説明

育児器具

【課題】親と子供との間のコミュニケーションを円滑にする育児器具を提供する。
【解決手段】育児器具としての乳母車11は、乳児を受け入れる座部としての座席形成部材14を備える。そして、座席形成部材14上の乳児の目から20cm〜35cmの範囲内にあることを示す焦点距離表示部22を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、育児器具、特に親と子との間のコミュニケーションを円滑にする育児器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の育児器具としての乳母車は、例えば、特開平8−169348号公報(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている乳母車は、車輪が取り付けられたフレーム上に乳児を受け入れる座部と、親が乳母車を移動させるための押棒とを備える。また、この乳母車は、押棒が前後方向に回動自在となっており、背面押しの位置と対面押しの位置とを選択可能となっている。
【0003】
ところで、生後6ヶ月頃の乳児の目の焦点は25cm〜30cm程度であると言われている。従って、親の顔と乳児の顔とが25cm〜30cm程度の間隔になれば、乳児は親の顔を認識できる。親と子との間の愛情を育むには、親の目と乳児の目との間隔を25cm〜30cm程度に近づけるのが良いことが分かっている。
【特許文献1】特開平8−169348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成の乳母車を対面押しの状態にした場合において、押棒を押す親の顔と座部に座る乳児の顔との間には1m程度の距離がある。したがって、座部に座る乳児には親の顔がはっきり見えていないことになる。そうすると、この状態で親が乳児に話しかけても円滑なコミュニケーションを図ることは困難である。なお、この問題は乳母車に関してだけでなく、チャイルドシートやベビーベッド等の乳児を受け入れる座部を有するあらゆる育児器具にも当てはまる。
【0005】
そこで、この発明の目的は、親と子供との間のコミュニケーションを円滑にする育児器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る育児器具は、乳児を受け入れる座部を備える。そして、座部上の乳児の目から20cm〜35cmの範囲内にあることを示す焦点距離表示部を設けたことを特徴とする。
【0007】
上記構成の育児器具によれば、座部上の乳児のはっきり物を見ることのできる範囲を容易に特定することができる。そして、親の顔を焦点距離表示部近傍に移動させれば、親と乳児との間のアイコンタクトを実現することができる。
【0008】
一実施形態として、焦点距離表示部は、乳児の目を中心とする略円弧形状のアーチ部材である。乳児は座部上で首を左右に振ることがある。したがって、焦点距離表示部は、正面だけでなく乳児の顔を中心とする円弧状に設けるのが望ましい。
【0009】
他の実施形態として、育児器具は、幌と、一端が幌の左右の回動中心それぞれに連結された一対の帯状部材とを有する乳母車である。そして、焦点距離表示部の使用状態においては、一対の帯状部材の他端を相互に連結して略円弧形状の前記焦点距離表示部を構成する。また、焦点距離表示部の不使用状態においては、一対の帯状部材は幌の内面に沿って配置される。
【0010】
上記構成の乳母車によれば、焦点距離表示部の不使用状態に一対の帯状部材を幌の内面に沿って収納することができるので、乳母車の使用の邪魔となることがない。また、焦点距離表示部を使用する際には、一対の帯状部材をそれぞれ弾性変形させた状態で連結すればよいので、使用状態と不使用状態との切り替えが容易である。
【0011】
好ましくは、略円弧形状の焦点距離表示部は、一対の帯状部材の連結位置を選択して曲率半径を変更可能である。はっきり物をみることができる距離は乳児によってある程度異なる。したがって、焦点距離表示部の位置を任意に変更可能とすることにより、複数の乳児の使用にも適切に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図4を参照して、この発明の一実施形態に係る育児器具としての乳母車11を説明する。なお、図1は乳母車11を示す斜視図、図2は焦点距離表示部22の使用状態を示す図、図3は焦点距離表示部22の不使用状態を示す図、図4は図2のP部の拡大図である。
【0013】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係る乳母車11は、座席形成部材14と、座席形成部材14の左右に前後方向に延びる一対の手摺部材15と、一対の手摺部材15の前方端部を相互に接続する前ガード部16と、上方端部がそれぞれ一対の手摺部材15に連結され、下方端部に車輪17が連結されている前脚18および後脚19と、一対の手摺部材15の後方端部に開閉可能な状態で接続される幌20と、一対の手摺部材15および後脚19に接続される押棒21と、一対の手摺部材15の後方端部に回動可能な状態で接続される焦点距離表示部22とを備える。
【0014】
座席形成部材14は、子供が座る座部12、背もたれ部13、および子供の体を固定するシートベルトを含む。なお、この座席形成部材14は、背もたれ部13をリクライニング可能として椅子の形態とベッドの形態とに切り替え可能な構成としてもよい。
【0015】
押棒21は、全体として逆U字形状の部材である。図1に示す実施形態においては、座席形成部材14に座る子供と押棒21を押す親とが同じ方向を向く背面押しの形態を示しているが、これに限ることなく、座席形成部材に座る子供と押棒を押す親とが対面する対面押しの形態であってもよい。さらには、押棒21を後脚19との連結部分を中心として前後方向に回動可能とすることにより、対面押しの形態と背面押しの形態とに切り替え可能な構成としてもよい。
【0016】
次に、図2〜図4を参照して、焦点距離表示部22を詳しく説明する。焦点距離表示部22は、一端が幌20の左右の回動中心それぞれに回動可能に連結される一対の帯状部材23,24を含む。
【0017】
図2を参照して、焦点距離表示部22の使用状態においては、一対の帯状部材23,24の他端を相互に連結して円弧形状のアーチ部材を構成する。このとき、焦点距離表示部22は、座席形成部材14に座る乳児の顔の位置を基準として20cm〜35cm、より好ましくは、25cm〜30cmの範囲内に配置する。
【0018】
このような乳母車11において、親が乳児の顔を見るときに焦点距離表示部22の近くにまで顔を持っていくようにすれば、乳児も親の顔を認識できるようになる。こうして、親と乳児との間のアイコンタクトを実現することができる。
【0019】
一方、図3を参照して、焦点距離表示部22の不使用状態においては、一対の帯状部材23,24の連結を解除して幌20の内面に沿うように収納する。このように一対の帯状部材23,24の連結および解除を選択することにより、焦点距離表示部22を図2に示すような使用状態と図3に示すような不使用状態とに簡単に切り替えることができる。
【0020】
例えば、乳母車11に乳児を座らせた時は使用状態とし、乳児の乳母車11への乗降時やある程度成長した子供が乳母車11を使用する場合には不使用状態とする等、用途に応じて切り替えることができる。また、不使用状態において一対の帯状部材23,24を幌20の内面に沿って配置することで、乳母車11の使用時に一対の帯状部材23,24が邪魔になることがない。
【0021】
次に、図4を参照して、帯状部材23の他端には穴23aが1箇所に設けられている。一方、帯状部材24の他端には複数の穴24a,24b,24c,24dが設けられている。そして、穴23aと穴24a〜24dのうちから選択した1つの穴とを連結することにより、一対の帯状部材23,24が連結されて円弧形状の焦点距離表示部を構成する。この実施形態においては、帯状部材23の穴23aと帯状部材24の穴24aとに挿通するピン25によって両者が連結されている。
【0022】
ここで、はっきり物をみることができる距離は乳児によってある程度異なる。そこで、穴24a〜24dを選択することによって焦点距離表示部22の曲率半径を任意に変更可能とする。その結果、複数の乳児の使用にも適切に対応することができる。
【0023】
同様に、座席形成部材14上での頭の位置は乳児によって異なる。そこで、一対の帯状部材23,24の一端を幌20の回動中心に回動可能に固定することにより、乳幼児と親とがコミュニケーションを図る際に邪魔にならない位置に移動させることができる。
【0024】
なお、上記の実施形態においては、穴23aと穴24a〜24dのうちから選択した1つの穴とに挿通するピン25によって焦点距離表示部22の曲率半径を決定する方法を示したが、これに限ることなく、焦点距離表示部22の曲率半径を変更可能なあらゆる構成を採用することができる。
【0025】
また、上記の実施形態においては、帯状部材24の複数の穴24a〜24dから1つを選択して焦点距離表示部22の曲率半径を段階的に変更する例を示したが、これに限ることなく、焦点距離表示部22の曲率半径を連続的に変更可能な構成を採用することもできる。
【0026】
また、上記の実施形態において、一対の帯状部材23,24は、焦点距離表示部22の使用状態と不使用状態とを切り替える際、または焦点距離表示部22の曲率半径を変更する際に弾性変形する。そのため、切り替え時等の破損を防止するために弾性変形能の高い材料で形成することが望ましい。
【0027】
また、上記の実施形態において、幌20は必須の構成要素でなく省略することができる。この場合、焦点距離表示部22の不使用時には帯状部材23,24を回動させて手摺部材15に沿って配置すれば邪魔になることはない。
【0028】
また、上記の実施形態における焦点距離表示部22は、一対の帯状部材23,24を弾性変形させてアーチ部材を構成した例を示したが、これに限ることなく、乳児の焦点距離を認識可能な他の構成を採用することもできる。
【0029】
また、上記の実施形態における焦点距離表示部22は、親の顔の適切な位置を認識する手段としての例を示したが、これに限ることなく、他の目的に利用することもできる。例えば、一対の帯状部材23,24の乳児と対面する側におもちゃを取り付ける等すれば、乳児は興味を持って遊ぶことができる。
【0030】
さらに、上記の実施形態においては、育児器具として乳母車11を採用した例を示したが、この発明は乳児を受け入れる座部を備えたあらゆる育児器具に採用することができる。この発明を適用可能な育児器具の例としてはチャイルドシートやベビーベッド等が挙げられる。ここで、「座部」とは、座席形成部材14のようないわゆる椅子だけでなく、ベッドをも含む概念として理解すべきである。
【0031】
上記構成の育児器具によれば、使用者はアイコンタクトを実現する適切な距離を認識でき、積極的にその距離になる位置(焦点距離表示部の位置)にまで顔を持ってゆくようになるので、親子の愛情をより育むことができるようになる。
【0032】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、育児器具に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施形態に係る育児器具を示す図である。
【図2】焦点距離表示部の使用状態を示す外略図である。
【図3】焦点距離表示部の不使用状態を示す外略図である。
【図4】図2のP部の拡大図である。
【符号の説明】
【0035】
11 乳母車、12 座部、13 背もたれ部、14 座席形成部材、15 手摺部材、16 前ガード部、17 車輪、18 前脚、19 後脚、20 幌、21 押棒、22 焦点距離表示部、23,24 帯状部材、23a,24a,24b,24c,24d 穴、25 ピン。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳児を受け入れる座部を備えた育児器具において、
前記座部上の乳児の目から20cm〜35cmの範囲内にあることを示す焦点距離表示部を設けたことを特徴とする、育児器具。
【請求項2】
前記焦点距離表示部は、乳児の目を中心とする略円弧形状のアーチ部材である、請求項1に記載の育児器具。
【請求項3】
前記育児器具は、幌と、一端が前記幌の左右の回動中心それぞれに固定された一対の帯状部材とを有する乳母車であり、
前記焦点距離表示部の使用状態においては、前記一対の帯状部材の他端を相互に連結して略円弧形状の前記焦点距離表示部を構成し、
前記焦点距離表示部の不使用状態においては、前記一対の帯状部材は前記幌の内面に沿って配置される、請求項1または2に記載の育児器具。
【請求項4】
前記略円弧形状の焦点距離表示部は、前記一対の帯状部材の連結位置を選択して曲率半径を変更可能である、請求項3に記載の育児器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−114651(P2008−114651A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297878(P2006−297878)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(390006231)アップリカ育児研究会アップリカ▲葛▼西株式会社 (97)
【Fターム(参考)】