説明

脂肪族ポリエステル化合物、その製造方法及び当該化合物を用いた成形品

【課題】耐衝撃性を向上させる。
【解決手段】天然ゴムを極性化した極性化天然ゴムと脂肪族ポリエステルとを含有し、極性化天然ゴムの極性基と脂肪族ポリエステルとが化学結合してなるものである。ここで、上記極性化天然ゴムとしては、極性基としてエポキシ基を導入したものであることが好ましい。また、上記極性化天然ゴムは脱蛋白化処理が施されたものであることが好ましい。脱蛋白化処理が施された極性化天然ゴムであれば、脱蛋白化処理されない極性化天然ゴムと比較して、極性基と脂肪族ポリエステルとの化学結合がより効率的に形成されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な成形品に使用することができる脂肪族ポリエステル化合物、その製造方法及び当該化合物を用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル概念として循環型社会に適用している樹脂材料であるポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが実用化されている。脂肪族ポリエステルの中でもポリ乳酸は、融点が150〜180℃と比較的に高く、透明性に優れるといった特長があり、各種成形品の主成分としての利用が期待されている。
【0003】
脂肪族ポリエステルを成形品の原料として使用する場合、成形品の用途に依存して様々な物性が求められる。特に、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルにおいては、その高い結晶性に起因して優れた強度を示すものの、加水分解による物性の低下といった問題及び脆くて耐衝撃性が低いといった問題があった。これら問題点に鑑み、特許文献1においては、脂肪族ポリエステルに未変性天然ゴムとエポキシ化天然ゴムを加えてなる、耐衝撃性が向上した脂肪族ポリエステル組成物が開示されている。また、特許文献2においては、天然ゴム及び/又はエポキシ化天然ゴムからなるゴム状重合体の存在下に、単量体化合物をグラフト重合させてなる生分解性ポリマーが開示されている。さらに、特許文献3においては、結晶性ポリ乳酸と天然ゴムとを含有するポリ乳酸系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
ところがこれら特許文献1〜3に開示された組成物では、いずれも天然ゴム成分と脂肪族ポリエステル成分との相溶性が悪く、不均一材料となってしまう。不均一材料においては、各成分間の界面が急峻であるため、界面近傍に応力が集中するとクラックを生じてしまうことがある。したがって、特許文献1〜3に開示された組成物では、天然ゴム成分によって脂肪族ポリエステルの物性(耐衝撃性)を向上させることは困難である。また、特許文献1〜3に開示された組成物では、天然ゴム成分に含まれる水分の影響により脂肪族ポリエステル成分の加水分解を促進してしまい、耐久性に優れた成形品を得ることも困難である。
【0005】
特に、特許文献1においては、極性基としてエポキシ基を導入したエポキシ化天然ゴムを脂肪族ポリエステルに混合することで、脂肪族ポリエステル組成物を製造する手法が開示されている。しかしながら、特許文献1の脂肪族ポリエステル組成物では、エポキシ基と脂肪族ポリエステルとの間で化学結合が形成されるようなものではない。したがって、特許文献1に開示された脂肪族ポリエステル組成物は、脂肪族ポリエステル成分とエポキシ化天然ゴムとの混合物であるために不均一材料となり、上述した耐衝撃性は不十分であると言える。
【特許文献1】特開2005−29758号公報
【特許文献2】特開2001−288228号公報
【特許文献3】特開2003−183488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、耐衝撃性に優れた脂肪族ポリエステル化合物、その製造方法及び当該化合物を使用した成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため本発明者らが鋭意検討した結果、脂肪族ポリエステル成分に対して、極性基が導入された天然ゴム成分を混合し、脂肪族ポリエステル成分と当該極性基とを反応させることにより、脂肪族ポリエステル化合物の耐衝撃性が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、天然ゴムを極性化した極性化天然ゴムと脂肪族ポリエステルとを含有し、極性化天然ゴムの極性基と脂肪族ポリエステルとが化学結合してなるものである。
【0009】
ここで、上記極性化天然ゴムとしては、極性基としてエポキシ基を導入したものであることが好ましい。
【0010】
また、上記極性化天然ゴムは脱蛋白化処理が施されたものであることが好ましい。脱蛋白化処理が施された極性化天然ゴム(極性化脱蛋白天然ゴムと称する場合もある)であれば、脱蛋白化処理されない極性化天然ゴムと比較して、極性基と脂肪族ポリエステルとの化学結合がより効率的に形成されることとなる。
【0011】
さらに、上記極性化天然ゴムは液状であることが好ましい。
なお上記脂肪族ポリエステルはポリ乳酸を使用することが好適である。
【0012】
一方、本発明によれば、上述した本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物を主成分とする成形品を提供することができる。本発明に係る成形品は、主成分となる脂肪族ポリエステル化合物に含まれる脂肪族ポリエステルと極性化天然ゴムとの界面が強固に接合しているため、優れた耐衝撃性を示すことができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、天然ゴムを極性化した極性化天然ゴムと脂肪族ポリエステルと溶融混合し、極性化天然ゴムの極性基と脂肪族ポリエステルとを反応させる工程を有する、脂肪族ポリエステル化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、脂肪族ポリエステル成分と、天然ゴムを極性化した極性化天然ゴム成分とを含んでいる。
【0015】
ここで、脂肪族ポリエステル成分としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン等の開環重付加系脂肪族ポリエステル、並びに、ポリエステルカーボネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリエチレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリヘキサメチレンオキサレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等の重縮合反応系脂肪族ポリエステルが挙げられ、中でもポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリ(α−ヒドロキシ酸)が好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。
【0016】
脂肪族ポリエステル成分の分子量(重量平均分子量)としては、特に限定されないが、1000〜5000000であることが好ましく、10000〜1000000であることがより好ましく、50000〜500000であることが最も好ましい。分子量が100未満では得られる成形品の強度が不十分となる虞がある。また、分子量が5000000を超える場合には、成形品の加工性が低下する虞がある。
【0017】
脂肪族ポリエステル成分は、上述した各成分を単独で用いてもよいが、これらの2成分以上をブレンドしたもの若しくはこれら2成分以上を共重合させたものであってもよい。このような脂肪族ポリエステル共重合物としては、乳酸と乳酸以外のヒドロキシ酸とのコポリマーや、ポリブチレンサクシネートアジペート等を使用することができる。なお、共重合体の配列様式は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0018】
また、脂肪族ポリエステル成分としてポリ乳酸を使用する場合、ポリ乳酸の合成方法としては特に制限されず、D−乳酸、L−乳酸の直接重合でもよく、乳酸の環状2量体であるD−ラクチド、L−ラクチド、meso−ラクチドの開環重合であってもよい。またポリ乳酸としては、L−乳酸由来のモノマー単位と、D−乳酸由来のモノマー単位のいずれか一方のみで構成されていてもよいし、また双方の共重合体であってもよい。また、L−乳酸由来のモノマー単位と、D−乳酸由来のモノマー単位の比率が異なる複数のポリ乳酸が任意の割合でブレンドされたものを脂肪族ポリエステル成分として用いてもよい。
【0019】
さらに、ポリ乳酸としては、上述した乳酸又はラクチド成分に加えて、グリコリド、カプロラクトン等の他の重合性単量体成分を更に重合させて共重合体としたものを使用してもよい。また、これら他の重合性単量体を単独重合させて得られたポリマーを、ポリ乳酸とブレンドしたものを脂肪族ポリエステル成分として使用してもよい。
【0020】
一方、極性化天然ゴム成分とは、極性化した天然ゴム由来の樹脂組成物を意味する。極性化天然ゴム成分の極性化率が1〜75%であることが好ましい。さらにまた、極性化天然ゴム成分の数平均分子量Mnが10〜10であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、特に、天然ゴムに対して脱蛋白化処理を施した後に極性化した極性化脱蛋白天然ゴムを使用することが好ましい。極性化脱蛋白天然ゴム成分の窒素含有率は0.1重量%以下であることが好ましい。すなわち、窒素含有率は0.1重量%以下となるように脱蛋白化処理し、その後、極性化した極性化脱蛋白天然ゴムを使用することが好ましい。
【0022】
さらに、本発明においては、極性化の後に液状化した極性化天然ゴム又は極性化脱蛋白天然ゴムを使用することが好ましい。
【0023】
ここで、極性化天然ゴム成分に使用できる天然ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、天然のゴムの木から得られた天然ゴムラテックスを使用することができ、当該ラテックスには新鮮なフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等のいずれをも使用することができる。また、天然ゴムとしては、パラゴムノキ(hevea brasiliensis)に代表されるゴムの木から採取したラテックス液を固めてシート状、ブロック状などの形状にしたものが挙げられ、薫製して乾燥させたものであっても薫製せずに乾燥させたものであってもよい。シート状の天然ゴムとしては、リブドスモークシート(Ribbed Smoked Sheet: RSS)、ホワイトクレープ、ペールクレープ、エステートブラウンプレープ、コンポクレープ、薄手ブランウンクレープ、厚手ブラウンクレープ、フラットバーククレープ、純スモークドブランケットクレープなどが挙げられる。RSSには、所謂グリーンブック(International Standards of Qualityand Packing for Natural Rubber Grades)にしたがって視覚的に格付けされた各種等級のものが含まれる。ブロック状の天然ゴムとしては、クラムラバーまたはブロックラバーと呼ばれる技術的格付けゴム(Technically Specified Rubber: TSR)が挙げられ、その中には、マレーシア産のSMR(Standard Malaysian Rubber)、シンガポール産のSSR(Standard Singapore Rubber)、インドネシア産のSIR(Standard Indonesian Rubber)、タイ産のSTR(Standard Thai Rubber)などが含まれる。これらのうち、経済性を考えるとリブドスモークシート(RSS)が好ましい。
【0024】
また、天然ゴムを脱蛋白化する方法は特に限定されないが、例えば、天然ゴムラテックス中にアルカリプロテアーゼ等のタンパク質分解酵素と界面活性剤とを加えてタンパク質分解処理を施した後に遠心分離処理等によりラテックスを十分に洗浄する方法(特開平6−56902号公報を参照されたい)を用いることができる。また下記実施例に示すように、天然ゴムラテックスに界面活性剤を添加し続いてタンパク質変成剤を添加してタンパク質を変成させてから変成タンパク質を除去することにより、ほぼ完全に天然ゴムラテックスを脱蛋白質化する方法を用いることもできる。さらに、天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、ラテックスに蛋白質分解酵素又はバクテイリアを添加して蛋白質を分解させる方法や、石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法等、公知の方法により行うこともできる。
【0025】
また、本発明者等が先に、特願2002−261693号として提案した、天然ゴムラテックスに下記一般式(1)で表される尿素系化合物及びNaClOからなる群から選択された蛋白質変成剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変成除去する方法により行うこともできる。
NHCONH (1)
(式中、R1はH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0026】
天然ゴムの脱蛋白質化は、天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下になるようにすることが好ましい。
【0027】
脱蛋白質化した天然ゴムラテックスを極性化するとは、所望の極性官能基を分子構造中に導入することを意味する。ここで極性基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ニトリル基、アミド基、及びヒドロキシルアミン、ヒドラジン、酸無水物、酸ハロゲン化物等を含む官能基を挙げることができる。特に、極性官能基としてエポキシ基を分子構造中に導入したエポキシ化脱蛋白天然ゴムを使用することが好ましい。エポキシ基は酸性条件下で容易に開環して官能基と反応しやすく、また反応を制御し安いためである。
【0028】
脱蛋白処理後の天然ゴムに対してエポキシ基を導入する方法は、特に限定されず定法により行うことができる。例えば、過酸化物及びカルボン酸又はその無水物を使用して、エポキシ化率が1〜75%程度、好ましくは10〜60%程度になるようにエポキシ化することができる。好ましいエポキシ化剤としては、例えば過酸化水素水と無水酢酸の組合せが挙げられる。また、過酸化物及びカルボン酸の両者の性質を有するものとして、過酢酸等を使用してもよい。また、例えばオスミウムの塩、タングステン酸などの触媒および溶媒の存在下で過酸化水素を用いてエポキシ化する方法によってエポキシ化してもよい。なお、エポキシ化率とは、天然ゴム中の全二重結合がエポキシ基に変換された割合を示すものであり、定法により滴定分析又は核磁気共鳴(NMR)測定により求めることができる。
【0029】
また、極性化脱蛋白天然ゴムを液状化する方法は、特に限定されず情報により行うことができる。例えば、脱蛋白質化後に極性化された天然ゴムは、ラジカル開始剤及びアルデヒドを使用して、数平均分子量Mnが10〜10程度、好ましくは1×10〜6×10程度になるように解重合することによって、液状化することができる。ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸塩、過酸化物、アゾ化合物等、通常のラジカル開始剤を使用することができる。好ましいラジカル開始剤としては、過酸化アンモニウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。また、液状化に用いる好ましいアルデヒドとしては、下記の一般式(2)で示すアルデヒドが挙げられ、具体的にはエタナール、プロパナール、ブタナール等が例示される。
CHO (2)
(式中、R2は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0030】
特に好ましい解重合剤としては、過硫酸アンモニウムとプロパナールの組合せが挙げられる。
【0031】
本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、脂肪族ポリエステル成分と、極性化天然ゴム(好ましくは極性化脱蛋白天然ゴム)とを所定の温度で混合して各成分を反応させることで製造することができる。反応温度としては、例えば、50〜500℃、好ましくは100〜300℃、より好ましくは180〜250℃とすることができる。脂肪族ポリエステル成分と、極性化天然ゴムとを所定の温度で混合することによって、極性化天然ゴムに導入されている極性基が脂肪族ポリエステル成分と化学結合することとなる。すなわち、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、脂肪族ポリエステル成分と極性化天然ゴムを含む組成物(ブレンド品)ではなく、脂肪族ポリエステル成分と極性化天然ゴム成分との共重合体(ブロック共重合体及び/又はグラフト共重合体)となる。
【0032】
以上のように製造された本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、脂肪族ポリエステル成分と極性化天然ゴム成分とが化学結合しているため、従来の極性化天然ゴムを含有する脂肪族ポリエステル組成物(例えば、特開2005-29758号公報に開示された脂肪族ポリエステル組成物)と異なり、脂肪族ポリエステル成分と極性化天然ゴム成分との界面における接合を強化することができる。これにより、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物においては、従来の脂肪族ポリエステル組成物と比較して優れた耐衝撃性を示すものとなる。特に、脱蛋白化処理を施した極性化脱蛋白天然ゴムを使用した場合には、極性基と脂肪族ポリエステル成分との化学結合をより効率的に形成することができるため、より優れた耐衝撃性を示すこととなる。
【0033】
また、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物においては、脂肪族ポリエステル成分に混合する天然ゴム成分を脱蛋白化することで、極性化脱蛋白天然ゴム成分の含水率及び吸水率を低くすることができる。このことに起因して、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、加水分解による物性の低下を防止することができ、長期間に亘って所望の物性を維持することができる。すなわち、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、脱蛋白化せずに極性化した天然ゴムを含有する脂肪族ポリエステル組成物(例えば、特開2005-29758号公報に開示された脂肪族ポリエステル組成物)と比較して耐久性に優れたものとなる。
【0034】
以上のように、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物は、優れた耐衝撃性と耐久性を兼ね備えるため、様々な成形品を製造する際の原料として好適に使用することができる。成形品としては、特に、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリック等のいずれでもよい。より具体的には、バンパー、ラジエーターグリル、サイドモール、ガーニッシュ、ホイールカバー、エアロパーツ、インストルメントパネル、ドアトリム、シートファブリック、ドアハンドル、フロアマット等の自動車部品、家電製品のハウジング、製品包装用フィルム、防水シート、各種容器、ボトル等を挙げることができる。製造された成形品をシートとして使用する場合には、紙又は他のポリマーシートと積層し、多層構造の積層体として使用してもよい。
【0035】
成形品を製造する方法としては、特に限定されずに定法を適用することができる。例えば、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物及びその他の添加剤を混合した状態で溶融し、その後、所望の形状に加工することで成形品を製造することができる。ここで添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤、末端封止剤等の添加剤を更に添加してもよい。このような添加剤の含有量は、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物を100重量%としたときに、100重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
【0036】
また、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物を含有する組成物を溶融する際の温度は、例えば180〜300℃とすることができる。この温度が前記下限未満であると、脂肪族ポリエステル組成物の溶融が不十分となり、諸成分が均一に分散しにくくなる虞がある。他方、この温度が前記上限を超えると、脂肪族ポリエステルの分子量が低下して得られる成形体の物性が損なわれる虞がある。
【0037】
また、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物を含有する組成物は、結晶化させて用いることも、非晶状態で用いることもできる。結晶化させたい場合、結晶核剤を添加する。その場合、本発明に係る脂肪族ポリエステル化合物を含有する組成物を溶融温度まで加熱し、例えば0.1〜30分の間、当該温度を維持する。さらに、溶融状態から30〜160℃の温度まで冷却し、例えば10秒〜30分間、当該温度を維持する。
【0038】
また、本発明の成形体を所望の形状に加工する方法は特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等のいずれにも好適に使用することができる。特に、脂肪族ポリエステル成分と極性化脱蛋白天然ゴム成分とを混合した状態で反応押出成形装置(いわゆる、リアクティブプロセシング装置)内で脂肪族ポリエステル化合物を製造しながら、所望の形状に加工して成形品を製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
(i)天然ゴムの脱蛋白質化
原料の天然ゴムとして、ゴムノキから採取後2日経過したアンモニア未処理の天然ゴムラテックスを使用し、これをゴム分の濃度が30重量%となるように希釈した。このラテックスのゴム分100重量部に対してアニオン界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)1.0重量部を添加し、ラテックスを安定化させた。次いで、このラテックスのゴム分100重量部に対して変成剤として尿素0.2重量部を添加し、60℃で60分間静置することにより変成処理を行った。
【0040】
上記変成処理を完了したラテックスついて13000rpmで30分間遠心分離処理を施した。こうして分離した上層のクリーム分を界面活性剤の1重量%水溶液にゴム分濃度が30重量%となるように分散し、2回目の遠心分離処理を上記と同様にして行った。更に、得られたクリーム分を界面活性剤の1重量%水溶液に再分散させることによって、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得た。
【0041】
この脱蛋白質化天然ゴムラテックスの窒素含量は0.004重量%、アレルゲン濃度は1.0μg/mlであった。窒素含量はRRIM試験法(Rubber Research Institute of Malaysia (1973). SMR Bulletin No.7)による測定値である。アレルゲン濃度はLEAP法(Latex ELISA for Allergenic Proteinの略)による測定値である。
【0042】
(ii)脱蛋白天然ゴムの極性化(エポキシ化)
(i)で得られた脱蛋白質化天然ゴムラテックス100gにドデシル硫酸ナトリウム1.5重量%を加え、pH5に調整した。これに33v/v%過酢酸水溶液50mlを加え、5〜10℃の条件下で3時間攪拌した。
【0043】
反応終了後、pH7に調整し、エポキシ化脱蛋白天然ゴム150mlを得た。エポキシ化率は56%であった。エポキシ化率の測定は、1H-NMR測定により行った。
【0044】
(iii)エポキシ化脱蛋白天然ゴムの液状化
(ii)で得られたエポキシ化脱蛋白天然ゴムのうち100mlをpH8に調整し、過硫酸アンモニウム 1 phr(per hundred rubberの略。ゴム分100重量部当たりの試料部数)およびプロパナール 15 phrと混合した後、65℃の条件下で10時間振とうした。
【0045】
反応終了後、試料をメタノールにより凝固した後、メタノールをデカンテーションにより除去した後、試料をトルエンに溶解させ、これを再度メタノールにより沈殿させた。この再沈操作を3回繰り返して、液状化エポキシ化脱蛋白天然ゴム6.5gを得た。
【0046】
(iv)脂肪族ポリエステル化合物の調整
脂肪族ポリエステル成分としてポリ乳酸(以下、PLA)を準備した。PLAとしては、商品名PLA1012(分子量Mw=1.20×105)を使用した。先ず、上述した液状化エポキシ化脱蛋白天然ゴム(以下、LEDPNR)0.8gとPLA1.2gとを100mlのクロロホルムに添加し、均一になるまで攪拌した。得られた溶液をメタノール溶液に加えた後、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を乾燥させることによってLEDPNRとPLAとのブレンド(LEDPNR:PLA=40:60)を取得した。
【0047】
次に、ブレンドを200℃で30秒から20分間反応させることで、脂肪族ポリエステル化合物(LEDPNRとPLAとの共重合体)を製造した。製造した脂肪族ポリエステル化合物、原料のLEDPNR及びPLAについて示差走査熱量計(セイコー電子工業DSC220)によりガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を図1及び表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
図1及び表1から判るように、原料であるLEDPNR及びPLAのTgはそれぞれ-22.5℃及び63.5℃であったが、脂肪族ポリエステル化合物においては反応時間が増加するに伴ってLEDPNR及びPLAのTgが変化していった。詳細には、脂肪族ポリエステル化合物においては、反応時間が増加するに伴ってLEDPNR及びPLAのTgが互いに15℃程度近づいた。これは、LEDPNRとPLAとが結合して生成したブロック共重合体又はグラフト共重合体が相溶化剤の役割を果たし、原料であるLEDPNRとPLAとが十分に相溶化していることを示している。
【0050】
以上の結果から、本実施例で製造した脂肪族ポリエステル化合物は、原料であるLEDPNRとPLAとが十分に相溶化することで、LEDPNRとPLAとの界面が強固に接合され、優れた耐衝撃性を示すことができる。
【0051】
〔実施例2〕
実施例2では、PLAとしては、商品名PLA1518(分子量Mw=1.20×105)を使用した。を使用した以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリエステル化合物を製造した。製造した脂肪族ポリエステル化合物、原料のLEDPNR及びPLAについて示差走査熱量計(セイコー電子工業DSC220)によりガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から判るように、実施例2においても脂肪族ポリエステル化合物においては反応時間が増加するに伴ってLEDPNR及びPLAのTgが変化していった。実施例2で製造した脂肪族ポリエステル化合物は、原料であるLEDPNRとPLAとが十分に相溶化することで、LEDPNRとPLAとの界面が強固に接合され、優れた耐衝撃性を示すことができる。
【0054】
〔比較例1〕
比較例1では、天然ゴム成分として脱蛋白化及びエポキシ化をしていない液状天然ゴム(以下、LNR)を使用した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステル成分とLNRとを混合して脂肪族ポリエステル組成物を調整した。なお、比較例1では、実施例1で使用したPLAを使用した。
【0055】
製造した脂肪族ポリエステル組成物、原料のLNR及びPLAについて示差走査熱量計(セイコー電子工業DSC220)によりガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3から判るように、本例では反応時間が増加してもLNR及びPLAのTgは、殆ど変化することがなかった。これは、LNRとPLAとが化学的に結合することができず、実施例1及び2で示したようなブロック共重合体又はグラフト共重合体が形成されなかった為である。すなわち、脱蛋白化及びエポキシ化していないLNRとPLAとは、十分に相溶化しないことが示された。
【0058】
また、実施例1において反応時間を20分として作製された脂肪族ポリエステル化合物と、比較例1で作製された脂肪族ポリエステル組成物とについて、JEOL社製のFT-NMR-ECP400を用いて13C-NMRスペクトルを測定した結果を、それぞれ図2及び図3に示す。
【0059】
図2に示すように、実施例1で作製した脂肪族ポリエステル化合物においては、LEDPNRとPLAとの反応を反映して70ppm付近にシグナルを検出できた。一方、比較例1で作製した脂肪族ポリエステル組成物では、図3に示すように、対応するシグナルを検出することができなかった。この結果からも、実施例1で作製した脂肪族ポリエステル化合物においては、LEDPNRとPLAとが結合して生成したブロック共重合体又はグラフト共重合体が相溶化剤の役割を果たし、原料であるLEDPNRとPLAとが十分に相溶化していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1で製造した脂肪族ポリエステル化合物、原料のLEDPNR及びPLAについて示差走査熱量計を用いて測定したDSCサーモグラフを示す特性図である。
【図2】実施例1で製造した脂肪族ポリエステル化合物について核磁気共鳴装置を用いて測定した13C-NMRスペクトルを示す特性図である。
【図3】比較例1で測定した脂肪族ポリエステル組成物について核磁気共鳴装置を用いて測定した13C-NMRスペクトルを示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを極性化した極性化天然ゴムと脂肪族ポリエステルとを含有し、極性化天然ゴムの極性基と脂肪族ポリエステルとが化学結合してなる脂肪族ポリエステル化合物。
【請求項2】
上記極性化天然ゴムはエポキシ基を導入することによって極性化されたものである、請求項1記載の脂肪族ポリエステル化合物。
【請求項3】
上記極性化天然ゴムは脱蛋白化処理が施されたものである、請求項1記載の脂肪族ポリエステル化合物。
【請求項4】
上記極性化天然ゴムは液状である、請求項1記載の脂肪族ポリエステル化合物。
【請求項5】
上記脂肪族ポリエステルはポリ乳酸である、請求項1記載の脂肪族ポリエステル化合物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項記載の脂肪族ポリエステル化合物を主成分とする成形品。
【請求項7】
天然ゴムを極性化した極性化天然ゴムと脂肪族ポリエステルと溶融混合し、極性化天然ゴムの極性基と脂肪族ポリエステルとを反応させる工程を有する、脂肪族ポリエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
上記極性化天然ゴムはエポキシ基を導入することによって極性化されたものである、請求項7記載の脂肪族ポリエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
上記極性化天然ゴムは脱蛋白化処理が施されたものである、請求項7記載の脂肪族ポリエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
上記極性化天然ゴムは液状である、請求項7記載の脂肪族ポリエステル化合物の製造方法。
【請求項11】
上記脂肪族ポリエステルはポリ乳酸である、請求項7記載の脂肪族ポリエステル化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−217644(P2007−217644A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42719(P2006−42719)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】