説明

脂肪由来細胞の評価方法

【課題】脂肪組織から分離した脂肪由来細胞の移植に先立って、その治療効果を簡易に予測する。
【解決手段】脂肪組織から単離された脂肪由来細胞に対して、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現を測定し、測定された前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271が、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現しているか否かを判定する脂肪由来細胞の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来細胞の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪由来細胞は、細胞治療の細胞ソースとして注目されている。脂肪由来細胞には複数の細胞集団が存在することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特表2007−509601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂肪由来細胞に含まれるどの細胞集団に治療効果が備わっているのかについては、はっきりしたメカニズムが解明されていない。このため、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞によって所望の効果を得られない場合も発生する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞の移植に先立って、その治療効果を簡易に予測することができる脂肪由来細胞の評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、脂肪組織から単離された脂肪由来細胞に対して、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現を測定し、測定された前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271が、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現しているか否かを判定する脂肪由来細胞の評価方法を提供する。
【0007】
発明者らは表面抗原マーカーCD31(抗原:Plate Endothelial Cell Adhesion Molecule-1)、CD34(抗原:分子量約110kDaの単鎖膜貫通型リン酸化糖タンパク)、CD45(抗原:白血球共通抗原)およびCD271(抗原:Nerve growth factor receptor)を用いて、脂肪由来細胞について各表面抗原マーカーの発現を測定し、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271で分画される細胞群は接着能が高く、増殖能も高いことを見出した。
本発明によれば、特定の表面抗原マーカーの発現を測定することによって、単離された細胞の接着能および増殖能を判定することができる。よって、脂肪組織に含まれている様々な細胞の中から目的とする治療効果の高い細胞を選択し、その治療効果を簡易に予測することができる。
【0008】
上記発明においては、脂肪組織から単離された多数の脂肪由来細胞を含む細胞群について、その全細胞数と、前記表面抗原マーカーがCD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現していると判定された細胞数とをカウントしてその構成比率を算出し、算出された前記構成比率に基づいて細胞群の治療効果を判定することとしてもよい。
【0009】
このようにすることで、接着能および増殖能が高い細胞群の細胞数および構成比率を求めることができる。よって、採取された脂肪組織中の目的とする細胞の数量に個体差があったとしても、その治療効果を簡易に予測することができ、脂肪由来細胞の移植に先立って、脂肪組織採取量または移植細胞数を決定することができる。
また、上記発明においては、前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現の検出、前記判定および前記構成比率の算出が、フローサイトメトリによって行われることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂肪組織から分離した脂肪由来細胞の移植に先立って、その治療効果を簡易に予測することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法について説明する。
本発明の実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法は、例えば、脂肪組織から単離された脂肪由来細胞について、表面抗原マーカーの発現により細胞または細胞群の接着能および増殖能を評価する脂肪由来細胞の評価方法である。この評価方法は、脂肪組織から単離された脂肪由来細胞に対して、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現を測定し、この測定された前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271が、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現しているか否かを判定することによって行われる。
【0012】
前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現の測定は、脂肪組織から単離された脂肪由来細胞についてフローサイトメトリにより行われる。すなわち、細胞の膜表面で発現している前記表面抗原CD31、CD34、CD45およびCD271に対する抗体(細胞表面マーカー)であって、予め蛍光色素等で標識されているCD31抗体、CD34抗体、CD45抗体およびCD271抗体がそれぞれ結合される。これらの抗体が結合されている細胞に、フローサイトメータ等から発せられた励起光が照射されると、前記抗体が結合している細胞から蛍光が発せられる。この蛍光を測定することにより前記表面抗原マーカーの発現を確認することができる。
【0013】
前記蛍光色素は、APC(Allophycocyanin)、PE(Phycoerythrin)、PE−Cy7(Phycoerythrin−Cyanin7)またはAPC−Cy7(Allophycocyanin−Cyanin7)等を使用する。前記CD31抗体、CD34抗体、CD45抗体およびCD271抗体がそれぞれ異なる前記蛍光色素で標識されている場合は、前記蛍光色素の種類によって放出される波長が異なるため、同時に複数の前記表面抗原マーカーの発現を測定することができる。
【0014】
測定された前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271が、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現しているか否かの判定を行う際、前記表面抗原マーカーが発現していない状態を測定しておく。つまり、IgG等のアイソタイプコントロール(ネガティブコントロール)を用いて自家蛍光等の非特異的な反応による影響を測定し、ネガティブ(−)の状態を確認する。次に、前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271を用いた測定を行い、ネガティブ(−)の状態をもとにポジティブ(+)であるか否かを判断する。ネガティブ(−)の状態から変動が生じて蛍光強度が高くなった場合はポジティブであるといえる。例えば、CD31についてポジティブである細胞はCD31、ネガティブである細胞はCD31と表記する。このようにして各前記表面抗原マーカーの発現について判断を行い、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現している細胞または細胞群を特定する。
【0015】
発明者らは表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271を用いて、脂肪由来細胞についてこれらの表面抗原マーカーの発現を測定し、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45かつCD271で分画される細胞群は、他の分画と比較して生着能が高い細胞群であることを見出した。したがって、採取された細胞の接着能および増殖能が高いか否かについて、前もって判断することができる。
【0016】
次に、本実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法の一実施例について図1から図4を参照して説明する。
脂肪由来細胞は、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素を用いて脂肪組織から単離される。このようにして単離された脂肪由来細胞とCD31抗体、CD34抗体、CD45抗体およびCD271抗体を混合し、反応させた評価用試料SAを用意する。この評価用試料SAとは別に、単離された脂肪由来細胞とIgG等のアイソタイプコントロールを混合したコントロール試料SBを、抗体に標識されている蛍光色素の種類に応じて用意する。
【0017】
図1は、表面抗原マーカーCD31およびCD45の発現および細胞群の分画を示すドットプロット(2パラメータヒストグラム)である。縦軸は表面抗原マーカーCD31の蛍光強度、横軸は表面抗原マーカーCD45の蛍光強度をそれぞれ表している。
【0018】
まず、表面抗原マーカーCD31用のコントロール試料SB31および表面抗原マーカーCD45用のコントロール試料SB45を測定し、自家蛍光等の非特異的反応による影響を確認する。このコントロール試料SB31の測定結果をCD31(ネガティブ)の状態とし、図1のヒストグラムについてCD31(ネガティブ)とCD31(ポジティブ)との境界線K1を決定する。同様にしてコントロール試料SB45を測定し、CD45とCD45との境界線K2を決定する。これらの前記境界線K1およびK2をもとにCD31かつCD45である細胞分画をP1、CD31かつCD45である細胞分画をP2、CD31かつCD45である細胞分画をP3、CD31かつCD45である細胞分画をP4とした。
【0019】
評価用試料SAを測定し、前記細胞分画P1からP4をもとに細胞群Fの発現を特定した。現れた細胞群Fは、CD31かつCD45である細胞群F1、CD31かつCD45である細胞群F2、CD31++かつCD45である細胞群F3、CD31またはCD31かつCD45である細胞群F4の4群であった。
【0020】
これら4つの細胞群F1からF4を個別に培養すると、図3に示すように、細胞群F3およびF4は接着細胞がみられず、細胞群F1およびF2は接着細胞がみられた。細胞群F1の細胞のうち1%の細胞が接着、増殖し、細胞群F2の細胞のうち0.1%以下の細胞が接着し、増殖した。よって、細胞群F1は他の細胞群F2からF4と比較して最も接着能が高い細胞群であるといえる。
【0021】
図2は、CD31かつCD45である細胞群F1について測定された、表面抗原マーカーCD271およびCD34の発現および細胞群の分画を示すドットプロットである。縦軸は表面抗原マーカーCD271の蛍光強度、横軸は表面抗原マーカーCD34の蛍光強度をそれぞれ表している。
【0022】
上記の方法と同様にして、表面抗原マーカーCD271用のコントロール試料SB271および表面抗原マーカーCD34用のコントロール試料SB34を測定し、自家蛍光等の非特異的反応による影響を確認する。コントロール試料SB271の測定結果をCD271の状態とし、図2のヒストグラムについてCD271とCD271との境界線K3を決定する。同様にして表面抗原マーカーCD34用のコントロール試料SB34を測定し、CD34とCD34との境界線K4を決定する。これらの前記境界線K3およびK4をもとに、CD271かつCD34である細胞分画をP5、CD271かつCD34である細胞分画をP6、CD271かつCD34である細胞分画をP7、CD271かつCD34である細胞分画をP8とした。
【0023】
前記評価用試料SAに含まれる細胞群F1をさらに解析し、前記細胞分画P5からP8をもとに表面抗原マーカーCD271およびCD34の発現について特定した。前記細胞群F1は、CD271かつCD34である細胞群F1−1、CD271かつCD34である細胞群F1−2、CD271かつCD34である細胞群F1−3、CD271かつCD34である細胞群F1−4の4群であった。
【0024】
前記細胞群F1から分画されたこれら4つの細胞群F1−1からF1−4を個別に培養すると、図4に示すように、細胞群F1−1およびF1−2は接着細胞がみられず、細胞群F1−3およびF1−4は接着細胞がみられた。細胞群F1−3の細胞のうち0.5%の細胞が接着、増殖し、細胞群F1−4の細胞のうち2.5%の細胞が接着し、増殖した。よって細胞群F1−4は他の細胞群F1−1からF1−3と比較して最も接着能が高い細胞群であるといえる。
【0025】
接着能が高い細胞群F1−4は、CD31かつCD45である細胞群F1をさらにCD271およびCD34によって分画された、CD271かつCD34の発現を示す細胞群である。したがってCD31、CD34、CD45かつCD271を発現しているか否かを判定することによって、脂肪由来細胞の接着能を評価することができる。よって、脂肪組織に含まれている様々な細胞の中から目的とする治療効果の高い細胞を選択し、脂肪由来細胞の有する治療効果を簡易に予測することができるという効果を奏する。
【0026】
前記評価用試料SAについて測定に使用した細胞の全細胞数は12474cellsであり、全細胞数中の細胞群F1の細胞数は5799cells、細胞群F1中の細胞群F1−4の細胞数は3476cellsであった。これらの細胞数から、前記評価用試料SA中の細胞群F1−4の構成比率を計算すると27.9%であった。このように、目的とする治療効果の高い細胞の構成比率を計算することによって、採取された脂肪組織中の目的とする細胞の数量に個体差があったとしても、その治療効果を簡易に予測することができるという効果を奏する。
なお、これらの表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の測定順序は上記実施例に限られず、また、前記表面抗原マーカーを1つずつ4回測定してもよいし、4つを同時に測定することとしてもよい。また、上記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271に加えて、他の表面抗原マーカーを組み合わせて測定してもよいこととする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法において、表面抗原マーカーCD31およびCD45の発現および細胞群の分画を示すヒストグラムである。
【図2】本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法において、細胞群F1についての表面抗原マーカーCD271およびCD34の発現および細胞群の分画を示すヒストグラムである。
【図3】本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法において、フローサイトメトリを用いた測定によって分画された各細胞群についての接着率を示す顕微鏡写真である。
【図4】本発明の一実施形態に係る脂肪由来細胞の評価方法において、フローサイトメトリを用いた測定によって分画された各細胞群についての接着率を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0028】
SA 評価用試料
SB コントロール試料
K 境界線
P 細胞分画
F 細胞群


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から単離された脂肪由来細胞に対して、表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現を測定し、
測定された前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271が、CD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現しているか否かを判定する脂肪由来細胞の評価方法。
【請求項2】
脂肪組織から単離された多数の脂肪由来細胞を含む細胞群について、その全細胞数と、前記表面抗原マーカーがCD31、CD34、CD45かつCD271の組み合わせで発現していると判定された細胞数とをカウントしてその構成比率を算出し、
算出された前記構成比率に基づいて細胞群の治療効果を判定する請求項1に記載の脂肪由来細胞の評価方法。
【請求項3】
前記表面抗原マーカーCD31、CD34、CD45およびCD271の発現の検出、前記判定および前記構成比率の算出が、フローサイトメトリによって行われる請求項2に記載の脂肪由来細胞の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−128051(P2009−128051A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300512(P2007−300512)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】