説明

肝細胞癌分析のためのデータを得るための方法、装置及びプログラム

【課題】肝細胞癌検出の確度を向上させる。
【解決手段】本肝細胞癌分析のためのデータを得るための方法は、患者の体液からα−フェトプロテイン(AFP)の値Xを測定し、記憶装置に格納するステップと、患者の体液からAFPレクチン分画(AFP−L3%)の値Yを測定し、記憶装置に格納するステップと、患者の体液からデス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP)の値Zを測定し、記憶装置に格納するステップと、肝細胞癌検出のためのスコアSを、記憶装置に格納されているX、Y及びZを用いて算出し、記憶装置に格納するスコア算出ステップとを含む。そして、当該スコア算出ステップにおいて、スコアSが、S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z)(α、β及びγは定数)で算出されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞癌分析のためのデータを得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌の検出に用いられる腫瘍マーカーとしては、α−フェトプロテイン(AFP)、AFPレクチン分画(AFP−L3%)、デス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP:des-gamma-carboxy prothrombin)等が知られている。しかしながら、これら腫瘍マーカー単独での肝細胞癌陽性率は30%乃至60%であり、全ての肝細胞癌患者を検出できるわけではない。また、肝細胞癌でない患者、例えば、ウイルス性慢性肝炎患者や肝硬変患者などに、これらマーカーは偽陽性を与えることも知られている。このため、臨床の現場では、1つのマーカーだけを用いることなく複数のマーカーを用いて判断するのが通常であるが、肝細胞癌検出確度を上げるための統合的な指標は存在していない。
【0003】
なお、肝細胞癌検出のための統合的な指標を提案するような論文も存在するが、それは上で述べたマーカー単独の場合と比較して十分な検出確度を得るものとは言えない。
【非特許文献1】Volk ML, Hernandez JC, Su GL, Lok AS, Marrero JA (2007). "Risk factors for hepatocellular carcinoma may impair the performance of biomarkers: a comparison of AFP, DCP, and AFP-L3". Cancer Biomark 3 (2): 79-87
【非特許文献2】Marrero JA, Su GL, Wei W, Emick D, Conjeevaram HS, Fontana RJ, Lok AS. Des-gamma carboxyprothrombin can differentiate hepatocellular carcinoma from nonmalignantchronic liver disease in american patients. Hepatology 2003;37: 1114-1121
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、肝細胞癌検出の確度を向上させるための統合的な指標を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の肝細胞癌分析のためのデータを得るための方法は、患者の体液からα−フェトプロテイン(AFP)の値Xを測定し、記憶装置に格納するステップと、患者の体液からAFPレクチン分画(AFP−L3%)の値Yを測定し、記憶装置に格納するステップと、患者の体液からデス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP)の値Zを測定し、記憶装置に格納するステップと、肝細胞癌検出のためのスコアSを、記憶装置に格納されているX、Y及びZを用いて算出し、記憶装置に格納するスコア算出ステップとを含む。そして、当該スコア算出ステップにおいて、スコアSが、S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z)(α、β及びγは定数)で算出されるものである。
【0006】
上記のようなスコアSを導入することによって、AFP、AFP−L3%及びDCPを統合的な指標値に変換することができ、検出精度を向上させることができるようになる。
【0007】
さらに、本肝細胞癌分析のためのデータを得るための方法は、記憶装置に予めスコアSの閾値として格納されている値Rと、記憶装置に格納されているスコアSとを比較して、スコアSが値R以上である場合に、スコアSに対応付けてフラグを記憶装置に格納するステップをさらに含むようにしてもよい。このようにすれば、医師などは特に注意すべき患者を容易に見出すことができるようになる。
【0008】
なお、上記αが、0.01以上0.34以下であり、上記βが、0.18以上0.66以下であり、上記γが、0.8以上1.00以下である場合に、以下で述べるAUROCという指標の観点において従来技術に比して顕著な効果があることを、本願の発明者は非自明に見出した。
【0009】
また、より好ましくは、上記αは、0.02以上0.28以下であり、上記βは、0.20以上0.58以下であり、上記γは、0.84以上1.00以下である。このような値域を採用することによって、AUROCという指標の観点において、従来技術に比してより顕著な効果がある。
【0010】
本発明にかかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体又は記憶装置に格納される。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【発明の効果】
【0011】
従って、本発明によれば、肝細胞癌検出の確度を向上させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[本発明の実施の形態の前提]
[ROC分析について]
ROC分析とは、ある検査に対して、いくつかの値をカットオフにして陽性/陰性を識別し、その結果得られた真陽性率(感度)を縦軸に、偽陽性率(1−特異性)を横軸にプロットしたROC曲線(receiver operating characteristics curve)による分析である。図1に、ROC曲線の例を示す。一般に、曲線が左上に偏在すればするほど検査の診断能力が高く、逆に対角線(y=x)に近ければ、検査の診断的意義は全くないと判定される。また、両軸の作図範囲はそれぞれ0乃至1であり、その面積は1となるので、完璧な検査の場合、曲線右下の面積は最大値の1となる。一方分別能力の全くない検査の曲線下面積は0.5となる(詳細には、日本臨床検査自動化学会:臨床検査の診断的有用性評価マニュアル。日本臨床検査自動化学会会誌 29:15-19. Zweig MH, Campbell G: Receiver-operating characteristic (ROC) plots: a fundamental evaluation tool in clinical medicine. Clin Chem 39: 561-577, 1993. 厚生省健康政策局薬事経済研究会:臨床検査薬情報担当者 研修テキストI. 薬業時報社, 1998.参照のこと)。
【0013】
以下では、ROC曲線の下部面積(AUROC:Area under a ROC)を、検査の臨床的な有用性の評価指標として採用することとする。
【0014】
[本発明の実施の形態の原理]
1.基本的な考え方
本願の発明者は、臨床の現場で最も利用価値の高い肝細胞癌検出のためのスコアSは以下の式で算出すべきであると、非自明に着想した。
S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z) (1)
【0015】
ここで、Xは、AFPについての測定値であり、Yは、AFP−L3%についての測定値であり、Zは、DCPについての測定値である。また、α、β、γについては、後の述べるような係数である。
【0016】
医師などは、(1)式で算出されたスコアSを、所定のカットオフ値(すなわち閾値)Rと比較して、スコアSがカットオフ値R以上である場合には、肝細胞癌の可能性が非常に高いものと判断できる。
【0017】
なお、カットオフ値Rは、当該臨床検査が施行される状況(有病率)や偽陰性・偽陽性の臨床的意義により変わる。従って、それを一義的に決めることはできず、検査を施行する施設のポリシーにより設定値が変化することになる。しかしながら、一般的な方法として例を挙げれば、感度・特異性曲線を利用して有病率、偽陰性及び偽陽性でカットオフ値を調整する方法がある(例えば、日本臨床検査自動化学会:臨床検査の診断的有用性評価マニュアル。日本臨床検査自動化学会会誌 29:15-19。Zweig MH, Campbell G: Receiver-operating characteristic (ROC) plots: a fundamental evaluation tool in clinical medicine. Clin Chem 39: 561-577, 1993.を参照のこと。)。あるいは、偽陽性率の2乗値と偽陰性率の2乗値の和が最小となる識別値をカットオフ値として用いる方法もある(例えば、厚生省健康政策局薬事経済研究会:臨床検査薬情報担当者 研修テキストI. 薬業時報社,1998を参照のこと。)。
【0018】
2.係数α、β、γの具体的な値域について
(1)最適係数の算出
ここでは、7施設から集めた肝細胞癌患者93症例と慢性肝疾患患者399症例とを用いて、最適係数及び係数の値域について考察する。
【0019】
ここで、(1)式において、log(X)=Y1、log(Y)=Y2、log(Z)=Y3と簡略表記するものとする。そして、それぞれ単独で、又は任意の2つの組み合わせでAUROCを算出すると共に、AUROCが最大となるスコア算出式及びその際のAUROCの値をまとめると、図2に示すような結果が得られた。
【0020】
図2の結果を見ると、Y1とY3の組み合わせと、Y2とY3の組み合わせが、AUROCの最大値0.809を導出することが分かる。
【0021】
そこで、前者のスコア算出式S5=0.11*Y1+Y3と、後者のスコア算出式S6=0.51*Y2+Y3とを組み合わせて、以下の4式においてAUROCを最大化する式及びその係数を特定する。
S7=a1*Y2+S5 (2)
S8=Y2+a2*S5 (3)
S9=a3*Y1+S6 (4)
S10=Y1+a4*S6 (5)
【0022】
そうすると、a3=0.17で、(4)式を用いた場合、AUROCが0.819になることが分かった。より具体的に記すと以下のようになる。
S9=0.17*Y1+S6=0.17*Y1+0.51*Y2+Y3 (6)
すなわち、α=0.17、β=0.51及びγ=1.0が最適値である。
【0023】
なお、これらの解析については、統計解析プログラムであるJMP(登録商標)6(JMP社製)を用いている。
【0024】
(2)係数の具体的値域の特定
係数の好ましい値域を特定するため、β=0.51及びγ=1.0で固定して、αを変化させた際のAUROCの変化を図3に示す。図3では、横軸はαを表し、縦軸はAUROCを表す。このようにαを0から1まで変化させると、AUROCは一旦上昇し、0.17で最大となった後、徐々に減少する。
【0025】
また、α=0.17及びγ=1.0で固定して、βを変化させた際のAUROCの変化を図4に示す。図4では、横軸はβを表し、縦軸はAUROCを表す。このようにβを0から1まで変化させると、AUROCは徐々に上昇してほぼフラットになった後、0.51で最大になり、その後徐々に減少する。
【0026】
さらに、α=0.17及びβ=0.51で固定して、γを変化させた際のAUROCの変化を図5に示す。図5では、横軸はγを表し、縦軸はAUROCを表す。このようにγを0から1間で変化させると、AUROCは徐々に飽和しつつ上昇して1.0で最大となる。
【0027】
本実施の形態では、AUROCという観点からして、従来技術に対して顕著な効果を奏するといえるAUROCの値は、図3乃至図5においては、0.816であると考える。具体的には、図3乃至図5において0.816を閾値にすると、0.01≦α≦0.34で、0.18≦β≦0.66で、0.80≦γ≦1.00という値域が得られた。
【0028】
但し、図3乃至図5では、検討対象の係数以外は固定でAUROCを算出したので、必ずしも、この範囲において必ずAUROC=0.816が確保できるわけではない。従って、図3乃至図5においてAUROCが最低となる可能性のある係数の値をピックアップして、感度及び特異性と共にAUROCを計算し直すと図6に示すような結果が得られた。
【0029】
すなわち、α=0.34、β=0.18且つγ=0.80であれば、AUROCは0.813となる。また、α=0.34、β=0.66且つγ=0.80であれば、AUROCは0.810となる。このように最低でもAUROC=0.810を確保できており、以下で述べる従来技術と比較しても顕著な効果がある。
【0030】
なお、特異性については90%となるようにカットオフ値Rを設定している。そして、感度は、最適スコア算出式(6)の感度と大きな差が無く、以下で述べるように従来技術と比して有効であることが分かる。
【0031】
さらに、本実施の形態では、AUROCという観点からして、従来技術に対して顕著な効果を奏するといえる、より好ましいAUROCの値は、0.815であると考える。このため、図3乃至図5においてAUROC=0.817を閾値にして、さらに最低でもAUROC=0.815を確保する値域を探索すると、0.02≦α≦0.28で、0.20≦β≦0.58で、0.84≦γ≦1.00という値域が得られた。
【0032】
ここでも、図3乃至図5の傾向からして、上記の値域においてAUROCが最低となる可能性のある係数の値をピックアップして、感度及び特異性と共にAUROCを計算し直すと図7に示すような結果が得られた。
【0033】
すなわち、α=0.02、β=0.20且つγ=0.84であれば、AUROCは0.816となり、α=0.02、β=0.58且つγ=0.84であれば、AUROCは0.815となり、α=0.28、β=0.20且つγ=0.84であれば、AUROCは0.816となり、α=0.28、β=0.58且つγ=0.84であれば、AUROCは0.815となる。このように、図6の結果よりさらに良い結果が得られている。
【0034】
なお、図6と同様に、特異性については90%となるようにカットオフ値Rを設定している。そして、感度は、最適スコア算出式(6)の感度と大きな差が無く、以下で述べるように従来技術と比して有効であることが分かる。
【0035】
ここで、従来技術と本実施の形態との比較のためのデータを図8に示す。図8では、AFP単独、AFP−L3%単独、DCP単独、具体的なスコア算出式が提示されている非特許文献2に対して、最適スコア算出式(6)とを比較している。AUROCについて比較すれば、従来技術において最も高い値は非特許文献2の0.806であり、一方、最適スコア算出式(6)の場合には0.819であり、図6の最低値0.810と比較しても顕著な効果があることが分かる。同様に、図7の最低値0.815と比較すればさらに顕著な効果があるといえる。
【0036】
なお、上で述べたように最適スコア算出式(6)については、スコア算出式の信頼性を確保するため特異性が90%となるようにカットオフ値Rを設定している。通常、特異性を上げると感度が下がるが、このような高い特異性の値を設定しても、感度の値はAFP単独よりは低いものの、従来技術と比較しても十分に高い値を得られている。尚、AFP単独の値と比較すると、感度は弱冠低いものの、特異性は明らかに高く、最適スコア算出式(6)は、感度と特異性のバランスが取れたものであることが判る。
【0037】
3.その他の効果
上で述べた慢性肝疾患399症例のうち、AFP、AFP−L3%、DCPの1以上のマーカーが偽陽性を示した患者は、全部で140症例あった。そのうち、最適スコア算出式(6)で算出されたスコアでは、104症例(74%)が陰性を示しており、偽陽性を大幅に回避できている。まとめると、図9のようになる。
【0038】
図9では、AFP、AFP−L3%及びDCPの全てで陽性とされたケース、AFP及びAFP及びAFP−L3%で陽性とされたケース、AFP及びDCPで陽性とされたケース、AFP−L3%及びDCPで陽性とされたケース、AFPのみで陽性とされたケース、AFP−L3%のみで陽性とされたケース、DCPのみで陽性とされたケースがある。効果のないケースもあるが、AFP及びAFP−L3%が陽性のケース、AFPのみ陽性のケース、AFP−L3%のみが陽性のケースについては、優勢に偽陽性を回避しており、良好な効果が見られる。
【0039】
[本発明の実施の形態の具体例]
図10に、本実施の形態に係る肝細胞癌検出ための分析装置の機能ブロック図を示す。分析装置100は、患者の検体を保持する検体保持部11と、検体保持部11に保持されている検体に対してAFPの値を測定するAFP測定部12と、検体保持部11に保持されている検体に対してAFP−L3%の値を測定するAFP−L3%測定部13と、検体保持部11に保持されている検体に対してDCPの値を測定するDCP測定部14と、AFP測定部12とAFP−L3%測定部13とDCP測定部14とからの測定結果について処理を行う演算処理部16と、演算処理部16等に指示を行うためのタッチパネルやキーボードその他の入力部15と、各種測定結果、係数値、計算結果のスコア値などのデータを格納するデータ格納部17と、演算処理部16からユーザに対するガイダンスや演算処理部16の演算結果などを表示する表示部18と、演算処理部16から出力される分析結果などを紙などに印字する印刷部19とを有する。
【0040】
検体保持部11は、患者の体液(血清、血漿など)を保持する容器を含む。例えば、患者の体液を保持する容器を複数保持できるような器具であってもよい。
【0041】
AFP測定部12は、既存のAFP測定技術を実装した測定部である。例えば、特開昭61−292062号公報や特開平11−287805号等に記載の方法に従って測定を行う。また、特開平6−66778号公報、WO2007/121263号公報、WO2002/082083号公報などには、液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動を用いた測定方法が開示されており、これらの技術を用いて測定するようにしても良い。本技術は周知であるからこれ以上述べない。
【0042】
AFP−L3%測定部13も、既存のAFP−L3%測定技術を実装した測定部である。但し、AFP測定部12と一体化されている場合もある。測定技術は、AFPと同様の文献記載の技術を利用することができる。
【0043】
同様に、DCP測定部14も、既存のDCP測定技術を実装した測定部である。例えば、特開昭60−60557号公報、特開平5−43357号公報、特開平6−66778号公報、WO2007/121263号公報、WO2002/082083号公報などに記載された方法に従って測定を行う。本技術は周知であるからこれ以上述べない。
【0044】
上で述べた測定部は、全て一体的に構成される場合もあれば、図10に示すように分離した形で構成される場合もある。また、任意の2つを一体化するような場合もある。
【0045】
入力部15に対し、ユーザは、例えばカットオフ値Rを入力して、演算処理部16の処理に使用させたり、上で述べた(1)式の係数値α、β及びγの値についても入力して、演算処理部16の処理に使用させる。さらに、患者ID(場合によっては名前)を、入力部15から入力して、データ格納部17において測定値やスコアのキーとして用いるようにしてもよい。
【0046】
なお、複数の患者についての処理を一括して行う場合には、入力部15に含まれるデータ読み取り部(例えばフレキシブルディスクなどの記憶媒体の読み取り部、USB(Universal Serial Bus)メモリなどとの外部インタフェースなど)を介して患者IDなどのデータを取り込むようにしても良い。さらに、データ読み取り部ではなく、データ読み書き部として、複数の患者についての処理結果を記憶媒体などに書き込むようにしても良い。
【0047】
データ格納部17は、カットオフ値R、上で述べた(1)式の係数値α、β及びγの値、演算処理部16によって算出されたスコアSの値などを格納すると共に、演算処理部16が処理を行う上で必要なデータを格納する。
【0048】
また、分析装置100は、図示していないが、ネットワークインタフェースを有する場合もある。このような場合には、ネットワークに接続された他の端末やサーバなどに処理結果を送信することができる。さらに、当該ネットワークインタフェースから必要なデータを受信して、データ格納部17に格納するようにしても良い。さらに、インターネットなどの外部ネットワークに接続できるようにすれば、メンテナンスセンタから遠隔操作などによってメンテナンスを行う場合もある。さらに、メンテナンスだけではなく、多数の患者のデータを集積して、係数値α、β及びγの値、カットオフ値Rなどをより精緻な値に設定し直すような構成を採用する場合もある。
【0049】
次に、図11を用いて、分析装置100の処理内容を説明する。最初に、AFP測定部12、AFP−L3%測定部13及びDCP測定部14は、検体保持部11に保持されている患者の体液から、それぞれAFPの値、AFP−L3%の値及びDCPの値を測定する(ステップS1)。そして、AFP測定部12はAFPの測定値を、AFP−L3%測定部13はAFP−L3%の測定値を、DCP測定部14はDCPの測定値を、演算処理部16に出力し、演算処理部16は、それらの測定値を受け取って、データ格納部17に記録する(ステップS3)。例えば、データ格納部17では、図12に示すようなデータ構造でデータを管理する。すなわち、患者ID(又は名前)と、AFPの測定値と、AFP−L3%の測定値と、DCPの測定値と、スコアの値と、フラグとが登録されるようになっている。患者IDの代わりに測定順番のシリアル番号などを登録するようにしても良い。また、特に管理する必要がないのであれば、患者IDは不要である。ステップS3では、スコアの値及びフラグはセットされていない。
【0050】
その後、演算処理部16は、データ格納部17に記録された各測定値を用いて、上で述べた(1)式に従ってスコアSの値を算出する(ステップS5)。上でも述べたように、α、β及びγといった係数値については、予め入力部15などによって設定されるか、分析装置100に予め設定されている。そして、本実施の形態の原理で述べたように、α、β及びγは、それぞれ上で述べた値域に入る値である。これによって、従来技術と比較しても顕著に肝細胞癌の検出確度が向上する。
【0051】
さらに、演算処理部16は、ステップS5で算出されたスコアSの値を、データ格納部17に記録する(ステップS7)。処理に係る患者の患者IDに対応してスコアの値が記録される。
【0052】
そして、演算処理部16は、スコアSの値が、予め設定されているカットオフ値(閾値)R以上であるか判断する(ステップS9)。カットオフ値Rについてもデータ格納部17に格納されている。
【0053】
スコアSの値がカットオフ値R以上である場合には、演算処理部16は、データ格納部17においてフラグをセットする(ステップS11)。処理に係る患者の患者IDに対応してフラグをオンにセットする。
【0054】
スコアSの値がカットオフ値R未満である場合又はステップS11の後に、演算処理部16は、ユーザからの指示に応じて又は自動的に、各測定値、スコアSの値及びフラグを表すデータを、表示部18等に出力する(ステップS13)。例えば、図13に示すような表示がなされる。図13の例では、患者IDと、AFPの測定値と、AFP−L3%の測定値と、DCPの測定値と、スコアSの値と、備考とが表示される。患者IDを含まないようにしても良い。また、備考には、フラグがオンにセットされている場合には、それを強調するデータが含まれる。図13の例では、星印が付されている。なお、星印の代わりに、「カットオフ値以上です」といった注釈文を入れるようにしても良いし、表示データ全体を強調するため、ブリンクさせたり、色を変えたりするようにしてもよい。
【0055】
さらに、図13に示すようなデータを、印刷部19から紙に印刷するようにしても良い。さらに、上で述べたような外部インタフェースから電子データとして外部に出力するようにしても良い。
【0056】
以上のような処理を実施することによって、ユーザである医師などは、肝細胞癌について適切な指標値を得ることができ、正しい診断を行うことができるようになる。
【0057】
以上実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。分析装置100の演算処理部16は、例えばプロセッサとプログラムの組み合わせで構成される場合もある。このような場合には、プログラムは、例えばデータ格納部17又はプロセッサ内蔵のメモリ回路に保持されており、当該プログラムをプロセッサが実行することによって上記の処理が行われる。
【0058】
また、分析装置100は、印刷部19を有しない場合もある。このような場合には、例えば印刷装置に接続可能なインタフェース部を保持している場合もある。
【0059】
なお、本実施の形態を単純に実施する上では、AFP測定部12、AFP−L3%測定部13、DCP測定部14の全て又は一部を有する測定装置から、オンライン又はオフラインで各測定値を取得して、上で述べた(1)式に従ってスコアの値を計算して出力するだけの分析装置を構成するようにしても良い。
【0060】
また、図11で示したステップS9及びS11については実施しない場合もある。これについては、医師などが判断するようにしても良い。
【0061】
その他、分析装置100に付加的な機能を追加したりするような場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ROC曲線の一例を示す図である。
【図2】最適スコア算出式導出手順を説明するための図である。
【図3】最適スコア算出式におけるβ及びγを固定してαを変化させた際のAUROCの変化を表す図である。
【図4】最適スコア算出式におけるα及びγを固定してβを変化させた際のAUROCの変化を表す図である。
【図5】最適スコア算出式におけるα及びβを固定してγを変化させた際のAUROCの変化を表す図である。
【図6】スコア算出式の第1の値域を検証するためのデータを表す図である。
【図7】スコア算出式の第2の値域を検証するためのデータを表す図である。
【図8】従来技術との比較を行うための図である。
【図9】他の効果を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態における分析装置の機能ブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態における分析装置の処理フローを示す図である。
【図12】データ格納部に格納されるデータの一例を示す図である。
【図13】出力されるデータの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
100 分析装置 11 検体保持部
12 AFP測定部 13 AFP−L3%測定部
14 DCP測定部 15 入力部
16 演算処理部 17 データ格納部
18 表示部 19 印刷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体液からα−フェトプロテイン(AFP)の値Xを測定し、記憶装置に格納するステップと、
前記患者の体液からAFPレクチン分画(AFP−L3%)の値Yを測定し、前記記憶装置に格納するステップと、
前記患者の体液からデス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP)の値Zを測定し、前記記憶装置に格納するステップと、
肝細胞癌検出のためのスコアSを、前記記憶装置に格納されているX、Y及びZを用いて算出し、前記記憶装置に格納するスコア算出ステップと、
を含み、
前記スコア算出ステップにおいて、前記スコアSが、
S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z)
(α、β及びγは定数)
で算出される
肝細胞癌分析のためのデータを得るための方法。
【請求項2】
前記記憶装置に予め前記スコアSの閾値として格納されている値Rと、前記記憶装置に格納されている前記スコアSとを比較して、前記スコアSが前記値R以上である場合に、前記スコアSに対応付けてフラグを前記記憶装置に格納するステップ
をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記αが、0.01以上0.34以下であり、前記βが、0.18以上0.66以下であり、前記γが、0.8以上1.00以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記αが、0.02以上0.28以下であり、前記βが、0.20以上0.58以下であり、前記γが、0.84以上1.00以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の肝癌細胞分析方法。
【請求項5】
患者の体液からα−フェトプロテイン(AFP)の値Xを測定し、記憶装置に格納する第1測定手段と、
前記患者の体液からAFPレクチン分画(AFP−L3%)の値Yを測定し、前記記憶装置に格納する第2測定手段と、
前記患者の体液からデス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP)の値Zを測定し、前記記憶装置に格納する第3測定手段と、
肝細胞癌検出のためのスコアSを、前記記憶装置に格納されているX、Y及びZを用いて算出し、前記記憶装置に格納するスコア算出手段と、
を有し、
前記スコア算出手段において、前記スコアSが、
S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z)
(α、β及びγは定数)
で算出される
肝細胞癌分析のためのデータを得るための装置。
【請求項6】
患者の体液から測定された、α−フェトプロテイン(AFP)の値Xと、前記患者の体液から測定された、AFPレクチン分画(AFP−L3%)の値Yと、前記患者の体液から測定されたデス−ガンマ−カルボキシ・プロトロンビン(DCP)の値Zとを格納する記憶装置から、前記X、Y及びZを読み出すステップと、
肝細胞癌検出のためのスコアSを、読み出された前記X、Y及びZを用いて算出し、前記記憶装置に格納するスコア算出ステップと、
を、コンピュータに実行させ、
前記スコア算出ステップにおいて、前記スコアSが、
S=α*log(X)+β*log(Y)+γ*log(Z)
(α、β及びγは定数)
で算出される
肝細胞癌分析のためのデータを得るためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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