説明

繊維集合体

【目的】 天然繊維とほぼ同程度の自然でかつ良好な伸縮性、弾性回復性を有し、嵩高性、膨らみ、はり、腰のある外観と触感の良好な軽量立毛布帛の立毛部を形成する繊維集合体を提供する。
【構成】 5〜200個/インチの捩じれ数、0.05〜0.80の異形度を有するポリエステル系単繊維からなる集合体であって、該繊維間の空隙率が15〜60%である繊維集合体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は伸縮性に富んだ繊維集合体に関する。また該繊維集合体を立毛部とする立毛布帛は、柔らかな触感、深みのある色調を有し、軽量で耐久性に優れている。
【0002】
【従来の技術】カットパイル、モケット、ダブルラッセル、ベロア、ベルベット等の立毛布帛は多様な外観および風合を有し、カ−シ−ト、カ−ペット、植毛布等のインテリア;人工スエ−ド;衣服など幅広い分野に用途がある。しかし、立毛部がポリエステル系繊維からなる立毛布帛はアクリル、ナイロン、レ−ヨン、綿、羊毛等に比較して肌触りが硬く、光沢、艶等の外観が著しく劣っている。また、ポリエステル系繊維は繊維側面と繊維断面との屈折率の差が大きいため、立毛部の毛倒れやスパイラル状の捲縮が生じれば、光の反射や透過の度合い、光沢感が異なって、筋斑やフィンガ−マ−ク、黒ずみ、白ボケ等の光沢差、色差が生じ易い。さらに、膨らみ、弾力性、はり、腰等の風合においてもポリエステル系繊維は天然繊維と比較して大きく劣っている。
【0003】天然繊維を立毛部に用いてなる立毛布帛の有する優れた特性、例えばはり、腰、膨らみ、弾力性などの風合、黒ズミ、白ボケのなさをポリエステル系繊維を立毛部に用いてなる立毛布帛に付与するために従来から各種の方法が提案されている。例えば、比較的高収縮性のポリマ−と低収縮性のポリマ−とがサイドバイサイド型で結合した二葉型複合繊維として糸に捩じれを発生させることが特開昭59−59920号公報、特開平3−287810号公報に提案されている。しかしながら、サイドバイサイド型で結合した二葉型複合繊維に発現する捩じれはスパイラル状になり、毛先がカ−ルし、繊維側面が立毛布帛の表面に出るため、光が乱反射し、白っぽい筋斑が生じる。また偏平断面のサイドバイサイド型で結合した二葉型複合繊維は筋斑が生じることはないが、毛倒れ、色の深み等の点で満足することができない。
【0004】さらに立毛布帛における光沢差、色差を減少せしめ、筋斑やハンドマ−ク、黒ずみ、白ボケ等を軽減させるために、高屈折率の無機微粒子を鞘部にのみ含有させた芯鞘型複合繊維(特開平1−306648号公報)、繊維側面に微細な凹凸を形成させた芯鞘型複合先細繊維(特開昭4−214412号公報)が提案されている。しかしながら、前者の複合繊維を立毛部に用いた立毛織編物は、繊維断面が丸断面であり、また立毛が直毛性であるため光沢差、色差の減少は見られても、伸縮性、膨らみ等の風合の点で不十分であり、また、後者の複合繊維を立毛部に用いた立毛織編物は凹凸条件によって、その凹部の部分が割れる、所謂フィブリル化減少が問題となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、天然繊維とほぼ同程度の自然でかつ良好な伸縮性、弾性回復性を有し、嵩高性、膨らみ、はり、腰のある外観と触感の良好な軽量立毛布帛の立毛部を形成する繊維集合体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、5〜200個/インチの捩じれ数、0.05〜0.80の異形度を有するポリエステル系単繊維からなる集合体であって、該繊維間の空隙率が15〜60%である繊維集合体である。
【0007】上記ポリエステル系単繊維は5〜200個/インチ、好ましくは10〜100個/インチの捩じれ数を有することが必要である。捩じれ数が5個未満の場合、該繊維からなる集束体を立毛とした織編物は膨らみに欠け、風合が悪化する。一方、捩じれ数が200個を越えると、繊維が大きく収縮し、該繊維を立毛部に用いてなる立毛織編物にしたとき、膨らみ、伸縮性はあるものの、腰がなくなり、立毛部が倒れたり、立毛部全体が硬くなって風合の点で満足できるものではない。
【0008】また、本発明におけるポリエステル系単繊維はその断面形状において、異形度が0.05〜0.80、好ましくは0.10〜0.60であることが必要である。異形度とは、下記式で表される値である。
【0009】異形度=R/L図1に示すように、繊維断面においてLは隣あう先端部A、Bを結ぶ線の長さABであり、Rは該隣あう先端部の中間に位置する窪みDから隣り合う先端部A、Bを結ぶ線への垂線の長さCDである。
【0010】異形度が0.05未満の場合、繊維断面形状の凹凸変化が小さくなり、光沢をまろやかにすることができない。また、該繊維を立毛部に用いた立毛織編物は、立毛部が倒れる等立毛性が不良となり、膨らみや繊維密度が不足したものとなる。一方、異形度が0.80を越えると、凹凸変化が大きくなる、すなわち、くびれ部があまり深く形成されていると、繊維の製造事態が難しくなるばかりでなく、そのような繊維は撚工程等の加工工程で損傷を受けやすくフィブリル化の問題が生ずる。なお、本発明における異形度は、紡糸原糸、延伸糸で変化することはない。
【0011】上記のような異形度を有する繊維の断面形状として、例えば図2に示すものが挙げられる。図2に示される(イ)〜(チ)は、繊維軸方向にのびる熱可塑性ポリマ−Aよりなる中心部1と、該中心部1を取り囲んで中心部に連結して設けた繊維軸方向に伸びる3個以上の突出部2とからなる複合繊維である。また、図2の(イ)〜(チ)では突出部2の数は3〜5個となっているが、突出部の数は上記異形度を満足するものであればよく、図2のものに限定されない。図2には2成分以上からなる複合繊維が示されているが、本発明においては、複合繊維である必要はなく、単一ポリマ−からなる繊維であってもよい。
【0012】図2に示される複合繊維は、繊維軸方向に伸びる中心部と、該中心部を取り囲んで中心部に連結して設けた繊維軸方向に伸びる3個以上の突出分とからなる多葉断面を有する繊維である。これらの繊維として、たとえば該中心部が、熱収縮応力が0.3g/デニ−ル以上および熱収縮率が15%以上である熱可塑性ポリマ−Aより構成され、かつ各突出部の少なくとも一部は熱可塑性ポリマ−Aより熱収縮率の小さい熱可塑性ポリマ−Bより構成されている複合繊維を挙げることができる。本発明においては、上記の捩じれ数、異形度を満足する繊維であればよく、繊維を構成するポリマ−に何等限定されるものではなく、また上述したように、複合繊維の他に単一ポリマ−からなる繊維であってもよい。以下、上記熱可塑性ポリマ−AおよびBを用いた複合繊維について詳述する。
【0013】熱可塑性ポリマ−Aとしては、熱収縮応力が0.3g/デニ−ル以上および熱収縮率が15%以上である繊維形成性の熱可塑性ポリマ−のいずれもが使用できるが、とくに熱収縮応力が0.3g/デニ−ル以上および熱収縮率が15%以上であるポリエステルが好ましい。かかるポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸などから選択された1種以上のジカルボン酸成分と、エチレングリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル等の脂肪族ジオ−ル、ビスフェノ−ルAまたはビスフェノ−ルSのエチレンオキサイド付加ジオ−ル等の芳香族ジオ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル等の脂環族ジオ−ルなどのジオ−ル成分、必要に応じてp−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸成分を用いて形成されたポリエステルを挙げることができる。同じポリエステルであっても、固有粘度、共重合成分の種類や割合などを調節することによって、その熱収縮応力や熱収縮率を増減させることができる。この熱可塑性ポリマ−Aを用いた複合繊維を立毛部とした立毛織編物の風合が硬くなるのを防止するためには、該ポリマ−Aの熱収縮応力が0.3〜0.7g/デニ−ル、熱収縮率が15〜50%の範囲であることが好ましい。
【0014】熱可塑性ポリマ−Bとしては、熱収縮率が熱可塑性ポリマ−Aよりも小さい繊維形成性の熱可塑性ポリマ−であればいずれのものも使用できる。たとえば熱可塑性ポリマ−Aよりも熱収縮率の小さいナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリプロピレンテレフタレ−ト、またはそれらの5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合させたものからなるポリエステルなどを挙げることができる。熱可塑性ポリマ−Bは熱可塑性ポリマ−Aよりも熱収縮率が小さければ、その熱収縮応力は熱可塑性ポリマ−Aと同等であっても、または熱可塑性ポリマ−Aよりも大きくてもよい。また、熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bとは同種のポリマ−であっても異種のポリマ−であってもよい。
【0015】熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bは、紡糸、延伸、後加工、立毛織編工程等の工程時に両者が剥離せず複合形態を維持し得るように、相溶性、貼合わせ接合性等の特性が良好なものを選択して組み合わせることが好ましい。立毛織編物に適度な伸縮性、膨らみを付与するためには、両成分の熱収縮率の差が5〜25%の範囲にあることが好ましい。該差がこの範囲外の場合、立毛織編物の風合が劣る場合がある。
【0016】上記熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bとの複合割合は、重量で20/80〜80/20であることが好ましい。図2に見られる多葉断面繊維において、熱可塑性ポリマ−Aは中心部を構成し、熱可塑性ポリマ−Bは突出部の少なくとも一部を構成していることが好ましいが、少なくとも突出部の先端部分が熱可塑性ポリマ−Bから構成されているようにすることが本発明で規定した捩じれ数を有するうえで好ましい。上述したように本発明に係わる繊維は単一ポリマ−から構成されていてもよく、これら熱可塑性ポリマ−Aまたは熱可塑性ポリマ−Bを単独で用いることができる。その場合、適性な紡糸・延伸条件を採用することにより、目標の性能を有する繊維集合体が得られる。
【0017】上記の複合繊維は熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bとを溶融複合紡糸した後、好ましくは延伸(延伸・熱固定)および熱処理を施して製造することができる。その場合、1000〜4000m/分の通常の紡糸速度で紡糸し、冷却後、必要に応じて給油しながら巻き取った後、適正な温度で延伸、熱処理を行なう方法を採用しても、高速紡糸法を採用して紡糸と同時に延伸された繊維を製造してそれに熱処理を施す方法を採用しても、または紡糸した後そのまま直接延伸、熱処理を施す紡糸直結延伸法を採用してもよい。いずれの場合も熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bとの溶融粘度の差が極端に大きいと、紡糸口金でニ−イングが生じ易くなり、紡糸工程性が低下する場合があるので、適当な粘度差を有する両方のポリマ−を選択することが好ましい。
【0018】また、複合繊維の延伸工程において採用する延伸温度および熱固定温度は、複合繊維およびそれを立毛部とする立毛織編物の伸縮性、膨らみ等に直接影響を及ぼすことの多い因子であるので、延伸処理を施すに際しては、延伸温度、熱固定温度について十分注意を払うことが必要である。とくに、熱可塑性ポリマ−Aと熱可塑性ポリマ−Bのうち、ガラス転移温度(Tg)の高いポリマ−のTg以上の温度で延伸を行なうことが、工程性、立毛織編物の出来上がり、品質の点から好ましい。また、延伸時にかける張力は複合繊維に捩じれを発現させるうえで低い方が好ましい。
【0019】さらに、延伸後に行なう熱処理は、延伸処理と連続して行なってもまたは延伸処理と切り離して独立した工程として行なってもよい。熱処理は繊維または1000〜3000デニ−ル程度に合糸した後に行なってもよく、立毛織編物に仕上げる時、その後の染色時、仕上げ加工時のいずれの時に行なってもよい。
【0020】熱収縮率の異なる熱可塑性ポリマ−Aおよび熱可塑性ポリマ−Bとからなる複合繊維は、図2(イ)〜(チ)に見られるように、繊維断面形状において断面の中心に熱収縮率の大きい熱可塑性ポリマ−Aが位置し、その周囲に熱収縮率の小さい熱可塑性ポリマ−Bが位置するため、中心部の熱可塑性ポリマ−Aは単に収縮するのみであり、周囲の熱可塑性ポリマ−Bは中心部の熱可塑性ポリマ−Aとの熱収縮率差のためにフリル状の捩じれを発現し、一本の繊維の周囲に数本のフリルが存する状態の繊維となる。かかる複合繊維の熱収縮率は10〜40%の範囲であることが好ましい。熱収縮率が10%未満の場合、捩じれが発現せず、立毛織編物に膨らみがないことがあり、一方熱収縮率が40%を越える場合、立毛織編物が収縮し、立毛性と柔軟性が失われ、外観や風合が悪くなることがあり好ましくない。
【0021】このような形態の繊維の束は空隙率が15〜60%の範囲にある。該空隙率が15%未満の場合、該繊維束を立毛とする立毛織編物は軽量化、ソフトの点から従来の合成繊維立毛織物となんら変わらず、一方、空隙率が60%を越えると織編物の軽量化は期待できるものの、弾力性、耐久性に欠け、ソフト感、しなやかさ等の風合の点においても不十分なものとなる。
【0022】このような繊維を立毛とした立毛織編物は、立毛部が毛倒れ、斜向したり、波打ったりせず、細デニ−ル、低密度であっても嵩高であり、腰、張りがあるにもかかわらず、柔らかでしなやかなである。また、毛先が直立しているために、光が繊維間全体にわたって均一に吸収され、立毛織編物として筋斑のない、深みのある色合のものが得られる。さらに、直毛性、耐久性も各段に優れている。
【0023】立毛を有する織編物とは、モケット、ダブルラッセル、ベロア、ベルベット、カットパイル等のグランド糸(地糸)とパイル糸(立毛糸)とで構成された織編物のことでカ−シ−ト、カ−ペット、植毛布などのインテリア、人工スエ−ド、衣服等に幅広く使用されている。本発明の繊維集合体を立毛製品に使用する場合、立毛長は10mm以下、立毛密度は7×10↑3〜8×10↑6本/cm↑2の範囲が好適である。また該立毛製品の立毛部は該繊維集合体のみで構成されている必要はなく、一部分に使用されていてもよい。
【0024】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれにより何等限定されるものではない。なお、実施例における各物性は以下の方法により測定した。
【0025】(1)ポリマ−の固有粘度〔η〕
フェノ−ル/テトラクロロエタン(重量比1:1)の混合溶媒中にポリマ−を溶解して30℃で測定した時の値である。
【0026】(2)熱可塑性ポリマ−Aの熱収縮応力熱可塑性ポリマ−Aを単独で用いて、各実施例における複合繊維の製造と同じ装置を用いて同じ条件下で、同じ断面形状、寸法、太さを有する異形断面繊維を紡糸・延伸し、得られた延伸糸を10cm採取し、両端を結んでル−プ状にする。これをオ−トグラフ(島津製作所製「AG−2000A型」)を用いて、0.5g/デニ−ルの荷重下に室温から1℃/分の速度で昇温させながら乾熱処理を施して、その時の最大収縮応力(g)を読取り、糸の総繊度で除して、単繊度当たりの熱収縮応力(g/デニ−ル)を求めた。
【0027】(3)熱可塑性ポリマ−の熱収縮率(%)
熱可塑性ポリマ−を単独で用いて、各実施例における複合繊維の製造と同じ装置を用いて同じ条件下で、同じ断面形状、寸法、太さを有する異形断面繊維を紡糸・延伸し、得られた延伸糸を50cm採取する。採取した延伸糸の一端に100mg/デニ−ルの荷重を負荷してその時の延伸糸の長さL↓0(cm)を測定する。ついで、その延伸糸への負荷荷重を1mg/デニ−ルに変えて、これを沸騰水中に20分間浸漬した後、取り出して風乾させる。延伸糸への負荷荷重を100mg/デニ−ルに取り替えて、その時の延伸糸の長さL↓1(cm)を測定し、下記数式により熱収縮率を求めた。
【0028】熱収縮率(%)={(L↓0−L↓1)/L↓0}×100
【0029】(4)複合繊維の熱収縮率(%)
各実施例で得られた複合繊維の延伸糸を採取し、上記熱可塑性ポリマ−の熱収縮率の測定と同様にして、100mg/デニ−ルに荷重を負荷した時の延伸糸の長さL↓0(cm)、および延伸糸への負荷荷重を1mg/デニ−ルに変えて、これを沸騰水中に20分間浸漬した後、取り出して風乾させ、延伸糸への負荷荷重を100mg/デニ−ルに取り替えた時の延伸糸の長さL↓1(cm)を測定し、上記数式により求めた。
【0030】(5)複合繊維の捩じれ数(個/インチ)
各実施例で得られた複合繊維の延伸糸の束をかせ状にして沸騰水中に30分間浸漬し、ついで熱処理、風乾を施し、その単糸の捲縮状態がほぼそのまま保持されるようにして、長さ方向に1本ずつスライドグラスに張り付け、長さ1インチ間の捩れ数を肉眼で数えた。その際、繊維の長さ方向に沿って、その左右への突出部が交錯している点を1個として数える。
【0031】(6)複合繊維の断面形状下記に示した4段階の評価基準により得られた複合繊維の断面形状の良否を評価した。
◎:形が良く、複合形態および形状に斑がない。
○:複合形態および形状にやや斑があるが、問題ない。
△:形状がやや悪く、バラツキを生じている。
×:形状が悪く、複合形態、繊度における斑が大きい。
【0032】(7)繊維集合体の空隙率(%)
ヤ−ンを3本引き揃え2500T/Mの下撚をかけ、それを3本合糸しS400T/Mの上撚をかけた撚糸をミクロト−ムで切った繊維断面の光学顕微鏡写真を撮影した。該写真を拡大し、繊維と空隙部に切り分け、その重量比で空隙率を求めた。
空隙(%)=(空隙部重量)×100/(繊維重量部+空隙部重量)
【0033】(8)繊維の異形度繊維断面の光学顕微鏡写真を撮影し、上記の方法により測定、算出した。
【0034】(9)立毛部の状態下記に示した3段階の評価基準により立毛部の状態を評価した。
◎:直毛性が良好であり、適度な柔軟性と腰および耐久性を有する。
○:直毛性、筋斑は合格レベルではあるが、柔軟性、耐久性にやや劣る。
×:毛先が曲り、筋斑があり、粗硬で不良である。
【0035】(10)立毛織編物の色彩下記に示した3段階の評価基準により立毛織編物の色彩を評価した。
◎:均一で深みがあり、しっとりとした落ち着いた良好な色合である。
○:色の均一性、深みの点において合格レベルである。
×:色斑があり、白ボケ、黒ズミが見られ、外観が劣っている。
【0036】実施例1熱可塑性ポリマ−Aとして〔η〕=1.1で、熱収縮応力が0.35g/デニ−ルおよび熱収縮率が20%のポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)を用い、熱可塑性ポリマ−Bとして〔η〕=0.68で、熱収縮率が7%のポリエチレンテレフタレ−ト(PET)を用いて、PBT:PET=1:1(重量比)の割合で紡糸装置に供給して紡糸し、1000m/分の引取り速度で巻き取って、200デニ−ル/36フィラメントの断面形状が図2R>2(イ)のような三枝形複合繊維(紡糸原糸)を得た。異形度は0.10であった。上記で得た紡糸原糸を2本あわせ温度75℃の加熱ロ−ラ、温度120℃のプレ−トを用いて延伸(延伸・熱固定)して150デニ−ル/72フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸の捩じれ数、繊維集合体の空隙率を測定したところ、32個/インチ、33%であった。この糸を立毛部とし、長さ3mmのダブルラッセル編物を作成し、熱セット、染色、仕上げ加工を行なった。
【0037】この立毛編物の立毛部の先端を顕微鏡で観察したところ、毛先は直立していた。立毛編物の手触りは柔らかく、膨らみがあるにもかかわらず腰があった。また外観は濃色で深みのある落ち着いた色合を持っており、軽量性に優れていた。
【0038】実施例2熱可塑性ポリマ−Aとして、〔η〕=0.76で、熱収縮応力が0.35g/デニ−ルおよび熱収縮率が18.0%のイソフタル酸を8モル%共重合したPETを用いた以外は実施例1と同様にして紡糸し、図2(ロ)のような四枝形複合繊維(紡糸原糸)を得た。異形度は0.32であった。この紡糸原糸を実施例1と同様にして処理を施して延伸糸を得た、該延伸糸の捩じれ数および繊維集束体の空隙率を表2に示す。この糸を立毛部とし、長さ3mmのダブルラッセル編物を作成し、熱セット、染色、仕上げ加工を行なった。この立毛編物の立毛部の先端を顕微鏡で観察したところ、毛先は直立していた。立毛編物の手触りは柔らかく、膨らみがあるにもかかわらず腰があった。また外観は濃色で深みのある落ち着いた色合を持っており、軽量性に優れていた。
【0039】実施例3熱可塑性ポリマ−Aとして〔η〕=0.82で、熱収縮応力が0.47g/デニ−ルおよび熱収縮率が35%のイソフタル酸を12モル%共重合したPETを用いた以外は実施例1と同様にして紡糸し、図2(ロ)の断面形状の複合繊維(紡糸原糸)を得た。異形度は0.30であった。ついで延伸し、延伸糸の捩じれ数、繊維集合体の空隙率を表2に示す。この糸を立毛部とし、長さ3mmのダブルラッセル編物を作成し、熱セット、染色、仕上げ加工を行なった。この立毛編物の立毛部の先端を顕微鏡で観察したところ、毛先は直立していた。立毛編物の手触りは柔らかく、膨らみがあるにもかかわらず腰があった。また外観は濃色で深みのある落ち着いた色合を持っており、軽量性に優れていた。
【0040】実施例4〜7表に示すポリマ−を用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸し、延伸糸を得た。繊維の異形度、延伸糸の捩じれ数、繊維集合体の空隙率を表2に示す。これらの糸を、立毛部とし、長さ3mmのダブルラッセル編物を作成し、熱セット、染色、仕上げ加工を行なった。これらの立毛編物の立毛部の先端を顕微鏡で観察したところ、毛先は直立していた。立毛編物の手触りは柔らかく、膨らみがあるにもかかわらず腰があった。また外観は濃色で深みのある落ち着いた色合を持っており、軽量性に優れていた。
【0041】実施例8〔η〕=0.75、熱収縮率15%のPETのみを用いて紡糸し、図2(ロ)の断面形状の繊維(紡糸原糸)を得た。温度75℃の加熱ロ−ラ、温度110℃のプレ−トを用いて、切断延伸率の75%の延伸率で延伸(延伸・熱固定)した。延伸糸の捩じれ数は25個/インチであった。この糸を用いて実施例1と同様にして立毛編物を作成し、立毛部の先端を顕微鏡で観察したところ、毛先は直立していた。立毛編物の手触りは柔らかく、膨らみがあるにもかかわらず腰があった。また外観は濃色で深みのある落ち着いた色合を持っており、軽量性に優れていた。
【0042】比較例1〜3〔η〕=0.68、熱収縮応力0.2g/デニ−ル、熱収縮率7%のPETのみ(比較例1)、〔η〕=0.55、熱収縮率5%のPETのみ(比較例2)、〔η〕=0.70、熱収縮応力0.23g/デニ−ル、熱収縮率9%のポリブチレンテレフタレ−トのみ(比較例3)を用い、実施例1と同じ条件で紡糸して、図2(ロ)の断面形状の繊維(紡糸原糸)を得た。ついで、延伸した。それぞれの繊維の異形度、延伸糸の捩じれ数、繊維集合体の空隙率を表2に示すこれらの糸を用いて、実施例1と同様の立毛編物を作成したが、立毛部の腰がなく、色彩の深みが不足しており、商品価値の低いものであった。比較例2で得られた立毛編物は、該編物を構成する繊維の捩じれ数が3個/インチであり、異形度も0.02であり、編み目の隙間が目立っていた。また、比較例3で得られた立毛編物は、該編物を構成する繊維断面形状が不良で、かつ異形度も低く、軽量性の点で非常に劣っていた。
【0043】比較例4表に示すポリマ−を用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸し、図2(ロ)の断面形状を有する延伸糸を得た。繊維の異形度、延伸糸の捩じれ数、繊維集合体の空隙率を表2に示す。繊維断面形状はやや不良であった。この延伸糸を用いて実施例1と同様の立毛編物を作成したところ、該立毛編物を構成する繊維の捩じれ数が多すぎるために、立毛部が収縮してしまい、硬く、ゴワゴワした触感のものであった。また外観、色彩も斑が多く、筋が見られ、品質不良であった。
【0044】比較例5表に示すポリマ−を用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸し、図3の断面形状を有する延伸糸を得た。繊維断面形状は良好であったが、異形度が0.04と低いものであった。この延伸糸を用いて実施例1と同様の立毛編物を作成したところ、該立毛編物を構成する繊維の捩じれ数は本発明の範囲内であったが、繊維の異形度が小さいため立毛編物としての膨らみに欠け、外観、色彩も不良であり、品質不良であった。
【0045】比較例6イソフタル酸を8モル%共重合したPETのみを用いて丸断面の糸を1000m/分の速度で紡糸した。得られた紡糸原糸を延伸し、該延伸糸を用いて立毛編物を作成したが、まったく特徴がなくポリエステルライクの非常に見劣りのするものであった。
【0046】
【表1】


【0047】
【表2】


【0048】
【発明の効果】本発明の繊維集合体を立毛部とする立毛織編物は、直毛性、膨らみ、柔軟性、耐久性を有し、深みのある色彩を有する。さらに本発明の繊維集合体は適度の空隙を有するため、立毛織編物の軽量化にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の繊維集合体を構成する繊維の異形度を示す図である。
【図2】本発明の繊維集合体を構成する繊維の断面構造の例を示す図であって、図2(イ)〜(チ)はいずれもその一態様である。
【図3】比較例として示す繊維断面構造である。
【符号の説明】
A:熱可塑性ポリマ−A
B:熱可塑性ポリマ−B
1:中心部
2:突出部
3:連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】5〜200個/インチの捩じれ数、0.05〜0.80の異形度を有するポリエステル系単繊維からなる集合体であって、該繊維間の空隙率が15〜60%である繊維集合体。
【請求項2】ポリエステル系単繊維が、熱収縮率の異なる2種類以上のポリマ−からなることを特徴とする繊維集合体。
【請求項3】繊維集合体が立毛部を形成してなる立毛布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平7−70860
【公開日】平成7年(1995)3月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−219803
【出願日】平成5年(1993)9月3日
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)