説明

脚装具

【課題】ロール方向から見たときの重量バランスがよく、足を持ち上げたときに足が内側に寄ることのない脚装具を提供する。
【解決手段】脚装具100は、ユーザの脚を揺動する脚装具である。脚装具100は、ユーザの大腿と下腿の夫々装着される大腿リンク2と下腿リンク12を備える。下腿リンク12は大腿リンク2に揺動可能に連結されている。大腿リンク2には、脚の横方向外側に配置されており、下腿リンク12を揺動させるモータ3が取り付けられている。下腿リンク12の脚内側には、カウンタウエイト30が取り付けられている。カウンタウエイト30は、モータ3の重量に起因して脚の付け根でロール軸周りに生じる脚装具のモーメントMT1を相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの脚の動きを補助する脚装具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている長下肢装具に加えて、近年ではアクチュエータによって下腿を積極的に動かす脚装具が研究されている。アクチュエータを有する脚装具は、「パワードスーツ」、「歩行補助(支援)装置」など様々な呼称がある。本明細書では、そのような装置を「脚装具」と総称することにする。
【0003】
アクチュエータを備えた脚装具の一例が特許文献1に開示されている。その装置は、モータが脚の関節にトルクを加え、脚の動きをサポートする。モータは、脚装具をユーザが装着したときにユーザの股関節と膝関節の側方(ユーザの横方向であり膝関節については横方向外側)に位置する。
【0004】
ここで、本明細書で用いる座標軸に関する用語を説明しておく。ピッチ軸は、ユーザの体側方向(横方向)を向く軸を意味する。ロール軸は、ユーザが直立姿勢をとったときに前後方向を向く軸を意味する。ヨー軸は、ユーザが直立姿勢をとったときにユーザの体幹の長手方向を向く軸を意味する。別言すればヨー軸は鉛直方向を向く軸を意味する。なお、「ピッチ軸」、「ロール軸」、及び、「ヨー軸」は、ユーザに固定された座標系を基準として定義される。例えば、下腿のヨー軸は、下腿の長手方向に伸びる中心線に相当する。足のヨー軸は、足裏面と直交し、足首関節の回転軸を通る直線に相当する。本明細書では、脚装具を装着したユーザを基準にしたロール軸、ピッチ軸、及び、ヨー軸を、脚装具のロール軸、ピッチ軸、及び、ヨー軸と呼称する。本明細書で用いる「ピッチ軸」、「ロール軸」、及び、「ヨー軸」という用語は、ロボット工学で一般的に用いられる用語と同じ意味で用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−301124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脚の側方に重量が嵩むモータが配置されていると、ロール方向(ユーザの前方)から見たときの脚装具の重量バランスが悪い。特に、脚の横方向外側にアクチュエータ等の重量物が配されていると、足を持ち上げたとき、アクチュエータ等の重量により足の先端が内側に寄ってしまう。歩行中の遊脚の足先が内側に寄ってしまうと他方の脚に引っかかる虞がある。本明細書は、ロール方向(ユーザの前方)から見たときの重量バランスがよく、足を持ち上げたときに足が内側に寄ることのない脚装具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する脚装具は、大腿リンク、下腿リンク、アクチュエータを備える。大腿リンクはユーザの大腿に装着される。下腿リンクは大腿リンクに揺動可能に連結されており、ユーザの下腿に装着される。アクチュエータは脚の横方向外側に配置されている。アクチュエータは下腿リンクを揺動させる。この脚装具はさらに、アクチュエータの重量に起因して脚の付け根でロール軸周りに生じるモーメントを相殺するバランス手段を備える。
【0008】
バランス手段の一態様は、ユーザの脚の横方向内側で大腿リンク又は下腿リンクに取り付けられるカウンタウエイトである。カウンタウエイトは、ただの錘でもよいが、アクチュエータを制御するコントローラ及び/又はアクチュエータに電力を供給するバッテリをカウンタウエイトとして用いることが好適である。
【0009】
バランス手段はカウンタウエイトという部品で実現されてもよいが、大腿リンク又は下腿リンクの構造そのものを工夫することによっても実現できる。即ち、大腿リンクと下腿リンクの一方が、脚の横方向の内側と外側で脚に沿って伸びるフレームを有しており、内側のフレームの重さを外側のフレームよりも重くすることによってバランス手段を実現することもできる。内側のフレームの重さを外側のフレームの重さよりも重くするには、内側のフレームを外側のフレームよりも大きく(太く)することで実現してもよいし、内側のフレームの材料として、外側のフレームの密度よりも高い密度の材料を用いることによって実現してもよい。例えば、外側のフレームには密度の低いチタン合金を使い、内側のフレームにはチタン合金よりも密度の高いステンレス又は鉄を使えばよい。あるいは、密度の低い材料としてCFRP(カーボンファイバ強化プラスティック)を用いることも好適である。
【0010】
上記の手法は、脚の付け根におけるロール軸周りのモーメントのバランスを調整するというものである。そのような手法のほか、バランス手段は、ユーザの腰からアクチュエータを吊るす支持部材で実現されることも好適である。この手法は、バランスを取るための特別な重量増加を伴わない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施例の脚装具の斜視図である。
【図2】第1実施例の脚装具の正面図である。
【図3】第2実施例の脚装具の正面図である。
【図4】第3実施例の脚装具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図を参照して第1実施例の脚装具100を説明する。図1に、ユーザHが装着した脚装具100の模式的斜視図を示す。図2に、ユーザHが装着した脚装具100の正面図を示す。本実施例では、脚装具100はユーザHの右脚に装着される。脚装具100は、ユーザの右膝関節にトルクを加えて歩行動作を補助する。脚装具100は、大腿リンク2、下腿リンク12、足リンク22によって構成される多リンク構造を有している。
【0013】
図に示す座標系について説明する。図に示すXYZ座標系において、X軸がロール軸に相当し、Y軸がピッチ軸に相当し、Z軸がヨー軸に相当する。ロール軸(X軸)は、ユーザHが直立姿勢をとったときの前後方向に相当し、ピッチ軸(Y軸)は、ユーザの横方向(側方)に相当し、ヨー軸(Z軸)は、ユーザHが直立姿勢をとったときの上下方向(鉛直方向)に相当する。この座標系のとり方は以後の全ての図において共通である。
【0014】
大腿リンク2は、ユーザHの大腿に装着される。大腿リンク2には、モータ3が取り付けられている。なお、モータ3のカバー内には、モータ3を制御するためのコントローラユニット4や、下腿リンクの回転角を計測するセンサも配置されている。モータ3は、脚の横方向外側に位置するように大腿リンク2に固定されている。
【0015】
下腿リンク12は、ユーザHの下腿に沿って配置される。下腿リンク12は、ユーザHの下腿の側方両側に位置するメインフレーム13a、13bと、左右のメインフレームを連結する連結バー11を有している。脚の内側に位置するメインフレーム13aには、カウンタウエイト30がボルト31で取り付けられている。カウンタウエイト30は、モータ3の重量に起因して脚の付け根でロール軸周りに生じるモーメントを相殺するために取り付けられている。カウンタウエイト30については後で詳しく説明する。
【0016】
下腿リンク12は、膝ジョイント5a、5bによって大腿リンク2に対して揺動可能に連結されている。膝ジョイント5a、5bは、ユーザHの膝関節のピッチ軸(図のY軸)方向を向く回転軸と同軸に位置する。
【0017】
モータ3は、ユーザの右膝側方外側に位置する膝ジョイント5bに連結している。モータ3を駆動することによって、大腿リンク2に対して下腿リンク12がピッチ軸回りに揺動する。脚装具100は、歩行動作に合わせて下腿リンク12をピッチ軸回りに揺動させ、ユーザHの右膝関節にトルクを加え、歩行動作を補助する。モータ3はそのケース内に配置されたコントローラユニット4によって制御される。コントローラユニット4は、ユーザの歩行動作に同調するように下腿リンク12の揺動を制御する。歩行支援のための制御アルゴリズムについての説明は省略する。
【0018】
足リンク22は、ユーザHの足に固定される。足リンク22は、ユーザの足裏に固定されるソール26と、ソール26の側方両側から伸びているフレーム24a、24bを有している。図示を省略しているが、ソール26の上には靴が取り付けられ、その靴によって足リンク22がユーザの足に固定される。
【0019】
足リンク22は、一対の足首ジョイント28a、28bを介して下腿リンク12に連結している。詳しくは、足リンク22のフレーム24aが、ユーザの足首の内側で足首ジョイント28aを介して下腿リンク12のメインフレーム13aと連結している。足リンク22のフレーム24bが、足首の外側で足首ジョイント28bを介して下腿リンク12のメインフレーム13bと連結している。足首ジョイント28a、28bによって、足リンク22は、下腿リンク12に対してピッチ軸回りに回転することができる。足首の外側に位置する足首ジョイント28bには、下腿リンク12に対する足リンク22の角度を計測する角度センサが内蔵されている。
【0020】
図2は、ユーザHの右脚HRに装着された脚装具100をロール軸方向(ユーザの前方)から見た図である。符号CLが示す直線は、ロール軸方向から見たときの右脚の中心線である。符号MPは、脚の付け根における脚のロール軸回りの回転中心である。符号MT1、MT2は脚装具100が脚に及ぼす回転中心MP周りのモーメントの成分を表す。MT1はモータ3に起因するモーメント成分を示しており、MT2はカウンタウエイト30に起因するモーメント成分を示している。
【0021】
図2に示すように、モータ3は、脚の横方向外側に張り出している。モータ3は重量が嵩む。モータ3の重量に起因して、脚の付け根MPには、ロール軸反時計周りのモーメントMT1が生じる。他方、カウンタウエイト30は、脚の横方向の内側に配置されている。カウンタウエイト30の重量に起因する脚の付け根MPのロール軸周りのモーメントMT2の方向は、時計周りとなる。カウンタウエイト30の重量は、モーメントMT2がモーメントMT1を相殺する大きさに選ばれる。従って、脚装具100は、脚の付け根MPロール軸周りにほとんどモーメントを生じない。それゆえ、ユーザが右脚を上げたときにも足先が左右のいずれにも寄ることがない。この脚装具100は、ロール軸方向からみたときのバランスがよく、ユーザが足を上げたとき脚装具100が足先を左あるいは右に振らすことがない。そのためユーザは脚装具100を装着したままスムースに歩行することができる。
【0022】
カウンタウエイト30は、金属の塊でよいが、モータ3やセンサ類を制御するコントローラ、及び/又は、モータ3に電力を供給するバッテリを含むものであってもよい
【0023】
図3に、第2実施例の脚装具200の正面図を示す。第2実施例の脚装具200は、第1実施例の脚装具100と異なり、カウンタウエイトを備えない。その代わり脚装具200では、下腿リンク212の内側のメインフレーム213aが外側のメインフレーム213bと異なる材質で作られている。外側のメインフレーム213bはCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)で作られており、内側のメインフレーム213aはステンレスで作られている。なお、図3において内側のメインフレーム213aに付したグレーのハッチングは、外側のメインフレーム213bとの材質の違いを表している。CFRPの密度は概ね1.5〜1.7g/cmである。他方、ステンレスの密度は概ね7.7〜7.9g/cmである。密度が大きく異なるため、大きさがほぼ同じであっても内側のメインフレーム213aの方が外側のメインフレーム213bよりもはるかに重い。この重さの差が、脚の付け根MPのロール軸時計周りのモーメントMT2を生じる。このモーメントMT2が、モータ3の重量に起因して生じるモーメントMT1を相殺する。その結果、第2実施例の脚装具200も第1実施例の脚装具100と同様に、ロール軸方向からみたときのバランスがよく、ユーザが足を上げたとき脚装具200が足先を左あるいは右に振らすことがない。
【0024】
第2実施例では、下腿リンク内側メインフレーム213aの材料として、外側メインフレーム213bの材料よりも密度が高い材料を選定した。密度を変えることなく、内側メインフレームの重さを外側メインフレームよりも重くしてもよい。例えば、内側メインフレームの太さを外側メインフレームよりも太くすることによって、内側メインフレームを外側メインフレームよりも重くすることができる。
【0025】
図4に、第3実施例の脚装具300の正面図を示す。第3実施例の脚装具300は、第1実施例の脚装具100のカウンタウエイト30を備えない。その他は、第1実施例の脚装具100の全ての部品を備えている。第3実施例の脚装具300はさらに、ユーザの腰に装着する腰ベルト40と、腰ベルト40から伸びる吊りベルト42を備えている。吊りベルト42の下端はモータ3に結ばれている。吊りベルト42は、コントローラユニット4を含むモータ3を腰から吊り支えている。重量が嵩むモータ3は吊りベルト42によって支えられているため、脚の付け根MP周りにはモーメントを生じさせない。第3実施例の脚装具300は、第1、第2実施例の脚装具とは異なる手段(吊りベルト42)によって、脚付け根MPのロール軸周りのモーメントのバランスを取っている。第3実施例の脚装具300も、第1、第2実施例の脚装具と同様に、ロール軸方向からみたときのバランスがよく、ユーザが足を上げたとき脚装具100が足先を左あるいは右に振らすことがない。
【0026】
なお、モータ3は、膝関節の外側に位置しているため、右脚をスイングさせたときモータ3は吊りベルト42の上端を中心としてピッチ軸周りに円弧を描く。従って吊りベルト42は、脚のスイングの間であっても緩むことがなく、常にモータ3を支持し続ける。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0028】
2:大腿リンク
3:モータ
4:コントローラ
5a、5b:膝ジョイント
11:連結バー
12:下腿リンク
13a、12b:メインフレーム
22:足リンク
24a、24b:フレーム
26:ソール
28a、28b:足首ジョイント
30:カウンタウエイト
40:腰ベルト
42:吊りベルト
100、200、300:脚装具
212:下腿リンク
213a、212b:メインフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの脚を揺動する脚装具であり、
ユーザの大腿に装着される大腿リンクと、
大腿リンクに揺動可能に連結されており、ユーザの下腿に装着される下腿リンクと、
脚の横方向外側に配置されており、下腿リンクを揺動させるアクチュエータと、
アクチュエータの重量に起因して脚の付け根でロール軸周りに生じるモーメントを相殺するバランス手段と、
を備えることを特徴とする脚装具。
【請求項2】
前記バランス手段は、ユーザの脚の横方向内側で大腿リンク又は下腿リンクに取り付けられるカウンタウエイトであることを特徴とする請求項1に記載の脚装具。
【請求項3】
カウンタウエイトは、アクチュエータを制御するコントローラ及び/又はアクチュエータに電力を供給するバッテリを含むことを特徴とする請求項2に記載の脚装具。
【請求項4】
大腿リンクと下腿リンクの一方は、脚の横方向の内側と外側で脚に沿って伸びるフレームを有しており、内側のフレームの重さが外側のフレームの重さよりも重いことを特徴とする請求項1に記載の脚装具。
【請求項5】
内側のフレームの材料の密度が外側のフレームの密度よりも高いことを特徴とする請求項4に記載の脚装具。
【請求項6】
バランス手段は、ユーザの腰からアクチュエータを吊るす支持部材であることを特徴とする請求項1に記載の脚装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−235882(P2012−235882A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106423(P2011−106423)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)