説明

耐磨耗層の形成方法

【目的】 デザイン画像が焼成印刷されたセラミックスタイル上に、ノンスリップ性の厚膜の耐磨耗層を積層する。
【構成】 まずタイル表面に粒径0.1〜0.5mm程度の微細な接着性ドットを疎らに印刷する。そのあと印刷された接着性ドット部に、分級されていて、かつ焼成温度では熔融しないセラミックス骨材を付着させる。そのあと骨材間の空隙にガラス粉末を積層して焼成する。この結果、所定の厚みのガラス層が平らに積層されるとともに、骨材がベースからガラス層を貫通して表面に突出した構造となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は床用セラミックスタイル(以下、タイル)の耐摩耗性に関する。詳しくは舗道や駅構内において用いられる、通行誘導や施設案内のためのデザイン画像を印刷したタイルに、ノンスリップ性の耐摩耗層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駅構内や舗道などの床面にはタイルを貼ることが一般的である。一方、その床面に通行誘導、避難誘導、施設案内、禁煙区域などの標識を表示するニーズが高まっている。この目的のためフイルムにデザイン画像を印刷した上に、ガラスビーズを埋め込んだ保護フイルムをオーバーラミネートしたものを貼付することが行なわれている。しかし、大都市の駅構内や駅近辺の舗道などにおいては、毎日の通行人数が膨大で、一日当たり数万以上に達するところもありフイルム製では耐久性がない。しかも汚れやすく、周辺部が剥がれやすいという問題もある。
【0003】
上記のような有機の材料ではなく、耐磨耗性に優れた焼成印刷を利用する方式も提案されている。タイルにデザイン画像を焼成印刷する方式としては大量生産用のスクリーン印刷以外に、印刷版を必要としないオンデマンド方式も実用化されている。例えば本発明者が開示した「接着記録方法」(特開2005−161828号公報)である。これはインクジェットプリンタを用いて、アルコールを溶媒とする接着性インクを噴射してタイルに接着性画像を印刷し、その上に焼成顔料を付着させ焼成する方法である。これらの方法で焼成印刷したタイル表面は硬度や耐光性に優れているが、床面に施工した場合の耐摩耗性という点では十分ではない。何故なら、その印刷層の厚みは10数μ程度に過ぎないからである。産官学で組織された床材料磨耗試験委員会の昭和43年の報告によれば、12万人の駅改札口通過により磁器タイル表面は3.4μ磨耗したとあり、施工場所にもよるが印刷層の上に、更にノンスリップ性の100μクラス以上の耐磨耗性の保護層を積層することが要請される。
【0004】
しかし、印刷層の上にこのような厚膜の平らなガラス質の保護層を形成することは容易ではない。スクリーン印刷による厚膜のベタ印刷でも積層出来る厚みはせいぜい数10μ程度である。また例え所望の厚みの平らなガラス質の保護層を積層出来たとしても、ガラス質自体は硬度は高くなく(モース硬度5程度)、また表面はスリップ性があり、未だ完全な解決ではない。
【0005】
このような事情から焼成印刷を利用する場合、以下のような方法が一部で実用化されているに過ぎない。即ち、表面に砂粒大の骨材が多数突出している特製の粗面タイルにスクリーン印刷を行ない焼成する方法である。この場合突出した骨材が保護して、谷間の印刷層が直接に靴底で摩擦されることが少ないので多少の耐磨耗性を有するが未だ十分ではない。しかも製版印刷のため高コストで小ロット対応が出来ないとともに、突起部周りの印刷画像がすぐに摩滅してしまうという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
故に本発明の課題は、デザイン画像が印刷されたタイル上に、耐摩耗性に優れたノンスリップ性の保護層を積層することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、デザイン画像が印刷されたタイル表面の全面に、まず微細な接着性ドットを疎らに印刷し、その上に細かく分級されていて、かつ焼成温度では熔融しないセラミックス骨材(以下、骨材)を付着させ、しかるのち骨材間の空隙にガラス体を積層したあと焼成することにより、印刷された接着性ドットに対し、ほぼ1対1の比率で骨材を付着出来るとともに、これが一定の散在密度以内であれば、下部に位置するデザイン画像の透視性をほとんど阻害しないこと、および、所定の厚みのガラス層を平らに積層出来るとともに、タイルベースからガラス層を貫通し表面に突出した構造で骨材を強固に固着出来ること、を見出し本発明に到達したものである。
【0008】
微細な接着性ドットを印刷するには、粘着性物質を微細にドット状に印刷出来る方法であれば、インクジェット印刷、スクリーン印刷など何れの方法でもよい。インクジェット印刷の場合は、骨材を付着させるに足る粘着性のインクであれば、水性、溶剤、油性、UVなど何れでもよい。またスクリーン印刷の場合はクリアワニスなどを使用すればよい。印刷される接着性ドットの大きさは、粒径0.1〜0.5mm、好ましくは0.15〜0.3mm程度である。本発明においては、これらの接着性ドットにほぼ1個の骨材が付着することを特徴とする。このため骨材の大きさは接着性ドットの大きさに対応する必要がある。上記サイズに対応する骨材の大きさは、おおよそ平均粒径100〜200μで、しかも細かい範囲に分級されているものである。200μ以上のサイズの骨材が付着すると、それが如何に疎らに散在していても、下部のデザイン画像の良好な透視性は阻害される。
【0009】
付着させる骨材の平均粒径を100〜200μと前提したとき、下部のデザイン画像の明瞭透視性を許容する骨材の散在密度は、平方cm当たり80〜400個程度である。より好ましくは120〜250個程度である。これより少ないと透視性は一層増すが、耐磨耗性を発揮する中心材料であるべきアルミナが不足するからである。これより大きいと耐磨耗性は増すが透視性は格段に劣ってくる。この範囲において明瞭透視性とJIS規格で定める耐磨耗性がほぼ両立する。なお耐スリップ性はアルミナの表面突出の構造から、これらの全範囲で良好である。ここにおいては骨材が狭い範囲に分級されていることが重要である。骨材に分級範囲外の細かな骨材が混じっていると、それが優先して先に接着性ドットに付着してしまい、意図した大きさの骨材が付着出来ないからである。骨材が一定の範囲の大きさであれば、付着した骨材の上面レベルもほぼ一定化する。その骨材間の空隙をガラス体で埋めることにより、容易に所定の厚みのガラス層を平らに積層出来る。骨材は焼成時に熔融しない白色もしくは透明なセラミックスである。このような骨材として好ましいのは硬度が極めて高いアルミナやジルコニアである。特にアルミナは品番ごとに粒径を細かく分級して市販されており、本発明に極めて好都合である。本発明においては品番100(105〜125μ)から品番80(150〜180μ)くらいまでの範囲が対象となる。もし品番80のアルミナを付着させたとすれば、平均的にみてアルミナのトップを結ぶ仮想平面はタイルベースから150〜180μの範囲の高さに位置しているとみて差し支えない。
【0010】
ガラス体としては長石、珪石、石灰、硼砂などを調合・粉砕したガラス粉末が好ましい。これを熔融して球状化したビーズであってもよい。本発明においてはガラス層が厚膜になりタイルとの膨張率の差でクラックが入りやすくなるので、ガラス体はタイルに合わせて熱膨張率の小さい処方にする。ガラス体を積層するには、ガラス粉末をタイルに盛り骨材の上面レベルでレベラーを水平に引き余剰粉を除去する方法や、オイルなどでペースト状に練ってレベラーで引き方法に依ればよい。粉末で使用する場合ガラス粉末は流動性がいいように、平均粒径20〜100μ程度、好ましくは40〜80μ程度の範囲のものが好ましい。このようにして積層されたガラス体は焼成段階で熔融したとき上面位置が20%程度沈下する。粉末の場合は空隙が充填されるからであり、ペーストの場合はオイル等が滅失するからである。この結果、ほぼ全部の骨材の上部がガラス層の上に突出する。突出した部分の高さはガラス体の積層具合で自由に加減可能である。焼成温度は一般にガラス体が熔融する850℃程度でよいが、高温用ガラス体の場合であれば1100℃程度である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、焼成印刷されたデザイン画像上に厚み100μクラス以上のガラス質と大粒のアルミナよりなる耐磨耗層が積層されるので、磨耗がデザイン画像層に達するまで膨大な人数の通行に耐えることが出来る。またアルミナがベースから表面までガラス層を貫通して固着している構造なので、最後まで剥落することがなく、かつ透視性も良好である。経時的にガラス層が磨耗していっても、硬度の数段高いアルミナ(モース硬度9)は磨耗しながらも依然表面に突出する仕組みになるので、耐磨耗性に大いに寄与するとともに、ノンスリップ性を最後まで発揮し続けることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前記した如く本発明は多様な実施形態を有するが、本実施例においては特許請求の範囲に記す耐磨耗層の形成方法に絞って本発明のエッセンスを示す。使用したインクジェットプリンタはピエゾ方式のエプソンヘッドを搭載したフラットベッド型のGP−604(商標、ミマキエンジニアリング社製)である。
【実施例1】
【0013】
以下の組成の接着性インクを調製しGP−604の黒インクカートリッジにセットした。
アルコール可溶アクリル樹脂
「エルバサイト」(商標、Dupont社製) 4%
ロジンエステル 3%
フタル酸ジメチル 3%
イソプロピルアルコール 40%
2−エトキシエタノール 50%
次にデザイン画像が焼成印刷された40cm角で厚さ13mmのタイルに、GP−604の黒インク単独印刷モードで、噴射量を最大にして接着性ドットを均一に疎らに印刷した。このときの平方cm当たりの印刷ドット数は平均160個であった。
【0014】
この上に品番80のアルミナを散布して付着させ余剰粉をブラシで除去した。そのあと平均粒径50μのガラス粉末を盛り、付着したアルミナの上面レベルでレベラーを水平に引き余剰粉を除去した。この一体物を850℃で焼成した結果、130μ程度の厚さのガラス層が積層されており、かつ表面にアルミナが突出したタイルを得た。このときデザイン画像は加工前の原タイルと較べて同等レベルに明瞭に透視できた。
【0015】
このタイルを用いて、まずJIS A 1509−12「陶磁器タイル試験方法−第12部 耐滑り性試験方法」に則って滑り抵抗値(CSR値)の測定をおこなった。この試験は路上粉塵を想定して関東ロームの火山灰土を焼成・分級して標準化したものなどと、水を一定比率で混合して試験タイル上に敷き、耐滑り性を評価する試験である。その結果、滑り抵抗値は平均7.1という極めて良好な数値であった。
【0016】
次にJIS A 1509−6「施釉床タイルの耐磨耗試験」に準じて試験をおこなった。この試験は水中に試験タイルを配置し、その上に直径5mm、3mm、2mm、1mmの所定量の鋼球、およびごく少量のアルミナよりなる摩擦材料を置き、全体を回転させ表面を磨耗させる試験である。回転数は100回転、150回転、600回転、750回転、1500回転、2100回転、6000回転、12000回転と8段階を規定し、各段階で劣化状況により合否判定する。最高の12000回転において変化が認められなければ、施釉床タイルとして一番ハードな場所に施工してよいとされる。
【0017】
この試験を準用と述べたのは、同一色の釉薬がベースから表面まで熔着している施釉タイルと異なり、試験タイルがベースにデザイン画像があり、その上を透明な厚膜のガラス質が覆っているという2層構造のため、ガラス質表面が磨耗で傷付くと光が表面で乱反射して白みを帯び、初期の段階から多少変化が見られるという事情があるからである。しかし、ベースのデザイン画像が露出するまでの磨耗プロセスにより、施釉タイルと同一基準で耐摩耗性を判定することには妥当性がある。本試験では6000回転、12000回転、30000回転、50000回転の4ケースを行い、原タイルと比較した。この結果、6000回転、12000回転、更に30000回転でも磨耗はデザイン画像にまでは達しておらず、最高回転数の4倍以上の50000回転でも結果は同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、毎日の人の通行が膨大な駅構内や舗道用に、耐摩耗性およびノンスリップ性に極めて優れたデザイン画像付きタイルを安価に提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デザイン画像が印刷されたセラミックスタイル表面に、接着性ドットを平方cm当たり80〜400個の散在密度で印刷する工程と、その接着性ドットに焼成温度では熔融しない平均粒径100〜200ミクロンのセラミックス骨材を付着させる工程と、そのセラミックス骨材間の空隙にガラス体を積層する工程と、そのセラミックスタイルを焼成する工程を有すること、を特徴とする耐磨耗層の形成方法。
【請求項2】
デザイン画像が印刷されたセラミックスタイル表面に、平方cm当たり80〜400個の散在密度で、平均粒径100〜200ミクロンのセラミックス骨材が焼結しており、かつそのセラミックス骨材の空隙をガラス質が埋めてなるセラミックスタイル。

【公開番号】特開2012−250899(P2012−250899A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135730(P2011−135730)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(591167946)
【出願人】(500116409)グラデスタオ株式会社 (3)