説明

耐寒耐水服

【課題】寒冷時の海上などにおいて、高性能な防寒防水性を示す耐寒耐水服の提供。
【解決手段】外層布と内層布から成る耐寒耐水服において、該内層布は金属薄膜をコーティングした表地と、該表地と身体側との間に介在する断熱性を有する材料とからなることを特徴とする耐寒耐水服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故、及び災害時に備えて着用する救命衣服に関するものであり、特に寒冷時における海上での防寒防水を目的とした耐寒耐水服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寒冷海域における船舶の海難事故、或いはヘリコプター等の故障による着水事故に対しては、救命用耐寒耐水服が必要とされており、また、その耐寒耐水服に関しては、さまざまな技術が公開されている。
これらの耐寒耐水服は、通常、難燃性と耐水性の機能を有する外層布と耐寒性の機能を有する内層布から構成されており、更に、作業時の作業性、ならびに着用感による快適性などの機能が考慮されている(特許文献1、及び特許文献2)。また、最近では、輻射放熱による体温低下を抑制し、より高い保温性を得るために、内層布にアルミニウム薄膜を施したものもある。
【0003】
しかしながら、これらの耐寒耐水服は、以下のような技術的問題を有していた。
アルミニウム薄膜の場合、輻射放熱に対する遮熱効果、即ち保温性能は高い。しかしながら、海水、及び汗等に対する耐食性、或いは皮膚障害などの生体適合性に関しては、充分な機能を有しているとは言えない。また、このアルミニウム薄膜の有する高い熱伝導性により、配置などの構成によっては、返って体温を逃がしてしまう事になる。
【特許文献1】特開平6−32282号 即時着用型耐寒耐水服
【特許文献2】特開平6−32283号 耐寒耐水服
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、救命衣服としての耐寒耐水服の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、耐食性、或いは生体適合性に関して充分な機能を有し、且つ効率的に保温性を高めるためには、使用される金属材料の適正な選択、及びその配置による構成が極めて重要であることを見出し本発明に至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
1)外層布と内層布から成る耐寒耐水服において、該内層布は金属薄膜をコーティングした表地と、該表地と身体側との間に介在する断熱性を有する材料とからなることを特徴とする耐寒耐水服である。
2)該断熱性を有する材料が布で構成されている1)記載の耐寒耐水服である。
3)該外層布がメタ系アラミド布とポリテトラフルオロエチレンフィルムから成り、該内層布が金属薄膜をコーティングしたポリエステル表地であり、断熱性を有する材料が不織布であることを特徴とする1)記載の耐寒耐水服である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の耐寒耐水服は、保温性に優れ、且つ耐食性、及び生体適合性の高いものである。
本発明の耐寒耐水服の優れた効果の発現機構については詳しく解明されているわけではないが、以下にその効果と作用機構について説明する。
通常、ヘリコプター等の搭乗員は、作業用の制服を着用している。しかしながら、この制服のみでは、寒冷時の海上に於ける着水事故時に必要な救命性能、即ち、高い防水性、ならびに高い保温性を基本的には有していない。従って、これらの制服の上から着用する本発明の耐寒耐水服が必要となる。
【0007】
一方、極寒の環境おいて体温は、伝熱、或いは輻射により熱を体外へ奪われ、更に、風などの影響を受けることで、より加速的な体温低下を招く。
以上のような場合において、本発明の耐寒耐水服の効果は、次ぎの通りである。
1)先ず、体外への伝熱による体温低下を断熱性の高い材料により防ぎ、且つ、次ぎに輻射に
よる放熱を遮熱効果の高い金属薄膜で防ぐことにより、高効率での保温性能を確保することが可能となる。尚、この配置を逆にした場合は、金属薄膜の有する高い熱伝導性により熱拡散が大きくなり、効率的な保温性を得ることが難しい。
2)断熱性を有する材料として、多数の微細な気泡を含む不織布を用いることにより、高い断熱性能を有するばかりでなく、身体の動きに柔軟に対応出来る高機動性の耐寒耐水服を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について図1、及び図2に基づき具体的に説明する。
本発明における耐寒耐水服は、図1の外層布と図2の内層布によって構成される。
外層布は、防水性、及び難燃性を有しており、難燃性布1に防水性を有する高分子フィルム2をラミネート加工したものである。
難燃性布としては、アラミド繊維、カーボン繊維、フェノール系繊維、難燃性ビニロン、難燃加工綿などを、単独、或いは組み合わせて織物、編物、もしくは不織布などとして用いる。アラミド繊維は、構造の違いにより難燃性の高いメタ系アラミド繊維と引張り強度の優れているパラ系アラミド繊維に大別され、通常、両者の特性を組み合わせて混用される。しかしながら、パラ系アラミド繊維は紫外線による劣化が生じ易いことから、メタ系アラミド繊維を用いることが最も好ましい。
【0009】
防水性を有する高分子フィルムとしては、ポリウレタン系、ポリアミド系などを用いるが、防水性に加え、高い耐熱性、ならびに透湿性を有する有孔のポリテトラフルオロエチレンフィルムが最も好ましい。また、このラミネートされたフィルムの破損を防止する目的で、ナイロンメッシュなどの補強材3を、フィルムの裏張りとして用いても良い。
尚、更に防水性を高めるために、難燃性布にパーフルオロアルキル基を含有したパーフルオロアルキルアクリレート共重合体などを用いた撥水撥油加工4を施すことも好ましい。
内層布は、耐寒性、即ち保温性能を保持するために、金属薄膜をコーティングした表地5と断熱性を有した材料6を基本的構成とし、金属薄膜をコーティングした表地表地と、該表地と身体側との間に介在する断熱性を有する材料とからなることを特徴とする。
【0010】
金属薄膜をコーティングした表地は、ナイロン布、アクリル布、ポリエステル布などの基布に、チタニウム、ステンレス、銀、酸化チタニウム、シリコン、酸化シリコンなどの遮熱材料を薄膜としてコーティングする事により得られる。
金属薄膜をコーティングする方法としては、シート状の金属薄膜を接着剤で接合させる方法、金属粒子を接着剤により塗布する方法、或いは、電解式メッキ方法、抵抗加熱式蒸着方法、スパッタリング方法などがある。その中で、前記した基布の柔軟性確保、ならびに均一な膜厚形成などにより、電解式メッキ方法、抵抗加熱式蒸着方法、スパッタリング方法が好ましい。
【0011】
また最も好ましい組合せは、リサイクル可能なポリエステル布に、高い遮熱効果、優れた耐食性、ならびに生体適合性を有するチタニウムを、緻密で、且つ高い接合力を得ることが出来るスパッタリング方法により薄膜としたものである。
断熱性を有した材料としては、連続、或いは独立した気泡を内在したポリウレタン系、ポリエチレン系、ポリ塩化ビニール系などの樹脂シートが一般的ではあるが、緊急時の動作を抑制しない、即ち機動性の高い耐寒耐水服を得るためには、布で構成された断熱布を用いることが最も好ましい。断熱布としては、表裏二層の編地と、その二層の編地を連結する連結糸とから構成された立体編物、或いは不織布などが用いられる。その中で、繊維糸を絡ませることにより、実質的に不連続な気泡を多数内在出来る構造の不織布が好ましい。この不織布に内在した気泡は、空気層による高い断熱性能を有する。また更に、その不織布において、繊維径の異なった2種類の糸を用いた綿状の不織布は、より高い気泡率と柔軟性を有しているので最も好ましい。
【0012】
前記した金属薄膜をコーティングした表地と断熱布は、キルティング加工などの縫製により一体化されるが、その際に、金属薄膜が表地の片面にコーティングされている場合は金属薄膜をコーティングした面を内側、即ち断熱布側にして縫製する方が、金属薄膜を保護する観点から好ましい。また、更に吸湿性、放湿性の高い布を裏地7として用いても良い。
通常、前記した外層布、ならびに内層布は個別に所望の形状に縫製された後、重ねて合わせて耐寒耐水服として用いられる。また、重ね合わせる方法としては、外層布と内層布を部分的にマジックテープ(登録商標)などの接合方法で一体化して用いても良いし、或いは内層布をインナスーツとして別体化して用いても構わない。
また、以上の説明は、内層布の表地に金属薄膜をコーティングした方法であるが、断熱性を有する材料自体の表側に金属薄膜をコーティングする方法も、金属薄膜がコーティングされた表地と、該表地と身体側との間に介在する断熱性を有する材料とからなることを意味するものである。
【実施例】
【0013】
本発明を実施例に基づいて説明する。
[実施例1]
外層布は、先ず、メタ系アラミド繊維100%を用いて質量235g/m2のリップストップ織物を作製した。係る織物にポリテトラフルオロエチレンフィルムを接着剤で接着し、更に補強のためのナイロンメッシュをラミネートすることにより作製した。
内層布の表地には、質量65g/m2のポリエステル100%織物の片面にチタニウム薄膜をスパッタリング方法により形成したものを用いた。また、内層布の裏地は、質量65g/m2のポリエステル100%織物を用いた。内層布は、係る表地と裏地の間に、断熱布としてポリプロピレンとポリエステルから成る綿状で質量70g/m2の不織布を厚さ8mmで挟み込み、キルティング加工を施すことにより作製した。尚、キルティング加工を行うにあたっては、表地の金属薄膜の面を不織布側とした。
係る外層布と内層布を重ね合せた状態で、JIS 1096 A法及びASTM D 1518に準じて寒冷環境における快適性を示す指標であるCLo値の測定を3回実施した。その結果、CLo値0.7〜0.8以上の良好な性能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、事故、及び災害時に備えて着用する救命衣服に関するものであり、特に寒冷時における海上での防寒防水を目的とした耐寒耐水服として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の外層布の構成を示す断面模式図
【図2】本発明の内層布の構成を示す断面構想図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層布と内層布から成る耐寒耐水服において、該内層布は金属薄膜をコーティングした表地と、該表地と身体側との間に介在する断熱性を有する材料とからなることを特徴とする耐寒耐水服。
【請求項2】
該断熱性を有する材料が布で構成されていることを特徴とする請求項1記載の耐寒耐水服。
【請求項3】
該外層布がメタ系アラミド布とポリテトラフルオロエチレンフィルムから成り、該内層布が金属薄膜をコーティングしたポリエステル表地であり、断熱性を有する材料が不織布であることを特徴とする請求項1記載の耐寒耐水服。

【図1】
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【図2】
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