説明

肺分泌物除去装置

【課題】 肺分泌物除去装置を提供する。
【解決手段】
患者の肺分泌物の除去装置は、ダクトと、膨張チャンバと、吐息を加速させる手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺分泌物除去装置に関する。
【0002】
本発明は、例えば慢性閉鎖性気管支肺炎(COBP)のような肺実質病理で悩まされる患者用の呼気補助装置の分野に起源を発する。具体的には、本発明は、排痰能力が低下した患者の肺分泌物の非侵襲的な除去のための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
医学の分野では、肺から分泌物を除去できないことが、患者にとって、肺炎及びアテレクターゼのような深刻な病状悪化のリスクを著しく上昇させることが、長い間知られている。去痰できないことは、心筋系の病気(例えば、筋萎縮性側索硬化症)による吸気不全及び少ない去痰容量の患者での、又は腹若しくは胸郭の手術の複雑さの主要な原因の一つと考えられている。
【0004】
去痰能力が低下すると、患者は、咳をしている間、実質的に分泌物を吐き出すために胸腔内圧を生じさせられない。
【0005】
最新の技術によれば、呼吸器の機能不全を患っている患者の肺分泌物のために、種々の方法及び装置が知られており、且つ適用されている。公知の方法及び装置は、肺への空気の通気サイクル、及びその後の吸引下で行われる強制呼吸を通じて、肺分泌物の吸引を本質的に達成する。このような方法では、分泌物は、呼吸器の低い部分から上方の気道に向けて吸い出される。
【0006】
従来知られていた技術による、吸引を介した分泌物の除去は、種々の欠点がある。先ず第1に、このような目的で使用される装置は、侵襲的であり、気管炎症及び喉頭炎症を生じさせる、気管内チューブの挿入を伴う。第2に、分泌物を吸引するために生じる低圧は、気道壁の崩壊、及び著しい変形の高リスク伴い、そうでないとしても、事実上の吸気機能の妨げを伴う。崩壊は、吸気装置の機能を頻繁に停止させるのを強いられる患者に、望まれない感覚を引き起こすと共に、口蓋を構成する組織にも起こり得る。最後に、分泌物の吸引は、治療される各患者固有の自然の呼吸リズムを妨げる、肺の強制換気を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、最新技術の上述の欠点を克服することができる、排痰能力が低下した患者の肺分泌物を除去するための装置を認定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の対象は、ダクトと、膨張チャンバと、吐息を加速させる手段を備えることを特徴とする患者の気管支肺分泌物の除去装置である。
【0009】
具体的には、本発明による装置は、
a)患者の気道と接続可能なダクトと、
b)膨張チャンバとを含み、該膨張チャンバは、
b1)ガス流の流入用の第1開口と、
b2)少なくとも、ガス流を膨張チャンバから流出させダクトに入れる第2開口とを含み、
さらに、
c)膨張チャンバの内部にガス流を供給するための手段とを含み、
吐息を加速させる前記手段は、ダクト内に入れられるガス流によって構成される。
【0010】
より好ましくは、吐息加速手段は、ベンチュリ弁構造を有するダクトからなる。
【0011】
本発明による装置の機能は、肺分泌物の非侵襲的な吸引である。吸引は、ガス流によって、適度な低圧を患者の気道に接続されたダクト内に確立することで行われる。ガス流は、患者が吐き出した空気が流れるダクトに挿入され、患者が吐き出した空気がダクト出口に流れるようにする。
【0012】
加速は、呼気段階の間だけ達成され、好ましくはその量は全ての瞬間において患者によって吐き出された空気の流れに比例する。他方で、吸気段階の間は、デバイスは、吸気流にどんな効果も生じさせない。従って、装置の機能は、患者の呼気機能の自然のリズムに適合する。
【0013】
患者の気道に連結されたダクト内で確立された低圧は、肺器官(肺胞、気管支等)全体に作用し、その中の分泌物を上方の気道に向けて追いやるのに十分な力を有する。気道の内壁を覆う水層(water layer)上を滑る分泌物は、最初に中央気管支に向けて移動し、次いで食道を通って、胃に入るまで気管を上る。
【0014】
ダクトは、患者の口から出る空気を搬送するマウスピース又は鼻マスクによって、患者の気道に連結可能であり、分離するのを防ぐ。
【0015】
このようなマウスピースには、吐息の存在及び強度の両者を検出し、その結果、ガス流を膨張チャンバに、続いてダクトの中に供給するための手段を稼働させる、即ちダクト内に入れられたガス流によって構成させる吐息を加速させる手段を稼働させる、センサシステムが設けられている。
【0016】
典型的に、ダクトはプラスチック材料の円筒チューブであるが、ダクトは患者と接触しないので他の材料で作ることができる。好ましくは、ダクトはベンチュリバルブタイプの構造、即ちその長さの少なくとも一カ所に、狭窄部(細い部分)を有する。患者が吐き出した空気流は、大きい部分を有する端から小さい領域を有する部分に向けてベンチュリ弁内を流れる。このタイプのダクトでは、空気流は、細い部分に出会い、且つこれを横切り、ベンチュリ効果による第1の加速を経験する。
【0017】
本発明による装置は、ガス流を入れることができる第1開口を有する膨張チャンバを備える。膨張チャンバの容積は、使用者が入れようとするガス流の量に応じて、かくしてポンプの容積に応じて変えることができる。
【0018】
膨張チャンバは、ガス流を流出させ、且つダクトの内部に入るのを可能にする、少なくとも一つの第2開口を有する。ガス流は、ダクトに入り、ダクトの軸と平行に流れると同時に吐息流と同じ方向に流れ、かくして吐息がダクト流出口に向かって流れる推進効果を達成する。
【0019】
吐息の均一な加速を保証するために、ガス流を流出させる膨張チャンバの開口は、好ましくは2つ、より好ましくは4つある。
【0020】
好ましくは、膨張チャンバは、環状形態を有し、ダクトの周りに展開される。
【0021】
膨張チャンバの、少なくとも4つに等しい多数の開口、及び環状形状は、患者によって吐き出された空気流のダクトの内部での均一な加速を助ける。
【0022】
本発明の目的の装置の好ましい実施形態では、膨張チャンバは、以下で、次の図面を参照して例示するように、患者が吐き出し、吸い込んだ空気が流れるダクト内部に作られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】装置の概略断面である。
【図2】図1の線II-II'に沿った概略縦断面である。
【図3】図1の線III-III'に沿った概略縦断面である。
【図4】(呼気段階の)装置の概略断面である。
【図5】(吸気段階の)装置の概略断面である。
【図6】肺活量計曲線の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
膨張チャンバをダクトの内部に備える装置は、メインダクト1からなり、その内側には、入口と出口との間の中間箇所に、第1クロージャプレート2が位置決めされ、該クロージャプレート2は、患者が吐いたり、吸ったりする空気の流れを可能にする開口3を有する。開口3は、表面がメインダクト1の表面よりも小さい断面を有する。第1プレートと外側ダクトの出口の中間点には、第2ダクト6(二次ダクト)によって、プレート2の開口に連結された少なくとも一つの第1開口5を有する第2クロージャプレート4が配置される。メインダクト1によって、且つ二次ダクト6によって、並びにプレート2及び4によって画成された空間体積は、環状形態の膨張チャンバ7を構成する。
【0025】
クロージャプレート2とクロージャプレート4の間の中間点には、開口8があり、この開口8から膨張チャンバ内にガス流を入れることができる。プレート4は、円形リングに配列された開口9を備え、少なくとも膨張チャンバ内に入れられたガス流を、開口9を通してメインダクトに流入させ、それは、メインダクトの内部で吐息流の推進作用を達成する。
【0026】
吐息流を加速させるために、ダクト内に入れられたガス流の流量は、吐息流の流量よりも多い。入れられたガス流の流量を、一定に維持することができ、又は吐き出し段階の間変化させてもよい。好ましくは、ガス流の流量は、患者によって吐出された空気量に応じて変化し、患者によって吐出される空気が多ければ多いほど、入れられるガス流の流量が多くなり、かくして、吐息に与えられる加速が大きくなる。
【0027】
これを、マウスピースの中に存在するセンサのシステムによって可能にし、センサは、吐息流の存在と強さの両方を検出し、結果として、ガス流を、膨張チャンバの内部に供給する手段、好ましくはポンプからなる手段を作動する。
【0028】
入れられたガス流の流量は、0.1乃至100リットル/s、好ましくは0.1乃至5リットル/s、さらに好ましくは0.1乃至1リットル/sである。
【0029】
入れられたガス流の流量を、各患者の特定の呼吸容量に従って、最も適当な値に時々調整することができる。このような調整は、装置の作動中、一定に維持される。
【0030】
吐息チャンバから来るガス流の流入がある位置の上流のダクト部分での吐息の加速により、肺分泌物の除去を引き起こす低圧を発生させる。
【0031】
呼気段階が終了して、吸気段階が始まるとき、外気をダクト内に流入させ、且つ患者の肺に到達させるために、ガス流のダクトへの流入を妨げる。
【0032】
吸気段階において患者を補助するために、適度な空気流(毎分約18リットル)又は他の呼吸に適したガスの流れ(気道内陽圧−PIP)を、適当な開口を通じてダクト内に入れることができる。本発明による装置は、好ましくは、ガス流をチャンバの内部に供給する手段として、ガス流体ポンプを含む。ガス流は、好ましくは空気からなる。とは言っても、誤って患者によって吸入される可能性と両立できる、どんな他のガス又はガス混合物を使用することも可能である。
【0033】
本発明の目的の装置の特に好ましい実施形態では、具体的には、膨張チャンバへのガス流の流入の作動及び停止を自動的に機能させる装置を造ることが可能である。このような目的のために、装置は、上述したように、流れセンサ10と、ガス流供給手段を作動させるための制御手段11を含む。流れセンサ10は、ダクト上、又はマウスピース(図4)若しくは、呼気段階の開始を迅速に検出できるように、好ましくは患者の口の近くでマウスピースに接続された鼻マスクに位置決めされる。
【0034】
センサ10は、吐息流の存在で陽性信号を、又は吸入流の存在で陰性信号を生成する。生成した信号は、センサ10及び例えばポンプ12(図4)のようなガス流供給手段と機能的に連結された制御手段11に送られる。
【0035】
好ましくは、少なくとも陽性信号、即ち、呼気段階中に生成された信号の強度は、患者によって吐き出された空気流に比例する。
【0036】
制御手段11は、センサ10の陽性信号に応じて、ガス流を膨張チャンバに供給するポンプ12を作動する。その結果、呼気段階の確立によって、装置は、患者によって吐き出された空気を加速し始め、肺分泌物の除去を助ける。センサ10によって生成された信号の強度が、吐息流に比例するならば、膨張チャンバに入れられたガス流の流量は、吐息に応じて、制御手段11によって適切に制御される。このような方法で、装置によって作られる加速レベルは、全ての瞬間において、吐息流に比例する。従って、患者によって吐き出された空気の量が多ければ多いほど、ポンプ12によって入れられるガス流の量が多くなり、結果として、肺分泌物の除去効果が大きくなる。
【0037】
吐息の最終段階では、続く吸気段階への移行が中止されるまで、吐息流が漸減する。吸気段階の始めでは、センサ10が、ダクト内の空気流の方向の逆転を検出し、制御手段11に送られる陰性信号を生成する。
【0038】
強度が患者によって吸い込まれる空気の流れに比例(又は比例しない)する、センサ10の陰性信号に応じて、制御手段11は、ガス流供給を停止し、ダクトを通して患者による自然吸気を可能にする。選択的に、吸気段階で患者を補助するために、制御手段11は、センサ10の陰性信号に応じて、開口14を通して、適度なPIPの空気又は他の呼吸に適したガスの流入を作動する(例えば、毎分18リットル)。
【0039】
装置の動作をより正確に制御するために、具体的には、患者の呼吸通路内に引き起こされた低圧が、過剰なレベルに到達して、例えば肺壁を崩壊させるのを防止するために、装置が、入れられたガス流による吐息の加速によりダクト内で生じる、低圧を検出できる圧力センサ13を含むことができる。圧力センサ13は、ガス流流入位置よりも上流に位置決めされ、ガス流の膨張チャンバへの供給を作動/停止させる制御手段11に機能的に連結される。
【0040】
ダクト内が、特定の閾値よりも大きい低圧値に達すると、圧力センサ13は、制御手段11に送られる、おそらくは強度が低圧レベルに比例する信号を生成する。制御手段11は、低圧が閾値以下に戻されるまで、ガス流の供給を妨げ、又は流量を減らす。
【0041】
閾値は、患者の自然呼気量に応じて適切に設定される。
【0042】
本発明による装置は、既知の最先端の装置に対して種々の利点をもたらす。まず第1に、装置は、低い排痰能力を有する患者の肺分泌物の効果的な除去を得ることを可能にする。第2に、非侵襲性のデバイスとすることにより、気管内チューブの使用と関連した問題を回避することを可能にする。その上、本発明の目的の装置は、患者の呼吸機能の自然のリズムとの同期作動を行える、即ち呼気段階及び吸気段階の自然な切り替えを補助する。従って、肺の通常の拡張/圧縮動作を妨げることなく、肺分泌物を除去する。その上、患者が吐き出した空気流に応じて動作を制御することができるので、装置は、全く異なる容量の吸気機能性を有する患者への使用によく適合する。装置は、排気し過ぎたことによる、気道の壁の崩壊現象、及び他の副作用(望ましくない刺激、咳発作等)を防ぐのを可能にする。
【0043】
本発明による方法の特徴及び利点が、例示的であり、特許請求の範囲によって定められる防御範囲を限定しない、以下の説明からより明らかになる。
【0044】
(第1例)
COBPに冒された患者を、本発明の目的の図4に示す実施例による装置によって治療した。
【0045】
装置は、空気からなるガス流によって作動した。装置の作動中、ガス流の流量は、0乃至0.6リットル/sで変化した。治療は15分に及んだ。
【0046】
図6では、本発明による装置での治療前(曲線1)、及び本発明による装置での治療後(曲線2)の肺活量計曲線と、健康な被験者の曲線を比較する。曲線1−3の比較から、COBPに冒された患者の呼気機能が、治療後に、健康な被験者で観察されるものの近くに達するほど著しく向上したことが明らかである。
【0047】
治療中、小さい気管分泌物が腹部への上昇とともに、小さい気管分泌物の効果的な除去が観察された。
【0048】
治療は、患者によって望ましくない刺激又は咳発作のような副作用を生じさせなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の肺分泌物の除去装置において、ダクトと、膨張チャンバと、吐息を加速させる手段とを含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
a)患者の気道と接続可能なダクトと、
b)膨張チャンバとを含み、該膨張チャンバは、
b1)ガス流の流入用の第1開口と、
b2)少なくとも、ガス流を膨張チャンバから流出させダクトに入れる第2開口とを含み、
さらに、
c)膨張チャンバの内部にガス流を供給するための手段とを含み、
吐息を加速させる前記手段は、ダクト内に入れられるガス流によって構成される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
吐息加速手段は、ベンチュリ弁構造を有するダクトからなる請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
d)ダクト内の吐息流の存在で陽性信号を、又は吸気流の存在で陰性信号を生成する流れセンサと、
e)流れセンサからくる陽性信号に応じてガス流供給手段を稼働させ、且つ陰性信号に応じて手段を停止させる制御手段とをさらに含む請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置。
【請求項5】
ダクト内の、特定の閾値より高い低圧の存在によって信号を生成する圧力センサをさらに含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
ダクトは、マウスピースに接続される請求項1乃至5の何れか1項に記載の装置。
【請求項7】
ダクトは、鼻マスクに接続される請求項1乃至6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
ガス流供給手段は、ポンプからなる請求項2乃至7の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
膨張チャンバは、入れられたガス流の出口用の2つ又はそれ以上、好ましくは少なくとも4つの開口を有する環状チャンバである請求項1乃至8の何れか1項に記載の装置。
【請求項10】
患者の気道と接続可能なダクトは、空気又は他の呼吸に適したガスを挿入できる開口をさらに含む請求項1乃至9の何れか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−22839(P2010−22839A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−186861(P2009−186861)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(507314534)
【Fターム(参考)】