説明

耐食性、塗装密着性に優れた亜鉛含有金属めっき鋼板用表面処理剤

【目的】 亜鉛含有金属めっき鋼板に、すぐれた耐食性と塗装密着性との両方を付与する非クロム系表面処理剤の提供。
【構成】 有効成分として多価フェノールカルボン酸および/又はそのデプシドと、化学式(I):(YR)mSiXn(Rはアルキル基、Xはメトキシ又はエトキシ基、Yはビニル、メルカプト、グリシドキシ、又はメタクリロキシ基、n=1〜3、m=4−n)のシランカップリング剤とを含有し、好ましくは上記有効成分の合計含有量が1〜50重量%である、亜鉛含有金属めっき鋼板用表面処理液。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、亜鉛含有金属、すなわち、亜鉛、又は亜鉛含有合金によるめっき鋼板表面にすぐれた耐食性、および塗装密着性を付与するに好適な表面処理剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般的に鉄鋼の防錆方法として、亜鉛の犠牲防食の原理を利用した亜鉛含有金属めっき鋼板が、自動車、建材並びに家電関係の広い分野に使用されている。しかし、亜鉛が大気中で腐食して生成する腐食生成物は、鋼板上にいわゆる白錆を形成し、亜鉛含有金属めっき鋼板の外観を低下させるという欠点を有しており、また、この白錆は、めっき鋼板の塗装密着性にも悪影響をおよぼすものである。
【0003】そこでこの様な問題の解決方法として、一般に亜鉛含有金属めっき鋼板の表面にクロム酸、重クロム酸またはその塩類を主成分として含有する処理液でクロメート処理が行われており、これにより耐食性、塗装密着性とも良好なクロメート皮膜が形成される。
【0004】しかしながら、近年、環境保全に対する要望が高まってきており、亜鉛含有金属めっき鋼板に使用されているクロメート処理液中の6価クロムは、人体に直接的な悪い影響をおよぼす欠点があるため、上述のクロメート処理は敬遠されがちである。また、クロメート処理を用いる場合、水質汚濁防止法に規定されている特別な廃水処理を行う必要があり、全体的としてはコストアップにつながるのである。また、クロメート処理を施した亜鉛含有金属めっき鋼板が廃棄されると、これは、クロム含有の廃棄物となりリサイクルができないという欠点を有している。
【0005】さらに、クロメート処理法以外の表面処理方法として、多価フェノールカルボン酸を含有しているタンニン酸を用いる表面処理剤を用いる方法が、よく知られている。タンニン酸の水溶液で亜鉛含有金属めっき鋼板を処理すると、タンニン酸と亜鉛との反応によって形成されるタンニン酸亜鉛が保護皮膜を形成し、これが腐食物質の侵入に対しバリアーを形成するので亜鉛含有金属めっき鋼板の耐食性が向上すると考えられている。
【0006】タンニン酸を用いる表面処理方法として、特公昭54−22781号公報に、亜鉛系めっき鋼板をタンニン酸とシリカゾル等を含む水溶液で処理し、表面に防錆効果のある極薄皮膜を形成させる方法が開示されている。ところがこの方法で形成された皮膜は、充分な耐食性を得ることができないという欠点を有している。
【0007】さらに、特公昭61−33910号公報には、亜鉛含有金属製品を、pH12.5以上の強アルカリ水溶液で処理し、その後に、タンニン酸を主成分とする酸性の水溶液で表面処理する方法が開示されている。しかしながら、この方法で形成された皮膜は、耐食性は比較的良好であるが、タンニン酸処理を行なう前に、強アルカリ処理と水洗処理とを行わなければならないので、生産性が悪く経済的でないという欠点がある。
【0008】その他の表面処理方法として、特公昭58−15541号公報には、水ガラス、あるいは珪酸ソーダの1種、あるいは2種と、有機シランカップリング剤とを含有せしめた水溶液を用いて、亜鉛含有金属めっき鋼板の表面処理を行う処理方法が開示されている。この方法により形成された表面皮膜は、一時密着性は良好であるが、しかし二次密着性と耐食性とが劣っているという欠点を有する。
【0009】従って、現状では、亜鉛含有金属めっき鋼板用に、すぐれた耐食性と塗装密着性の両方の性能を付与し得るノンクロム系表面処理剤は未だ提供されていないのである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記従来技術の有する上記問題点を解決し、亜鉛含有金属めっき鋼板用に要求されるすぐれた耐食性、および塗装密着性を同時に満たすノンクロム系表面処理剤を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らはこれらの諸問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、多価フェノールカルボン酸、およびそのデプシドを含有する物質から選ばれた少なくとも1種の物質と特定構造のシランカップリング剤とを含有する表面処理液を用いて、亜鉛および亜鉛系めっき鋼板の表面を処理することにより、耐食性、および塗装密着性のともに優れた皮膜が形成できることを新たに見いだし本発明を完成するに至った。
【0012】すなわち、本発明の亜鉛含有金属めっき鋼板用表面処理剤は、有効成分として多価フェノールカルボン酸、およびそのデプシドを含有する物質から選ばれた少なくとも1種の物質と、下記一般式(I):〔化2〕
(YR)mSiXn (I)
〔但し、式(I)中、Rはアルキル基を表し、Xはメトキシ基またはエトキシ基を表し、Yはビニル基、メルカプト基、グリシドキシ基またはメタクリロキシ基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは4−nの整数を表す〕で表示されるシランカップリング剤とを含有することを特徴とするものである。
【0013】更に本発明の表面処理剤中の有効成分の合計量は、1〜50重量%であることが好ましい。
【0014】
【作用】以下に本発明の表面処理剤の構成を詳細に説明する。本発明の表面処理剤が適用される亜鉛含有金属めっき鋼板とは、亜鉛、又は、亜鉛合金(例えばZn−Fe合金、Zn−Ni合金、およびZn−Al合金などを包含する)によりめっきされた鋼板を包含する。
【0015】本発明に用いられる多価フェノールカルボン酸としては、例えば没食子酸、プロトカテキュー酸、およびガロカルボン酸等を使用することができ、多価フェノールカルボン酸のデプシドとしては、例えばm−ジ没食子酸、トリ没食子酸、ジプロスキステス酸、タンニン、およびタンニン酸等を使用することができる。尚、本発明で使用されるタンニンとは、植物の種子、果殻、葉、根、材、樹皮などから温湯で抽出され、動物の生皮を革とすることのできる物質を総称したものである。またタンニン酸とは、五倍子または没食子等から得られたタンニンのことである。これらの物質の種類および添加量については特に限定されない。
【0016】本発明に用いるシランカップリング剤は、前記一般式(I)で示された化学構造を有するものであれば、特に制限はない。例えば、以下の(a)〜(c)グループのようなものを使用することができる。
(a)グリシドキシ基を有するもの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトエリメトキシシラン、など(b)アミノ基を有するものN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、および3−アミノプロピルトリエトキシシラン、など(c)メルカプト基を有するもの3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、などまた、表面処理剤中のこれらのシランカップリング剤の添加量にも特に限定はない。
【0017】本発明の表面処理剤は、通常上記有効成分を水に溶解または分散させることにより調製される。該有効成分の合計濃度には特に限定はないが、上記有効成分(多価フェノールカルボン酸またはそのデプシドを含有する物質+シランカップリング剤)の濃度の合計量が1〜50重量%であることが好ましい。上記有効成分の合計量が1重量%未満では、処理された亜鉛含有金属めっき鋼板において、本発明の目的である耐食性能が充分に発揮されないことがあり、また上記有効成分の合計量が50重量%を超えると、得られる亜鉛含有金属めっき鋼板の耐食性能が飽和に達し、経済的に不利になることがある。また、上記有効成分において、多価フェノールカルボン酸および/又はそのデプシドを含有する物質と、シランカップリング剤との重量比は、10:1〜1:1であることが好ましい。
【0018】また本発明の表面処理剤は、上記有効成分以外の添加剤を含むことができる。処理された亜鉛含有金属めっき鋼板の不溶性を向上させるために、金属イオンを添加することができる。例えば、鉄イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンであることが好ましい。特に好ましい金属イオンとしては、亜鉛イオン、マグネシウムイオンが挙げられる。また、亜鉛含有金属めっき鋼板表面との反応を促進させるために、反応促進剤を添加することができる。反応促進剤としては、例えば、りん酸イオン、硝酸イオン、フッ素イオンあるいはフッ化物、有機酸を用いることが好ましい。特に好ましい反応促進剤は、フッ素イオンあるいはフッ化物である。尚、これらの添加剤のイオンの供給源、添加量については、特に制限はない。
【0019】尚、本発明の表面処理剤を用いて、亜鉛含有金属めっき鋼板の表面を処理する方法としては、特に限定はなく、例えば浸漬法、スプレー法、およびロールコート法等の方法を使用することができる。また、処理温度、処理時間についても特に限定はないが、一般に、処理温度は10〜40℃であることが好ましく、処理時間は0.1〜10秒であることが好ましい。
【0020】本発明の表面処理剤を用いると得られる処理された亜鉛含有金属めっき鋼板の耐食性、塗装密着性がともに良好になる理由としては、処理液中の多価フェノールカルボン酸またはそのデプシドを含有する物質と、亜鉛とが反応して亜鉛含有金属めっき鋼板の表面に保護皮膜が形成され、それによって腐食物質の侵入を防ぎ、耐食性を向上させること、およびシランカップリング剤中の官能基が亜鉛含有金属めっき鋼板表面に吸着され、塗装剤との密着性が向上するためと推定される。
【0021】
【実施例】下記の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により特に限定されるものでない。また下記実施例において下記素材および鋼板洗浄方法が用いられた。
【0022】1.使用素材亜鉛含有金属めっき鋼板として、市販の板厚0.6mmの両面溶融亜鉛めっき鋼板(GI材、目付量:40g/m2 )、および両面電気亜鉛めっき鋼板(EG材、目付量:20g/m2 )を用いた。
【0023】2.鋼板の清浄方法上記亜鉛含有金属めっき鋼板の表面を、中程度のアルカリ性を有する脱脂剤、すなわちファインクリーナー4336(商標、日本パーカライジング株式会社製)を薬剤濃度:20g/リットルで用いた。この脱脂剤水溶液を、処理温度:60℃、処理時間:20秒の条件でスプレー処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した。次に、被処理鋼板表面に残存しているアルカリ分を水道水により洗浄した。これによって亜鉛含有金属めっき鋼板の表面が清浄化された。
【0024】実施例1上記清浄方法により清浄化された前記EG材を、没食子酸0.5重量%と、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5重量%と、およびメタノール10重量%とを脱イオン水に溶解して調製した表面処理液中に、室温において20秒間浸漬し、液切れを行い、これに到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0025】実施例2実施例1のEG材の代わりに上記GI材を用い、実施例1と同一の処理を行った。
【0026】実施例3前記清浄方法で清浄化された前記EG材表面に、五倍子タンニン5.0重量%と、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン3.4重量%と、およびメタノール10重量%とを脱イオン水に溶解して調製した表面処理液を、ロールコーター法にて塗布し、これに到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0027】実施例4実施例3のEG材の代わりに上記GI材を用い、実施例3と同一の処理を行った。
【0028】実施例5上記清浄方法で清浄化されたEG材表面に、プロトカテキュー酸10重量%と、3−アミノプロピルトリエトキシシラン2.5重量%と、およびメタノール10重量%とを脱イオン水に溶解して調製した表面処理液を、ロールコーター法にて塗布し、これに到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0029】実施例6実施例5のEG材の代わりに上記GI材を用い、実施例5と同一の処理を行った。
【0030】実施例7上記清浄方法で清浄化された上記EG材を、ケブラッチョタンニン18.0重量%と、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン32.0重量%と、およびメタノール10重量%とを脱イオン水に溶解して調製した表面処理液中に、室温にて20秒間浸漬し、リンガーロールにて水切り後、これに到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0031】実施例8実施例7のEG材の代わりに上記GI材を用い、実施例7と同一処理を行った。
【0032】比較例1上記清浄方法で清浄化された前記EG材を、五倍子タンニン5.0重量%を脱イオン水に溶解して調製した比較処理液中に、室温にて20秒間浸漬し、リンガーロールにて水切り後、これに、到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0033】比較例2比較例1のEG材の代わりに上記GI材を用い、比較例1と同一処理を行った。
【0034】比較例3上記清浄方法で清浄化された上記EG材に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5.0重量%と、メタノール10重量%と、および20%硅酸ゾル溶液25重量%とを脱イオン水に溶解して調製した比較処理液による、室温でスプレー法にて10秒間の処理を施し、リンガーロールにて水切り後、これに到達板温が100℃になるように乾燥を施した。
【0035】比較例4比較例3のEG材の代わりに上記GI材を用い、比較例3と同一処理を行った。
【0036】評価試験実施例1〜8および比較例1〜4の製品に対し下記に示す方法によりテストを施し、その結果を評価した。その結果を表1に示す。
【0037】(1)耐食性塩水噴霧試験(JIS Z 2371)により、耐白錆性のテストを行った。尚、評点の表示は次の基準による。
◎:異常なし、○:白錆発生面積比…5%未満、△:白錆発生面積比…5〜10%、×:白錆発生面積比…11〜50%、××:白錆発生面積比…51%以上
【0038】(2)塗装密着性前述のようにして表面処理剤にて亜鉛含有金属めっき鋼板を処理後、塗装剤(大日本塗料株式会社製、商標:デリコン#700)をバーコート法にて塗装し、焼付け条件:140℃×20分で、塗膜厚さ:25μmの塗膜を形成した。
(3)一次密着性碁盤目テスト:製品表面の塗料塗膜を1mm角の碁盤目にNTカッターで切った後、テープ剥離テストを行い残存個数を計数して評価した。
碁盤目エリクセンテスト:碁盤目評価後、5mm押し出しを施し、これにテープ剥離テストを行い残存個数を計数して評価した。
(4)二次密着性(塗装板を沸騰純水に2時間浸漬後、評価を行った。)
碁盤目テスト:製品の塗料塗膜を1mm角の碁盤目にNTカッターで切った後、テープ剥離テストを行い残存個数を計数して評価した。
碁盤目エリクセンテスト:碁盤目評価後、5mm押し出しを施し、これに、テープ剥離テストを行い残存個数を計数して評価した。
【0039】
【表1】


【0040】表1の結果から明らかなように本発明に係る実施例1〜8においては、得られた処理製品が耐食性、塗装密着性(一次、二次共)ともに良好な結果を示しているが、比較例1〜4においては、全ての試験項目にわたり良好なものは、一つもなく、特に塗装密着性の二次試験結果は実施例の結果よりかなり劣っていた。
【0041】
【発明の効果】本発明の表面処理剤により処理された亜鉛含有金属めっき鋼板は、耐食性のみならず、塗装密着性も必要な用途において、優れた効果を示し、また、本発明の表面処理剤は安全性も高く、また環境保全やリサイクル性においても極めて良好である。特に今後の溶剤規制により、溶剤洗浄から水系洗浄に変更を余儀なくされることは確実であるから、クロメート処理を施された亜鉛系めっき鋼板において、その表面からのクロムの溶出による公害問題が予想される分野には、本発明の処理剤は特に効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 有効成分として、多価フェノールカルボン酸、およびそのデプシドを含有する物質から選ばれた少なくとも1種の物質と、下記一般式(I):〔化1〕
(YR)mSiXn (I)
〔但し、式(I)中Rはアルキル基を表し、Xはメトキシ基またはエトキシ基を表し、Yはビニル基、メルカプト基、グリシドキシ基またはメタクリロキシ基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは4−nの整数を表す。〕で表示されるシランカップリング剤とを含有することを特徴とする、耐食性、塗装密着性に優れた亜鉛含有金属めっき鋼板の表面処理剤。
【請求項2】 該表面処理剤中の有効成分の合計量が1〜50重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理剤。