説明

脂肪由来細胞の分離方法

【課題】血管新生を促す細胞を多く含む脂肪由来細胞を効率的に分離する。
【解決手段】血管を含む脂肪組織を切り出して採取する採取ステップS1と、該採取ステップS1により採取された脂肪組織の切断面に露出する血管の開口部から消化酵素を注入する注入ステップS2と、該注入ステップS2により注入された消化酵素により分解された脂肪由来細胞を回収する回収ステップS3とを備える脂肪由来細胞の分離方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来細胞の分離方法であって、特に、血管新生を促す細胞を豊富に含む脂肪由来細胞を分離する分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪由来細胞を採取するには、超音波を利用して溶解させた脂肪組織を採取し、あるいは、負圧により吸引することにより脂肪組織を採取し、フィルタリングあるいは遠心分離により回収することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−292941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、超音波や吸引による脂肪組織の採取方法では、採取時に脂肪由来細胞が損傷を受ける可能性がある。また、これらの方法で採取された脂肪組織には、血管新生を促す細胞以外の細胞が多く含まれており、血管新生を促す細胞を効率的に分離することができないという不都合がある。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、血管新生を促す細胞を豊富に含む脂肪由来細胞を効率的に分離することができる脂肪由来細胞の分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、血管を含む脂肪組織を切り出して採取する採取ステップと、該採取ステップにより採取された脂肪組織の切断面に露出する血管の開口部から消化酵素を注入する注入ステップと、該注入ステップにより注入された消化酵素により分解された脂肪由来細胞を回収する回収ステップとを備える脂肪由来細胞の分離方法を提供する。
【0006】
本発明によれば、採取ステップにより、血管を含む脂肪組織を切り出して採取することによって、切断面に血管の開口部が露出した塊状の脂肪組織を採取することができる。
これにより、超音波や吸引による場合とは異なり、脂肪組織を破壊しないので、切断面を除く部分において脂肪由来細胞を損傷する虞がなく、全体として健全な状態の脂肪由来細胞を含む脂肪組織を採取することができる。
【0007】
また、注入ステップにより、切断面に開口する血管の開口部から消化酵素を注入することにより、血管および血管の周囲に存在する脂肪組織を分解することができる。
そして、注入ステップにより分解された脂肪由来細胞を、回収ステップによって健全な状態のまま回収することができる。この場合において、注入ステップにより注入された消化酵素は、血管組織およびその近傍に存在する脂肪組織を優先的に分解することができる。したがって、回収される細胞には、血管細胞、血管内皮細胞およびペリサイト等が多く含まれている。
【0008】
上記発明においては、前記注入ステップが、血管内に消化酵素を加圧注入することとしてもよい。
このようにすることで、血管の末端に配される毛細血管に対しても、消化酵素を供給することが可能となる。その結果、血管新生に有効な脂肪由来細胞を効率よく分離することができる。
また、上記発明においては、前記消化酵素が、タンパク質分解酵素、具体的には、コラゲナーゼ活性および/またはゼラチナーゼ活性を有する酵素であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血管新生を促す細胞を効率的に分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の分離方法について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪由来細胞の分離方法は、図1に示されるように、ヒトまたは哺乳動物等の生体から脂肪組織を採取する採取ステップS1と、該採取ステップS1により採取された脂肪組織に消化酵素を注入する注入ステップS2と、該注入ステップにより注入された消化酵素により分解された脂肪由来細胞を回収する回収ステップS3とを備えている。
【0011】
採取ステップS1は、メス等の切断手段により血管Aを含む脂肪組織Bを切り出すことにより採取する。これにより、図2に示されるように、切断面Cに血管Aの開口部Aが開口する塊状の脂肪組織Bが採取される。このようにすることで、切断手段により切断された切断面C以外の脂肪組織Bは損傷を受けることなく、健全な状態のままで採取することができる。
【0012】
注入ステップS2は、前記採取ステップS1により採取された塊状の脂肪組織Bの切断面Cに開口する血管Aの開口部Aから消化酵素Dを注入する。消化酵素Dとしては、コラゲナーゼやトリプシンのようなタンパク質分解酵素が使用される。
【0013】
さらに具体的には、図3に示されるように、血管Aの内径より大きな外形寸法を有する注入カニュレ1を血管Aの開口部Aから差し込み、注入カニュレ1と血管Aとが液密状態に接続された状態で、該注入カニュレ1を介してシリンジポンプ2により消化酵素Dを血管A内に注入する。
これにより、塊状の脂肪組織B内の血管A内に消化酵素Dが加圧注入される。消化酵素Dは加圧注入されることで、血管Aの末端の毛細血管にまで行き渡らされ、血管Aおよびその周囲の組織を分解していくことになる。
【0014】
血管Aおよびその周囲の組織を含む領域Eには、血管Aの新生に有効な血管内皮細胞、血管前駆細胞およびペリサイト等が多く含まれている。したがって、注入ステップS2により注入された消化酵素Dの働きにより、血管Aの新生に有効な脂肪由来細胞が優先的に分解される。
【0015】
回収ステップS3は、注入ステップS2により消化酵素Dを注入した後、所定時間の経過後に、例えば、PBSにより塊状の脂肪組織Bを洗浄する。これにより、消化酵素Dによって分解された脂肪由来細胞を周囲の脂肪組織Bから分離することができる。そして、分離された脂肪由来細胞を、フィルタあるいは遠心分離(図示略)により回収する。これにより、血管Aの新生に有用な脂肪由来細胞が回収されることになる。
【0016】
この場合において、本実施形態に係る脂肪由来細胞の分離方法によれば、血管Aおよび血管Aの周囲に存在する組織を含む領域Eから分解することにより、血管Aの新生に有用ではない脂肪由来細胞が最初に分解されて回収されるのを防止することができる。したがって、回収された脂肪由来細胞から血管Aの新生に有用ではない脂肪由来細胞を除去する作業を排除することができる。その結果、CD44,CD45のような表面抗原を発現する細胞を豊富に含み、血管新生に有用な脂肪由来細胞を簡易に分離回収することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の分離方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の分離方法における採取ステップにおいて採取された脂肪組織を示す縦断面図である。
【図3】図2に示される脂肪組織の切断面に露出する血管の開口部から消化酵素を注入する注入ステップを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0018】
A 血管
開口部
B 脂肪組織
C 切断面
D 消化酵素
S1 採取ステップ
S2 注入ステップ
S3 回収ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を含む脂肪組織を切り出して採取する採取ステップと、
該採取ステップにより採取された脂肪組織の切断面に露出する血管の開口部から消化酵素を注入する注入ステップと、
該注入ステップにより注入された消化酵素により分解された脂肪由来細胞を回収する回収ステップとを備える脂肪由来細胞の分離方法。
【請求項2】
前記注入ステップが、血管内に消化酵素を加圧注入する請求項1に記載の脂肪由来細胞の分離方法。
【請求項3】
前記消化酵素が、タンパク質分解酵素である請求項1に記載の脂肪由来細胞の分離方法。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素が、コラゲナーゼ活性および/またはゼラチナーゼ活性を有する酵素である請求項3に記載の脂肪由来細胞の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−61629(P2008−61629A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246066(P2006−246066)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】