繊維]
本発明に用いられるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。
【0010】
本発明に用いられるセルロース繊維は、それを構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであり、好ましくは0.4〜2.0mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載した測定方法により、求められるものである。なお、カルボキシル基含有量が0.1mmol/g以上である事により、後述の繊維の微細化処理後、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下となる。
【0011】
本発明に用いられるセルロース繊維は、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10〜5,000のものが好ましく、より好ましくは10〜2,000、更に好ましくは10〜1,000、更により好ましくは10〜500のものである。平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、実施例に記載した測定方法により、求められるものである。
【0012】
本発明に用いられるセルロース繊維としては、N−オキシル化合物を含む触媒の存在下、原料セルロース繊維を酸化及び微細化処理して得られるものが好ましく、更に水に分散されているセルロース繊維の水分散体が好ましい。このようなセルロース繊維は、例えば、次の工程(i)〜(iii)を含む方法により製造することができる。
【0013】
工程(i):原料セルロース繊維からスラリーを得る工程
本工程では、原料となるセルロース繊維を含む成形体(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理してからスラリーにする。ここでいう、絶対乾燥基準とは20℃、50%RHの環境下で自然乾燥したセルロース繊維の水分率をハロゲン水分計にて測定したものから絶対乾燥セルロース繊維量を算出するものである。
【0014】
原料となるセルロース繊維を含む成形体としては、木材パルプ、非木材パルプ、再生セルロース、バクテリアセルロース、コットン等を含むシートを挙げることができる。成形体の大きさや形状は特に制限されないが、厚さは、好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.03〜3mm、さらに好ましくは0.05〜1mmの範囲から選択することができ、シート状の成形体が好ましい。
【0015】
工程(ii):工程(i)で得られたスラリーを酸化処理する工程
本工程では、工程(i)で得られたスラリーを、N−オキシル化合物を含む酸化触媒液を用いて、酸化処理する。N−オキシル化合物を含む酸化触媒液としては、N−オキシル化合物、他の酸化剤及びハロゲン化物を含む溶液又は懸濁液を使用する。
【0016】
N−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等を用いることができる。N−オキシル化合物の使用量は、原料セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して、約0.1〜30質量%となる範囲が好ましい。また、酸化触媒液中のN−オキシル化合物の濃度は0.001〜30質量%の範囲が好ましい。
【0017】
本工程に用いられる他の酸化剤としては、ハロゲンや、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等を挙げることができ、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。他の酸化剤の使用量は、原料セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜50質量%となる範囲が好ましい。
【0018】
本工程に用いられるハロゲン化物としては、臭化物又はヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属等を挙げることができ、臭化ナトリウムが好ましい。ハロゲン化物の使用量は、原料セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲が好ましい。また、酸化触媒液中のハロゲン化物の濃度は0.01〜30質量%の範囲が好ましい。
【0019】
酸化触媒液の溶媒としては水を使用することが好ましく、酸化触媒液の表面張力を低下させ、原料セルロース繊維に浸透させやすくする観点から、メタノール、エタノール等のアルコール、各種の界面活性剤を含有させることができる。アルコールは反応性の観点から2級以上のアルコールが好ましい。1級アルコールを使用すると、酸化触媒液と1級アルコール自身が反応する場合があるからである。
【0020】
酸化触媒液の溶媒として、水とエタノール等の有機溶媒の混合物を使用する場合、有機溶媒の含有量は5〜80質量%が好ましく10〜60質量%がより好ましく、20〜50質量%が更に好ましい。
【0021】
酸化触媒液のpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲であることが好ましい。酸化処理の温度(前記スラリーの温度)と時間は、1〜50℃で、1〜300分間が好ましい。酸化処理においては、原料セルロース繊維と酸化触媒液を機械的操作で接触させることが好ましい。本発明でいう機械的操作とは、攪拌等により、原料セルロース繊維又は酸化触媒液に機械的な運動を与えることを意味する。
【0022】
そして、使用した触媒等を水洗等により除去し、必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の中間体を得ることができる。
【0023】
工程(iii):工程(ii)で得られた繊維状や粉末状の中間体を微細化処理する工程
本工程では、工程(ii)で得られた中間体を水等の溶媒中に分散し、微細化処理を行う。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いて所望の繊維幅や長さに調整することができる。
【0024】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に好ましくは平均アスペクト比が10〜5,000であるセルロース繊維を得ることができる。
【0025】
その後、必要に応じて水洗等して、懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、繊維状であり、粒を意味するものではない)のセルロース繊維を得ることができる。
【0026】
なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位が選択的にカルボキシル基に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gのセルロースからなる平均繊維径が200nm以下の微細化されたセルロース繊維を得ることができる。そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径や平均繊維長等を制御することができる。また、前記セルロース繊維は、上記カルボキシル基を有することから繊維間の静電反発力が強くなるため、セルロース繊維の水分散液の分散性は良好である。ここでの分散性が良好であるというのは、平均繊維径200nm以下の微細化されたセルロース繊維が分散液中で凝集、沈降を起こしにくいことをいう。分散性は、水分散液の目視観察によって確認される。
【0027】
未処理のセルロース繊維水分散体は、セルロース繊維の凝集体が分散している状態であり、目視観察において凝集物、沈殿物が確認される。一方、本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下の微細構造体であり、該構造体が凝集することなく、水中で均一に分散するため、目視観察において凝集物、沈殿物は確認されない。
【0028】
[張り付与剤組成物]
本発明の張り付与剤組成物は、平均繊維径が200nm以下で、カルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含有するものであり、本発明の張り付与剤組成物中の、本発明に係わるセルロース繊維の含有量は、0.01〜10.0質量%が好ましく、0.1〜5質量%が更に好ましい。
【0029】
本発明の張り付与剤組成物は、本発明に係わるセルロース繊維以外の残部は水とする事が好ましい。
【0030】
本発明の張り付与剤組成物中には、張りを付与する効果を発現する事が一般的に知られている化合物として、例えばジメチルポリシロキサン、アミノ基やポリエーテル基で置換された変性シリコーン等のシリコーン化合物等を、性能を高める目的で使用する事も可能である。
【0031】
本発明の張り付与剤組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、多価アルコール、各種溶剤、ゲル化剤、塩や硫酸ナトリウム等の塩類、酸化防止剤、防腐剤、殺菌剤、抗菌剤、香料、色素、紫外線吸収剤等の、他成分を添加する事ができる。溶剤としては、エタノール、イソプロパーノール等の低級アルコール類(炭素数2〜4)、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類(炭素数2〜12)、エチレングリコールやプロピレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、フェノール性のエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、セルロース繊維を安定に配合する目的や、セルロース繊維を繊維製品上に均一に付着させる為に、非イオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤等を含有していても良い。
【0032】
本発明の張り付与剤組成物の25℃におけるpHは、2〜10が好ましく、5〜8が更に好ましい。この範囲では、セルロース繊維の分散状態が安定している。
本発明の張り付与剤組成物のpHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。
【0033】
本発明の張り付与剤組成物の形態は、液状、ゲル状や、粉状、粒状等の固体状のいずれの形態でも良い。
【0034】
[張り付与方法]
本発明の繊維製品の張り付与方法は、本発明の張り付与剤組成物を、濯ぎ工程における最終濯ぎ前、あるいは洗濯乾燥後の繊維製品に対して付着させる方法である。
【0035】
本発明の張り付与剤組成物が、液状の場合には、浸漬処理、スプレー処理、塗布処理等により繊維製品に処理が施される。浸漬処理の場合には、水で希釈して、例えば、洗濯槽や洗面器、タライ等の繊維製品を浸せきできる容器に水を満たし、当剤希釈物に繊維製品を浸漬させて処理することができる。スプレー処理の場合には、ミストタイプのスプレー容器に充填し、1回の噴霧量を0.1〜1.0mLに調整したものが好ましい。使用するスプレー容器としては、トリガースプレー容器(直圧あるいは蓄圧型)やディスペンサータイプのポンプスプレー容器等があげられ、公知スプレー容器を用いることができる。特にスプレーとして繊維製品に用いることが、好ましい。
【0036】
本発明の張り付与剤組成物は、上記方法により洗濯乾燥後の繊維製品に張りを発現させることができるが、続いて、一般に知られているアイロンやズボンプレッサー等のプレス機を用いて加熱処理を与えても良い。この様な操作を加える事により、繊維製品のシワを軽減し、賦形性および形態安定性を発現する事ができる。本発明の張り付与剤組成物をアイロン使用時に処理すると、アイロンと衣類の間に生じる摩擦を低減するので、スムーズなアイロン滑りを発現する上で有効である。アイロン使用時の設定温度は、繊維素材に適した温度で行うが、好ましくは、120〜220℃、特に好ましくは、140〜200℃である。アイロンがけの時間は、好ましくは繊維製品100cm2あたり、1〜90秒間、特に好ましくは、2〜60秒間である。また、スプレー処理と加熱処理の間に、自然乾燥の時間が任意に加わってもよく、それにより本発明の目的を達せる妨げにはならない。さらに、本発明の張り付与剤組成物を、洗濯乾燥後の各種衣料繊維に処理する事により、繊維製品に適度な張りを与える事ができる。この様に処理された繊維は、繰り返し洗濯しても、セルロース繊維が残留し易い為、適度な張り性を維持する事ができる。この事から、繊維の傷みや見た目、着心地の悪化を軽減する事ができる。
【実施例】
【0037】
例中の%は特に記載しない限り、質量%である。また、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比、カルボキシル基含有量は下記の方法で算出した。
【0038】
(1)平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比
原子間力顕微鏡(Veeco Dimension 3100 Tapping mode)によって撮影されたセルロース繊維の直径が確認できる画像において、50点以上抽出し、繊維径及び繊維長を測定し、平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を算出した。
【0039】
(2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
絶対乾燥パルプ約0.5gを100mLビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて0.83%パルプ懸濁液とし、パルプが十分に分散するまでスターラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
【0040】
製造例1
セルロース繊維原料として、針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)を用いた。
【0041】
まず、上記針葉樹の漂白クラフトパルプ3gを297gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量3gに対し、TEMPO(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)1.25%、次亜塩素酸ナトリウム(製造会社:和光純薬工業(株)、Cl:5%)14.2%、臭化ナトリウム(製造会社:和光純薬工業(株))12.5%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムにて滴下を行い、pHを10.5、温度20℃に保持し、酸化反応を60分間行い、酸化パルプを得た。
【0042】
次に、酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理後、23℃の雰囲気下で自然乾燥した。その後、酸化パルプ0.75gとイオン交換水99.25gをミキサー(SM−KM36、サンヨー(株)製)にて10分間攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、半透明の懸濁液を得た。
【0043】
得られたセルロース繊維水分散液中の酸化パルプ量(固形分濃度)は、0.75%であった(酸化パルプ0.75g/イオン交換水99.25g)。また、セルロース繊維は、平均繊維径:4.12nm、平均繊維長:614nm、平均アスペクト比:149、カルボキシル基含有量0.92mmol/gであった。
【0044】
上記酸化反応後に微細化処理を行った本発明のセルロース繊維水分散液と、酸化反応を行わず、同様の微細化処理を行った比較のセルロース繊維の同濃度水分散液について目視観察を行った。酸化反応を行った本発明のセルロース繊維水分散液は、凝集物、沈殿物なく、均一な外観であった。一方、未酸化反応セルロース繊維水分散液は、綿状の凝集物が確認された。
実施例1〜4及び比較例1〜6
本発明の張り付与剤として、製造例1で得られた本発明のセルロース繊維水分散液を、また、比較の張り付与剤として、カルボキシメチルセルロース(日本製紙(株)製、サンローズF30MC、粘度250mPa・s、置換度0.75)及び市販の糊剤(花王(株)製キーピング糊、並びに花王(株)製キーピングスムーザー)を用い、木綿ブロード布について、下記方法で張り性及びアイロンの滑り性を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
<張り性及びアイロンの滑り性の評価方法>
(1) 評価用衣料の調整
評価用衣料として、木綿ブロード布((株)色染社、綿 ブロード 未シル、仕上げ幅90cm)を用い、この木綿ブロード布を2槽式洗濯機(東芝銀河VH−360S1)で3回繰り返し洗濯(洗剤濃度0.0667%、水道水(20℃)36L使用、洗濯10分−脱水3分−泡がなくなるまで濯ぎ(流水濯ぎ水量15L/min))を行ない、自然乾燥させた。
【0046】
(2) 衣料への処理
0.25%の本発明のセルロース繊維水分散液を、市販の手動式スプレー容器(花王(株)製リセッシュの容器を、中身を抜いて繰り返し水で洗浄して、乾燥させたもの)に充填し、(1)で調整した評価用木綿ブロード布(25cm×15cm)に対し、全体に均一に処理される様に、表1に示すように処理濃度を変えて、スプレーにより処理を行った。表1記載の処理濃度は、セルロース繊維水分散液の有効分濃度としている。処理された布は、恒温室(20℃、40%RH)で12時間吊り干しを行い、自然乾燥した。一方、比較として、0.25%カルボキシメチルセルロース水溶液及び市販糊剤を用いて、同様の方法で処理し、自然乾燥した。
【0047】
(3) 張り性の評価
(2)で処理し、自然乾燥した本発明及び比較の試験布について、自動純曲げ試験機KES−FB2−AUTO−A(カトーテック株式会社)を用いて、張り性を測定した(測定条件:SENS2×1、サンプル幅10cm、最大曲率2.5 1/cm)。同一処理布に対する測定はN=3とした。これを処理後の張り性という。
【0048】
また、処理布の使用後の再洗濯による型くずれ度合いを想定した評価を行う為に、簡易型の洗濯機(松下製ミニ洗濯機NA−35)を用いて濯ぎ操作を与えた(水量4L,時間5分、水道水(20℃))。濯ぎ操作を与えた試験布は、脱水後に自然乾燥を行った。この乾燥後の試験布についても同様に張り性を測定した。これを濯ぎ後の張り性という。
【0049】
洗濯仕上がり衣料の張り性としては、0.05gf・cm2/cm以上であれば、適度な張りを与え、着用時の感触も良好である。
【0050】
(4) アイロン滑り性評価
(2)で処理し、自然乾燥した本発明及び比較の試験布について、アイロンがけを行った(アイロン温度:木綿設定)。アイロンがけの際の、アイロンの動きのスムーズさ、ひっかかり感の無さを、下記の評価基準で官能評価した。なお、試験液をスプレーせずに水で濡れた状態の布を評価した際の状態は△であった。
【0051】
評価基準
○: アイロンがスムーズに動き、ひっかかり感が無い。
△: アイロンがスムーズに動き難く、ややひっかかり感がある。
×: アイロンがスムーズに動き難く、ひっかかり感が強い。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示す結果より、本発明の張り付与剤組成物を洗濯後に処理した布は、張り性とアイロン滑り性が良好であり、更に、使用した後の再洗浄後の型くずれを想定した、濯ぎ後においても良好な張り性を示すことが解る。尚、比較品により処理した布では、洗濯後の処理の後、濯ぎを行う事によって張り性は著しく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が200nm以下で、カルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含有する繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項2】
セルロース繊維の平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10〜5,000である、請求項1記載の繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項3】
セルロース繊維が、N−オキシル化合物を含む触媒の存在下、原料セルロース繊維を酸化及び微細化処理して得られたものである、請求項1又は2記載の繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項4】
セルロース繊維が、水に分散されている、請求項1〜3いずれかに記載の繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項5】
洗濯乾燥後の繊維製品に対して処理する時に用いられる組成物である、請求項1〜4いずれかに記載の繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項6】
濯ぎ工程において、繊維製品に対して処理する時に用いられる組成物である、請求項1〜4いずれかに記載の繊維製品用張り付与剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の張り付与剤組成物を、洗濯乾燥後又は濯ぎ工程において繊維製品に付着させる、繊維製品の張り付与方法。

【公開番号】特開2009−242991(P2009−242991A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90863(P2008−90863)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】