説明

育苗移植用紙鉢

【課題】 鉢形状を常に確実に保持して良好な作業性を得ることができる育苗移植用紙鉢を得ることを目的とする。
【解決手段】 本発明は、内面1cに防湿剤が塗布された円形紙Pの中央部を底面部2とするとともに、この底面部2の周囲の部分を周壁3とし、この周壁3に底面部2の周囲に沿って並列する側壁部4A及び襞部4Bからなる8個の周壁エレメント4を設けることにより形成された有底筒状の紙鉢であって、周壁3は、各周壁エレメント4における側壁部4A及び襞部4Bの各防湿剤塗布面が互いに貼付されてなり、この周壁3の開口端縁には、周全体にわたって延在するカール部3Aが設けられている育苗移植用紙鉢1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は育苗移植用紙鉢に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、育苗移植用紙鉢は、一定期間空気中で苗を育て、その後露地等に移植することができる植木鉢として知られている。
このような育苗移植用紙鉢においては、空気中での育苗期間中は湿潤状態におかれても分解され難く、一方土中に移植されると早期に分解されることが重要である。
【0003】
このため、育苗移植用紙鉢としては、部分的に3層構造とする筒状の周壁と、この周壁の一方側開口部を閉塞する単層構造の底面部とを備えたものが従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−116796号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、従来の育苗移植用紙鉢においては、周壁の3層構造が周方向に沿って部分的にのみ存在するものであるため、その開口端縁の強度が周方向に部分的に不十分である。また、周壁の3層構造は、薄紙を重ねて形成されているに過ぎず、このため周壁の開口端縁厚さを十分大きな寸法に設定することができない。この結果、例えば運搬時に使用者が手指で周壁の開口端縁を摘んで紙鉢を移動させる場合には形状が保持されず、良好な作業性を得ることができないという課題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、鉢形状を常に確実に保持することができ、もって良好な作業性を得ることができる育苗移植用紙鉢を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、少なくとも片面に防湿剤が塗布された円形紙又は多角形紙の中央部を底面部とするとともに、この底面部の周囲の部分を周壁とし、この周壁に前記底面部の周囲に沿って並列する側壁部及び襞部からなる複数の周壁エレメントを設けることにより形成された有底筒状の紙鉢であって、前記周壁は、前記各周壁エレメントにおける側壁部及び襞部が互いに貼付されてなり、この周壁の開口端縁には、周全体にわたって延在するカール部が設けられていることを特徴とする育苗移植用紙鉢を提供する。
【0007】
この構成によれば、カール部が周壁における開口端縁の周全体にわたって延在して配置されるため、周壁の開口端縁が周全体にわたって補強され、またその開口端縁の厚さが十分大きな寸法に設定されるため、鉢形状が常に確実に保持される。例えば、運搬時に使用者が手指で周壁の開口端縁を摘んで紙鉢を移動させる場合にも鉢形状は確実に保持される。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記防湿剤はワックスからなることを特徴とする請求項1記載の育苗移植用紙鉢を提供する。
【0009】
この構成によれば、防湿剤がワックスからなるため、防湿機能に加え、紙鉢形成時の接着剤としての機能が加えられる。また、ワックスが微生物に分解され易いため、防湿剤によって廃棄物公害が起きることはない。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記防湿剤には肥料が混入されていることを特徴とする請求項1又は2記載の育苗移植用紙鉢を提供する。
【0011】
この構成によれば、防湿剤には肥料が混入されているため、防湿機能に加え、苗の生育促進剤としての機能が加えられる。
【0012】
請求項4の発明は、前記カール部は、前記周壁の外側に巻き込むことにより形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の育苗移植用紙鉢を提供する。
【0013】
この構成によれば、カール部が周壁の外側に配置されるため、多数の紙鉢を重ね易くなる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明は、カール部が周壁における開口端縁の周全体にわたって延在して配置されるため、周壁の開口端縁が周全体にわたって補強され、またその開口端縁の厚さが十分大きな寸法に設定される。このため、鉢形状が常に確実に保持され、例えば運搬時に使用者が手指で周壁の開口端縁を摘んで移動させる場合にも鉢形状が確実に保持され、良好な作業性を得ることができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、紙鉢形成時の接着剤としての機能を備えることになるため、請求項1記載の発明の効果に加え、鉢形成時に接着剤を塗布する作業が不要になり、鉢形成作業の簡素化を図ることができる。また、防湿剤によって廃棄物公害が起きることはないため、請求項1記載の発明の効果に加え、近年における環境保全対策に応じることができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、苗の生育促進剤としての機能を備えることになるため、請求項1又は2記載の発明の効果に加え、育苗を促進させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、多数の紙鉢を重ね易くなるため、請求項1〜3のいずれかに記載の発明の効果に加え、紙鉢を保管する場合の保管スペースの縮小化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、少なくとも片面に防湿剤が塗布された円形紙又は多角形紙の中央部を底面部とするとともに、この底面部の周囲の部分を周壁とし、この周壁に前記底面部の周囲に沿って並列する側壁部及び襞部からなる複数の周壁エレメントを設けることにより形成された有底筒状の紙鉢であって、前記周壁は、前記各周壁エレメントにおける側壁部及び襞部が互いに貼付されてなり、この周壁の開口端縁には、周全体にわたって延在するカール部が設けられている構成としたことにより、鉢形状が常に確実に保持され、もって良好な作業性が得られることを実現した。
【0019】
以下、以下、本発明における育苗移植用紙鉢につき、図1〜3に示す実施の形態に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢を説明するために示す図である。図1(a)は、育苗移植用紙鉢の全体を示す斜視図である。図1(b)は、図1(a)のA部分を拡大して示す断面図である。図2は、本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢の展開状態を示す平面図である。図3は本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢の中間体を示す斜視図である。
【0020】
図1(a)において、符号1で示す育苗移植用紙鉢は、中央位置に排水用孔2aを有する平面略円形状の底面部2と、この底面部2の外側周縁に連接する周壁3とから大略構成されている。そして、下方部から上方部に向かって漸次大きくなる口径をもつ有底紙筒によって形成されている。すなわち、育苗移植用紙鉢1は、図2に示すように排水用孔2aとなる貫通孔及び扇形の襞部(後述)を形成するための折線1a,1b付きの円形紙Pの中央部を底面部2とするとともに、この底面部2の周囲の部分を周壁3とし、この周壁3に底面部2の周囲に沿って並列する側壁部4A及び襞部4Bからなる8個の周壁エレメント4を設けることにより形成されている。
【0021】
育苗移植用紙鉢1の内面1cには、ワックスからなる防湿剤が塗布されている。これにより、育苗移植用紙鉢1には、防湿機能の他に、紙鉢形成時の接着剤としての機能が加えられる。なお、防湿剤にSBR(スチレンブタジエンラバー)ラテックスを混入することにより、接着剤としての機能が一層高められる。また、ワックスが微生物に分解され易いため、育苗移植用紙鉢1が防湿剤によって廃棄物公害が起きることはなく、近年における環境保全対策に応じることができる。
【0022】
育苗移植用紙鉢1の周壁3は、円形紙Pの折線1a,1bに沿って折り畳まれ、すなわち各周壁エレメント4における襞部4Bが側壁部4Aに折り重ねられ、側壁部4A及び襞部4Bの各防湿剤塗布面が互いに貼付されている。この場合、襞部4Bが側壁部4Aに折り重ねられると、互いに隣接する周壁エレメント4,4のうち一方の周壁エレメント4の側壁部4A及び襞部4Bと他方の周壁エレメント4の側壁部4Aとが折り重なることになり、周壁3が周方向に沿って部分的に3層構造とされる。
【0023】
育苗移植用紙鉢1における周壁3の開口端縁には、周全体にわたって延在するカール部3Aが設けられている。カール部3Aは、図3に示す育苗移植用紙鉢1の紙鉢中間体1Aを図1(b)に示すように周壁3の外側に巻き込むことにより形成されている。これにより、カール部3Aが周壁3の外側に配置されるため、多数の育苗移植用紙鉢1を重ね易くなり、育苗移植用紙鉢1を保管する場合の保管スペースの縮小化が図れる。
【0024】
次に、本実施形態における育苗移植用紙鉢1の形成手順につき、図1〜3を用いて説明する。
先ず、図2に示すように、予め貫通孔(排水用孔2a)が設けられた底面部2及び同じく折線1a,1bが設けられた周壁3からなる円形紙Pの片面全体に防湿剤としてのワックスを塗布する。
【0025】
次いで、円形紙Pの周壁3を折線1a,1bに沿って折り畳むことにより8個の周壁エレメント4における襞部4Bのワックス塗布面を側壁部4Aのワックス塗布面に折り重ねる。この場合、襞部4Bが側壁部4Aに折り重ねられると、図3に示すように育苗移植紙鉢1の紙鉢中間体1Aが形成される。
【0026】
しかる後、各周壁エレメント4における側壁部4Aと襞部4Bとの間のワックスを加熱してこれら壁部4A及び襞部4Bの各ワックス塗布面を互いに貼付する。この場合、ワックスが接着剤としての機能し、側壁部4A及び襞部4Bが互いに熱融着される。
【0027】
そして、図1に示すように周壁3にその開口端縁を外側に巻き込むことによりに、周全体にわたって延在するカール部3Aを形成する。この場合、カール部3Aが形成されると、内面1cに防湿剤が塗布された円形紙Pの中央部を底面部2とするとともに、この底面部2の周囲の部分を周壁3とするカール部3A付きの育苗移植用紙鉢1が形成される。
このようにして、育苗移植用紙鉢1を確実に形成することができる。
【0028】
したがって、本実施形態の育苗移植用紙鉢1においては、カール部3Aが周壁3における開口端縁の周全体にわたって延在して配置されるため、周壁3の開口端縁が周全体にわたって補強され、またその開口端縁の厚さが十分大きな寸法に設定される。このため、鉢形状が常に確実に保持され、例えば運搬時に使用者が手指で周壁の開口端縁を摘んで紙鉢を移動させる場合にも鉢形状は確実に保持され、良好な作業性を得ることができる。
【0029】
以上、本発明の育苗移植用紙鉢を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次(1)〜(4)に示すような変形も可能である。
【0030】
(1)上記実施形態は、育苗移植用紙鉢1の内面に防湿剤を塗布する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、その外面に塗布してもよく、内外両面に塗布しても勿論よい。すなわち要するに、育苗移植用紙鉢1における少なくとも片面に防湿剤が塗布されていればよい。
【0031】
(2)上記実施形態の育苗移植用紙蜂1は、防湿剤に肥料を混入しない場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、防湿剤に肥料を混入してもよい。この場合、育苗移植用紙鉢1が防湿機能の他に、苗の生育促進剤としての機能を備えることになり、育苗を促進させることができる。
【0032】
(3)上記実施形態の育苗移植用紙鉢1は円形紙Pから形成される場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、多角形紙からも実施形態と同様に形成される。
【0033】
(4)上記実施形態の育苗移植用紙鉢1は、襞部4B(周壁エレメント4)が8個である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでないことは勿論である。この場合、周壁エレメント(襞部)の個数は多いほど、より円形に近い開口部を有する育苗移植用紙鉢が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢を説明するために示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢の展開状態を示す平面図。
【図3】本発明の実施形態に係る育苗移植用紙鉢の中間体を示す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
1 育苗移植用紙鉢
1A 紙鉢中間体
1a,1b 折線
1c 内面
2 底面部
2a 排水用孔
3 周壁
3A カール部
4 周壁エレメント
4A 側壁部
4B 襞部
P 円形紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に防湿剤が塗布された円形紙又は多角形紙の中央部を底面部とするとともに、この底面部の周囲の部分を周壁とし、この周壁に前記底面部の周囲に沿って並列する側壁部及び襞部からなる複数の周壁エレメントを設けることにより形成された有底筒状の紙鉢であって、
前記周壁は、前記各周壁エレメントにおける側壁部及び襞部が互いに貼付されてなり、
この周壁の開口端縁には、周全体にわたって延在するカール部が設けられていることを特徴とする育苗移植用紙鉢。
【請求項2】
前記防湿剤はワックスからなることを特徴とする請求項1記載の育苗移植用紙鉢。
【請求項3】
前記防湿剤には肥料が混入されていることを特徴とする請求項1又は2記載の育苗移植用紙鉢。
【請求項4】
前記カール部は、前記周壁の外側に巻き込むことにより形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の育苗移植用紙鉢。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−6253(P2006−6253A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190447(P2004−190447)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000205823)大昭和紙工産業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】