説明

背圧上昇の防止方法

【課題】吸着装置の背圧が上昇することに起因して、吸着装置による目的物の精製・分離能が低下するのを防止することができる背圧上昇の防止方法を提供すること。
【解決手段】本発明の背圧上昇の防止方法が適用される吸着装置1は、リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成された吸着剤3と、カラム2と、フィルタ部材4、5とを備えるものである。かかる構成の吸着装置1に対して、リン酸緩衝液を流入管24からフィルタ部材4を介して吸着剤充填空間20に供給することにより、吸着剤3にリン酸緩衝液を接触させる接触工程と、吸着剤3に接触したリン酸緩衝液を、流出管25からフィルタ部材5を介してカラム2外へと流出する流出工程とを経ることにより吸着装置1の背圧を低下させるに際し、前記リン酸緩衝液として、その濃度が0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMなる関係を満足するものを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背圧上昇の防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リン酸カルシウム系化合物は、例えば、生体適合性が高く安全性に優れる等の理由から、抗体、ワクチン等のバイオ系医薬品や、タンパク質等の目的物を精製・単離する際に用いられる、クロマトグラフィーの固定層用材料(吸着剤)として、広く使用されている。
【0003】
具体的には、リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成される粉体を用意し、この粉体を、カラム(吸着装置)等に充填することで、カラムが備える固定層用材料(吸着剤)として使用する(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このようなカラムを用いて、前記目的物を精製・分離するにしたがって、前記目的物以外の夾雑物等が固定層用材料に吸着することになり、その結果、カラムの背圧が上昇し、前記目的物の精製・分離能が低下するという問題がある。
【0005】
さらに、吸着剤の破砕や溶解によって微粒子が発生し、その微粒子の凝集体がフィルタの目や粉体の間隙に詰まり、カラムの背圧が上昇すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−192480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、吸着装置の背圧が上昇することに起因して、吸着装置による目的物の精製・分離能が低下するのを防止することができる背圧上昇の防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(8)に記載の本発明により達成される。
(1) リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成された吸着剤と、
該吸着剤が充填される吸着剤充填空間と、該吸着剤充填空間に液体を供給する流入管と、前記液体を流出する流出管とを備えるカラムと、
前記吸着剤充填空間と、前記流入管および前記流出管との間にそれぞれ配設されたフィルタ部材とを有する吸着装置の背圧の上昇を防止する背圧上昇の防止方法であって、
前記液体としてリン酸緩衝液を用意し、該リン酸緩衝液を前記流入管から前記フィルタ部材を介して前記吸着剤充填空間に供給することにより、前記吸着剤に前記リン酸緩衝液を接触させる接触工程と、
前記吸着剤に接触したリン酸緩衝液を、前記流出管から前記フィルタ部材を介してカラム外へと流出する流出工程とを有し、
前記リン酸緩衝液として、その濃度が0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMなる関係を満足するものを用いることを特徴とする背圧上昇の防止方法。
【0009】
これにより、背圧が上昇した吸着装置の背圧を確実に低下させることができるため、吸着装置による目的物の精製・分離を確実に行うことができるようになる。
【0010】
(2) 前記吸着装置の背圧上昇は、前記吸着剤に由来する微粒子の凝集体に起因して生じている上記(1)に記載の背圧上昇の防止方法。
【0011】
このような凝集体に起因して背圧が上昇している吸着装置に対して、本発明の背圧上昇の防止方法が好適に適用される。
【0012】
(3) 前記凝集体に前記リン酸緩衝液を接触させることで、前記凝集体が前記微粒子の状態となり、これにより、該微粒子が前記リン酸緩衝液中に分散する上記(2)に記載の背圧上昇の防止方法。
【0013】
このように、凝集体を微粒子の状態として、リン酸緩衝液中に分散させることで、この微粒子をリン酸緩衝液とともに、流出管からフィルタ部材を介してカラム外へと流出させることができるため、吸着装置の背圧を確実に低下させることができる。
【0014】
(4) 前記微粒子は、その粒度分布が0.1〜10μmのものである上記(2)または(3)に記載の背圧上昇の防止方法。
かかる粒度分布を有する微粒子が、リン酸緩衝液中において分散することとなる。
【0015】
(5) 前記リン酸緩衝液は、そのpHが6.5〜8.5のものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【0016】
これにより、吸着剤のリン酸緩衝液中への溶解をより確実に防止しつつ、凝集体を、より確実に微粒子単独で存在する状態とすることができる。
【0017】
(6) 前記リン酸緩衝液は、その温度が0〜50℃のものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【0018】
これにより、吸着剤のリン酸緩衝液中への溶解をより確実に防止しつつ、凝集体を、より確実に微粒子単独で存在する状態とすることができる。
【0019】
(7) 前記カラムに対する前記リン酸緩衝液の通液速度は、10〜500cm/minである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【0020】
これにより、吸着剤のリン酸緩衝液中への溶解をより確実に防止しつつ、凝集体を、より確実に微粒子単独で存在する状態とすることができる。
【0021】
(8) 前記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【0022】
凝集体から生じた微粒子のリン酸緩衝液中における分散は、吸着剤がリン酸カルシウム系化合物の中でも、ハイドロキシアパタイトを主材料として構成される場合に、特に顕著に認められる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の背圧上昇の防止方法によれば、吸着装置の背圧上昇の原因となっている微粒子の凝集体を、微粒子単独の状態で存在させ、さらに、この微粒子をリン酸緩衝液中に分散させることができるため、微粒子をリン酸緩衝液とともに流出管から流出させることができるようになる。その結果、吸着装置の背圧が確実に低下するため、吸着装置による目的物の精製・分離を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の背圧上昇の防止方法が適用される吸着装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】上澄み液中に含まれる微粒子の粒度分布を示す図である。
【図3】上澄み液に各種添加液を添加した後の攪拌液中に含まれる凝集体の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の背圧上昇の防止方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
<吸着装置>
まず、本発明の背圧上昇の防止方法を説明するのに先立って、本発明の背圧上昇の防止方法が適用される吸着装置(分離装置)の一例について説明する。
【0026】
図1は、本発明の背圧上昇の防止方法が適用される吸着装置の一例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「流入側」、下側を「流出側」と言う。
【0027】
ここで、流入側とは、目的とする、抗体、ワクチン等のバイオ系医薬品、およびタンパク質等の単離物(目的物)を分離(精製)する際に、例えば、試料液(試料を含む液体)、溶出液等の液体を、吸着装置内に供給する側のことを言い、一方、流出側とは、前記流入側と反対側、すなわち、前記液体が流出液として吸着装置内から流出する側のことを言う。
【0028】
試料液中から目的とする単離物を分離(単離)する、図1に示す吸着装置1は、カラム2と、粒状の吸着剤(充填剤)3と、2枚のフィルタ部材4、5とを有している。
【0029】
カラム2は、カラム本体21と、このカラム本体21の流入側端部および流出側端部に、それぞれ装着されるキャップ(蓋体)22、23とで構成されている。
【0030】
カラム本体21は、例えば円筒状の部材で構成されている。カラム本体21を含めカラム2を構成する各部(各部材)の構成材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。
【0031】
カラム本体21には、その流入側開口および流出側開口を、それぞれ塞ぐようにフィルタ部材4、5を配置した状態で、その流入側端部および流出側端部に、それぞれキャップ22、23が螺合により装着される。
【0032】
このような構成のカラム2では、カラム本体21と各フィルタ部材4、5とにより、吸着剤充填空間20が画成されている。そして、この吸着剤充填空間20の少なくとも一部に(本実施形態では、ほぼ満量で)、吸着剤3が充填されている。
【0033】
吸着剤充填空間20の容積は、試料液の容量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、試料液1mLに対して、0.1〜100mL程度が好ましく、1〜50mL程度がより好ましい。
【0034】
吸着剤充填空間20の寸法を上記のように設定し、かつ後述する吸着剤3の寸法を後述のように設定することにより、試料液中から目的とする単離物を選択的に単離(精製)すること、すなわち、タンパク質や、抗体およびワクチンのような単離物と、試料液中に含まれる単離物以外の夾雑物とを確実に分離することができる。
【0035】
また、カラム2では、カラム本体21に各キャップ22、23を装着した状態で、これらの間の液密性が確保されるように構成されている。
【0036】
これらキャップ22、23のほぼ中央には、それぞれ、流入管24および流出管25が液密に固着(固定)されている。この流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に、前記試料液(液体)が供給される。また、吸着剤3に供給された試料液は、吸着剤3同士の間(間隙)を通過して、フィルタ部材5および流出管25を介して、カラム2外へ流出する。このとき、試料液(試料)中に含まれる単離物と単離物以外の夾雑物とは、吸着剤3に対する吸着性の差異および溶出液に対する親和性の差異に基づいて分離される。
【0037】
各フィルタ部材4、5は、それぞれ、吸着剤充填空間20から吸着剤3が流出するのを防止する機能を有するものである。これらのフィルタ部材4、5は、それぞれ、例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエーテルポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の合成樹脂からなる不織布、ステンレス製メッシュ、発泡体(連通孔を有するスポンジ状多孔質体)、織布、メッシュ等で構成されている。
【0038】
また、フィルタ部材4、5が備える細孔の細孔径は、吸着剤3の吸着剤充填空間20からの流出を防止し得る程度の大きさのものであれば、特に限定されないが、例えば、0.5〜30μm程度であるのが好ましく、1〜20μm程度であるのがより好ましい。細孔径がかかる範囲内の大きさのフィルタ部材4、5を用いるようにすることで、吸着剤3の吸着剤充填空間20からの流出を確実に防止することができるとともに、後述する本発明の背圧上昇の防止方法において、背圧上昇の原因となっている微粒子を、フィルタ部材4、5を介して、吸着剤充填空間20から確実に流出させることができる。
【0039】
吸着剤3は、リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成されるものである。
リン酸カルシウム系化合物は、各種アミノ酸、ペプチド等に対して、高い吸着能を有することから、このものを主材料として構成される吸着剤は、前記アミノ酸、ペプチド等を含む抗体、ワクチンおよびタンパク質等の単離物の分離・精製等に好適に使用される。
【0040】
ここで、リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等またはこれらの任意の2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、リン酸カルシウム系化合物としては、ハイドロキシアパタイトを主成分とするものであるのが好ましい。これらのものは、特に、前述したように単離物に対する吸着能に優れる。
【0041】
吸着剤3の形態(形状)は、図1に示すように、粒状(顆粒状)のものであるのが好ましいが、その他、例えばペレット状(小塊状)、ブロック状(例えば、隣接する空孔同士が互いに連通する多孔質体、ハニカム形状)等とすることもできる。
【0042】
吸着剤3を粒状とすることにより、その表面積を増大させることができ、吸着剤3の吸着能を向上させることができる。
【0043】
なお、吸着剤3を、ハイドロキシアパタイトを主成分として構成され、かつ、粒状をなすものとする場合、この吸着剤3は、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))の一次粒子およびその凝集体を含有するスラリーを乾燥して、これらを造粒することにより得られた二次粒子、または、この二次粒子を焼結して得られた焼結粒子であるのが好ましい。かかる構成の吸着剤3は、特に、前述したように単離物に対する吸着能に優れるとともに、後述する本発明の背圧上昇の防止方法が好適に適用される。
【0044】
また、粒状の吸着剤3の平均粒径は、特に限定されないが、0.5〜250μm程度であるのが好ましく、1〜150μm程度であるのがより好ましく、1〜100μm程度であるのがさらに好ましい。このような平均粒径の吸着剤3を用いることにより、前記フィルタ部材5の目詰まりを確実に防止しつつ、吸着剤3の表面積を十分に確保することができる。
【0045】
なお、本実施形態のように、吸着剤3を吸着剤充填空間20にほぼ満量充填する場合の他、吸着装置1は、吸着剤充填空間20の一部(例えば流入管24側の一部)に吸着剤3を充填し、その他の部分には他の吸着剤を充填するようにしてもよい。
【0046】
このような吸着装置1を用いた、試料液中に含まれる単離物の単離は、通常、目的とする単離物と、この単離物以外の夾雑物とを含有する試料液を調整し、次いで、吸着装置1に、流入管24から、調整した試料液を供給して、試料液中に含まれる単離物および夾雑物を吸着剤3に担持させた後、溶出液を供給することで行われる。
【0047】
このように、試料液を供給した後に溶出液を供給すると、吸着剤3に担持した単離物と夾雑物とが、それぞれ、その吸着剤3に対する吸着性の差異に基づいて、吸着剤3から離脱し、溶出液中に溶出する。そのため、流出管25から流出する流出液を、順次、所定量ずつ分画(採取)することで、所定の分画中に単離物を単離することが可能となる。
【0048】
以上のような方法による単離物の単離を繰り返して行うと、前述したように、吸着装置1(カラム2)の背圧が上昇し、これに起因して、単離物の精製・分離能が低下するという問題が生じる。充填剤の粒径によっても異なるが、粒径40μm程度の場合、直径20cm、高さが20cmを超える大型のカラムの場合に、特に背圧の上昇が顕著に認められる。
【0049】
本発明者は、かかる問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、吸着装置1のカラム2の背圧が上昇するのは、カラム2内に、その粒度分布が0.1〜10μm程度の微粒子が生じ、さらに、カラム2内に残存する溶出液等の液体のイオン濃度が高いことに起因して、かかる微粒子が凝集することで凝集体が形成され、その結果、この凝集体が、吸着剤3同士間の間隙や、フィルタ部材5が備える細孔において、目詰まりすることが主因であることが判ってきた。
【0050】
また、本発明者のさらなる検討の結果、この微粒子は、吸着剤3に由来するものであり、具体的には、吸着剤3の構成材料を主材料として、その他に夾雑物の構成材料、溶出液の構成材料、さらには、吸着剤3を洗浄するために用いられる洗浄液の構成材料等で構成されるものであると推察された。そして、本発明者は、カラム2内に存在する液体が高イオン濃度である場合には、前記微粒子が凝集体として存在するが、前記液体のイオン濃度を低下させることで、各微粒子単独で存在させることができ、さらに各微粒子を前記液体中において沈殿させることなく分散させ得ることを見出した。
【0051】
したがって、前記微粒子を、凝集体として存在させることなく、このもの単独で存在する条件に前記液体のイオン濃度を設定することができれば、前記液体中に前記微粒子を分散させた状態とし得るため、この液体を、フィルタ部材5を介して、前記微粒子とともに流出管25から流出させることができる。その結果、上昇した吸着装置1の背圧を確実に低下させ得るため、吸着装置1による目的物の精製・分離を確実に行うことができるようになる。
【0052】
そこで、本発明者は、前記微粒子を、このもの単独で存在させることができる、前記液体のイオン濃度について、さらに検討を行った結果、前記液体としてリン酸緩衝液を用い、このリン酸緩衝液の濃度を、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMの関係が成り立つように設定することにより、前記問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0053】
なお、本発明において、リン酸緩衝液の濃度を、0.0mMを含むことなく、0.0mM超としたのは、すなわち、前記液体として水単独である場合を含まないようにしたのは、前記液体が水である場合にも、前記微粒子を凝集させることなく各微粒子を単独で存在させることができるが、この場合には、吸着剤3が水中に溶解するようになるため、これを確実に防止するためである。
【0054】
また、上述したようなリン酸緩衝液中における微粒子の分散は、吸着剤3がリン酸カルシウム系化合物の中でも、ハイドロキシアパタイトを主材料として構成される場合に、特に顕著に認められる。
【0055】
<背圧上昇の防止方法>
以下、上述したリン酸緩衝液を用いた吸着装置1の背圧上昇の防止方法(本発明の背圧上昇の防止方法)について具体的に説明する。
【0056】
本実施形態の吸着装置1の背圧上昇の防止方法では、まず、リン酸緩衝液の濃度が、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMなる関係を満足するものを処理液(液体)として用意し、この処理液を流入管24からフィルタ部材4を介してカラム本体(管体)21の吸着剤充填空間(内腔部)20内に供給し、吸着剤充填空間20内を通過させ、流出管25から流出させることにより行われる。
【0057】
これにより、まず、処理液は、吸着剤充填空間20内を通過する際に吸着剤3および、背圧上昇の原因となっている前記微粒子の凝集体と接触する(接触工程)。このように処理液が前記微粒子の凝集体と接触すると、上述したように、処理液(リン酸緩衝液)中におけるリン酸緩衝液の濃度が、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMの範囲内に設定されているため、凝集体は、このものを構成する各微粒子単独で存在する状態となるため、処理液(リン酸緩衝液)中に分散することとなる。そのため、処理液の流入管24からの吸着剤充填空間(内腔部)20内への供給を継続することで、処理液中に分散された各微粒子は、処理液とともに、フィルタ部材5を介して、流出管25からカラム2外へと流出される(流出工程)。
【0058】
このような本発明の背圧上昇の防止方法では、前記接触工程と前記流出工程とが連続して行われるため、その操作を極めて簡便に行うことができる。
【0059】
処理液(リン酸緩衝液)の濃度は、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMなる関係を満足すればよいが、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦3.0mMなる関係を満足するのが好ましく、0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦2.0mMなる関係を満足するのがより好ましい。これにより、吸着剤3の処理液中への溶解を確実に防止しつつ、凝集体を、微粒子単独で存在する状態とすることができる。
【0060】
処理液(リン酸緩衝液)のpHは、特に限定されないが、6.5〜8.5程度であるのが好ましく、6.8〜8.0程度であるのがより好ましい。
【0061】
また、処理液(リン酸緩衝液)の温度は、常温程度であればよく、特に限定されないが、0〜50℃程度であるのが好ましく、10〜30℃程度であるのがより好ましい。
【0062】
さらに、処理液(リン酸緩衝液)の通液速度は、10〜500cm/min程度であるのが好ましく、50〜300cm/min程度であるのがより好ましい。
【0063】
処理液(リン酸緩衝液)を、吸着剤充填空間20内へ供給する際の条件を上記のように設定することで、吸着剤3の処理液中への溶解をより確実に防止しつつ、凝集体を、より確実に微粒子単独で存在する状態とすることができる。
【0064】
以上、本発明の背圧上昇の防止方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要に応じて任意の工程が追加されてもよい。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。なお、微粒子の凝集体に起因してカラムの背圧が上昇すると推察できるため、実施例では、リン酸緩衝液濃度による微粒子および凝集体の粒度分布を検証した。
【0066】
1.サンプルの用意
[1] まず、内径16mm、充填空間の長さ250mmの円筒状のカラムを用意し、この充填空間内に、ハイドロキシアパタイトビーズ(HAP)(平均粒子径40μm、Type−1、HOYA社製)を満量で充填することにより吸着装置を製造した。
【0067】
[2] 吸着装置の繰り返し利用を想定して、平衡化のためpH7.0 10mMのリン酸緩衝液を 150mL、溶出のためのpH6.5 100mM塩化ナトリウム+2mM リン酸緩衝液を900mL、洗浄のためpH7.0 400mMのリン酸緩衝液を150mL、その後1Mの水酸化ナトリウムを150mLを順次供給することを1サイクルとし、これを20サイクル行った。
この20サイクル実施後の吸着剤をサンプルとした。
【0068】
2.吸着装置中の微粒子の分析
2−1.微粒子の粒度分布の測定
前記1.で用意したサンプル(吸着剤)を回収し、この吸着剤を1mMリン酸緩衝液(pH7.0)中に浸漬した後、攪拌した。
【0069】
その後、24時間放置した後、このリン酸緩衝液の上澄み液を取り出し、この上澄み液に含まれる微粒子の粒度分布を、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、「MT3300」)を用いて測定した。
その結果を、図2に示す。
【0070】
図2から明らかなように、上澄み液中には、粒度分布が0.1〜10μm程度の微粒子が、沈殿することなく分散していることが判った。
【0071】
2−2.微粒子のゼータ電位の測定
前記2−1.で得られた上澄み液について、ゼータ電位測定装置(シスメックス社製、「ゼータサイザー」)を用いて、ゼータ電位を測定したところ、−40mVであった。
【0072】
これに対して、沈殿物について、同様にしてゼータ電位を測定したところ、−10mVであった。
【0073】
このことから、上澄み液に含まれる微粒子は、単純にハイドロキシアパタイトで構成されるものではなく、試料液中に含まれる単離物や夾雑物の構成材料の一部、さらには単離物を単離するために用いた溶出液としてのリン酸緩衝液の構成材料の一部がハイドロキシアパタイトに付着したものであると推察された。
【0074】
2−3.微粒子が凝集する条件の検索
前記2−1.で得られた上澄み液を2mLずつ分注し、これら上澄み液に、純水、2mMリン酸緩衝液(pH7.0)および10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を、それぞれ添加液として2mLずつ添加した後、ボルテックスで30秒攪拌した。
【0075】
その後、この攪拌した攪拌液について、これらに含まれる微粒子および凝集体の粒度分布を、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、「MT3300」)を用いて測定した。
その結果を、図3に示す。
【0076】
図3から明らかなように、添加液に含まれるリン酸緩衝液濃度が高くなるにしたがって、攪拌液中に含まれる微粒子および凝集体の粒度分布が、高粒度側にシフトすることが判った。よって、微粒子は、このものが分散する分散液中におけるリン酸緩衝液濃度が高くなるにしたがって、より高粒度の凝集体を形成することが明らかとなった。
【0077】
2−4.まとめ
以上のことから、吸着装置を用いて単離物を単離したことで、吸着剤充填空間中に生じた微粒子は、このものが存在するリン酸緩衝液中のリン酸緩衝液濃度を低く設定することで、凝集体を形成することなく、このリン酸緩衝液中に分散していることが明らかとなった。
【0078】
そのため、吸着装置の背圧を低下させるための処理液として、低濃度のリン酸緩衝液を用い、この処理液を、吸着装置の流入管から吸着剤充填空間に供給した後、流出管から回収する構成とすることで、処理液中に分散した微粒子を処理液とともに、吸着装置外に流出させ得ると推察された。
【0079】
具体的には、図3の結果から、リン酸緩衝液として、5.0mM以下のものを用いることにより、微粒子を吸着装置外に流出させ得ると考えられ、2.0mM以下のものを用いることにより、微粒子を吸着装置外に確実に流出させ得ると考えられた。
【符号の説明】
【0080】
1 吸着装置
2 カラム
20 吸着剤充填空間
21 カラム本体
22、23 キャップ
24 流入管
25 流出管
3 吸着剤
4、5 フィルタ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成された吸着剤と、
該吸着剤が充填される吸着剤充填空間と、該吸着剤充填空間に液体を供給する流入管と、前記液体を流出する流出管とを備えるカラムと、
前記吸着剤充填空間と、前記流入管および前記流出管との間にそれぞれ配設されたフィルタ部材とを有する吸着装置の背圧の上昇を防止する背圧上昇の防止方法であって、
前記液体としてリン酸緩衝液を用意し、該リン酸緩衝液を前記流入管から前記フィルタ部材を介して前記吸着剤充填空間に供給することにより、前記吸着剤に前記リン酸緩衝液を接触させる接触工程と、
前記吸着剤に接触したリン酸緩衝液を、前記流出管から前記フィルタ部材を介してカラム外へと流出する流出工程とを有し、
前記リン酸緩衝液として、その濃度が0.0mM<リン酸緩衝液濃度≦5.0mMなる関係を満足するものを用いることを特徴とする背圧上昇の防止方法。
【請求項2】
前記吸着装置の背圧上昇は、前記吸着剤に由来する微粒子の凝集体に起因して生じている請求項1に記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項3】
前記凝集体に前記リン酸緩衝液を接触させることで、前記凝集体が前記微粒子の状態となり、これにより、該微粒子が前記リン酸緩衝液中に分散する請求項2に記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項4】
前記微粒子は、その粒度分布が0.1〜10μmのものである請求項2または3に記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項5】
前記リン酸緩衝液は、そのpHが6.5〜8.5のものである請求項1ないし4のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項6】
前記リン酸緩衝液は、その温度が0〜50℃のものである請求項1ないし5のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項7】
前記カラムに対する前記リン酸緩衝液の通液速度は、10〜500cm/minである請求項1ないし6のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。
【請求項8】
前記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである請求項1ないし7のいずれかに記載の背圧上昇の防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−61411(P2012−61411A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207144(P2010−207144)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】