説明

耐久性評価方法

【課題】パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性を安定して評価することができる耐久性評価方法を提供する。
【解決手段】まず、懸濁液の滴下/乾燥処理(ステップS102)で、パーティクル110をフッ素系溶剤120に分散させた懸濁液100がディスク表面に滴下される。その後、懸濁液100が自然乾燥されてディスク表面にパーティクルが付着する。さらに、シーク処理(ステップS104)で、パーティクルが付着したディスク表面に対し評価用ヘッドスライダ520によるシーク動作が行なわれる。そして、傷の観察/評価処理(ステップS105)で、そのシーク動作後のディスク表面に許容以上の多数の傷が付いているか否かの判定に基づいて磁気ディスクの耐久性が評価される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、磁気ディスク等の記憶媒体について、表面に付着したパーティクルに起因する傷付きに対する耐久性を評価する耐久性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスク等の記憶媒体に対する耐久性評価としては、例えば、ハードディスク装置(HDD)でのヘッドによる規格回数分のアクセス動作に、記憶媒体が傷付くことなく耐えられるか否かを評価する信頼性評価が挙げられる。この信頼性評価では、コンタクトスタートストップ(CSS)方式でのアクセス動作に対する信頼性評価や、ロード/アンロード(L/UL)方式でのアクセス動作に対する信頼性評価が行なわれる。また、記憶媒体に対する耐久性評価としては、次のような摺動評価も挙げられる。この摺動評価では、ヘッドが搭載されるスライダの構成材料として使われることが多いAl−TiCで形成された摺動ピンや実際のヘッドスライダそのものでの規格時間に亘る摺動に記憶媒体が傷付くことなく耐えられるか否かが評価される。これらの耐久性評価では、ヘッドが記憶媒体に繰返し接触した場合や、ヘッドが記憶媒体に接触し続けた場合に、記憶媒体が許容以上に傷付くか否か等が評価される。
【0003】
ここで、HDD等の実際の装置では、このような接触の他にも、装置内に存在する粉塵等に起因して記憶媒体が傷付いてしまうことがある。そこで、このような粉塵等を模擬した固体粒であるパーティクルを分散した雰囲気中で、記憶媒体に対するアクセス動作を行なって記憶媒体が傷付くか否かを評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−181630号公報
【特許文献2】特開平7−120377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パーティクル雰囲気中でのアクセス動作による耐久性評価では、記憶媒体に対するパーティクルの付着密度や付着位置が、評価の度に変わってしまうおそれがある。また、このような耐久性評価が繰り返し実行されると、ある記憶媒体が傷付いたときに生じた微小な破片が、新たなパーティクルとして雰囲気に追加されるという現象が起きることがある。その結果、後で実行される耐久性評価ほど、記憶媒体に対する負荷が大きくなるという問題が生じてしまう。
【0006】
本件は上記問題点を解決し、パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性を安定して評価することができる耐久性評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する耐久性評価方法の基本形態は、以下に説明する粒付着過程と動作過程と評価過程とを有する形態となっている。
【0008】
粒付着過程は、使用時に表面に物体が近接あるいは接触しその表面に沿って相対的に移動する、情報を記憶する記憶媒体のその表面上に、次のように粒を付着させる過程である。この粒付着過程は、上記表面上に、複数の粒が被分散液中に分散されてなる懸濁液を滴下し、その滴下された懸濁液の被分散液を揮発させることで、上記粒を上記記憶媒体の表面上に付着させる過程となっている。
【0009】
動作過程は、上記粒付着過程によって上記粒が表面に付着された記憶媒体のその表面に対して、以下の処理を実行する過程である。即ち、この動作過程は、その表面に、上記物体を模した試験物を近接あるいは接触させ、その試験物をその表面に対して相対的にその表面に沿って移動させることでその粒の付着箇所を横断させる過程となっている。
【0010】
評価過程は、上記動作過程を経た記憶媒体の表面における傷の数に基づいてその記憶媒体の耐久性を評価する過程である。
【発明の効果】
【0011】
本件の耐久性評価方法によれば、パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性を安定して評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、基本形態について説明した耐久性評価方法の具体的な実施形態を示す工程図である。
【図2】複数のサンプルの磁気ディスクについて高輝度顕微鏡で確認されたパーティクル付着状態のうちの1つを示す写真である。
【図3】十分な耐久性を有していると評価されたロットに属するサンプルの磁気ディスクのうちの1つについてシーク後の表面を示す写真である。
【図4】耐久性が不十分であると評価されたロットに属するサンプルの磁気ディスクのうちの1つについてシーク後の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、上記に基本形態について説明した耐久性評価方法の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、基本形態について説明した耐久性評価方法の具体的な実施形態である耐久性評価処理を示す工程図である。
【0015】
この具体的な実施形態の耐久性評価処理は、ロット単位で量産される磁気ディスクの中からロット毎に抜き取られたサンプルの磁気ディスクに対して実行される。これにより、各ロットの磁気ディスクを評価対象とした耐久性評価が行われる。
【0016】
また、本実施形態と異なり、このようなサンプルの抜き取りと耐久性評価処理は、新規に設計された磁気ディスクの量産が開始されたときや、製造条件が変更されたとき等といったタイミングで実行されても良い。
【0017】
この図1の工程図が示す耐久性評価処理は、概略、次のような処理となっている。即ち、この耐久性評価処理では、評価対象の磁気ディスクが搭載されるHDD等の装置で使われるヘッドと同等な評価用ヘッドによる、パーティクル付着済みのサンプルの磁気ディスク上でのシーク動作が行なわれる。そして、そのシーク動作によってサンプルの磁気ディスクの表面に許容以上に多数の傷が付いたか否かを判定することで耐久性が評価される。
【0018】
この耐久性評価処理では、まず、複数のパーティクル110をフッ素系溶剤120中に分散させて懸濁液100を作成する(ステップS101)。
【0019】
本実施形態では、後述するように、サンプルの磁気ディスクの表面への懸濁液100の滴下と乾燥によって、その磁気ディスクの表面上にパーティクル110が付けられる。
【0020】
このステップS101の処理では、懸濁液100の材料として、アルミナあるいはカーボンのパーティクル100が使われる。特に、アルミナのパーティクルは、一般的な研磨剤として利用されており入手性が良いことから好ましい。さらに、本実施形態では、このパーティクル100として、平均粒径が3μm以下のものが使われる。粒径が3μmを超えるパーティクルは、上記のシーク動作の際に評価用ヘッドに弾かれるおそれがあるためである。
【0021】
また、上記のステップS101の処理では、懸濁液100の材料として、表面張力が20mN/m以下で、蒸発熱が100KJ/Kg以下のフッ素系溶剤120が使われる。表面張力がこの範囲のものが使われる理由は、表面張力が20mN/mを超えると、サンプルの磁気ディスクの表面上に滴下された懸濁液100が乾燥されたときに、その表面上に乾燥シミが残るおそれがあるためである。また、蒸発熱が上記の範囲のものが使われる理由は、蒸発熱が100KJ/Kgを超えると、上記の乾燥時に結露が生じるおそれがあるためである。
【0022】
ここで、この耐久性評価処理の評価対象の磁気ディスク、即ち、上記のサンプルの磁気ディスク200が属するロットで量産される磁気ディスクは、HDD搭載用の一般的な磁気ディスクと同様に、表面に潤滑剤が塗布されたものである。フッ素系溶剤の中には、このような潤滑剤を溶融してしまうものがある。そこで、上記のステップS101の処理では、懸濁液100の材料として、フッ素系溶剤の中でも、特に、サンプルの磁気ディスク200の潤滑剤を溶融しないものが使われる。
【0023】
以上のような条件を満足するフッ素系溶剤の一例として、パーフルオロカーボン(PFC)等が挙げられる。
【0024】
そして、このステップS101の処理では、複数のパーティクル110が、フッ素系溶剤120に、0.002〜0.01wt%の範囲内の濃度で混入され攪拌されることで懸濁液100が作成される。この濃度範囲に対応した懸濁液100によれば、上記のシーク動作で傷が発生したときに、その傷を観察しやすいためである。
【0025】
このステップS101の処理に続いて、サンプルの磁気ディスク200の表面への懸濁液100の滴下と乾燥が行われる(ステップS102)。
【0026】
このステップS102の処理では、始めに、マイクロピペット300を使った懸濁液100の滴下が行われる。
【0027】
この滴下では、まず、上記のように作成された懸濁液100の一部がマイクロピペット300で吸引される。本実施形態では、この吸引は、上記のステップS101の処理における攪拌の直後で、フッ素系溶剤120中にパーティクル110が均一に分散している状態のときに行われる。そして、この吸引に続いて、マイクロピペット300から、サンプルの磁気ディスク200の表面に、1〜5μLの滴下量で懸濁液100が滴下される。この滴下量は、滴下後に表面上に広がる懸濁液100の径(滴下径)が3〜10mmとなる量である。また、本実施形態では、サンプルの磁気ディスク200の表面上での滴下位置としては、ディスク中央に空いたディスク固定用の穴の縁から外周までの間のセンタ付近が採用される。本実施形態におけるこのような滴下量、滴下径、滴下位置は、いずれも、上記のシーク動作で発生する傷を観察しやすい値となっている。
【0028】
ステップS102の処理では、上記の滴下に続いて、その滴下された懸濁液100の乾燥が行われる。本実施形態では、この乾燥が、懸濁液100滴下後のサンプルの磁気ディスク200に対する1〜5minの間の自然乾燥によって行われる。このような自然乾燥によって、懸濁液100のフッ素系溶剤120が揮発し、サンプルの磁気ディスク200の表面にパーティクル100が残されることとなる。
【0029】
以上に説明したステップS101からステップS102までの処理が、上述の基本形態における粒付着過程の一例に相当する。また、サンプルの磁気ディスク200が、この基本形態における記憶媒体の一例に相当する。また、図1の懸濁液100が、この基本形態における懸濁液の一例に相当する。また、図1のパーティクル110が、この基本形態における粒の一例に相当する。また、図1のフッ素系溶剤120が、この基本形態における被分散液の一例に相当する。
【0030】
ここで、本実施形態では、図1のステップS101の処理で、上述したように上記の懸濁液100の材料として20mN/m以下の表面張力を有するフッ素系溶剤120が使われている。この表面張力は、73mN/mという水の表面張力よりも低い。水は、このような高い表面張力に起因して乾燥時に乾燥シミを残してしまうことが知られている。本実施形態では、このような水の表面張力よりも低い表面張力を有するフッ素系溶剤120を用いることで乾燥シミの発生が回避されている。
【0031】
このことは、上述の基本形態に対し、上記被分散液が、水の表面張力よりも低い表面張力を有するものであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0032】
図1のフッ素系溶剤120は、この応用形態における被分散液の一例にも相当している。
【0033】
また、本実施形態では、上記のフッ素系溶剤120として、上述したようにサンプルの磁気ディスク200の潤滑剤を溶融しないものが使われる。これにより、上記のように滴下された懸濁液100中に潤滑剤が溶け出してしまうことが回避されている。
【0034】
このことは、上述の基本形態に対し、以下に説明する応用形態が好適であることを意味している。この応用形態では、上記記憶媒体が、表面に潤滑剤が塗布されているものとなっている。さらに、上記被分散液は、その被分散液に対して上記潤滑剤が非溶融性を有するものとなっている。
【0035】
図1のフッ素系溶剤120は、この応用形態における被分散液の一例にも相当している。
【0036】
ここまでに説明した処理に続いて、図1の耐久性評価処理では、サンプルの磁気ディスク200の表面上にパーティクル110が所望の付着状態で付着したことが付着箇所の観察により確認される(ステップS103)。
【0037】
本実施形態では、付着箇所の観察が、図1に模式的に示す高輝度顕微鏡400を使って行われる。この高輝度顕微鏡400は、観察対象物が載置されるステージ410と、観察視野を照らす高輝度の光源420と、観察視野を撮影するカメラ430と、撮影された画像を表示するモニタ440とを備えている。
【0038】
ステップS103の処理では、パーティクル110が付着したサンプルの磁気ディスク200がステージ410に載置される。そして、パーティクル110が付着した箇所が視野に捉えられるように、カメラ430の位置および向きが調整される。そして、そのカメラ430で撮影されたその箇所の画像が、所望の倍率で拡大されてモニタ440に表示される。
【0039】
そして、このステップS103の処理では、パーティクル110が付着した箇所におけるそのパーティクル110の付着位置や付着密度や付着量等の付着状態が、次のような所望の付着状態となっているか否かが目視により判断される。即ち、パーティクル110が、上述の滴下径の範囲内に、ほぼ均一な付着密度および十分な付着量で付着しているか否かが判断される。パーティクル110の付着状態がこのような付着状態になっていないと判断された場合には、その付着されたパーティクル110が除去され、上記のステップS101からステップS102までの処理が再度行われる。本実施形態では、これらの処理が、このステップS103で、パーティクル110が所望の付着状態で付着したことが確認されるまで繰り返される。
【0040】
本実施形態では、上記のようなパーティクル110の付着状態を、懸濁液100の濃度や、攪拌からマイクロピペット300での吸引までの時間間隔や、懸濁液100の滴下位置等によって容易にコントロールすることができる。そして、本実施形態では、このようなパーティクル110の付着状態についてのコントロールと上記の確認とにより所望の付着状態を確実に作り出すことができる。
【0041】
このことは、上記の基本形態に対し、以下に説明する応用形態が好適であることを意味している。
【0042】
この応用形態は、上記粒付着過程を経た上記記憶媒体の表面上での上記粒の付着状態が、所定条件を満たしているか否かを判定する付着判定過程を有している。そして、この応用形態では、上記粒付着過程は、上記付着判定過程で上記付着状態が上記所定条件を満たしていると判定されるまでやり直される過程となっている。
【0043】
本実施形態におけるステップS103の処理が、この応用形態における付着判定過程の一例に相当する。また、本実施形態におけるステップS101からステップS102までの処理は、この応用形態における粒付着過程の一例にも相当している。
【0044】
図1の耐久性評価処理では、ステップS103の処理で、パーティクル110が所望の付着状態で付着したことが確認されるとステップS104の処理に進む。
【0045】
このステップS104の処理では、パーティクル110の付着状態が確認されたサンプルの磁気ディスク200に対するシーク動作が行なわれる。本実施形態では、このシーク動作が、図1に模式的に示すテスタ500を使って行われる。
【0046】
このステップS104の処理が、上述の基本形態における動作過程の一例に相当する。
【0047】
このテスタ500は、回転軸511を中心に磁気ディスクを回転駆動するスピンスタンド510と、先端に評価用ヘッドスライダ520を搭載したアーム530と、そのアーム530を動かして評価用ヘッドスライダ520にシーク動作をさせるキャリッジ540とを備えている。ここで、評価用ヘッドスライダ520は、上述したように、量産される評価対象の磁気ディスクが搭載される、例えばHDD等といった装置で使われるヘッドスライダと同等なものである。
【0048】
この評価用ヘッドスライダ520が、上述の基本形態にいう「物体を模した試験物」の一例に相当する。
【0049】
本実施形態では、このような評価用ヘッドスライダ520を用いることで、この磁気ディスク200対して実際のヘッドスライダが与える負荷に近い負荷で耐久性を評価することができる。
【0050】
このことは、上記の基本形態に対し、上記物体が、上記記憶媒体に対し情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドを搭載したスライダであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0051】
本実施形態の評価用ヘッドスライダ520が模している実際のヘッドスライダが、この応用形態における物体の一例に相当している。
【0052】
ステップS104の処理では、パーティクル110の付着状態が確認されたサンプルの磁気ディスク200がスピンスタンド510に搭載されて回転駆動される。このときの回転速度は、評価対象の磁気ディスクが搭載される、例えばHDD等といった装置での磁気ディスクの回転速度と同じである。
【0053】
そして、パーティクル110の付着箇所を横断するシーク範囲で、評価用ヘッドスライダ520がシーク動作を行なう。また、この時のシーク動作は、30〜60secのシーク時間に亘る、周波数が2Hzの往復動作である。本実施形態におけるこのようなシーク時間と、シーク動作の周波数は、いずれも、このシーク動作で発生する傷を観察しやすい値となっている。
【0054】
本実施形態では、このスピンスタンド510によるサンプルの磁気ディスク200の回転駆動と、評価用ヘッドスライダ520による上記のシーク動作によって、HDD等といった実際の装置でパーティクル起因の傷が発生するときの状態に近い状態が模擬される。本実施形態では、これにより、一層実際に則した耐久性評価が可能となっている。
【0055】
このことは、上述の基本形態に対し、以下に説明する応用形態が好適であることを意味している。
【0056】
この応用形態では、上記記憶媒体がディスク形状を有したものとなっている。そして、上記動作過程が、まず、上記記憶媒体を、その記憶媒体の中央を回転中心として回転し、回転中の記憶媒体に対して、次の処理を実行する過程となっている。即ち、この動作過程は、この回転中の記憶媒体に対して、上記物体をその記憶媒体の中央から外周に向かって、あるいはその記憶媒体の外周から中央に向かって移動させる過程となっている。
【0057】
図1のステップS104の処理は、この応用形態における動作過程の一例にも相当している。
【0058】
図1の耐久性評価処理では、ステップS104の処理に続いて、このステップS104の処理でのシーク動作によってサンプルの磁気ディスク200の表面に許容以上の多数の傷が付いたか否かが観察される(ステップS105)。このステップS105の処理が、上述の基本形態における評価過程の一例に相当する。
【0059】
本実施形態では、このステップS105での観察が、上記のステップS103でパーティクル110の付着状態の観察に使われた高輝度顕微鏡400を使って行われる。
【0060】
ステップS103の処理では、上記のシーク動作を経たサンプルの磁気ディスク200がステージ410に載置される。そして、上記のシーク範囲に対応した箇所が視野に捉えられるように、カメラ430の位置および向きが調整される。そして、そのカメラ430で撮影されたその箇所の画像が、所望の倍率で拡大されてモニタ440に表示される。
【0061】
本実施形態では、この観察によって許容以上の多数の傷が付いていないことが確認された場合には、サンプルの磁気ディスク200と同じロットで量産される磁気ディスクが十分な耐久性を有していると評価される。一方、この観察によって許容以上の多数の傷の存在が確認された場合には、このロットで量産される磁気ディスクについて、耐久性が不十分であると評価される。
【0062】
以上に説明した図1の耐久性評価処理では、上述した懸濁液の滴下により所望の付着状態を確実に実現することができる。その結果、図1の耐久性評価処理によれば、サンプルの磁気ディスク200を交換して、耐久性評価が繰返し行なわれたとしても、毎回の評価を、パーティクルの付着状態が互いに概ね似通った安定した条件下で行うことができる。つまり、この図1の耐久性評価処理によれば、パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性を安定して評価することができる。
【0063】
尚、上記では、フッ素系溶剤の一例としてPFCを例示したが、懸濁液に使用するフッ素系溶剤はこれに限るものではない。このフッ素系溶剤は、例えば、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロエーテル(HFE)等であっても良い。
【0064】
また、上記では、滴下径や滴下位置、また、シーク範囲やシーク時間について具体的な数値範囲を例示したが、本件の耐久性評価方法はこれらの数値範囲に限定されるものではない。滴下径や滴下位置、また、シーク範囲やシーク時間等については、評価対象の磁気ディスクのサイズや、磁気ディスクの搭載装置におけるアクセス状態によって適宜に決められることとなる。
【0065】
次に、上述の実施形態に対応した実施例に基づいて本件を更に具体的に説明するが、本件は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
この実施例で使用されたパーティクルやフッ素系溶剤の具体例、および、この実施例で使用された高輝度顕微鏡やテスタの具体例等を以下の表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
この表1に示すように、この実施例では、パーティクルとして平均粒径が3μmのアルミナのパーティクルが使われた。また、フッ素系溶剤として、この実施例では、住友3M社製のPFCであるFC77が使われた。ここで、この住友3M社製のPFCとしては、このFC77以外にもPF5060も使うことができる。
【0069】
また、この実施例では、濃度が0.005wt%の懸濁液が作成された。
【0070】
そして、この実施例では、攪拌の直後に懸濁液がマイクロピペットに吸引され、2μLの滴下量で懸濁液が滴下された。また、この滴下では、滴下位置は、ディスク中心から24mm離れた位置の近傍となっている。さらに、滴下径は、約5mmとなっている。また、この実施例では、滴下後の自然乾燥が1minに亘って行われた。
【0071】
また、この実施例では、パーティクル付着状態の確認が、ビジョンサイテック社製の高輝度顕微鏡であるMicro−MAX(型番:VMX−2100)を使って行われた。
【0072】
ここで、この実施例では、以上に説明したパーティクルの付着や確認が、設計や製造条件が互いに異なる2種類のロットそれぞれから複数枚ずつ抜き出されたサンプルの磁気ディスクについて行われた。
【0073】
図2は、複数のサンプルの磁気ディスクについて高輝度顕微鏡で確認されたパーティクル付着状態のうちの1つを示す写真である。
【0074】
この図2の写真では、図2中で丸で囲まれた領域Aに、パーティクルがほぼ均一な付着密度および十分な付着量で付着している様子が写っている。そして、この実施例では、いずれのサンプルの磁気ディスクについても、パーティクルの付着後に、この図2の写真に写っている付着状態とほぼ同じ付着状態が確認された。
【0075】
次に、この実施例では、各サンプルの磁気ディスクについて、次のシーク動作が行なわれた。この実施例では、シーク動作が、交洋製作所製のL/ULテスタ(型番:KT701)を使って行われた。この装置を使って、サンプルの磁気ディスクが、評価対象の磁気ディスクが搭載される装置での磁気ディスクの回転速度と同じ回転速度で回転駆動された。そして、ディスク中心からの距離が20mmの位置から28mmの位置まで亘るシーク範囲で、50secというシーク時間に亘って、周波数が2Hzの往復運動というシーク動作が行われた。
【0076】
そして、このシーク動作の後に、上記のビジョンサイテック社製の高輝度顕微鏡であるMicro−MAX(型番:VMX−2100)を使って傷の観察が行われた。
【0077】
この観察の結果、上記の2つのロットのうち一方のロットについては傷が存在せず十分な耐久性を有しているという評価結果が得られ、他方のロットについては許容以上の多数の傷が確認され耐久性が不十分であるという評価結果が得られた。さらに、いずれのロットについても、ロットが同じサンプルの磁気ディスクどうしでは、同じ評価結果が得られた。
【0078】
図3は、十分な耐久性を有していると評価されたロットに属するサンプルの磁気ディスクのうちの1つについてシーク後の表面を示す写真である。
【0079】
この図3の写真から、この写真に写っているサンプルの磁気ディスクの表面には、目視できるような傷が存在せず、このサンプルの磁気ディスクがパーティクルに起因した傷付きに対する十分な耐久性を有していることが分かる。そして、このロットに属する他のサンプルの磁気ディスクについても、シーク後の表面が、この図3の写真に写っている状態とほぼ同じ状態となっていた。
【0080】
図4は、耐久性が不十分であると評価されたロットに属するサンプルの磁気ディスクのうちの1つについてシーク後の表面を示す写真である。
【0081】
図4の写真では、図中の帯状の領域Bに、多数の傷がはっきりと目視できる。このことから、この図4の写真に写っているサンプルの磁気ディスクについては、パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性が不十分であることが分かる。そして、このロットに属する他のサンプルの磁気ディスクについても、シーク後の表面が、この図4の写真に写っている状態とほぼ同じ状態となっていた。
【0082】
以上、実施例を参照して具体的に説明したように、図1に示す耐久性評価処理によれば、毎回の評価を、パーティクルの付着状態が互いに概ね似通った安定した条件下で行うことができる。そして、このように安定した条件下での評価により、上記のように安定した評価結果を得ることができる。つまり、図1に示す耐久性評価処理によれば、パーティクルに起因した傷付きに対する耐久性を安定して評価することができる。
【0083】
以下、上述した基本形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0084】
(付記1)
使用時に表面に物体が近接あるいは接触し該表面に沿って相対的に移動する、情報を記憶する記憶媒体の該表面上に、複数の粒が被分散液中に分散されてなる懸濁液を滴下し、その滴下された懸濁液の被分散液を揮発させることで、前記粒を前記記憶媒体の表面上に付着させる粒付着過程と、
前記粒付着過程によって前記粒が表面に付着された記憶媒体の該表面に対して、前記物体を模した試験物を近接あるいは接触させ、該試験物を該表面に対して相対的に該表面に沿って移動させることで該粒の付着箇所を横断させる動作過程と、
前記動作過程を経た記憶媒体の表面における傷の数に基づいて該記憶媒体の耐久性を評価する評価過程とを有することを特徴とする耐久性評価方法。
【0085】
(付記2)
前記物体が、前記記憶媒体に対し情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドを搭載したスライダであることを特徴とする付記1記載の耐久性評価方法。
【0086】
(付記3)
前記粒付着過程を経た前記記憶媒体の表面上での前記粒の付着状態が、所定条件を満たしているか否かを判定する付着判定過程を有し、
前記粒付着過程は、前記付着判定過程で前記付着状態が前記所定条件を満たしていると判定されるまでやり直される過程であることを特徴とする付記1又は2記載の耐久性評価方法。
【0087】
(付記4)
前記被分散液が、水の表面張力よりも低い表面張力を有するものであることを特徴とする付記1から3のうちいずれか1項記載の耐久性評価方法。
【0088】
(付記5)
前記記憶媒体が、表面に潤滑剤が塗布されているものであり、
前記被分散液は、該被分散液に対して前記潤滑剤が非溶融性を有するものであることを特徴とする付記1から4のうちいずれか1項記載の耐久性評価方法。
【0089】
(付記6)
前記記憶媒体がディスク形状を有するものであり、
前記動作過程が、前記記憶媒体を、該記憶媒体の中央を回転中心として回転し、回転中の記憶媒体に対して、前記物体を該記憶媒体の中央から外周に向かって、あるいは該記憶媒体の外周から中央に向かって移動させる過程であることを特徴とする付記1から5のうちいずれか1項記載の耐久性評価方法。
【符号の説明】
【0090】
100 懸濁液
110 パーティクル
120 フッ素系溶剤
200 サンプルの磁気ディスク
300 マイクロピペット
400 高輝度顕微鏡
410 ステージ
420 光源
430 カメラ
440 モニタ
500 テスタ
510 スピンスタンド
511 回転軸
520 評価用ヘッドスライダ
530 アーム
540 キャリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に表面に物体が近接あるいは接触し該表面に沿って相対的に移動する、情報を記憶する記憶媒体の該表面上に、複数の粒が被分散液中に分散されてなる懸濁液を滴下し、その滴下された懸濁液の被分散液を揮発させることで、前記粒を前記記憶媒体の表面上に付着させる粒付着過程と、
前記粒付着過程によって前記粒が表面に付着された記憶媒体の該表面に対して、前記物体を模した試験物を近接あるいは接触させ、該試験物を該表面に対して相対的に該表面に沿って移動させることで該粒の付着箇所を横断させる動作過程と、
前記動作過程を経た記憶媒体の表面における傷の数に基づいて該記憶媒体の耐久性を評価する評価過程とを有することを特徴とする耐久性評価方法。
【請求項2】
前記被分散液が、水の表面張力よりも低い表面張力を有するものであることを特徴とする請求項1記載の耐久性評価方法。
【請求項3】
前記記憶媒体が、表面に潤滑剤が塗布されているものであり、
前記被分散液は、該被分散液に対して前記潤滑剤が非溶融性を有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の耐久性評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−203974(P2010−203974A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51113(P2009−51113)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)