説明

耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はMgOを主成分とする耐吸湿性の優れたマグネシウムからなる電気絶縁材料に関するもので、特にシースヒーターの絶縁充填材として適するものである。
[従来の技術]
マグネシアは高周波電気絶縁抵抗および高温下での電気絶縁抵抗が非常に高い物質であり、絶縁充填材として広く用いられている。しかし、マグネシアは吸湿し易いという欠点も有する。このマグネシアの吸湿あるいは水分の吸着による絶縁抵抗の劣化や寿命低下が問題であった。
そのためヒーターの末端部にシリコーンゴムやエポキシ樹脂を封入したり、充填材であるマグネシア粉にシリコーンレンジを添加したり、さらにはマグネシア粉にシリコーン樹脂を塗布する等の方法が実施されている。
[発明が解決しようとする問題点]
ヒーターの末端部にシリコーンゴムやエポキシ樹脂を封入する方法は従来から最も用いられている方法であるが、耐湿性が十分ではなかった。またシリコーン樹脂を塗布したり、混合、加熱処理したりしたもの(特公昭53−4932)も、耐湿性の向上は見られるものの、耐熱性において十分満足し得るものでなかった。
また、無機物を利用する方法(特公昭55−49397)もあるが、高い温度で加熱処理する必要があり、製造が困難であった。さらに、マグネシア粉にシリコンオイルとシリカ粉をコーティングする方法(特公昭59−47870)もある。しかし、耐湿性は秀れているものの、耐熱性が不十分であった。
[問題点を解決するための手段]
上記問題点を解決するための本発明の構成は耐熱性、耐吸湿性に優れた電気絶縁材料であり、マグネシア粉の表面を、側鎖に反応性官能基を有するシリコーンオイルを媒体として、撥水性を有するシリカ粉が被覆している耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料である。
本発明に用いるシリコーンオイルの作用はたとえばメチルハイドロポリシロキサンのようにSi−Hの結合を持ち、それが空気中の酸素の作用により下に示す反応が起こり、

いわゆる架橋反応により、三次元構造化し、マグネシア粉の表面を覆うと推察される。
本発明に用いたシリカ粉は粒子径10〜40nmで表面にメチル基を持った超微粒子で撥水性を有するものをいう。また、シリコーンオイルは側鎖に反応性官能基を有しており、その反応性官能基としてCOOH基、CO基、H基、OH基、アルコキシ基のうち何れか一種以上を有するシリコーンオイルが、特に秀れた特性を有し、好ましくは、H基、OH基、OCH3基を有するもので本発明でいう効果を有する。
本発明のマグネシア粉はその表面を内層がシリコーンオイル、外層をシリカ粉が被覆しているものである。
マグネシア粉の表面を被覆するシリコーンオイルは0.1〜0.5wt%、かつシリカ粉は0.2〜2.5wt%が適当である。シリコーンオイルが0.1wt%未満では耐吸湿性が発揮されず、0.5wt%を越えるとマグネシア粉の流動性を220sec/100g以下にすることができない。また、シリカ粉が0.2wt%未満では耐熱性が悪く2.0wt%を越えるとシリカ粉の嵩比重が極めて低いために充填性が著しく悪化する。
また充填物の流動性(sec/100g)はシースヒーターに粉体を充填する際の製造上、特に作業効率上、重要な要素であり、上記粉体で流動性は220sec/100g以下であることが必要である。
さらに充填性(g/cm3)の低い粉体を用いるとヒーターに充填したのち圧縮減径して充填性を良くしなければならない。さらにその工程でひびが入ったり歪みが生じるために後工程として熱処理が必要であり、充填性が高い方が製造コスト上も好ましい。本発明のマグネシア粉は2.30g/ml以上の充填性を有する。
本発明の上記マグネシア粉は例えば次の様にして製造することができる。
焼結マグネシア粉100kgをコンクリート用ミキサーの如きミキサーに入れ、それにシリコーンオイルを0.2wt%加え、約20分撹拌・混合する。次に0.5wt%のシリカ粉を投入し、同じく約30分撹拌・混合する。
本発明の電気絶縁材料の耐熱性は肉径10mmのハイプと外径5mmの芯極との間にこの絶縁材料(マグネシア粉)を25mmの長さに1.5T/cm2の圧力で圧縮充填したものを各温度に保持した電気炉内に1時間保持しておく。このセルを直ちに温度40℃、相対湿度90%の恒温恒温槽内へ入れ、15時間保持したのち、絶縁計(東亜電波製SE−5型、測定範囲0.2〜2×107MΩ・cm)を用いて抵抗を測定した。
本発明における耐吸湿性は50mlのビーカーに水50mlを入れ、フェノールフタレインを2〜3滴滴下した溶液の中へ、マグネシア粉を約1gを入れて真赤になるまでの時間を調べ、耐吸湿性の目安とした。
また粉体のフロータイム及び密度はASTM standard D 2755に規定されている方法によりアメリカのBoeh Tool and Die Company製の装置を用いて測定した。
粒度分布はJIS標準篩を用いて篩分して求めた。
本発明における実施例の化学組成のMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3、B2O3はマグネシア粉体を塩酸水溶液で熱溶解したのち、冷却し、本ジャーレルアッシュ製の575−II型のICAPを用いて測定した。
[実施例]
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例1 ロータリキルンにより、2000℃の温度で焼成した0.42mm以下のマグネシア粉100kgをコンクリートミキサーに入れシリコーンオイルとして構造式

で表わされるものを0.2wt%加えてさらに約15分間撹拌した。さらにシリカ粉として日本アエロジル社製、商品名R972を0.5wt%加えて、約15分間撹拌混合した。いずれの撹拌時間とも15分以上でも支障はないが15分以下では混合が不十分であった、コンクリートミキサーから上記の処理をしたマグネシア粉を取り出し、0.42mmで篩分しアンダー品を以下の試験の試料とした。
下記第1表は処理前後におけるマグネシア粉の化学組成、粒度分布、耐熱性、耐吸湿性、充電性、流動性(以下全ての測定値という。)を示した。I gloss(灼熱減量)はマグネシア粉10gを正確に秤量し、白金ルツボに入れ;1000℃の電気炉の中に1時間保持したのち原料を重量%で表わした。
比較例1 実施例1に用いたマグネシア粉にシリコーンオイルとして本発明以外のオイル(例えばトーレシリコンのSR2402)を用い、以下実施例1と同じ処理を施し全ての測定値を第1表に示した。




また、第2表に耐熱性について本発明のマグネシア粉と比較例1のマグネシア粉とを比較して示した。


本発明のマグネシア粉が耐熱性に優れているのが明らかである。
実施例2 実施例1に用いたマグネシア粉、シリコーンオイル、シリカ粉を第3表で示すような混合量で同じ処理を施した。
そのマグネシア粉の耐熱性と耐吸湿性を第3表に示した。


[発明の効果]
以上説明したように、本発明の電気絶縁材料は従来から絶縁充填材として用いられていた電気絶縁材料に比較して耐熱性、耐吸湿性が向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】マグネシア粉の表面を、側鎖に反応性官能基を有するシリコーンオイルを媒体として、撥水性を有するシリカ粉が被覆していることを特徴とする耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料。
【請求項2】反応性官能基が、H基、OH基、OCH3基を有する特許請求の範囲(1)記載の耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料。
【請求項3】シリコーンオイルを0.1〜0.5wt%、シリカ粉を0.2〜2.0wt%含有する上記特許請求の範囲(1)ないし(3)の何れかに記載の耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料。
【請求項4】マグネシア粉が焼結マグネシアである特許請求の範囲(1)ないし(3)の何れかに記載の耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料。
【請求項5】流動性が220sec/100g以下、充填性が2.30g/cm3以上である特許請求の範囲(1)ないし(4)の何れかに記載の耐熱・耐吸湿性電気絶縁材料。

【特許番号】第2651826号
【登録日】平成9年(1997)5月23日
【発行日】平成9年(1997)9月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−253834
【出願日】昭和62年(1987)10月9日
【公開番号】特開平1−97303
【公開日】平成1年(1989)4月14日
【出願人】(999999999)宇部マテリアルズ株式会社