説明

耐アルコール性に優れた皮革様シート及びその製造方法

【課題】アルコールに接触しても色落ちがしにくく、屈曲性を良好に維持できる皮革様シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】着色剤を含有する銀面層を有し、所定の特性を有するシリコン変性ポリウレタン樹脂が、銀面層表面にドット状に塗布されてなり、1のドットと他のドットとの間の平均最短距離が10〜100μmである皮革様シート及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐アルコール性に優れた皮革様シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然皮革代替物として、繊維集合体と高分子弾性体からなる基材表面にコート層を積層した銀付調人工皮革が、軽さ、イージーケアー、低価格などの特徴から、衣料用や一般資材等に幅広く利用されている。
このような人工皮革では、用途や意匠性を考慮して、表面に顔料等を練りこむことで種々の着色がなされている。
上記のような着色がなされた人工皮革に対し、例えば汚れを落とそうとして、アルコールをつけた布で表面を拭くと色落ちすることがあった。この色落ちを防止できる人工皮革については、有効な技術が見出されていなのが現状である。
【0003】
例えば、耐溶剤性という観点から、分子の側鎖および/又は末端に加水分解性シリル基を有する架橋可能なポリウレタンと有機溶剤とからなるか、あるいは、これらと加水分解性シリル基の加水分解ないしは縮合用の触媒とからなる、架橋性ポリウレタン樹脂を用いた人工皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、当該人工皮革は着色剤を含有させることを前提としていないため、着色剤を入れると色落ちが避けられない。また、架橋を行うため、コート層に使用すると硬くなり、屈曲性が低下してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−60783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルコールに接触しても色落ちがしにくく、屈曲性を良好に維持できる皮革様シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のシリコーン変性ポリウレタン樹脂を所定の条件でドット状(点状)に塗布、すなわち、当該塗布領域を全面とせずに点在させることで、(1)シリコーン変性ポリウレタン樹脂による耐アルコール性を十分に発揮させながら、(2)全面に塗布することで生じる屈曲性低下の問題を解消できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
[1] 着色剤を含有する銀面層を有し、下記特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂が、前記銀面層表面にドット状に塗布されてなり、1のドットと当該ドットに最も近い他のドットとの間の平均最短距離が10〜100μmである皮革様シートである。
【0008】
特性A:前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、10cm角のフィルムとし、これを99.5%のエタノール中に10分浸漬した後の膨潤率が20%以下である。
特性B:前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、幅2.5cmのフィルムとした際の当該フィルムの100%モジュラスが10MPa以上である。
【0009】
[2] 上記特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂を、着色剤を含有する銀面層表面にドット状に塗布する塗布工程を含み、当該塗布工程でドット状に塗布する際のドットとこのドットに最も近いドットとの間の平均最短距離を10〜100μmとする皮革様シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコールに接触しても色落ちがしにくく、屈曲性を良好に維持できる皮革様シート及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮革様シート(人工皮革)は、銀面層を有し、当該銀面層上に後述する特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂が、ドット状(点状)に塗布されてなる。そして、1のドットとこれに最も近い他のドットとの間の平均最短距離が10〜100μmとなっている。
【0012】
シリコン変性ポリウレタン樹脂が、ドット状で、かつ1のドットとこれに最も近い他のドットとの間の平均最短距離が10〜100μmとなるように塗布されてなることで、屈曲性を良好な状態に維持できる。その結果、風合いの優れる皮革様シートとすることができる。また、アルコールが付着した時には、ポリウレタン樹脂が適度に膨潤してドットとドットの隙間がふさがる傾向があり、アルコールによる色落ちを防ぐことができる。
【0013】
上記「平均最短距離」の「平均」とは、任意の5個の最短距離の平均をいう。平均最短距離は、走査型電子顕微鏡撮影を行い、任意の5個のドットにおいて、隣り合うドットのうち最短距離を測定し、それら5個の最短距離の平均値をいう。そして最短距離とは、ドットの中心からの距離ではなく、ドットの外周とそれに隣り合うドットの外周の最短距離をいう。後述する実施例に記載のとおりにして求めることができる。
なお、平均最短距離は10〜100μmするが、20〜60μmであることが好ましい。
【0014】
また、ドットの占有面積率は、50〜90%であることが好ましく、70〜80%であることがより好ましい。50〜90%とすることで、風合い、耐屈曲を損なうことなくアルコールが接触しても色落ちがしにくい。
上記占有面積率は、例えば、皮革様シートの銀面層の表面部分を電子顕微鏡で撮影し、中央部の1mm×1mmの領域に存在するドットの合計面積から求めることができる。
さらに、ドットの円相当平均径は、100〜300μmであることが好ましく、150〜250μmであることがより好ましい。
【0015】
本発明の係るシリコン変性ポリウレタン樹脂が具備すべき特性は下記の通りである。
・特性A:シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、10cm角のフィルムとし、これを99.5%のエタノール中に10分浸漬した後の膨潤率が20%以下である。膨潤率が20%を超えると、耐アルコール性が低下する傾向があり、アルコールに接触したときに色落ちが発生する場合があると共に表面を構成するポリウレタン樹脂層が変形、脱落する場合がある。ここで、膨潤率とは、面積膨潤率のことで後述する実施例に記載のとおりにして求めることができる。
膨潤率は、−5〜20%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましい。
【0016】
・特性B:シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、幅2.5cmのフィルムとした際の当該フィルムの100%モジュラスが10MPa以上である。100%モジュラスが10MPa未満では、ポリウレタン樹脂の耐溶剤性や機械物性が低くなり、耐磨耗性が低下するとともにアルコールに接触したときに色落ちが発生してしまう。ここで、100%モジュラスは、後述する実施例に記載のとおりにして求めることができる。
100%モジュラスは、10〜20MPaであることが好ましく、12〜18MPaであることがより好ましい。
【0017】
上記特性A及びBを具備するシリコン変性ポリウレタン樹脂は、例えば、分子側鎖や末端にオルガノポリシロキシル基を導入する等、従来公知の方法で得られる。
例えば、膨潤率を所望の値にするには、ポリウレタンの耐溶剤性を高める公知の方法を採用することが可能であり、ポリウレタンの組成としてのハードセグメント、ジオールの種類および窒素%を適宜変更することで所望の値とすることができる。また、架橋剤等を添加することも可能である。すればよく、100%モジュラスを所望の値にするには、 ポリウレタンを公知の方法で容易に調整することが可能である、例えば数平均分子量500〜2500のポリマージオール、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステル・エーテルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどの中から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートなどの群から選ばれた少なくとも1種類の有機ポリイソシアネートと、活性水素原子を少なくとも2個有する低分子化合物、例えば低分子ジオール、低分子ジアミン、ヒドラジンやジカルボン酸ジヒドラジド等の活性水素原子含有低分子化合物を鎖伸長剤として、上記100%モジュラスが10MPa以上となるようなモル比で反応させればよい。
【0018】
本発明に係る銀面層には着色剤が含有されており、赤、黄、緑、青等のような色が付けられている。当該着色剤としては、特に限定されないが、公知の有彩色の顔料や白色顔料等が挙げられる。
なお、「有彩色」とは、赤、橙、黄、緑、青、青紫、紫、赤紫、およびこれらの中間色の様に、色相を有する色をいい、単に明度のみからなる黒色および白色は含まない。
【0019】
本発明に係る銀面層は、例えば、繊維質基材の表面に形成される。
繊維質基材としては、編織物、不織布又は繊維絡合体(3次元絡合不織布)が好ましく使用される。繊維質基材には高分子弾性体が含浸されていることが好ましい。高分子弾性体が含浸された繊維絡合体とその表面に形成された被覆層を有する繊維質基材がより好ましく使用される。特に、3次元絡合不織布(繊維絡合体)の内部にスポンジ状(多孔質)の高分子弾性体が含有されていることが好ましい。スポンジ状であると、皮革様シート表面のタッチ、風合いが柔軟となる。
【0020】
編織物、不織布および繊維絡合体を構成する繊維は、従来公知の天然繊維、合成繊維および半合成繊維から選ばれる。工業的には公知のセルロース系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維等を単独又は2種以上を混合して使用することが品質安定性、価格等の面から好ましい。本発明においては、特に限定されるものではないが、より天然皮革に近い柔軟な風合いを実現できる極細繊維が好ましく、平均繊度が好ましくは0.0001〜0.3dtex、より好ましくは0.0001〜0.1dtexである極細繊維が好ましく用いられる。
【0021】
このような極細繊維を得る方法としては、(a)目的とする平均繊度の極細繊維を直接紡糸する方法、及び(b)一旦目的とする繊度より太い極細繊維発生型繊維を紡糸し、次いで目的とする平均繊度の極細繊維に変成する方法が挙げられる。極細繊維の取り扱いは困難であることが多いので、製造工程の後半で極細繊維発生型繊維を極細繊維に変成する方法(b)が好ましい。
【0022】
方法(b)では、相溶性を有していない2種以上の熱可塑性ポリマーを複合紡糸又は混合紡糸して極細繊維発生型繊維を得、極細繊維発生型繊維からポリマー成分の少なくとも一つを抽出除去又は分解除去するか、あるいは、ポリマー成分の界面でポリマーを分割剥離することにより極細繊維に変成するのが一般的である。除去可能ポリマー成分を含む極細繊維発生型繊維としては海島型繊維、多層積層型繊維などが挙げられる。海島型繊維の場合には海成分ポリマーを抽出除去又は分解除去することにより、また多層積層型繊維の場合には少なくとも何れかの積層ポリマー成分を抽出除去又は分解除去することにより、島成分(非除去ポリマー成分)からなる極細繊維束が得られる。抽出又は分解除去に使用される溶剤としては、島成分(非除去ポリマー成分)は溶解せず海成分ポリマーが溶解する溶剤であればよく、実用的には、水、トルエン等が挙げられる。また、ポリマー成分の界面で剥離分割するタイプの極細繊維発生型繊維としては、花弁状積層型繊維や多層積層型繊維などが挙げられ、物理的処理又は化学的処理により、積層する異種ポリマー成分間の界面で相互に剥離させることにより極細繊維束を得ることができる。
【0023】
海島型繊維又は多層積層型繊維の島成分ポリマーとしては、溶融紡糸可能で、強度等の繊維物性が十分なポリマーであって、紡糸条件下で海成分ポリマーより溶融粘度が大きく、かつ表面張力が大きいポリマーが好ましい。このような島成分ポリマーとしては、例えばナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−612等のポリアミド及びこれを主体とする共重合体、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル及びこれを主体とする共重合体等が好適に用いられる。
【0024】
海島型繊維又は多層積層型繊維の海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーよりも溶融粘度が低く、溶剤に対する溶解性又は分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きく、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、変性ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、変性ポリエステル、ポリビニルアルコール系樹脂などが好適に用いられる。海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いると、有機溶剤を用いることなく銀付調皮革様シートを製造することができるので特に好ましい。
【0025】
上記水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
【0026】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
【0027】
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
【0028】
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0029】
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/又はビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
【0030】
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a,a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤又は過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
【0031】
繊度0.3dtex以下の極細繊維を好適に発生させる極細繊維発生型繊維、すなわち海島型繊維の好適な海島体積比率は、海/島=30/70〜70/30の範囲であり、好ましくは40/60〜60/40の範囲である。海成分が30%以上であれば、溶剤又は分解剤などで溶解又は分解除去する成分の量が十分なので、得られる皮革様シートの柔軟性を十分に発現させることできる。そのため、柔軟剤等の処理剤を過剰に使用するなどの対策も必要としない。過剰量の処理剤使用は、引裂き強力などの機械的物性の低下、他の処理剤への影響、タッチへの影響、耐久性の悪化などの諸問題を生じるために好ましくない。また、海成分が70%以下であれば、溶解又は分解除去後の島成分からなる繊維の絶対量が十分であるため、得られる皮革様シートは十分な機械的物性を有する。また、溶解又は分解除去する成分が多すぎないため、除去不良による品質のばらつきや、多量に発生した除去成分の処理などの問題を生じることもなく、生産速度やコスト面などの生産性の観点からも適切であり、工業的に望ましい。極細繊維発生型繊維(海島型繊維)は海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は180〜350℃が好ましい。極細繊維発生型繊維の平均繊度は1〜10dtexであることが好ましく、該繊維の断面において島数は10〜10000個であることが好ましい。
【0032】
従来の人工皮革などの製造においては、極細繊維発生型長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維発生型長繊維)をカットすることなく用いてもよい。従って、本発明では、極細繊維発生型短繊維又は極細繊維発生型長繊維を用いてカード法、抄紙法、スパンボンド法など従来公知の方法により繊維ウェブを製造することができる。
【0033】
次いで、前記繊維ウェブに絡合処理を施して繊維絡合体(3次元絡合不織布)を製造する。絡合方法としては、ニードルパンチ法、スパンレース法など従来公知の諸方法を単独、あるいは組み合わせることが可能である。特に好ましい方法は、紡糸して得られた極細繊維発生型長繊維を1.5〜5倍程度に延伸した後、機械捲縮を付与し、3〜7cm長程度にカットして短繊維とした後、これをカードで解繊してウェッバーを通して所望の緻密さの繊維ウェブを形成し、得られた繊維ウェブを所望の重さに積層し、次いで、1つあるいは複数のバーブを有するニードルを使用し、300〜4000パンチ/cm2程度でニードルパンチングすることにより厚み方向に繊維を絡合させる方法である。繊維絡合体の目付は製品目付に応じて調整すればよいが、以降の工程通過性や作業性の点で200〜1000g/m2であるのが好ましい。
【0034】
次いで、得られた繊維絡合体に、必要に応じて、ディップニップ法、ナイフコート法、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法などの公知の方法により、高分子弾性体の溶液又は分散液を含浸させ、次いで、乾式法や湿式法によってスポンジ状に多数の空隙を生じるように高分子弾性体を凝固させる。用いることのできる高分子重合体としては、皮革様シートの製造に一般的に用いられている公知の高分子重合体が何れも使用可能であり、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ゴム系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂、およびこれらの変成物、共重合物もしくは混合物等が好適な例として挙げられる。
【0035】
高分子弾性体は、水分散液又は有機溶剤溶液として繊維絡合体に含浸するのが好ましい。水分散液を使用した場合は主に乾式法(50〜150℃)によりゲル化、固化させ、有機溶剤溶液を使用した場合は主に湿式法により、高分子弾性体をスポンジ状に凝固させる。湿式凝固では、有機溶剤溶液を含浸した繊維絡合体を高分子弾性体の貧溶剤を含む処理浴中に浸漬し、高分子弾性体を多孔質状に凝固させる。高分子弾性体の貧溶剤としては水が好ましく用いられるが、水にジメチルホルムアミド等の高分子弾性体の良溶剤を混合した処理浴を用いると、その混合比率を適宜設定することにより凝固状態、即ち多孔質状態や形状などの制御が可能なので好ましい。水分散液を使用する場合は、感熱ゲル化剤を添加しておくと、乾式法、あるいはこれにスチーミングや遠赤外加熱などの方法を組み合わせることで厚み方向により均一な凝固が可能である。有機溶剤を使用する場合は、凝固調整剤を併用することで、より均一な空隙を得ることができる。前記有機溶剤の例としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。繊維絡合体、とりわけ3次元絡合不織布に含浸した高分子重合体をスポンジ状に凝固させることにより、天然皮革に類似した風合いを得ることができる。
【0036】
本発明においては、極細繊維絡合体と高分子弾性体からなる複合体(繊維質基材)の風合いや諸物性のバランスなどの点から、ポリウレタン系樹脂が高分子弾性体として好ましく使用される。ポリウレタン系樹脂としては、例えば、平均分子量500〜3000の少なくとも1種類のポリマージオール、少なくとも1種の有機ジイソシアネート、および少なくとも1種類の鎖伸長剤とを所定のモル比で反応させることにより得られる各種のポリウレタンが挙げられる。ポリマージオールとしては、例えば、ポリエステルジオ−ル、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。有機ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの芳香族系、脂環族系、脂肪族系の有機ジイソシアネートが挙げられる。鎖伸長剤としては、例えば、ジオール、ジアミン、ヒドロキシアミン、ヒドラジン、ヒドラジドなどの活性水素原子を少なくとも2個有する低分子化合物が挙げられる。ポリウレタンは、必要に応じて、複数種のポリウレタンの混合物でもよく、また合成ゴム、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニルなどの重合体を添加して得た重合体組成物を用いてもよい。
【0037】
上記の極細繊維発生型繊維を使用する場合には、高分子弾性体の溶液又は分散液を含浸、凝固させた後、又は、含浸、凝固させる前に、極細繊維化処理して極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成する。高分子弾性体を凝固させた後に極細繊維化処理をした場合には、特に海島型繊維であれば、海成分ポリマーが除去されて極細繊維束と高分子弾性体との間に空隙が生じ、高分子弾性体による極細繊維束の拘束が弱くなるので、得られる皮革様シートの風合いがより柔らかくなるので、この方法は本発明において好ましく採用される。一方、高分子弾性体を含浸、凝固させる前に極細繊維化処理をした場合には、高分子弾性体により極細繊維束が強く拘束されるため、得られる皮革様シートの風合いがより硬くなる傾向がある。しかし、繊維絡合体中の高分子弾性体比率を少なくすることで硬くなる傾向は抑えることが十分に可能であり、繊維の比率がより高く、充実感のあるしっかりした風合いを目的とする場合には好ましい方法である。極細繊維の繊維束の平均繊度は1〜10dtexが好ましい。
【0038】
本発明で用いる繊維質基材の厚さは目的とする用途や風合いなどに応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、好ましくは0.4〜3.0mmである。
また、繊維質基材中の極細繊維と高分子弾性体との質量比は、必要な物性や風合いに応じて適宜選択すればよく、本発明の効果を得る上で本質的な特徴ではないが、通常、35/65〜90/10である。
【0039】
繊維質基材の表面において、着色剤を含有する銀面層(以下、単に「銀面層」ということがある)を形成する方法としては、従来公知の各種の方法を単独あるいは組み合わせで採用できる。例えば、顔料および高分子弾性体の分散液を塗工液として準備し、ナイフ、バー、ロールなどのコーターを用いる場合は、先に過剰量の塗工液を繊維質基材上へ供給し、基材とコータ−との間に設定した一定のクリアランスによって計量した量だけを基材表面に塗布し、乾式法あるいは湿式法で凝固、固化させる方法が挙げられ、また、グラビアロールコータ−やコンマコータ−、スプレーコーターなどを用いる場合は、予め計量した必要量の塗工液を基材表面に塗布し、同様に乾式法や湿式法で凝固、固化させる方法が挙げられる。銀面層は必ずしも多孔質にする必要はないが、必要に応じて、湿式法で多孔質状に凝固させてもよい。繊維質基材が繊維絡合体と高分子弾性体からなる複合体である場合は、繊維質基材に含浸させる高分子弾性体の凝固と銀面層を形成する高分子弾性体の凝固とが同時に完了する方法を採用すると、凝固後の乾燥を1回で済ませることができる上、得られた皮革様シートにおいて繊維質基材と銀面層との一体感が得られやすい。
【0040】
繊維質基材の表面に銀面層を形成する他の方法としては、顔料および高分子弾性体の分散液を塗工液として準備し、フィルムや離型紙などの転写剥離シートに既述のナイフコーターなどで後計量しつつ所定量の塗工液を塗布して、上記と同様の乾式法や湿式法などの方法にて高分子弾性体をフィルム状又は多孔質状態に凝固させ、乾燥固化させた後、これを繊維質基材上に接着剤を介して接着する方法や、高分子弾性体の溶剤を含む処理液を使用して再溶解させた高分子弾性体により接着するなどして基材に貼りあわせ一体化させる方法、剥離転写シート上の塗工液が凝固、固化する前に基材に貼りあわせる方法などが挙げられ、その後で剥離転写シートを剥離することで剥離転写シート表面に賦形されていた凹凸模様や鏡面状態などが転写された銀面部が得られる(転写剥離法)。
【0041】
銀面層を形成する高分子弾性体としては、例えば、合成ゴム、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂等が使用可能である。これらの中でも、弾性、ソフト性、耐摩耗性などのバランスの点から、繊維絡合体に含有させる高分子弾性体と同様にポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。
【0042】
銀面層形成用のポリウレタン系樹脂は、上記した繊維絡合体に含有させるポリウレタン系樹脂と同様の樹脂から選択される。必要に応じて複数種のポリウレタン系樹脂の混合物を用いてもよく、また、合成ゴム、ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニルなどの重合体を添加してポリウレタンを主体とした重合体組成物を使用することもできる。耐加水分解性、弾性などの点で、ポリマージオール成分が主としてポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル系ポリマージオールであるポリウレタン系樹脂が好ましい。
【0043】
繊維質基材上に塗布する顔料および高分子弾性体の分散液には、耐光剤、分散剤などの添加剤が、単独あるいは複数種が組み合わされて目的に応じて適宜添加される。また、その他の添加剤として、多孔質の形状を制御するために、乾式発泡させる場合の発泡剤の他にも、湿式凝固させる場合の凝固調節剤などを必要に応じて選択し、単独あるいは数種を組み合わせて添加してもよい。
【0044】
繊維質基材表面に銀面層を形成する方法としては、上記した顔料および高分子弾性体を含む分散液を塗布する方法および該分散液を用いた転写剥離法に加えて、高分子弾性体からなる被覆層を形成した後、顔料および高分子弾性体を含む別の塗工液を被覆層表面に塗布して顔料と高分子弾性体からなる表面層をさらに形成する方法が挙げられる。
【0045】
銀面層が顔料および高分子弾性体を含む層(表面層)のみである場合、銀面層の厚さは、目的とする用途や風合いなどに応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05〜1mmである。銀面層の厚さが0.05mm以上であれば、耐磨耗性などの最低限必要な機械的物性を確保することができるので好ましい。一方、銀面層の厚さが1mm以下であれば、軽量化を図ることができる。
【0046】
銀面層が顔料および高分子弾性体を含む表面層と顔料を含まず高分子弾性体からなる被覆層から構成される場合、表面層の厚さは、好ましくは0.01〜0.8mm、より好ましくは0.03〜0.5mmであり、被覆層の厚さは、好ましくは0.001〜0.5mm、より好ましくは0.01〜0.3mmである。表面層と被覆層の厚さの合計は、好ましくは0.05〜1mm、より好ましくは0.1〜0.8mmである。なお、ここで表面層上に被覆層を形成しても被覆層へのアルコールの接触による色落ちの抑制は十分ではなく、色落ちを抑制するためには本発明の特性Aおよび特性Bを兼ね備えたシリコン変性ポリウレタン樹脂をドット状に塗布する必要がある。
【0047】
また、銀面層の好ましい厚さを決定する要因としては、前記した用途からくる絶対的な要求以外にも、皮革様シート全体の厚さにおける繊維質基材の厚さとのバランスも重要であり、経験的には銀面層と繊維質基材との厚さの比は0.01:99.9〜60:40の範囲が好ましい。銀面層の割合が0.01より大きいと、風合いにおいて銀面層の存在が十分に感じられることとなり、また60より小さいと、風合いにおいて銀面層が主体となったいわゆるゴムライクな皮革様シートになることが避けられる。
【0048】
銀面層を形成した後は、既述の特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂を、着色顔料を含有する銀面層表面にドット状に塗布する(塗布工程)。
当該塗布工程では、ドット状に塗布する際のドットとこのドットに最も近いドットとの間の平均最短距離を10〜100μmとする。このドット状に塗布する方法としては、スプレー塗布やグラビア塗布が挙げられるが、生産性やドット間隔、ドット径の制御のしやすさを考慮すると、既述の特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂の付着状態とグラビアロールのメッシュとで平均最短距離を好適に制御できる点からグラビア塗布を適用することが好ましい。既述の特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタンの付着量は、色落ちを防止しやすい点から、1〜10g/m2の範囲が好ましい。
なお、本発明の効果を損なわない限り、既述の特性A及びBを有するシリコン変性ポリウレタン樹脂がドット状に塗布された表面に所望の樹脂を付与しても良い。
【0049】
以上のような本発明の皮革様シートは、背負い鞄、携帯電話ケースの上張り、車両の内装、ハンドルカバー、インテリア等に好適である。
特に、当該皮革様シートは背負い鞄に好適であり、背負い鞄としてはランドセルが挙げられる。例えば、当該皮革様シートをランドセルに使用する場合は、冠部と称されているカバー部分の表面材として極めて適しており、さらに襠部と称されている横部分(厚さ部分)、肩紐部、前段部(冠部を持ち上げると現れるランドセル前面部)などにも適している。
【実施例】
【0050】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に説明しない限り、実施例及び比較例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0051】
実施例及び比較例で行った評価及び測定は下記の通りである。
(1)アルコールによる色落ち評価:
クロッキングメーターを用い、99.5%エタノールに浸漬したガーゼで、100回往復させ、ガーゼの着色具合を、グレースケール(汚染用)を用いて判定した。級が大きいほど色落ちが少ない。
(2)屈曲性の評価:
Bally Flexo meterを使用し、常温(20℃65%RH)で繰返し屈曲させ、亀裂が生じるまでの回数を測定した。30万回以上であれば、良好な屈曲性が維持できているといえる。
(3)銀面層上に塗布するポリウレタン樹脂をフィルムとした際の当該フィルムのアルコール膨潤率の測定:
厚さ50μmのフィルムを作製し、10cm角のサンプルを99.5%エタノール中に浸漬し、10分後の面積膨潤率を測定した。面積膨潤率は、「浸漬後のサンプルの面積/浸漬前のサンプルの面積(=10cm×10cm)×100」から求めた。
(4)銀面層上に塗布するポリウレタン樹脂をフィルムとした際の当該フィルムの100%モジュラスの測定:
フラットな剥離紙上に厚さ50μmのフィルムを作製し、厚さ斑がない部分を2.5cm巾長さ100mmで切り取りサンプルとした。オートグラフにより測定し、フィルム100%伸張時の応力から求めた。
(5)占有面積率の測定:
ドットの占有面積率は、皮革様シートの銀面層の表面部分を電子顕微鏡(SEM)で撮影し、中央部の1mm×1mmの領域に存在するドットの合計面積から求めた。
【0052】
(実施例1)
6−ナイロン45部(海成分)とポリスチレン55部(島成分)からなる海島型複合繊維を溶融紡糸により得た。これを3倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけた後、乾燥した。得られた捲縮繊維を51mmにカットして3デシテックスのステープルとしウェブを形成した後に、両面から交互に合わせて約500パンチ/cm2のニードルパンチングを行って絡合不織布を得た。
【0053】
この絡合不織布の目付は350g/m2、見かけ比重は0.17であった。この絡合不織布をポリビニルアルコールの4%水溶液で処理し、厚さを約1.3mmに圧縮固定し、表面をバフ掛けして平滑化した。これに、13%濃度のポリエステル系ポリウレタンを主体とするポリウレタンのジメチルホルムアミド(以下、DMFと称す。)溶液を含浸した。さらにその表面に同じポリウレタンエラストマー溶液を固形分で100g/m2になる量塗布し、次いで、DMF/水の混合液の中に浸してポリウレタンを多孔質状に湿式凝固した後、熱トルエン中で島成分を溶出除去して複合繊維を中空繊維に変換し、ポリウレタン多孔質層を備えた繊維質基材を得た。
【0054】
剥離紙(大日本印刷株式会社製DE−125)の上に、無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン溶液(樹脂分25%)100質量部、レザミンDUTレッド(大日精化工業株式会社製)20質量部、DMF30質量部、及び、メチルエチルケトン30質量部を含む溶液を乾燥後の厚さが15μmになるように塗布し、乾燥して銀面層の最表層となるポリウレタン最表層を形成した。
【0055】
得られたポリウレタン最表層上に、1液型ポリエーテル系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製 レザミンME8116)100質量部およびレザミンDUTレッド20質量部を含むDMF溶液を乾燥後の厚さが20μmになるように塗布し、乾燥して、ポリウレタン中間層を形成した。
【0056】
さらに中間層の上に、架橋型ポリウレタン系接着剤溶液組成UD8310改(大日精化工業株式会社製)100質量部、D−110N(武田薬品株式会社製)10質量部、DMF5質量部、酢酸エチル10質量部からなるポリウレタン系接着剤溶液を240g/m2(純分130g/m2)塗布し、70℃で15秒間乾燥し溶剤が一部蒸発したタックのある状態で、繊維質基材上のポリウレタン多孔質層と貼りつけた。その後、ポリウレタン多孔質層と繊維基材とのトータル厚みの65%となるクリアランスを設けた状態でロールにより圧着後、130℃で3分間乾燥し、50℃で3日間熟成処理後、離型紙を剥がして繊維質基材上にポリウレタン多孔質層と銀面層とが形成された皮革様シートを得た。
【0057】
さらに、この皮革様シートの表面に、100%モジュラスが19MPaのシリコン変性難黄変型ポリエステル系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製レザロイドSP−215)を150meshのグラビアロールを用いて、固形分で2g/m2になるように塗布し(塗布工程)、ランドセル被せ蓋材用シートに好適な皮革様シートを作製した。
【0058】
(実施例2)
エチレン変性ポリビニルアルコール25部(海成分)とポリエチレンテレフタレート75部(島成分)の平均面積比が海成分/島成分=25/75となるよう圧力バランスで供給し、口金温度250℃でノズル孔より吐出させた。平均紡糸速度が3600m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で牽引細化させ、平均繊度2.4dtexの海島型繊維を紡糸し、これを裏面側から吸引しつつネット上に連続的に捕集して、目付30g/mの長繊維ウェブを得た。
【0059】
エンボス後の長繊維ウェブ表面に、鉱物油系の滑り性油剤を主体とし、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを連続的に折りたたみ、層状にした長繊維ウェブに、ニードルパンチ法によって三次元絡合処理を行い、不織布構造体を得た。ついで、この不織布構造体の両面に水を均一にスプレーした後、直ちに温度75℃、相対湿度95%の雰囲気中を通過させて湿熱収縮処理を行い、その後、120℃に保温した金属ロール間でプレス処理して表面を圧縮平滑化しつつ乾燥させた。
【0060】
乾燥後の不織布構造体に、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物の水分散液(固形分濃度20%)を含浸し、プレスした後、感熱凝固させた。ついで、液流染色機中で90℃の熱水により20分間処理して海島型繊維中の変性ポリビニルアルコールを抽出除去した後、乾燥させることで、変性ポリエチレンテレフタレートの超極細長繊維束からなる不織布構造体の内部にポリウレタン組成物が含有された厚さ約0.8mmの繊維質基材を得た。さらに、裏面をバフィングして、0.6mmに厚みを調整した。
【0061】
この繊維質基材に、実施例1と同様にして銀面層の形成を行い、皮革様シートとした。さらに、この皮革様シートの表面に、100%モジュラスが13MPaのシリコン変性無黄変型ポリカーボネート/ポリエーテル系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製レザロイドSP−300)を150meshのグラビアロールを用いて、固形分で3g/m2になるように塗布し(塗布工程)、携帯電話ケースの上張りに好適な皮革様シートを作製した。
【0062】
(比較例1)
100%モジュラスが5MPaのシリコン変性無黄変型ポリエーテル系ポリウレタンを使用した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作製した。
【0063】
(比較例2)
シリコン変性ポリウレタンの代わりに、シリコン変性していない100%モジュラスが11MPaのポリウレタン樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作製した。
【0064】
(比較例3)
剥離紙(大日本印刷株式会社製DE−125)の上に、100%モジュラスが19MPaのシリコン変性難黄変型ポリエステル系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製レザロイドSP−215)を含む溶液を乾燥後の厚さが5μmになるように全面をカバーするように塗布し、乾燥して銀面層の最表層となるポリウレタン最表層を形成した。次いで、無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン溶液(樹脂分25%)100質量部、レザミンDUTレッド(大日精化工業株式会社製)20質量部、DMF30質量部、及び、メチルエチルケトン30質量部を含む溶液を乾燥後の厚さが15μmになるように塗布し、乾燥してポリウレタン層を形成した。
【0065】
得られたポリウレタン層上に、1液型ポリエーテル系ポリウレタン(大日精化工業株式会社製 レザミンME8116)100質量部およびレザミンDUTレッド20質量部を含むDMF溶液を乾燥後の厚さが20μmになるように塗布し、乾燥して、ポリウレタン中間層を形成した。
【0066】
さらに中間層の上に、架橋型ポリウレタン系接着剤UD8310(大日精化工業株式会社製)100質量部、D−110N(武田薬品株式会社製)10質量部、DMF5質量部、酢酸エチル10質量部からなるポリウレタン系接着剤溶液を240g/m2(純分130g/m2)塗布し、70℃で15秒間乾燥し溶剤が一部蒸発したタックのある状態で、実施例1と同じ繊維質基材上のポリウレタン多孔質層と貼りつけた。その後、ポリウレタン多孔質層と繊維基材とのトータル厚みの65%となるクリアランスを設けた状態でロールにより圧着後、130℃で3分間乾燥し、50℃で3日間熟成処理後、離型紙を剥がして繊維質基材上にポリウレタン多孔質層と銀面層とが形成された皮革様シートを得た。
【0067】
(比較例4)
ドット間の平均距離が150μmとなるようなメッシュのグラビアロールを用いる以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作製した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1から、実施例1,2の皮革様シートは、色落ちがしにくく、屈曲性を良好に維持できていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤を含有する銀面層を有し、
下記特性(A)及び(B)を有するシリコン変性ポリウレタン樹脂が、前記銀面層表面にドット状に塗布されてなり、1のドットと当該ドットに最も近い他のドットとの間の平均最短距離が10〜100μmである皮革様シート。
特性(A):前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、10cm角のフィルムとし、これを99.5%のエタノール中に10分浸漬した後の膨潤率が20%以下である。
特性(B):前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、幅2.5cmのフィルムとした際の当該フィルムの100%モジュラスが10MPa以上である。
【請求項2】
前記ドットの占有面積率が50〜90%である請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
下記特性(A)及び(B)を有するシリコン変性ポリウレタン樹脂を、着色顔料を含有する銀面層表面にドット状に塗布する塗布工程を含み、
当該塗布工程でドット状に塗布する際のドットとこのドットに最も近いドットとの間の平均最短距離を10〜100μmとする皮革様シートの製造方法。
特性(A):前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、10cm角のフィルムとし、これを99.5%のエタノール中に10分浸漬した後の膨潤率が20%以下である。
特性(B):前記シリコン変性ポリウレタン樹脂を厚み50μm、幅2.5cmのフィルムとした際の当該フィルムの100%モジュラスが10MPa以上である。
【請求項4】
前記ドット状に塗布する方法がグラビア塗布である請求項3に記載の皮革様シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−52336(P2011−52336A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200774(P2009−200774)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】