説明

聴診補助具

【課題】呼吸器系の疾患に係る小児患者に対して、医師が十分にないしは正確に聴診を行うことを可能にする手段を提供する。
【解決手段】聴診補助具1は、中空の本体部2と、呼気により本体部2内に空気を吹き込むための吹き込みパイプ4と、円筒状の気流パイプ7と、気流パイプ7よりも通路断面積が小さい連通チューブ9と、輪状の吹き上げ糸10とを備えている。吹き込みパイプ4の一方の端部は本体部外に開口し、他方の端部は本体部内に開口している。気流パイプ7の一方の端部は本体部外に開口し、他方の端部は本体部内に開口している。連通チューブ9は、その中心軸が気流パイプ7の中心軸と一致するように位置決めされ、本体部外と本体部内とを連通させている。吹き上げ糸10は、気流パイプ7と連通チューブ9とを通り抜けるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小児の患者の呼吸器系の聴診を行う際に、該患者に呼気末まで呼気を継続させるための聴診補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、肺や気管支などの呼吸器系に疾患がある患者、ないしは疾患の疑いがある患者に対しては、医師は、まず聴診器を用いて聴診を行う(例えば、特許文献1参照)。例えば、気管支喘息の患者に対しては、医師は、患者に努力呼吸により呼気を行わせ(息を吐かせ)、喘鳴の有無、態様等により病状を把握する。このような気管支喘息の患者の聴診においては、患者が努力呼気を行う際に、呼気末まで完全に息を吐き続けさせることが重要である。
【特許文献1】特開2002−52021号公報(段落[0026]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、患者が小児ないしは幼児である場合(以下「小児患者」という。)は、医師が努力呼吸をするよう促しても、小児患者は素直に呼気を行わなかったり、また呼気を行っても呼気末まで完全に息を吐き続けなかったりすることが多い。このため、医師は、小児患者に対して聴診を十分にないしは正確に行うことができない場合があるといった問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、例えば気管支喘息等の呼吸器系の疾患に係る小児患者に対して、医師が十分にないしは正確に聴診を行うことを可能にする手段を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る聴診補助具は、小児患者の呼吸器系の聴診を行う際に小児患者に呼気末まで呼気を継続させるためのものである。この聴診補助具は、中空の本体部と、呼気により本体部内に空気を吹き込むための空気吹き込み部と、筒状の気流形成部と、気流形成部よりも通路断面積が小さい連通部と、輪状ないしは無端の吹き上げ糸とを備えている。なお、空気吹き込み部、気流形成部及び連通部は、中空部と一体に形成してもよく、また別体に形成して本体部に取り付ける(例えば、はめ込み、ねじ込み等により)ようにしてもよい。
【0006】
ここで、空気吹き込み部は、本体部に接続され、その一方の端部は本体部外に開口し、他方の端部は本体部内に開口している。気流形成部は、本体部に接続され、その一方の端部は本体部外に開口し、他方の端部は本体部内に開口している。連通部は、本体部外と本体部内とを連通させている。連通部の本体部内への開口部は、気流形成部の本体部内への開口部の内側に位置するように位置決めされ、又は、気流形成部の本体部内への開口部と(同軸に又は偏心して)対向するように位置決めされている。吹き上げ糸は、気流形成部と連通部とを通り抜けるように配置されている。なお、本体部内の中空部は、空気吹き込部、気流形成部及び連通部を介して外部に開放されているが、その他の部分では外部に対して密閉されている。
【0007】
本発明に係る聴診補助具において、連通部は、一方の端部が本体部外に開口し他方の端部が本体部内に開口する筒状体(例えば、チューブ、パイプ等)であるのが好ましい。なお、連通部は、本体部に形成された穴部であってもよい。
【0008】
本発明に係る聴診補助具においては、空気吹き込み部を通路断面積が互いに異なる交換可能(着脱可能)な複数の吹き込みパイプで構成し、これらのうちの任意の吹き込みパイプを択一的に装着するようにしてもよい。この場合、予め準備された、通路断面積が互いに異なる複数の吹き込みパイプのうちの任意のものを択一的に取り付け又は取り外すことができる。
【0009】
本発明に係る聴診補助具においては、気流形成部を通路断面積が互いに異なる交換可能(着脱可能)な複数の気流パイプで構成し、これらのうちの任意の気流パイプを択一的に装着するようにしてもよい。この場合、予め準備された、通路断面積が互いに異なる複数の気流パイプのうちの任意のものを取り付け又は取り外すことができる。なお、連通部の通路断面積は、通路断面積が最小の気流パイプの通路断面積よりも小さくしなければならない。
【0010】
本発明に係る聴診補助具においては、空気吹き込み部と本体部の一部と気流形成部とによって形成される空気通路の途中に、空気の流れに対する流動抵抗を変更することができる可変通気抵抗手段を設けてもよい。
【0011】
ここで、可変通気抵抗手段は、空気吹き込み部の通路断面積を局所的に縮小する1つ又は複数の交換可能な通路断面縮小部材であってもよい。通路断面縮小部材としては、例えばオリフィスやスリットなどを用いることができる。
【0012】
また、可変通気抵抗手段は、気流形成部の通路断面積を局所的に縮小する1つ又は複数の交換可能な通路断面縮小部材であってもよい。この場合、連通部の通路断面積を、通路断面積が最小の通路断面縮小部材の通路断面積(縮小された通路断面積)よりも小さくしなければならない。なお、通路断面縮小部材は、気流形成部材部における吹き上げ糸の空気流れ方向の移動を妨げるものであってはならない。通路断面縮小部材としては、例えばオリフィスやスリットなどを用いることができる。
【0013】
本発明に係る聴診補助具においては、本体部の外形(ないしは意匠)は、小児が興味ないしは関心を示す生物又は模擬生物(例えば、絵本やアニメーションのキャラクタ等)の形状であるのが好ましく、小児が興味ないしは関心を示す動物又は模擬動物の形状であるのがより好ましい。
【0014】
本発明に係る聴診補助具においては、その内部の洗浄ないしは清浄化を容易にするため、本体部に外部に開口する開口部を形成し、この開口部を開閉する蓋部ないしは扉を設けてもよい。また、本体部を、分解及び合体が可能な複数の部品(パーツ)で構成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る聴診補助具においては、空気吹き込み部から本体部内に呼気により空気を吹き込むと、本体部内の空気の大部分は、連通部よりも通路断面積が大きい筒状の気流形成部を経由して本体部外に排出される。その際、気流形成部内では、本体部外に向かう空気の流れ(気流)によって、吹き上げ糸に本体部外に向かう方向の力が作用する。この力により、輪状の吹き上げ糸は、連通部と気流形成部とを通り抜けながら、くるくる回転してループ状となる。この吹き上げ糸の回転は、空気吹き込み部から本体部内に空気を吹き込んでいる間は継続する。
【0016】
そこで、例えば気管支喘息等の呼吸器系の疾患に係る小児患者の呼吸器系の聴診を行う際に、医師、看護師あるいは小児患者の保護者等がまず聴診補助具を手にして、空気吹き込み部から本体部内に呼気により空気を吹き込み、吹き上げ糸をループ状にくるくる回転させれば、通常、小児患者はそれに興味ないしは関心を示し、自分も同じことをしようとする。そして、小児患者が空気吹き込み部から本体部内に呼気により空気を吹き込んで吹き上げ糸を回転させれば、小児患者は自然に呼気末まで呼気を継続することになる。その際、小児患者に対して呼吸器系の聴診を行えば、医師は十分にないしは正確に聴診を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(本発明を実施するための最良の形態)を具体的に説明する。
図1に示すように、本発明に係る聴診補助具1は中空の本体部2を備えている。本体部2は、小児患者が興味ないしは関心をもつように、動物(例えば、犬、象、海豚等)の形をしている。しかし、本体部2の形状は、動物に限られるわけではなく、どのようなものでもよい(例えば、アニメーションのキャラクタ、乗り物、楽器、植物等に似せた形状、あるいは、単なる円筒形や球形等)。本体部2は、例えば、プラスチックあるいは熱可塑性合成樹脂を用いて射出成形等により容易に製作することができる。なお、以下では便宜上、図1中の位置関係において左右方向にみて、左側(動物の頭が位置する側)を「前」といい、右側(動物の尾が位置する側)を「後」ということにする。
【0018】
本体部2の前後方向のほぼ中央位置(動物の背中の部分)には、軸線が前後方向に対して垂直な方向を向く円筒形の吹き込みパイプ受入部3が一体形成されている。この吹き込みパイプ受入部3には、プラスチックからなる円筒形の吹き込みパイプ4(空気吹き込み部)が同軸状に挿入(接続)されている。吹き込みパイプ4の一方の端部(本体部2から遠い方)は本体部外に開口し、他方の端部は本体部2内に形成された中空部5(空間部)に開口している。吹き込みパイプ4は、聴診補助具1を使用する小児患者、医師等がその口にくわえて、呼気により中空部5内に空気を吹き込むためのものである。なお、吹き込みパイプ4を、本体部2と一体形成してもよい。
【0019】
本体部2の前端部(動物の口の部分)には、軸線が前後方向を向く円筒形の気流パイプ受入部6が一体形成されている。気流パイプ受入部6には、プラスチックからなる円筒形の気流パイプ7(気流形成部)が同軸状に挿入(接続)されている。気流パイプ7は、気流パイプ受入部6から後方に伸び、その後端部は本体部2の後端部のやや前側に位置している。気流パイプ7の前端部は本体部外に開口し、後端部は中空部5内に開口している。ここで、気流パイプ7の位置を安定させるため、気流パイプ7の後部を本体部2に固定してもよい。なお、気流パイプ7を、本体部2と一体形成してもよい。
【0020】
本体部2の後端部(動物の尻の部分)には、軸線が前後方向を向く円筒形のチューブ受入部8が一体形成されている。チューブ受入部8には、プラスチック又は金属(例えば、鉄、アルミニウム等)からなる円筒形の連通チューブ9(連通部、筒状体)が同軸状に挿入(接続)されている。ここで、連通チューブ9は、その中心軸が気流パイプ7の中心軸と一致するように、すなわち気流パイプ7と同軸状となるように配置され、本体部外と中空部5内とを連通させている。連通チューブ9は、気流パイプ7と同軸状に配置しなくてもよく、気流パイプ7に対してその中心軸と垂直な方向に偏心(オフセット)していてもよい。ただし、連通チューブ9の前端開口部と気流パイプ7の後端開口部は、互いに対向しているのが好ましい。また、連通チューブ9の前端部は気流パイプ7内に入り込んでいてもよい。なお、連通チューブ9を、本体部2と一体形成してもよい。
【0021】
聴診補助具1には、気流パイプ7及び連通チューブ9を通り抜けるように配置された輪状ないしは無端の吹き上げ糸10が設けられている。吹き上げ糸10は、軽量で柔軟な糸であればどのようなものでもよく、例えば毛糸や木綿糸などであってもよい。吹き上げ糸10の長さは、60〜100cm程度であればよい。
【0022】
以下、聴診補助具1ないしはこれを構成する各部材の具体的な形態ないしは寸法を説明する。一般に、呼吸音に含まれる雑音又は異音を聞き漏らさないように聴診を行う場合における、呼気の聴診の適正な時間(以下「適正呼気聴診時間」という。)は1.5〜2.5秒程度である。したがって、吹き込みパイプ4と本体部2(中空部5)の一部と気流パイプ7とで構成され、小児患者が吹き込んだ空気の大半が流れる空気通路(以下「主空気通路」という。)の流動抵抗は、小児患者が1.5〜2.5秒程度で呼気末まで呼気を行うことができるように設定しなければならない。
【0023】
ここで、主空気通路の流動抵抗の設定ないしは調整は、原理的には、吹き込みパイプ4、本体部2又は気流パイプ7のいずれかの通路断面積を調整することにより行うことができる。しかし、本体部2の通路断面積を調整することは比較的むずかしいので、本体部2の通路断面積を十分に大きく設定した上で、吹き込みパイプ4又は気流パイプ7の通路断面積を調整するのが実用的である。なお、吹き込みパイプ4の通路断面積が一定でない場合、主空気通路の流動抵抗は、実質的に吹き込みパイプ4の最小通路断面積によって決定されることになる。気流パイプ7の通路断面積が一定でない場合も同様である。
【0024】
一般に、小児は年齢により体型並びに肺のサイズ及び機能が大きく異なるので、適正呼気聴診時間(例えば、1.5〜2.5秒)で呼気を終了させるには、小児患者の年齢に応じて、主空気通路の流動抵抗を設定する必要がある。例えば、吹き込みパイプ4又は気流パイプ7の通路断面積により主空気通路の流動抵抗を設定する場合、7歳以下の小児患者に対しては通路断面積ないしは最小通路断面積を0.43cm程度(内直径が7.5mm程度)に設定し、8〜12歳の小児患者に対しては通路断面積を0.70cm程度(内直径が9mm程度)に設定するのが好ましい。
【0025】
なお、後で説明するように、吹き込みパイプ4又は気流パイプ7に、その通路断面積を縮小する通路断面縮小部材(例えば、オリフィス又はスリット)が設けられている場合は、通路断面縮小部材の通路断面積、すなわち主空気通路のうち通路断面積が最も小さい部位の通路断面積を、小児患者の年齢に応じて0.43cm程度又は0.70cm程度とすればよい。
【0026】
また、気流パイプ7の長さ(本実施の形態では、聴診補助具1の前後方向の長さとおおむね等しい)は、吹き上げ糸10を気流パイプ7が伸びる方向に移動させて、円滑に回転させるのに必要な力が気流パイプ7内に生じるよう、好ましく設定されるが、通常は5〜10cmである。ただし、聴診補助具1の前後方向の長さは、小児患者の掌の大きさを考慮して過度に長くならないようにしなければならない。なお、気流パイプ7の後端部は、中空部5から気流パイプ7内への空気の流れ抵抗が生じないように、本体部2の後端部からある程度(例えば0.5cm以上)は離間していなければならない。
【0027】
吹き込みパイプ4の通路断面積により主空気通路の流動抵抗を設定ないしは調整する場合、気流パイプ7の通路断面積は、吹き込みパイプ4の通路断面積より大きく、かつ、吹き上げ糸10を円滑に回転させるのに足りる気流を気流パイプ7内に生じさせることができれば、とくには限定されない。また、気流パイプ7の通路断面積により主空気通路の流動抵抗を設定ないしは調整する場合、吹き込みパイプ4の通路断面積ないしは内直径は、小児患者が吹き込みパイプ4を介して適正呼気聴診時間(例えば、1.5〜2.5秒)で呼気末まで呼気を行う際に抵抗(障害)とならず、かつ小児患者等が口にくわえることができれば、とくに限定されるものではないが、通常は0.8〜1.1cm(通路断面積)ないしは10〜12mm(内直径)である。吹き込みパイプ4の長さは、小児患者等がその先端部を口にくわえたときに本体部2が口から適度に離れるなら、とくに限定されるものでないが、通常は10〜15cmである。
【0028】
連通チューブ9の内直径は、吹き込みパイプ4から中空部5内に空気が吹き込まれたときに、中空部5内の空気の大部分(例えば、70%以上)が気流パイプ7を経由して本体部外に排出されるように、かつ、吹き上げ糸10が支障なく通り抜けられるように(例えば、内直径が2mm以上)、好ましく設定される。具体的には、連通チューブ9の内直径は、例えば、気流パイプ7の内直径の1/4〜1/2に設定すればよい。また、連通チューブ9の長さは、その前端部が気流パイプ7の後端部近傍に位置するように設定され、例えば0.5〜3cm程度に設定される。なお、連通チューブ9の前部は、ある程度は(例えば、2cm以下)気流パイプ7内に入っていてもよい。
【0029】
聴診補助具1の質量は、小児患者が片手をほぼ口の高さの位置まで上げた状態で支障なく聴診補助具1を保持できれば、とくに限定されるものではないが、通常は20〜50g程度である。聴診補助具1の前後方向の長さ(全長)は、本実施の形態では、気流パイプの7の長さ(通常は5〜10cm程度)よりもやや長くなる(例えば、1〜2cm程度長くなる。)。
【0030】
以下、聴診補助具1の使用方法を説明する。まず、聴診補助具1の前部(動物の頭の側)が上向きとなり、かつ吹き込みパイプ4の先端部が手前を向くようにして、聴診補助具1を片手でほぼ口の高さの位置に保持する。次に、最大限に吸気を行った後(息を吸い込んだ後)、吹き込みパイプ4の先端部を口にくわえる。この後、呼気末まで呼気を行う(息を吐き出す)。
【0031】
このように、呼気を行っているときには、吹き込みパイプ4から本体部2の中空部5に空気が吹き込まれるのに伴って、中空部5内の空気の大部分は気流パイプ7を経由して本体部外に排出される。その際、気流パイプ7内では、本体部外に向かう空気の流れ(気流)によって、吹き上げ糸10に本体部外に向かう方向の力が作用する。この力により、輪状の吹き上げ糸10は、気流パイプ7及び連通チューブ9を通り抜けながらくるくる回転し、ループ状となる。この吹き上げ糸10の回転は、吹き込みパイプ4から中空部5内に空気を吹き込んでいる間は継続する。なお、吸気と呼気とを連続的に繰り返す場合、吸気時には吹き上げ糸10が回転しないので、吹き上げ糸10の動きで呼吸周期を目視により把握することができる。
【0032】
ところで、図1に示す聴診補助具1では、流動抵抗を調整するための吹き込みパイプ4又は気流パイプ7の通路断面積(すなわち、主空気通路の流動抵抗)は一定(固定的)である。このため、小児患者の年齢に応じた複数の種類の聴診補助具1を準備しておく必要がある。そこで、予め準備された、通路断面積が互いに異なる複数の吹き込みパイプ4又は気流パイプ7のうちの任意のものを取り付け又は取り外すことができるようにし、1つの聴診補助具1でもって年齢にかかわりなく、すべての小児患者に対応するようにしてもよい。
【0033】
ただし、複数の気流パイプ7を用いる場合、連通チューブ9の通路断面積は、通路断面積が最小の気流パイプ7を用いるときでも、中空部5内の空気の大部分(例えば、70%以上)が気流パイプ7を経由して本体部外に排出されるように、かつ、吹き上げ糸10が支障なく通り抜けられるように(例えば、内直径が2mm以上)設定しなければならない。具体的には、連通チューブ9の内直径は、例えば、通路断面積が最小の気流パイプ7の内直径の1/4〜1/2に設定される。
【0034】
図2(a)に、通路断面積が互いに異なる複数の吹き込みパイプ4(1つのみ図示)を用いて、任意の吹き込みパイプ4を択一的に装着することができるようにした聴診補助具1の一例を模式的に示す。この聴診補助具1では、これらの吹き込みパイプ4の吹き込みパイプ受入部3との嵌合部は、吹き込みパイプ受入部3と嵌合させるために直径を一定にしなければならない。これより先端側の部分(パイプ主部)の直径は、嵌合部の直径以下の範囲内で任意に設定することができる(パイプ主部の直径を嵌合部の直径より大きくすることはできない)。
【0035】
図2(b)に、通路断面積が互いに異なる複数の気流パイプ7(1つのみ図示)を用いて、任意の気流パイプ7を択一的に装着することができるようにした聴診補助具1の一例を模式的に示す。この聴診補助具1では、これらの気流パイプ7の気流パイプ受入部6との嵌合部は、気流パイプ受入部6と嵌合させるために直径を一定にしなければならない。これより後側の部分(パイプ主部)の直径は、嵌合部の直径以下の範囲内で任意に設定することができる(パイプ主部の直径を嵌合部の直径より大きくすることはできない)。
【0036】
図2(a)、(b)に示す聴診補助具1では、1つの聴診補助具1ですべての小児患者に対応できるように、複数の吹き込みパイプ4又は複数の気流パイプ7を用いている。しかし、このようにせず、例えば図1に示すような1つの吹き込みパイプ4と1つの気流パイプ7とを有する聴診補助具1において、吹き込みパイプ4又は気流パイプ7に、通路断面積を局所的に縮小する、1つ又は通路断面積が互いに異なる複数の交換可能な通路断面縮小部材(可変通気抵抗手段)、例えばオリフィスやスリットなどを設けてもよい。この場合、通路断面縮小部材を着脱又は交換することにより、1つの聴診補助具1ですべての小児患者に対応することができる。
【0037】
ただし、通路断面縮小部材を気流パイプ7に設ける場合、連通チューブ9の通路断面積は、通路断面積が最小の通路断面縮小部材を用いるときでも、中空部5内の空気の大部分(例えば、70%以上)が気流パイプ7を経由して本体部外に排出されるように、かつ、吹き上げ糸10が支障なく通り抜けられるように(例えば、内直径が2mm以上)設定しなければならない。具体的には、連通チューブ9の内直径は、例えば、通路断面積が最小の通路断面縮小部材の内直径ないしは最小直径の1/4〜1/2に設定される。
【0038】
図3(a)に、吹き込みパイプ4に対して、吹き込みパイプ4の通路断面積を縮小する孔(例えば、円形孔)を有する着脱ないしは交換が可能なオリフィス12を設けた聴診補助具1の一例を模式的に示す。また、図3(b)に、気流パイプ7に対して、気流パイプ7の通路断面積を縮小する孔(例えば、円形孔)を有する着脱ないしは交換が可能なオリフィス12を設けた聴診補助具1の一例を模式的に示す。なお、図3(c)に示すように、気流パイプ7に対してオリフィス12を設ける場合は、オリフィス12を気流パイプ7の前端開口部から挿入するようにしてもよい。これらの聴診補助具1において、オリフィス12は、1つであってもよく、また複数(通路断面積は互いに異なる)であってもよい。なお、オリフィス12に代えて、断面が矩形の孔を有するスリットを用いてもよい。
【0039】
図4に示すように、図1〜図3に示す聴診補助具1のような連通チューブ9を設けるのではなく、本体部2の後部に円形の穴部13を形成してもよい。この穴部13の直径は、図1〜図3に示す聴診補助具1における連通チューブ9の内径の設定手法と同様の手法で設定すればよい。
【0040】
図1〜図4に示す聴診補助具1では、吹き込みパイプ4及び気流パイプ7は直管状であるが、これらは直管状でなくてもよい。吹き込みパイプ4は、息を吹き込むことができれば、どのような形状でもよい。また、気流パイプ7は、吹き上げ糸10が支障なく回転できれば、湾曲していてもよく、気流パイプ7の径ないし太さは一様でなくてもよい。
【0041】
図1〜図4に示す聴診補助具1では、本体部2は一体形成されたものであるが、その内部の洗浄ないしは清浄化を容易にするため、本体部2を分解及び合体が可能な複数のパーツで構成してもよい。また、内部の洗浄ないしは清浄化を容易にするため、一体形成された本体部2に、外部に開口する開口部を形成し、この開口部を開閉する蓋部ないしは扉を設けてもよい。
【0042】
図1〜図4に示す聴診補助具1では、本体部2、吹き込みパイプ4、気流パイプ7及び連通チューブ9は別体であり、それぞれ個別に製作されて組み付けられている。しかし、プラスチック材料あるいは熱可塑性合成樹脂等を用いて、例えば射出成形によりこれらをすべて一体形成してもよい。
例えば、図5に示すように、聴診補助具1(吹き上げ糸を除く)を「オカリナ」に似た形に一体形成してもよい。
【0043】
かくして、気管支喘息等の呼吸器系の疾患に係る小児患者の呼吸器系の聴診を行う際に、医師、看護師あるいは小児患者の保護者等がまず聴診補助具1を手にとって、吹き込みパイプ4から本体部2内に呼気により空気を吹き込み、吹き上げ糸10をループ状にくるくる回転させれば、通常、小児患者はそれに興味ないしは関心を示し、自分も同じことをしようとする。そして、小児患者が吹き込みパイプ4から本体部2内に呼気により空気を吹き込んで吹き上げ糸10を回転させれば、小児患者は自然に呼気末まで呼気を継続することになる。その際、小児患者に対して呼吸器系の聴診を行えば、医師は十分にないしは正確に聴診を行うことができ、例えば呼気における喘鳴が完全に消失しているか否かを正確に知ることができ、確実な気道管理を行うことができる。
【0044】
図6(a)は、小児患者に、本発明に係る聴診補助具1を、吸気及び呼気を繰り返しながら連続的に使用させ、その間に電子聴診器を用いて聴診を行って採取した聴診音(呼吸音)のソノグラフ(音声グラフ)の一例である。また、図6(b)と図6(c)とに、比較例1、2として、それぞれ、聴診補助具1に代えて風車又は吹き上げボールを使用させ、同様の聴診を行って採取した聴診音のソノグラフを示す。なお、風車は、回転羽根に息を吹きかけて該回転羽根を回転させるようになっている、よく知られたおもちゃである。また、吹き上げボールは、L字状パイプの一端から息を吹き込み、すり鉢状の他端で吹き出す空気によりボールを浮遊させるようになっている、よく知られたおもちゃである。
【0045】
図6(a)〜図6(c)から明かなとおり、本発明に係る聴診補助具1を用いた聴診では、呼気を行っている各期間(以下「呼期」という。)は十分に長く、かつ長さがほぼ一定であり、各呼期において小児患者が呼気末まで確実に呼気を行っていることがわかる。また、呼期と吸期の識別が非常に容易である。これに対して、風車又は吹き上げボールを用いた聴診では、各呼期の長さにばらつきがあり、小児患者が呼気末まで完全に呼気を行っていないことがわかる。また、風車を用いた聴診では、呼期と吸期の識別が容易でないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の典型的な実施の形態に係る聴診補助具の側面断面図である。
【図2】(a)は複数の吹き込みパイプを用いる聴診補助具の模式的な側面断面図であり、(b)は複数の気流パイプを用いる聴診補助具の模式的な側面断面図である。
【図3】(a)は吹き込みパイプにオリフィスを設けた聴診補助具の模式的な側面断面図であり、(b)及び(c)は気流パイプにオリフィスを設けた聴診補助具の模式的な側面断面図である。
【図4】連通チューブに代えて、本体部に穴部を設けた聴診補助具の模式的な側面断面図である。
【図5】一体形成された聴診補助具の模式的な斜視図である。
【図6】(a)は本発明に係る聴診補助具を用いて聴診を行って採取した聴診音のソノグラフであり、(b)風車を用いて聴診を行って採取した聴診音のソノグラフであり、(c)は吹き上げボールを用いて聴診を行って採取した聴診音のソノグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 聴診補助具、2 本体部、3 吹き込みパイプ受入部、4 吹き込みパイプ、5 中空部、6 気流パイプ受入部、7 気流パイプ、8 チューブ受入部、9 連通チューブ、10 吹き上げ糸、12 オリフィス、13 穴部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児の患者の呼吸器系の聴診を行う際に、上記患者に呼気末まで呼気を継続させるための聴診補助具であって、
中空の本体部と、
一方の端部が上記本体部外に開口し他方の端部が上記本体部内に開口する、呼気により上記本体部内に空気を吹き込むための空気吹き込み部と、
一方の端部が上記本体部外に開口し他方の端部が上記本体部内に開口する筒状の気流形成部と、
上記本体部外と上記本体部内とを連通させるとともに、上記本体部内への開口部が、上記気流形成部の上記本体部内への開口部の内側に位置するように位置決めされ、又は上記気流形成部の上記本体部内への開口部と対向するように位置決めされた、上記気流形成部よりも通路断面積が小さい連通部と、
上記気流形成部と上記連通部とを通り抜けるように配置された輪状の吹き上げ糸とを備えていることを特徴とする聴診補助具。
【請求項2】
上記連通部は、一方の端部が上記本体部外に開口し他方の端部が上記本体部内に開口する筒状体であることを特徴とする、請求項1に記載の聴診補助具。
【請求項3】
上記連通部は、上記本体部に形成された穴部であることを特徴とする、請求項1に記載の聴診補助具。
【請求項4】
上記空気吹き込み部は、通路断面積が互いに異なる複数の吹き込みパイプを有し、任意の吹き込みパイプを択一的に装着することができるようになっていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の聴診補助具。
【請求項5】
上記気流形成部は、通路断面積が互いに異なる複数の気流パイプを有し、任意の気流パイプを択一的に装着することができるようになっていて、
上記連通部の通路断面積が、通路断面積が最小の気流パイプの通路断面積よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の聴診補助具。
【請求項6】
上記空気吹き込み部と上記本体部の一部と上記気流形成部とによって形成される空気通路の途中に、空気の流れに対する流動抵抗を変更することができる可変通気抵抗手段が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の聴診補助具。
【請求項7】
上記可変通気抵抗手段は、上記空気吹き込み部の通路断面積を局所的に縮小する1つ又は複数の交換可能な通路断面縮小部材であることを特徴とする、請求項6に記載の聴診補助具。
【請求項8】
上記可変通気抵抗手段は、上記気流形成部の通路断面積を局所的に縮小する1つ又は複数の交換可能な通路断面縮小部材であって、
上記連通部の通路断面積が、通路断面積が最小の通路断面縮小部材の通路断面積よりも小さいことを特徴とする、請求項6に記載の聴診補助具。
【請求項9】
上記通路断面縮小部材が、オリフィス又はスリットであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の聴診補助具。
【請求項10】
上記本体部の外形が、生物又は模擬生物の形状であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の聴診補助具。
【請求項11】
上記本体部の外形が、動物又は模擬動物の形状であることを特徴とする、請求項10に記載の聴診補助具。
【請求項12】
上記本体部に外部に開口する開口部が形成される一方、上記開口部を開閉する蓋部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載の聴診補助具。
【請求項13】
上記本体部が、分解及び合体が可能な複数の部品で構成されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載の聴診補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−142335(P2008−142335A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333536(P2006−333536)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(502038543)