説明

胚発達及び生存の改善

【解決手段】レシピエント雌の子宮へ移植された胚は、プロスタグランジンアンタゴニストに前記胚を暴露することによって、プロスタグランジンF2αの胎児毒性作用から保護されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro受精及び胚移植の分野に関するものである。特に、本発明は、in vivo作製胚或いはin vitro作製胚をヒト女性或いは他の哺乳類の子宮に移植する分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胚損失は、酪農及び肉牛産業において深刻な問題であり、これらの損失の大部分は、非桑実胚が孵化胚盤胞へ分化する期間である妊娠第一週間に生じる。そのような胚損失は一般的に、胚発達及び/又は黄体の機能を変化させる或いは阻害する輸卵管或いは子宮環境の要因に関連するものである。
【0003】
畜牛において、このような初期胚損出は、人工授精或いは自然奉仕(サービス)による妊娠において生じる。これらの損失は、胚移植による妊娠においても生じる。胚移植後の胚損失は、少なくとも部分的に、子宮における胚の着床の間に起こる胎児毒性の放出を伴う生殖器系の操作に関連していると考えられている。
【0004】
畜牛における胚移植手順の間、胚は黄体と同側の子宮角に配置される。この方法は、子宮頸部の処理を含む生殖器系の操作を必要とする。そのような操作によって、プロスタグランジンF2α(PGF2α)が子宮の内腔へ放出されると報告されている(Wann and Randel,J.Anim.Sci.68:1389−1394(1990);Odensvik et al,Acta.Vet.Scand.34:219−221(1993))。PGF2αは、女性によって分泌される天然黄体融解物質であり、これは、妊娠していない場合、黄体を破壊することによって雌動物の性周期を終了させ、次の周期の開始を可能にするものである。本発明者らの研究によって、胚移植間の生殖器系の最少操作でさえPGF2αの放出を生じさせることが明らかになった(Schrick,FN,et al,"Prostaglandin F2α Appears to Directly Influence Early Embryonic Survival in Cattle:Would Administration of Flunixin Meglumine be Beneficial During Embryo Transfer?",in Proceedings of the American Embryo Transfer Association,pp9−16,Sacramento CA(2000))。
【0005】
いくつかの研究によって、妊娠のかなり初期に、胎児毒性としてPGF2αが関わっていることが報告されている。Schrickら(Biol.Reprod.,49:617−621(1993))は、正常周期の雌ウシと比較して、分娩後雌ウシの黄体においてPGF2αの濃度が上昇することを報告している。このような雌ウシにおける子宮PGF2αの上昇は、より低いレベルのPGF2αを産生する雌ウシと比較して、より低い質の胚の回復と関連していた。Sealsら(Prostaglandins 56:377−389(1998))によると、妊娠5〜8日目の間にプロゲスチン補充された雌ウシにPGF2αを投与すると、生理食塩水コントロールと比較して、妊娠率の減少を引き起こすことが報告されている。しかしながら、10〜13日或いは15〜18日目にPGF2αを投与しても、妊娠率に全く影響を及ぼさなかった。Fazio及びSchrick(Biol.Reprod. 56(Suppl.1):187(1997))、Hernandez−Fonsecaら(J.Anim.Sci.75(Suppl.1):221(1997))、及びDonaldson,Vet.(Rec.118:661−663(1986))による更なる研究によると、PGF2αは、胚の質を低下させ、桑実段階への発達に対する胚の発達率或いは能力を減少させることによって、胚生存に対して有害な影響を及ぼすことが示唆された。
【0006】
胚生存に対するPGF2αの有害な影響はさらに、Schrickら(Theriogenology 55(1):370(2001))によって見出され、彼らは、胚移植時のレシピエントウシへのPGF阻害剤の投与によって、妊娠率が改善されるという研究を報告している。この研究において、プロスタグランジン阻害剤フルニキシンメグルミン(flunixin meglamine)(BANAMINE,Schering Corp.,Kenilworth,米国ニュージャージー州)を黄体と同側の子宮角への非外科的胚移植の直前或いは直後にレシピエントウシに筋肉内注射した。妊娠率は、コントロールと比較して、プロスタグランジン阻害剤を投与されたウシにおいて有意に高かった。
【0007】
従って、先行技術において、PGF2αは、胚の質、及び桑実段階を超えて発達する胚の発達率或いは能力を抑制することにより、ウシの胚生存に対して有害な影響を及ぼすことが開示されている。先行技術ではさらに、PGF2αによるこのような有害な影響は、胚移植時にプロスタグランジン阻害剤でレシピエントウシを処理することによって減少させる、従って、胚が暴露されるPGF2αのレベルを有効的に減少させることが可能であることが開示されている。
【0008】
胚生存に対するPGF2αの同様の有害な影響、及びレシピエント雌の処理によるこの有害な影響の減少は、ウシよりもヒトを含む哺乳類に対して見出されている。例えば、Wollenhaupt,K.,and Steger,H,Arch Exp.Veterinarmed.,35(3):471−480(1981);Waldenstrom, U,et al.,Fertility and Sterility,81(6):1560−1564(2004)、及びRubinstein,M.,et al.,Fertility and Sterility,71(5):825−829(1999)を参照のこと。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
動物及びヒトへの胚移植後の胚損失を減少させる方法、特にレシピエント(代用)雌の追加的な処理を必要とすることなくそのような損失を減少する方法に対する大きなニーズが存在している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
レシピエント雌動物の子宮に胚を移植する前に、前記胚をプロスタグランジンアンタゴニストで前処理すると、前記レシピエント動物の子宮内の胚をPGF2αに暴露することによって生じる胎児毒性作用に対して前記胚に保護的な利点をもたらすことが予想外に発見された。本発明は、ヒト及び他の哺乳類の胚移植において有用であり、移植可能な胚、妊娠及び生存子孫のパーセンテージの上昇をもたらす。
【0011】
一実施形態において、本発明は、レシピエント雌動物の子宮に移植された胚を保護する方法である。本発明のこの実施形態によると、前記胚は、前記胚を子宮に移植する前にプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、胚を保持、回収、凍結、培養或いは移植するための、若しくは胚を産生するために受精させる卵母細胞を成熟させるための培養液であり、その胚はレシピエント雌動物の子宮へ移植されるものである。この実施形態によると、前記培養液は、胚の保持、回収、培養、凍結あるいは移植する、若しくは受精させ移植させる卵母細胞の成熟に必要な成分に加えて、プロスタグランジンアンタゴニストを含有している。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、胚移植を実施する方法である。この実施形態によると、胚は雌動物の子宮に移植され、移植前に前記胚はプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、PGF2αに暴露することによって生じる胎児毒性作用に対して保護された非ヒト胚に関する。この実施形態によると、前記胚がレシピエント雌動物の子宮の外に置かれている間に、前記胚がプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。
【0015】
本明細書で用いられるプロスタグランジンアンタゴニスト、及び胚或いは卵母細胞に関する場合の「暴露」という用語は、雌の子宮に投与されたプロスタグランジンアンタゴニストが循環することによる前記プロスタグランジンアンタゴニストの胚への併用暴露を受けたレシピエント雌へのプロスタグランジンアンタゴニストの投与以外による、プロスタグランジンアンタゴニストへの胚或いは卵母細胞の暴露を意味するものである。レシピエント雌動物への投与によるそのような「暴露」は、本発明の範囲内には含まれないか、或いは本明細書で用いられる「暴露」の意味には含まれない。レシピエント雌の子宮へのプロスタグランジンアンタゴニストの注入によるプロスタグランジンアンタゴニストへの胚の暴露は、本発明の範囲内に含まれ、「暴露」という用語の意味にも含まれる。
【0016】
本明細書で用いられる「保護する」という用語は、直接的に及び/若しくは間接的にPGF2αの胎児毒性作用に対して胚を防御し、PGF2αに暴露された胚の発達における死滅、遅延、或いは減少を阻害することを意味する。「保護する」という用語の使用は、PGF2α或いは他の因子に暴露された場合、胚が死滅する或いは他の被害を受けないことを保証することを意味するものでも暗示するものでもない。更に、本明細書で用いられるこの用語は、PGF2αに暴露されたが、プロスタグランジン受容体アンタゴニストには暴露されていない胚の死滅率或いは異常発生と比較して、PGF2αへの暴露に起因した胚の死滅率が減少する、若しくは本発明に従って前記胚がプロスタグランジン受容体アンタゴニストに暴露されるといったPGF2αの暴露に直面した場合、胚の発達が正常であることを意味している。あらゆる特定の胚をテストし、その胚が「保護された」のかどうかを決定することは実用的ではないため、そのような保護は組織学的あるいは統計的な手段によって決定されると考えられる。
【0017】
本明細書で用いられるレシピエント雌動物の「子宮への胚の配置或いは移植」は、輸卵管などの胚移植に利用される雌生殖器システムの他の部位へのそのような配置或いは移植を含む。
【0018】
本明細書で用いられる「プロスタグランジンアンタゴニスト」は、例えばアスピリン及びフルニキシンメグルミンなどのプロスタグランジンの作用を阻害する化学物質、及び例えばPGF2αの11β―フルオロ類似体であるAL−8810(Cayman Chemical Co.,ミシガン州アナーバー)(Griffen,B.W.,Klimko,P.,Crider,J.Y.,et al.,J Pharmacol Exp Ther,290:1278−1284(1999)に記載されている)などのプロスタグランジン受容体と相互作用するプロスタグランジン受容体アンタゴニストである化学物質を含む。従って、「プロスタグランジンアンタゴニスト」という用語は、あらゆる手段によってプロスタグランジン自体の作用を拮抗する化学物質、及びプロスタグランジン受容体と相互作用することによってプロスタグランジンの作用を拮抗する化学物質の両方を含む。本明細書で用いられる「プロスタグランジン受容体アンタゴニスト」という用語は特に、プロスタグランジン受容体と相互作用する化学物質に言及している。例えば、プロスタグランジン合成酵素の作用を阻害するが、プロスタグランジンの作用は阻害しないなどの、プロスタグランジンの合成を唯一妨げる化学物質は、本明細書で用いられるプロスタグランジンアンタゴニストの定義の範囲内には含まれない。
【0019】
本発明は、本発明の様々な実施形態によって、胚移植後の妊娠率の増加が提供されるという実質的な利点を提供する。本発明は、本発明によって、プロスタグランジンアンタゴニストを用いてレシピエント女性或いは動物を処置する必要性を減らす若しくは除くという更なる利点を提供する。レシピエント動物の処置は高価で重労働であり、その結果は個々の差異に左右される。移植前に胚を処置することによってPGF2αへの暴露による胚致死を減少する方法を提供することによって、本発明は、コスト及び労働力における実質的な省力、更には、より高い妊娠率など、レシピエント雌動物の処置によって達成できる以上のより良い結果を提供する。
【0020】
本発明は、胚移植或いはin vitro受精が実行可能なあらゆる哺乳類種において実行され得る。本発明は、本明細書においてウシ(Bos species)を参照して記載されているが、本分野の当業者であれば、本発明が水牛などの他のウシや他の哺乳類にも同様に適用可能であることが理解されるであろう。本発明に適している哺乳類の例としては、ヒト及び他の霊長類(例えば猿や類人猿など)、奇蹄類(例えば馬やサイなど)、偶蹄類(例えばブタ、ウシ、羊、ヤギ、ラクダ、ラマ、カバなど)、食肉類(例えばイヌ、ネコ、クマ、ミンク、及びイタチなど)、アシカ亜目(例えばアザラシ及びアシカなど)、ウサギ目(例えばウサギ及びノウサギなど)、げっ歯類(例えばリス、ラット及びマウスなど)、クジラ目(例えばクジラ、イルカ及びネズミイルカなど)、及び長鼻目(例えばゾウなど)を含む。
【0021】
PGF2α受容体は桑実胚期の胚に存在することが発見されている。理論に束縛されることなく、そのようなPGF2α受容体を介して作用するPGF2αは、卵割球間の結合複合体の形成及び/若しくは機能を破壊し、その結果、連続性胚発達を阻害すると考えられている。更に、プロスタグランジンアンタゴニスト、及び好ましくは、プロスタグランジン受容体アンタゴニストは、本発明に従って胚に暴露された場合、そのような受容体へのPGF2αの結合を阻害或いは阻止し、前記結合複合体の形成及び/若しくは機能の破壊を阻止或いは抑制し、この連続性胚発達の阻害を抑制或いは排除することも考えられる。
【0022】
プロスタグランジンアンタゴニストへの前記胚の暴露は、胚を作製するためにドナー動物或いは卵母細胞のin vitro受精から胚を回収した後、及び前記胚をレシピエント動物へ移植する前であればいつでもよい。従って、プロスタグランジン受容体アンタゴニストは、胚が暴露される洗浄液に含有されている。好ましくは、前記プロスタグランジン受容体アンタゴニストは、例えば卵母細胞成熟培養液、或いは回収液、培養液、或いは移植溶媒などの1若しくはそれ以上の培養液に含まれており、前記胚は回収及び/培養の間その中に入れ、レシピエント動物の生殖器系に移植される。
【0023】
例えば、前記胚は、保持、洗浄、培養、移植、操作、凍結、或いは成熟培養液の1若しくはそれ以上に含まれるプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。或いは、好ましくはないが、前記胚は、培養液への前記胚の配置或いはレシピエント雌への胚の移植前後に前記胚或いは卵母細胞を漬ける或いは洗浄するための液体内に含まれたプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。
【0024】
前記胚或いは卵母細胞が暴露されるプロスタグランジンアンタゴニストの濃度、及び前記胚或いは卵母細胞がプロスタグランジンアンタゴニストに暴露される時間は、前記プロスタグランジンアンタゴニストが含有される培養液或いは洗浄液の特性、前記胚が暴露される特定のプロスタグランジン受容体アンタゴニスト、及び前記胚或いは卵母細胞が前記液体あるいは培養液に漬けられるか、または代わりに前記培養液或いは液体が前記胚或いは卵母細胞上を流れるかなどを含む、いくつかのバリエーションに依存して変更することが可能である。
【0025】
本発明の方法に有用なプロスタグランジンアンタゴニストは、例えば、プロスタグランジン受容体へのプロスタグランジンの結合を阻害するなど、プロスタグランジンの作用を阻害する化学物質である。従って、本発明に適切なプロスタグランジンアンタゴニストは、例えば、フルニキシンメグルニン、アスピリン、或いはオメガ−3脂肪酸などの一般的なプロスタグランジンアンタゴニストである。
【0026】
好ましい実施形態において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、PGF2αを選択的に阻害し、好ましくはプロスタグランジンE(Prostaglandin E:PGE)の活性を実質的に阻害しない化学物質である。PGEは、黄体及び胚に対してPGF2αの効果とは逆の効果を有する平滑筋刺激薬である。PGF2αとは対照的に、PGEは、PGF2αによって誘導される黄体溶解を阻害するという点で抗黄体融解作用を有する。
【0027】
本発明に有用な選択的なプロスタグランジン受容体アンタゴニストの例としては、PGF2αの11β−フルオロ類似体であるAL−8810(11β−フルオロ−15−エピ−15−インダニル−テトラノルPGF2α)(Cayman Chemical Co., ミシガン州アナーバー)である。他のプロスタグランジン受容体アンタゴニストの例としては、AL−3138(11−デオキシ−16−フルオロPGF2α)、THG113(Peri KG,et al,Semin Perinatol.26(6):389−397(2002)を参照)、及びフロレチンを含む。既知及び未知の他の選択的PGF2αアンタゴニスト及びPGF2α受容体アンタゴニストもまた本発明に適している。
【0028】
レシピエント雌動物の子宮へ移植される胚を保護するための本発明の方法の好ましい実施形態によると、レシピエント雌動物の子宮へ移植される胚は、前記胚がドナー動物から回収される間及び/若しくはその後、及び前記胚が前記レシピエント雌に移植される前にプロスタグランジン受容体アンタゴニストに暴露される。前記胚は、胚盤胞などの収縮前、収縮或いは収縮後のものである。一般的に、プロスタグランジンアンタゴニストへの前記胚の暴露は、1若しくはそれ以上のプロスタグランジンアンタゴニストを含有した培養液における前記胚の保持、洗浄、培養、凍結、或いは移植することによって行われる。プロスタグランジンアンタゴニストは好ましくは、PGF2αの選択的遮断薬である。前記胚は、PGF2αの胎児毒性作用から完全にあるいは部分的に胚を保護するのに有効な時間と濃度で、プロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。
【0029】
胚移植を実行するための本発明の方法の好ましい実施形態によると、移植される胚は、前記胚を作製しレシピエント動物へその胚を移植するためにドナー動物から胚を回収している若しくはin vitroで卵母細胞を培養している間若しくはその最中に、プロスタグランジンアンタゴニストに暴露され、前記胚は次に前記レシピエント動物の子宮に移植される。一般的に、プロスタグランジンアンタゴニストへの胚の暴露は、in vitroで、1若しくはそれ以上のプロスタグランジンアンタゴニストを含有する回収液或いは培養液において胚を保持、培養、凍結、或いは移植されることによって行われる。前記プロスタグランジンアンタゴニストは、好ましくはPGF2αの選択的遮断薬である。前記胚は、PGF2αの胎児毒性作用から完全に或いは部分的に前記胚を保護するのに有効な時間及び濃度で、前記プロスタグランジンアンタゴニストに暴露される。ドナー動物から胚を回収するあらゆる方法、胚を作製するために卵母細胞を受精させるあらゆる方法、レシピエント動物の子宮に移植するための胚を準備するあらゆる方法、及びレシピエント動物の子宮へ胚を移植するあらゆる方法は、そのような方法が現在既知であろうが後に発見されようが、本発明のこの方法に適切である。
【0030】
本発明の培養液によると、前記培養液は、例えば、受精させレシピエント雌動物の子宮に移植される卵母細胞の成熟のためのもの、或いはレシピエント雌動物の子宮へ移植される胚を保持、回収、培養、凍結、処置、或いは移植するためのものである。本発明の培養液は、培養液としての利用に必要な成分を含み、さらに、前記レシピエント雌の子宮へ前記胚を移植した後に直面するPGF2αの胎児毒性から培養液に置かれた胚を保護するのに有効な濃度でプロスタグランジンアンタゴニストを含む。
【0031】
本発明の非ヒト胚によると、前記胚は、雌動物の子宮へ前記胚を移植すると直面するPGF2αの胎児毒性から前記胚が保護されるように、雌動物の内部或いは外部に置かれ、プロスタグランジンアンタゴニストに暴露される或いは暴露された哺乳類胚である。
【0032】
本発明はさらに、以下の限定されない実施例によって説明される。
【実施例1】
【0033】
胚(胎仔)に対するPGF2αの直接的な効果に関する評価
PGF2α及び胚発達に関する先行技術の研究は、in vivoで行われているため、報告されているPGF2αの胚への効果は、胚に対する直接的な効果というよりはむしろPGF2αの間接的な効果である可能性がある。従って、本研究は、収縮前(in vitro作製)または収縮(in−vivo作製)胚を培養している期間中に、PGF2αの胚発達への直接的な効果が生じるか否かの測定を行うものである。
【0034】
実施例1.a 収縮前胚(pre−compacted embryos)
Edwards及びHansen(biol.Reprod.55:340−346(1996))によって記載されているin vitro胚作製の改良プロトコールによって、胚を作製する。収縮前16〜32細胞期の胚をポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)3mg/ml(0.3%)を添加したKSOM培地中(Biggers,J.D.1991.J.Reprod.Fertil.91:543)で迅速に洗浄する。この胚の質(正常な形状、規定の割球、突出割球、細胞質分裂、均一な細胞質)を評価し、4つのグループ(良い質の胚によって形成されたもの)に均等に分類し、以下に記載したように4ウェルのプレート中、実験処理物に移植し、インキュベータ(38.5℃において5.5% CO、7% O、及び87.5% N)に戻す。この胚を更に4日間、各処理物中で維持する。ウシの胚を分類するためのガイドラインであるIETS(International Embryo Transfer Society:IETS(国際胚移植学会))を用いて、胚発達を評価する。
【0035】
PGF2α(Cayman Chemical Co.、アナーバー、ミシガン州)の希釈物(すなわち処理物)を調整し、0、1、10、及び100ng/mLとする。処理物を4ウェルプレート(500μL/ウェル)の各ウェルに入れ、胚を入れる少なくとも5時間前にインキュベータ(38.5℃において5.5% CO、7% O、及び87.5%N)中で平衡化する。各複製物に対しては、各処理物からの2つの培地サンプルを収集し、放射免疫測定(radioimmunoassay:RIA)によってPGF2αの濃度を測定する。前記処理を開始した日(培養約5日目)に第1のサンプルを収集し、胚盤胞の発達を測定した後(培養9日目)に第2のサンプルを収集する。
【0036】
合計7個の複製物を使用する。各複製物において、16〜32の細胞期の胚を0.3%PVAを添加したKSOM培地中に入れ、以下の培養処理物の1つを前記胚に与える。1)コントロール(n=168)、2)1ng/mL PGF2α(n=143)、3)10ng/mL PGF2α(n=168)、4)100ng/mL PGF2α(n=136)、及び5)5ng/mL PGE(n=62)。プロスタグランジンEは胚発達期間中、「有益」なプロスタグランジンであると考えられている(Biggers et al.Biol.Reprod.19:519−533.(1978))。従って、5ng/mLを添加した培地で培養した胚は陽性コントロールグループと見なし(Gurevich et al.,Reprod.Fertil.Dev.5:281−283(1993))、単にプロスタグランジンそのもののみに関連する効果があるか否かを確認する。
【0037】
不完全ブロック法及び乱塊法のそれぞれを用いて胚盤胞発達及び孵化率の試験を行うために、データを分析する。混合モデル(SAS 8.02、SAS協会、ノースカロライナ州カリー)を用いて分散分析を行い、コントロール試験を行い、胚発達におけるPGF2α値の相違を特定する。その後、カイ二乗分析(SAS 8.02、SAS協会、カリー、ノースカロライナ州)を用いて分析値の妥当性を検証する。
【0038】
結果によると、培地中、1、10、又は100ng/mLのPGF2αを有する16〜32細胞期の収縮(in vitro作製)胚の培養物では、胚盤胞の発達がコントロールと比較して抑制されていることが示された(p=0.002)。更に、この胚盤胞発達は、コントロールとPGE処理物の間では相違がなかった(P>0.10)。従って、PGF2αの培地への添加は、in vitro作製した胚における16〜32細胞期から胚盤胞への発達に対して直接的な悪影響を及ぼすものである。
【0039】
実施例1.b 収縮胚
in vivo誘導したグリセロール凍結桑実胚期ウシ胚を、三段階グリセロール除去方法を用いて解凍する。前記胚を洗浄後、30分間Vigro保持培地中で形態学的に正常に回復させ、ウシ胚を分類するためのIETSガイドラインに従って、発達段階及びその質によって前記胚を分類する。この研究のために、4つの複製物を用いる。
【0040】
Schrickら(Biol.Reprod.49:617−621(1993))は、短周期のウシから得られるフラッシュ培地中の0.64ng/mLのPFG2αが存在し、PGF2α濃度と胚の質との間に関連性がないことを報告していた。これらの知見に基づき、培地中、0(コントロール、KSOM−PVA)、0.1、1、及び10ng/mL濃度のPGF2αが処理液として選択される。各処理液を4ウェルプレート(500μL/ウェル)の異なるウェルに入れた後、胚を入れる前にインキュベータ(38.5℃において5.5% CO、7% O、87.5% N)中で少なくとも5時間保持し、培地を平衡化させる。これと同時に、各処理液からの培地サンプルを収集し、ラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay:RIA)によってPGF2α濃度を測定するために−20℃で保存する。
【0041】
1、2、又は3等級の質の桑実胚(ステージ4)をKSOM−PVA中で4回洗浄し、4つの処理、すなわち1)コントロール(n=110)、2)0.1ng/mL PGF2α(n=108)、3)1ng/mL PGF2α(n=109)、4)10ng/mL PGF2α(n=109)のうちの1つに割り当てて、インキュベータ(38.5℃において5.5% CO、7% O、87.5% N)に入れる。前記胚を各処理物液中で24時間培養した後、この胚を洗浄し、PGF2αを含まないKSOM−BSA中にさらに48時間入れる。ウシ胚の分類のためのIETSガイドラインを用いて、これらの処理を知らされていない熟練技術者によって胚発達の評価を行う。実施例1.aに記載したようにデータを分析する。
【0042】
この研究結果によると、収縮(in vivo誘導化)桑実胚段階の胚の発達は、発達に関するIETSガイドラインを活用した桑実胚を過ぎた少なくとも2つの段階において、処理液間では相違がなかった(p>0.10)。しかしながら、0.1、1、10ng/mLのPGF2α中で、胚を24時間培養することにより、コントロールと比較して孵化速度の減少が見られた(p=0.05)。
【実施例2】
【0043】
桑実胚段階の胚におけるPGF2α受容体転写産物の存在
上述したように、胚はin vitroで作製される。胚発達の6日目、桑実胚段階の胚を、0.1%PVA(ポリビニルアルコール polyvinyl alcohol:PVA、シグマ、セントルイス、ミズーリ州)が添加された予め温めたPBSを含む「X」プレートに移植する。この胚を同じ溶液で2回洗浄した後、50μLのRNA後期溶液(later solution)(Ambion Inc.、オースティン、テキサス州)を含む1.5mLのリボヌクレアーゼ不含エッペンドルフチューブに入れる。RNA後期溶液中、約20個の胚の貯蔵物を一晩4℃に維持し、RNAが単離されるまで−80℃で保存し、更なる処理を行う。
【0044】
Absolutely RNA(登録商標)Nanoprep Kit(Stratagene、カリフォルニア州ラホーヤ)を使用し、製造業者の使用説明書に記載されているように、ウシ胚から高純度全RNAを単離する。RNAlater(登録商標)の粘度を低減させるために、70μlのヌクレアーゼ不含水を各サンプルに加える。このサンプルを7,000gで5分間回転させて、上清を除去する。その後、β−メルカプトエタノール及び溶解緩衝液の組み合わせ溶液を加えて胚を溶解させる。細胞溶解の後、前記サンプルをナノスピンカップに移し、ここでRNAをシリカを基材とした繊維マトリックスに結合させる。汚染物質DNAをDnase I酵素を用いるDnase消化工程により除去する。その後、一連の高及び低塩濃度緩衝液洗浄によって、Dnase I酵素及びそのほかのタンパク質を除去する。その後、10μLの低イオン強度緩衝液を用いて、高純度RNAを繊維マトリックスから溶出する。溶出サンプルは使用するまで−80℃で保存する。
【0045】
陽性コントロールとして、ウシ舌上皮から得られる全RNAをTrizol Reagent(Invitrogen、カールスバーグ、カリフォルニア州)を用いて単離する。0.5cm未満の厚さの切片の上皮を薄く切り取ることで新鮮な舌から上皮細胞を得た後、この上皮細胞をRNAlater溶液に入れる。その後、舌サンプルを一晩4℃で放置した後、使用するまで−80℃で保存する。RNAを単離するために、100mgの舌上皮を、1mLのTrizol(トリゾール)を含む17×100mmのポリプロピレンチューブに入れ、この組織サンプルをパワーホモジナイザー(Tekmar’s Tissumizer、Tekmar Co.、オハイオ州シンシナティ)を用いてホモジナイズする。ホモジナイズしたサンプルを室温で5分間インキュベートした後、0.2mLのクロロホルムを加える。前記チューブを激しく手で15秒間振とうし、室温で15分間インキュベートする。その後、前記サンプルを4℃、12,000gで10分間遠心分離する。遠心分離後、前記水相を新鮮なチューブに移し、ここで0.5mLのイソプロピルアルコールを加えて、このサンプルを室温で15分間インキュベートすることによりRNAを沈殿させる。前記サンプルを4℃、12,000gで10分間遠心分離して上清を除去し、得られたRNAペレットを75%エタノールで1回洗浄する。最後に、前記RNAペレットを5分間空気乾燥し、50μlのヌクレアーゼ不含水中に溶解し、使用するまで−80℃で保存する。
【0046】
4つの各複製物において、20個の収縮桑実胚から単離したRNA、及びウシ舌上皮からの180ngの全RNAを総容積25μlのcDNAに逆転写する。反応混合物は1XRT緩衝液、5mM MgCl、1mMの各dNTP、0.25nM 無作為六量体(ヘキサマー)、20iu RNase阻害剤、及び100iu ネズミ白血病ウイルス逆転写酵素(murine leukemia virus reverse transcriptase:MMLV−RT)から成るものである。前記RT反応のために使用する全ての試薬は、Promega(ウィスコンシン州マディソン)から購入する。前記RT反応を25℃で10分間実行し、99℃で5分間の変性工程の後、4℃にフラッシュ冷却(flash cooling)した後、42℃で1時間行う。陰性コントロールとして、前記RT反応期間中、逆転写酵素を排除したチューブを常に調整する。
【0047】
PGF2α受容体の存在については、リアルタイムPCRで分析する。PGF2α受容体転写産物を測定するために、in vitro由来桑実胚期の胚から単離されたRNAを用いて、リアルタイムPCRによる3回の複製を行う。各複製において、1チューブ当たり10当量の胚(1当量の胚=ある定義された容量中、1つ胚を用いた前記RT反応から得られる容量パーセント)を使用して、各転写産物の発現を測定する。iCycler iQ(商標) Real−Time PCR検出システム(Bio−Rad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)、及びiQ(商標)SYBR Green Supermix(Bio−Rad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応を行う。前記PCR反応混合物は、25μlの1XiQSupermix(100mM KCl、40mM Tris−HCl、pH8.4、0.4mM 各dNTP、iTaq DNAポリメラーゼ 50ユニット/ml、6mM MgCl、SYBR Green I、20nM フルオロセイン、及び安定剤)、1μM濃度の順方向プライマー、1μM濃度の逆方向プライマー、4.5ヌクレアーゼ不含水、前記RT反応からの10μlテンプレート、及び0.5μlのフルオロセインを含む。各プライマーセットの陰性コントロールは、cDNAを含まないPCR反応混合物から成るものである。
【0048】
リアルタイムPCRの標準コントロールとして、ヒストンAの増幅を使用する。前記リアルタイムPCR手順は、95℃で15分の開始段階の後、95℃で15秒、55℃で30秒、72℃で30秒を40サイクル行う。蛍光データは伸長段階で得られる。PGF2α受容体及びヒストンA遺伝子の融解温度は、それぞれ84℃及び90℃である。従って、融解曲線分析では、前記種々生成物の期待Tmにおいて鋭いピークが見られる。前記融解手順は、60秒間45℃で維持した後、45℃から94℃に加熱し、蛍光観察期間中は各温度を5秒間維持する。1XTBE緩衝液(90mM Tris、90mM ホウ酸塩、2mM EDTA、pH8.3)中、エチジウムブロマイド染色2%アガロースゲルの電気泳動法によって、生成物の同定を行う。更に、PGF2α受容体の単位複製配列の同定は、リアルタイムPCRフラグメントのDNA配列によって確認する。
【0049】
RT−RT−PCR分析によって、PGF2αの転写産物が胚の初期発達段階において存在することが示された。ウシ舌上皮及びin vitroで生成したウシ胚から得られるPGF2α転写産物の陽性コントロールは、エチジウムブロマイド染色アガロースゲル上にすぐに現れた。
【実施例3】
【0050】
in vitroの胚発達に対するPGF2α受容体アンタゴニストの効果
収縮前16〜32細胞期のウシ胚(受精後4日目)をKSOM−PVA中で洗浄し、4つのグループに分け、各グループを以下のうち1つを含むKSOM−PVA中、48時間培養する:(1)1000nM AL−8810、n=95(AL−8810グループ)、(2)1ng/ml PGF、n=91(PGFグループ)、(3)1000nM AL−8810+1ng/ml PGF、n=90(AL−8810+PGFグループ)、又は(4)AL−8810又はPGFを含まないKSOM−PVA(コントロールグループ)。
【0051】
48時間の培養後、各グループの胚をHEPES−TALP中に入れ、前記各グループの胚の処理液を知らされていない技術者によって胚発達を評価する。各処理グループからの胚をKSOM−PVAにて洗浄し、KSOM−PVAを含む4ウェルプレートに移し、さらに受精後8日目まで培養し、胚発達を再び評価する。
【0052】
データによると、4〜6日目にPGFを添加すると、胚盤胞段階に達する胚のパーセントが8日目には減少する事を示していた。しかし、AL−8810を前記培地に添加すると、PGFの胚発達に対する悪影響が減少し、胚発達がコントロールグループと類似の値に回復した。
【実施例4】
【0053】
用量反応研究
収縮前16〜32細胞期のウシ胚(受精後4日目)をHEPES−TALPで洗浄し、4つのグループの分け、各グループを500μlのKSOM−PVA(0.3%)を含む4ウェルプレートの処理液中に移し、その後96時間インキュベータに戻しておく。インキュベータ条件は、38.5℃において5.5% CO、7% O、及び87.5% Nである。前記4つのグループは以下のとおりである。:(1)KSOM−PVA + 1000nMのAL−8810、n=93(高濃度AL−8810グループ)、(2)KSOM−PVA + 500nMのAL−8810、n=95(中濃度AL−8810グループ)、(3)KSOM−PVA + 250nMのAL−8810、n=93(低濃度AL−8810グループ)、及び(4)前述の3つのグループで使用したものと等しい容量のDMSO(Dimethylsulfoxide:DMSO)とKSOM−PVA、n=95(コントロールグループ)。96時間のインキュベーション後、各グループからの胚をHEPES−TALPに入れ、前記各グループの胚の処理を知らされていない技術者によって胚発達を評価する。
【0054】
このデータによると、受精後5〜8日目、3つの異なる濃度のプロスタグランジン阻害剤AL−8810を培地に添加することにより、収縮前胚の初期胚発達が、コントロールと比較して抑制又は増強されないことを示した。高度濃度AL−8810及びコントロールグループのみを分析した場合、これらの2つのグループに有意な相違がみられた(60.3%+/−3.9%(高濃度AL−8810グループ)に対して49.9%+/−3.9%(コントロールグループ)、p<0.05)。
【実施例5】
【0055】
移植前の胚の前処理
肉用牛及び乳牛(泌乳乳牛及び乾乳牛)の発情後7日目に、約100個の胚を回収する。既に報告されているように(Schrick et al.,Biol.Reprod.49:617−621(1993))、ウシに過剰排卵させ(Folltropin(商標))、胚を回収し、評価し、凍結させる(1.5M エチレングリコール;EG)。回収した胚の半分に、以下の各代替培地調整液を1L使用する:1)胚回収(フラッシュ)培地(CON、n=50回収、Dulbecco’s PBS+1%FCS、GibcoBRL、カタログ番号21300−025、グランドアイランド、ニューヨーク州)、又は2)胚回収(フラッシュ)培地+AL−8810(TRT、n=50回収、430nMのAL−8810)。
【0056】
濾過後、胚ディッシュを探し、胚を除去し(Vigroに入れ)、その質と発達を評価する(IETSガイドライン)。許容可能な発達及び質(IETS1〜3)を有する、各フラッシュから回収した胚の半分を、1)Vigro(F/Tコントロール、n=250個の胚)、又は2)Vigro+AL−8810(F/T処理、n=250個の胚)を添加した1.5MのEGを用いて、直接移植のためにそれぞれ凍結させる。評価後、凍結ユニット(BioCool制御速度冷凍庫、FTS Systems Inc.、ミシガン州ウォレン)に設置する前に、胚を5〜10分以内の間、それぞれのF/T培地処理物液に入れる。標識(Embryo ID)した0.25mLのストロー(straws)に入れた後、この胚を−32℃に凍結し(−6℃で播種、凍結速度−0.5℃/分)、液体窒素貯蔵タンクに入れる。受け入れ可能なレシピエント動物に移植する前に、この胚を2週間以上保存する。
【0057】
2年間以上の間、レシピエント動物(乳牛、肉用牛、及び未経産牛、n=500)は、100μgのGnRH(Cysterolin、Merial)を投与して0日目にCIDR(膣内プロゲステロン放出装置、ファイザー)を挿入し、7日目にCIDRを除去し、2mLのEstrumate(Schering−Plough Animal Health)を注射し、8〜12日目までに発情期を検出する(1日に2回)、GnRH/CIDR/Estrumateプロトコールを用いて発情を同期化する。同期化された発情期を検出後7日目に、前記動物をウシ取り扱い施設に入れ、プロゲステロン濃度のために尾静脈から血液を収集し(1998年Sealsらによって説明されたようにP4濃度を測定する)、許容性及び位置に関しては黄体(corpus luteum:CL)を触診し、前記CLと同側の子宮角の上半分に胚を配置する(胚移植、embryo transfer:ET)(Schrickら、1993年)。ETに使用する胚を解凍し(10秒間空気解凍、30秒間25℃の水浴)、ストロー標識(胚ID)情報を記録し、さらにレシピエントIDを収集する。
【0058】
胚を食用牛ドナーから回収してウシレシピエント(Angus)に配置し、乳牛ドナーからの胚を乳牛(Holstein)にのみ配置する。21〜28日目、妊娠決定するため経直腸的超音波断層法を用いてにレシピエントを走査する。移植後90〜150日後、最終妊娠コールのために、全ての動物を直腸触診する。分娩時に、子牛の健康状態、全体的に異常がないかを評価し、体重をはかり、識別タグを挿入し、さらに性別を記録する。
【0059】
この研究結果は、胚が存在する胚回収及び/または凍結/移植(F/T)培地などの培地にPGF2αアンタゴニストを添加することにより、受け入れ可能なレシピエントに配置された胚の妊娠率を高めることを立証するものであった。前記妊娠の結果から得られた子牛に異常性は見られなかった。
【0060】
本願明細書に記載された本発明の更なる変法、使用方法、及び用途は当業者には明らかとなるものである。そのような変法は以下の請求項に包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシピエント雌動物の生殖器系に移植された哺乳類胚を保護する方法であって、
プロスタグランジンF2αの胎児毒性作用から前記胚を保護するのに十分な量と時間で、プロスタグランジンアンタゴニストである化学物質に前記胚を暴露する工程
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記胚は、前記プロスタグランジンアンタゴニストを含有する培養液中に存在する間、前記プロスタグランジンアンタゴニストに暴露されているものである。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記胚は、ウシ胚である。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記胚は、収縮前の胚、収縮胚、及び収縮後の胚から成る群から選択されるものである。
【請求項5】
請求項1の方法において、前記胚は、胚盤胞である。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジンF2αの選択的アンタゴニストである。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジン受容体アンタゴニストである。
【請求項8】
胚移植を実行するための方法であって、
レシピエント雌動物の子宮へ移植される胚を取得する工程と、
プロスタグランジンF2αの胎児毒性作用から前記胚を保護するのに十分な量と時間で、プロスタグランジンアンタゴニストに前記胚を暴露する工程と、
前記レシピエント雌動物の子宮へ前記胚を移植する工程と
を有する方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記胚は、前記胚がプロスタグランジンアンタゴニストを含有する培養液中に存在する間、前記プロスタグランジンアンタゴニストに暴露されるものである。
【請求項10】
請求項8記載の方法において、前記胚は、ウシ胚である。
【請求項11】
請求項8記載の方法において、前記胚は、収縮前の胚、収縮胚、及び収縮後の胚から成る群から選択されるものである。
【請求項12】
請求項8の方法において、前記胚は、胚盤胞である。
【請求項13】
請求項8記載の方法において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジンF2αの選択的アンタゴニストである。
【請求項14】
請求項8記載の方法において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジン受容体アンタゴニストである。
【請求項15】
胚移植或いは卵母細胞成熟において使用する培養液であって、
プロスタグランジンF2αの胎児毒性作用から、前記培養液に入れられた胚或いは前記培養液に置かれた卵母細胞の受精によって生じた胚を保護するのに有効な濃度で、プロスタグランジンアンタゴニストを有するものである培養液。
【請求項16】
請求項15記載の培養液であって、この培養液は、レシピエント雌動物へ移植される胚を保持、回収、培養、凍結、処置、及び移植するための培養液から成る群から選択されるものである。
【請求項17】
請求項15記載の培養液において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジンF2αの選択的アンタゴニストである。
【請求項18】
請求項15記載の培養液において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジン受容体アンタゴニストである。
【請求項19】
プロスタグランジンF2αの胎児毒性作用に対して前記胚を保護するのに有効な量と時間で、プロスタグランジンアンタゴニストに暴露された非ヒト哺乳類胚。
【請求項20】
請求項19記載の胚において、前記胚は、ウシ胚である。
【請求項21】
請求項19記載の胚において、前記胚は、収縮前の胚、収縮胚、及び収縮後の胚から成る群から選択されるものである。
【請求項22】
請求項19記載の胚において、前記胚は、胚盤胞である。
【請求項23】
請求項19記載の胚において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジンF2αの選択的アンタゴニストである。
【請求項24】
請求項19記載の胚において、前記プロスタグランジンアンタゴニストは、プロスタグランジン受容体アンタゴニストである。

【公表番号】特表2008−526268(P2008−526268A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552177(P2007−552177)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/001091
【国際公開番号】WO2006/078535
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(507243050)ユニバーシティ オブ テネシー リサーチ ファンデーション (2)
【Fターム(参考)】