説明

置換フェニルリチウム化合物の製造方法

【課題】置換フェニルリチウム化合物の新規製造方法の提供
【解決手段】
【化1】


[式中、X1、X2、X3は、X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、
R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、rは、0〜2の整数を表す。]で表される置換フェニルリチウム化合物を製造する際に、溶媒と添加物を適切に選択することによって、-10℃〜40℃の範囲まで反応温度を穏和にすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬あるいは電子材料等の機能性材料の製造中間体の合成に有用な置換フェニルリチウム化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるハロゲン−リチウム交換反応等を利用して置換フェニルリチウム化合物を製造する方法としては、いくつか知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1〜5)。これらに記載された反応条件はいずれも-78℃以下の極低温の反応であるが、極低温反応は設備が汎用のものではなく、またコストがかかるため、工業的には満足のいくものではない。
置換フェニルリチウム化合物、特にハロゲン置換フェニルリチウム化合物又はハロアルキル置換フェニルリチウム化合物は無置換フェニルリチウム化合物に比べて安定性に問題がある。というのも、置換基があるために起こる副反応が存在するためである。
例えば、−78℃においては19時間後において6%の分解であるが、-23℃では1時間で10%以上の分解が見られ、0℃ではさらに分解が速いという実験結果がある(非特許文献2)。また温度だけでなく、溶媒をTHFに変えると、この置換フェニルリチウム化合物の安定性は極端に低下する。
また、1,3−ジクロロベンゼンをTHF中、−50℃〜−70℃で1当量のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液で処理すると2,6−ジクロロフェニルリチウムが生成する。これはハロゲン−リチウム交換反応ではなく、ハロゲンのオルト位のプロトン引抜き反応が起こっていることを示している。さらにこの2,6−ジクロロフェニルリチウムは−50℃までは安定であるが、温度を上げていくと−20℃で発熱があり、1,3−ビス(2,6−ジクロロフェニル)ベンゼンが生成する。このようにハロゲン置換フェニルリチウム化合物又はその出発原料のハロゲン置換ベンゼンのハロゲンが反応した副生成物が確認されている(非特許文献5)。
一方、無置換のフェニルリチウム化合物の製造方法としては以下の特許文献が知られている(特許文献2〜7)。これらに記載された方法は、溶媒、添加物、触媒を工夫することにより、0〜50℃の範囲内の温度で反応を行い、フェニルリチウム化合物の製造を行っている。しかしながら、実施例は無置換のフェニルリチウム化合物又はp−トリルリチウム化合物に関してのみである。
したがって、塩素原子、臭素原子、ハロアルキルなどの置換基をもつ置換フェニルリチウム化合物を工業的に製造しやすい温度で製造する方法は、我々の知る限りこれまで無い。
【特許文献1】特開平7-304707号公報
【特許文献2】国際特許出願公開第2005/082911号パンフレット
【特許文献3】ドイツ特許第10146233号
【特許文献4】米国特許第5626798号
【特許文献5】国際特許出願公開第92/19622号パンフレット
【特許文献6】米国特許第3446860号
【特許文献7】米国特許第3197516号
【非特許文献1】Organic Letters(2004), 6(24),4591-4593
【非特許文献2】J. OrganometallicChem. (1981), 215(3), 281-291
【非特許文献3】J. OrganometallicChem. (2004), 689(19), 3012-3023
【非特許文献4】J.Chem.Soc., Perkin Trans.2:Physical Organic Chemistry(1996), (3), 307-319
【非特許文献5】Synthesis (1988), 803-805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の通り、既存の方法は、塩素原子、臭素原子、ハロアルキルなどの置換基をもつ置換フェニルリチウム化合物を工業的に製造しやすい温度で製造する方法が無く、改善の余地を残している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、このような状況に鑑み、鋭意検討した結果、置換フェニルリチウム化合物を-10℃〜40℃の範囲の工業的に製造しやすい温度で製造する方法を見いだし、発明に至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕式(1):
【0005】
【化1】



【0006】
[式中、X1、X2、X3は、X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、
R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、rは、0〜2の整数を表し、
Yはヨウ素原子又は、臭素原子を表す。]で表される置換フェニルヨウ素化物又は置換フェニル臭素化物を出発原料として、脂肪族又は芳香族炭化水素を溶媒として用い、式(2):
【0007】
【化2】



【0008】
[式中、R2、R3は、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、アルキル基又は互いに末端で結合して2価の炭化水素残基を表す。]で表されるエーテル化合物を添加物として加え、-10℃〜40℃にてリチウム金属、アルキルリチウム、アリールリチウム又はリチウムアミド化合物と反応することによる、式(3):
【0009】
【化3】



【0010】
[式中、X1、X2、X3は前記と同様の意味を表す。]で表される置換フェニルリチウム化合物の製造方法。
〔2〕X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つのうちの1つはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、X1、X2、X3の残りの1つは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、
R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、rは、0〜2の整数を表す、〔1〕記載の製造方法。
〔3〕X1、X2、X3は、塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキルを表し、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、X1、X2、X3のうち1つまでは水素原子でもよい、を表す、〔1〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、医農薬あるいは電子材料等の機能性材料の製造中間体の合成に有用な置換フェニルリチウム化合物を高収率、高選択的に製造することができ、また、その際、-78℃以下の極低温を必要とせず、-10℃〜40℃の範囲の工業的に製造しやすい温度で製造可能な工業的生産に有益な方法を提供できる。また、この方法によって製造した置換フェニルリチウム化合物溶液は安定性が従来知られているものよりはるかに高いため、簡便な保存方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に包含される化合物のうちで、常法に従って酸付加塩にすることができるものは、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸等のハロゲン化水素酸の塩、硝酸、硫酸、燐酸、塩素酸、過塩素酸等の無機酸の塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸の塩、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、酒石酸、蓚酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、マンデル酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、クエン酸等のカルボン酸の塩又はグルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸の塩とすることができる。
或いは、本発明に包含される化合物のうちで、常法に従って金属塩にすることができるものは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩、カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩又はアルミニウムの塩とすることができる。
次に、本明細書において示した各置換基の具体例を以下に示す。ここで、n-はノルマル、i-はイソ、s-はセカンダリー、t-はターシャリーを各々意味し、o-はオルト、m-はメタ、p-はパラを意味し、Phはフェニルを意味する。
本発明化合物におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。尚、本明細書中「ハロ」の表記もこれらのハロゲン原子を表す。
本明細書におけるCa〜Cbアルキルの表記は、炭素原子数がa〜b個よりなる直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を表し、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるCa〜Cbハロアルキルの表記は、炭素原子に結合した水素原子が、ハロゲン原子によって任意に置換された、炭素原子数がa〜b個よりなる直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を表し、このとき、2個以上のハロゲン原子によって置換されている場合、それらのハロゲン原子は互いに同一でも、または互いに相異なっていてもよい。例えばフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、クロロフルオロメチル基、ジクロロメチル基、ブロモフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、ブロモクロロフルオロメチル基、ジブロモフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2-クロロ-2-フルオロエチル基、2,2-ジクロロエチル基、2-ブロモ-2-フルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2-クロロ-2,2-ジフルオロエチル基、2,2-ジクロロ-2-フルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、2-ブロモ-2,2-ジフルオロエチル基、2-ブロモ-2-クロロ-2-フルオロエチル基、2-ブロモ-2,2-ジクロロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、1-クロロ-1,2,2,2-テトラフルオロエチル基、2-クロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエチル基、2-ブロモ-1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、2-フルオロプロピル基、2-クロロプロピル基、2-ブロモプロピル基、2-クロロ-2-フルオロプロピル基、2,3-ジクロロプロピル基、2-ブロモ-3-フルオロプロピル基、3-ブロモ-2-クロロプロピル基、2,3-ジブロモプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-ブロモ-3,3-ジフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,3-ジクロロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2-フルオロ-1-メチルエチル基、2-クロロ-1-メチルエチル基、2-ブロモ-1-メチルエチル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、1,2,2,2-テトラフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、2-フルオロブチル基、2-クロロブチル基、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブチル基、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基、4-クロロ-1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブチル基、2-フルオロ-2-メチルプロピル基、1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-(トリフルオロメチル)プロピル基、2-クロロ-1,1-ジメチルエチル基、2-ブロモ-1,1-ジメチルエチル基、5-クロロ-2,2,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるCa〜Cbハロシクロアルキルの表記は、炭素原子に結合した水素原子が、ハロゲン原子によって任意に置換された、炭素原子数がa〜b個よりなる環状の炭化水素基を表し、3員環から6員環までの単環又は複合環構造を形成することが出来る。また、各々の環は指定の炭素原子数の範囲でアルキル基によって任意に置換されていてもよく、ハロゲン原子による置換は環構造部分であっても、側鎖部分であっても、或いはそれらの両方であってもよく、さらに、2個以上のハロゲン原子によって置換されている場合、それらのハロゲン原子は互いに同一でも、または互いに相異なっていてもよい。例えば2,2-ジフルオロシクロプロピル基、2,2-ジクロロシクロプロピル基、2,2-ジブロモシクロプロピル基、2,2-ジフルオロ-1-メチルシクロプロピル基、2,2-ジクロロ-1-メチルシクロプロピル基、2,2-ジブロモ-1-メチルシクロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロシクロブチル基、2-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル基、3-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル基、4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるCa〜Cbアルコキシの表記は、炭素原子数がa〜b個よりなる前記の意味であるアルキル-O-基を表し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、i-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、i-ブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるCa〜Cbハロアルコキシの表記は、炭素原子数がa〜b個よりなる前記の意味であるハロアルキル-O-基を表し、例えばジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロジフルオロメトキシ基、ブロモジフルオロメトキシ基、2-フルオロエトキシ基、2-クロロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2,-テトラフルオロエトキシ基、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシ基、2-ブロモ-1,1,2-トリフルオロエトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、2,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリクロロ-1,1-ジフルオロエトキシ基、2-ブロモ-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルオキシ基、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルオキシ基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エトキシ基、ヘプタフルオロプロピルオキシ基、2-ブロモ-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルオキシ基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるヒドロキシ(Cd〜Ce)ハロアルキル、Ca〜Cbアルコキシ(Cd〜Ce)ハロアルキル又はCa〜Cbハロアルコキシ(Cd〜Ce)ハロアルキルの表記は、それぞれ前記の意味である任意のCa〜Cbアルコキシ基、Ca〜Cbハロアルコキシ基又は水酸基によって炭素原子に結合した水素原子又はハロゲン原子が任意に置換された炭素原子数がd〜e個よりなる前記の意味であるハロアルキル基を表し、例えば2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ジフルオロ(メトキシ)メチル基、2,2,2-トリフルオロ-1-メトキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル基、ジフルオロ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メチル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-1-(トリフルオロメチル)エチル基、3-(1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエトキシ)-1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロピル基等が具体例として挙げられ、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
本明細書におけるアリールの表記は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレン基又はフェロセンなどのメタロセン基が挙げられる。
式(1)中、X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、Yはヨウ素原子又は、臭素原子を表す。さらにX1、X2、X3としては、好ましくは水素原子、ハロゲン原子及びC1〜C4ハロアルキルが挙げられ、より好ましくは水素原子、塩素原子、臭素原子及びトリフルオロメチル基が挙げられる。このときX1、X2、X3は、互いに同一であっても又は互いに相異なっていてもよい。ただし、X1、X2、X3のすべてが水素原子であるものは除く。
本発明の反応に使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン若しくはメシチレン等の芳香族炭化水素類、又はn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンn−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン若しくはメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられ、好ましくはトルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタン又はシクロヘキサンであり、特に好ましくはトルエン、n−ヘキサン又はn−ヘプタンである。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
斯かる溶媒の使用量は特に限定されないが、置換フェニルヨウ素化物又は置換フェニル臭素化物1重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、特に好ましくは2〜15重量部である。
式(2)で表されるエーテル化合物は、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t-ブチルメチルエーテル、t-ブチルエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-i-プロピルエーテル、ジメトキシエタン又は1,4−ジオキサン等が挙げられ、好ましくはジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジ-i-プロピルエーテル、又は1,4−ジオキサンであり、特に好ましくはt-ブチルメチルエーテル、ジ-i-プロピルエーテル又は1,4−ジオキサンである。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
斯かるエーテル化合物の使用量は、置換フェニルヨウ素化物又は置換フェニル臭素化物1モルに対して、通常0.1〜100倍モル、好ましくは0.3〜10倍モル、特に好ましくは0.5〜2倍モルである。
本発明に係る反応を実施するには、例えば、不活性ガスで置換された反応器に置換フェニルヨウ素化物又は置換フェニル臭素化物、エーテル化合物及び溶媒を所定量仕込み、撹拌下、通常−10〜40℃、好ましくは−10〜10℃でn-ブチルリチウムを滴下し、通常10分〜20時間、好ましくは1〜5時間程度反応させればよい。
反応終了後、場合によっては、置換フェニルリチウム化合物が析出し、ろ過によって分離することができる。また、場合によっては、単離することなく、次の反応に供することができる。また、場合によっては、溶液のまま0℃以下で保存することができる。
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に述べるが、本発明はこれによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
窒素雰囲気下で1−ブロモ−3,5−ジクロロベンゼン1.13g(5.0mmol)をn-ヘプタン11.3gに溶解させ、ジイソプロピルエーテル0.51g(5.0mmol)を加え、-5℃に冷却した。そこに1.6Mのn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液3.19mL(5.1mmol)を0℃以下に保ちながら滴下した。精製水0.5mLに反応液を数滴とり、アセトニトリルで2mLに希釈し、高速液体クロマトグラフィーにて分析した。生成物はGCMSにて同定した。主生成物は1,3−ジクロロ−5−リチオベンゼンの5位がプロトン化された1,3−ジクロロベンゼンであり、高速液体クロマトグラフィーにおける1,3−ジクロロベンゼンの面積百分率は86%であった(UV検出器にて220nmの波長で検出)。
〔実施例2〜7〕
1−ブロモ−3,5−ジクロロベンゼンを表1に示す置換ブロモベンゼン又は置換ヨードベンゼンに変えた以外は実施例1と同様にして反応を行い、それぞれ対応するプロトン化体をGCMSにて同定し、高速液体クロマトグラフィーにおけるプロトン化体の面積百分率を測定した(UV検出器にて220nmの波長で検出)。

【0013】
次に、置換フェニルリチウム化合物を単離することなく、次の反応を行った例を示す。
〔参考例1〕3’,5’−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロアセトフェノン
窒素雰囲気下で1−ブロモ−3,5−ジクロロベンゼン22.59g(100mmol)をn-ヘプタン250mLに溶解させ、ジイソプロピルエーテル10.22g(100mmol)を加え、-5℃に冷却した。そこに1.6Mのn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液63.8mL(102mmol)を0℃以下に保ちながら40分で滴下した。別の容器に、窒素雰囲気下でエチルトリフルオロアセテートを17.76g(125mmol)とn-ヘプタン130mLを仕込み、-5℃に冷却した。そこへ調製した1,3−ジクロロ−5−リチオベンゼンのスラリーを0℃以下に保ちながら30分で滴下した。1時間-5℃にて撹拌した後、10%塩化アンモニウム水溶液107gを加えて、酢酸エチル61gで定量的に分液ろうとに移し、分液した。有機層は水45gを加え、分液した。一方、2つの水層は合わせて、酢酸エチル53gで再抽出し、その有機層と先の有機層を合わせて、溶媒を減圧下留去した。それを減圧蒸留にて精製し、81〜84℃/16mmHgの留分を21.55g得た。これは無色液体で3’,5’−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロアセトフェノンであった。収率89%
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.92 (m, 2H), 7.71 (m, 1H)。
〔参考例2〕3’,4’,5’−トリクロロ−2,2,2−トリフルオロアセトフェノン
窒素雰囲気下で1−ブロモ−3,4,5−トリクロロベンゼン3.08g(10mmol)をn-ヘプタン20mLに溶解させ、ジイソプロピルエーテル1.02g(10mmol)を加え、-5℃に冷却した。そこに1.6Mのn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液6.4mL(10.2mmol)を0℃以下に保ちながら10分で滴下した。そのまま20分撹拌した後、エチルトリフルオロアセテート1.78g(12.5mmol)を加え、さらに1時間撹拌した。10%塩化アンモニウム水溶液20mLを加えて、酢酸エチル30mLで定量的に分液ろうとに移し、分液した。水層を酢酸エチル20mLで再抽出し、その有機層と先の有機層を合わせて、溶媒を減圧下留去した。それをクーゲルロールにて精製し、1.89gの目的物を得た。収率69%
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.71 (s, 2H)。
〔参考例3〕3’,5’−ジクロロ−2−クロロ−2,2−ジフルオロアセトフェノン
窒素雰囲気下で1−ブロモ−3,5−ジクロロベンゼン1.13g(5.0mmol)をn-ヘプタン17mLに溶解させ、ジイソプロピルエーテル0.51g(5.0mmol)を加え、-5℃に冷却した。そこに1.6Mのn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液3.19mL(5.1mmol)を0℃以下に保ちながら滴下した。そこにエチル−2−クロロ−2,2−ジフルオロアセテート0.99g(6.3mmol)を0℃以下に保ちながら加えた。1時間-5℃にて撹拌した後、実施例8と同様の分液操作を行った。溶媒を減圧下留去した後、それをクーゲルロールにて精製し、無色液体の3’,5’−ジクロロ−2−クロロ−2,2−ジフルオロアセトフェノンを0.75g得た。収率58%。
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.97 (m, 2H), 7.68 (m, 1H)。
〔参考例4〕 3−クロロ−5−トリフルオロメチル−1−(1−トリフルオロメチルエテニル)ベンゼン
3−ブロモ−5−クロロベンゾトリフルオライド2.60g及びtert−ブチルメチルエーテル 1.2mLのヘキサン25mL溶液に、−10℃にて攪拌下、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液) 6.38mLを滴下、同温度にて30分間攪拌した後、トリメトキシボラン1.09gのテトラヒドロフラン 10mL溶液を滴下し、滴下終了後同温度にてさらに10分間攪拌を継続した後室温まで昇温した。次いでこの反応混合物に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.60g、炭酸カリウム2.76g、水15mL及び1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム(0)ダイマー 6.5mgを添加し、窒素雰囲気下60℃にて6時間攪拌した。反応完結後、反応混合物を室温まで放冷、不溶物を濾別し有機層を分取、水層はジエチルエーテル30mLにて2度抽出した。有機層を併せて水洗後、飽和食塩水次いで無水硫酸ナトリウムの順で脱水・乾燥、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をヘキサンにて溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物1.50gを橙色油状物質として得た。収率55%。
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.65 (s, 1H), 7.62 (s, 1H), 7.58 (s, 1H), 6.11 (s, 1H), 5.87 (s, 1H)。
〔参考例5〕3,5−ジクロロ−4−フルオロ−1−(1−トリフルオロメチルエテニル)ベンゼン
3,5−ジクロロ−4−フルオロ−1−ヨードベンゼン 2.00g及びtert−ブチルメチルエーテル 0.61gのヘキサン 18mL溶液に、−10℃にて攪拌下、n−ブチルリチウム(1.54Mヘキサン溶液) 5.3mLを滴下、同温度にて30分間攪拌した後、トリメトキシボラン0.57gのテトラヒドロフラン 7mL溶液を滴下し、滴下終了後同温度にてさらに30分間攪拌を継続した後室温まで昇温した。次いでこの反応混合物に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペン 1.80g、炭酸カリウム 1.90g、水 10mL及び1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム(0)ダイマー5mgを添加し、窒素雰囲気下60℃にて15時間攪拌した。反応完結後、反応混合物を室温まで放冷、不溶物を濾別し有機層を分取、水層はジエチルエーテル30mLにて2度抽出した。有機層を併せて水洗後、飽和食塩水次いで無水硫酸ナトリウムの順で脱水・乾燥、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をヘキサンにて溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物1.20gを黄色油状物質として得た。収率67%。
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.40 (d, J=6.3Hz, 2H), 6.04 (s, 1H), 5.79 (s, 1H)
〔参考例6〕 3−クロロ−4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1−(1−トリフルオロメチルエテニル)ベンゼン
3−クロロ−2−フルオロ−5−ヨードベンゾトリフルオライド2.50g及びtert−ブチルメチルエーテル 0.68gのヘキサン 20mL溶液に、−20℃にて攪拌下、n−ブチルリチウム(1.54Mヘキサン溶液) 6.0mLを滴下、同温度にて30分間攪拌した後、トリメトキシボラン0.88gのテトラヒドロフラン 10mL溶液を滴下し、滴下終了後同温度にてさらに30分間攪拌を継続した後室温まで昇温した。次いでこの反応混合物に2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペン 4.00g、炭酸カリウム 2.20g、水 15mL及び1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム(0)ダイマー 30mgを添加し、窒素雰囲気下60℃にて6時間攪拌した。反応完結後、反応混合物を室温まで放冷、不溶物を濾別し有機層を分取、水層はジエチルエーテル 30mLにて2度抽出した。有機層を併せて水洗後、飽和食塩水次いで無水硫酸ナトリウムの順で脱水・乾燥、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をヘキサンにて溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物1.70gを黄色油状物質として得た。収率75%。
1H NMR (CDCl3, Me4Si,300MHz) δ7.69 (d, J=6.3Hz, 1H), 7.58 (d, J=5.7Hz, 1H), 6.10 (s, 1H), 5.83 (s,1H)。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の製造方法は、農薬、医薬、機能材料の製造中間体として有用な化合物である置換フェニルリチウム化合物の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】



[式中、X1、X2、X3は、X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、
R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、rは、0〜2の整数を表し、
Yはヨウ素原子又は、臭素原子を表す。]で表される置換フェニルヨウ素化物又は置換フェニル臭素化物を出発原料として、脂肪族又は芳香族炭化水素を溶媒として用い、式(2):
【化2】



[式中、R2、R3は、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、アルキル基又は互いに末端で結合して2価の炭化水素残基を表す。]で表されるエーテル化合物を添加物として加え、-10℃〜40℃にてリチウム金属、アルキルリチウム、アリールリチウム又はリチウムアミド化合物と反応することによる、式(3):
【化3】



[式中、X1、X2、X3は前記と同様の意味を表す。]で表される置換フェニルリチウム化合物の製造方法。

【請求項2】
X1、X2、X3のうち1つは塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキルを表し、X1、X2、X3の残りの2つのうちの1つはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、X1、X2、X3の残りの1つは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル、-SF5、-OR1、-OSO2R1又は-S(O)rR1を表し、
R1は、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C3〜C8ハロシクロアルキル又はC1〜C3ハロアルコキシ(C1〜C3)ハロアルキルを表し、rは、0〜2の整数を表す、請求項1記載の製造方法。

【請求項3】
X1、X2、X3は、塩素原子、臭素原子、C1〜C6ハロアルキルを表し、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、かつ、X1、X2、X3のうち1つまでは水素原子でもよい、を表す請求項1記載の製造方法。