説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、従来公知の脂肪族ポリエステルの製造方法に比べ、同等以上の分子量を有しつつ、重合時間が大幅に短縮された新規な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、一般式(1)



[式(1)において、R1、R2、及びR3は、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す]
で表される脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法において少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事を特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂肪族ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物などの作用により生体内又は環境中で分解される脂肪族ポリエステルは生体吸収性又は生分解性プラスチックの一つとして近年注目を集めている。その中でも特に脚光を浴びているのがポリ(p−ジオキサノン)[式(1)において、R、R、及びRのいずれも−Hであり、Xが酸素原子である脂肪族ポリエステル]である。ポリ(p−ジオキサノン)は、p−ジオキサノンの開環重合により合成され、非常に優れた柔軟性かつ耐加水分解性を有する手術用モノフィラメントとして、また外科用のデバイスとして医療分野で好適に用いられているだけでなく、既存の生分解プラスチックと同様、汎用プラスチックの代替品としての用途も期待されている。
【0003】
ポリ(p-ジオキサノン)の製造に関しては今までに多くの検討がなされている。例えば、特許文献1には25℃のヘキサフルオロイソプロパノール中0.1g/dLの濃度で試験した時2.3dL/gから約8dL/gのインヘレント粘度を示し、かさ密度が約1.3g/ccから約1.45g/ccであり、そして残存モノマー含有量が5重量%未満である、外科用デバイスおよび外科用フィラメントで用いるに適切なポリ(p−ジオキサノン)のポリマー、及び用途とそれらの製造方法が開示されている。該公報には、約100℃から約150℃の範囲の温度の乾燥した不活性雰囲気中、開始剤(例えばドデカノールまたは他のモノもしくは二官能アルカノールなど)と触媒(例えば錫触媒、即ちカプリル酸錫(II)またはカプリル酸第一錫など)の存在下で2−オキソ−1,4−ジオキサン、即ちp−ジオキサノンの開環重合を約2から約10時間行うことを含んでいる。約100℃から約120℃の範囲の温度でこの重合を実施するのが今のところ好適である、と記載されている。しかし、本願が開示している開環重合において脂肪族環状エステル(例えばp−ジオキサノン)を追加装入して開環重合を継続する方法については一切記載されていない。
【0004】
また、触媒(例えばカプリル酸第一錫など)と開始剤(例えばドデカノールまたは同様なモノもしくは二官能アルカノールなど)を容器に仕込んだ後、この反応容器を約90から約140℃の範囲の温度に約30分から約5時間の範囲の間加熱することによって、高いインヘレント粘度を示すポリ(p−ジオキサノン)ポリマーを製造することも可能である。次にこの反応から回収したポリマーを約60から約100℃の範囲の温度の乾燥した不活性雰囲気下の通常の大きさを有する容器の中に約2から約7日、好適には3から5日間の範囲の期間入れることで、それの重合を低温で完結させてもよい、と記載されており、実施例2はこの方法に準じている。しかし、この方法では重合時間が長く経済的であるとは言えない。
同様の製造方法が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平8−52205号公報
【特許文献2】特開2001−151878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来公知の脂肪族ポリエステルの製造方法に比べ、同等以上の分子量を有しつつ、重合時間が大幅に短縮された新規な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
[式(1)において、R1、R2、及びR3は、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す]
で表される脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する脂肪族ポリエステルの製造方法の少なくとも一部の工程で、脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、追加装入する直前の重量平均分子量Mw1よりも高い重量平均分子量Mw2を有する脂肪族ポリエステルが得られる事を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は以下の[1]〜[10]に記載された事項により特定される。
【0010】
[1] 一般式(1)
【0011】
【化2】

【0012】
[式(1)において、R1、R2、及びR3は、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す]
で表される脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法において少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事を特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0013】
[2][1]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法において下記の第一工程と第二工程を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
[第一工程] 脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する工程において、少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、重量平均分子量が100,000〜500,000、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が10〜70重量%である重合物を得る工程。
【0014】
[第二工程] 第一工程で得られた重合物に脱モノマー処理を施す事により、重量平均分子量が150,000〜600,000、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が0〜5重量%の脂肪族ポリエステルを得る工程。
【0015】
[3] 開環重合中の重合混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度が0〜10(重量%/時間)となる任意の時間に脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事を特徴とする[1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0016】
[4] 脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、追加装入する直前の重量平均分子量Mw1よりも高い重量平均分子量Mw2を有する脂肪族ポリエステルが得られる事を特徴とする[1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0017】
[5] 以下の数式(2)〜(4)を同時に満足する事を特徴とする[4] 記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
[6] 反応混合物が溶融している状態で開環重合を行う事を特徴とする[1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0022】
[7] 開環重合を行う温度が110℃より高く、200℃より低い事を特徴とする[1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0023】
[8] [2]記載の第二工程が、粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する第一工程で得られた重合物を脂肪族ポリエステルが溶解しない状態で液体に接触させる事により、重合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の除去させる方法を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0024】
[9] [1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製法方法における開環重合において、数式(5)を満足するように脂肪族環状エステル(a)を追加装入する事により、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量を制御する事を特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0025】
【数4】

【0026】
(数式(5)においてΔCは反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度C(重量%)と開環重合の重合温度における脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度C(重量%)との差、即ちΔC=C−C(重量%)である事を意味する。)
[10] 脂肪族環状エステル(a)がp−ジオキサノンを含むものである事を特徴とする[1]又は[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法は従来の製造方法に比べ同等以上の重量平均分子量を有する脂肪族ポリエステルを短時間で得る事が出来る事である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で示す脂肪族ポリエステルとは、後述の脂肪族環状エステル(a)及び/又は成分(b)として前記脂肪族環状エステル(a)とは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の開環重合によって得られる高分子を含むものをいい、特にことわりのない限り開環重合で使用した脂肪族環状エステル(a)や成分(b)、およびそれらが開環重合して得られたあらゆるオリゴマー成分を含んでいてもよい。
本発明で使用する脂肪族環状エステル(a)は、一般式(1)
【0029】
【化3】

【0030】
[式(1)において、R1、R2、及びR3は、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す]で示されるものあり、好ましくはXが酸素原子であるp−ジオキサノン誘導体である。さらに好ましくは、R、R、及びRのいずれも−Hであり、Xが酸素原子であるp−ジオキサノンである。
【0031】
本発明で使用する脂肪族環状エステル(a)は単独でも又は2種類以上でも良い。更に脂肪族環状エステル(a)と成分(b)として前記脂肪族環状エステル(a)とは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体を同時に使用しても良い。脂肪族環状エステル(a)とは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の具体例としては、ラクタイド、グリコライド、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0032】
脂肪族環状エステル(a)と成分(b)である前記脂肪族環状エステル(a)とは異なる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体を同時に使用する場合、脂肪族環状エステル(a)と成分(b)の組成比は重量比で、脂肪族環状エステル(a):成分(b)=50:50〜99:1である事が好ましい。
【0033】
本発明で使用する重合開始剤は水、又は活性水素を有する有機化合物であって、該化合物と脂肪族環状エステル(a)と触媒の存在下で開環重合が進行すれば特に問題なく、公知公用の重合開始剤を使用する事が出来る。重合開始剤の一般的な例はアミノ基、及び/又は水酸基を有する化合物であり、脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族アミン、芳香族アミンなどが挙げられるが、安全性を考慮すると脂肪族アルコール、グリコール、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。好適な具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、乳酸、グリコール酸等が挙げられる。
【0034】
本発明に係る重合開始剤の使用量は、所望する脂肪族ポリエステルの分子量に応じて適宜決定される。本発明で使用する開始剤の量は、開環重合に供するモノマー量の総重量に対して0.001(重量%)〜1(重量%)である事が好ましい。尚、開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状ラクトン(a)と成分(b)である脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。
【0035】
本発明で使用する触媒は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)や環状二量体の開環重合で通常使用されている化合物であれば特に制限されない。具体的には、2−エチルヘキサン酸錫(II)、カプリル酸錫(II)等の有機カルボン酸の錫塩 、ジエチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド等の有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る触媒の使用量は、重合速度、解重合速度、触媒除去処理の有無、脂肪族ポリエステル中の残留触媒の許容量等を考慮して適宜決定される。本発明で使用する触媒の量は、開環重合に供するモノマー量の重量に対して0.0001(重量%)〜5(重量%)であるが、触媒除去処理が無い場合は、0.001(重量%)〜0.2(重量%)である事が好ましく、触媒除去処理が有る場合は、0.001(重量%)〜2(重量%)である事が好ましい。尚、開環重合に供するモノマー量は、脂肪族環状ラクトン(a)と成分(b)である脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状単量体(ラクトン)及び/又は環状二量体の合計量より算出される。
【0037】
次に本発明における開環重合の態様について説明する。
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法は、脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する脂肪族ポリエステルの製造方法において少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事が好ましい。
【0038】
更に、脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、追加装入する直前の重量平均分子量Mw1よりも高い重量平均分子量Mw2を有する脂肪族ポリエステルが得られる事が好ましい。
【0039】
また、本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法は、脂肪族ポリエステルを製造する全工程の内の少なくとも一部の工程に下記の第一工程と第二工程を含む事が好ましい。
【0040】
[第一工程]
脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する脂肪族ポリエステルの製造方法において、開環重合を行っている間の任意の時刻に脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、重量平均分子量が100,000〜500,000、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が10〜70重量%である脂肪族ポリエステルを得る工程。
【0041】
[第二工程]
第一工程で得られた重合物に脱モノマー処理を施す事により、重量平均分子量が150,000〜600,000、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が0〜5重量%の脂肪族ポリエステルを得る工程。
【0042】
本発明に係る開環重合は系外から水分が入らないように、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なう事が好ましく、不活性ガスで置換しながら、又は不活性ガスでバブリングしながら行なってもよい。
【0043】
また本発明に係る開環重合における全ての操作は、連続操作でも回分操作でも行なうことができる。
【0044】
開環重合において、脂肪族環状エステル(a)を追加装入する態様としては、連続操作でも回分操作でも良い。好ましくは(態様1)、(態様2)等が挙げられる。
【0045】
(態様1)
下記の数式(6)を満足するように脂肪族環状エステル(a)を追加装入する方法。
【0046】
【数5】

【0047】
(数式(6)においてΔCは反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度C(重量%)と開環重合の重合温度における脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度C(重量%)との差、即ちΔC=C−C(重量%)である事を意味する。)
本発明においてΔCは数式(7)を満足する事がより好ましく、数式(8)を満足する事が更に好ましい。
【0048】
【数6】

【0049】
【数7】

【0050】
尚、本発明に係る開環重合の重合温度において反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度C(重量%)とは、開環重合の任意の時間において、下記の数式(9)で定義される反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度Vを2点測定し、いずれのVの値が1(重量%/時間)以下であった時に平衡状態であるとみなし、この時の反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度を開環重合の重合温度における脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度C(重量%)とする。
【0051】
本発明において脂肪族環状エステル(a)を連続操作で追加装入する態様としては特に制限されないが、例えば、数式(6)を満足するように反応系に脂肪族環状エステル(a)を滴下しながら装入する方法等が挙げられる。
【0052】
(態様2)
下記の数式(9)で定義される、反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度Vが0〜10(重量%/時間)となる任意の時刻で脂肪族環状エステル(a)を追加装入する方法。
【0053】
(脂肪族環状エステル(a)の減少速度は、時刻tAでの脂肪族環状エステルの濃度をCA(重量%)、時刻tAから1時間後の時刻tBでの脂肪族環状エステルの濃度をCB(重量%)とすると、脂肪族環状エステルの減少速度V(重量%/時間)は
【0054】
【数8】

で表される。)
【0055】
反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度Vは1〜10(重量%/時間)である事がより好ましく、2〜5(重量%/時間)である事が更に好ましい。
【0056】
本発明において脂肪族環状エステル(a)を回分操作で追加装入する態様としては特に制限されないが、例えば(態様2)に記載されているような方法等が挙げられる。
【0057】
本発明において追加装入する脂肪族環状エステル(a)の量は主に所望とする脂肪族ポリエステルの重量平均分子量を勘案して決定される。一般的に追加装入する脂肪族環状エステル(a)の量が多い程、重量平均分子量の高い脂肪族ポリエステルが得られる。具体的に追加装入する脂肪族環状エステル(a)の量は、追加装入する前に仕込まれた脂肪族環状エステル(a)の重量に対して、0.01〜100倍である事が好ましく、0.02〜10倍である事がより好ましい。
【0058】
本発明における開環重合の重合温度は、反応混合物が溶融状態であることが好ましい。重合速度、解重合速度、得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の量、脂肪族ポリエステルの着色の度合い、開環重合後に造粒する場合は、開環重合が終了した時点での反応混合物の溶融粘度等を勘案して適宜設定される。重合温度と得られる脂肪族ポリエステルの分子量、及び脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の量は一般的に相関があり、重合温度の低い程、得られる脂肪族ポリエステルの分子量は高く、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の量は少なくなる。従って、重合温度は反応混合物が液相状態を維持できていれば低い方が好ましい。一般的に重合温度は脂肪族ポリエステルの融点より高い温度〜200℃が好ましく、110℃より高く200℃より低い事がより好ましく、120℃〜180℃が更に好ましい。
【0059】
本発明に係る開環重合の重合時間は、重合温度、触媒量、重合スケール、重合開始剤の量、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の量等を考慮して決定される。一般的には、脂肪族環状エステル(a)を追加装入して開環重合を継続した後に前述の式(8)で示した、反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度Vが0〜10(重量%/時間)となった任意の時間で重合を終了する事が好ましく、1〜10(重量%/時間)となった任意の時間で重合を終了する事がより好ましく、2〜5(重量%/時間)となった任意の時間で重合を終了する事が更に好ましい。具体的には0.1時間〜40時間である事が好ましく、1時間〜16時間である事がより好ましい。
【0060】
更に本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法は、脂肪族ポリエステルを製造する全工程の内の少なくとも一部の工程に下記の第一工程と第二工程を含むものである事が好ましい。[第一工程] 脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する工程において、少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、重量平均分子量が100,000〜500,000、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が10〜70重量%である重合物を得る工程。
【0061】
[第二工程] 第一工程で得られた重合物に脱モノマー処理を施す事により、重量平均分子量が150,000〜600,000、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が0〜1重量%の脂肪族ポリエステルを得る工程。
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法の第二工程における脱モノマー処理とは、第一工程で得られた溶融状態の脂肪族ポリエステルを処理する事により、重量平均分子量が150,000〜600,000、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が0〜5重量%である脂肪族ポリエステルが得られる処理方法であれば特に制限されず、連続操作でも、回分操作でも良い。
【0062】
本発明における脱モノマー処理の具体例としては、
(1)溶融状態の脂肪族ポリエステルから固体状態の脂肪族ポリエステルを得た後、該脂肪族ポリエステルを加熱処理する方法
(2)溶融状態の脂肪族ポリエステルから粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを得た後、該脂肪族ポリエステルを加熱処理する方法
(3)溶融状態の脂肪族ポリエステルから粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを得た後、該脂肪族ポリエステルを脂肪族ポリエステルが溶解しない状態で液体に接触させる方法
(4)溶融状態の脂肪族ポリエステルに脂肪族ポリエステルを溶解する有機溶媒を装入して脂肪族ポリエステル溶液とした後、脂肪族ポリエステルを晶析又は再沈澱させる方法、
等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上組み合わせて行っても良い。
尚、本発明で使用する用語において、粒状とは不定形な粒子状である事を、また、ペレット状とは定形な粒子状である事を意味する。
【0063】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法の第二工程において、第一工程で得られた溶融状態の脂肪族ポリエステルから粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを得る為に適当な処理を行っても良い。
【0064】
本発明において粒状、ペレット状の脂肪族ポリエステルを得る方法は特に制限されず、公知、公用の方法を使用できる。具体的には、第一工程で得られた溶融状態の脂肪族ポリエステルを単に冷却して得られた塊状の脂肪族ポリエステルを粉砕する方法や、溶融状態の脂肪族ポリエステルを水や脂肪族ポリエステルの貧溶媒と接触させる方法、更に第一工程で得られた溶融状態の脂肪族ポリエステルをペレット製造装置にてペレット化する方法等により、粒状、ペレット状の脂肪族ポリエステルを得る事ができる。
【0065】
溶融状態の脂肪族ポリエステルを水や脂肪族ポリエステルの貧溶媒と接触させる事により、ペレット状の脂肪族ポリエステルを得る方法の具体例としては、溶融状態の脂肪族ポリエステルを水や脂肪族ポリエステルの貧溶媒に滴下して固化させる方法等が挙げられる。
【0066】
溶融状態の脂肪族ポリエステルをペレット製造装置にてペレット化する方法は公知公用の方法を適用する事が出来る。具体的には、押出機より得たストランド状の脂肪族ポリエステルをカットするストランドカット方式、アンダーウォーターペレタイザーを用いて、溶融状態の脂肪族ポリエステルを水中でカットするアンダーウォーターカット方式等が挙げられる。
【0067】
本発明に係る粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルの粒子径については特に制限されないが、第二工程において脱モノマー処理をする際の脂肪族ポリエステルから脂肪族環状エステル(a)を除去する効率や取り扱い易さを考慮して適宜設定される。一般的には、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルの粒子径は0.1mm〜10mmである事が好ましく、1mm〜5mmである事がより好ましい。
本発明に係る粉末状の脂肪族ポリエステルの粒子径は0.1mm未満であるものとする。
【0068】
本発明に係る粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを加熱処理する方法は特に制限されないが、具体的には、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを常圧下でガスを流通させながら加熱する方法やガスを流通させながら及び/又は、ガスを流通させずに減圧下で加熱する方法等が挙げられる。
【0069】
また、該加熱処理は連続操作でも回分操作でも行って良く、連続操作の具体例としては、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを塔型の脱モノマー装置へ連続的に装入し、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを移動させつつ、その移動方向と反対方向へガスを流通させながら加熱する方法等があり、回分操作の具体例としては、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを塔型の脱モノマー装置へ充填し、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを移動させずにガスを流通させながら加熱する方法や、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを減圧可能な脱モノマー装置に入れ、減圧下にてガスを流通させながら及び/又は、ガスを流通させずに粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを移動させずに加熱する方法等が挙げられる。これらの具体例は一例にすぎず、連続操作、回分操作は特に制限されない。
【0070】
本発明に係る粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを加熱処理する温度は、脂肪族ポリエステルが実質的に固体状態を維持していれば特に制限されないが、第二工程において脱モノマー処理をする際の脂肪族ポリエステルから脂肪族環状エステル(a)を除去する効率や脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の含有量、更に分子量低下の度合いや取り扱い易さを考慮して適宜設定される。一般的には50℃〜脂肪族ポリエステルの融点未満である事が好ましく、脂肪族ポリエステルがポリジオキサノンである場合は50℃〜85℃である事がより好ましい。
【0071】
本発明に係る粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを加熱処理する際に使用するガスの具体例としては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトンガス等の不活性ガスや乾燥空気等が挙げられる。中でも窒素ガス、乾燥空気が好ましい。
【0072】
本発明で使用するガスの含水量は出来るだけ低く、実質的に無水状態のガスである事が好ましい。含水量が多いと加熱処理中に脂肪族ポリエステルの分子量が低下する場合があり好ましくない。この場合、ガスを脱水する為にモレキュラーシーブ類やイオン交換樹脂類が充填された層にガスを通過させてから使用する事が出来る。
ガス中の含水量を露点で表すと、ガスの露点が−20℃以下である事が好ましく、−50℃以下である事がより好ましい。
【0073】
本発明で使用するガスの流量は特に制限されないが、一般的にはガスの流量が多い程、脂肪族ポリエステル中の脂肪族環状エステル(a)等を効率良く除去する事が出来る。具体的には、ガスの流量は脂肪族ポリエステル1gに対して0.02〜200(ml/分)である事が好ましく、0.5〜50(ml/分)である事がより好ましく、1〜10(ml/分)である事が更に好ましい。
【0074】
本発明に係る粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルの加熱処理を減圧下で行う場合、減圧度は特に制限されない。一般的に、効率良く脂肪族環状エステル(a)を除去する為には減圧度は出来るだけ高い方が好ましいものの、あまり減圧度が高いと設備費が高くなるので両者を考慮して適切な減圧度を設定する。具体的には、減圧度が0.1mmHg〜750mmHgである事が好ましく、1mmHg〜100mmHgである事がより好ましく、10mmHg〜50mmHgである事が更に好ましい。
【0075】
本発明に係る粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを脂肪族ポリエステルが溶解しない状態で液体に接触させる方法は特に制限されず、連続操作でも回分操作でも行う事ができる。連続操作の具体例としては、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを液体が充填された塔型の脱モノマー装置へ連続的に装入し、粒状又はペレット状の脂肪族ポリエステルを連続的に排出する方法や、回分操作の具体例としては、粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを液体が充填された槽型の脱モノマー装置へ充填し、所定時間滞留させた後、脂肪族ポリエステルを排出する方法等が挙げられる。
本発明に係る粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを脂肪族ポリエステルが溶解しない状態で液体に接触させる方法において、撹拌しても撹拌しなくても良い。
【0076】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法において使用する液体は脂肪族ポリエステルを溶解する有機溶媒でも、脂肪ポリエステルの貧溶媒であっても良い。但し、脂肪族ポリエステルを溶解する有機溶媒を使用する場合、粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルが実質的に形状を維持できる温度で脱モノマー処理をするものとする。
【0077】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法の第二工程において使用する脂肪族ポリエステルを溶解する有機溶媒の具体例としては、1,2,4−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素や、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素化合物、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物、1,4−ジオキサン等のエーテル等が挙げられる。これらの中でも安全性を考慮すると、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素化合物、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物が好ましい。
これらは単独でも、必要に応じて二種類以上使用しても良い。
【0078】
尚、本発明にて使用する用語において、ハロゲン化炭化水素とはハロゲン原子を含む炭化水素を、含窒素化合物とは窒素原子を含む有機溶媒を、含硫黄化合物とは硫黄原子を含む有機溶媒をそれぞれ意味しており、「新版溶剤ポケットブック」(有機合成化学協会編、発行者:オーム社(株))に一例が記載されている。
【0079】
また、本発明にて使用する用語において、貧溶媒とは、「化学大辞典」(東京化学同人(株)発行)P1941に記載されている貧溶媒のみならず、P1916に記載されている非溶剤の意味をも含むものである。即ち本発明における脂肪族ポリエステルの貧溶媒とは、脂肪族ポリエステルに対する溶解度が極めて低い溶媒、もしくは脂肪族ポリエステルを全く溶解しない常温で液体、又は比較的融点の低い固体状の有機化合物を意味する。
本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法において使用する脂肪族ポリエステルの貧溶媒の具体例としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル等が挙げられる。
これらは単独でも、必要に応じて二種類以上使用しても良い。
【0080】
本発明に係る粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを液体に接触させる際の液体の使用量は特に制限されないが、連続操作の場合、液体の使用量は脂肪族ポリエステル1gに対して0.002(g−液体/分)〜1(g−液体/分)である事が好ましく、0.008(g−液体/分)〜0.1(g−液体/分)である事がより好ましい。回分操作の場合、一般的には、脂肪族ポリエステルの重量に対して0.01倍〜100倍である事が好ましく、0.1倍〜10倍である事がより好ましく、1倍〜4倍である事が更に好ましい。
【0081】
本発明に係る粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを液体に接触させる際の温度は、脂肪族ポリエステルが実質的に形状を維持できる温度であれば特に制限されないが、通常接触温度が高い程脂肪族環状エステルが効率良く除去できるものの、脂肪族ポリエステルの分子量が低下し易くなる為、これらを考慮して処理温度は適宜決定される。具体的には0℃〜100℃である事が好ましく、20℃〜80℃である事がより好ましい。
【0082】
本発明に係る粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する脂肪族ポリエステルを液体に接触させる際の接触時間は特に制限されないが、脂肪族ポリエステル中の脂肪族環状エステル(a)の減少挙動を考慮して適宜設定される。一般的に、接触時間は1分〜20時間である事が好ましく、操作性等を考慮すると0.5時間〜10時間である事がより好ましい。
【0083】
本発明に係る溶融状態の脂肪族ポリエステルに脂肪族ポリエステルを溶解する有機溶媒を装入して脂肪族ポリエステル溶液とした後、脂肪族ポリエステルを晶析又は再沈澱させる方法は特に制限されず、加熱した脂肪族ポリエステル溶液を冷却する事により脂肪族ポリエステルを晶析させる方法や脂肪族ポリエステル溶液を脂肪族ポリエステルの貧溶媒に排出して脂肪族ポリエステルを再沈澱させる方法等、公知公用の方法を適用する事が出来る。
【0084】
本発明に係る製造方法により得られる脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は150,000〜600,000である事が好ましく、200,000〜500,000である事がより好ましく、200,000〜400,000である事が更に好ましく、200,000〜350,000である事が最も好ましい。
【0085】
本発明に係る製造方法により得られる脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は0〜5重量%である事が好ましく、0〜1重量%である事がより好ましく、0〜0.5重量%である事が更に好ましく、0〜0.1重量%である事が一層好ましい。
【0086】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの成形加工法は特に制限されず、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形−、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の各種成型加工法により様々な用途に対応した製品を製造する事ができる。
【0087】
本発明に係る脂肪族ポリエステルの用途は、その高い安全性と生分解性、生体吸収性を活かし、手術用モノフィラメントや外科用のデバイス、経口医薬品用カプセル、肛門・膣用座薬用担体、皮膚・粘膜用張付剤用担体、注射筒の部材、等といった医療用用途はもちろん、農薬用カプセル、肥料用カプセル、種苗用カプセル、植木鉢等と言った農業、園芸用用途、釣り糸、釣り用浮き、漁業用擬餌、ルアー等の漁業用用途、弁当箱、食器、コンビニエンスストアで販売されるような弁当や惣菜の容器、鮮魚、精肉、青果、豆腐、惣菜等の食料品用の容器やトレイ、鮮魚市場で使用されるようなトロバコ、牛乳・ヨーグルト・乳酸菌飲料等の乳製品用のボトル、炭酸飲料・清涼飲料等のソフトドリンク用のボトル、ビール・ウイスキー等の酒類ドリンク用のボトル、歯磨き粉用チューブ、化粧品容器、保冷箱等の容器、ラップフィルム、コンポストバック等のフィルム、シート及びそれらから製造される製品などが挙げられる。
【実施例】
【0088】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。この実施例で用いた評価方法は以下の通りである。
【0089】
[重量平均分子量]
1)重量平均分子量(Mw)
得られた脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、島津製作所製 CLASS−VPシステムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、HFIPAと記す)溶媒)で測定し、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を標準としてサンプルとの比較により重量平均分子量を求めた。
2)脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度
あらかじめ、濃度既知のモノマーの検量線を作成した後、得られたポリ(p-ジオキサノン)重合体50〜100mgをHFIPA10mlに溶解し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14型ガスクロ装置、キャピラリーカラム:ZB−624、50m×0.32mm、カラム温度120℃)を用いて測定した。
【0090】
[実施例・比較例中のp−ジオキサノン]
実施例及び比較例で用いたp−ジオキサノンは、大和化成工業株式会社製のものであり、水分40ppm、純度99.9%以上のものを用いた。
【0091】
[実施例1]
あらかじめ50℃に保温しておいた200mlのセパラブルフラスコへ、脂肪族環状エステル(a)として大和化成工業株式会社製p−ジオキサノン103.01g(=1.01mol)、触媒としてアルドリッチ社製試薬2−エチルヘキサン酸錫(II)0.0185g(=4.57×10−5mol、錫換算でp−ジオキサノンに対し50ppm)、開始剤として東京化成社製試薬ラウリルアルコール0.0796g(=4.27×10−4mol、p−ジオキサノンに対し800ppm)をそれぞれ装入した。その後、常圧、窒素気流下で130℃まで昇温し、130℃で4時間開環重合を行った。この時点での脂肪族ポリエステル(=ポリ(p−ジオキサノン)の重量平均分子量は30.2万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)(=p−ジオキサノン)の濃度は32.3(重量%)であった。重合時間が3時間〜4時間の反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度が7.7(重量%/時間)であったので、大和化成工業株式会社製p−ジオキサノン103.06g(=1.01mol)、アルドリッチ社製試薬2−エチルヘキサン酸錫(II)0.0177g(=4.37×10−5mol)を追加装入して更に130℃で3時間反応を継続した。この時点での脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は40.0万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は28.5(重量%)であった。
【0092】
[実施例2]
あらかじめ50℃に保温しておいた100mlの4口フラスコへ、脂肪族環状エステル(a)として大和化成工業株式会社製p−ジオキサノン35.7g(=0.350mol)、触媒としてアルドリッチ社製試薬2−エチルヘキサン酸錫(II)0.0064g(=1.58×10−5mol、錫換算でp−ジオキサノンに対し50ppm)、開始剤として東京化成社製試薬ラウリルアルコール0.0500g(=2.68×10−4mol、p−ジオキサノンに対し1400ppm)をそれぞれ装入した。その後、常圧、窒素気流下で150℃まで昇温し、150℃で2時間開環重合を行った。この時点での脂肪族ポリエステル(=ポリ(p−ジオキサノン))の重量平均分子量は21.0万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)(=p−ジオキサノン)の濃度は35.1(重量%)であった。本重合条件における反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度Cを別途確認した所、平衡濃度は34.1(重量%)であった。即ち開環重合開始2時間の時点でΔC=1であったので、大和化成工業株式会社製p−ジオキサノン33.1g(=0.324mol)を追加装入して更に150℃で2時間反応を継続した。この時点での脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は29.2万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は34.5(重量%)であった。
【0093】
[比較例1]
特開2001−151878の実施例1に準じて実施した。即ち、蒸留して水分55ppm、純度99.99%以上となったp−ジオキサノン100.2g(=0.981mol)を300mlの排出口付4つ口フラスコに水分が更に混入しないように窒素雰囲気下で加え、さらに触媒として精製2−エチルヘキサン酸錫(II)16.0mg(=3.95×10−5mol、錫換算でp−ジオキサノンに対し50ppm)、重合開始剤としてラウリルアルコール76.6mg(=4.11×10−4mol、p−ジオキサノンに対し800ppm)をそれぞれ加えた。攪拌機付フラスコを回転数50rpmで攪拌させながら、常圧、窒素雰囲気下、室温〜95℃まで昇温させ重合を開始した。重合開始4時間後、攪拌を停止し、その状態でさらに、80℃にて固相重合を6日間行った。
【0094】
その後、液体窒素にて急冷して反応器から重合物を取り出し粉砕後、真空乾燥機で12時間、室温下乾燥して粉砕品95gを得た。さらに、5mmHgの減圧下、温度63℃、窒素流量200ml/分で36時間、重合物中に残留するp−ジオキサノンを除去する操作を行った。得られた脂肪族ポリエステルは90.3g(収率=90.1%)、重量平均分子量は43万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は0.2重量%以下であった。重合に供した時間は148時間であった。
【0095】
[比較例2]
あらかじめ50℃に保温しておいた100mlの4口フラスコへ、大和化成工業株式会社製p−ジオキサノン32.8g(=0.321mol)、アルドリッチ社製試薬2−エチルヘキサン酸錫(II)0.0059g(=1.46×10−5mol、錫換算でp−ジオキサノンに対し50ppm)、東京化成社製試薬ラウリルアルコール0.0500g(=2.68×10−4mol、p−ジオキサノンに対し1400ppm)をそれぞれ装入した。その後、常圧、窒素気流下で150℃まで昇温し、150℃で2時間開環重合を行った。この時点での脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は21.0万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は35.1(重量%)であった。p−ジオキサノンを追加せず更に150℃で2時間反応を継続した所、この時点での脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は20.0万、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度は34.6(重量%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式(1)において、R1、R2、及びR3は、−H、−CH、−CH−CH、−(CH−CH、−CH(CH)−CHを表し、それぞれ同一かまたは異なり、式中Xは、酸素原子または硫黄原子を表す]
で表される脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法において少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事を特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法において下記の第一工程と第二工程を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
[第一工程] 脂肪族環状エステル(a)を重合開始剤及び触媒の存在下、開環重合する工程において、少なくとも一度以上脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、重量平均分子量が100,000〜500,000、反応混合物中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が10〜70重量%である重合物を得る工程。
[第二工程] 第一工程で得られた重合物に脱モノマー処理を施す事により、重量平均分子量が150,000〜600,000、脂肪族ポリエステル中に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度が0〜5重量%の脂肪族ポリエステルを得る工程。
【請求項3】
開環重合中の重合混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度の減少速度が0〜10(重量%/時間)となる任意の時間に脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する工程を含む事を特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
脂肪族環状エステル(a)を追加装入して更に開環重合を継続する事により、追加装入する直前の重量平均分子量Mw1よりも高い重量平均分子量Mw2を有する脂肪族ポリエステルが得られる事を特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
以下の数式(2)〜(4)を同時に満足する事を特徴とする請求項4記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数1】

【数2】

【数3】

【請求項6】
反応混合物が溶融している状態で開環重合を行う事を特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
開環重合を行う温度が110℃より高く、200℃より低い事を特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
請求項2記載の第二工程が、粉末状、粒状、ペレット状の中から選択される少なくとも1種類の形状を有する第一工程で得られた重合物を脂肪族ポリエステルが溶解しない状態で液体に接触させる事により、重合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の除去させる方法を含むことを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製法方法における開環重合において、数式(5)を満足するように脂肪族環状エステル(a)を追加装入する事により、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量を制御する事を特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数4】

(数式(5)においてΔCは反応混合物に含まれる脂肪族環状エステル(a)の濃度C(重量%)と開環重合の重合温度における脂肪族環状エステル(a)の平衡濃度C(重量%)との差、即ちΔC=C−C(重量%)である事を意味する。)
【請求項10】
脂肪族環状エステル(a)がp−ジオキサノンを含むものである事を特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−56138(P2007−56138A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243083(P2005−243083)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】