説明

置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール及びその製造方法

【課題】ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状の優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ新規置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール及びその製造方法の提供。
【解決手段】下記式(1)で示される、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000であるものであることを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール。


(Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、xは0又は1以上の整数、y、zは1以上の整数であって、x+y+zは上記分子量を満たす数である。nは1〜10の整数、aは0または1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールに関し、特にはポリビニルアルコールとシリコーンの両方の性質を併せ持つ新規置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、優れたガスバリアー性や透明性を有する熱可塑性高分子材料である。そのガラス転移温度は約80度と比較的低く加熱成型性に優れるため、フィルム、シート、容器などの原料として広く使用されている。また、他の樹脂フィルムやシートに被覆されて、耐油性やガスバリアー性を改良するために用いられており、特にこの場合は溶液流延法を用いることが好適である。しかしながら、ポリビニルアルコールは、一般的な有機溶媒に対する溶解性が乏しく、液状材料としての取扱い性が非常に悪いという問題があった。従って、優れたガスバリアー性や透明性を有し、その上、有機溶媒に対する溶解性に優れ、液状材料としての取り扱い性が非常に良いポリビニルアルコールが望まれていた。
【0003】
この問題を解決することを目的として、特許文献1には、アルコキシ基を側鎖に有するポリマーが提案されている。しかしながら、溶解性を改善できる一方で、Siに結合した側鎖のアルコキシ基は加水分解性が強く、溶液安定性に対して別の問題が発生する。また、安全性の高いシリコーン溶媒や脂肪族炭化水素溶媒に対する溶解性については一切検討されていない。
【0004】
また、特許文献2には、直鎖のシロキサンを側鎖に有するポリマーが提案されている。このポリマーは、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、N,N―ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)などの極性溶媒に対する溶解性は向上するが、安全性の高いシリコーン溶媒や脂肪族炭化水素溶媒に対する溶解性が悪い。さらには溶液流延法によりフィルムを作成した場合、フィルムが白濁し透明性が失われるなどの問題が別に発生した。従って、前記問題の根本的解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−53838
【特許文献2】特許3167892
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromol. Chem. Phy., 200, 1245 (1999).
【非特許文献2】Polymer, 50, 1389 (2009).
【非特許文献3】Polymer Journal, 41, 1 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ新規置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール及び容易かつ効率よく新規置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、下記式(1)で示される、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000であるものであることを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを提供する。尚、本発明では、GPC測定に用いる溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を用いるものとする。
【化1】

(Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、xは0又は1以上の整数、y、zは1以上の整数であって、x+y+zは上記分子量を満たす数である。nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【0009】
このような置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールであれば、ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ優れた材料とすることができ、膜、化粧料、接着剤、塗料などとして好適に用いることができる。
【0010】
また、上記式(1)におけるx、y、zのモル比が、xが0〜20モル%、yが10〜95モル%、zが5〜70モル%(但し、x、y、zのモル比の合計は100モル%)であることが好ましい。
【0011】
このように、x、y、zのモル比が、xが0〜20モル%、yが10〜95モル%、zが5〜70モル%(但し、x、y、zのモル比の合計は100モル%)である置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールは、上記したポリビニルアルコールの特性がより顕著なものとなり、かつポリマーの有機溶媒への溶解性やフィルムやシートなどの強度等がより優れたものとなる。
【0012】
また、上記置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールはnが3、R、R及びRがメチル基でありa=0であることが好ましい。
【0013】
このように、nが3、R、R及びRがメチル基でありa=0とすることにより、生産性、反応性等がより優れたものとなる。
【0014】
さらに、本発明では、
酢酸ビニルモノマーを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化することで調製した下記式(2)で示されるポリビニルアルコールの水酸基と、下記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとを反応させることで置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを製造することを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法を提供する。
尚、置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの原料であるポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルをケン化することで得ることができるが、該ポリビニルアルコールは部分的にケン化されたものを用いることもできる。部分的にケン化されたポリビニルアルコールを用いて置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを合成した場合、代表的な化合物として下記式(4)で示される繰り返し単位を含む置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール((1)式においてxが1以上のもの)とすることができる。
【化2】

【化3】

(ここで、Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【化4】

【0015】
このような置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法であれば、反応性の高いイソシアネート基とポリビニルアルコールの水酸基を効果的に反応させることが可能であり、上記式(1)で示される置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを容易に得ることができる。
【0016】
また、上記置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法において、上記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンが、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートであることが好ましい。
【0017】
このように、上記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとして、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを用いることによって、有機溶媒へのより高い溶解性を持つトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールを効率よく得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と、分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ材料を提供することができ、膜、化粧料、接着剤、塗料などとして好適に用いることができる。また、本発明の製造方法によれば、反応性の高いイソシアネート基とポリビニルアルコールの水酸基をより効果的に反応させることで容易に効率よく置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2で得られたポリマーの1H−NMR分析結果を示す。
【図2】実施例2で得られたポリマーのIR分析結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、優れたガスバリアー性や透明性を有し、その上、有機溶媒に対する溶解性に優れ、液状材料としての取り扱い性が非常に良いポリビニルアルコールが望まれていた。
【0021】
本発明者らは、ポリビニルアルコールと分岐構造を有するシリコーンの両方の性質を併せ持つシロキサン含有ポリビニルアルコールを開発すべく鋭意検討を重ねた結果、下記式(2)で示されるポリビニルアルコールの水酸基と下記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとを反応させると、イソシアネート基の反応性が高いものであるため、ポリビニルアルコールの水酸基と効果的に反応して、下記式(1)で示される置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールが容易に得られることを見出した。また、本発明者らは、このようにして得られた置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールが、新規なものであり、ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ優れた材料になることを確認して本発明を完成させた。以下、詳細に説明していく。
【化5】

(Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、xは0又は1以上の整数、y、zは1以上の整数であって、x+y+zは上記分子量を満たす数である。nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【化6】

【化7】

(ここで、Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【0022】
本発明は、下記式(1)で示される、GPCで測定される、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000であるものであることを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを提供する。尚、本発明では、GPC測定に用いる溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を用いるものとする。
【化8】

(Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、xは0又は1以上の整数、y、zは1以上の整数であって、x+y+zは上記分子量を満たす数である。nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【0023】
本発明のシリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールは、下記式(2)で示されるポリビニルアルコールの水酸基と下記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンを反応させて得た置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールであるが、その分子量はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000の範囲であればよく、好ましくは30,000〜2,000,000である。分子量が10,000より小さい場合、フィルム強度の点で劣る場合があり、分子量が5,000,000より大きい場合、取扱い性や溶解性の点で劣る場合がある。
【化9】

【化10】

(ここで、Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【0024】
本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールは、上記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンを用いて調製され、上記式(1)で示されるものである。ここで、R, R, R, R, R, R, Rは炭素数1〜6の1価の有機基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリール基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基などが例示され、R, R, R, R, R, R, Rは、それぞれ同じであっても異なってもよい。また、R, R, Rは、各々−OSiRで示されるシロキシ基であってもよく、このシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、エチルジメチルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、クロロメチルジメチルシロキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ基などが例示される。
【0025】
上記式(1)及び上記式(3)中のaは、0または1であり、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール中のオルガノポリシロキサン部分は分岐構造を有する。直鎖構造よりも分岐構造を有するオルガノポリシロキサンを導入したが方が有機溶媒への溶解性が向上することがよく知られている(非特許文献1〜3)。さらに好ましくは、上記式(1)及び上記式(3)において、nが3、R、R及びRがメチル基でありa=0であることが好ましい。このように、より分岐構造の多いオルガノポリシロキサンとすることで有機溶媒への溶解性を向上させることができる。
【0026】
また、本発明の製造方法は、酢酸ビニルモノマーを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化することで調製した上記式(2)で示されるポリビニルアルコールの水酸基と、上記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとを反応させることで置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを製造することを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法である。
【0027】
本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの原料となる、ポリビニルアルコールは酢酸ビニル重合体を公知の手段でケン化して得られる酢酸ビニル重合体ケン化物であり、上記式(2)で示される繰り返し単位からなる。また、これは部分ケン化物であってもよく、下記式(4)で示される繰り返し単位を含んでもよい。そして、該部分ケン化物であるポリビニルアルコールを原料として用いた場合には下記式(4)で示される繰り返し単位を含む本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールとなる。またこのポリビニルアルコールの分子量は、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの分子量がGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000の範囲になるように適宜選ぶことが可能である。
【化11】

【0028】
本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法は、ポリビニルアルコールの水酸基とイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとのウレタン結合生成反応によるものであるため、特別な反応条件や反応装置を用いる必要はないが、ポリビニルアルコールとイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとの混合、反応効率、反応制御のためには溶媒を用いることが好ましい。この溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類が例示されるが、これらは、1種単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0029】
また、この反応はここに使用する溶媒の種類により異なるが、通常は20〜150℃で1〜24時間とすればよく、この場合には、触媒としてトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫、オレイン酸第一錫などの有機金属化合物のようなウレタン結合形成に際して用いられる公知の触媒を添加してもよい。反応終了後は、洗浄、乾燥すれば目的とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを得ることが出来る。
【0030】
本発明による置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造は、上記のようにポリビニルアルコールの水酸基とイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとの反応により行われるが、このイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとしては、特にトリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを用いることが好ましく、ポリビニルアルコールと反応させればトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールを得ることができる。これは、下記式(5)で示す繰り返し単位を有する。
【化12】

【0031】
本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールのシリコーン変性率(式(1)におけるx+y+zに対するzのモル比)は、使用用途に合わせて適宜調節することができるが、ポリビニルアルコールの水酸基に対して5〜70モル%が好ましく、より好ましくは、10〜60モル%である。変性率が5モル%以下の場合、ポリマーの有機溶媒への溶解性が悪くなる場合があり、70モル%以上の場合、フィルムやシートなどの強度が劣る場合がある。また、式(1)におけるx+y+zに対するxのモル比は、0〜20モル%が好ましく、より好ましくは0.1〜10モル%であり、式(1)におけるx+y+zに対するyのモル比は、好ましくは10〜95モル%、より好ましくは30〜89.9モル%である。(但し、x、y、zの合計は100モル%である。)
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
1リットルのフラスコに酢酸ビニルをケン化することで調整したポリビニルアルコール(重合度550、ケン化率%98.5%)を20g、N−メチルピロリドンを380g、トリメエチルアミンを0.6g、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを42g仕込み、90度で6時間反応を行った。反応終了後、水とメタノールの混合液中にて生成物を析出させ、さらに水とメタノール混合液で繰り返し洗浄後、70度で24時間減圧乾燥を行い40gのポリマー(P−1)を得た。H−NMRおよびIR分析結果より、P−1がトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールであることが確認され、またその変性率は、23モル%であった。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で60,000で分子量分布は1.85であった。ポリマーP−1を5質量%でイソプロパノールに溶解させ、溶液流延法で50ミクロンのフィルムを作成したところ、高透明で強靭なフィルムになることが明らかとなった。また、ポリマーP−1の有機溶媒への溶解性を表1に示す。
【0034】
[実施例2]
1リットルのフラスコに酢酸ビニルをケン化することで調整したポリビニルアルコール(重合度550、ケン化率%98.5%)を20g、N−メチルピロリドンを380g、トリメエチルアミンを1.2g、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを83.4g仕込み、90度で6時間反応を行った。反応終了後、水とメタノールの混合液中にて生成物を析出させ、さらに水とメタノール混合液で繰り返し洗浄後、70度で24時間減圧乾燥を行い82gのポリマー(P−2)を得た。図1には、このポリマーのH−NMR分析結果を、図2にはIR分析結果を示す。これらの結果より、P−2がトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールであることが確認され、またその変性率は、43モル%であった。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で76,000で分子量分布は2.52であった。ポリマーP−2を5質量%でイソプロパノールに溶解させ、溶液流延法で50ミクロンのフィルムを作成したところ、高透明で強靭なフィルムになることが明らかとなった。また、ポリマーP−2の有機溶媒への溶解性を表1に示す。
【0035】
[実施例3]
1リットルのフラスコに酢酸ビニルをケン化することで調整したポリビニルアルコール(重合度550、ケン化率%98.5%)を20g、N−メチルピロリドンを380g、トリメエチルアミンを1.8g、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを126g仕込み、90度で6時間反応を行った。反応終了後、水とメタノールの混合液中にて生成物を析出させ、さらに水とメタノール混合液で繰り返し洗浄後、70度で24時間減圧乾燥を行い85gのポリマー(P−3)を得た。H−NMRおよびIR分析結果より、P−3がトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールであることが確認され、またその変性率は、58モル%であった。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で101,000で分子量分布は2.51であった。ポリマーP−3を5質量%でイソプロパノールに溶解させ、溶液流延法で50ミクロンのフィルムを作成したところ、高透明で強靭なフィルムになることが明らかとなった。また、ポリマーP−3の有機溶媒への溶解性を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
1リットルのフラスコに酢酸ビニルをケン化することで調整したポリビニルアルコール(重合度550、ケン化率%98.5%)を5g、N−メチルピロリドンを380g、トリメエチルアミンを1.2g、特許3167892に記載の下記式(6)で示される化合物を147g仕込み、90度で6時間反応を行った。反応終了後、水とメタノールの混合液中にて生成物を析出させ、さらに水とメタノール混合液で繰り返し洗浄後、70度で24時間減圧乾燥を行い31gのポリマー(P−4)を得た。H−NMRおよびIR分析結果より、P−4が置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールであることが確認され、またその変性率は、11モル%であった。THFに対する溶解性が乏しくGPCにより分子量を測定することが出来なかった。ポリマーP−4を5質量%でメタノールに溶解させ、溶液流延法でフィルムの作成を試みたが、ゴム状となり取り扱うことが困難であった。ポリマーP−4の有機溶媒への溶解性を表1に示す。
【化13】

【0037】
【表1】

1)溶解性は10質量%溶液を調整して評価した。○:溶解、△:部分溶解、×:不溶。
2)THF:テトラヒドロフラン。
3)IPA:イソプロパノール。
4)D5:デカメチルシクロペンタシロキサン。
5)PVA:ポリビニルアルコール。
【0038】
以上の結果から、比較例がIPA、メタノール及びアセトン等の極性溶媒にしか溶解性を示さずゴム状になってしまうのに対し、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールが、優れた有機溶媒への溶解性、透明性、製膜性を有すことがわかる。これにより、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールがポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つことが示された。更に、実施例1及び実施例2を比較すると、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの変性率が高いほどトルエン、イソドデカン、D5等の脂肪族炭化水素溶媒やシリコーン溶媒に対する溶解性が向上することが示された。その上、式(4)に示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンを用いることで、本発明の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを容易に製造できることも示された。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜5,000,000であるものであることを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール。
【化1】

(Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、xは0又は1以上の整数、y、zは1以上の整数であって、x+y+zは上記分子量を満たす数である。nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【請求項2】
x、y、zのモル比が、xが0〜20モル%、yが10〜95モル%、zが5〜70モル%(但し、x、y、zのモル比の合計は100モル%)であることを特徴とする請求項1に記載の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール。
【請求項3】
前記式(1)において、nが3、R、R及びRがメチル基でありa=0であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコール。
【請求項4】
酢酸ビニルモノマーを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化することで調製した下記式(2)で示されるポリビニルアルコールの水酸基と、下記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとを反応させることで置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを製造することを特徴とする置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法。
【化2】

【化3】

(ここで、Rは炭素数1〜6の1価の有機基、R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基または−OSiRで示されるシロキシ基(R、R及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基)、nは1〜10の整数、aは0または1である。)
【請求項5】
前記式(3)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンが、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートであることを特徴とする請求項4に記載の置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246642(P2011−246642A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122626(P2010−122626)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】