説明

耐水性金属顔料粒子

【発明の詳細な説明】
発明の背景 本発明は、表面塗装(コーティング)用組成物を作成するのに適した、金属顔料を含むペースト組成物、特に水性コーティングシステムに関する。
近年環境規制が厳しくなるのに伴って、コーティングシステムにおいては、揮発性の有機溶媒のレベルを大幅に減少させる必要が生じている。こうした規制に従う方法の一つとして、従来使われていた揮発性有機溶媒の代わりに水を用いる方法がある。
しかし、金属顔料粒子を用いたコーティングシステムにおいて、これを水性システムとするにはかなりの困難を伴う。特にアルミニウム質及び亜鉛質顔料の場合には困難である。これは、金属顔料が水と反応し、水素ガスを発生し易いためである。ガスが発生すると、組成物の入った容器が高圧となり、安全性が損なわれることもある。また、水と反応することによって、塗布したときの金属顔料の美的価値が大きく損なわれる。
アルミニウム質顔料(aluminium pigment)と水との反応は次の式で表される。
2Al+6H2O→2Al(OH)3+3H2(g) 水性システムに対する需要が増加しているために、水によって起こる顔料粒子への影響を抑えるための数々の技法が提案されている。
しかしながら、その多くは十分な成果が得られていない。
顔料粒子に対する水の影響を抑制する技法の一つとして、有機リン酸塩(ionic organic phosphate)によって金属顔料粒子を不動態化する方法がある(Williams et al,U.S.P.No.4,565,716に開示)。
また、5価のバナジウム化合物(pentavanalent vanadium compound)を含有する組成物を用いる方法(Kondis,U.S.P.No.4,693,754に開示)や、有機亜リン酸塩(organic phosphite)を用いる方法(Kondis,U.S.P.No.4,808,231に開示)等がある。
また、水性システムにおいて使用するアルミニウム質ペーストを製造するのに用られる組成物において、水素ガスの発生を抑制するために、ニトロパラフィン溶媒を用いることも知られている。
このような技術を背景として、本発明は、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒(nitro-containing solvent)を加えることによって、有機リン酸塩,有機亜リン酸塩あるいはバナジウム化合物を用いることによって起こる金属顔料粒子の不動態化を促進するものである。
発明の要旨 本発明は、(a)有機リン酸塩(Williams et al,U.S.P.No.4,565,716に開示)、あるいは(b)5価のバナジウム化合物(Kondis,U.S.P.No.4,693,754に開示)、あるいは(c)有機亜リン酸塩(Kondis,U.S.P.No.4,808,231に開示)と、ニトロパラフィン等のニトロ基を持つ化合物と、によって処理された金属粒子を含有する組成物を提供するものである。
このように処理した金属顔料粒子を用いて顔料ペーストを作成することができる。ニトロ基を持つ化合物と,有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩あるいはバナジウム化合物によって処理された金属粒子〔例えば、薄片状アルミニウム(aluminum flakes)〕は、水性コーティングシステムに用いることができる程度に安定化される。
金属粒子を処理する際に、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を、有機リン酸塩、あるいは有機亜リン酸塩、あるいはバナジウム化合物と組み合わせて用いると、製造された金属顔料ペーストは、それぞれ別個の処理によって製造された製品よりも、ガス安定性に優れている。
この処理を行うとき、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒は、有機リン酸塩,あるいは有機亜リン酸塩,あるいはバナジウム化合物と共に、顔料ペースト若しくは塗料の展色剤(vehicle)に添加することができる。塗料の展色剤に添加する場合は、有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩あるいは5価のバナジウム化合物で処理された顔料ペーストを添加する前に添加しても、顔料ペーストと共に添加してもよい。
好ましい実施例の説明 本発明は、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を、ある特定の有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩あるいは5価のバナジウム化合物と組み合わせて用いると、金属顔料を水との反応に対して安定化させることが出来、水をベースにしたコーティングシステムにこれを使用すると、顔料を塗布したときの美観はあまり悪くならないことを発見したことに基づいている。
有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、バナジウム化合物、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を、それぞれ別個に使っても、水をベースにしたコーティングシステムにおいて金属顔料はある程度の安定性が得られるが、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、バナジウム化合物のいずれかを、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒と組み合わせて使ったときの方が、はるかに強力な安定性が得られる。本発明は、特に亜鉛質及びアルミニウム質顔料において有効である。
有機リン酸塩は、本明細書に引用したWilliams et al.,U.S.P.No.4,565,716において説明されているようなものである。ここに使われている「有機リン酸塩」や「リン酸塩」には、次の化学式で示すような物質が含まれるものと考えられる。
A.〔R−O〕P〔O−Z〕B.〔R〕P〔OZ〕C.R−O−P−O−Z ここで、X=1または2であり、 Y=1または2であり、さらに、 X+Y=3である。
また、Zは、水素、または酸性リン酸塩(acid phosphate)を中和するものであって、R基は次に示すようなものである。
ベンゾ基(benzo)、ハロ基(halo group)、 1〜24個の炭素原子を持つアルキル基(alkyl group)、 3〜20個の炭素原子を持つシクロアルキル基(cycloalkyl group)、 6〜40個の炭素原子を持つアリール基(aryl group)、 アルファあるいはベータのナフチル基(naphthyl)、 上記のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはナフチル基において、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ナフチル基で置換されたもの、上記のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはナフチル基において、ヘテロ置換基で置換されたものであって、ヘテロ置換基は、アミノ基、水酸基、エポキシ基(epoxy)、ニトリロ基(nitrilo)、ニトロ基(nitro)、カルボキシ基(carboxy)、カルボニル基(carbonyl)、ピリジニル基(pyridinyl)、アルファあるいはベータのフリル基(furyl)、あるいはアルファあるいはベータのチエニル基(thienyl)の中から選ばれる。
酸性リン酸塩を中和させるものの代表的な例は、Na、Li、K、Zn、Mg、Ca及びNH L(R′)である。
ここで、L+M=3あるいは4であり、 R′=CnH2n+1あるいはCnH2nOHであり、 nは1〜20である。
望ましい化合物は、化学式Aで示されるものであって、各R基に8個以上の炭素原子が含まれているものである。特に望ましい化合物は、イソオクチル酸性リン酸塩(isooctyl acid phosphate)と、Albright and Wilson Americas,Inc.がVirco-Pet 40及びVirco-Pet 50という商標名で売り出している2つの化合物である。
有機リン酸塩の濃度は、金属顔料の重量に対して1重量%〜25重量%であり、特に3重量%〜15重量%とすることが好ましい。
有機亜リン酸塩(organic phosphite)は、有機リン酸塩(organic phosphate)を生成するリン酸(phosphoric acid)からよりも、むしろ亜リン酸(phosporous acid)から誘導される。この有機亜リン酸塩は、中和されていてもされていなくてもよい。有機R基及び無機Z基は、前記において定義された通りである。有機亜リン酸塩は、本明細書に引用したKondis,U.S.P.No.4,693,754において説明されている。望ましい有機亜リン酸塩は、アルキル基で置換された亜リン酸塩であり、特に望ましいのは、ジラウリル水素亜リン酸塩(dilauryl hydrogen phosphite)、ジオクチル水素亜リン酸塩(dioctyl hydrogen phosphite)及びジオレイル水素亜リン酸塩(dioleyl hydrogen phospite)である。この亜リン酸塩の濃度は、金属顔料の重量に対して、2重量%〜15重量%であり、5重量%〜10重量%とするのが望ましい。
5価のバナジウム化合物としては、5酸化バナジウム(V2O5)、オキソバナジウムの陰イオン(oxovanadium anion),バナジウムオキソハロゲン化物(vanadium oxo halide)あるいはバナジウムアルコキシド(vanadium alkoxide)を挙げることができ、オキソバナジウム陰イオンを持つ化合物が好ましい。ここで、陽イオンとしては、アルカリ性イオンあるいはアルカリ土類金属イオン、もしくはNHL(R′)N+である。
ここで、L+M=4であり、 R′=CnH2n+1あるいは、CnH2nOHであり、 n=1〜20である。
オキソバナジウム陰イオンの例としては、VO3-、VO43-、V2O74-、V3O8-、V10O286-や、それぞれをプロトン化した形のものがある。5価のバナジウム化合物の濃度は、金属顔料の重量に対して1重量%〜30重量%、望ましくは5重量%〜15重量%とするのがよい。
ニトロ基を持つ化合物としては、1〜20個の炭素原子とニトロ基(-NO2)とを有するアルキル類あるいはアリール類、あるいはハロ基かアミノ基で置換されたアルキル類あるいはアリール類がよい。毒性や入手の容易さを考慮すると、低級のニトロパラフィン類、即ちニトロメタンやニトロエタン及び1ニトロプロパンなどが望ましい。
ニトロ基を持つ化合物は、最終的な金属顔料ペーストの溶媒全体の5重量%〜100重量%であるが、より望ましい割合は20重量%以上であって、最も望ましい割合は35重量%以上である。典型的な溶媒の量はペーストの量に対して28重量%〜50重量%程度である。
5価のバナジウム化合物をペースト中に混入する好ましい方法としては、スラリー法(本明細書に引用したKondis,U.S.P.No.4,693,754に開示)を変形した方法がある。
金属顔料粒子のろ過ケーク(filter cake)あるいはペーストを、30重量%〜94.5重量%(望ましくは65重量%〜89重量%)のニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を含有する混合物中でスラリー化する。なお、このケークあるいはペーストは、ミネラルスピリット溶媒(mineral spiritsolvent)中に50重量%〜95重量%の金属顔料を含み、望ましくは60重量%〜85重量%の金属顔料を含む。
このケークあるいはペーストをスラリー化する混合物は、上記割合のニトロ基を持つ化合物からなる溶媒と、アルコール(alcohol)、グリコール(glycol),グリコールエーテル(glycol ether)あるいはグリコールエーテルアセテート(glycol ether acetate)のような水に溶ける溶媒が、5重量%〜40重量%(望ましくは10重量%〜89重量%)と、水が0.5重量%〜30重量%(望ましくは1重量%〜10重量%)と、所望の量のバナジウム化合物とから構成されている。
このように作製されたスラリーを、20℃〜100℃(望ましくは50℃〜80℃)で、勢いよく0.5時間〜72時間(望ましくは5時間〜48時間)混合する。次に、これをろ過することによって、所望の不揮発性分の量(通常は60重量%〜72重量%)とすることができる。
アルミニウム質顔料に、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒と、有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩を混入する望ましい方法の一つとして「ケーク・リダクション法(cake reduction)」がある。この方法は、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒に有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩を溶解させた処理溶液を使って、金属顔料粒子のろ過ケークをペースト状にしたり、あるいは希釈するという方法である。
このろ過ケークは、ミネラルスピリット溶媒中に金属顔料が75%〜95%(望ましくは78%〜85%)含まれている。このろ過ケークをミキサーに入れて、上記の処理溶液を加える。加える量は、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒と、有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩のいずれもが、望ましい範囲でアルミニウム質顔料に混入されるような量とする。ここで、必要あるいは要望に応じて、他の有機溶媒も用いてもよい。
他の有機溶媒としては、ミネラルスピリット、高フラッシュのナフサ(high flash naphtha)やアルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、ケトン(ketone)などがあるが、これらに限られない。また、表面活性剤や水と混和する(water micible)溶媒も併せて用いることによって、均質の生成物を得ることができるならば、水も溶媒として用いることが出来る。
加える溶媒の量は、所望の不揮発成分量(典型的には60%〜72%)を得ることができるように設定する。
ろ過ケークや処理溶液や他の有機溶媒を使う場合は、それらを5分〜8時間の間、機械的に混合する。混合時間としては、処理溶液と金属顔料の粒子が均一に混合されるのに十分な時間が必要であるが、顔料の光学的性質が損なわれるほど長く混合してはいけない。
「ケーク・リダクション法」は望ましいものではあるが、他の技法を使って、水に対して安定な金属顔料ペーストを製造してもよい。例えば、金属顔料のろ過ケークを、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒の過剰量の中でスラリー化する。このスラリーを、5分〜1時間、機械的に混合した後、ろ過することによって、不揮発成分量を75%〜95%(望ましくは78%〜85%)とする。このろ過ケークは、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒が唯一の溶媒であるが、これを「ケーク・リダクション法」を用いて、追加の溶媒と、有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩で処理する。この追加溶媒は、ニトロ基を持つ化合物、あるいはそれ以外の溶媒のいずれかである。
上記の方法の変形として、顔料のろ過ケークを、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒中に有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩が含まれてなる溶液の過剰量の中でスラリーする方法がある。このスラリーを上記で説明されているように機械的に混合し、ろ過することによって、最終的な生成物の不揮発成分量を所望の量(通常60%〜72%)とする。
これらの方法のいずれによっても、ミネラルスピリットを含まない生成物を生成することができる。
上記に説明したようなポスト・ミリング(post-milling)処理方法に加えて、別の方法として、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒及び/又は有機リン酸塩あるいは有機亜リン酸塩をボールミルに入れ、金属顔料の表面が生じたときにその表面を安定させるという方法がある。2つの材料のうち1つだけをボールミルに加える場合は、もう一方を「ケーク・リダクション法」を使って混入することができる。
処理工程を好適に行えば、混練時にどのような潤滑剤を用いるかに係わらず、優れた安定性が得られ、顔料の持つリーフィングあるいはノン・リーフィングといった性質(leafing or non-leafing behavior)も変わらない。また、使われる顔料の金属が標準的なものであるか或は高純度のものであるかに係わらず、優れた安定性を得ることができる。
得られた顔料ペーストは、様々な既存のコーティングシステムに用いることができ、一般に普及しているペーストの代替として使用することができる。
実施例においては、メインテナンスや汎用の工業用ルーフ・コーティング剤や自動車用コーティングシステムに使用できることを示した。
例えば、このペーストを、アクリルポリマエマルジョン(acrylic polymer emulsion)、水溶性のアルキド樹脂システム(water reducible alkyd resin system)、水溶性のアルキド/メラミンの架橋したシステム(alkyd/melamine cross-linked system)、水溶性エポキシコーティング剤waterborne epoxy coating)やポリエステルエマルジョン(polyester emulsion)及び水溶性のポリエステルメラミンコーティング剤(polyester melamine coating)といった展色材と共に用いることができる。
別の方法としては、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒が存在しない状態で、前記のように有機リン酸塩、有機亜リン酸塩あるいは5価のバナジウム化合物によって処理した顔料ペーストを作成する方法がある。このペーストを、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒が少量加えられている水性コーティングシステムに混入することによって得られる塗料は、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を含まない塗料と比べて、優れた安定性を示す。ここで、塗料の展色剤に加えられるニトロ基を持つ化合物からなる溶媒の量は、金属顔料ペーストの量の3重量%〜100重量%、望ましくは10%以上とする。
実施例1 ノン・リーフィング性のアルミニウム質顔料からなるろ過ケーク492グラム(ミネラルスピリット中に、79重量%のアルミニウムを含有)をミキサーに満たす。これに61.9グラムのVirco-Pet 50〔ミネラルスピリット中に、70重量%の非水溶性のリン酸塩エステル(phosphate ester)を含有:Albright and Wilson社製。〕と、96.1グラムのニトロエタンとを加えて、ニトロエタンが溶媒全体の44.1%になるようにする。これを1時間混合した後、後述する方法で水に対する安定性を調べる。
実施例2 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケークを、ニトロエタン中でスラリー化し、ろ過することによって、金属の含有量を78.5%とし、ミネラルスピリットをニトロエタンで置き換える。この洗浄したろ過ケーク489グラムをミキサーに入れて、61.9グラムのVirco-Pet 50と100グラムのニトロエタンを加えることによって、ニトロエタンが溶媒全体の91.7%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
比較例1 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケーク492グラムをミキサーに入れて、61.9グラムのVirco-Pet 50と96.1グラムの高フラッシュのナフサを加える。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
比較例2 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケーク488グラムをミキサーに入れて、103グラムのニトロエタンを加えて、ニトロエタンが溶媒全体の50.1%となるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
比較例3 実施例2の洗浄したアルミニウム質顔料のろ過ケーク488グラムをミキサーに入れて、103グラムのニトロエタンを加え、ニトロエタンが溶媒全体の100%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
実施例1,2及び比較例1,2,3のアルミニウム質顔料ペーストを、以下の方法で、汎用の工業用コーティング剤に混入する。
実施例1、2及び比較例1,2,3のペーストの各々を、20.2グラムのアルミニウムに相当する量だけとる。それぞれに、グリコールエーテルPMを24.8グラム、グリコールエーテルDPMを6.2グラム、Surfynol 104 BC(Air Products社)を4.7グラム、脱イオン水を61.9グラム、Resin 1018〔Unocal社:スチレンアクリレート共重合体エマルジョン(Styrene-acryratre copolymer emulsion)〕を312.2グラム加え、この混合物を均一になるまで混合する。
この結果得られた塗料を、一定温度(52℃)に保たれた槽に入れて、発生するガスを、水を満たしたビュレットに置換して168時間かけて集める。そのデータは表1に示すとおりである。


このデータは、明らかにリン酸塩エステルとニトロエタンとの間の相乗効果を示している。ニトロエタンだけでは、このシステムにほとんど安定性を与えず、このテストでは、発生したガスが多過ぎたために、非常に短時間で試料を取り除かなければならなかった。Virco-Pet 50だけでもガス発生はかなり低いものの、ニトロエタンと組み合わせたときの方がより良い結果が得られる。
実施例3 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケーク488グラムをミキサーに満たす。これに、48.1グラムのVirco-Pet 40(ジエチルアミン中に、90重量%の水溶性のリン酸塩エステルを含有する:Albright and Wilson社製)と、107グラムのニトロエタンとを加え、ニトロエタンが溶媒全体の49.6%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
実施例4 実施例2の洗浄したアルミニウム質顔料のろ過ケーク489グラムをミキサーに入れて、48.1グラムのVirco-Pet 40と107グラムのニトロエタンとを加えて、ニトロエタンが溶媒全体の97.8%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
実施例5 実施例2の洗浄したアルミニウム質顔料のろ過ケーク489グラムをミキサーに入れて、14.5グラムのVirco-Pet 40と141グラムのニトロエタンとを加えて、ニトロエタンが溶媒全体の99.4%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
比較例4 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケーク488グラムをミキサーに入れて、48.1グラムのVirco-Pet 40と、107グラムの高フラッシュのナフサとを加える。これを1時間混合した後、水に対する安定性を調べる。
実施例3、4、5及び比較例4のアルミニウム質顔料ペーストを、上記で説明した方法で汎用の工業用コーティング剤に混入し、ガス発生を調べる。そのデータは表2に示すとおりである。


ここにおいても、ニトロエタンとリン酸塩エステルの両方を使ったときの方が、いずれか一つだけを使ったときよりも良い結果が得られる。また、この塗料剤においては、Virco-Pet 40がVirco-Pet 50ほど効果的ではないということも分かる。
実施例1,2,4,5及び比較例1,2のアルミニウム質顔料ペーストを、以下の方法で、自動車用ベースコート剤に混入する。
実施例1,2,4,5及び比較例1,2のペーストの各々を、3.56グラムのアルミニウムに相当する量をとって、10.52グラムのグリコールエーテルFBの中で分散させ、均一になるまで混合する。この分散したものに、顔料状のポリエステル/ポリウレタン(pigmented polyester/polyurethane)の自動車用水性ベースコート剤419.76グラムを加え、均一になるまで混合する。そのデータは表3に示すとおりである。




自動車用ベースコート剤での結果においても、ニトロエタンとリン酸塩エステルの両方を使ったときの方が、個々にいずれか一方を使ったときに比べて、ガス発生が大幅に減少している。ニトロエタンの割合を増やすと、Virco-Pet 50とVirco-Pet 40のいずれを使った場合においても、ガスの発生は減少した。
実施例6 リーフィング性のアルミニウム質顔料ペースト、例えば、シルバーライン社のHYDRO PASTE 830 WATER DISPERSIBLE ALMINUM PIGMENT(5/4の比率のミネラルスピリット及び1ニトロプロパンの混合物中に65重量%のアルミニウムを含む)を749.3グラムとってミキサーに入れる。
これに54.0グラムのVirco-Pet 50を加えて一時間混合した後に、後に説明する方法で、水に対する安定性と、後述するように塗布したときの美観とを調べる。
実施例7 リーフィング性のアルミニウム質顔料からなるろ過ケーク(ミネラルスピリット中に82.8重量%のアルミニウムが含まれる)543.4グラムをミキサーに入れる。これに45.0グラムのVirco-Pet 50と78.8グラムのニトロエタンを加えて、ニトロエタンが溶媒全体の42.4%となるようにする。これを一時間混合した後、水に対する安定性と、塗布したときの美観とを調べる。
実施例8 リーフィング性のアルミニウムのろ過ケーク、(ミネラルスピリット中に86.1重量%のアルミニウムを含む)2,671.3グラムを、ミキサーに入れる。これに230.0グラムのイソオクチル酸性リン酸塩(isooctyl acid phosphate)と506.0グラムのニトロエタン、135.0グラムのミネラルスピリットを加え、ニトロエタンが溶媒全体の50.0%になるようにする。これを2時間混ぜた後、水に対する安定性と、塗布したときの美観とを調べる比較例5 実施例6のHYDRO PASTE 830 WATER DISPERSIBLE ALMINUM PIGMENTについて、水に対する安定性と、塗布したときの美観とを調べる。
比較例6 実施例7のリーフィング性アルミニウム質顔料のろ過ケーク543.4グラムをミキサーに入れて、125.0グラムのニトロエタンを加え、ニトロエタンが溶媒全体の57.2%になるようにする。これを1時間混合した後、水に対する安定性と、塗布したときの美観とを調べる。
比較例7 実施例7のリーフィング性のアルミニウム質顔料のろ過ケーク543.4グラムをミキサーに入れて、45.0グラムのVirco-Pet 50と78.8グラムの高フラッシュのナフサを加える。これを1時間混合した後、水に対する安定性と、塗布したときの美観とを調べる。
実施例6,7,8及び比較例5,6,7のアルミニウム質顔料ペーストの各々を96.1グラムとって、市販の水溶性アスファルトルーフコーティング展色剤400.0グラムに混入した。各々の少量を、バード・アプリケーター(Bird applicator)を使って、ラミネートされた厚紙上に展開し、反射率をトータル・リフレクトメーター(Total Reflectometer)で測った。
また、残りのペーストを用いてガス発生を調べた。そのデータは表4に示すとおりである。


この結果においても、ニトロエタンあるいは1ニトロプロパンのいずれかをVirco-Pet 50と組み合わせたときは、3つの材料を単独で使ったときと比べて、ガス発生が減少するということが分かる。
美観の面の結果でも、ニトロエタンを使ったときの方が1ニトロプロパンを使ったときよりも反射率が高い。また、これらのいずれかの溶媒をVirco-Pet 50と組み合わせて使うと反射率は低くなるものの、ニトロエタンとVirco-Pet 50の混合物を使う場合は、1ニトロプロパンあるいはVirco-Pet 50いずれかを単独で使ったときに比べて、反射率がはるかに高い。イソオクチル酸性リン酸塩とニトロエタンとを組み合わせて得られる塗料においては、ガス発生が更に大きく減少し、美観においても許容できるものである。
実施例7及び比較例5,7のペーストの各々を、11.51グラムのアルミニウムに相当する量をはかりとって、汎用の工業用塗料剤402.32グラムの中に混入した。この工業用塗料剤は、74.0重量%のPholex WL-51 Acrylic Emulsion(Rohm & Haass社)、4.23重量%の脱イオン水、15.95重量%のグリコールエーテルEB、3.91重量%のグリコールエーテルDB、1.53重量%のフタル酸ジブチル(dibutyl phthalate)、0.05重量%のPatcote 519(Patco社)と、0.31重量%のByk 301(Byk Chemie社)とからなるものである。
別に、比較例7のペーストを、11.51グラムのアルミニウムに相当する量だけはかりとり、上記の汎用の工業用塗料剤402.32グラムにニトロエタン2.84グラムが添加された展色剤に混入した。
これらの塗料について、ガス発生を調べた。そのデータは表5に示すとおりである。


この結果によって、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒をペーストに加えたか塗料剤に加えたかに係わらず、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒とリン酸塩エステルとの組み合わせによる効果が達成されることが判明した。
実施例9 実施例1のアルミニウム質顔料のろ過ケーク126.6グラムを、2リットルの反応フラスコに入れて、ニトロエタン81.3%、グリコールエーテルDEアセテート16.3%、水2.4%からなる溶媒1000.0グラムの中でスラリー化する。そして、アンモニウムメタバナジン酸塩(NH4VO3)を10グラム加え、スラリーを70℃で24時間、マグネットで撹拌する。これをろ過して、不揮発成分の量をおよそ65%とした後、水に対する安定性を調べる。
比較例8 スラリー用の溶媒がグリコールエーテルDEアセテート80%と水20%からなるという点以外は、実施例8と同様のことを行う。そして、これをろ過して、水に対する安定性を調べる。
実施例9と比較例2,8のアルミニウム質顔料ペーストを、顔料状の自動車ベースコート剤に上述したような方法で混入し、ガス発生を調べた。そのデータは表6に示すとおりである。




このデータによると、ニトロエタンの相乗効果は、リン酸塩エステルのときと同様、バナジン酸塩を用いたときにも起こることが分かる。
このように、実施例に基づいて本発明の詳細な説明をなしたが、本発明は上記実施例に限定されることなく、次の請求項によって定義されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】コーティング組成物用のペーストであって、金属顔料粒子と、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、5価のバナジウム化合物からなるグループから選ばれたものと、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒とを備えることを特徴とするペースト。
【請求項2】前記金属顔料粒子が、アルミニウムあるいは亜鉛からなることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項3】前記金属顔料粒子の量が、前記ペーストの量に対して60〜72重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項4】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して1〜25重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項5】前記ペーストに含有される全溶媒の量が、前記ペーストの量に対して28〜40重量%であり、前記ニトロ基を持つ化合物の量が、前記全溶媒の量に対して5〜100重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項6】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して3〜15重量%であることを特徴とする請求項4記載のペースト。
【請求項7】前記ニトロ基を持つ化合物の量が、前記全溶媒の量に対して20〜100重量%であることを特徴とする請求項5記載のペースト。
【請求項8】前記ニトロ基を持つ化合物の量が、前記全溶媒の量に対して35〜100重量%であることを特徴とする請求項5記載のペースト。
【請求項9】前記5価のバナジウム化合物の量が、前記金属顔料粒子の量に対して1〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項10】前記5価のバナジウム化合物の量が、前記金属顔料粒子の量に対して5〜15重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項11】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して2〜15重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト。
【請求項12】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して5〜10重量%であることを特徴とする請求項11記載のペースト。。
【請求項13】請求項1記載のペーストと、水溶性の担体(aqueous carrier)とからなることを特徴とする水性コーティング組成物。
【請求項14】有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、5価のバナジウム化合物からなるグループから選ばれたものと、金属顔料粒子とを含有するペーストと、ニトロ基を持つ化合物と、水溶性の担体とからなることを特徴とする水性コーティング組成物。
【請求項15】前記金属顔料粒子が、アルミニウムあるいは亜鉛からなることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項16】前記金属顔料粒子の量が、前記ペーストの量に対して60〜72重量%であることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項17】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して1〜25重量%であることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項18】前記ニトロ基を持つ化合物の量が、前記ペーストの量に対して3〜100重量%であることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項19】前記有機リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して3〜15重量%であることを特徴とする請求項17記載のコーティング組成物。
【請求項20】前記ニトロ基を持つ化合物の量が、前記金属顔料粒子の量に対して10〜100重量%であることを特徴とする請求項18記載のコーティング組成物。
【請求項21】前記5価のバナジウム化合物の量が、前記金属顔料粒子の量に対して1〜30重量%であることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項22】前記5価のバナジウム化合物の量が、前記金属顔料粒子の量に対して5〜15重量%であることを特徴とする請求項21記載のコーティング組成物。
【請求項23】前記有機亜リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して2〜15重量%であることを特徴とする請求項14記載のコーティング組成物。
【請求項24】前記有機亜リン酸塩の量が、前記金属顔料粒子の量に対して5〜19重量%であることを特徴とする請求項23記載のコーティング組成物。
【請求項25】コーティング組成物用の金属顔料ペーストの製造方法であって、金属顔料粒子を作製する第1のステップと、作製した金属顔料粒子に、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、5価のバナジウム化合物の中から選択されたものと、ニトロ基を持つ化合物とで処理する第2のステップとを備えることを特徴とする製造方法。
【請求項26】前記第2のステップでは、金属顔料粒子を、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、5価のバナジウム化合物の中から選択されたものと、ニトロ基を持つ化合物を含む処理溶液とで処理することを特徴とする請求項25記載の製造方法。
【請求項27】前記第2のステップでは、金属顔料粒子を、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒で処理し、次に有機リン酸塩または有機亜リン酸塩で処理することを特徴とする請求項26記載の製造方法。
【請求項28】コーティング組成物の製造方法であって、ニトロ基を持つ化合物からなる溶媒を展色材に加える第1のステップと、第1のステップでの生成物を、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、5価のバナジウム化合物の中から選択されたものが添加された金属顔料粒子を含有するペーストに加える第2のステップとを備えることを特徴とする製造方法。
【請求項29】前記第1のステップで加えるニトロ基を持つ化合物からなる溶媒の量は、前記第2のステップで用いるペーストの量に対して3〜100重量%であることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項30】前記第2のステップで用いるペーストに含有される金属顔料粒子は、アルミニウムまたは亜鉛からなることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項31】前記第1のステップで用いるニトロ基を持つ化合物からなる溶媒は、第2ステップの生成物中の溶媒の全量に対して35〜100重量%含有されていることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項32】前記第1のステップで用いる展色材が、水溶性の展色材であることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項33】前記第2のステップで用いるペーストには、金属顔料粒子に対して1〜25重量%の有機リン酸塩が添加されていることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項34】前記第2のステップで用いるペーストには、金属顔料粒子に対して1〜30重量%の5価のバナジウム化合物が添加されていることを特徴とする請求項28記載の製造方法。
【請求項35】前記第2のステップで用いるペーストには、金属顔料粒子に対して2〜15重量%の有機亜リン酸塩が添加されていることを特徴とする請求項28記載の製造方法。

【特許番号】第2574642号
【登録日】平成8年(1996)10月24日
【発行日】平成9年(1997)1月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−511880
【出願日】平成4年(1992)12月23日
【公表番号】特表平8−500130
【公表日】平成8年(1996)1月9日
【国際出願番号】PCT/US92/11179
【国際公開番号】WO93/13175
【国際公開日】平成5年(1993)7月8日
【出願人】(999999999)シルバーライン マニュファクチャリング カンパニー インコーポレーテッド
【参考文献】
【文献】特開 平1−129070(JP,A)
【文献】特開 平1−159302(JP,A)
【文献】特表 平4−502477(JP,A)