説明

美容器

【課題】 赤色光を発光する発光ダイオードランプを光源とし、且つ安全性等に係る一定条件の下に、皮膚への照射効果が最も大きい波長での照射が行われる美容器を提供する。
【解決手段】 波長625±5ナノメートルの光を発光する21個の発光ダイオードランプ1をランプ配設板2上に配設し、更に、キャップ3の底面の外表面3aから各発光ダイオードランプの発光点までの距離を10ミリメートルにして、該外表面3a(エネルギー密度が10±1ミリワット/平方センチメートルとなっている)を皮膚に接触して施術する様にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定波長の光を、例えば顔等の皮膚に照射して、当該皮膚の美肌化即ち染み、皺等の改善を図る美容器に係り、特に発光ダイオードランプから発光される赤色光を照射するものに関する。
【背景技術】
【0002】
一定波長の光を皮膚に照射して、当該皮膚の美肌化を図る美容器での光源としては、レーザー、発光ダイオードランプが従来から用いられてきた。しかしレーザーを光源とする美容器では、施術者の経験、習熟度、被施術者の肌質等によっては、肌に火傷、色素沈着等が生じる場合もある。他方、発光ダイオードランプを光源とするものは、自己発熱が少ないため冷却装置を要せず、延いては美容器全体のコンパクト化が可能であるため、近年、美容の分野で広く利用される傾向になってきた。
【特許文献1】特開2005−276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、発光ダイオードランプを光源とする美容器の内でも、赤色光を射出するものは、赤色光の波長が610〜750ナノメートルと比較的長いため照射の影響が真皮の深層にまで到達する。一方、この赤色光の帯域幅は上記のように比較的広く、当該帯域内の各波長での皮膚への作用、効果が全て同じであるということは考えにくい(例えば、610ナノメートルの赤色光と750ナノメートルの赤色光とで、皮膚への効果が同じであるということは考えにくい)。
そこで、赤色光を射出する上記のような美容器の製造に際しては、上記帯域内の何れの波長での照射が、皮膚に対し最も好ましいかを把握し、その波長での照射が行われるようにすることが肝要である。なお、この場合、皮膚に好ましい波長といても、照射エネルギー密度があまりに大きい場合や照射時間があまりに長い場合には、色素沈着、紅班の発生といった好ましくない結果を招くと考えられるので、照射エネルギー密度及び照射時間を、当該美容器の安全性、操作性をも考慮して妥当なものに予め定めておき、それを前提とし、該前提を満たしながらも最も好ましい効果が得られる波長を把握して、その波長での照射が行われる美容器の製造を目指すべきである。
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、赤色光を発光する発光ダイオードランプを光源とし、且つ安全性等に係る一定条件の下に皮膚への好ましい照射効果が最も大きい波長での照射が行われる美容器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
先ず、赤色光の波長帯域(610〜750ナノメートル)中のどのあたりの波長の赤色光が皮膚への最も好ましい効果が得られるかを調べる実験をした。なお、この実験に際しては、照射エネルギー密度及び1回の照射時間を、当該美容器の安全性、操作性等を考慮して、それぞれ10±1ミリワット/平方センチメートル及び10分に固定した。
また、調査対象とする照射光は、波長が610±5ナノメートル(以下、第1波長という)、625±5ナノメートル(以下、第2波長という)、700±15ナノメートル(以下、第3波長という)の光とし、これらの光がそれぞれ照射される下記の各試料を第1試料、第2試料、第3試料という。なお、照射を全く受けないで実験を終える試料を第4試料という。
【0005】
図1は当該実験の手順を説明するための図である。同図(a)に示すように、人間の皮膚に代わるものとしてヒト新生児包皮由来線維細胞(9000cells)を用い、これを培地とともに35ミリメートルシャーレに播種し、37°C、5%CO2の下で培養した。そして、1日に1度だけ、同図(b)、(c)、(d)に示すように、培地を別途回収し、代わりに0.7ミリリットルの緩衝液(HBSS)を添加した上で、上記の細胞に、シャーレ底面での照射エネルギー密度が10±1ミリワット/平方センチメートルになるようにして上方から10分間、各試料毎にそれぞれ上記所定の波長の赤色光を照射した(例えば、第1試料には第1波長の赤色光を照射する)。なお、照射を全く受けないことになっている第4試料は、同図(d)の状態で特定波長光での照射は受けずに緩衝液中に放置された。
【0006】
上記照射処理後には、同図(e)、(f)に示すように緩衝液を除去し、その上で同図(g)に示すように、回収しておいた培地を再び戻した。
以上のような24時間即ち1日間に亘る一連の培養及び照射処理を7日間繰返した。なお、3日目だけは、同図(g)に示すように回収しておいた培地を戻すのではなく、培地交換をした。
【0007】
次いで、上記のような培養及び照射処理を施した各試料での照射の効果について調べた。
先ず、細胞播種から6日目及び7日目における細胞数を計数した。計数結果を図2に示す。同図から分かるように、培養6日目及び7日目において、波長625±5ナノメートルの光を照射された第2試料は、非照射の第4試料に比べ有意に細胞増殖能が認められるが、他の波長の光を照射された試料では、上記第4試料との差は認められない。
次いで、波長625±5ナノメートルの光を照射された第2試料と非照射の第4試料との7日目の培地を回収し、−20°Cで保存の上、培養上清中のヒアルロン酸量をELISA法により測定した。測定結果を図3に示すが、同図から分かるように、波長625±5ナノメートルの光を照射された第2試料ではヒアルロン酸量に増加傾向が認められる。
以上のような実験結果より、照射エネルギー密度及び1回の照射時間を、当該美容器の安全性等を考慮して、それぞれ10±1ミリワット/平方センチメートル及び10分に固定した場合には、皮膚への好ましい照射効果が最も大きい波長は625±5ナノメートル程度ということになる。
【0008】
請求項1の発明では、上記のような知見に基づき、美容を目的として皮膚に発光ダイオードランプからの光を照射する美容器を以下のように構成した。
すなわち、波長が625±5ナノメートルの光を発光する複数の発光ダイオードランプが平板状のランプ配設板上に配設されてなる光源部と、
上記複数の発光ダイオードランプの発光部から当該発光ダイオードランプにより照射される皮膚までの距離を、当該皮膚上における光照射エネルギー密度が10±1ミリワット/平方センチメートルになる距離に保つために用いられる間隔保持部と、
所定のスイッチ入力を得て、上記複数の発光ダイオードランプへの電源供給を開始して当該複数の発光ダイオードランプの発光を開始させ、上記スイッチ入力があった時から10分の時間の経過があった時には、上記電源供給を停止して上記発光を停止する照射時間制御部とを備える構成とした。
【0009】
請求項2の発明では、上記間隔保持部を上記光源部を覆う状態で冠着されるキャップとし、皮膚に接触することになるその底面部は、比較的薄い光透過性透明材料製で、冠着状態で上記複数の発光ダイオードランプの発光部からの距離が前記所望距離にある平面になっているものとした。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したように、本願発明は、赤色光を発光する発光ダイオードランプを光源とし、且つ安全性等に係る一定条件の下に皮膚への好ましい照射効果が最も大きい波長での照射が行われる美容器にかかるものであるから、皮膚への好ましい照射効果即ち皮膚真皮の線維芽細胞の活性化及びそれによるヒアルロン酸の増加延いては皺等の改善に有効な美容器の提供を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。図4は、本実施の形態の要部である光源部10の構成及び当該光源部10と把持筐体部20との位置関係を示すものである。同図(a)は、当該光源部10を正面から見たときのもの即ち正面図である。各々総出力が0、4ワットで、波長が625±5ナノメートルの光を発光する21個の発光ダイオードランプ1(なお、同図では、3個の発光ダイオードランプだけが描かれており、他の18個についての描画は省略されている)は、円板状のランプ配設板2上の直径40ミリメートルの円周に沿って配設されている。該発光ダイオードランプ1は、透明なキャップ3を介して正面側から観察できる。
【0012】
同図(b)は、上記光源部10及び上記把持筐体部20を側面から見たときの側面図である。なお、キャップ3だけは、上記の図4(a)の中心線に沿って切断したときの切断側面図になっている。該キャップ3の底面の外表面3aから各発光ダイオードランプの発光点位置までの距離即ち前述の所望距離は10ミリメートルになっている。従って、上記21個の発光ダイオードランプに電源が供給されてこれらが点灯されたときには、上記外表面3a上でのエネルギー密度は10±1ミリワット/平方センチメートルとなる。なお、図示しない所定のスイッチが操作されたときは、把持筐体部20内の図示されないコントロール回路部中の照射時間制御部により、上記各発光ダイオードランプが点灯し、その後10分の経過があったときに消灯される。
【0013】
以上のように構成された上記実施の形態を利用して顔等の皮膚に施術を施す場合には、上記キャップ3の外表面3aを該皮膚に接触させながら上記スイッチを操作することになる。これにより、上記皮膚には波長が625±5ナノメートルの光が、10±1ミリワット/平方センチメートルのエネルギー密度で10分間照射されることになり、当該皮膚に出来ている皺等の改善が行われる。
【0014】
上記実施の形態を実際の施術に使用したときの顔の皮膚の改善程度を計測すると以下のようになった。即ち、上記実施の形態を用いての10分間の施術を週3回の割合で、13回行い、その13回の施術の前後での顔の皺の状態は、図5のaの線に沿っては5点から3点へ(この場合、aの線と皺との接点数を点数としている。以下においても同様)、bの線に沿っては4点から3点へ、cの線に沿っては5点から3点へと減少し、改善が見られる。
また、上記13回の施術の前後での目尻の皺の長さは1から0.82へと減少した。
【0015】
上記の実施の形態では、前記間隔保持部を透明なキャップ3としているが、これに限られず、例えば、キャップ3の底面に相当する部分がない筒状のものでもよい。
なお、本願発明の範囲は、上記実施の形態に限定されず、種々変形応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、皮膚に光を照射して該皮膚の状態を改善する美容器を製造する産業において利用される可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】皮膚への最も好ましい効果が得られる波長を調べるための実験の手順を説明する図である。
【図2】上記実験の結果を示す図である。
【図3】上記実験の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における光源部の構成を示す図である。
【図5】上記実施の形態を利用した施術の結果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0018】
1 発光ダイオードランプ
2 ランプ配設板
3 キャップ
3a 外表面
10 光源部
20 把持筐体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
美容を目的として、皮膚に発光ダイオードランプからの光を照射する美容器であって、
波長が625±5ナノメートルの光を発光する複数の発光ダイオードランプが平板状のランプ配設板上に配設されてなる光源部と、
上記複数の発光ダイオードランプの発光部から当該発光ダイオードランプにより照射される皮膚までの距離を、当該皮膚上における光照射エネルギー密度が10±1ミリワット/平方センチメートルになる距離(以下、所望距離という)に保つために用いられる間隔保持部と、
所定のスイッチ入力を得て、上記複数の発光ダイオードランプへの電源供給を開始して当該複数の発光ダイオードランプの発光を開始させ、上記スイッチ入力があった時から10分の時間の経過があった時には、上記電源供給を停止して上記発光を停止する照射時間制御部とを備えることを特徴とする美容器。
【請求項2】
上記間隔保持部は、上記光源部を覆う状態で冠着されるキャップからなり、皮膚に接触することになるその底面部は、比較的薄い光透過性透明材料製で、冠着状態で上記複数の発光ダイオードランプの発光部からの距離が上記所望距離にある平面になっていることを特徴とする請求項1記載の美容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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