説明

胃から食道への逆流を防止した流動食

【課題】調理の必要がなく、また短時間で投与が可能で、胃から食道への逆流や下痢等もない流動食、さらには、投与に際して容器の移し替えが不要で、経鼻チューブあるいは胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブに衛生的に接続することができる容器に入った流動食を提供する。
【解決手段】栄養組成物と、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、コラーゲン、ゼラチンおよびポリガンマグルタミン酸からなる群より選ばれる増粘剤からなり、前記栄養組成物と増粘剤とを混合し、液状または流体状で投与され、胃内部で半固形化する流動食。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、術後患者、経腸栄養法利用者などに対して、経口、経管、経胃瘻カテーテルで投与され、胃食道逆流や下痢等を防止する流動食に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や傷病、障害により食物の経口摂取に困難をきたすものが栄養を摂取するための方法に経管栄養投与法がある。主たる経管栄養投与法としては、鼻腔を経由して胃にチューブを挿入する経鼻胃管投与および胃瘻を経由した投与がある。胃瘻は患者の苦痛が少ないこと、嚥下リハビリテーションが容易であることから、最近では胃瘻を経由した投与が普及してきている。液体栄養剤の経管栄養投与の大きな問題点として、投与した流動食の胃から食道への逆流があり、それにより食道炎や肺炎、窒息を誘発し死に至る可能性もある。また他にも下痢の誘発、急激な血糖値の上昇、瘻孔からの栄養剤の漏れといった問題点が挙げられる。
【0003】
これら問題点を解決する方法として、あらかじめ増粘された市販の半固形化栄養剤を使用する方法、あるいは通常の流動食に寒天、卵白、ゼラチンなどを添加し、プリンや茶碗蒸し程度に半固形化させた後にシリンジなどで投与する方法などのように投与前に半固形化されたものを使用する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、流動食の投与前、又は後に、嘔吐予防食品として、ローメトキシルペクチンなどの増粘剤を含む溶液を別に投与し、胃内で前記嘔吐予防食品中の増粘剤と流動食成分が混合されることにより粘度を上昇させる方法も報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に記載の方法では、投与に際して流動食と寒天、卵白などの混合、加熱処理、冷却処理などの調理が必要なこと、さらにはプリンや茶碗蒸し程度に半固形化した流動食を押し出すのに力が必要で、また胃瘻カテーテルなどを介した経管投与時にチューブを通りにくいことから、看護師あるいは介護者の手間と時間を要し、更に衛生面でも問題があった。また、特許文献2に記載の方法では、流動食とは別に嘔吐予防食品を投与する必要があり、流動食のみの投与と比較して時間がかかるため、被投与者の負担や座位保持による褥創の悪化を生じやすいという問題に加え、ローメトキシルペクチンなどの増粘剤を含む嘔吐予防食品の投与後に流動食を投与する場合には、一度チューブを洗浄してから流動食を投与しなければならないなど、投与の操作が煩雑で手間がかかる、といった問題があった。そこで、手間が要らず、衛生的かつ短時間で投与が可能であり、胃食道逆流や下痢などを抑制することができる流動食が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−26844号公報
【特許文献2】特許第3633942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、調理の必要がなく、また短時間で投与が可能で、胃から食道への逆流や下痢等もない流動食、さらには、投与に際して容器の移し替えが不要で、経鼻チューブあるいは胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブに衛生的に接続することができる容器に入った流動食を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、栄養組成物と増粘剤を混合後、胃に投与されるまでは流動性を有し、経管投与用チューブを容易に通過し、かつ胃内部では半固形化するような流動食を調製しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る流動食は、栄養組成物と増粘剤からなり、前記栄養組成物と増粘剤とを混合し、胃に投与されるまでは液状または流体状で流動性を有しており、更に胃に投与された後、胃内部で半固形化することを特徴とする。ここで、流動食の「半固形化」とは、流動性の低下、もしくは流動性が失われることであり、具体的には、例えばヨーグルトのように非常に粘度の高い流体や、プリンや茶碗蒸しのように一定の形状を保持する状態のことである。
【0009】
この流動食によれば、栄養組成物と増粘剤を混合するだけでよく、投与に際して半固形化のための調理が不要で手間がかからない。そして、増粘剤により胃内部で半固形化するので胃から食道への逆流や下痢等を防止することができる。また、栄養組成物と増粘剤を混合し、胃に投与されるまで液状または流体状であるため、流動食をプリンや茶碗蒸し程度に半固形化して投与する場合のように押し出すのに力は不要なことから、看護師や介護者などの手間や時間がかからず、またチューブ内を容易に胃まで通過させることができることから、胃瘻カテーテルなどを介した経管的な投与が容易である。さらに、栄養組成物と増粘剤とを混合して投与することができることから、流動食とは別に嘔吐予防食品を投与する場合のような手間や時間がかからず、被投与者の負担を軽減でき、座位保持による褥創の悪化を生じるという問題もなく、またチューブを洗浄する手間がかかる、といった問題もない。
【0010】
本発明の流動食においては、前記栄養組成物と増粘剤とが、胃に入るまでに混合されることが好ましい。これにより、胃内部に入った流動食が速やかに半固形化し、胃から食道への逆流や下痢等が防止される。
【0011】
本発明の流動食においては、前記栄養組成物と増粘剤とが、投与前に混合されることが好ましい。これにより、前記栄養組成物と増粘剤とがよく混合された状態で流動食が胃内部に達し、胃内部で速やかに半固形化し、胃から食道への逆流や下痢等が防止される。
【0012】
本発明の流動食においては、前記栄養組成物と増粘剤とが、投与直前に混合されることが好ましい。これにより、前記栄養組成物と増粘剤とが更によく混合されると同時に投与が完了するまでの時間は流動性を有するため、胃瘻カテーテルなどのチューブを容易に通過させることができ、更に、胃内部で半固形化することで胃から食道への逆流や下痢等が防止される。
【0013】
本発明の流動食は、当然のことながら口からの投与も可能であるが、流動性が高いことから、鼻腔を経由して胃にチューブを挿入する経鼻胃管投与や胃瘻を経由した経管投与に適しており、経管投与のなかでも、胃瘻カテーテルなどの胃瘻を通じて投与される流動食として好適である。
【0014】
本発明の流動食においては、前記増粘剤が、ジェランガム、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、コラーゲン、ゼラチン及びポリガンマグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記のような増粘剤を栄養組成物に混合することで、流動食は胃内部で半固形化するので、経管投与時にチューブ内を容易に通過して胃に達し、かつ胃から食道への逆流や下痢等が良好に防止される。前記増粘剤の中でも、胃酸により良好に増粘するペクチン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンが好ましい。更に前記増粘剤の中でもアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンがより好ましい。
【0015】
前記増粘剤は、固体(または粉末)をそのまま栄養組成物と混合しても良いし、適当な濃度の増粘剤溶液を栄養組成物と混合しても良い。混合の容易さ、均一さの観点からは、増粘剤溶液と栄養組成物を混合するのが好ましい。
【0016】
増粘剤の量としては、流動食全体中、固形分換算で0.01〜20重量%含有することが好ましく、特にペクチンを使用する場合は1.1〜5.9重量%、カラギーナンを使用する場合は0.1〜1.3重量%、アルギン酸ナトリウムを使用する場合は0.1〜4.5重量%含有することがより好ましい。増粘剤を前記の範囲で含有することで、胃中で良好に増粘して、胃から食道への流動食の逆流を防止することができる。なお、この場合の栄養組成物とは、特に限定はされず、医薬品である経腸栄養剤および食品である流動食、濃厚流動食やミキサー食を含む。また一般的に流通しているものの成分を使用してもよい。
【0017】
本発明の流動食の好ましい実施の形態では、前記栄養組成物および増粘剤は、患者の体内に挿入される経管投与用チューブへの接続口を備え、隔壁で仕切られた複数のチャンバーを有する容器の異なるチャンバーに別々に充填されている。この流動食によれば、前記容器を経管投与用チューブへ接続するだけで栄養組成物と増粘剤を混合して投与することができ、投与に手間がかからない。
【0018】
前記容器が、前記栄養組成物と増粘剤とを混合する混合手段を備えていることが好ましい。これにより、前記栄養組成物と増粘剤とを混合する手間を省くことができる。
【0019】
前記混合手段は、流動食容器の色々な部位に設けることが可能であるが、例えば前記各チャンバー間に設けることができる。これにより、各チャンバーに充填された前記栄養組成物と増粘剤とが混合された状態で前記接続口を経て経管投与用チューブへ注入することができる。
【0020】
前記混合手段は、接続口内に設けられていてもよい。これにより、各チャンバーに充填された前記栄養組成物と増粘剤とが、前記接続口内でよく混合されて経管投与用チューブへ注入することができる。
【0021】
前記容器の接続口を経管投与用チューブへ接続することで各チャンバーが連通して前記栄養組成物と増粘剤が混合されるようにしてもよい。これにより、経管投与用チューブへ接続するまでに栄養組成物と増粘剤とが接触して投与前に流動食が増粘してチューブ通過性が低下することを防止できる。
【0022】
前記容器に、前記栄養組成物と増粘剤とを混合状態で接続口から押し出す押出手段を備えていてもよい。これにより、必要時には押出手段により容器からの流動食の注出速度を高めて投与にかかる時間を短縮することもできる。
【0023】
前記押出手段を備えた流動食として、前記容器の各チャンバーが変形可能な可撓性材料または弾性材料から構成され、加圧により前記栄養組成物および増粘剤が各チャンバーから押し出されるようにしてもよい。これにより、容器を加圧するだけの簡単な操作で容器から栄養組成物および増粘剤を押し出すことができる。
【0024】
本発明の流動食においては、前記栄養組成物および増粘剤が各チャンバーに充填された後加熱殺菌あるいは加熱加圧殺菌されてもよく、又は加熱殺菌あるいは加熱加圧殺菌されてから各チャンバーに充填されてもよい。これにより衛生的な流動食を提供することができる。
【0025】
前記流動食においては、前記栄養組成物および増粘剤が、別々に加熱殺菌あるいは加熱加圧殺菌されてから各チャンバーに充填されていることが好ましい。これにより、前記のような容器に入った流動食を容易に製造することができ、また、それぞれの成分を最適条件で殺菌でき、投与前の流動食の増粘を防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、投与に際して半固形化のための調理の必要なく、投与が容易で、また短時間で投与が可能で、胃から食道への逆流や下痢等もない流動食、さらには、投与に際して容器の移し替えが不要で、経鼻胃管チューブあるいは胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブに衛生的に接続することができる容器に入った流動食を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る流動食の使用状態の1例を示す説明図である。
【図2】本発明に係る流動食の使用状態の他例を示す説明図である。
【図3】本発明に係る流動食の実施の形態を示し、(a)は正面図、(b)は一部の斜視図である。
【図4】本発明に係る流動食の実施の形態を示し、(a)は正面図、(b)は一部の断面図である。
【図5】本発明に係る流動食の実施の形態を示し、(a)は断面図、(b)は一部の斜視図である。
【図6】本発明に係る流動食の実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。一般的に「流動食」とは、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルを通じて投与される流動性をもつ栄養組成物のことであり、医薬品である経腸栄養剤および食品である流動食、濃厚流動食やミキサー食を含む。さらには、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルを通じで投与される水、清涼飲料水、菓子類、経鼻胃管チューブ洗浄水、カテーテル洗浄水をもこの範疇にいれることができる。本発明における栄養組成物としては、前記のように一般的に「流動食」といわれるものを用いることができ、市販品としては、明治乳業株式会社製のエンシュア・リキッド(登録商標)や森永乳業株式会社製のMA−7(エムエーセブン、販売元:株式会社クリニコ)などを用いることができる。
【0029】
そして本発明の流動食は、一般的な流動食またはそれに含まれる栄養組成物に増粘剤が混合されるものであり、混合された後、胃内部で半固形化することを特徴する。胃内部で流動食が半固形化する原理については特に限定されない。ただし、胃内部で良好に流動食を半固形化させる観点からは、胃内部で胃液と混ざることにより増粘剤がゲル化することで流動食が半固形化することが好ましい。
【0030】
本発明の増粘剤とは、前記栄養組成物と混合された後、胃内部で半固形化するものであれば特に限定はない。その中でも胃内部で良好に流動食を半固形化させる観点からは、胃酸の存在による酸性下でゲル化する増粘剤が好ましい。増粘剤としては、ジェランガム、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、コラーゲン、ゼラチンおよびポリガンマグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これら増粘剤は2種類以上組み合わせて使用しても良い。これら増粘剤の中でも、胃酸の存在による酸性下で流動食を良好に増粘させる観点からは、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムが好ましい。その中でもカラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムが好ましく、更にアルギン酸、アルギン酸ナトリウムが好ましく、特にアルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0031】
前記ジェランガムは、シュードモナス エロデア(Pseudomonas elodea)の発酵によって産生される、グルコース、グルクロン酸、グルコース、ラムノースの4糖の繰返し単位から構成される直鎖状の多糖類である。
【0032】
前記カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、およびラムダカラギーナンは、それぞれカッパ型、イオタ型、およびラムダ型に分類されるカラギーナンをいう。カラギーナンとは紅藻類から抽出される、ガラクトースとアンヒドガラクトースを成分とする多糖類の硫酸エステルの塩類のことである。更に、カラギーナンの中でも、胃に入るまでは流動性を有し、投与完了後に胃内部で栄養剤を良好に半固形化させる観点からは、カッパカラギーナンが好ましい。
【0033】
前記ペクチンは、エステル化度が50%以上のハイメトキシルペクチン、又はエステル化度が50%未満のローメトキシルペクチン、あるいは両者の混合物のことである。ペクチンとしては、例えば、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ等の柑橘ペクチンやリンゴペクチン等が挙げられる。更に、胃内部で流動食を良好に半固形化させる観点からは、エステル化度50%未満のローメトキシルペクチンが好ましい。
【0034】
前記キサンタンガムは、キサンゾモナス コンペストリス(Xanthomonas compestris)がグルコースなどを発酵して蓄積する多糖類である。
【0035】
前記ローカストビーンガムは、マメ科植物であるローカストツリーの種子から得られる天然性の水溶性ガムである。
【0036】
前記アルギン酸およびアルギン酸ナトリウム(以下、「アルギン酸Na」ともいう。)は、海草から抽出して得られる親水コロイド性多糖類をいう。更にアルギン酸ナトリウムの中でも胃に入るまでは流動性を有し、投与完了後に胃内部で栄養剤を良好に半固形化させる観点からは、アルギン酸ナトリウム1重量%水溶液(20℃)での粘度が、900mPa・s以下のものが好ましく、600mPa・s以下のものがより好ましく、400mPa・s以下のものが更に好ましく、200mPa・s以下のものが特に好ましい。
【0037】
前記アラビアガムは、マメ科アカシア樹脂を乾燥して得られる多糖類である。
【0038】
前記コラーゲンは、哺乳類の真皮組織などを構成する繊維状タンパクで、加水分解されたものも含む。
【0039】
前記ゼラチンは、コラーゲンを分解・精製して製造されるものである。
【0040】
前記ポリガンマグルタミン酸は、微生物Bacillus属の食用微生物(Bacillus subtilis chungkookjang)などが産生する、食べても無害な陰イオン性の高分子である。
【0041】
上記のような増粘剤は、粉体を液状の栄養組成物に混合してもよく、また増粘剤を液体に溶解した増粘剤溶液に粉体の栄養組成物を混合して投与することもできる。ただし流動食の流動、すなわち経管投与用チューブの通過性、栄養組成物と良好に混合するといった観点から、水溶液の状態で栄養組成物と混合するのが好ましい。
【0042】
本発明において、増粘剤の含有量は、増粘剤の種類によって、適正量が変わるが、概ね、流動食全体中0.01〜20重量%(固形分)が好ましい。0.01重量%より少ないと、胃中での増粘が不充分で、胃から食道へ逆流する場合がある。一方、20重量%より多いと、胃が重く感じられたり、不快感を催す場合がある。更に、経管投与用チューブを容易に通過させ、かつ胃内部で良好に半固形化させる観点からは、ペクチンについては1.1〜5.9重量%が好ましく、カラギーナンについては0.1〜1.3重量%が好ましく、アルギン酸ナトリウムについては0.1〜4.5重要%が好ましい。
【0043】
また、本発明の流動食を胃に投与するためにかかる時間は、特に限定されず、患者の状態や介護者等の作業上の負担等を考慮して決めればよい。ただし、胃内部に入るまでは流動性を有し、胃内部では流動食を良好に半固形化させる観点からは、当該時間は、栄養組成物と増粘剤が混合された状態になった後3時間以内が好ましく、2時間以内がより好ましく、1時間以内が更に好ましく、30分以内がより更に好ましく、15分以内が特に好ましい。
【0044】
上記のような本発明の流動食によれば、栄養組成物と増粘剤が胃に入るまでに混合され、さらに胃内部で半固形化することで胃から食道への逆流が抑制される。前述のとおり、本発明において半固形化とは流動性の低下、もしくは流動性が失われることであり、具体的には、例えばヨーグルトのように非常に粘度の高い流体や、プリンや茶碗蒸しのように一定の形状を保持する状態のことである。このような形状は、固体と液体の中間の物質形態であり、常温の水に膨潤するが溶解することはなく、力を加えることで容易に崩壊し流動性を示す物質の状態である。半固形化に伴い、胃内容物の流動性が減少することで胃から食道への逆流の減少により誤嚥性肺炎や嘔吐に対し、効果的である。胃瘻症例においては瘻孔通過性が低下するため、好ましくない箇所への流動食のリークの抑制に効果的である。さらに、半固形化による嘔吐の減少によって、短時間での流動食投与も可能となる。さらに、半固形化と共に、胃内容物の腸への排出速度が低下し下痢を抑制し、急激な血糖値上昇も抑制する。
【0045】
本発明の流動食は、投与時の形態として、(1)胃内部までは栄養組成物と増粘剤が別々に導入され、そこで初めて胃液と共に混合される形態、(2)胃内部へ導入される途中で栄養組成物と増粘剤が混合され、混合物が胃内部で胃液と混合される形態、(3)胃内部への投与時、すなわち経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへの導入時には既に栄養組成物と増粘剤が混合されており、混合物が胃内部で胃液と混合される形態、が採用されうる。これら3つの投与形態のうちでも、(2)および(3)の形態、特に(3)の形態が、栄養組成物と増粘剤との両方を混合した状態で、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへ導入でき、投与に手間がかからないことから好ましい。
【0046】
本発明の好ましい態様として、経管投与用または経胃瘻投与用の接続口を有し、且つ、隔壁で仕切られた2つ以上の複数チャンバーを有する容器を用い、栄養組成物と増粘剤とをそれぞれ別々のチャンバーに充填することにより、前記(1)〜(3)の投与形態、特には(2)および(3)の投与形態を簡便に実現することができる。更に他のチャンバーに別の溶液、例えばカテーテル洗浄水あるいは補給用水分を充填させることも可能である。上記のように2種類以上の内容物を複数のチャンバーを有する容器に充填する場合、内容物の充填する割合は特に限定されず、栄養組成物、増粘剤、およびその他の成分の総量、投与時間、患者等への負担といった観点から、本発明の効果が得られる範囲で適宜決定すれば良い。尚、前記各成分の充填割合が異なる場合でも、栄養組成物と増粘剤とを混合した後投与を行ったり、栄養組成物と増粘剤とをそれぞれ投与速度を調節したりすることで、投与開始から終了に至るまで経管投与用チューブを通過する際には流動性があり、胃内部で半固形化する流動食を提供することができる。
【0047】
また前記(1)〜(3)のいずれの形態においても、経管投与用または経胃瘻投与用の接続口を有し、且つ、隔壁で仕切られた2つ以上の複数チャンバーを有する容器の各チャンバーに加熱殺菌あるいは加熱加圧殺菌されてから充填されている流動食としての使用が可能である。また、栄養組成物および/または増粘剤が容器に充填される際、充填に先立って、または充填されてから加熱殺菌あるいは加熱加圧殺菌されていることが好ましい。ここで加熱殺菌または加熱加圧殺菌とは、好適には0.1MPa〜1MPaに加圧して、100℃〜160℃で1秒間〜60分間の加圧加熱殺菌処理を行うことであり、一般的な殺菌処理として食品業界などで採用されている加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌などの加熱処理が利用できる。殺菌の効果、製品品質の保持、製品の安全性確保、使いやすさ、メンテナンスのしやすさなどの面から加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)が好ましい。
【0048】
本発明の流動食の容器としては、その材質や形態に関しては特に限定されず、例えば、ブリックタイプ(紙)、透明パウチ(ポリエチレン製の袋)、アルミパウチ袋などが好ましく用いられる。前記(3)の形態においては、1つの容器に栄養組成物および増粘剤を含む流動食が収納されていてもよいし、また容器の内部に隔壁があって複数(例えば2つ)のチャンバーに仕切られており、一部(片方)のチャンバーに栄養組成物、残り(他方)のチャンバーに増粘剤が収納されており、経管投与用チューブへの接続口までの間、あるいは接続口を出ると同時に両成分が合流して混合される構造でもよい。
【0049】
本発明に係る流動食およびその使用方法を、図面に示した各種容器入りの流動食の実施形態に基づいて、更に詳細に説明する。なお、図例の容器入り流動食は、いずれも前記(3)の形態、すなわち、胃中への投与時、つまり経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへの導入時には、既に栄養組成物と増粘剤が混合されており、混合物が胃中で胃液と混合される形態で使用されるものである。
【0050】
まず、図1は、容器に入った本発明の流動食を、高齢者や傷病、障害により食物の経口摂取に困難をきたす人の胃200に、経管投与用チューブの1例としての胃瘻カテーテル100を経由して投与する方法を例示している。胃瘻カテーテル100は、胃壁201および腹壁202を貫通し、胃内固定板(バルーンでもよい)および体外固定板102により固定されている。胃瘻カテーテル100は、体外固定板102から延びるチューブ103の先端に、図示した例では2つの混注口105、106を有するコネクタ104を備える。流動食は容器1に入っており、接続口2が胃瘻カテーテル100の1つの混入口105に接続される。また、図2に示すものは、前記の胃瘻カテーテル100に更に経管投与用チューブとして輸液チューブ110を継ぎ足し、輸液チューブ110のコネクタ111に容器1の接続口2を接続した例である。
【0051】
なお、輸液チューブ110の途中に、図示したローラークレンメ112、その他の流量調節手段を設けることもできる。また、図1、図2では経管投与用チューブとしてチューブ103を有するチューブ型の胃瘻カテーテルを示したが、チューブのないボタン型の胃瘻カテーテルでもよい。その場合には、例えば図2に示すような輸液チューブ110をボタン型胃瘻カテーテルに直接接続することができる。また、図例のような胃瘻カテーテルではなく、経鼻胃管チューブその他の経管投与用チューブへ流動食の入った容器1を接続して投与することも可能である。また、容器1の接続口2と胃瘻カテーテル100の混注口105との接続部をはじめ、各接続部の構造は、摩擦力で嵌合するルアースリップ方式、摩擦力に加えてねじ止めが加わるルアーロック方式など、各種方式の接続方法を採用することができる。
【0052】
図3aは、本発明の流動食の実施形態の一つを示す。この実施形態では、例えば、ポリエチレン製の透明パウチ、アルミパウチ袋などからなる容器1の内部が、除去可能なセパレーターとしての弱シール部からなる隔壁3により第1チャンバー4および第2チャンバー5の上下2つのチャンバーに仕切られ、第1チャンバー4は、経管投与用チューブへの接続口2の先端に開口する注出孔6に連通している。なお、図3aでは、接続口2が下方にある使用時の姿勢の容器1を示しているが、使用までの保管、運搬時には、接続口2を上にして、かつ図示しないキャップで注出孔6は密封されている。また、図例の容器1は、1つの隔壁3によって仕切られているが、隔壁3で2つのチャンバーを仕切る位置については特に限定されない。また1つの隔壁3によって2つのチャンバーに仕切られているが、2つ以上の隔壁により3つ以上のチャンバーに仕切り、栄養組成物および増粘剤以外の第3成分その他の成分を同包してもよい。
【0053】
前記容器1は、例えば、第1チャンバー4に液状の栄養組成物が充填され、また第2チャンバー5に増粘剤水溶液が充填されており、使用に際して隔壁3の弱シール部の一部または全部を剥離すると、第1、第2チャンバー4、5が連通し、各チャンバーに充填された栄養組成物と増粘剤水溶液とが容器1内で混合される。即ち、弱シール部からなる隔壁3が、第1、第2チャンバー4、5間に設けられた貫通または剥離可能なセパレーターとして混合手段の機能を奏する。
【0054】
また、図3bに示すものは、前記容器1の接続口2の他の実施形態を示す要部の斜視図である。ここでは、第1チャンバー4に連通する注出孔6の内面に、混合手段としての乱流板7が設けてあり、第1および第2チャンバー4、5に別々に充填され、隔壁3を剥離することで混合された栄養組成物と増粘剤水溶液とが、注出孔6を通過して経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへ導入される際に、乱流板7によって更に混合される。混合手段としての乱流板7の形状、数、傾斜角度などは図例のものに限定されず、傾斜状、交差状、または螺旋状など、各種形態を採用できる。
【0055】
次に、図4aには、他の実施形態の流動食容器を示す。この流動食容器11は、前記実施形態の容器1と同様に、例えば透明パウチ、アルミパウチ袋などからなるが、容器11の内部は、隔壁13により、第1チャンバー14および第2チャンバー15が、上下ではなく左右に仕切られている。また隔壁13は弱シール部ではなく、第1、第2チャンバー14、15は、隔壁13によって連通不能に仕切られている。そして、第1および第2チャンバー14、15のそれぞれには、先端に注出孔16a、16bが開口する首部18a、18bを備え、これら首部18a、18bは、分岐状接続管12の2つの混注口19a、19bに挿脱自在に設けられている。図4bに示すように、前記混注口19a、19bに開口する分岐状接続管12の各分岐孔12a、12bは、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへの注出孔16に合流し、第1チャンバー14に充填された栄養組成物と第2チャンバー15に充填された増粘剤水溶液とが、各分岐孔12a、12bを通じて注入孔16内へ流入し、ここで混合されて経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブを経由して胃へ導入される。なお、図4aでも、注出口16a、16bおよび分岐状接続管12が下方にある使用時の状態の流動食容器11を示しているが、保管、輸送時には、分岐状接続管12は分離された状態で、各チャンバー14、15の首部18a、18bの注出孔16a、16bはキャップなどにより密封されている。また、注出孔16a、16bをシールしたうえから分岐状接続管12を挿着しておき、使用時に一旦、分岐状接続管12を外してシールを除いたうえで再度、分岐状接続管12を挿着するような構造であってもよい。また第1チャンバー14と第2チャンバー15に充填される増粘剤水溶液及び栄養組成物の体積が等しくない場合、栄養組成物および増粘剤溶液が均一に混合されるよう注出口16a、16bの径を調節するなど、体積の相違を補正する手段を設けることができる。
【0056】
図4bに示すものは、前記流動食容器11の分岐状接続管12の他の実施形態を示す断面図であり、この実施形態では、混注口19a、19bから延びる分岐孔12a、12bが合流する注出孔16の内面に、混合手段としての乱流板17が設けられており、容器11の第1、第2チャンバー14、15に充填されていた栄養組成物および増粘剤水溶液が、分岐状接続管12の注出孔16を通過して経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブへ導入する際、乱流板17によって更に混合される。混合手段としての乱入板17の形状、数、傾斜角度などは図例のものに限定されず、傾斜させて設けたり、交差して設けたりすることもできる。また第1チャンバー14と第2チャンバー15に充填される増粘剤水溶液及び栄養組成物の体積が等しくない場合、栄養組成物および増粘剤溶液が均一に混合されるよう分岐孔12a、12bの径を調節するなど、体積の相違を補正する手段を設けることができる。
【0057】
図5aは、更に他の実施形態の流動食容器21の断面図である。この流動食容器21は、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成樹脂製容器、透明パウチ、アルミパウチ袋などからなり、容器21の内部は、隔壁23により、上下ではなく、第1チャンバー24および第2チャンバー25の左右の2つのチャンバーが連通不能に仕切られている。そして、容器21の首部28には、前記第1、第2チャンバー24、25のそれぞれに連通し、かつ互いに独立した注出孔26a、26bが設けられて接続口22を形成している。図5bに示すように、各注出孔26a、26bの先端よりも基端側の首部28の外周面には、切り取り用のスリット27が設けてあり、スリット27から先の先端部28aを切り取り又は折り取ることで、きわめて簡単に第1チャンバー24および第2チャンバー25に充填された栄養組成物および増粘剤水溶液が混合可能な状態で注出できる。また第1チャンバー24と第2チャンバー25に充填される増粘剤水溶液及び栄養組成物の体積が等しくない場合、栄養組成物および増粘剤溶液が均一に混合されるよう注出孔26a、26bの径を調節するなど、体積の相違を補正する手段を設けることができる。
【0058】
図6は、更に他の実施形態の流動食容器31である。この流動食容器31は、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成樹脂製で、変形可能な可撓性材料または弾性材料で、かつ図例の如く蛇腹状に構成され、加圧により内容物を押し出し可能に形成されている。容器31の内部は、貫通可能なセパレーターからなる隔壁33により第1チャンバー34および第2チャンバー35の上下2つのチャンバーに仕切られており、第1チャンバー34は、経管投与用チューブへの接続口32の先端に開口する注出孔36に連通している。なお、図6では、接続口32が下方にある使用時の容器31を示しているが、保管、運搬時には、接続口32を上にして、キャップ37で密封されている。また、この容器31も、1つの隔壁33によって2つのチャンバーに仕切られているが、2つ以上の隔壁により3つ以上のチャンバーに仕切ってあってもよい。
【0059】
図6に示す容器31は、隔壁33により仕切られた2つのチャンバーのうちの一方、例えば図中、下側の第1チャンバー34に液状の栄養組成物が充填され、他方、図中、上側の第2チャンバー35に増粘剤水溶液が充填されて、使用に際しては、隔壁33を破ると第1、第2チャンバー34、35が連通し、各チャンバーに充填された栄養組成物と増粘剤水溶液とが容器31内で混合される。即ち、隔壁33が、第1、第2チャンバー34、35間に設けられた貫通可能なセパレーターとして混合手段の機能を奏する。また、この流動食容器31は、可撓性材料または弾性材料により蛇腹状に形成されており、容器31を手で加圧することで注出孔36からの注出速度を高めて投与にかかる時間を短縮することもできる。
【0060】
現在では、流動食は、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブ(管)を通じて導入されることが主な使用方法である。従って、前記(1)〜(3)何れの形態においても、管を通じて投与することが可能な、即ち、経鼻胃管チューブ及び/又は胃瘻カテーテルに対し、シリンジ、あるいはペリスタポンプ、あるいは収納容器を手で押しつぶすことにより投与することのできる流動性を有することが好ましい。この点、本発明の流動食は、栄養組成物と増粘剤とが混合された投与時には液状または流体状であるので、経鼻胃管チューブや胃瘻カテーテルなどの経管投与用チューブを通じて容易に胃内へ導入することができ、しかも胃内部で半固形化することで胃から食道への逆流や下痢等が防止される。
【0061】
さらに、上記した各実施の形態に係る流動食のように、栄養組成物と増粘剤とを、一つの容器1、11、21、31などにおいて、隔壁3、13、23、33で仕切られた複数のチャンバーに別々に充填しておくことで、流動食投与の手間が軽減される。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。なお、使用する増粘剤や流動食は、市場の供給者から購入し使用することができる。
【0063】
[実施例1〜12]
(1)栄養組成物に対するカラギーナンの添加量
(試験方法)
カラギーナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のカラギニンCSM−2(F)を80℃に温めた清水に加えて溶かし、0.50〜2.50wt%のカラギーナン溶液を作製し、25℃に保温した。
【0064】
栄養組成物としては25℃に保温された森永乳業株式会社製のMA−7(エムエーセブン、販売元:株式会社クリニコ)を使用した。スクリューキャップ式のチューブ(50ml容量)に下記の表1および2に記載の組成比になるようMA−7とカラギーナン溶液を全量10ml分注した。チューブを転倒しながらやさしく混合し、カラギーナン含有流動食を作製した。
【0065】
得られたカラギーナン含有流動食を、25℃15分静置保存し、保存後のカラギーナン含有流動食の流動性について目視にて確認した。
【0066】
またスクリューキャップ式のチューブ(15ml容量)に37℃に加温した人工胃液(pH 1.2、塩化ナトリウム 2.0g/L、塩酸 7.0mL/L)1.8mlを分注した。これに下記の表1および2に記載の組成比になるようMA−7とカラギーナン溶液を混合後、3ml添加し、流動食の半固形化の程度(半固形化度)を目視にて観察した。
【0067】
(試験結果)
前記試験の評価結果を表1および2に示す。尚、表1および2中、「●」は、栄養組成物(MA−7)と増粘剤溶液(カラギーナン溶液)を混合した流動食が混合後15分後も流動性を有したこと、「△」は、前記流動食を人口胃液に添加するとヨーグルト状に半固形化したこと、「○」は、前記流動食を人口胃液に添加するとプリン状に半固形化したことを表す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1および2に示したように、流動食全体に対してカラギーナンの濃度が0.15〜1.25wt%になるようカラギーナン溶液を配合した場合、栄養組成物とカラギーナン溶液を混合後、15分は流動性を有しているが、人工胃液と混合されることで流動食が半固形化することが確認できた。すなわち、栄養組成物と混合後、流動食全体に対してカラギーナンが0.1〜1.3wt%になるようカラギーナン溶液を配合することで、流動食を容易に投与することが可能であり、かつ投与後カラギーナンが胃酸に触れることでゲル化するため、流動食が胃内部で半固形化し胃から食道への逆流を抑制できると考えられる。
【0071】
[実施例13〜41]
(1)栄養組成物に対するアルギン酸ナトリウムの添加量
(試験方法)
アルギン酸ナトリウムとして、株式会社キミカのキミカアルギン(i)IL−2(ii)I−Sをそれぞれ80℃に温めた清水に加えて溶かし、それぞれ(i)1.00〜5.00wt%、(ii)0.5〜1.5wt%のアルギン酸ナトリウム溶液を作製し、25℃に保温した。
【0072】
栄養組成物としては25℃に保温された森永乳業株式会社製のMA−7(エムエーセブン、販売元:株式会社クリニコ)を使用した。スクリューキャップ式のチューブ(50ml容量)に下記の表3〜6に記載の組成比になるようMA−7とアルギン酸ナトリウム溶液を全量10ml分注した。チューブを転倒しながらやさしく混合し、アルギン酸ナトリウム含有流動食を作製した。
【0073】
得られたアルギン酸ナトリウム含有流動食を、25℃15分静置保存し、保存後のアルギン酸ナトリウム含有流動食の流動性について目視にて確認した。
【0074】
またスクリューキャップ式のチューブ(15ml容量)に37℃に加温した人工胃液(pH 1.2、塩化ナトリウム 2.0g/L、塩酸 7.0mL/L)1.8mlを分注した。これに下記の表1および2に記載の組成比になるようMA−7とアルギン酸ナトリウム溶液を混合後、3ml添加し、流動食の半固形化の程度(半固形化度)を目視にて観察した。
【0075】
(試験結果)
前記試験の評価結果を表3〜6に示す。尚、表3〜6中、「●」は、栄養組成物(MA−7)と増粘剤溶液(アルギン酸ナトリウム溶液)を混合した流動食が混合後15分後も流動性を有したこと、「△」は、前記流動食を人口胃液に添加するとヨーグルト状に半固形化したこと、「○」は、前記流動食を人口胃液に添加するとプリン状に半固形化したことを表す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
表3および4に示したように、流動食全体に対してアルギン酸ナトリウム(IL−2)の濃度が0.40〜4.50wt%になるようアルギン酸ナトリウム(IL−2)溶液を配合した場合、栄養組成物とアルギン酸ナトリウム溶液を混合後、15分は流動性を有しているが、人工胃液と混合されることで流動食が半固形化することが確認できた。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
表5および6に示したように、流動食全体に対してアルギン酸ナトリウム(I−S)の濃度が0.15〜1.35wt%になるようアルギン酸ナトリウム(I−S)溶液を配合した場合、栄養組成物とアルギン酸ナトリウム溶液を混合後、15分は流動性を有しているが、人工胃液と混合されることで流動食が半固形化することが確認できた。
【0082】
以上、表3〜6の結果より、栄養組成物と混合後、流動食全体に対してアルギン酸ナトリウムが0.1〜4.5wt%になるようアルギン酸ナトリウム溶液を配合することで、流動食を容易に投与することが可能であり、かつ投与後アルギン酸ナトリウムが胃酸に触れることでゲル化するため、流動食が胃内部で半固形化し胃から食道への逆流を抑制できると考えられる。
【0083】
[実施例42〜47]
(1)栄養組成物に対するペクチンの添加量
(試験方法)
ペクチンとして、三晶株式会社のGENU pectin type LM−5CSJを80℃に温めた清水に加えて溶かし、1.50〜6.50wt%のペクチン溶液を作製し、25℃に保温した。
【0084】
栄養組成物としては25℃に保温された森永乳業株式会社製のMA−7(エムエーセブン、販売元:株式会社クリニコ)を使用した。スクリューキャップ式のチューブ(50ml容量)に下記の表7に記載の組成比になるようMA−7とペクチン溶液を全量10ml分注した。チューブを転倒しながらやさしく混合し、ペクチン含有流動食を作製した。
【0085】
得られたペクチン含有流動食を、25℃15分静置保存し、保存後のペクチン含有流動食の流動性について目視にて確認した。
【0086】
またスクリューキャップ式のチューブ(15ml容量)に37℃に加温した人工胃液(pH 1.2、塩化ナトリウム 2.0g/L、塩酸 7.0mL/L)1.8mlを分注した。これに下記の表1および2に記載の組成比になるようMA−7とペクチン溶液を混合後、3ml添加し、流動食の半固形化の程度(半固形化度)を目視にて観察した。
【0087】
(試験結果)
前記試験の評価結果を表7に示す。尚、表7中、「●」は、栄養組成物(MA−7)と増粘剤溶液(ペクチン溶液)を混合した流動食が混合後15分後も流動性を有したこと、「△」は、前記流動食を人口胃液に添加するとヨーグルト状に半固形化したこと、「○」は、前記流動食を人口胃液に添加するとプリン状に半固形化したことを表す。
【0088】
【表7】

【0089】
表7に示したように、流動食全体に対してペクチンの濃度が1.13〜5.85wt%になるようペクチン溶液を配合した場合、栄養組成物とペクチン溶液を混合後、15分は流動性を有しているが、人工胃液と混合されることで流動食が半固形化することが確認できた。すなわち、栄養組成物と混合後、流動食全体に対してペクチンが1.1〜5.9wt%になるようペクチン溶液を配合することで、流動食を容易に投与することが可能であり、かつ投与後ペクチンが胃酸に触れることでゲル化するため、流動食が胃内部で半固形化し胃から食道への逆流を抑制できると考えられる。
【符号の説明】
【0090】
1、11、21、31 流動食容器
2、12、22、32 接続口(管)
3、13、23、33 隔壁(セパレーター)
4、14、24、34 第1チャンバー
5、15、25、35 第2チャンバー
6、16、16a、16b、26a、26b、36 注出孔
7、17 乱流板
18、28 首部
19a、19b 混注口
27 スリット
37 キャップ
100 胃瘻カテーテル
101 胃内固定板
102 体外固定板
103 チューブ
104 コネクタ
105、106 混注口
110 輸液チューブ
111 コネクタ
112 ローラークレンメ
200 胃
201 胃壁
202 腹壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養組成物と増粘剤からなり、前記栄養組成物と増粘剤とを混合し、液状または流体状で投与され、胃内部で半固形化することを特徴とする流動食。
【請求項2】
前記栄養組成物と増粘剤とが、胃に入るまでに混合される請求項1に記載の流動食。
【請求項3】
前記栄養組成物と増粘剤とが、投与前に混合される請求項1に記載の流動食。
【請求項4】
前記栄養組成物と増粘剤とが、投与直前に混合される請求項3に記載の流動食。
【請求項5】
経管的に胃内部へ投与される請求項1〜4のいずれかに記載の流動食。
【請求項6】
胃瘻を通じて経管投与される請求項5記載の流動食。
【請求項7】
流動食全体中、増粘剤を固形分換算で0.01〜20重量%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の流動食。
【請求項8】
前記増粘剤が、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、コラーゲン、ゼラチンおよびポリガンマグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の流動食。
【請求項9】
前記増粘剤がカラギーナンであって、栄養組成物と混合後の濃度が固形分換算で0.1〜1.3重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の流動食。
【請求項10】
前記増粘剤がアルギン酸ナトリウムであって、栄養組成物と混合後の濃度が固形分換算で0.1〜4.5重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の流動食。
【請求項11】
前記増粘剤がペクチンであって、栄養組成物と混合後の濃度が固形分換算で1.1〜5.9重量%の溶液で使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の流動食。
【請求項12】
前記栄養組成物および増粘剤が、経管投与用チューブへの接続口を備え、隔壁で仕切られた複数のチャンバーを有する容器の各チャンバーに別々に充填されている請求項1〜11のいずれかに記載の流動食。
【請求項13】
前記容器が、前記栄養組成物と増粘剤とを混合する混合手段を備えている請求項12記載の流動食。
【請求項14】
前記混合手段が、前記各チャンバー間に設けられている請求項13記載の流動食。
【請求項15】
前記混合手段が、前記各チャンバー間に設けられた貫通または除去可能なセパレーターを備える請求項14記載の流動食。
【請求項16】
前記混合手段が接続口内に設けられている請求項13記載の流動食。
【請求項17】
前記容器の接続口を経管投与用チューブへ接続することで各チャンバーが連通して前記栄養組成物と増粘剤が混合される請求項12〜16のいずれかに記載の流動食。
【請求項18】
前記容器が、前記栄養組成物と増粘剤とを混合状態で接続口から押し出す押出手段を備えている請求項12〜17のいずれかに記載の流動食。
【請求項19】
前記容器の各チャンバーが変形可能な可撓性材料または弾性材料から構成され、加圧により前記栄養組成物および増粘剤が各チャンバーから押し出される請求項18記載の流動食。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−50278(P2011−50278A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200328(P2009−200328)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】