説明

繊維複合樹脂成形体

【課題】 表面が平滑であり、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ココナッツ繊維を分散した状態で樹脂に含有する繊維複合樹脂成形体である。そのココナッツ繊維は、椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維であって、繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に繊維を含有する繊維複合樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
椰子殻は、椰子の実(ココナッツ)からジュース、果肉および油脂などを採取した後に残る繊維状の残渣である。椰子殻は、多孔質であり、有害物質の吸着性能および調湿性能などに優れた効果を示し、さらに生活環境に適合する素材として注目されている。しかしながら、椰子殻は、太くて硬い繊維からなり、多くは乾燥して燃料にされており、産地の周辺では放置されているものも多い。燃料以外には、たとえば、この太くて硬いという性質を活かしてマットおよびほうきなどに利用されている。
【0003】
近年、地球環境の保全、特に廃棄物処理対策などから、椰子殻を構成する繊維などの天然繊維の利用が注目されている。天然繊維は、細菌およびバクテリアなどの微生物の作用で水と二酸化炭素とに分解する生分解性などの高い環境適合性を有するものが多く、種々の商品開発への利用が盛んに試みられており、天然繊維を樹脂に含有する繊維複合樹脂成形体も注目されている。
【0004】
このような繊維複合樹脂成形体の典型的な従来技術は、たとえば、特許文献1に記載されている。特許文献1の繊維複合樹脂品は、第1の繊維と第1の熱可塑性樹脂との複合材料の基体層、この基体層上の第2の繊維と第2の熱可塑性樹脂との複合材料の表面層を有し、第2の繊維の繊維径が第1の繊維の繊維径よりも小さい。または第2の繊維が第1の繊維よりも柔軟な性質を有する繊維である。
【0005】
他の繊維複合樹脂成形体の従来技術は、たとえば、特許文献2に記載されている。特許文献2には、植物資源由来の樹脂100重量部に対して、天然由来の有機充填剤1〜35重量部を配合してなる樹脂組成物が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−284246号公報
【特許文献2】特開2005−8712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によると、繊維複合樹脂品は、基体層に含まれる比較的太くて硬い繊維によって充分な強度を得て、表面層に含まれる比較的細くて柔らかい繊維によって、平滑な表面を得ることができる。特許文献2によると、植物資源由来の樹脂に、所定量の紙粉または木粉などの天然由来の有機充填剤を配合することによって、植物資源由来の樹脂製の自動車部品が得られる。しかしながら、天然繊維を樹脂に単に含有させただけでは、繊維が表面に露出することになり、表面が平滑にはならず、繊維を樹脂に含有させることによる機能性が充分に発揮されない。
【0008】
本発明の目的は、表面が平滑であり、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ココナッツ繊維を分散した状態で樹脂に含有することを特徴とする繊維複合樹脂成形体である。
【0010】
また本発明は、前記ココナッツ繊維は、椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維であって、
繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上であることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記ココナッツ繊維は、繊維複合樹脂成形体の3重量%以上60重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記樹脂は、生分解性樹脂であることを特徴とする。
また本発明は、前記樹脂は、ポリ乳酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ココナッツ繊維を分散した状態で樹脂に含有する繊維複合樹脂成形体である。ココナッツ繊維は、多孔質な繊維であり、比重が低いので、樹脂に含有させることによって、軽量な繊維複合樹脂成形体が得られる。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が分散した状態で樹脂に含有されているので、表面にココナッツ繊維の露出による凹凸が形成されず、表面が平滑である。さらに、ココナッツ繊維が分散して含有させることによる機能性、たとえば、変形しにくい、熱伝導性および消臭性が高いなどの機能性が発揮される。
【0014】
また、生分解性繊維であるココナッツ繊維を樹脂に含有させているので、環境適合性が高く、樹脂として生分解性樹脂を用いた場合、得られた繊維複合樹脂成形体は生分解性が発揮される。したがって、軽量で、表面が平滑であり、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0015】
また本発明によれば、ココナッツ繊維は、椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維であって、繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上である。
【0016】
ココナッツ繊維は、多孔質な椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維であるので、多孔質な繊維である。また、繊維径が150μm以下のココナッツ繊維は、細くて柔らかいので、このようなココナッツ繊維を樹脂に含有させると、樹脂に分散しやすい。このようなココナッツ繊維を、全ココナッツ繊維の70重量%以上になるように樹脂に含有させると、ココナッツ繊維が充分に分散された状態で樹脂に含有されるので、表面がより平滑であり、より変形しにくい。さらに、ココナッツ繊維が分散して含有させることによる機能性がより発揮される樹脂複合繊維成形体が得られる。
【0017】
また本発明によれば、ココナッツ繊維は、繊維複合樹脂成形体の3重量%以上60重量%以下である。そうすることによって、表面がより平滑な樹脂成形体であって、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0018】
また本発明によれば、樹脂は、生分解性樹脂である。そうすることによって、生分解性を有する繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0019】
また本発明は、樹脂は、ポリ乳酸である。ポリ乳酸は、生分解性樹脂であるので、生分解性を有する繊維複合樹脂成形体が得られる。さらに、ポリ乳酸は、石油を原料とせずに製造される樹脂であるので、環境によく、このような生分解性を有する繊維複合樹脂成形体に用いる樹脂として特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、樹脂にココナッツ繊維を分散した状態で含有する繊維複合樹脂成形体であり、たとえば、車の内装品およびバンパーなどの自動車用部品、携帯電話機の筺体などの電化製品用部品などに使用することができる。樹脂にココナッツ繊維を分散した状態とは、ココナッツ繊維が、樹脂全体にほぼ均一に存在している状態である。
【0021】
図1は、本発明で用いられるココナッツ繊維の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図であり、図2は、ココナッツ繊維の表面のSEM写真を示す図である。ココナッツ繊維は、図1に示すように、断面に多数の開口が形成されており、筒状セル構造が集合した集合体である。また、ココナッツ繊維は、図2に示すように、表面に多数の開口が形成されており、細かい凹凸が形成されている。したがって、ココナッツ繊維は、多孔質な繊維であり、比重が低いことがわかる。したがって、ココナッツ繊維は、多孔質な繊維であり、比重が低く、丈夫な繊維であることがわかる。このようなココナッツ繊維を樹脂に含有させることによって、ココナッツ繊維の筒状セル構造の中空を維持した繊維複合樹脂成形体が得られる。したがって、比重が低くて軽量であり、かつ変形しにくい繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0022】
この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が分散した状態で樹脂に含有されているので、表面にココナッツ繊維の露出による凹凸が形成されず、表面が平滑である。また、ホットプレス法などで樹脂成形体を製造することが困難なポリ乳酸のような樹脂に、ココナッツ繊維を含有させることで、樹脂成形体を製造することができる。したがって、ココナッツ繊維を含有させることで、樹脂成形体の成形性を高めることができる。
【0023】
また、この繊維複合樹脂成形体は、樹脂にココナッツ繊維を分散した状態で含有されており、樹脂とココナッツ繊維とが分離されていないので、ココナッツ繊維によって樹脂が変形しにくくなる。また、ココナッツ繊維は、筒状セル構造が集合した集合体であるので丈夫な繊維であり、ココナッツ繊維を樹脂に含有させても、その筒状セル構造の中空に樹脂が埋まらない。したがって、この繊維複合樹脂成形体は、比重が低く軽量であり、かつ変形しにくい。また、この繊維複合樹脂成形体は、樹脂とココナッツ繊維とが分離されていないので、ココナッツ繊維が、充填剤として有効に作用し、熱伝導性が高くなる。
【0024】
ココナッツ繊維は、図1および図2に示すように、ココナッツ繊維の断面および表面に開口が形成されているので、優れた消臭性を発現し、消臭剤として利用できる。この消臭性を示すココナッツ繊維を分散した状態で含有しているので、消臭剤として有効に作用し、高い消臭性を発揮することができる。
【0025】
また、生分解性繊維であるココナッツ繊維を樹脂に含有させているので、環境適合性が高く、樹脂として生分解性樹脂を用いた場合、得られた繊維複合樹脂成形体は生分解性が発揮される。
【0026】
以上より、この繊維複合樹脂成形体は、軽量で、表面が平滑であり、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0027】
また、繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維を樹脂に分散した状態で含有されていればよく、樹脂に含有されているココナッツ繊維は、ココナッツ繊維同士が係着した状態で存在してもよいし、係着せずに存在していてもよい。また、ココナッツ繊維は、一定の方向に配向して存在してもよいし、一定の方向に配向されずに存在していてもよい。ココナッツ繊維同士が係着した状態で存在すると、ココナッツ繊維によって樹脂がより変形しにくくなるので、より好ましい。また、一定の方向に配向し、ココナッツ繊維同士が係着すると、ココナッツ繊維が、一定の方向に連続して存在することになり、充填剤として有効に作用し、熱伝導性がより高くなるので、より好ましい。
【0028】
ココナッツ繊維は、椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維である。所定の処理とは、椰子殻をアルカリ処理または蒸煮法などによって軟化させ、軟化した椰子殻をあらかじめほぐして細かく分解したものを解繊機にかけて繊維を取り出す処理である。解繊機は、表面に針の付いたシリンダを回転させて解繊する解繊機などを使用する。
【0029】
ココナッツ繊維は、繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上である。繊維径150μm以下の繊維は、細くて柔らかいので、樹脂に分散した状態で含有させることが容易であるのに対して、繊維径が150μmより大きい繊維は、太くて硬いので、樹脂に繊維を分散した状態で含有させにくい。したがって、繊維径150μm以下のココナッツ繊維が好ましいが、すべてのココナッツ繊維が繊維径150μm以下である必要はなく、繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上であればよい。繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%未満であると、繊維径が150μmより大きいココナッツ繊維が多くなり、樹脂にココナッツ繊維を分散した状態で含有させにくくなる。繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上であると、樹脂に繊維を分散した状態で含有させることができ、表面が平滑であり、変形しにくく、種々の機能性が付与された所望の繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0030】
また、ココナッツ繊維は、繊維複合樹脂成形体の3重量%以上60重量%以下が好ましい。3重量%より少ないと、繊維を樹脂に含有させることによる機能性が充分に発揮されず、60重量%より多いと、樹脂に繊維を分散した状態で含有させにくくなり、表面の平滑性などが損なわれる。したがって、繊維複合樹脂成形体の3重量%以上60重量%以下とすることで、表面が平滑であり、変形しにくく、種々の機能性が付与された繊維複合樹脂成形体が得られる。
【0031】
また、椰子殻は、バリおよびジャワなどのインドネシア、スリランカ、タイ産の椰子殻などが好ましく用いられ、ジャワ産の椰子殻が、特に好ましく使用される。
【0032】
樹脂は、繊維複合樹脂成形体の使用目的に応じて種々の樹脂を使用することができる。たとえば、繊維強化プラスチック(FRP)に一般的に用いられるエポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂などの樹脂を用いることできる。本発明で用いられる樹脂としては、生分解性樹脂を用いることが好ましい。生分解性を有する繊維複合樹脂成形体が得られ、環境に優しい。
【0033】
生分解性樹脂としては、生分解性を有していればよく、公知の生分解性樹脂を用いることができる。たとえば、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、コラーニング、ケラチン、天然ゴム、ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレートに生分解性を付与するように分子設計されたポリエステル樹脂などが挙げられ、その中でも、ポリ乳酸が特に好ましい。ポリ乳酸は、生分解性を有するだけではなく、ココナッツ繊維との親和性が高く、得られた繊維複合樹脂成形体の変形しにくさなどが好ましい。さらに、ポリ乳酸は、石油を原料とせずに製造される樹脂であるので、環境によく、このような生分解性を有する繊維複合樹脂成形体に用いる樹脂として特に好ましい。ポリエチレンテレフタレートに生分解性を付与するように分子設計されたポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートを含む共重合体が挙げられ、たとえば、ポリブチレンアジペート/テレフタレート[エコフレックス(登録商標)、BASFジャパン社製]、バイオマックス(登録商標、デュポン社製)などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示すが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
[樹脂成形体の製造例]
以下に使用するココナッツ繊維は、繊維径150μm以下の繊維が、全ココナッツ繊維の75重量%であり、繊維長は10mm〜60mmの分布を有するココナッツ繊維を使用した。
【0035】
(実施例1)
20mm×20mm×20mmの空間(8.0cm)を作る金型の下型にココナッツ繊維0.4gを充填し、次にエポキシ樹脂を注型して、空隙をエポキシ樹脂で満たし、上型を取り付けて、120℃で1.5時間加熱硬化を行い、脱型してアフターキュアを150℃で2時間行って、繊維複合樹脂成形体を製造した。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の4.4重量%である。
【0036】
(実施例2)
ココナッツ繊維が0.6gであること以外、実施例1と同様である。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の6.6重量%である。
【0037】
(実施例3)
ココナッツ繊維が1.0gであること以外、実施例1と同様である。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の11.1重量%である。
【0038】
(実施例4)
ココナッツ繊維が1.2gであること以外、実施例1と同様である。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の13.8重量%である。
【0039】
(実施例5)
ポリ乳酸4gにココナッツ繊維4gを加え、ホットプレス法で繊維複合樹脂成形体を製造した。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の50重量%である。
【0040】
(実施例6)
20.4cmの金型を用い、ココナッツ繊維が3.2gであること以外、実施例1と同様である。この繊維複合樹脂成形体は、ココナッツ繊維が、繊維複合樹脂成形体の14.1重量%である。
【0041】
(比較例1)
エポキシ樹脂のみを用いて、注型法で樹脂成形体を製造した。
【0042】
(比較例2)
ポリ乳酸のみを用いて、ホットプレス法で樹脂成形体を製造した。
【0043】
[評価方法]
上記の製造方法によって得られた樹脂成形体を、次のようにして、比重測定、引張試験評価および熱伝導度測定を行った。
【0044】
(比重測定)
実施例1〜5および比較例1,2について、比重を測定した。
【0045】
比重は、測定器として、電子比重計(ミラージュトレーディング株式会社製、EW−120SG)を用い、JIS K7112に準拠の水中置換法で測定した。実施例5および比較例2は、水の代わりにエタノールを用いて測定した。実施例1〜5および比較例1は、試験片として、20mm×20mm×20mmのものを用い、比較例2は、ポリ乳酸のみでは成形性が悪く、20mm×20mm×20mmの試験片を製造できなかったので、50mm×50mm×0.2mmのものを用いた。
表1は、比重(g/cm)の結果を示したものである。
【0046】
【表1】

【0047】
表1からわかるように、ココナッツ繊維が含有されている繊維複合樹脂成形体(実施例1〜5)は、ココナッツ繊維が含有されていない樹脂成形体(比較例1,2)より比重が小さいことがわかった。このことから、ココナッツ繊維を含有することで、軽量な樹脂成形体が得られることがわかった。さらに、ココナッツ繊維の含有量が多いほど、比重が小さいことがわかった。
【0048】
(引張試験評価)
実施例5,6および比較例1について、引張試験を行った。
【0049】
引張試験は、測定器として、コンピュータ計測制御式精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフ AG−25TD)を用い、JIS K7113に準拠の方法で測定した。試験片の形状として、1号試験片を用い、試験(引張)速度1.0mm/分で測定した。ひずみゲージをつけて試験を行い、弾性率を測定し、比重と弾性率とから比弾性率を計算した。
【0050】
表2は、引張試験の結果を示したものである。なお、比重は、上記比重測定と同様の測定方法で測定した結果である。
【0051】
【表2】

【0052】
表2からわかるように、ココナッツ繊維が含有されている繊維複合樹脂成形体(実施例5,6)は、ココナッツ繊維が含有されていない樹脂成形体(比較例1)より比重が小さく、かつ比弾性率が大きくなった。このことから、繊維複合樹脂成形体は、軽量であり、かつ変形しにくいことがわかった。
【0053】
図3は、実施例6である繊維複合樹脂成形体を用いて引張試験を行った後の破断面のSEM写真を示す図である。図4は、実施例5である繊維複合樹脂成形体を用いて引張試験を行った後の破断面のSEM写真を示す図である。
【0054】
図3および図4に示すように、繊維複合樹脂成形体(実施例5および実施例6)は、ココナッツ繊維の筒状セル構造の中空に樹脂が埋まっていない。したがって、ココナッツ繊維が含有されている繊維複合樹脂成形体(実施例5,6)は、比重が低くて軽量であり、かつ変形しにくい繊維複合樹脂成形体である。
【0055】
(熱伝導度試験)
実施例4,5および比較例1について、熱伝導度試験を行った。
【0056】
熱伝導度試験は、測定装置として、精密迅速熱物性測定装置(カトーテック製、KES−FB7 サーモラボII型)を用い、熱損失速度W(w)を測定した。測定条件として、試験片の厚みの規定値が3mm、5mmのものを用い、接触面積Aが25cm、熱板温度Tが37℃、循環水温度T0が20℃として測定した。室温20℃、相対湿度65%Rhで測定した。試験片の厚みDは、マイクロメータ(株式会社ミツモト製小型厚み計)で測定した。
熱伝導度K(w/cm・℃)は、下記式に基づいて算出した。
【0057】
【数1】

【0058】
表3は、熱伝導度試験の結果を示したものである。
【表3】

【0059】
表3からわかるように、ココナッツ繊維が含有されている繊維複合樹脂成形体(実施例4,5)は、ココナッツ繊維が含有されていない樹脂成形体(比較例1)より熱伝導度Kが高く、熱が伝わりやすいことがわかった。
【0060】
繊維複合樹脂成形体を、電界シールド材料として利用した検討例について説明する。
ココナッツ繊維38.71gをステンレス容器に入れ、直径1mmの穴を開けたふたをステンレス容器に取り付けた。これをマッフル炉によって昇温温度5℃/分で800℃まで昇温し、800℃で2時間蒸し焼きを行った。その後、室温まで自然放冷を行った。収率26.2%でココナッツ繊維炭が得られた。
【0061】
120mm×120mm×2mmの大きさになるように製造する以外、実施例5と同様にして、得られた繊維複合樹脂成形体を用いた。この繊維複合樹脂成形体に、前記ココナッツ繊維炭3.0gを均等に分散させ、ホットプレス法によって、ココナッツ繊維炭9.4重量%含有する繊維繊維複合樹脂成形体を製造した。
【0062】
この繊維繊維複合樹脂成形体の1MHz〜1GHzの電磁波に対する電界シールド効果を、KEC法によって測定した。KEC法とは、KEC(関西電子振興センター)の開発した電界シールド効果を測定する方法である。測定条件は、温度24℃、相対湿度30%、気圧1004hPaである。測定結果は、表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4からわかるように、この繊維複合樹脂成形体は、高い電界シールド効果を示すことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明で用いられるココナッツ繊維の断面のSEM写真を示す図である。
【図2】ココナッツ繊維の表面のSEM写真を示す図である。
【図3】実施例6である繊維複合樹脂成形体を用いて引張試験を行った後の破断面のSEM写真を示す図である。
【図4】実施例5である繊維複合樹脂成形体を用いて引張試験を行った後の破断面のSEM写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココナッツ繊維を分散した状態で樹脂に含有することを特徴とする繊維複合樹脂成形体。
【請求項2】
前記ココナッツ繊維は、椰子殼に所定の処理を施すことによって生成される繊維であって、
繊維径150μm以下のココナッツ繊維が、全ココナッツ繊維の70重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の繊維複合樹脂成形体。
【請求項3】
前記ココナッツ繊維は、繊維複合樹脂成形体の3重量%以上60重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の繊維複合樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂は、生分解性樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維複合樹脂成形体。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の繊維複合樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−261210(P2007−261210A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92447(P2006−92447)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】