説明

肛門又は陰部周辺清浄用シート

【課題】便の拭き取り性に優れ、肌に優しい肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供すること。
【解決手段】本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートは、水系洗浄剤が、セルロース系繊維を主体とする水解性の基材シートに含浸されて構成されている。前記水系洗浄剤は、非イオン性界面活性剤を0.05〜3重量%及び水を70〜90重量%含有し、該非イオン性界面活性剤は、HLBが10〜15、分子量が300〜1000である。前記非イオン性界面活性剤はポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有するものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系洗浄剤が水解性の基材シートに含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
赤ちゃんや被介護者の使い捨ておむつ等の交換時に、おしりや排泄部に付いた便や尿等の汚れを拭き取るため、ウェットタイプの使い捨てのシートである所謂おしり拭き用シートが汎用されている。また、生理用ナプキン交換時に排泄部の清浄用として、ウェットタイプの使い捨てのシートも知られている。
【0003】
本出願人は先に、木材パルプ及び水溶性バインダーを含む水解紙に、特定の金属イオン及び有機溶剤を含有する水系洗浄剤を含浸させた水解性清拭物品を提案した(特許文献1参照)。該水系洗浄剤には、必要に応じ非イオン性界面活性剤等の界面活性剤が含有される。特許文献1に記載の水解性清拭物品は、肛門周辺の便の拭き取り等に好適であり、また水解性であるため、使用後はそのまま水に流して廃棄することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−181764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に使い捨ておむつの交換時において、従来のおしり拭き用シートの便の拭き取り性について、多くの母親は不満を感じている。拭き取りにくいと感じる便は、ベタベタの糊状の軟便、水様便、下痢便、あるいはそれらが大量に広がった便、肌にこびりついて固まった便などである。特にベタベタの軟便や水様便、下痢便では便の色が肌につき、何回拭いても色が取りきれず、またゴシゴシと擦ると肌が赤くなって痛がるため、拭き取りにくさを感じている。
【0006】
従って、本発明の目的は、便の拭き取り性に優れ、肌に優しい肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、便の拭き取り性について種々検討し、特に便の色の除去の重要性に着目して更に検討した結果、特定の非イオン性界面活性剤が、便の色の主原因である、ヘモグロビン代謝物であるビリルビンに作用し、肌に付着した便の色を効果的に除去し得ることを知見した。
【0008】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、水系洗浄剤が、セルロース系繊維を主体とする水解性の基材シートに含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートであって、前記水系洗浄剤は、非イオン性界面活性剤を0.05〜3重量%及び水を70〜90重量%含有し、該非イオン性界面活性剤は、HLBが10〜15、分子量が300〜1000である肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートによれば、便そのものの拭き取り性に加えて、便の色の拭き取り性にも優れているため、少ない拭き取り回数で肛門や陰部周辺を清潔にすることができ、シートで擦り過ぎることによる肌への影響が少ない。また、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートによれば、水解性を有しているため、使用後はそのまま水に流して廃棄することができ、後始末の手間が省ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シート(以下、清浄用シートともいう)をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の清浄用シートは、水解性の基材シートに水系洗浄剤を含浸してなる。先ず、水系洗浄剤について説明する。
【0011】
本発明に用いられる水系洗浄剤は、非イオン性界面活性剤及び水を必須成分として含有する。本発明に用いられる非イオン性界面活性剤は、HLBが10〜15、好ましくは13〜14、分子量が300〜1000、好ましくは550〜750である。ここで、HLB(親水性・親油性バランス)は、下記のグリフィンの式により計算されるものである。また、分子量は、化学式に基づいて原子量と原子数との積の総和によって求められる。
【0012】
<グリフィンの式>
HLB=20×{(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)}
【0013】
HLB及び分子量が前記範囲にある非イオン性界面活性剤は、便の色の主原因であるビリルビンに作用し、肌に付着した便の色を効果的に除去することができ、また、安全性が高く皮膚に対する刺激も少ない。
【0014】
また、HLB及び分子量が前記範囲にある非イオン性界面活性剤を用いることによる他の効果として、基材シートに含浸された水系洗浄剤が肌へ放出されやすくなる、即ち、肌に移行せずに基材シートに保持されたままの水系洗浄剤の量が低減することが挙げられる。本発明の清浄用シートにおいては、斯かるシート保持量の低減効果により、基材シートへの水系洗浄剤の含浸量をある程度減らすことが可能であり、前記含浸量を減らしても、水系洗浄剤の放出性に優れるため、肌に移行する水系洗浄剤の量は、前記含浸量を減らす前と実質的に変わらない。また、本発明で用いる基材シートは、水解性(大量の水中に投入すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊する性質)を有しているので、前記含浸量が多くなると、基材シートの湿潤強度が低下し、便の拭き取り作業中に基材シートが破れるなど、操作性が低下するおそれがあるところ、前記非イオン性界面活性剤の使用によって前記含浸量の低減が可能になることで、水解性に起因するこのような不都合を回避することができる。また、水系洗浄剤の含浸量の低減は、製造コストの点でも有利である。
【0015】
但し、本発明者らが得た知見によれば、上述した、前記非イオン性界面活性剤による水系洗浄剤のシート保持量の低減効果は、系内にシリコーン類(シロキサン結合による主骨格を有する高分子化合物)があると低減する傾向がある。従って、本発明に用いられる水系洗浄剤には、シリコーン類を含有させないことが望ましく、本発明に用いられる水系洗浄剤は、非シリコーン系であることが望ましい。
【0016】
前記基材シートへの前記水系洗浄剤の含浸量は、上述した観点から、該基材シート1重量部に対し、好ましくは1〜3重量部、更に好ましくは1.5〜2.5重量部である。基材シートに水系洗浄剤を含浸させる方法としては、グラビアコーターやダイコーター、ノズルからの水系洗浄剤の塗出塗布;スプレー塗布などが挙げられる。
【0017】
前記非イオン性界面活性剤としては、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有するものが好ましい。ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤の中でも、特に、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール高級脂肪酸エステル、下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び下記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、肌に付いた便の色の拭き取り性が高く且つ皮膚に対する刺激が少ないため、本発明で好ましく用いられる。
【0018】
1COO−(CH2CH2O)n−H (1)
〔前記式(1)中、R1COは炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基を示し、nは重量平均で1〜20の数を示す。〕
【0019】
前記式(1)中、R1COで示される炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基としては、特に炭素数10〜22のもの、例えばカプリノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基が好ましい。また、前記式(1)中のnは、特に重量平均で10〜15の数であると、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。前記式(1)で表されるポリエチレングリコール高級脂肪酸エステルの例としては、ポリオキシエチレン(n=12)モノラウレート等が挙げられる。
【0020】
2O−(CH2CH2O)n−H (2)
〔前記式(2)中、R2は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で1〜21の数を示す。〕
【0021】
前記式(2)中、R2で示される炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアルキル基としては、特に炭素数12〜18のもの、例えばラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基が好ましい。また、前記式(2)中のnは、特に重量平均で4〜10の数であると、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。前記式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレン(n=9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=5)ラウリルエーテル等が挙げられる。
【0022】
3O−(CH2CH2O)n−(CH2CH(CH3)O)m−H (3)
〔前記式(3)中、R3は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で0〜19の数、mは重量平均で1〜15の数を示す。〕
【0023】
前記式(3)中、R3で示される炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアルキル基としては、特に炭素数12〜22のもの、例えばラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基が好ましい。また、前記式(3)中のnは、特に重量平均で4〜12の数であると、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。同様の観点から、前記式(3)中のmは、特に重量平均で1〜10の数であることが好ましい。前記式(3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレン(n=7)ポリオキシプロピレン(m=2.5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=7)ポリオキシプロピレン(m=4.5)ラウリルエーテル等が挙げられる。
【0024】
前記非イオン性界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、複数種を組み合わせる場合には、特に前記一般式(1)〜(3)で表される化合物のみで組み合せることが好ましい。また、本発明の水系洗浄剤中には、前記非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤を少量(例えば、0.5重量%以下)含めても良いが、界面活性剤としては、前記非イオン性界面活性剤のみを用いることが、便の拭き取り性と泡立ち抑制両立の観点から好ましい。水系洗浄剤中に界面活性剤が多く含まれると、使用感触が良くなく、また泡立ちを多く発生させてしまうおそれがある。本発明の清浄用シートの如きおしり拭き用シートとしては、赤ちゃんの肌の中でも特にデリケートな肛門又は陰部周辺を、洗剤で洗い落とすというイメージを母親に抱かせてしまう恐れがあり、泡立ちは好ましくない。
【0025】
前記非イオン性界面活性剤の含有量は、肌に付いた便の色の拭き取り性や、べたつき、ヌメリ感等の使用感触の観点から、水系洗浄剤の全重量に対して0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。
【0026】
また、本発明に用いられる水系洗浄剤における水の含有量は、べたつきやヌメリ等の使用感触と基材シートの湿潤強度とのバランスの観点から、70〜90重量%、好ましくは75〜85重量%である。本発明における斯かる水の含有量は、従来の清浄用シートに用いられる水系洗浄剤における水の含有量(通常90重量%以上)に比して少ない。一般に、基材シートの使用感触の点からは、水系洗浄剤中の水の含有量が多い方が好ましいが、本発明で用いる基材シートは水解性を有しているため、基材シートに含浸される水系洗浄剤中の水の含有量が多いと、基材シートの湿潤強度が低下し、便の拭き取り作業中に基材シートが破れるおそれがあることから、水系洗浄剤中の水の含有量を従来よりも減らして前記範囲としている。また、本発明においては、水系洗浄剤中の水の含有量を減らしても、主として前記非イオン性界面活性剤の作用により、良好な使用感触を得ることが可能である。
【0027】
本発明に用いられる水系洗浄剤には、湿潤強度の増加並びに使用感触と肌に付いた便の色の拭き取り性の向上を目的として、多価アルコール又はグリコールエーテルを含有させることができる。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられ;グリコールエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。これらの多価アルコール及びグリコールエーテルは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
これらのうち、特にエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルが、使用感触の点から好ましく、更にプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが、洗浄力(肌に付いた便の色の拭き取り性)及び低刺激性の点から好ましい。
【0029】
前記多価アルコール又はグリコールエーテルの含有量は、湿潤強度の増加、肌に付いた便の色の拭き取り性や、べたつき、ヌメリ感等の使用感触及び系の安定性の観点から、水系洗浄剤の全重量に対して好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。
【0030】
また、本発明に用いられる水系洗浄剤には、スキンケア剤として、ショウキョウエキス、ユーカリエキス、チューベロースエキス、チョウジエキス、ユズエキス、メマツヨイグサエキス、サクラエキス、オクラエキス、ハマメリスエキス、アロエエキス、ヨーグルトエキス、ダイズエキス、シャクヤクエキス、カミツレエキス、クロレラエキス、キイチゴエキス、グレープフルーツエキス、アボガドエキス、ビルベリー葉エキス、オドギリソウエキス、ももの葉エキス、トレハロース、タンニン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリグルタミン酸、合成セラミド等を含有させることができる。
【0031】
前記スキンケア剤の含有量は、スキンケアの効果発現及び系の安定性の観点から、水系洗浄剤の全重量に対して好ましくは0.01〜1重量%、更に好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0032】
また、後述するように基材シートに水溶性バインダーを含ませる場合、本発明に用いられる水系洗浄剤に架橋剤を含有させると、基材シートの湿潤強度の向上に効果がある。
【0033】
前記架橋剤は、水溶性バインダーの種類に応じて適切なものが用いられる。例えば、水溶性バインダーとして後述するアニオン性バインダー、特にCMCなどのカルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いる場合、架橋剤としては多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて清拭作業に耐え得る強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが、一層高い湿潤強度が得られ、清拭操作を首尾良く行い得る点から特に好ましい。
【0034】
前記金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩などの水溶性金属塩の形で水系洗浄剤に添加して使用することができる。金属イオンは、本発明の清浄用シート中に存する水溶性バインダーにおけるカルボキシル基1モルに対して1/4モル以上、特に1/2モル以上の量となるように添加されることが、十分な架橋反応を起こさせる点から好ましい。
【0035】
また、水溶性バインダーとして後述するポリビニルアルコールを用いる場合、架橋剤としてはホウ酸を用いることが好ましい。これによってポリビニルアルコールとホウ酸との間に架橋反応が生じ、ポリビニルアルコールが不溶化する。ホウ酸は、水系洗浄剤中に1〜5重量%の濃度で配合されていることが好ましい。特に高重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には1〜3重量%、中重合度ないし低重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には3〜5重量%の濃度で配合されることが好ましい。
【0036】
本発明に用いられる水系洗浄剤には、前記非イオン性界面活性剤及び水の必須成分、更には上述した多価アルコール又はグリコールエーテル、スキンケア剤及び架橋剤の他、通常の洗浄剤組成物に用いられる成分、例えば保湿剤、殺菌剤、防腐剤、キレート剤、電解質物質、薬効剤、色素、香料、酸化防止剤、pH調整剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有させることができる。
【0037】
但し、上述したように、本発明に用いられる水系洗浄剤にはシリコーン類を含有させないことが望ましい。該シリコーン類としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル及びメチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル並びに反応性シリコーンオイル及び非反応性シリコーンオイル等の変形シリコーンオイル等が挙げられる。
【0038】
次に、上述した水系洗浄剤が含浸される基材シートについて説明する。本発明に用いられる基材シートは、セルロース系繊維を主体とする。セルロース系繊維を主体として構成される基材シートは、水系洗浄剤を良好に保持できる。基材シートにおけるセルロース系繊維の含有量は、該基材シートの全重量に対して、好ましくは80〜100重量%、更に好ましくは90〜100重量%である。
【0039】
前記セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維などが挙げられる。これらのセルロース系繊維の中でも、特にNBKPやNBSPが柔軟性や強度の点で好ましい。
【0040】
前記基材シートの構成繊維としては、前記セルロース系繊維以外の他の繊維、例えば、ポリビニルアルコール繊維や他のポリオレフイン系繊維、ポリエステル系繊維、生分解性を有するポリ乳酸を用いた繊維等を用いてもよい。これら他の繊維の含有量は、基材シートの全重量に対して、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%である。
【0041】
本発明に用いられる基材シートは水解性を有しており、例えば水洗トイレに流すなど、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる。しかし、便等を拭き取るときには、水系洗浄剤が含浸された状態でその作業に耐え得る十分な湿潤強度が必要である。斯かる観点から、基材シートは水溶性バインダーを含んでいることが好ましい。水溶性バインダーを用いることで、水解性のコントロールが容易になり、少量の水では崩壊しないが、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルで崩壊する基材シートが得られる。
【0042】
前記水溶性バインダーとしては、例えばカルボキシル基を有する水溶性バインダーのようなアニオン性バインダー、ポリビニルアルコール、デンプン又はその誘導体、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらのバインダーのうち、水解性が良好である点や後述する架橋剤との親和性の点からカルボキシル基を有する水溶性バインダーのようなアニオン性バインダーや、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0043】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダー(アニオン性バインダー)は、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンプン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
【0044】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーのうち特に好ましいものはカルボキシメチルセルロース(CMC)のアルカリ金属塩である。CMCはそのエーテル化度が0.8〜1.2、特に0.85〜1.1であることがバインダーとしての性能が良好となる点、及び後述する架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。同様の理由により、CMCは25℃における1重量%水溶液の粘度が10〜40mPa・s、特に15〜35mPa・sであり、同温度における5重量%水溶液の粘度が2500〜4000mPa・s、特に2700〜3800mPa・sであり、更に60℃における5重量%水溶液の粘度が1200mPa・s以下であることが好ましい。
【0045】
前記水溶性バインダーの含有量は、前記基材シートの構成繊維の全重量に対して、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは5〜10重量%である。
【0046】
前記水溶性バインダーを前記基材シートに含ませる方法に特に制限はなく、内添法でも良く、外添法でも良い。内添法としては、例えば、基材シートを湿式抄紙法で製造する場合において、その紙料(繊維分散液)中に水溶性バインダーを予め添加しておく方法が挙げられる。外添法としては、例えば、セルロース系繊維を含むウエブ(基材シート)を形成した後に、該紙に所定の添加手段によって水溶性バインダーを添加する方法が挙げられる。この外添法においては、水溶性バインダーがウエブに点状に付着するように該バインダーを添加することが、水解性の向上の点から好ましい。水溶性バインダーを点状に付着させるには、例えばスプレー塗工を用いることができる。
【0047】
前記基材シートの坪量は、20〜100g/m2、特に30〜80g/m2であることが、拭き取り性や肌触りが良好である点、またコストの点から好ましい。また、同様の観点から、前記基材シートの湿潤時の厚み(ウエット厚み)は、好ましくは0.1〜1.0mm、更に好ましくは0.2〜0.8mmである。ここで、湿潤時の基材シートの厚みは、乾燥状態の基材シート1重量部に対し水を2重量部含浸させて湿潤状態とし、この湿潤状態の基材シートの360Paの圧力下での厚みを、ダイヤルゲージ式又はレーザー式変位計により測定したものである。
【0048】
前記基材シートは、湿式抄紙法によって製造することができる。湿式抄紙法で用いる湿式抄紙機としては、例えば、短網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機、丸網抄紙機等が挙げられる。
【0049】
前記基材シートは、単層構造(即ち1枚のシート)であっても良く、2層以上の紙層が積層された多層構造であっても良い。前記基材シートの一面又は両面に凹凸が形成されていても良く、また、基材シートに該基材シートを厚み方向に貫通する開孔部が多数形成されていても良い。
【0050】
本発明の清浄用シートは、水系洗浄剤に、HLB及び分子量がそれぞれ前記範囲にある非イオン性界面活性剤を含むことにより、便の色、即ちビリルビンに作用して便を拭き取ることができる。そのため、軟便等による肌に付いた便の色の拭き取り性が良好となる。従って、おしり拭き用シートで何度もこすらずに清浄を終了することが可能となり、肌へのダメージが生じ難くなる。また、前記非イオン性界面活性剤は、安全性が高く皮膚に対する刺激が少ない。尚、便の拭き取り状態を確認する際は、主に肌に付いた便の色及びおしり拭き用シートに付いた便の色を目安とする。便の色(ビリルビン)の拭き取り性は、次のように確認する。
【0051】
<便の色の拭き取り性の評価方法>
便の色(ビリルビン)の拭き取り性評価は、成人の前腕部内側にビリルビンを付着させて行う。まず、前腕部内側の測定部位の色差を測定する。その時のb*をbb*とする。色差は日本電色工業製のハンディ型簡易分光色差計NF333を用いて測定する。次に、測定部位にビリルビンを約2mg耳掻き状の匙を用い、直径20mm程度の範囲で擦り付けて付着させる。ビリルビンは和光純薬工業から試薬として入手したものを用いる。ビリルビンの付着量は、ビリルビン付着後の色差の測定値をb0*とした時、ビリルビン付着前後の色差の変化量Δb0(=b0*−bb*)が、15〜20となるように調整する。次に評価するおしり拭き用シートを準備し、そのカット長を200mm×150mmとし、これを8つ折り(50mm×75mm)に折り畳む。次いで、前腕部のビリルビン付着部位の脇に8つ折りのシートを置き、その上に30mm×60mmの錘を載せる。錘は0.5kPaとなるようにする。そして、錘を載せたシートを手で前腕部に対し水平方向に引っ張り、ビリルビン付着部位の拭き取りを行う。引張は長手方向(サンプル 75mm長さの方向)に行う。拭き取り後に色差計を用い、色差を測定してその時の値をb1*とする。拭き取り前後の色差の変化量Δb1(=b1*−bb*)とし、このΔb1が5未満になれば、拭き取り性が良好なものと判断される。
【0052】
また、本発明の清浄用シートは、水系洗浄剤に、HLB及び分子量がそれぞれ前記範囲にある非イオン性界面活性剤を含むことにより、基材シートに含浸された水系洗浄剤の放出性に優れているため、少ない含浸量で高い拭き取り効果が得られる。従って、製造コスト等の観点から、基材シートへの水系洗浄剤の含浸量を従来よりある程度減らしても、水系洗浄剤の肌への移行量は実質的に減ることがなく、製造コストの低廉化を図ることができる。また、本発明の清浄用シートは、水解性を有しているため、便の拭き取り作業時の湿潤強度の低下が問題となりうるが、このように基材シートへの水系洗浄剤の含浸量を減らすことで、斯かる問題を解決することができる。
【0053】
また、本発明の清浄用シートは、基材シートが水解性を有しているため、使用後はそのまま水に流して廃棄することができ、後始末の手間が省ける。本発明の清浄用シートは、赤ちゃんや被介護者のおしりや排泄部に付いた便や尿等の汚れを拭き取るため以外にも、例えば、生理用ナプキン交換時に排泄部の経血清浄等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の例中、特に断らない限り「%」は、「重量%」を意味する。
【0055】
〔実施例1〕
次の手順で水解性の基材シートを製造した。NBSP及びNBKPを配合割合(NBSP/NBKP)80/20%の比率で水に分散させて、濃度2%のスラリーを得た。このスラリーを原料として短網抄紙機によって湿式抄紙し、得られた紙の片面にスプレーによって5%のCMCナトリウム塩(日本製紙のサンローズ)の水溶液を噴霧塗布した後、ドライヤーで乾燥し、単層紙を得た。得られた単層紙の坪量は30g/m、CMCナトリウム塩の外添量はパルプの合計量に対して7%であった。得られた2枚の単層紙を、それらのCMCナトリウム塩の水溶液の塗布面同士が対向するように重ね合わせ、その状態で室温でエンボス加工を施し、坪量60g/mの水解性の基材シートを得た。エンボスパターンは直径1mmのドットで縦ピッチ3mm、横ピッチ1mmで3列千鳥状に配置されたパターンを、横方向に50mm間隔で配置したものである。
【0056】
次に、表1に示すように、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレン(n=9)ラウリルエーテル(HLB=14、分子量582)を0.5%、ジプロピレングリコールを18%、塩化カルシウムを3%、水を78.5%の重量割合で配合し、水系洗浄剤を得た。前記基材シート1重量部に対し、水系洗浄剤を2重量部の割合でスプレー塗布し、肛門又は陰部周辺清浄用シートを得た。
【0057】
〔実施例2〜6及び比較例1〜6〕
水系洗浄剤の組成を変更した以外は実施例1と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ実施例2〜6、比較例1〜6のサンプルとした。
【0058】
〔実施例7〜9〕
水系洗浄剤の含浸量を変更した以外は実施例1と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ実施例7〜9のサンプルとした。
【0059】
〔評価〕
作製した肛門又は陰部周辺清浄用シートについて、上述した方法によりウエット厚みを測定すると共に、以下の方法により、便の色(ビリルビン)の拭き取り性、水系洗浄剤のシート保持量及び放出量、水解性、使用感触をそれぞれ評価した。これらの結果を下記表1及び表2に示す。尚、これらの評価は、23±2℃、相対湿度50±10%の環境で行った。
【0060】
<便の色(ビリルビン)の拭き取り性の評価方法>
評価方法は上述した方法によって行い、1回拭き取り後のΔb1を算出し、以下の基準に従って評価した。
◎:Δb1が3.5未満
○:Δb1が3.5以上5未満
△:Δb1が5以上7未満
×:Δb1が7以上
【0061】
<水系洗浄剤のシート保持量及び放出量の評価方法>
評価対象の清浄用シートから任意のサイズの試験片(例えばMDの長さ200mm、CDの長さ150mmの矩形形状の試験片)を用意し、該試験片の重量W1を測定する。この試験片を折り畳んで、容積20mlのシリンダー及び該シリンダー内を往復動可能なピストンを具備するシリンジにおける該シリンダー内に詰め込み、手動で該ピストンを該シリンダー内に押し込んで、試験片に含まれている水系洗浄剤を絞り出す。洗浄剤を絞り出した後の試験片の重量W2を測定する。こうして洗浄剤が絞り出された後の試験片を塩化鉄(III)六水和物0.5%水溶液中に浸漬させた後、残った洗浄剤を水で洗い流す。こうして洗浄剤が水で洗い流された後の試験片を23℃、50%室内で12時間以上干して乾燥させ、その乾燥後の試験片の重量W3を測定する。そして、次式により水系洗浄剤のシート保持量及び放出量をそれぞれ算出する。シート保持量が少ないほど、水系洗浄剤の放出性に優れており、肌に移行せずに基材シートに保持されたままの水系洗浄剤の量が少なく、高評価となる。逆に、放出量は多いほど高評価となる。
水系洗浄剤のシート保持量(g/g)=(W2−W3)/W3
水系洗浄剤の放出量(g/g)=(W1−W2)/W3
【0062】
<水解性の評価方法>
水解性の評価方法は、JIS P 4501に規定のほぐれやすさの試験方法で行う。水300ml(水温20±5℃)を入れた300mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、回転子(直径35mm、厚さ12mmの円盤状)の回転数を600±10回転/分になるように調整する。その中に60mm(MD)×60mm(CD)の試験片(清浄用シート)を投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回転数は試験片の抵抗によって、いったん約500回転に下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇し、540回転までに回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。以上の測定を3回行い、平均の値を水解性の値とする。この値が60秒以下であれば実用上問題ないレベルである。
【0063】
<使用感触の評価方法>
育児経験のある母親などの専門パネラーに、試験片(洗浄用シート)で自分の前腕部内側を拭いてもらい、30秒放置後の肌のぬるつき感、さっぱり感などの使用感触を、以下の基準に従って官能評価した。
◎:非常によい(好き)。
○:よい(好き)。
△:ふつう。
×:悪い(きらい)。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、実施例の清浄用シートは、便の色の拭き取り性、水系洗浄剤のシート保持量及び放出量、使用感触の何れについても良好であった。これに対し、比較例1は、主として非イオン性界面活性剤を含有していないため、特に便の色の拭き取り性並びに水系洗浄剤のシート保持量及び放出量の点で劣る。また比較例2〜4は、主として本発明の範囲外の非イオン性界面活性剤を含有しているため、特に便の色の拭き取り性の点で劣る。また比較例5は、主として非イオン性界面活性剤の含有量が少ないため、特に便の色の拭き取り性の点で劣り、また比較例6は、主として非イオン性界面活性剤の含有量が多いため、使用感触の点で劣る。尚、清浄用シートの水解性については、実施例及び比較例の何れも良好であり、また清浄用シートの湿潤強度についても、結果を示していないが、実施例及び比較例の何れも実用上問題ないレベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系洗浄剤が、セルロース系繊維を主体とする水解性の基材シートに含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートであって、
前記水系洗浄剤は、非イオン性界面活性剤を0.05〜3重量%及び水を70〜90重量%含有し、該非イオン性界面活性剤は、HLBが10〜15、分子量が300〜1000である肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤はポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する請求項1記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤が、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物からなる群から選択される1種以上である請求項2記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
1COO−(CH2CH2O)n−H (1)
〔前記式(1)中、R1COは炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基を示し、nは重量平均で1〜20の数を示す。〕
2O−(CH2CH2O)n−H (2)
〔前記式(2)中、R2は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で1〜21の数を示す。〕
3O−(CH2CH2O)n−(CH2CH(CH3)O)m−H (3)
〔前記式(3)中、R3は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で0〜19の数、mは重量平均で1〜15の数を示す。〕
【請求項4】
前記水系洗浄剤が、前記基材シート1重量部に対し1〜3重量部含浸されている請求項1〜3の何れかに記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項5】
前記基材シートは、水溶性バインダーを含んでいる請求項1〜4の何れかに記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。

【公開番号】特開2010−125233(P2010−125233A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305695(P2008−305695)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】