説明

繋留された平面脂質層中での膜タンパク質の、無細胞系の生体外での転写及び翻訳

本発明は、合成膜に組み入れられた膜タンパク質を有する合成膜、及び特に、繋留された平面脂質層中への膜タンパク質の無細胞系生体外転写及び翻訳に関する。特に、本発明は、かかる膜の新しい製造方法を提供する。該膜は、例えば膜受容体/リガンドの相互作用の研究に使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み入れられた膜タンパクを有する膜、特に合成膜、及び特に、膜中への、例えば繋留された(tether)平面脂質層中への膜タンパク質の無細胞系生体外転写及び翻訳に関する。特に、本発明は、かかる膜の新しい製造方法を提供する。例えば、該膜は、膜受容体/リガンドの相互作用の研究のために使用されることができる。
【0002】
膜受容体/リガンドの相互作用の詳細な研究は、細胞膜を伴う複雑な生物学的経路を理解するための前提条件である。かかる研究を行うために、効率的及び再現性のある生体外での分析系が、該受容体が天然の環境に関係している可能性のある、他の相互作用からの単離における特異的な受容体/リガンド結合相互作用を特徴付けるために必要とされる。
【0003】
従って、生物学的な膜のためのモデル系、例えばリポソーム、平面脂質黒膜(BLMs)、及び固体支持膜、例えば固体支持脂質二重層、並びに繋留された脂質二重層が開発されてきた。繋留された脂質膜(tBLMs)は、支持体に共有的に繋留された、親水性のスペーサー基、例えばペプチド、ポリエチレングリコール又は糖基を有する固体支持脂質薄膜である。かかるモデル膜系中に膜タンパク質を組み入れるために、今までのところ、膜タンパク質の単離及び膜系中への再構成が必要である。従って、例えば、固体支持に対するリン脂質単層の形成、及び次にアセチルコリン受容体(AChR)を含有する脂質小胞にこの単層をさらすことは、二重脂質膜中にアセチルコリン受容体の組み入れを導き、その際、二重脂質膜の第二層は、脂質小胞中に含まれる脂質から形成される(E.K.Schmidt et al.、Biosensors and Bioelectronics 13(1998)585−591)。R.Naumann et al.(Biosensors and Bioelectronics 14 (1999) 651−662は、機能活性形でペプチド繋留された脂質膜中にシトクロムcオキシダーゼを組み入れることを記載している。ホスファチジルコリンを含有するリポソームは、チオペプチド−脂質単層上に広がり、ペプチド繋留された脂質膜二重膜を形成する。そしてこの膜は、単離されたシトクロムcオキシダーゼでインキュベートされる。
【0004】
同様の研究方法は、人工平面脂質膜(E.K.Sinner、Analytical Biochemistry 333 (2004) 216−224)中のインテグリンの組み入れに関して報告されていた。この研究方法において、インテグリンは、脂質機能化ペプチド層中に小胞拡散によって組み入れられた。また、この手法では、膜タンパク質含有小胞が、最初に製造されなければならず、膜タンパク質の製造及び単離を要求した。
【0005】
今まで使用されていた製造方法の場合における問題は、膜タンパク質が最初に単離されなければならなかったことである。該タンパク質の天然活性は、しばしばそれらによって失われた。さらに、膜中への組み入れは、例えば小胞拡散の場合において、しばしば無作為に実施されたが、しかし管理されなかった。このことは、適切ではない試験系をもたらし、該試験系において膜との、及び膜中でのタンパク質との相互作用及びの方向付け、並びにリガンドとの相互作用に対するタンパク質の影響を、調査することができなかった。
【0006】
従って、膜中に組み入れられた膜タンパク質を有する膜の改良された製造方法、特に該膜タンパク質を最初に単離する必要のない方法を提供することが、本発明の目的であった。
【0007】
本発明によると、この目的は、
(i)膜の提供、
(ii)該膜に無細胞発現系及び膜タンパク質を符号化する核酸の適用、並びに
(iii)該膜中に組み入れられた、膜タンパク質の発現
の工程を含む、膜中に組み入れられた膜タンパク質の製造方法によって達成される。
【0008】
本発明の方法は、膜タンパク質が最初に単離されることなく、膜中に、特に合成膜中に天然機能形で膜タンパク質を組み込むことを可能にする。さらに、本発明の方法を実行する場合に、無細胞発現系で発現させたタンパク質が、管理された形で膜中に組み込まれることが驚くべきことに発見された。従って、本発明によると、機能活性タンパク質は、事前の単離を要求せずに膜中で得られることができる。さらに、無細胞発現系の使用によって、例えばタンパク質を分解するプロテアーゼが、該系中に存在しないために、本発明に従って製造された膜は、高い安定性を有する。
【0009】
膜の存在下での無細胞発現系による膜タンパク質の発現によって、この膜が小胞体の準代替物として作用することが、推定される。無細胞発現系は、水性の系において可溶性タンパク質を発現するために使用されており、それによって、多くの場合において天然の活性タンパク質ではなく変性させたタンパク質が、例えば封入体の形で得られる。驚くべきことに、膜、有利には、合成膜の存在下でのかかる無細胞発現系におけるタンパク質の発現によって、タンパク質が、膜中に組み入れられ、そしてさらに、機能的な形でその中に存在することが見出された。合成膜中への組み入れは、さらに驚くものでさえあって、それは、自然に生じる膜中で又は天然の起源の膜中でまだ存在する、膜タンパク質のための組み入れ機構は、合成膜中では存在することができないからである。例えば、天然源から派生した膜を含むミクロソーム調製物は、膜タンパク質のための組み入れ機構を有しうる。しかしながら、驚くべきことに、膜タンパク質の機能的な組み入れは、もはやかかる機構を有さない合成膜でも、非常に良く達成されることできることが、発明者によって現在見出されている。
【0010】
使用される膜は、表面に結合された膜であることができる。平面膜を使用することも好ましい。特に、繋留された膜が好ましい。
【0011】
本発明の特に好ましい一実施態様によると、最初に、合成膜が提供される。該合成膜は、有利には、平面膜であり、かつ/又は小胞−複合体構造を有する。とりわけ有利には、それは担体上に適用された繋留された膜である。
【0012】
膜の繋留は、例えばペプチドアンカー、PEGアンカー、糖アンカー、シランアンカー、シラン/チオールアンカー又はポリマーアンカーによって、有利にはペプチドアンカーによって実施されることができる。表面への膜の結合又は繋留は、有利には、親水性のスペーサー分子を使用して行われる。
【0013】
好適な担体表面は、例えば、金属又は金属酸化物、有利には金又はシリカ表面である。金表面の場合において、膜は、金表面に、有利にはAu−S相互作用によって結合される。該表面は、誘電性又は非誘電性であることができる。一実施態様において、半導体表面が使用される。
【0014】
特定の好ましい一実施態様において、ペプチドは、脂質膜を繋留するための親水性スペーサー分子として使用される。有利には、好適なペプチドスペーサー分子は、3〜100、有利には4〜30、特に5〜25、及びさらにより有利には15〜20個のアミノ酸の長さを有する。さらに、その選択された配列は、1末端にシステイン残基を有する。金表面を使用する場合に、単分子のペプチド層が、好適な末端のN−システイン残基の強い金−硫黄相互作用によって生じた自己構築によって得ることができる。α−ラミニンのサブユニットから派生させた19個のペプチドCSRARKQAASIKVAVSADR(P19)は、特に有用であることが判明した。
【0015】
有利には、本発明に従って使用した膜は、合成膜、すなわち天然源ではない膜である。このことは、実際にモデル系がそれらによって得られるために有利であり、その際、特異的に所望された特性を分析することができ、かつ天然の膜の成分によって生じてよい他の可能な相互作用は除外される。従って、本発明に従って使用された膜は、有利には、合成により製造された脂質、特にリン脂質からなる。しかしながら、天然の膜又は天然の膜の断片、例えばミクロソームを使用することも、可能である。特に有利には、該膜は、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)及び/又はホスファチジルコリンを含む。
【0016】
繋留分子、例えばペプチドに対する最初の脂質層の結合は、有利には共有結合である。ペプチドが繋留分子として使用される場合に、結合は、例えば、リン脂質分子、例えばジミリストイルホスファチジルエタノールアミンの一次アミノ残基にペプチドのカルボキシ末端を介してペプチドを共有的に連結することによって得られることができる。該結合は、公知の結合化学によって、例えばEDC(N−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)及びNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)を使用した活性エステル結合法によって行われることができる。そして第二脂質層は、その系に追加の脂質層を付加することによって、例えば小胞融合によって形成される。
【0017】
本発明に従った膜中に組み入れられる膜タンパク質は、あらゆる膜タンパク質であることができる。例えば、G−タンパク質共役受容体、例えば匂い受容体、ロドプシン受容体、特にウシロドプシン受容体、ロドプシンフェロモン受容体、ペプチドホルモン受容体、味覚受容体、GABA受容体、アヘン剤受容体、セロトニン受容体、Ca2+受容体、メラノプシン、神経伝達物質受容体、リガンド作動性、電位作動性又は機械作動性、例えばアセチルコリン(ACh)、ニコチン、アドレナリン、ノルエピネフリン、カテコールアミン、L−ドーパ、ドーパミン及びセロトニン−生体アミン、エンドルフィン/エンケファリン−神経ペプチド受容体、キナーゼ、例えばセリン/トレオニンキナーゼ、細胞質チロシンキナーゼ、受容体チロシンキナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、不活性キナーゼ、ポリン/チャネル、例えば塩素チャネル、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、OMPタンパク質、ABC輸送体(ATP−結合−カセット(ATP−Binding−Cassette)−輸送体)、例えばアミノ酸輸送体、Na−グルコース輸送体、Na+/ヨウ化物輸送体、イオン輸送体、例えば集光性複合体、シトクロムcオキシダーゼ、ATPアーゼNa/K、H/K、Ca、細胞接着受容体、例えばメタロプロテアーゼ、インテグリン、カテリン(catherin)である。
【0018】
その系の続く検査及び研究のために、膜タンパク質を、有利にはタグと結合させる。該タグは、有利にはタグに特異的な抗体を結合させるエピトープから選択される。好適なタグは、例えばVSV(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)、Hisタグ、Strepタグ、Flagタグ、インテインタグ又はGSTタグである。しかしながら、膜タンパク質の直接定量を可能にする、高親和力結合対の相手、例えばビオチンもしくはアビジン、又は標識、例えば酵素標識もしくは蛍光標識を膜タンパク質に結合することもできる。
【0019】
そして、該タグは、膜タンパク質に、検出可能な基、例えば蛍光基を結合させるために使用されることができる。膜の、並びに特に膜タンパク質の存在及び活性の検査は、例えば、表面プラズモン共鳴分光法又は表面プラズモン増強蛍光分光法(SPFS)によって実施されることができる。それらの方法は、脂質膜の構築及び組み入れられた膜タンパク質の結合相互作用を実時間で観測することを可能にする。また、それらの方法は、膜中の非常に少ないタンパク質分子、例えば10〜10000、特に100〜1000タンパク質分子の検出及び観測をも可能にする。
【0020】
本発明の本質的な構成要素は、無細胞発現系の使用である。無細胞発現系によって、所望の膜タンパク質を符号化する、場合によりタグも符号化する核酸が、転写及び翻訳され、かつ従って、その所望の膜タンパク質が、その場で形成され、そして直ちに合成膜中に組み入れられる。かかる無細胞発現系は、有利には、例えば、米国の特許5,324,637号に記載されているような生体外での転写系及び翻訳系である。有利には、真核性の無細胞抽出物が、発現系として使用される。かかる発現系は、例えばPromega Corporation製の転写/翻訳系を結合させたTNT(登録商標)として市販されている。しかしながら、原核性の無細胞発現系(例えばRoche Applied Science社からのRTS 100 E.coli hy kit(登録商標))又は原始(archaic)の無細胞発現系(例えばSarma;E.M.Fleischmann,Cold Spring Harbour Press,ISBN 0−87969−438−6,Protocol 18,p.133)を使用することも可能である。
【0021】
有利には、膜タンパク質、及び場合によりタグ又は膜タンパク質に付加された他の機能性の部分を符号化する核酸は、無細胞発現系にcDNAとして添加される。
【0022】
上記のように、驚くべきことに、無細胞発現系、有利には真核性の無細胞発現系による合成膜の存在下での膜タンパク質の発現は、合成膜中に膜タンパク質の組み込み及び組み入れを導き、このようにして膜タンパク質は、機能活性形にあることが見出された。従って、本発明に従って得ることができる膜は、研究において、特に、膜タンパク質、例えば受容体とそれらのリガンドとの相互作用の調査のために分析系として極めて好適である。従って、本発明はまた、組み入れられた膜タンパク質を有する合成膜に関し、その際、合成膜は、本明細書で記載されている方法によって得ることができる。
【0023】
膜脂質中に組み入れられた膜タンパク質の質量比は、有利には、1:1〜1:10000、特に1:100〜1:1000である。
【0024】
膜中に組み入れられた機能的に活性のある膜タンパク質を有する本発明の膜は、膜タンパク質の機能及び/又は構造の決定、特に受容体/リガンドの相互作用の研究のための分析系として使用されることができる。しかしながら、それらはまた、センサー技術において、例えば匂い受容体として使用されることもできる。他の使用は、戦争用途、生体毒素、例えば炭疽、毒性もしくは爆発性物質の検出、イオンセンサー、薬物センサー又はアミノ酸センサーである。
【0025】
本発明は、附属の図及び次の実施例によってさらに説明される。
【0026】
図1は、ペプチド層に繋留させた脂質二重層の実験構成を示す。該ペプチド層は、システイン残基のS原子を介して担体の金表面上に吸着される。ペプチド層に、DMPE層を、共有的に付着させる。上側脂質層は、細胞融合により導入される。
【0027】
図2は、抗マウス−Cy5抗体に結合した平面膜系中へのGPCR分子の組み入れを図で示す。
【0028】
図3は、
1)N−末端VSVタグを有するGPCR cDNAの付加、
2)C−末端VSVタグを有するGPCR cDNAの付加、及び
3)挿入することなしにTnTベクターの付加
のための蛍光シグナルを示す。矢線は、Cy5標識された二次抗VSV抗体の付加を示す。
【0029】
図4は、無細胞抽出物
1:OR5 cDNAのC−末端VSVタグを有する抽出物、
2:OR5 cDNAのN−末端VSVタグを有する抽出物、及び
3:マーカー、SeePlusのタンパク質の標準
によって発現させたタンパク質のウェスタンブロットを示す。該ウェスタンブロットは、それぞれのGPCRコンストラクトの転写及び翻訳の成功を示す。
【0030】
図5は、放射性検出の結果を示す。
【0031】
図6は、tBLMに組み入れられたOR5のIR分光法データを示す。
【0032】
図7は、人工の平面膜表面中に挿入した標識された膜タンパク質の画像を示す。
【0033】
図8は、P19に繋留させたBLM上のウシオプシンの結果を示す。
【0034】
図9は、ウシオプシンを符号化するcDNA配列を含む発現プラスミドTNT−ρ3/4の略図及び符号化領域を示す。
【0035】
図10は、pTNT−ρ3/4でのtBLMのインキュベーションのSPFSスペクトルを示す。
【0036】
実施例
実施例1
ペプチド繋留された脂質膜の製造
平面の金表面上のペプチド分子の構築
ペプチドを、脂質膜を繋留するための親水性スペーサー分子のために使用する。α−ラミニンサブユニットから派生させた19個のペプチドCSRARKQAASIKVAVSADR(P19)(ドイツ、DeisenhofenのSigma−Aldrich社)を使用した。種々のペプチドの濃度を検査し、かつミリポア水中に25μg/mlの最終濃度が、時間/物質の消費率及び再現性に関する金表面に対するP19の会合を示す構築実験における最適なペプチド濃度であることを示した。
【0037】
単分子のペプチド層の自己構築は、N−末端のシステイン残基の強い金−硫黄相互作用によって得られる。ペプチド層の構築は、ペプチド溶液中での金表面の30分のインキュベーション後に完了される。過剰な結合していないペプチドは洗い落とされ、かつ得られた光学的厚さを、SPSによって観測した。
【0038】
ラミニンペプチドを、そのカルボキシ末端を介してリン脂質分子(ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、DMPE;0.1mg/ml(Sigma社製);0.001%(w/v)トリトンX−100(ドイツ、KarlsruheのRoth社製)中に可溶化させた)の一次アミノ残基に、活性エステル結合の手法で共有的に結合させた。N−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;ドイツ、DeisenhofenのFluka社製)(11.5mg/ml)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS;Fluka社製)(75mg/ml)を10mlのミリポア水でそれぞれ溶解し、そして使用するまで−20℃で200μlのアリコートで保管した。EDC及びNHSを、400μl(NHS50mM、EDC200mM)の量で等量混合し、そしてペプチドを被膜した金表面上に適用した。得られたチオペプチド脂質層は、硬質な集成体(約1.5nmの厚さ)を形成する。
【0039】
ペプチド脂質層に、ホスファチジルコリン小胞を添加し、そして2層の脂質膜を形成した。
【0040】
実施例2
Gタンパク質共役受容体の生体外発現
実験に使用された構成要素:
ウサギの網状赤血球を基礎とする、結合させた転写系及び翻訳系(Promega,Inc製のTNT(登録商標))を使用した。水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質VSVを符号化するcDNAをアミノ末端又はカルボキシ末端に付加させたGPCR(ラットからの匂い受容体OR5)を符号化するcDNAを、それぞれに製造した。
【0041】
無細胞系抽出物を、実施例1で記載されているように製造された繋留された膜の上端で適用し、GPCRのcDNAコンストラクトを添加した。インキュベーション後、表面を洗浄し、VSVエピトープを認識する一次マウス抗体を添加した。該表面を再び洗浄し、続いてマウスに対する蛍光標識させた二次抗体と一緒にインキュベートした。得られた蛍光シグナルの増加が、表面の付近にVSVタグの存在を示す。
【0042】
繋留された膜中のGPCRタンパク質の挿入を証明するために、様々な実験から派生した蛍光シグナルを比較した。カルボキシ末端と比較して、アミノ末端のVSVタグについての再現性のある及び有意に異なるシグナル強度を得た。C末端でVSVタグを有するGPCR cDNAは、5倍低いシグナルをもたらし、そしてそれは、参照として挿入なしにTnTベクターからの蛍光シグナルに匹敵する。
【0043】
このことは、図2で図示されているような、平面膜系中にGPCR分子の組み入れを示す。
【0044】
無細胞系抽出物の活性並びにそれぞれのGPCRコンストラクトの転写及び翻訳の成功を証明した後で、無細胞系抽出物を、平面脂質膜に対するインキュベート後に収集し、そして変性させ、ウェスタンブロットのための準備をした。
【0045】
実施例3
合成膜及び天然膜の比較
ダイズのホスファチジルコリンリポソームと比較して、イヌのミクロソームを使用する場合に、蛍光シグナルにおける有意差を観察することができなかった。このことは、PCのみからなる平面脂質膜中への成功したタンパク質の組み込みが起こることを示す。
【0046】
実施例4
放射性検出を使用した挿入の証明
組み入れられたタンパク質分子のさらなる研究は、放射性標識によって行われていた。従って、35Sメチオニンの存在下でOR5を合成した。次の実験を提案した。膜の組み入れによって、OR5タンパク質を、7TMタンパク質からの露出されたループを除きプロテイナーゼKの消化に対して保護する。5.9〜6.8kDaの範囲のサイズ分布において得られた断片を算出した。その結果を、図5で示す。
【0047】
レーンA:生体外での実験を、膜表面上で直接展開した。プロテイナーゼKを、その後適用した。そしてプロテイナーゼKと消化されたペプチド断片を洗い流した。得られた膜表面(OR5ループ)を、アクリルアミドSDSゲル上に適用し、そして、タンパク質の放射性標識(Sは、OR5配列中に均一に存在する)をフィルムに露光し、6kDaの期待範囲内のシグナルを生じた。
レーンB:生体外での実験を、エッペンドルフチューブ中で行い、次に膜上に適用した − 膜中のOR5の発現は同一のシグナルをもたらし、生体外抽出物中に存在する膜断片中の発現を示唆し、非特異的に膜表面上に吸着された。
レーンM:188、98、62、49、38、28、17、14、6、3kDaのマーカー
レーンC:分析活性の陽性対照:改質なしにゲル上に適用された生体外抽出物
レーンD:プロテイナーゼK活性の陽性対照:プロテイナーゼKのインキュベーションを有する生体外抽出物
実施例5
組み入れられた匂い受容体の活性
組み入れられた匂い受容体の活性を、IR分光法を用いて測定した。1mMリリアール(lilial)の添加に対するOR5/tBLM系のIRアミドIのピークのシグナル変化は、受容体による匂いの認識を示す。リリアール/OR5の相互作用は、PBSを使用した洗浄によって逆転されることができる。従って、IRデータは、OR5タンパク質を組み込んだtBLMの生物学的活性を示す。
【0048】
実施例6
画像相関顕微鏡法による膜タンパク質の検出
本発明に従った新しい方法を、人工平面脂質膜構造体中への複雑な哺乳動物の膜タンパク質の生体外合成に使用した。ウサギの網状赤血球の細胞抽出物は、受容体からの単なるDNAから出発する匂い受容体種の新規合成のためのタンパク質合成機構を含む。画像相関顕微鏡法による挿入された受容体タンパク質の密度は、表面でのエバネッセント励起を使用して、検査された。例えば、図7は、個々の膜タンパク質のアフィニティー標識をタグ付けする蛍光標識させた抗体を示す。励起範囲は、約20μmの直径を有する。膜タンパク質の高分解能画像相関顕微鏡法、すなわち時空的自己相関は、空間的なタンパク質の分布(組み入れ密度)及びタンパク質の易動度(膜中での拡散)についての情報をもたらす。
【0049】
実施例7
P19に繋留されたBLM上のウシオプシンの生体外発現
表面構築を、OR5の生体外発現/膜挿入に記載されている方法と同一の方法で組み立てた(図8)。
【0050】
ウシロドプシンの生体外発現を、生体外反応混合物のT7−TNT(登録商標)(Promega社)で行った。ウシオプシンを符号化するcDNA配列を、発現プラスミドpTNT(登録商標)−ρ3/4の形で反応に添加した。概略図及び符号化領域を、図9に示す。
【0051】
生体外の反応混合物を、直接、SPRセンサー表面に取り付けたP19に繋留されたBLMの上側に対して90分30℃でインキュベートした。次に、この表面構築物を、PBS溶液含有物、及びモノクローナルのマウス抗−VSVとヤギ−抗マウスIgG−Cy5抗体との1:3の混合物からなる抗体サンドイッチ系にさらした。生体外発現の反応混合物を含有するpTNT−ρ3/4でのtBLMのインキュベーションのための対応するSPFSスペクトル、及びプラスミドを含まない反応混合物でのインキュベーションのための対応するSPFSスペクトルを、それぞれ図10で示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、ペプチド層に繋留された脂質二重層の実験構成を示す。
【図2】図2は、抗マウス−Cy5抗体に結合した平面膜系中へのGPCR分子の組み入れを図で示す。
【図3】図3は、1)N−末端VSVタグを有するGPCR cDNAの付加、2)C−末端VSVタグを有するGPCR cDNAの付加、及び3)挿入することなしにTnTベクターの付加のための蛍光シグナルを示す。
【図4】図4は、無細胞抽出物1:OR5 cDNAのC−末端VSVタグを有する抽出物、2:OR5 cDNAのN−末端VSVタグを有する抽出物、及び3:マーカー、SeePlusのタンパク質の標準によって発現させたタンパク質のウェスタンブロットを示す。
【図5】図5は、放射性検出の結果を示す。
【図6】図6は、tBLMに組み入れられたOR5タンパク質のIR分光法データを示す。
【図7】図7は、人工の平面膜表面中に挿入した標識された膜タンパク質の画像を示す。
【図8A】図8Aは、P19に繋留させたBLM上のウシオプシンの結果を示す。
【図8B】図8Bは、P19に繋留させたBLM上のウシオプシンの結果を示す。
【図8C】図8Cは、P19に繋留させたBLM上のウシオプシンの結果を示す。
【図9】図9は、ウシオプシンを符号化するcDNA配列を含む発現プラスミドTNT−ρ3/4の略図及び符号化領域を示す。
【図10】図10は、pTNT−ρ3/4でのtBLMのインキュベーションのSPFSスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程
(i)膜の提供、
(ii)該膜に無細胞発現系及び膜タンパク質を符号化する核酸の適用、並びに
(iii)該膜中に組み込まれた、膜タンパク質の発現
を含む、膜中に組み入れられた膜タンパク質の製造方法。
【請求項2】
該膜が、表面に結合された膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該膜が、合成膜である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該膜が、繋留された膜である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
繋留された膜が、ペプチド繋留された膜、PEG繋留された膜、糖繋留された膜、シラン繋留された膜、シラン/チオール繋留された膜又はポリマー繋留された膜である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該膜が、誘電性表面もしくは非誘電性表面に結合又は繋留されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該膜が、金属もしくは金属酸化物からなる表面に結合又は繋留されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該膜が、平面膜であり、かつ/又は小胞−複合体構造を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該膜が、天然膜成分、合成により製造された脂質又は両親媒性ポリマーを有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該膜が、リン脂質、特にDMPE又はホスファチジルコリンを有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該膜が、二層の脂質膜である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記膜タンパク質が、TMタンパク質、膜関連タンパク質又は膜貫通タンパク質である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該膜タンパク質が、Gタンパク質共役受容体、神経伝達物質受容体、キナーゼ、ポリン、ABC輸送体、イオン輸送体、アセチルコリン受容体及び細胞接着受容体からなる群から選択される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
該膜タンパク質が、タグと結合される、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該膜タンパク質が、タグを有さない、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記タグが、エピトープ、例えばVSV、Hisタグ、Strepタグ、Flagタグ、インテインタグもしくはGSTタグから、又は高い親和力の結合対の相手、例えばビオチンもしくはアビジンから、又は標識、例えば蛍光標識、酵素標識、NMR標識もしくは同位体標識から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
無細胞発現系が、生体外での転写系及び翻訳系である、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記無細胞発現系が、真核性の無細胞発現系、例えばウサギの網状赤血球を基礎とするTNT(登録商標)系、原核性の無細胞発現系又は原始の無細胞発現系である、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
膜タンパク質を符号化する核酸が、cDNAとして付加される、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
該膜タンパク質が、機能的に活性のある形で膜中に組み入れられる、請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法によって得ることができる、組み入れられた膜タンパク質を有する膜。
【請求項22】
センサー技術において、例えば匂い受容体として、戦争用途において、例えば生体毒素、毒性もしくは爆発性物質の検出のための、又は薬物センサーとして、請求項1から20までのいずれか1項の記載の方法によって得ることができる又は請求項21の記載の膜の使用。
【請求項23】
膜タンパク質の機能及び/又は構造を決定するための、請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法によって得ることができる膜の使用。
【請求項24】
使用される測定方法又は検出方法が、光学法、表面増強光学法又は電子法から選択される、請求項22又は23に記載の使用。
【請求項25】
IR分光法、表面プラズモン増強蛍光分光法又は表面プラズモン共鳴が使用される、請求項24に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−513116(P2009−513116A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536951(P2008−536951)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008318
【国際公開番号】WO2007/048459
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【住所又は居所原語表記】Berlin, Germany
【出願人】(508129779)
【氏名又は名称原語表記】Eva−Kathrin Sinner
【住所又は居所原語表記】Parkstrasse 12 A, D−64289 Darmstadt, Germany
【Fターム(参考)】