説明

耐環境性複合材料およびその製造方法

【課題】 セラミックス繊維強化複合材料を使用した高温・高圧水蒸気下でも安定な耐環境性に優れた複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の耐環境性複合材料は、セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有する。また、本発明の他の耐環境性複合材料は、前記セラミックス繊維強化複合材料と前記表面層との間に、さらに、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温・酸化雰囲気でも安定な耐環境性に優れたセラミックス繊維強化複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、金属にはない優れた耐熱性があり、次世代の耐熱材料として開発が進められている。中でもセラミックス繊維で強化されたセラミックス基複合材料は単相のセラミックスにはない損傷許容性から次世代の耐熱材料として開発が進められている。特に、非酸化物系の炭化ケイ素や窒化ケイ素およびこれらをマトリックスとして炭化ケイ素系セラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料は特に注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−49570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、これらのセラミックス繊維強化複合材料の用途と期待されているガスタービン分野への実証試験において極度の高温・高圧水蒸気下での化学的な反応による酸化減肉現象が進行することが明らかになり、実用化する上で、この酸化減肉現象を防止した、優れた耐環境性セラミックス繊維強化複合材料の開発が不可欠となっている。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決し、セラミックス繊維強化複合材料を使用した高温・高圧水蒸気下でも安定な耐環境性に優れた複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有する耐環境性複合材料に関するものである。
【0007】
また、本発明は、セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液に前記セラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは該ジルコニウムとセリウムを含む溶液を塗布する工程と、ジルコニウムとセリウムを含む溶液の付着したセラミックス繊維強化複合材料を大気中で焼成する工程とを有する前記耐環境性複合材料の製造方法に関するものである。
【0008】
さらに、本発明は、セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層と、該酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有し、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層における酸化ジルコニウムの含有割合が表面に向かって傾斜的に増大している耐環境性複合材料に関するものである。
【0009】
また、本発明は、セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、有機ケイ素重合体、あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物を、前記セラミックス繊維強化複合材料にコーティングする工程と、該コーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成する溶液に前記中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは前記溶液を塗布した後、大気中で焼成する工程とを有する前記耐環境性複合材料の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温・酸化雰囲気でも安定な耐環境性複合材料が提供できる。また、高温・酸化雰囲気でも安定な耐環境性複合材料の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の耐環境性複合材料は、セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有するものであり、耐環境性に優れた複合材料である。
【0012】
本発明に用いられるセラミックス繊維強化複合材料は、セラミックスをマトリックスとし、セラミック繊維で強化した複合材料である。セラミック繊維としては、非晶質炭化ケイ素系、結晶質炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、アルミナ・シリカ、ムライト、カーボンが挙げられる。セラミックス繊維の形態については特に制限はなく、平織、朱子織等の2次元あるいは3次元織物、又は一方向シート状物又はその積層物であってもよい。また、連続繊維を切断したチョップ状短繊維を使用した不織布であってもよい。複合材料中のセラミックス繊維の体積率については特別の制限はないが、20〜50%が一般的である。また界面層としては窒化ホウ素が望ましい。
【0013】
本発明のセラミックス繊維強化複合材料のマトリックスとしては、結晶質又は非晶質の酸化物セラミックス、結晶質又は非晶質の非酸化物セラミックス、ガラス、結晶化ガラス、これらの混合物、これらのセラミックスを粒子分散したものが好ましい。
【0014】
酸化物セラミックスの具体例としては、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、イットリウム、インジウム、ウラン、カルシウム、スカンジウム、タンタル、ニオブ、ネオジウム、ランタン、ルテニウム、ロジウム、ベリリウム、チタン、錫、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、鉄のような元素の酸化物、これら金属の複合酸化物が挙げられる。
【0015】
非酸化物セラミックスの具体例としては、炭化物、窒化物、硼化物を挙げることができる。炭化物の具体例としては、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ウラン、タングステン、タンタル、ハフニウム、ホウ素、鉄、マンガンのような元素の炭化物、これら元素の複合炭化物が挙げられる。この複合炭化物の例としては、ポリチタノカルボシラン又はポリジルコノカルボシランを加熱焼成して得られる無機物が挙げられる。
【0016】
窒化物の具体例としては、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、マグネシウム、モリブデンにような元素の窒化物、これらの元素の複合酸化物、サイアロンが挙げられる。
【0017】
硼化物の具体例としては、チタン、イットリウム、ランタンのような元素の硼化物、CeCoB,CeCo,ErRhのような硼化白金族ランタノイドが挙げられる。
【0018】
ガラスの具体例としては、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスのような非晶質ガラスが挙げられる。結晶化ガラスの具体例としては、主結晶相がβ−スプジューメンであるLiO−Al2O−MgO−SiO系ガラス及びLiO−Al−MgO−SiO−Nb系ガラス、主結晶相がコージェライトであるMgO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がバリウムオスミライトであるBaO−MgO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がムライト又はヘキサセルシアンであるBaO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がアノーサイトであるCaO−Al−SiO系ガラスが挙げられる。これらの結晶化ガラスの結晶相にはクリストバライトが含まれることがある。本発明におけるセラミックスとして、上記の各種セラミックスの固溶体を挙げることができる。
【0019】
セラミックスを粒子分散強化した具体例としては、上記のセラミックスマトリックス中に、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、硼酸マグネシウム、酸化亜鉛、硼化チタン及びムライトから選択される無機物質の球状粒子、多面体粒子、板状粒子、棒状粒子、ウイスカを0.1〜60体積%均一分散したセラミックスが挙げられる。球状粒子及び多面体粒子の粒径は0.1μm〜1mm、板状粒子、棒状粒子及びウイスカのアスペクト比は一般に1.5〜1000である。
【0020】
本発明の耐環境性複合材料の表面層は、酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲で、X線回折から得られる酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体の結晶構造が立方晶蛍石構造及び/又は正方晶であることが好ましい。
【0021】
酸化ジルコニウムに酸化セリウムを加え固溶体とすることにより、酸化イットリウムの添加した際に問題となる、空気中、特に水蒸気中の中低温域での長時間の熱処理での亀裂発生を防ぐことができ、シール効果の高い表面層とすることができる。酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲が好ましい。0.1より少ないと添加効果が得られず、70%より多くしても添加効果が増加することはなく、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体と酸化セリウムの2相構造になりやすくなり、相間での亀裂発生によるシール効果低下の原因となる。固溶体の結晶構造は、X線回折から得られる結晶構造が立方晶蛍石構造か正方晶のいずれかの単相であることがより好ましいが混合構造でもよい。
【0022】
前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から構成される表面層が図1の本発明の耐環境複合材料の断面模式図に示すように、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることが好ましい。該表面層が、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることによって、表面層とマトリックスとの接着面積の増大およびアンカー効果により、表面層とマトリックスとの密着性が向上して、表面層のシール効果を高めることができ、優れた耐環境性複合材料が得られる。
【0023】
本発明の耐環境性複合材料は、セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液に前記セラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは該ジルコニウムとセリウムを含む溶液を塗布する工程と、ジルコニウムとセリウムを含む溶液の付着したセラミックス繊維強化複合材料を大気中で焼成する工程により得られる。
【0024】
本発明に用いるセラミックス繊維強化複合材料の作製方法としては、セラミックスの前駆体重合体、たとえば、ポリカルボシラン、ポリメタロカルボシラン、ポリシラザン等を窒化ホウ素被覆炭化ケイ素系セラミックス繊維の成形体に含浸した後に加熱焼成することにより複合化を行うポリマー含浸・焼成法、マトリックスの原料粉末のスラリーを含浸し、ホットプレス等で高温で加圧燒結する方法やマトリックス元素のアルコキシドを原料にしたゾルゲル法、又は反応ガスを用いた化学気相蒸着法や溶融金属を含浸させ、反応によりセラミックス化させる反応燒結法があるが、ポリマー含浸・焼成法や化学気相蒸着法及び、これらの組み合わせが空隙率を制御できるため好ましい。
【0025】
セラミックス繊維強化複合材料の空隙率は0%にかぎりなく近づけてもよいが、10〜20%とすることが好ましい。この範囲に制御することにより、前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から構成される表面層がセラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込むことができるようになる。
【0026】
前記焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液としては、酸素を含むジルコニウム塩または水酸化ジルコニウムと、酸素を含むセリウム塩または水酸化セリウムを無機溶媒および/または有機溶媒中に所望の比率になるように溶解したものが好ましい。
【0027】
酸素を含むジルコニウム塩としては、二塩化酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、二硝酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、酢酸酸化ジルコニウムの少なくとも1種類とすることが好ましい。酸素を含むセリウム塩としては、硫酸セリウム、硝酸セリウム、リン酸セリウム、酢酸セリウム、炭酸セリウム、シュウ酸セリウムの少なくとも1種類とすることが好ましい。これらの原料を酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲になるように調整し、無機溶媒および/または有機溶媒に溶解する。無機溶媒および/または有機溶媒の種類、および原料の濃度に特に制限はないが、未溶解の原料が発生しないように溶媒の種類、原料の濃度を決めることが好ましい。
【0028】
焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液としては、ジルコニウムを含む有機化合物と、セリウムを含む有機化合物を有機溶媒中に所望の比率になるように溶解したものも好ましい。
【0029】
ジルコニウムを含む有機化合物としては、ジルコニウムアルコキシド、(イソプロポキシ)トリス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウム、テトラキス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウムや市販のジルコニウムを含む有機金属溶液の少なくも1種類とすることが望ましい。セリウムを含む有機化合物としては、セリウムアルコキシドや市販のセリウムを含む有機金属溶液の少なくも1種類とすることが望ましい。これらの原料を酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲になるように調整し、有機溶媒に溶解する。有機溶媒の種類、および原料の濃度に特に制限はないが、未溶解の原料が発生しないように溶媒の種類、原料の濃度を決めることが好ましい。
【0030】
大気中の焼成温度は原料が無機化する温度であればよいが、少なくも600℃以上であることが好ましい。焼成温度により固溶体の結晶構造を制御することができ、600℃から1000℃までは立方晶蛍石構造単相、1000℃から1500℃までは正方晶単相になりやすい。表面層の厚さは、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間の少なくとも一部に存在している箇所を除いた厚さが0.1μm〜2mmになるように浸漬・焼成の工程の繰り返し回数を制御することが好ましい。0.1μmより薄いと表面層のシール効果が得られず、2mmより厚くなると表面層が剥離しやすくなる。
【0031】
さらに、本発明の他の形態の耐環境性複合材料は、セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層と、該酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有し、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層における酸化ジルコニウムの含有割合が表面に向かって傾斜的に増大しているものである。
【0032】
本発明に用いられるセラミックス繊維強化複合材料は、セラミックスをマトリックスとし、セラミック繊維で強化した複合材料である。セラミック繊維としては、非晶質炭化ケイ素系、結晶質炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、アルミナ・シリカ、ムライト、カーボンが挙げられる。セラミックス繊維の形態については特に制限はなく、平織、朱子織等の2次元あるいは3次元織物、又は一方向シート状物又はその積層物であってもよい。また、連続繊維を切断したチョップ状短繊維を使用した不織布であってもよい。複合材料中のセラミックス繊維の体積率については特別の制限はないが、20〜50%が一般的である。また界面層としては窒化ホウ素が望ましい。
【0033】
本発明のセラミックス繊維強化複合材料のマトリックスとしては、結晶質又は非晶質の酸化物セラミックス、結晶質又は非晶質の非酸化物セラミックス、ガラス、結晶化ガラス、これらの混合物、これらのセラミックスを粒子分散したものが好ましい。
【0034】
酸化物セラミックスの具体例としては、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、イットリウム、インジウム、ウラン、カルシウム、スカンジウム、タンタル、ニオブ、ネオジウム、ランタン、ルテニウム、ロジウム、ベリリウム、チタン、錫、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、鉄のような元素の酸化物、これら金属の複合酸化物が挙げられる。
【0035】
非酸化物セラミックスの具体例としては、炭化物、窒化物、硼化物を挙げることができる。炭化物の具体例としては、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ウラン、タングステン、タンタル、ハフニウム、ホウ素、鉄、マンガンのような元素の炭化物、これら元素の複合炭化物が挙げられる。この複合炭化物の例としては、ポリチタノカルボシラン又はポリジルコノカルボシランを加熱焼成して得られる無機物が挙げられる。
【0036】
窒化物の具体例としては、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、マグネシウム、モリブデンにような元素の窒化物、これらの元素の複合酸化物、サイアロンが挙げられる。
【0037】
硼化物の具体例としては、チタン、イットリウム、ランタンのような元素の硼化物、CeCoB,CeCo,ErRhのような硼化白金族ランタノイドが挙げられる。
【0038】
ガラスの具体例としては、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスのような非晶質ガラスが挙げられる。結晶化ガラスの具体例としては、主結晶相がβ−スプジューメンであるLiO−Al2O−MgO−SiO系ガラス及びLiO−Al−MgO−SiO−Nb系ガラス、主結晶相がコージェライトであるMgO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がバリウムオスミライトであるBaO−MgO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がムライト又はヘキサセルシアンであるBaO−Al−SiO系ガラス、主結晶相がアノーサイトであるCaO−Al−SiO系ガラスが挙げられる。これらの結晶化ガラスの結晶相にはクリストバライトが含まれることがある。本発明におけるセラミックスとして、上記の各種セラミックスの固溶体を挙げることができる。
【0039】
セラミックスを粒子分散強化した具体例としては、上記のセラミックスマトリックス中に、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、硼酸マグネシウム、酸化亜鉛、硼化チタン及びムライトから選択される無機物質の球状粒子、多面体粒子、板状粒子、棒状粒子、ウイスカを0.1〜60体積%均一分散したセラミックスが挙げられる。球状粒子及び多面体粒子の粒径は0.1μm〜1mm、板状粒子、棒状粒子及びウイスカのアスペクト比は一般に1.5〜1000である。
【0040】
本発明の耐環境性複合材料の表面層は、酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲で、X線回折から得られる酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体の結晶構造が立方晶蛍石構造及び/又は正方晶であることが好ましい。
【0041】
酸化ジルコニウムに酸化セリウムを加え固溶体とすることにより、酸化イットリウムの添加した際に問題となる、空気中、特に水蒸気中の中低温域での長時間の熱処理での亀裂発生を防ぐことができ、シール効果の高い表面層とすることができる。酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲が好ましい。0.1より少ないと添加効果が得られず、70%より多くしても添加効果が増加することはなく、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体と酸化セリウムの2相構造になりやすくなり、相間での亀裂発生によるシール効果低下の原因となる。固溶体の結晶構造は、X線回折から得られる結晶構造が立方晶蛍石構造か正方晶のいずれかの単相であることがより好ましいが混合構造でもよい。
【0042】
本発明の耐環境性複合材料の中間層は、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなり、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の存在割合が、少なくとも前記表面層との境界面から5nm〜5μmの深さで傾斜しており、酸化ジルコニウムの存在割合が前記表面層との境界面に向かって増大する傾斜構造を有している。そして、前記表面層との境界面から5nm〜5μmの深さで酸化ジルコニウムの存在割合が99〜40%、炭化ケイ素の存在割合が1〜60%であることが好ましい。酸化ジルコニウムの存在割合が前記表面層との境界面に向かって増大することより、中間層自身の耐酸化性、耐腐食性を高め、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から表面層との熱膨張係数もほぼ同じに制御できるため、表面層の密着性を向上させ、シール効果を高めることができ、優れた耐環境性複合材料が得られる。
【0043】
前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層が図2の本発明の耐環境複合材料の断面模式図に示すように、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることが好ましい。該中間層が、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることによって、中間層とマトリックスとの接着面積の増大およびアンカー効果により、中間層とマトリックスとの密着性が向上することにより、表面層のシール効果を高めることができ、優れた耐環境性複合材料が得られる。
【0044】
さらに、前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から構成される表面層と前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層とが共に図3の本発明の耐環境複合材料の断面模式図に示すように、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることが好ましい。該表面層と中間層とが共に、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることによって、中間層とマトリックスとの接着面積の増大およびアンカー効果による中間層とマトリックスとの密着性が向上、および、中間層と表面層との接着面積の増大およびアンカー効果による中間層と表面層との密着性が向上することにより、表面層のシール効果を高めることができ、優れた耐環境性複合材料が得られる。
【0045】
本発明の耐環境性複合材料は、セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、有機ケイ素重合体、あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物を、前記セラミックス繊維強化複合材料にコーティングする工程と、該コーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成する溶液に前記中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは前記溶液を塗布した後、大気中で焼成する工程により得られる。
【0046】
まず、セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する。セラミックス繊維強化複合材料の複合化方法としては、セラミックスの前駆体重合体、たとえば、ポリカルボシラン、ポリメタロカルボシラン、ポリシラザン等を窒化ホウ素被覆炭化ケイ素系セラミックス繊維の成形体に含浸した後に加熱焼成することにより複合化を行うポリマー含浸・焼成法、マトリックスの原料粉末のスラリーを含浸し、ホットプレス等で高温で加圧燒結する方法やマトリックス元素のアルコキシドを原料にしたゾルゲル法、又は反応ガスを用いた化学気相蒸着法や溶融金属を含浸させ、反応によりセラミックス化させる反応燒結法があるが、ポリマー含浸・焼成法や化学気相蒸着法及び、これらの組み合わせが空隙率を制御できるため好ましい。
【0047】
次に、前記有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、または、有機ケイ素重合体、または、前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物(以下前駆体ポリマーという)をトルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解した溶液をセラミックス複合材料の表面にコーティングする。
【0048】
コーティング方法としては、浸漬法や塗布法、スプレー法など公知のコーティング方法が用いられる。この際、前駆体ポリマーの濃度やコーティング回数により層の厚さを制御することができる。
【0049】
有機ケイ素重合体としては、特に制限はなく、ポリカルボシラン、ポリシラザン、ポリシラスチレン、メチルクロロポリシラン等が用いられる。有機ケイ素重合体の数平均分子量は200〜10,000の範囲が好ましい。有機ジルコニウム化合物としては、一般式、Zr(OR’)n或いはZrR’’m(R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする化合物が用いられる。
【0050】
また、変性有機ケイ素重合体は、前記有機ケイ素重合体を前記有機ジルコニウム化合物で修飾することにより得られる。変性有機ケイ素重合体の数平均分子量は1,000〜50,000の範囲が好ましい。本発明においては、前記変性有機ケイ素重合体における前記有機ジルコニウム化合物の修飾状態を注意深く制御する必要がある。
【0051】
以下に、変性有機ケイ素重合体の1例として、変性カルボシランについて説明する。
変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似している。変性ポリカルボシランは、主として一般式(1)
【0052】
【化1】

【0053】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主査骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、Zr(OR’)n、或いはZrR”m(R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機ジルコニウム化合物とから誘導されるものである。
【0054】
ここで、本発明の傾斜組成を有するセラミックス薄膜を製造するには、上記有機ジルコニウム化合物がポリカルボシランと1官能性重合体を形成し、かつ有機ジルコニウム化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、上記有機ジルコニウム化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機ジルコニウム化合物が一部に結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機ジルコニウム化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0055】
尚、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、上記1官能性重合体であり、かつ未反応の有機ジルコニウム化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0056】
本発明では、未反応の有機ジルコニウム化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。本発明では、主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機ジルコニウム化合物、或いは2〜3量体程度の有機ジルコニウム化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に本発明の出発原料として使用できる。また、ポリカルボシランと有機ジルコニウム化合物の混合物を用いてもよい。
【0057】
次に、前駆体ポリマーをコーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する。熱処理は後述の焼成雰囲気と同じ雰囲気で、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。この熱処理の際に、前駆体ポリマー中の第ジルコニア成分の表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成される。
【0058】
前記熱処理後のセラミックス複合材料は、500〜1800℃の温度範囲で不活性雰囲気中で焼成される。続いて酸化雰囲気中で焼成することにより、炭化ケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相と酸化ジルコニウムを主体とする第2相との複合相からなり、酸化ジルコニウム相の存在割合が表面層との境界線に向かって傾斜的に増大しているセラミックス薄膜がセラミックス繊維強化複合材料上に形成される。
【0059】
酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相の傾斜構造は、表面から5nm〜5μmの深さで酸化ジルコニウムの存在割合が99〜40%、炭化ケイ素の存在割合が1〜60%になるように上記工程を制御することが好ましい。厚さは0.5μm〜2mmになるように上記工程を制御することが好ましい。0.5μmより薄いと中間層の効果が得られず、2mmより厚くなると中間層が剥離しやすくなる。
【0060】
前記セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程において、マトリックスを形成させたセラミックス繊維強化複合材料の空隙率は0%にかぎりなく近づけてもよいが、10〜20%とすることが好ましい。この範囲に制御することにより、図2または図3に示すように前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層がセラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込むことができるようになる。
【0061】
さらに、前記セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程において、セラミックス繊維強化複合材料の空隙率を20〜35%とし、有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、有機ケイ素重合体、あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物を、前記セラミックス繊維強化複合材料にコーティングする工程と、該コーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する工程とにおいて、前記中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料の空隙率を10〜20%とすることが好ましい。この範囲に制御することにより、前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から構成される表面層と酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層とが図3に示すように共にセラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込むことができるようになる。
【0062】
以上のようにして得られた中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料を、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成する溶液に浸漬あるいは前記溶液を塗布した後、大気中で焼成する。
【0063】
前記焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液としては、酸素を含むジルコニウム塩または水酸化ジルコニウムと、酸素を含むセリウム塩または水酸化セリウムを無機溶媒および/または有機溶媒中に所望の比率になるように溶解したものが好ましい。
【0064】
酸素を含むジルコニウム塩としては、二塩化酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、二硝酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、酢酸酸化ジルコニウムの少なくとも1種類とすることが好ましい。酸素を含むセリウム塩としては、硫酸セリウム、硝酸セリウム、リン酸セリウム、酢酸セリウム、炭酸セリウム、シュウ酸セリウムの少なくとも1種類とすることが好ましい。これらの原料を酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲になるように調整し、無機溶媒および/または有機溶媒に溶解する。無機溶媒および/または有機溶媒の種類、および原料の濃度に特に制限はないが、未溶解の原料が発生しないように溶媒の種類、原料の濃度を決めることが好ましい。
【0065】
前記焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液としては、ジルコニウムを含む有機化合物と、セリウムを含む有機化合物を有機溶媒中に所望の比率になるように溶解したものも好ましい。
【0066】
ジルコニウムを含む有機化合物としては、ジルコニウムアルコキシド、(イソプロポキシ)トリス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウム、テトラキス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウムや市販のジルコニウムを含む有機金属溶液の少なくも1種類とすることが望ましい。セリウムを含む有機化合物としては、セリウムアルコキシドや市販のセリウムを含む有機金属溶液の少なくも1種類とすることが望ましい。これらの原料を酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲、さらに好ましくは、5から20モル%の範囲になるように調整し、有機溶媒に溶解する。有機溶媒の種類、および原料の濃度に特に制限はないが、未溶解の原料が発生しないように溶媒の種類、原料の濃度を決めることが好ましい。
【0067】
大気中の焼成温度は原料が無機化する温度であればよいが、少なくも600℃以上であることが好ましい。焼成温度により固溶体の結晶構造を制御することができ、600℃から1000℃までは立方晶蛍石構造単相、1000℃から1500℃までは正方晶単相になりやすい。表面層の厚さは、セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間の少なくとも一部に存在している箇所を除いた厚さが0.1μm〜2mmになるように浸漬・焼成の工程の繰り返し回数を制御することが好ましい。0.1μmより薄いと表面層のシール効果が得られず、2mmより厚くなると表面層が剥離しやすくなる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0069】
(実施例1)
表面層の原料として、二塩化酸化ジルコニウム(ZrClO・8HO)と硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)を用いて、ZrとCeの比が7:3、1:1、3:7になるように調整し、エタノール100gに原料の合計で0.1molを溶解した。 セラミックス繊維強化複合材料は以下の方法で作製した。市販の結晶性炭化ケイ素系繊維の3次元織物(繊維割合は、X:Y:Z=1:1:0.2)に界面層としてカーボンを化学気相蒸着法により形成させた。
【0070】
ついで、ポリチタノカルボシラン100部をキシレン100部に溶解させた溶液に浸漬し、アルゴン雰囲気中5気圧で含浸させた。さらに、アルゴン気流中に150℃に加熱してキシレンを蒸発除去した後、1200℃で焼成し、無機化を行った。引き続き、前記含浸、焼成を7回繰り返して、SiC系のマトリックスを形成させ、繊維体積率40%、空隙率13%の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。
【0071】
該複合材料を減圧下で前記エタノール溶液に浸漬し、引き上げて大気中約70℃で乾燥後、大気中800℃で焼成する工程を2回繰り返し、厚さ200μmの表面層を形成させ、耐環境性複合材料を得た。図4にZrとCeの比が7:3の場合の表面層の表面を操作型電子顕微鏡像で観察した結果を示す。緻密な皮膜となっていることがわかる。また、断面観察により、いずれの組成の表面層も、図1に示すように表面層が繊維間に入り込んでいることが確認された。得られた耐環境性複合材料を薄膜XRDにより表面層の結晶構造を調べた結果を図5に示す。いずれの表面層も立方晶蛍石構造で、Ceの増加に伴い、ピークが低角側にシフトしていることがわかる。(311)面のピークから格子常数を求め、CeO量との関係を図6に示す。なお、図6中のZrOとCeOの格子常数は文献値を使用した。表面層の格子常数は、ほぼZrOとCeOを結ぶ直線上に位置しており、ベガードの法則から、ZrとCeの比が7:3、1:1、3:7の酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体であることが確認された。
【0072】
(比較例1)
実施例1の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料の作製工程において、前記含浸、焼成を10回繰り返して、SiC系のマトリックスを形成させ、繊維体積率40%、空隙率5%の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。
【0073】
(比較例2)
前記の実施例1の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料に3モルの酸化イットリウムを含む酸化ジルコニウムをプラズマスプレー法により厚さ200μmのコーティングを行い、耐環境性複合材料を得た。
【0074】
実施例1、比較例1、2の耐環境性複合材料を1300℃、全圧9.5気圧、水蒸気圧1.5気圧で300時間暴露試験を行い、試験前後の耐環境性複合材料の引張強度を測定した。結果を表1に示す。本発明の耐環境性複合材料の強度維持率は80〜87%と、比較例1の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料の50%、比較例2の耐環境性複合材料の63%に比べ優れた維持率を示しており、本発明の耐環境性複合材料が優れた耐環境特性を示すことがわかる。
【0075】
【表1】

【0076】

(実施例2)
表面層の原料として、テトラエトキシジルコニウム(Zr(OC)とトリエトキシセリウム(Ce(OC)を用いて、ZrとCeの比が84:16になるように調整し、トルエン100gに原料の合計で1molを溶解した。セラミックス繊維強化複合材料は以下の方法で作製した。市販の非晶質炭化ケイ素系繊維の3次元織物(繊維割合は、X:Y:Z=1:1:0.1)に界面層として窒化ホウ素を化学気相蒸着法により形成させた。ついで、化学気相蒸着法によりSiCマトリックスを形成させ、繊維体積率40%、空隙率10%の非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。
【0077】
該非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料を窒素中で表面層用トルエン溶液に浸漬して乾燥後大気中1200℃で焼成し、厚さ150μmの表面層を形成させた。得られた耐環境性複合材料を薄膜XRDにより表面層の結晶構造を調べた結果を図7に示す。表面層は正方晶構造であることがわかる。また、断面観察により、図1に示すように表面層が繊維間に入り込んでいることが確認された。
【0078】
(比較例3)
実施例2の非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料の作製工程において、化学気相蒸着法の蒸着時間を増加させてSiC系のマトリックスを形成させ、繊維体積率40%、空隙率6%の非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。
【0079】
(比較例4)
前記の実施例2の非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料に3モルの酸化イットリウムを含む酸化ジルコニウムをプラズマスプレー法によりコーティングし耐環境性複合材料を得た。
【0080】
実施例2、比較例3、4の耐環境性複合材料を前記と同じ1300℃、全圧9.5気圧、水蒸気圧1.5気圧で300時間暴露試験を行い、試験前後の耐環境性複合材料の引張強度を測定した。結果を表2に示す。本発明の耐環境性複合材料の強度維持率は85%と、比較例3の非晶質炭化ケイ素繊維強化複合材料の40%、比較例4の耐環境性複合材料の58%に比べ優れた維持率を示しており、本発明の耐環境性複合材料が優れた耐環境特性を示すことがわかる。
【0081】
【表2】

【0082】

(実施例3)
実施例1と同じ方法で、繊維体積率40%、空隙率13%の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。
【0083】
ついで、まず5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。
【0084】
ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。該ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシジルコニウム64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシジルコニウムを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解した。前記の85%まで緻密化を行った複合材料を該トルエン溶液に浸漬した後、空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1400℃のアルゴンガス中で1時間焼成し、続いて大気中800℃で1時間焼成し、中間層を形成させた。電子顕微鏡観察の結果、SiC系マトリックス表面に約10μmの中間層が形成されていた。この中間層はTEM観察の結果、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素から構成されていた。また、EPMAによる構成原子の分布状態を調べたところ、最表面から2μmの領域でZr/Si(モル比)=0.80、最表面から3〜4μmの領域でZr/Si(モル比)=0.25、最表面から5μm以上の領域ではZr/Si=0.10と、表面に向かってジルコニウムが増大する傾斜組成になっていることを確認した。
【0085】
表面層の原料として、実施例1と同じ二塩化酸化ジルコニウム(ZrClO・8HO)と硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)を用いて、ZrとCeの比が7:3に調整し、エタノール100gに原料の合計で0.1molを溶解した。ついで、前記中間層を形成させた結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を減圧下で前記エタノール溶液に浸漬し、引き上げて大気中約70℃で乾燥後、大気中で800℃で焼成する工程を2回繰り返し、厚さ200μmの表面層を形成させ、耐環境性複合材料を得た。得られた耐環境性複合材料を薄膜XRDにより表面層の結晶構造を調べた結果、表面層が立方晶蛍石構造であることが確認された。また、断面観察により、図2に示すように中間層が繊維間に入り込んでいることが確認された。
【0086】
得られた耐環境性複合材料を前記と同じ1300℃、全圧9.5気圧、水蒸気圧1.5気圧で300時間暴露試験を行い、試験前後の耐環境性複合材料の引張強度を測定した。本発明の耐環境性複合材料は試験前強度350MPa、試験後の強度が315MPaを示し、強度維持率は90%と優れた維持率を示しており、本発明の耐環境性複合材料が優れた耐環境特性を示すことがわかる。
【0087】
(実施例4)
実施例1の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料の作製工程において、前記含浸、焼成を5回とし、繊維体積率40%、空隙率27%の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。ついで、実施例3と同じ方法で中間層を形成させ、空隙率15%の結晶性炭化ケイ素繊維強化複合材料を得た。ついで、表面層を実施例3と同じ方法で形成させ、耐環境性複合材料を得た。断面観察により、図3に示すように表面層と中間層とが共に繊維間に入り込んでいることが確認された。
【0088】
得られた耐環境性複合材料を前記と同じ1300℃、全圧9.5気圧、水蒸気圧1.5気圧で300時間暴露試験を行い、試験前後の耐環境性複合材料の引張強度を測定した。本発明の耐環境性複合材料は試験前強度350MPa、試験後の強度が325MPaを示し、強度維持率は93%と優れた維持率を示しており、本発明の耐環境性複合材料が優れた耐環境特性を示すことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は本発明の耐環境複合材料の断面模式図である。
【図2】図2は本発明の耐環境複合材料の断面模式図である。
【図3】図3は本発明の耐環境複合材料の断面模式図である。
【図4】図4は、実施例1のZrとCeの比が7:3の場合のコーティング表面の状態を示す操作型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例1のコーティング層の結晶構造を示すX線回折図である。
【図6】図6は、実施例1のコーティング層の格子常数とCeO量との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施例2のコーティング層の結晶構造を示すX線回折図である。
【符号の説明】
【0090】
1 表面層
2 マトリックス
3 セラミックス繊維
4 中間層








【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有する耐環境性複合材料。
【請求項2】
前記表面層を構成する酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体がセラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることを特徴とする請求項1記載の耐環境性複合材料。
【請求項3】
セラミックスをマトリックスとしセラミックス繊維を強化材とするセラミックス繊維強化複合材料と、該セラミックス繊維強化複合材料の表面に形成された、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層と、該酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層の表面に形成された、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体からなる表面層とを有し、酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層における酸化ジルコニウムの含有割合が表面に向かって傾斜的に増大している耐環境性複合材料。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相から構成される中間層が、前記セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることを特徴とする請求項3記載の耐環境性複合材料。
【請求項5】
前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体から構成される表面層と前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層とが共に、前記セラミックス繊維強化複合材料中のセラミックス繊維間に入り込んでいることを特徴とする請求項3記載の耐環境性複合材料。
【請求項6】
前記酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体が、酸化セリウムの固溶度が0.1から70モル%の範囲で、X線回折から得られる酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体の結晶構造が立方晶蛍石構造及び/又は正方晶であることを特徴する請求項1ないし5記載の耐環境性複合材料。
【請求項7】
前記酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層の傾斜構造が前記表面層との境界面から5nm〜5μmの深さの領域で形成されており、該領域内で酸化ジルコニウムの存在割合が99〜40%、炭化ケイ素の存在割合が1〜60%であることを特徴とする請求項3ないし5記載の耐環境性複合材料。
【請求項8】
セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコウムとセリウム含有溶液に前記セラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは該ジルコニウムとセリウムを含む溶液を塗布する工程と、ジルコニウムとセリウムを含む溶液の付着したセラミックス繊維強化複合材料を大気中で焼成する工程とを有する請求項1または2記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程において、セラミックス繊維強化複合材料の空隙率を10〜20%にすることを特徴する請求項8記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項10】
セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程と、有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、有機ケイ素重合体、あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物を、前記セラミックス繊維強化複合材料にコーティングする工程と、該コーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する工程と、焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成する溶液に前記中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料を浸漬あるいは前記溶液を塗布した後、大気中で焼成する工程を有する請求項3ないし5記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程において、セラミックス繊維強化複合材料の空隙率を10〜20%とすることを特徴する請求項10記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記セラミックス繊維の回りに化学気相蒸着法および/またはポリマー含浸・焼成法によりマトリックスを形成してセラミックス繊維強化複合材料を作製する工程において、セラミックス繊維強化複合材料の空隙率を20〜35%とし、有機ケイ素重合体を有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、有機ケイ素重合体、あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機ジルコニウム化合物との混合物を、前記セラミックス繊維強化複合材料にコーティングする工程と、該コーティングしたセラミックス繊維強化複合材料を熱処理し、不活性雰囲気中で焼成し、続いて酸化雰囲気中で焼成してセラミックス繊維強化複合材料の表面に酸化ジルコニウムと炭化ケイ素の2相からなる中間層を形成する工程とにおいて、前記中間層を形成したセラミックス繊維強化複合材料の空隙率を10〜20%とすることを特徴する請求項10記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液が、酸素を含むジルコニウム塩または水酸化ジルコニウムと、酸素を含むセリウム塩または水酸化セリウムとを無機溶媒および/または有機溶媒中に所望の比率になるように溶解させた溶液であることを特徴とする請求項8ないし12記載の耐環境性複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記焼成することにより酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を生成するジルコニウムとセリウムを含む溶液が、ジルコニウムを含む有機化合物と、セリウムを含む有機化合物とを有機溶媒中に所望の比率になるように溶解させた溶液であることを特徴とする請求項8ないし12記載の耐環境性複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−143538(P2006−143538A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336978(P2004−336978)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 民間基盤技術試験研究業務委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】