説明

織機の製織条件解析方法及び装置

【課題】評価項目に影響を与える製織条件の解析を容易に行なえるようにする。
【解決手段】織物仕様の固有値をデータ入力装置9に入力すると、集中制御装置2は織物仕様と一致するデータの有無を検索する。仕様一致データが存在する場合、製織条件抽出手段11が複数の仕様一致データを抽出し、表示装置8に表示する。選択された評価項目を指定すると、集中制御装置2は多変量解析手段12により多変量解析を行なう。多変量解析で得られた重回帰式の各製織条件に付与された係数は、選択された評価項目に対する寄与度を表し、係数値の大きい製織条件は選択された評価項目に大きな影響を与える要因と判断することができる。従って、係数値の大きい製織条件を選択して表示装置8に表示し、また選択した製織条件について、最良の糸切れ率に関連付けされている製織条件の固有値を最良値と判断することができ、これを表示装置8に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、蓄積された多くの統計データから製織上の評価項目に影響の大きな製織条件を解析する織機の製織条件解析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
織機においては、製織すべき織物仕様に対して、織物品質や生産効率等の製織上の評価項目について高い結果が得られるように、多数の製織条件の値を設定しなければならない。適切な製織条件の値は最初から選択できるものでなく、通常は熟練者が過去の経験から対象となる織物仕様に適切と思われる製織条件の値を初期設定して試織等を行ない、不具合な製織条件の値の変更調整を繰り返すことにより製織条件を設定している。このような製織条件の設定方法は作業者の熟練と多くの時間及び労力を必要としていた。
【0003】
製織条件の設定を簡略化するために、例えば、特許文献1のような、コンピュータを利用した織機の稼動条件決定方法が提案されている。特許文献1に開示された技術は、織物仕様を入力する仕様入力手段と、過去の実績稼動条件を記憶するデータ記憶手段と、データ抽出手段と、実験計画手段と、条件決定手段とを備えている。
【0004】
織物仕様が仕様入力手段により入力されると、一致する織物仕様がデータ記憶手段に有る場合、データ抽出手段はデータ記憶手段から一致する織物仕様に対応した稼動条件を抽出する。条件決定手段は抽出された稼動条件を入力された織物仕様に最適な稼動条件として決定する。一致する織物仕様がデータ記憶手段に無い場合、データ抽出手段はデータ記憶手段から近似した織物仕様に対応する稼動条件を抽出し、実験計画手段によって試織条件を決定する。決定された試織条件に基づいて試織を行ない、試織結果が人手によって評価される。条件決定手段は、試織の評価結果に基づき、最適の稼動条件を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−5251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された過去の実績稼動条件を見た場合、同一の織物仕様であっても対応する各稼動条件の具体的な値は1つとは限らない。例えば、稼動条件には、例えば温湿度のような環境条件も含まれており、環境条件の異なる場所で稼動する織機の稼動データは同一種類の織物仕様であっても最適値は異なる可能性がある。従って、特許文献1では、一致する織物仕様が存在したとしても、そのままで最適な稼動条件を決定することが困難である。
【0007】
また、入力された織物仕様と一致する織物仕様がデータ記憶手段に無い場合、特許文献1では、近似した織物仕様に対応する稼動条件を抽出し、実験計画手段によって試織条件を決定している。実験計画手段として用いられる実験計画法は要因数が多いと計算が困難になるため、使用する要因に限りがあり、一般的に3要因、3水準程度に絞っている。従って、織機の稼動条件のように多数の要因が存在し、しかも近似した織物仕様全ての稼動条件を要因として用いることは困難である。このため、特許文献1では稼動条件として、回転数、空気圧、経糸張力の3条件を使用する方法のみを開示している。
【0008】
しかし、織機の稼動条件は多数存在し、製織結果に対して影響を与える要因が前記3条件のみとは限らないため、特許文献1のように、前記3条件のみから導き出した製織条件により試織し、織機を最適に調整することは困難である。また、そのような試織結果から得られた製織条件を最適な製織条件とすることには無理がある。
【0009】
本願発明は評価項目に影響を与える製織条件を解析することにより製織条件の選択を容易に行なえるようにした織機の製織条件解析方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1は、過去の製織運転時及び試織運転時における織物仕様、製織条件及び評価項目からなる稼動データを複数制御装置の記憶部に記憶する織機において、製織する前記織物仕様を前記制御装置に入力する工程と、入力した前記織物仕様に一致又は近似する前記織物仕様を含む前記稼動データを前記記憶部から抽出する工程と、前記評価項目のうち特定の前記評価項目を指定する工程と、抽出された前記稼動データを解析することにより指定された特定の前記評価項目に対する影響の大きさを前記製織条件毎に解析する工程とを有する織機の製織条件解析方法である。
【0011】
請求項1によれば、製織する織物仕様を入力するのみで、蓄積した稼動データから製織上の評価項目に影響のある製織条件を抽出することができるため、熟練者でなくても製織条件を容易に、かつ精度良く選択することができる。また、影響のある製織条件が判るため、製織中あるいは試織中においてどの製織条件を調整すべきかという判断がし易くなり、調整作業を容易に行なうことができる。
【0012】
請求項2は、前記制御装置は多数の織機に通信線によって接続された集中制御装置であり、多数の前記織機から得られる前記稼動データを前記記憶部に記憶することを特徴とする。請求項2によれば、多数の織機における織物仕様、製織条件及び製織上の評価項目の稼動データを1箇所に集中して蓄積することができるため、新たな織物仕様に対する製織条件の解析の精度を高めることができる。
【0013】
請求項3は、前記稼動データの解析は指定された前記評価項目を目的変数、前記製織条件を説明変数として解析する多変量解析であることを特徴とする。請求項3によれば、実験計画法と異なり多数の製織条件を変数として用いることができるため、精度の高い製織条件の解析が可能である。
【0014】
請求項4は、前記稼動データの解析は指定された前記評価項目を複数の階層に層別し、各層に製織条件を分布して指定された前記評価項目に影響のある製織条件を抽出可能にする層別解析であることを特徴とする。請求項4によれば、全ての製織条件において特定の評価項目の質を高める層にのみ存在する製織条件の値を抽出し、これを解析することができるため、精度の高い製織条件の解析が可能である。
【0015】
請求項5は、指定された前記評価項目に影響の大きい製織条件に対して、指定された前記評価項目の中の最も良い固有値に関連する前記製織条件の固有値を最良値として選択する工程を含むことを特徴とする。請求項5によれば、特定の評価項目に最も効いている製織条件の最良値を持つ製織条件を簡単に解析し、設定することができる。
【0016】
請求項6では、前記解析により得られた特定の前記評価項目に対する影響の大きさに基き前記製織条件を選択する工程を含むことを特徴とする。請求項6によれば、特定の評価項目に影響のある製織条件以外の製織条件は特定の評価項目に対して影響しないものであることが判るため、製織条件全体の設定が容易になる。
【0017】
請求項7は、過去の製織運転時及び試織運転時の織物仕様、製織条件及び評価項目からなる稼動データを記憶する記憶部を有する制御装置を備えた織機において、製織する前記織物仕様を入力するデータ入力装置と、前記データ入力手段により入力された前記織物仕様に一致又は近似する前記織物仕様を含む前記稼動データを前記記憶部から抽出する製織条件抽出手段と、前記製織条件抽出手段により抽出された前記稼動データを解析することにより指定された前記評価項目に対する影響の大きな製織条件を解析するデータ解析手段とを前記制御装置に備えた織機の製織条件解析装置である。請求項7によれば、簡単な構成により多数の稼動データから製織上の評価項目に影響のある製織条件を容易に抽出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明は、製織条件を容易に、かつ精度良く選択することができるとともに試織運転時あるいは製織運転時における製織条件の調整を容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】織機群の概要説明図である
【図2】製織条件解析装置を示すブロック図である。
【図3】蓄積された稼動データを示す図表である。
【図4】製織条件解析方法を説明するフローチャートである。
【図5】織物仕様と一致する製織条件データを示す図表である。
【図6】織物仕様と近似する製織条件データを示す図表である。
【図7】第2の実施形態における製織条件解析装置を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態を示す製織条件データの図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に示すように、例えば織布工場では、多数(図1では、便宜上3台のみ表示)の織機1A、1B、1Cが設置され、集中制御室に制御装置としての集中制御装置2が設置されている。各織機1A、1B、1Cはそれぞれ織機制御装置3A、3B、3C及び表示装置(図示せず)を有する織機用データ入力装置4A、4B、4Cを備えている。一方、集中制御装置2はデータの記憶部5、演算部6、入出力インターフェース7及び表示装置8を有する集中制御装置用のデータ入力装置9を備えている。また、集中制御装置2は入出力インターフェース7と各織機1A、1B、1Cの織機制御装置3A、3B、3Cとが通信線10により接続されている。
【0021】
従って、各織機1A、1B、1Cにおけるこれまでの製織運転時及び試織運転時における稼動データが全て各織機制御装置3A、3B、3Cから通信線10を介して集中制御装置2に送信され、記憶部5に記憶されている。稼動データには、織物仕様、その織物仕様で製織するために必要な各種製織条件及び製織上の評価項目が含まれている。
【0022】
なお、織物仕様には、例えば緯糸や経糸の糸種、緯糸や経糸の糸番手、織物組織、緯糸密度等、複数の仕様が設定されている。製織条件には、例えば緯入れタイミングや圧力等の機台調整値、緯糸や経糸の前工程での品質情報等の原材料条件、気温や湿度等の環境条件、昼夜、曜日等の稼動時の時間条件、織機の形式や織機が何号機か等の機械条件、作業者コード等の作業者条件等、複数の条件が設定されている。製織上の評価項目には、例えば緯糸や経糸の糸切れ回数、織機の運転時間及び停止時間、織物欠点等の複数の項目が設定されている。
【0023】
これらの稼動データは、織物仕様、製織条件及び評価項目を1セットとして記憶部5に蓄積されている。図3は、織物仕様A、B、製織条件X、Y、評価項目としての糸切れ率Rからなる稼動データを蓄積データ番号を付して10個の稼動データを記憶部5に記録していることを示している。実際には織物仕様、製織条件及び評価項目の数やそれぞれの固有値の数は図3に示す例よりもはるかに多いが、便宜上、以下では図3に示す簡略化した例で説明する。なお、固有値A1、A2、B1、B2は織物仕様の数値データあるいは項目値データを示し、固有値X1、X2、X3、Y1、Y2、Y3は製織条件の数値データあるいは項目値データを示し、固有値R1〜R10は糸切れ率の数値データを示している。また、例えば蓄積データ番号1はA=A1、B=B1の織物仕様に対し、X=X1、Y=Y1の製織条件によって製織し、その時の糸切れ率Rが固有値R1であったことを示している。
【0024】
図2は製織条件解析装置をブロック図で示したものである。記憶部5には、製織条件抽出手段11及びデータ解析手段としての多変量解析手段12に関するプログラムが記憶されている。製織条件抽出手段11はデータ入力装置9へ製織する織物仕様を入力することにより記憶部5から読み出され、演算部6において記憶部5に蓄積された稼動データの中から特定の織物仕様に関連付けられた製織条件及び評価項目を抽出し、表示装置8に表示させることができる。また、多変量解析手段12は、具体的には重回帰分析の手法がプログラムされており、製織条件抽出手段11によって抽出された特定の織物仕様に関する製織条件及び評価項目を分析し、分析結果を表示装置8に表示させることができる。
【0025】
多変量解析手段12による解析結果は製織する織物仕様の製織条件を選択するために用いられる。また、選択された製織条件は集中制御装置2から各織機制御装置3A、3B、3Cに送信されて各織機1A、1B、1Cに設定され、試織運転又は製織運転が行なわれる。各織機1A、1B、1Cにおける稼動データは各織機制御装置3A、3B、3Cに一旦記憶された後、適宜集中制御装置2へフィードバックされ、記憶部5に蓄積される。
【0026】
図4〜図6に基づき、製織する織物仕様に適した製織条件の解析方法を説明する。図4のフローチャートにおいて、作業者は製織する織物仕様の固有値A1、B2をデータ入力装置9に入力する(工程S1)。集中制御装置2は入力された織物仕様の固有値A1、B2と一致するデータ(以下、仕様一致データと表記する)が蓄積された記憶部5の稼動データに有るか無いかを検索する(工程S2)。仕様一致データが存在する場合、製織条件抽出手段11は仕様一致データを記憶部5から抽出し(工程S3)、例えば図5のような図表を表示装置8に表示する。図5は織物仕様の固有値A1、B2に一致するが、製織条件X、Yの固有値が異なり、その結果糸切れ率Rも固有値R2〜R7のように異なる過去の稼動データが6種類有ることを示している。なお、糸切れ率Rは、R2<R3<R4<R5<R6<R7であり、固有値R2が最も良いものとする。
【0027】
そこで、作業者は複数の評価項目の中から例えば糸切れ率Rを指定し、データ入力装置9に入力する(工程S4)。集中制御装置2は多変量解析手段12により図5に示した抽出データを基に多変量解析を行なう(工程S5)。多変量解析手段12は指定された糸切れ率Rを目的変数とし、製織条件X、Yを説明変数として重回帰分析を行なう。分析の結果得られた重回帰式は次式のように表される。
R=K1X+K2Y+K3
なお、K1、K2、K3は係数である。また、K3を除く各係数は、K1>K2であり、K1はKnを除く係数の総和に占める割合が80%を越える値であり、K2は80%未満である。
【0028】
分析で得られた重回帰式の各製織条件に付与された係数K1、K2は、過去の稼動データにおける平均的な糸切れ率Rに対する寄与度を表すものである。このため、係数値の大きい製織条件は糸切れ率に対して大きな影響を与える要因であるとみなすことができる。従って、図5の稼動データを重回帰分析した結果、製織条件Xは他の製織条件に比べて糸切れ率Rに大きな影響を与える要因であると判断することができ、製織条件Xを選択し、表示装置8に表示する(工程S6)。
【0029】
また、工程S6で選択した製織条件Xについて、図5に示した稼動データの中で、最も良い糸切れ率の固有値R2と関連付けされている製織条件Xの固有値X1は、最良値と判断することができる。従って、特定の評価項目である糸切れ率Rに影響のある製織条件Xの最良値として固有値X1を選択し、表示装置8に表示する(工程S7)。
【0030】
なお、製織上の評価項目は糸切れ率R以外にも複数存在するため、他の有用な評価項目が存在する場合は、その評価項目を選択された評価項目として取り上げ、工程S4〜工程S7の動作を繰り返し実施することが好ましい。
【0031】
製織条件X以外の製織条件は、重回帰式に基づき糸切れ率Rに対して大きな影響を与えるものでないと判断できるため、自由に任意の値を選択し、表示装置8に表示する(工程S8)。例えば、図5において、製織条件Xで選択された最良の固有値X1が関連付けられている織物仕様の固有値A1、B2の蓄積データ番号2における他の製織条件Y等の固有値を適宜選択し、表示装置8に表示すればよい。
【0032】
次に、表示装置8に表示された製織条件X、Y及び他の製織条件は工程S1において入力された織物仕様の固有値A1、B2に対する最適な製織条件として決定され、各織機制御装置3A〜3Cへ入力され(工程S9)、各織機1A〜1Cに設定される。
【0033】
一方、工程S1において入力された織物仕様の固有値と一致する仕様一致データが稼動データに存在しない場合、例えば入力された織物仕様の固有値がA2、B1である場合は(工程S2)、製織条件抽出手段11は織物仕様の固有値A2、B1に近似する稼動データ、すなわち、織物仕様Aの固有値がA2の稼動データ、又は、織物仕様Bの固有値がB1の稼動データ(以下、仕様近似データと表記する)を記憶部5から抽出し(工程S10)、例えば図6のような図表を表示装置8に表示する。図6は蓄積データ番号1、8、9、10で表した4種類の近似した織物仕様の存在を示している。製織上の評価項目の1つとして示した糸切れ率Rは、R1<R8<R9<R10であり、R1が最も良い糸切れ率であることを示している。
【0034】
工程S10において抽出された図6に示す仕様近似データは、仕様一致データが存在する場合と同様に、工程S4〜工程S6の手順で指定された評価項目に影響のある製織条件を選択して表示装置8に表示する。次に、工程S7及び工程S8の手順で指定された評価項目に影響のある製織条件の最良値の選択と指定された評価項目に影響の無い製織条件の固有値の選択とを行い、それぞれ表示装置8に表示する。また、工程S9の手順で決定した各製織条件を織機制御装置3A〜3Cへ入力する。
【0035】
以上説明した工程S1〜工程S10の手順を踏むことにより、製織する織物仕様の固有値A1、B2に対して、過去の膨大な稼動データから製織上の評価項目に影響の大きな製織条件及びその製織条件の最良値の選択を容易に行なうことができる。また、他の製織条件は評価項目に影響を与えるものでないか、又は影響が小さいことが判るため、選択の自由度が高まり、他の製織条件の選択を任意に行なうことができ、作業が容易である。さらに、織機の試織運転時あるいは製織運転時における評価項目を最良値にするための調整作業は、影響のある製織条件を把握しているため、容易に行なうことができる。
【0036】
(第2の実施形態)
図7及び図8に示す第2の実施形態は、図4に示したフローチャートの工程S4及び工程S5の構成のみを変更したもので、他の構成は第1の実施形態と同一であるため、第1の実施形態の構成を利用して説明し、同一構成は詳細な説明を省略する。
【0037】
図4の工程S1において、織物仕様の固有値A1、B2がデータ入力装置9に入力される。工程S2において、集中制御装置2は織物仕様の固有値A1、B2と一致する仕様一致データが記憶部5に蓄積された稼動データに有るか無いかを検索する。工程S3において、仕様一致データが存在する場合、製織条件抽出手段11が仕様一致データを記憶部5から抽出し、図5に示した図表を表示装置8に表示する。
【0038】
集中制御装置2には、図7に示すように、製織条件抽出手段11によって抽出されたデータを解析するデータ解析手段として層別手段13がプログラムされている。層別手段13は図5において評価項目として表示された糸切れ率Rを良い及び悪いの2層に層別し、図5のデータを糸切れ率Rに基づいて各層に分布する。層別手段13により分布された製織条件は図8に示すように図表化され、表示装置8に表示される。図8では、良い層及び悪い層に、それぞれ蓄積データ番号、製織条件X、Y、平均糸切れ率Rが表示されている。
【0039】
図8に基づいて、集中制御装置2又は作業者は製織条件X、Yについて各層の固有値を見出すことができる。例えば、製織条件Xを見ると、固有値X1が良い層にのみ存在し、固有値X2が良い層及び悪い層の両層に存在し、固有値X3が悪い層にのみ存在している。この分布状態から、製織条件Xは糸切れ率Rに対して影響を与えていることが分かる。また、良い層にのみ存在する製織条件Xの固有値X1が糸切れ率Rに良い影響を与え、固有値X2は糸切れ率Rに影響を与えておらず、固有値X3は糸切れ率Rに悪い影響を与えていると判断できる。したがって、作業者はより好ましい値として固有値X1の製織条件を選択することができる。同様に、製織条件Yを見ると、固有値Y3が良い層にのみ存在し、固有値Y1及びY2が良い層及び悪い層の両層に存在している。この分布状態から、製織条件Yでは、固有値Y3が糸切れ率Rに良い影響を与えており、製織条件Yにおいては固有値Y3を選択することができる。なお、本実施形態では、層別の一方にのみ存在する固有値には下線表示を行なうから、もし、表示した製織条件でどちらの層にも下線表示された固有値が存在しない場合には、その製織条件は糸切れ率Rに影響を与えていないと判断されるので、糸切れ率R以外の他の評価項目等を考慮して適宜の値を設定することができる。
【0040】
図5に示すように、糸切れ率Rが最も良い固有値R2における過去の稼動データに基づく製織条件X、Yの組合せはX=X1、Y=Y1であるが、層別手段13の解析結果からは、過去の稼動データに無い製織条件X=X1、Y=Y3の組合せを導き出すことができる。従って、製織条件X=X1、Y=Y3がそれぞれ最適値に近いと判断することができ、この製織条件X=X1、Y=Y3を図4の工程S6において評価項目に影響のある製織条件として選択し、表示装置8に表示する。
【0041】
なお、平均糸切れ率Rは、良い層に振り分けられた固有値R2、R3、R4の平均値と悪い層に振り分けられた固有値R5、R6、R7の平均値を表示している。良い層と悪い層との平均糸切れ率Rは、両者に差が有る場合と差が無い場合とが存在する。差が有る場合は最適値に近いと判断された製織条件X=X1、Y=Y3が糸切れ率Rに大きく影響していることを裏付けていると判断することができ、差が無い場合は糸切れ率Rに対する製織条件X=X1、Y=Y3の影響度が小さいと判断することができる。本実施例の説明では、良い層と悪い層との平均糸切れ率Rに差が有る場合を前提にして説明している。もし、両者の平均糸切れ率Rに差が無いと表示された場合、最適値と判断することは難しいが、製織条件を選択するための目安として利用すればよい。
【0042】
また、製織条件X、Yにおいて、糸切れ率Rに影響を与えていると判断可能な固有値は図8に表示したように1つだけとは限らず、複数存在する可能性も有る。固有値が複数存在する場合、どれが適切と判断することはできないが、複数の固有値はいずれも有用と見なすことができるため、試織運転に用いる製織条件の組み合わせ作業を容易にすることができる。
【0043】
以降は図4の工程S8において、第1の実施形態と同様に他の製織条件を選択して表示装置8に表示し、工程S9において、決定された全ての製織条件を織機制御装置3A〜3Cに入力して完了する。また、工程S10において、織物仕様の固有値A1、B2に近似した仕様近似データが抽出された場合も、工程S3において抽出された仕様一致データの場合と同様に層別手段13によって解析され、評価項目に影響のある製織条件X、Yを抽出することができる。
【0044】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0045】
(1)製織条件抽出手段11と、多変量解析手段12あるいは層別手段13とにより得られるデータは、集中制御装置2の表示装置8に限らず、各織機1A〜1Cの各織機用データ入力装置4A〜4Cに備えた表示装置に同時に表示するように構成しても良い。
(2)各織機1A〜1Cの稼動データを集中制御装置2に収集、蓄積する方法は、通信線10に限らず、人為的に搬送可能な記憶手段を用いて行なうことも可能である。
(3)第1及び第2の実施形態は単独の織機において実施することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1A、1B、1C 織機
2 集中制御装置
3A、3B、3C 織機制御装置
5 記憶部
6 演算部
7 入出力インターフェース
8 表示装置
9 データ入力装置
10 通信線
11 製織条件抽出手段
12 多変量解析手段
13 層別手段
A、B 織物仕様
R 糸切れ率
X、Y 製織条件
A1、A2、B1、B2、X1〜X3、Y1〜Y3、R1〜R10 固有値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去の製織運転時及び試織運転時における織物仕様、製織条件及び評価項目からなる稼動データを複数制御装置の記憶部に記憶する織機において、
製織する前記織物仕様を前記制御装置に入力する工程と、入力した前記織物仕様に一致又は近似する前記織物仕様を含む前記稼動データを前記記憶部から抽出する工程と、前記評価項目のうち特定の前記評価項目を指定する工程と、抽出された前記稼動データを解析することにより指定された特定の前記評価項目に対する影響の大きさを前記製織条件毎に解析する工程とを有する織機の製織条件解析方法。
【請求項2】
前記制御装置は多数の織機に通信線によって接続された集中制御装置であり、多数の前記織機から得られる前記稼動データを前記記憶部に記憶する請求項1に記載の織機の製織条件解析方法。
【請求項3】
前記稼動データの解析は指定された前記評価項目を目的変数、前記製織条件を説明変数として解析する多変量解析である請求項1又は請求項2に記載の織機の製織条件解析方法。
【請求項4】
前記稼動データの解析は指定された前記評価項目を複数の階層に層別し、各層に製織条件を分布して指定された前記評価項目に影響のある製織条件を抽出可能にする層別解析である請求項1又は請求項2に記載の織機の製織条件解析方法。
【請求項5】
指定された前記評価項目に影響の大きい製織条件に対して、指定された前記評価項目の中の最も良い固有値に関連する前記製織条件の固有値を最良値として選択する工程を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の織機の製織条件解析方法。
【請求項6】
前記解析により得られた特定の前記評価項目に対する影響の大きさに基き前記製織条件を選択する工程を含む請求項5に記載の織機の製織条件解析方法。
【請求項7】
過去の製織運転時及び試織運転時の織物仕様、製織条件及び評価項目からなる稼動データを記憶する記憶部を有する制御装置を備えた織機において、製織する前記織物仕様を入力するデータ入力装置と、前記データ入力手段により入力された前記織物仕様に一致又は近似する前記織物仕様を含む前記稼動データを前記記憶部から抽出する製織条件抽出手段と、前記製織条件抽出手段により抽出された前記稼動データを解析することにより指定された前記評価項目に対する影響の大きな製織条件を解析するデータ解析手段とを前記制御装置に備えた織機の製織条件解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−21253(P2012−21253A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121979(P2011−121979)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】