説明

脱インキパルプの製造方法およびそれに用いる脱インキ助剤

【課題】白色度が高く、残存インキ量の少ない高品質な脱インキパルプを製造する。
【解決手段】脱インキパルプの製造工程において、パルプ濃度が0.5〜2.0重量%の範囲にあるパルプスラリーに、フローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所に、テルペン化合物を添加することにより、原料であるパルプ繊維からのインキ除去性能を向上させることができ、商品価値の高い脱インキパルプを高収率で得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷古紙から脱インキパルプ(以下「DIP」ともいう)を製造する工程において、高品質なDIPを高収率で回収する製造方法および脱インキ助剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源、環境保護の観点から古紙パルプの利用が高まってきている。近年、この傾向が強まり、今まで利用率の低かった低品質古紙・難脱インキ古紙を原料として使用しなければならなくなりつつある。グリーン購入法対象品やエコマーク認証製品などの環境に配慮した製品を取り扱うユーザーが多くなっている一方で、バージンパルプ製品と同様の品質を求められるケースも多くなってきている。製紙業界では、DIPの高品質化、コストダウンに向けた取り組みが積極的に行われている。
【0003】
DIPの高品質化とコストダウンをはかるには、離解工程とフローテーション工程における脱インキ処理が重要視されている。特許文献1(特開2006−169668号公報)には、離解工程中に脱インキ剤として高級アルコール系脱インキ剤と脂肪酸系脱インキ剤の2液を同時添加する方法が提案されているが、近年の古紙原料の多様化、白水の悪化、填料の変動や季節要因に応じたフローテーター内における発泡性の調整が難しく、該調整作業が煩雑となっている。また、特許文献2(特開2007−119955号公報)には、洗浄工程における装置面の改善による解決が提案されている。しかしながら、この方法では、新聞用紙の中性紙化による原料古紙の変化、大豆油インキの普及やUVインキの出現によるインキの組成や性状の変化により、脱インキ処理が困難である難脱インキ性古紙が増加してきており、チラシなどの塗工紙に含有するバインダーや炭カルなどのフィラーの影響により脱インキ工程中に泡が発生することや、白水のクローズド化により完成パルプに微細インキが蓄積し、得られたDIPの品質低下やパルプ回収率の低下を招く要因が増加するという問題点がある。
【0004】
そこで、フローテーション工程において、インキ粒子の捕集性と気泡の浮上性を両立させるためには、気泡を最適な大きさに調整することが重要となり、フローテーターの空気量の調整や起泡剤の添加が一般的に行われているが、気泡や発泡性能の管理が煩雑であり、その結果、DIPの白色度やパルプ回収率に大きな影響を与えている。
【0005】
これまで、脱インキ剤にテルペン炭化水素類、パインオイル、テルペンアルコール類などのテルペン化合物を使用する方法が種々提案されている。例えば、特許文献3(国際公開第98/55683号パンフレット)には、脱インキ剤の主成分として使用される合成ゴムの溶剤として、テルペン炭化水素類のリモネンが使用されており、また、特許文献4(特開平3−504523号公報)は、リモネンやα−ピネンなどのテルペン炭化水素類を高起泡性かつ低乳化性の界面活性剤と混合して脱インキ剤としたものが提案されている。これらは、合成ゴムあるいはインキを溶解させる溶剤としてのみ使用されており、本発明のフローテーターでの発泡の調整を目的としたテルペン化合物とは根本的に異なる。これらは、テルペン炭化水素類をインキ粒子の捕集剤として作用させているが、いずれもテルペン化合物の添加場所について特定されておらず、インキ粒子の捕集性と気泡の浮上性を両立させることができなかった。
【0006】
さらに、特許文献5(特開昭58−215500号公報)には、脱インキ剤として、テルペンアルコールと脂肪酸石鹸を混合してなる液体石けんが使用されているが、パインオイルは脂肪酸石鹸を水溶化し安定化させるために使用されているにすぎず、高い白色度のDIPを高いパルプ回収率で得ることはできない。また、添加場所などは、特定されていない。
【0007】
特許文献6(特開2007−277768号公報)には、脱インキ剤としてテルペンアルコール類とポリオキシアルキレン基を有する化合物を併用または配合して添加することが提案されている。しかし、テルペンアルコール類は、ポリオキシアルキレン基を有する化合物との組み合わせであり、脱インキ剤の添加場所は一般的な添加場所である離解工程での使用方法となっている。さらに、この処方では、フローテーション工程における発泡性と破泡性のバランスを調整することが難しいため、インキ除去性を向上させることが不十分である。このため、高い白色度のDIPを高いパルプ回収率で得ることは難しいという問題があった。
【0008】
特許文献7(特開2000−282383号公報)には、フローテーション法における脱インキ助剤の添加場所として、離解工程後の濃縮工程時、濃縮工程後のニーディング工程時、熟成工程時、熟成工程後の希釈工程時を挙げているが、特定はされておらず、脱インキ助剤としてテルペン炭化水素類やテルペンアルコール類を使用したものではない。
【特許文献1】特開2006−169668号公報
【特許文献2】特開2007−119955号公報
【特許文献3】国際公開第98/55683号パンフレット
【特許文献4】特開平3−504523号公報
【特許文献5】特開昭58−215500号公報
【特許文献6】特開2007−277768号公報
【特許文献7】特開2000−282383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フローテーション法によるDIPの製造方法において、遊離インキの捕集効果を向上させ、白色度が高くて残存インキ量の少ない高品質なDIPを高いパルプ回収率で得ることができる製造方法および脱インキ助剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも、離解工程、除塵工程、フローテーション工程を含むフローテーション法による脱インキパルプの製造方法において、除塵工程および/またはフローテーション工程におけるパルプ濃度が0.5〜2.0重量%の範囲にあるパルプスラリーに、テルペン化合物を添加することを特徴とする脱インキパルプの製造方法に関する。
ここで、テルペン化合物の添加量は、絶乾パルプに対し、好ましくは0.01〜5.0重量%である。
また、テルペン化合物を添加する場所としては、好ましくはフローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所である。
さらに、フローテーション工程の前に設けたコンディショナー槽にテルペン化合物を添加してもよい。
テルペン化合物としては、テルペンアルコール類を含むものが好ましく、このテルペンアルコール類としては、ターピネオール、リナロール、ゲラニオール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、メントール、テルピネン4オールの群から選ばれる少なくとも1種である。
テルペン化合物としては、さらに好ましくはパインオイルである。
また、本発明は、フローテーション法による脱インキパルプの製造方法において、テルペン化合物を主成分とすることを特徴とする脱インキ助剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、フローテーション法によるDIPの製造方法において、除塵工程および/またはフローテーション工程で、パルプ濃度が0.5〜2.0重量%の範囲にあるパルプスラリーに、具体的にはテルペン化合物をフローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所やフローテーター前のコンディショナー槽へ添加することにより、フローテーター内に吹き込まれる空気によって形成した気泡の粒径を調整して表面積を最適化し、原料であるパルプ繊維から剥離したインキ粒子の浮上速度を最適化するものである。そのため、インキ粒子の捕集性能と気泡の浮上性能との両方の効果を奏しながら、テルペン化合物の含有量を調整することにより、両性能のバランスをとることが可能となる。フローテーターの表層では、上記気泡が効率よく破泡し、インキ粒子とパルプ繊維との選択選別性能が向上するため、得られる完成パルプの回収率が向上し、該パルプ繊維の残存インキ量を減少することができる。つまり、高い白色度の高品質なDIPを高いパルプ回収率で得ることが可能であり、フローテーターでの原料の滞留時間を短縮できるためDIP生産量の向上が見込まれる。
【0012】
また、原料であるパルプ繊維から剥離したインキを系外に効果的に排除することができるため、フローテーション工程の次工程に漂白工程がある場合、漂白剤量やアルカリ量を削減でき、DIPの製造系内のCODを低減できる。このため、環境負荷が少なくなる効果を奏し、さらにはコストダウンを図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は必ずしも以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。
【0014】
DIPの製造方法には、フローテーション法と洗浄法があるが、本発明はフローテーション法においてなされるものであり、DIPの製造の結果、得られる完成パルプの白色度などの品質にかかわらず、少なくとも離解工程、除塵工程、フローテーション工程を含んでなるDIPの製造方法に関するものである。所望により、これらの工程に漂白工程を含んでなる製造工程であってもよく、これらの各工程の順序、各工程で使用する設備機器は限定されず、原料となる古紙やパルプスラリーの種類や使用量、またはDIPの白色度などの品質要求によって適宜変更可能である。なお、フローテーション法は、洗浄法と併用される場合もある。
【0015】
ここで、古紙原料としては、新聞・雑誌用紙、板紙、段ボール原紙、衛生用紙、印刷・情報用紙などが挙げられるが、高白色度が特に要求される新聞古紙DIP、上質古紙DIP、新聞・雑誌古紙高白色DIPの製造において、特に本発明の有する効果を奏することができる。
【0016】
以下に高白色度新聞古紙DIPおよび上質系古紙DIPの製造工程における実施形態を例示するが、この方法に限定されるものではない。
【0017】
新聞系古紙を原料としたDIPの製造工程は、さらにその工程を詳細に説明すると、離解工程、除塵工程、分散工程、漂白工程、フローテーション工程、洗浄・脱水工程に大きく分類される。
各工程における一般的な設備機器は、離解工程:ドラムパルパ、除塵工程:高濃度クリーナ、粗選ホールスクリーン、精選スリットスクリーン、一段目フローテーション工程:フローテーター、分散工程:ニーダ、漂白工程:リアクタ、二段目フローテーション工程:フローテーター、洗浄・脱水工程:精選スリットスクリーン、フォワードクリーナ、リバースクリーナ、ディスクフィルタ、スクリュープレス、ホットディスパーザ、高速度ベルトフィルタが挙げられる。
【0018】
上質系古紙を原料としたDIPの製造は、原料の紙質などの品質が安定していることから比較的容易に製造可能である。
上質系古紙を原料としたDIPの製造工程は、離解工程、除塵工程、フローテーション工程、洗浄工程、漂白工程に大きく分類される。
各工程における一般的な設備機器は、離解工程:高濃度パルパ、除塵工程:高濃度クリーナ、粗選スリットスクリーン、精選スクリーン、フォワードクリーナ、フローテーション工程:フローテーター、漂白工程:ニーダ、ハイポ漂白装置、エキストラクタ、洗浄工程:洗浄濃縮機が挙げられる。
【0019】
DIPの製造工程では、一般的に脱インキ剤が離解工程と分散工程などで添加される。脱インキ剤は、紙表面やパルプ繊維に作用し、該紙表面やパルプ繊維から付着しているインキを剥離してパルプとインキを分離し、インキを遊離するための薬剤であり、界面活性剤などが使用される。脱インキ剤には、脂肪酸・脂肪酸エマルジョン、脂肪酸誘導体、油脂誘導体、高級アルコール誘導体などが挙げられる。上記誘導体は、一般的には親水基としてアルキレンオキサイドが付加されたものが多く、本発明に使用される脱インキ剤は、特に限定されないが、高級アルコールエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物などを使用すればよい。
【0020】
離解工程は、高濃度パルパやドラムパルパなどの離解機に苛性ソーダ、珪酸ソーダなどのアルカリ性薬剤と共に脱インキ剤を添加し、原料である古紙のパルプ繊維からインキを剥離し、該インキ粒子を微細化する。分散工程は、ニーダやディスパーサーで繊維からインキを剥離・分散させる工程で、脱インキ剤をディスパーサー処理直前に添加する。この工程で使用される脱インキ剤は、インキへの浸透、剥離効果に優れる高級アルコール系界面活性剤が使用される。
【0021】
また、フローテーション法に必要となるフローテーション工程では、フローテーター内に吹き込まれる空気により形成した気泡表面に、剥離したインキ粒子を捕集し、気泡と共に浮き上がらせ系外に排出する。この工程で作用する脱インキ剤は、一般的にフローテーション工程より前段の分散工程に添加され、インキ粒子の捕集性の強い脂肪酸あるいは脂肪酸石鹸がよく使用される。
【0022】
本発明のテルペン化合物は、除塵工程および/またはフローテーション工程において、パルプ濃度が0.5〜2.0重量%の範囲にあるパルプスラリーに添加する。さらに、0.5〜1.5重量%のパルプスラリーがより好ましい。パルプ濃度が0.5重量%より少ないとDIPの製造効率が悪いため経済的でなく、一方2.0重量%より多いとテルペン化合物の混ざりが悪く、パルプにテルペン化合物が浸透してしまい、フローテーター内の発泡性能が発揮されない。なお、除塵工程は、スリットスクリーン、スクリーン・クリーナーなどで原料中の異物を取り除く工程である。
ここで、本発明のテルペン化合物を除塵工程において添加する場合、例えばスクリーン前後のパルプスラリーと良く混合される場所に添加することが好ましく、パルプスラリーを送るポンプのサクション部分やスクリーン・クリーナーの入口付近に添加することがより好ましい。
【0023】
また、本発明のテルペン化合物をフローテーション工程において添加する場合、例えばフローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所に添加することが好ましく、例えば新聞系古紙を原料としたDIPの製造工程の場合、一段目のフローテーターおよび/または二段目のフローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所に添加することが挙げられる。また、一段目のフローテーターおよび/または二段目のフローテーターに、パルプスラリーを送るポンプのサクション部分やフローテーター装置の入口付近に添加することがより好ましい。
【0024】
さらに、例えば上質系古紙を原料としたDIPの製造工程の場合、フローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所として、フローテーターにパルプスラリーを送るポンプのサクション部分やフローテーター装置の入口付近に添加することがより好ましく挙げられる。
【0025】
本発明のテルペン化合物は、脱インキ剤と併用するが、フローテーターでの気泡を調整するものであり、脱インキ剤と同じ工程に添加するものではない。一般的に、脱インキ剤が添加される離解工程と分散工程にテルペン化合物を添加すると、離解工程ではパルプスラリーのパルプ濃度が2.0重量%より高いためにテルペン化合物の混ざりが悪く、フローテーター内の発泡性能が発揮されない。また、分散工程に添加すると、漂白阻害を起こすため、DIPの白色度が低下する。
【0026】
フローテーション工程において、フローテーター内に添加する場合には、パルプスラリーとの接触時間が十分確保できるようにすればよいが、一般にパルプスラリーとの接触時間が不足するため、該工程中の槽内において気泡が均一に発泡しない。上記工程中の槽の上部にテルペン化合物を添加すると表面の泡が消失し、インキ粒子とパルプ繊維の選別性が失われるため、得られるDIPにおいて白色度の改善が見られない。
【0027】
しかし、古紙原料の違いや季節的な要因による水温の違いなどによって、フローテーター内の発泡性を管理しづらい場合には、フローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所に該テルペン化合物を添加することが好ましいが、泡の状態を見ながら、フローテーター槽の上部から直接該テルペン化合物を添加するなどの調整を行ってもよい。
【0028】
また、本発明において、上記コンディショナー槽は、古紙原料の種類によってバラつきがでるpHや、夏場・冬場などの季節的な要因としてバラつきがでる水温や発泡性を管理するために設ける装置であり、希釈水および温調設備によりパルプ濃度、pH、温度を調整し、該装置に添加された本発明のテルペン化合物と原料のパルプスラリーを装置内アジテーターで充分に混合するための装置である。フローテーション工程の前にコンディショナー槽を設けることで、フローテーターでのインキ粒子の捕集性と気泡の浮上性を向上させることができる。
また、上記コンディショナー槽内上部に掻き取り装置を設置することがより好ましく、脱インキ剤およびテルペン化合物の添加により発生するインキ凝集物を系外に排出し、次のフローテーターでの装置の負荷を低減することができる。
【0029】
次に、本発明で用いられるテルペン化合物について説明する。テルペン化合物は、(Cのイソプレン則に基づく化合物の総称で、n=2の炭素数10の化合物をモノテルペン類、n=3で炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン、炭素数30以上のポリテルペンなどが挙げられる。テルペン化合物には、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンなどのテルペン炭化水素、ターピネオール、リナロールなどのテルペンアルコール類、シネオール、ターピニルアセテートなどの極性基含有テルペンなどが挙げられ、天然品、合成品の何れも使用できる。
【0030】
本発明のテルペン化合物に含まれるテルペンアルコール類としては、例えば、水酸基を有するモノテルペン類があり、ターピネオール、リナロール、ゲラニオール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、メントール、テルピネン4オールなどが挙げられ、天然品、合成品の何れも使用でき、これらの群から選ばれる一種もしくは併用して使用することができる。ターピネオール、リナロール、ジヒドロミルセノールの少なくとも1種以上を使用することが好ましく、これらは比較的安価で入手しやすい。
【0031】
テルペン炭化水素類としては、モノテルペン類のα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、ミルセン、アロオシメン、カンフェン、ボルニレン、パラメンテン−1、パラメンテン−2、パラメンテン−3、パラメンタジエン類、パラメンタン、2−カレン、3−カレン、ツジャンなどが挙げられる。また、セスキテルペン類は、ロンギホレン、カリオフィレン、カジネン、ツヨプセン、セドレン、クロベン、ロンギピネンなどが挙げられる。テルペン炭化水素類は、上記モノテルペン類およびセスキテルペン類を示すが、これらに限定されるものではなく、天然品、合成品の何れも使用でき、これらの群から選ばれる1種もしくは併用して使用することができる。
【0032】
ここで、ターピネオール、リナロール、ジヒドロミルセノールの合成法および副生成物や不純物について説明する。
【0033】
本発明のテルペンアルコール類であるターピネオールは、α−ピネンと水を原料として酸触媒を加えて加水反応を行い抱水テルペンとし、リン酸、硫酸、シュウ酸などによる脱水反応を経て合成される。主成分としてはα−ターピネオールで、副生成物でβ−ターピネオール、γ−ターピネオール、その他にボルネオール、イソボルネオール、フェンコール、テルピネン4オール、1,8−シネオールなど、テルペン炭化水素類としてジペンテン、Δ3カレン、カンフェン、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、α−フェランドレンなどが含まれる。
【0034】
本発明のテルペンアルコール類であるリナノールは、アセトン・アセチレン法、イソブテン・アセトン・ホルマリン法、イソプレン法、ピネン法などにより合成可能であり、例えばβ−ピネンを出発原料としたピネン法では、まずβ−ピネンを熱分解しミルセンとした後、塩酸、塩化銅などを加え塩化リナリルを経由し、酢酸ナトリウムと硫酸銅、および水酸化ナトリウムで加水分解することで得られる。副生成物としてゲラニオール、ネロールなどができる。また、α−ピネンを出発原料とした合成法は、まず水素添加によりピナンとし、酸化反応を行い水酸化ナトリウムなどで2−ピナノールに変換した後、熱分解により得られる。異性化物としてゲラニオール、ネロールも含まれる。その他にピネン法で合成したリナノールにはα−ピネン、β−ピネン、ピナン、ミルセン、オシメン、ジペンテン、ターピノーレン、テルピネンなどが含まれる。
【0035】
本発明のテルペンアルコール類であるジヒドロミルセノールは、α−ピネンから水素添加によりピナンとした後に熱分解しジヒドロミルセン経由で合成される。不純物として、α−ピネン、ピナン、ジヒドロミルセンが含まれる。
【0036】
本発明のテルペンアルコール類は、上記反応により合成した後に目的物質を高純度に精製し得ることができ、また、該合成後に単離し得ればよく、市販品を用いてもよい。また、本発明のテルペン化合物は、テルペンアルコール類を含んでいることが好ましく、上記反応により合成した後のテルペンアルコール類に、該合成の副生成物や不純物であるテルペン炭化水素を含んだ混合物であってもよく、一旦、高純度に精製したテルペンアルコール類にテルペン炭化水素類を混合したものでもよい。
【0037】
本発明のテルペン化合物として、さらに好ましくはパインオイルが挙げられ、本発明のパインオイルはターピネオールなどの環状のテルペンアルコール類を主成分とした精油を用いればよく、テルペンアルコール類およびテルペン炭化水素を含有することが好ましい。
【0038】
本発明のパインオイルは、合成パインオイルと天然パインオイルが挙げられる。
合成パインオイルは、例えば、ウッドテレビン、ガムテレビン、サルフェートテレビンから得られるα−ピネンと水を原料として、酸触媒により水和反応した後、蒸留工程によりテルペンアルコール類とテルペン炭化水素類の留分を分離して得られる。上記合成パインオイルに含まれるテルペンアルコール類は、α−ターピネオールが主成分で、β−ターピネオール、γ−ターピネオール、ボルネオール、イソボルネオール、フェンコール、テルピネン4オール、1,8−シネオールなどが挙げられる。また、テルペン炭化水素類としては、ジペンテン、Δ3カレン、カンフェン、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、α−フェランドレンなどが含まれるが、水和反応に使用する触媒によって含有する組成は異なる。上記合成パインオイルに含まれるテルペンアルコール類の純度は、蒸留精製の条件によって適宜変更可能である。入手、組成配合の調整の容易な点から、合成パインオイルを使用しても良く、該合成パインオイルは、商品名「パインオイルC#30」(ターピネオールの純度60%品)がヤスハラケミカル社から上市されている。
天然パインオイルは、例えば、松根から溶剤および水蒸気により抽出して得られる。
【0039】
本発明のテルペン化合物は、テルペンアルコール類を含有することが好ましく、高い白色度のDIPを得ることができる。テルペンアルコール類は、原料となる古紙の種類、パルプスラリーの濃度、DIPの要求される品質などに応じて、また、フローテーション工程における気泡の発泡調整やインキ除去性能などを鑑み、適宜選択し変更すればよい。さらに、テルペンアルコール類を5重量%〜95重量%含有することが好ましく、30重量%〜70重量%含有することがより好ましい。テルペンアルコール類の含有率が高くなると泡の粒径が小さく発泡に時間を要し、破泡時間も掛かる。一方、テルペンアルコール類の含有率が低くなると、泡の粒径が大きく発泡性は高くなるが、破泡時間が短くなるため安定した泡を形成できなくなる。
【0040】
本発明のテルペン化合物は、テルペンアルコール類の含有率によって、DIPの製造時に使用する水に対する親和性や表面張力が変わるため、例えば、Fedorsらが提案した極性の指標となる溶解性パラメーター(SP値)、(Fedors.R.F.,Jet Propul.lab.Quart.Tech.Rev,3,45,(1973).)を考慮して使用することが好ましい。
【0041】
テルペンアルコール類のSP値について、テルペンアルコール単体の多くは約9.0〜11.0の範囲にあり、例えばターピネオールは10.4、リナノールは9.6である。テルペン炭化水素の多くのSP値は約7.5〜8.7の範囲にあり、例えばジペンテンは8.3である。本発明のDIPを製造する工程において、本発明のテルペン化合物は、親水性の高いテルペンアルコール類は起泡性能を有し、逆にテルペン炭化水素類は破泡性能を有する効果を奏するため、原料となる古紙の種類、パルプスラリーの濃度、製造工程における作業性、DIPの要求される品質などに応じてテルペンアルコール類の含有率を適宜選択し使用することができる。
【0042】
本発明のテルペン化合物は、DIPの製造工程において、絶乾パルプに対し0.01〜5.0重量%添加することが好ましく、0.02〜0.1重量%添加することがより好ましい。絶乾パルプに対し0.01重量%よりも少ない添加量であれば本発明の奏する効果が得られず、一方5.0重量%よりも多い添加量であれば経済的でない。
【0043】
また、本発明のDIPの製造においては、テルペン化合物以外にその他の既知の副原料や脱インキ剤、起泡剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、凝集剤などの薬剤を使用してもよく、これらを組み合わせて使用するなどについては限定されない。
【0044】
さらに、本発明のDIPの製造において使用するテルペン化合物は、脱インキ助剤として用いることができる。
【0045】
本発明によるDIPの製造方法では、本発明の脱インキ助剤と脱インキ剤を併用することで、DIPの製造工程において、インキの剥離、捕集、浮上効果だけではなく、フローテーション工程内での気泡を適度に微細化し、気泡の表面積を増加させる相乗効果を奏する。
【0046】
本発明で使用する脱インキ剤の種類、添加量、添加場所などは、該脱インキ剤の有するインキの剥離性能、捕集性能のバランスなどを考慮し、適宜選択して使用可能であり、本発明のDIPの製造工程中における気泡の状態、発泡状態などを鑑み、本発明のテルペン化合物を含有する脱インキ助剤と併用して使用することが好ましい。
ここで、脱インキ剤としては、上記のように、脂肪酸・脂肪酸エマルジョン、脂肪酸誘導体、油脂誘導体、高級アルコール誘導体などが挙げられる。上記誘導体は、一般的には親水基としてアルキレンオキサイドが付加されたものが多く、本発明に使用される脱インキ剤は、特に限定されないが、高級アルコールエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物などを使用すればよい。脱インキ剤の具体例としては、花王社製の商品名「DI−767」、「DI−7020」、東邦化学工業社製の商品名「ネオスコアFW−780」、「FW−795」、日華化学社製の商品名「リポブライトDP−810」などが挙げられる。
脱インキ剤は、一般的に離解工程と分散工程で添加され、離解工程で使用する脱インキ剤は、絶乾パルプに対し0.3重量%以下、好ましくは0.1〜0.2重量%添加すればよく、分散工程で使用する脱インキ剤は、絶乾パルプに対し0.2重量%以下、好ましくは0.05〜0.1重量%添加すればよい。
【0047】
上記脱インキ剤の他、水酸化ナトリウム、珪酸ソーダなどのアルカリ薬剤、過酸化水素、次亜塩素酸塩などの漂白剤、高級アルコール硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩などの起泡剤、シリコーン油、オレイン酸、鉱物油などの消泡剤、抑泡剤、ピッチコントロール剤、pH調整剤、防腐剤、凝集剤などを使用してもよく、これらを組み合わせて使用するなど限定されない。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例中に記載の「%」は、重量%を示す。
また、テルペン化合物の純度測定は、ガスクロマトグラフィー(以下「GC」と略する)HEWLETT PACKARD製 HP6890GCSYSTEM、カラム:HP−5 Crosslinked 5% PH ME Siloxane 30m,i.d.=0.25mmを用いて求めた。
【0049】
調製例1
[パインオイルのターピネオールの純度調整]
撹拌棒、コンデンサ、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコにα−ピネン250gと38%硫酸500g、界面活性剤0.5gを仕込み、20℃で11時間撹拌した。静置して分液後、油相を水洗した。炭酸ナトリウム水溶液を適量加えて反応系を中和し、さらに反応系のpHが1となるまで濃硫酸を加えて、6.5時間撹拌した。反応液を水100gで3回洗浄し、反応油246gを得た。得られた水洗液をGCにより分析したところ、テルペンアルコール類であるターピネオール、テルペン炭化水素類のGCピーク面積基準の含有率(以下「含有率」という)はそれぞれ45.6%、52.5%であった。
これを蒸留して、ターピネオールとテルペン炭化水素類を分離した。分離したターピネオールとテルペン炭化水素類の純度は、それぞれ99.5%、99.7%であった。分離したターピネオールとテルペン炭化水素類を用いて、それぞれ表1の割合で調製し、実施例1のテルペン化合物として用いた。
【0050】
実施例1
新聞系古紙を用いて、以下の手順により脱インキ処理を行った。
1.離解工程
2.除塵工程
3.一段目フローテーション工程
4.濃縮工程
5.インキ剥離工程
6.漂白・熟成工程
7.二段目フローテーション工程
8.抄紙
【0051】
[離解工程]
古紙原料(新聞/チラシ重量比=6/4)絶乾重量75gを750ccの水(パルプ濃度10%)、対絶乾パルプ0.5%の水酸化ナトリウム、高級アルコール系脱墨剤(商品名「DI−7255」、花王社製)0.2%を2Lの離解機に仕込み、40±2℃の条件で15分間、離解処理した。
【0052】
[除塵工程]
40℃のお湯でパルプ濃度を1%に希釈したのち、東西精器製のフラットスクリーン(スクリーンプレート 6カット)を通して除塵処理を行った。
【0053】
[一段目フローテーション工程]
パルプ濃度1%のパルプスラリー4,000gを、石川島産業機械製 MTフローテーターにてエアー供給15NL/min、タービン低速回転で10分間脱インキ処理した。
【0054】
[濃縮工程]
遠心分離器を使用し、1,000rpmで3分間脱水し、パルプ濃度を約20%に調整した。
【0055】
[インキ剥離工程]
絶乾パルプに対して水酸化ナトリウム1.5%、3号珪酸ソーダ1.5%、過酸化水素1.5%、高級アルコール系脱墨剤である花王社製DI−7255を0.1%添加し、PFIミルによりロール−ハウジング間を0.5mmに設定して積算回数で500回転処理した。
【0056】
[漂白・熟成工程]
恒温槽にて60℃、2.5時間で漂白・熟成した。
【0057】
[二段目フローテーション工程]
40℃のお湯でパルプ濃度を1%に希釈したパルプスラリー4,000gに、上記テルペン化合物を絶乾パルプに対して0.1%加えた。石川島産業機械製 MTフローテーターを用いて、エアー供給15NL/min、タービン低速回転で10分間脱インキ処理を行った。
【0058】
[抄紙]
硫酸バンドを対絶乾パルプ10%添加し、TAPPIスタンダードマシンを用いて、坪量を100g/mで手抄き抄紙した(バンド法)。
【0059】
[評価]
発泡性・破泡性:
二段目フローテーション工程で使用した脱インキ処理前のパルプスラリー150gを300ml
トールビーカーに取り、ディフーザーストーンを用いて500ML/minのエアーを送り、泡の高さが11cmになるまでの時間(発泡性)、およびエアー供給を停めた後に液面が見えるまでの時間(破泡性)を測定した。
パルプ回収率:
二段目フローテーション工程で発生したフロスを回収し、予め重量を測定した濾紙を用いて吸引濾過し、フロスの絶乾重量からパルプの回収率を算出した。なお、フロスとは、DIPを製造する工程において、主に、古紙に付着したインキを取り除くフローテーターで泡と共にパルプ繊維から分離されるインキやパルプ繊維、填料などをいう。
パルプ回収率(%)=(1−A/B)×100
A:フロスの絶乾重量(g)
B:30(g)、二段目フローテーション工程で用いた絶乾パルプの重量
白色度(%):
得られた抄紙シートを用いて、分光式白色度計(日本電色工業社製)を用いて白色度を測定した。
残存インキ量:
得られた抄紙シートを用いて、Color Touch Eric950(Technidyne社製)を用いて残存インキ量を測定した。
実施例1の評価結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
新聞系古紙を用いたDIPの脱インキ試験において、テルペンアルコール類であるターピネオールを含むテルペン化合物を添加し、発泡性、破泡性などを観察した結果、テルペンアルコール類比率が多いと気泡の粒径が小さいために泡立ちに時間を要し、テルペン炭化水素類比率が多いと破泡される傾向であった。
【0062】
以下、新聞系古紙を用いて、テルペン化合物の種類、添加量による発泡性、破泡性の確認を行った。
【0063】
実施例2
テルペン化合物をヤスハラケミカル社製「パインオイルC♯30」(ターピネオール純度60%)に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0064】
実施例3
テルペン化合物をリナロール65%およびテルペン炭化水素35%含有するテルペン化合物に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0065】
実施例4
テルペン化合物をジヒドロミルセノール60%およびテルペン炭化水素40%含有するテルペン化合物に変更して二段目フローテーション工程に、0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0066】
実施例5
テルペン化合物をミルセノール50%およびテルペン炭化水素50%含有するテルペン化合物に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0067】
実施例6
テルペン化合物をゲラニオール55%およびテルペン炭化水素45%含有するテルペン化合物に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0068】
実施例7
テルペン化合物をメントール45%およびテルペン炭化水素55%含有するテルペン化合物に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0069】
実施例8
テルペン化合物をテルピネン4オール62%およびテルペン炭化水素38%含有するテルペン化合物に変更し、二段目フローテーション工程に0.1%加えて実施例1と同様に行った。
【0070】
実施例9
テルペン化合物を「パインオイルC♯30」に変更し、二段目フローテーション工程に0.01%加えて実施例1と同様に行った。
【0071】
実施例10
テルペン化合物を「パインオイルC♯30」に変更し、二段目フローテーション工程に1.5%加えて実施例1と同様に行った。
【0072】
実施例11
テルペン化合物を「パインオイルC♯30」に変更し、二段目フローテーション工程に5.0%加えて実施例1と同様に行った。
【0073】
比較例1
二段目フローテーション工程にテルペン化合物を添加しないで、実施例1と同様に行った。
【0074】
比較例2
テルペン化合物を「パインオイルC♯30」に変更し、二段目フローテーション工程に0.005%加えて実施例1と同様に行った。
【0075】
比較例3
テルペン化合物を「パインオイルC♯30」に変更し、二段目フローテーション工程に15%加えて実施例1と同様に行った。
【0076】
実施例2〜11、比較例1〜3の評価結果を表2に示した。
【0077】
【表2】

【0078】
新聞系古紙を用いたDIPの脱インキ試験において、テルペン化合物を添加した結果、白色度、残存インキ量は良好な結果を示した。
【0079】
次に、テルペン化合物の添加場所による白色度、残存インキ量の評価を行った。
添加場所の変更に際して、パルプ回収率が約91%になるよう一段目フローテーターと二段目フローテーターの運転時間を調整した。
【0080】
実施例12
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所を一段目フローテーター前に変更し、0.1%加えた。一段目フローテーターの運転時間は6分、二段目フローテーターの運転時間は10分で、パルプ回収率は91.4%であった。
【0081】
実施例13
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所をフラットスクリーンによる除塵工程に変更し、0.1%加えた。一段目フローテーターの運転時間は7分、二段目フローテーターの運転時間は10分で、パルプ回収率は91.6%であった。
【0082】
実施例14
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所を一段目フローテーター前と二段目フローテーター前の2箇所に変更し、それぞれに0.05%(合計0.1%)加えた。一段目フローテーターの運転時間は9.5分、二段目フローテーターの運転時間は9.5分で、パルプ回収率は91.0%であった。
【0083】
実施例15
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所を二段目フローテーター運転時の装置上部に発生する泡への滴下に変更し、0.1%加えた。一段目フローテーターの運転時間は10分、二段目フローテーターの運転時間は10分で、パルプ回収率は91.4%であった。
【0084】
実施例16
実施例1において、コンディショナー槽を想定して、添加方法を変更した。漂白・熟成工程の後、40℃の温水でパルプスラリーを1%濃度に希釈した後、テルペン化合物をパインオイルC♯30として、絶乾パルプに対して0.1%加えた。これをスリーワンモーターで300rpm、5分間撹拌して均一に分散させた後、二段目フローテーターへ投入した。一段目フローテーターの運転時間は10分、二段目フローテーターの運転時間は10分で、パルプ回収率は92.0%であった。
【0085】
比較例4
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所をパルプ濃度が10%の離解工程に変更し、0.1%加えた。一段目フローテーターの運転時間は8分、二段目フローテーターの運転時間は10分で、パルプ回収率は91.5%であった。
【0086】
比較例5
実施例1において、テルペン化合物を「パインオイルC♯30」として、添加場所をパルプ濃度が20%のインキ剥離工程に変更し、0.1%加えた。一段目フローテーターの運転時間は10分、二段目フローテーターの運転時間は17分で、パルプ回収率は92.1%であった。
【0087】
比較例6
実施例1において、テルペン化合物を添加しないで評価した。一段目フローテーターの運転時間は10分、二段目フローテーターの運転時間は19分で、パルプ回収率は91.2%であった。
【0088】
実施例12〜16、比較例4〜6の評価結果を表3に示した。なお、二段目フローテーターでの泡の状態を目視にて確認した。








【0089】
【表3】

【0090】
新聞系古紙を用いたDIPの脱インキ試験において、パルプ濃度が1%と低い除塵工程、一段目フローテーターおよび二段目フローテーターに添加すると、パルプ回収率、白色度、残存インキ量は良好な結果を示した。パルプ濃度が10%の離解工程、20%のインキ剥離工程のように、パルプ濃度の高い場所でテルペン化合物を添加すると、テルペン化合物との混ざりが悪く、フローテーター内の発泡性が得られず、高い白色度が得られなかった。
【0091】
実施例17
上質系古紙を用いて、以下に示す一段フローテーション工程で脱インキ処理を行った。
1.離解工程
2.除塵工程
3.濃縮工程
4.インキ剥離工程
5.漂白・熟成工程
6.フローテーション工程
7.洗浄・濃縮工程
8.抄紙
【0092】
[離解工程]
チラシ古紙絶乾重量75gを750ccの水(パルプ濃度10%)、対絶乾パルプ0.5%の水酸化ナトリウム、高級アルコール系脱墨剤(商品名「DI−7255」、花王社製)0.2%を2Lの離解機に仕込み、40±2℃の条件で15分間離解処理した。
【0093】
[除塵工程]
40℃のお湯でパルプ濃度を1%に希釈したのち、東西精器製のフラットスクリーン(スクリーンプレート 6カット)を通して除塵処理を行った。
【0094】
[濃縮工程]
遠心分離器を使用し、1,000rpmで3分間脱水し、パルプ濃度を約20%に調整した。
【0095】
[インキ剥離工程]
絶乾パルプに対して水酸化ナトリウム1.5%、3号珪酸ソーダ1.5%、過酸化水素1.5%、上記花王社製「DI−7255」を0.1%添加し、PFIミルによりロール−ハウジング間を0.5mmに設定して積算回数で5,000回転処理した。
【0096】
[漂白・熟成工程]
恒温槽にて60℃、2.5時間で漂白・熟成した。
【0097】
[フローテーション工程]
40℃のお湯でパルプ濃度を1%に希釈したのち、テルペン化合物としてヤスハラケミカル社製「パインオイルC♯30」(ターピネオール純度60%)を絶乾パルプに対して0.1%加え、石川島産業機械製MTフローテーターを使用し、エアー供給15NL/min、タービン低速回転で5分間脱インキ処理を行った。
【0098】
[洗浄・濃縮工程]
絶乾パルプに対して100倍量の水を加え希釈洗浄した後に遠心分離器を使用し、1,000rpmで3分間脱水して微細インキと灰分を除去した。
【0099】
[抄紙]
硫酸バンドを対絶乾パルプ10%添加し、TAPPIスタンダードマシンにより坪量を100g/mで抄紙した(バンド法)。
[評価]
パルプ回収率:
フローテーション工程で発生したフロスを回収し、予め重量を測定した濾紙を用いて吸引濾過し、フロスの絶乾重量からパルプの回収率を算出した。
パルプ回収率(%)=(1−A/B)×100
A:フロスの絶乾重量(g)
B:30(g)、フローテーション工程で用いた絶乾パルプの重量
白色度(%):
得られた抄紙シートを用いて、分光式白色度計(日本電色工業社製)を用いて白色度を測定した。
残存インキ量:
得られた抄紙シートを用いて、Color Touch Eric950(Technidyne社製)を用いて残存インキ量を測定した。
泡の状態:
フローテーターでの泡の状態を目視で評価した。
【0100】
原料古紙の変更に際して、パルプ回収率が約85%となるようにフローテーターの運転時間を変更した。
【0101】
実施例18
実施例17において、テルペン化合物をテルペンアルコール類であるターピネオール54%およびテルペン炭化水素類46%含むテルペン化合物とし、フローテーター前に0.08%添加した。フローテーターの運転時間は6分で、パルプ回収率は85.5%であった。
【0102】
比較例7
実施例17において、テルペン化合物を添加しないで評価した。フローテーターの運転時間は16分で、パルプ回収率は84.8%であった。
【0103】
実施例17と18、比較例7の評価結果を表4に示した。


【0104】
【表4】

【0105】
上質系古紙を用いたDIPの脱インキ試験において、原料古紙に含まれる填料、ラテックスなどの影響でフローテーター内での発泡性は新聞系古紙よりも高かったため、本発明のテルペン化合物のテルペンアルコール類含有率を最適化することで、フローテーション内の発泡を抑制し、白色度、残存インキ量が良好となった。
【0106】
実施例19
本発明の実施は、中越パルプ工業(株)高岡工場 能町の脱墨パルプ製造設備を使用して実施した。
1.離解工程
2.除塵工程
3.一段目フローテーション工程
4.洗浄・濃縮工程
5.漂白・分散・熟成工程
6.二段目フローテーション工程
7.漂白・洗浄工程
8.完成
【0107】
新聞紙やチラシ、オフィス古紙を主に含む古紙をパルパーに仕込み、原料濃度15%、高級アルコール系脱インキ剤(花王社製「DI−7255」)0.2%(対パルプ)、水酸化ナトリウム0.5%(対パルプ)、離解時間15分、離解温度40℃で離解しパルプスラリーを得た。上記パルプスラリーをスクリーンにて除塵処理し、原料濃度1%に濃度調整後、一段目のフローテーターにて処理を行った。一段目フローテーション工程を行った後に、洗浄・濃縮、漂白、インキ分散、二段目フローテーター処理の順にパルプ製造を行った。漂白条件は、過酸化水素1.5%(対パルプ)、珪酸ソーダ1.5%(対パルプ)、水酸化ナトリウム1.5%(対パルプ)、原料濃度30%、漂白時間3時間、漂白温度60℃で行った。二段目フローテーター条件は、特殊脂肪酸誘導体脱インキ剤(花王社製「DI−1120」)0.07%(対パルプ)、フローテーター処理濃度1%、処理温度40℃±2、フローテーター送りポンプのサクション部分からパインオイル(ヤスハラケミカル社製「パインオイルC#30」、ターピネオール純度60%)0.1%(対パルプ)を添加し、フローテーション処理を行って脱インキパルプを得た。得られた脱インキパルプをバンド法により、硫酸バンドを10%(対絶乾パルプ)添加し、TAPPIスタンダードマシンにより抄紙した。また、完全洗浄法により、150メッシュの網上で200倍量の水道水を加え、インキと灰分を洗浄除去した後に抄紙し、白色度、残存インキ量の評価を行った。
【0108】
[評価]
白色度(%):
得られた抄紙シートを用いて、分光式白色度計(日本電色工業社製)を用いて白色度を測定した。
残存インキ量:
得られた抄紙シートを用いて、Color Touch Eric950(Technidyne社製)を用いて残存インキ量を測定した。
微生物数:
防腐性を確認するため、脱インキパルプスラリーを用いて、細菌・酵母数、カビ数を測定した。細菌・酵母数については、温度35℃、3日間孵卵器中で培養、カビ数については、温度28℃、7日間、孵卵器中で培養した。
【0109】
実施例20
実施例19において、二段目フローテーター送りポンプのサクション部分からパインオイルを0.1%添加したところを、0.07%に変更して添加し脱インキパルプを得た。
【0110】
比較例8
実施例19において、パインオイルを添加しないで評価し、脱インキパルプを得た。
【0111】
実施例21
実施例19において、二段目フローテーター送りポンプのサクション部分からパインオイルを0.1%添加したところを、0.03%に変更して添加し、さらに、比較例8と同等の白色度になるようにパルプ回収率を制御し、脱インキパルプを得た。
【0112】
実施例19〜21、比較例8の評価結果を表5に示した。
【0113】
【表5】

【0114】
パルプ回収率が同じ場合、テルペン化合物を添加すると、いずれも白色度の向上が認められた。また、白色度が同じ場合、テルペン化合物を添加することでパルプ回収率の向上が認められた。さらにテルペン化合物を添加することで、微生物の発生抑制効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、DIPの製造方法および脱インキ助剤に関するものであり、テルペン化合物はフローテーション工程での気泡の発泡調整を行うものである。その他、インクや有機溶剤系の化合物などの汚れを洗浄する際にも応用可能である。また、テルペン化合物は抗菌作用を有することから、DIPの製造工程系内の菌の発生抑制効果も奏し、防腐剤の削減が可能となる。さらに、再生パルプ製造、再生紙製造などの製紙関連の技術分野で使用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、離解工程、除塵工程、フローテーション工程を含むフローテーション法による脱インキパルプの製造方法において、除塵工程および/またはフローテーション工程におけるパルプ濃度が0.5〜2.0重量%の範囲にあるパルプスラリーに、テルペン化合物を添加することを特徴とする脱インキパルプの製造方法。
【請求項2】
テルペン化合物の添加量が、絶乾パルプに対し、0.01〜5.0重量%である請求項1記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項3】
テルペン化合物を添加する場所が、フローテーターより前のパルプスラリーと良く混合される場所である請求項1または2記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項4】
フローテーション工程の前に設けたコンディショナー槽にテルペン化合物を添加する請求項1〜3いずれか1項に記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項5】
テルペン化合物がテルペンアルコール類を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項6】
テルペンアルコール類が、ターピネオール、リナロール、ゲラニオール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、メントール、テルピネン4オールの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項7】
テルペン化合物がパインオイルである請求項1〜6のいずれか1項に記載の脱インキパルプの製造方法。
【請求項8】
フローテーション法による脱インキパルプの製造方法において、テルペン化合物を主成分とすることを特徴とする脱インキ助剤。



【公開番号】特開2009−275297(P2009−275297A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124715(P2008−124715)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(591023642)中越パルプ工業株式会社 (5)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】