説明

耐酸化性耐熱合金

【課題】耐酸化性に優れた耐熱合金を提供する。
【解決手段】Mo:0.5〜40mass%、Cr:5〜45mass%、Pd:0.5〜15mass%、残部がWからなる耐酸化性の耐熱合金。本発明の耐熱合金によれば、高温大気中で長時間使用しても、表面に緻密な酸化クロム被膜を形成するため、酸素の内方拡散を遮断し、W及びMoの酸化消耗を抑えることができ、耐熱合金の質量変化率も小さくなる。さらに、本発明の耐熱合金の相対密度が低く、又は、耐熱合金中にCrの偏析があったとしても、その効果が損なわれない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に高温で用いられる耐熱合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タングステンは、融点が非常に高い元素であり、かつ、高強度であることから高温領域で使用され、例えば、線材、板材、パイプなどの高温構造材や高温用器具・工具類のほか、電気接点やフィラメント、放電電極に産業分野で使用されている。しかしながら、タングステンは酸素との親和力が大きく、高温大気下で耐酸化性は悪い。そこで、タングステンとその他の元素を組合せて、タングステン合金とすることで、耐熱性を維持しつつ、耐酸化性の向上が図られてきた。次に例示する公知文献において、タングステン合金の耐酸化性を向上させた合金が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、タングステンとクロム固溶相の相分離を抑制する5質量%以上30質量%以下のモリブデンと、10質量%以上30質量%以下のクロム及び残部が実質的にタングステンからなることを特徴とする耐酸化性を有するタングステン合金が提案されている。しかしながら、耐酸化性が十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐熱材料には、高融点、高強度、高耐酸化性で、長期間安定して使用できることが、常に産業分野から要求される。そこで、本発明は、耐酸化性に優れた耐熱合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、Mo:0.5〜40mass%、Cr:5〜45mass%、Pd:0.5〜15mass%、残部がWからなる耐酸化性の耐熱合金を発明するに至った。
【0007】
Moは、40mass%を上限として含むことで、合金の耐酸化性が優れているが、40mass%を超えると合金の溶融温度が下がるため、耐熱合金には不適である。より好ましくは、5〜40mass%とするとよい。
【0008】
Crが5mass%より少ないと酸化クロムの被膜形成が不十分となり、耐酸化性が劣る。また、45%を超えると合金の溶融温度が下がるため、耐熱合金には不適である。より好ましくは、15〜40mass%とするとよい。
【0009】
Pdは、酸化クロムの被膜形成を促進する効果があり、0.5mass%より少ないとその効果が発揮されず、耐酸化性が劣る。また、15mass%を超えると合金の溶融温度が下がるため、耐熱合金には不適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱合金によれば、高温大気中で長時間使用しても、表面に緻密な酸化クロム被膜を形成するため、酸素の内方拡散を遮断し、W及びMoの酸化消耗を抑えることができ、耐熱合金の質量変化率も小さくなる。さらに、本発明の耐熱合金の相対密度が低く、又は、耐熱合金中にCrの偏析があったとしても、その効果が損なわれない。
【0011】
本発明の耐熱合金は、従来のタングステン合金が用いられる分野に適用でき、線材、板材、パイプなどの高温構造材や高温用器具・工具類のほか、ヒータ線、電気接点やフィラメント、放電電極に適用すれば、耐久性は向上し、信頼性、寿命の向上をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の耐熱合金の断面を示す図である(実施例13)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、Mo:0.5〜40mass%、Cr:5〜45mass%、Pd:0.5〜15mass%、残部がWからなる耐酸化性の耐熱合金である。
【0014】
本発明の耐熱合金は、粉末冶金法により作製される。原料となるW、Mo、Cr及びPdの粉末は、平均粒径5μm以下を使用し、ボールミル混合することで混合粉末を得た。
得られた混合粉末を成形圧力500MPaで成形して圧粉体を得た。なお、圧粉体の作製には、一般的な一軸加圧成形機の他、冷間等方圧成形で行ってもよい。次いで、得られた圧粉体を1300〜1500℃で焼結した。なお、焼結雰囲気は、非酸化性雰囲気下(水素などの還元性雰囲気下、アルゴン及び窒素などの不活性雰囲気下、又は真空下)で行うことが好ましい。本焼結によって80%以上の相対密度が得られるが、高密度化、寸法調整、表面形態付与などの必要に応じて熱間等方圧縮、再圧縮、サイジングを行うこともできる。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例について説明する。実施例及び比較例の合金の組成及び試験結果を表1及び表2に示す。
【0016】
(試験片の作製)
表1及び表2の組成となるよう原料粉末を秤量し、乾式ボールミルで2時間混合して、混合粉末を得た。混合粉末0.2gを秤量し、一軸加圧成形機を用いて500MPaで金型中に成形し、直径5mmの円盤状の圧粉体を得た。次いで、実施例1〜実施例19及び比較例8及び比較例9の圧粉体は1400℃で1時間焼結した。比較例1〜比較例7の圧粉体は、1700℃で1時間焼結した。焼結雰囲気は、全てアルゴン気流下とした。こうして得た焼結体を試験片とした。
【0017】
(試験)
試験片の相対密度は、式1によって算出した。
式1:相対密度(%)=(焼結後の合金密度)/(理論密度)×100
【0018】
耐酸化試験の条件は、大気中1200℃、20時間とした。
試験前後の質量変化率は式2よって算出した。
質量変化率が負の場合は質量減少を表し、正の場合は酸化増量を表す。
式2:質量変化率(%)=(試験後の質量−試験前の質量)/試験前の質量×100
【0019】
質量変化率の評価は、-0.5%以上、5%以下は耐酸化性が優れるものと判定した。また、-0.5%より小さいものは耐酸化性が劣るものと判定した。
【0020】
(試験結果)
実施例の相対密度は、82〜93%であった。実施例は、耐酸化試験後にも質量変化率が-0.5%以上であり、優れた耐酸化性を示した。
比較例は、質量変化率が-0.5%よりも小さく耐酸化性が劣っていた。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【符号の説明】
【0023】
1 酸化被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo:0.5〜40mass%、Cr:5〜45mass%、Pd:0.5〜15mass%、残部がWからなる耐酸化性の耐熱合金。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84808(P2011−84808A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197244(P2010−197244)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)