説明

脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法

【課題】NF膜を用いた収率の高い、脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法を提供する。
【解決手段】蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、酸剤によりpH4.5〜6.5に調整し、NaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行うことを特徴とする脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、特定の条件下で逆浸透処理を行うことで蛋白質加水分解物の収率を高めた、脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質加水分解物は動物や植物由来の蛋白質を加水分解したものであり、栄養源や呈味改善剤として加工食品に用いられるだけでなく、化粧品、医薬品などの皮膚外用剤など幅広い分野で利用されている。
【0003】
蛋白質加水分解物としては、卵白蛋白質などの動物性蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質などの植物性蛋白質を酸存在下、またはアルカリ存在下で加熱して加水分解する方法や、プロテアーゼ処理で加水分解する方法が知られている。
【0004】
蛋白質を塩酸などの酸存在下で加熱して加水分解する場合、処理後水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和する必要があり、その結果、多量の食塩が生成することになる。また、プロテアーゼ処理の場合も、用いるプロテアーゼの種類によってはプロテアーゼ処理後に中和する必要があり、その結果、食塩が生成することになる。
【0005】
中和により生成された食塩や元来蛋白質原料に含有されている食塩を脱塩する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法や電気透析処理を行う方法などが知られている。しかしながら、これらの方法による脱塩は、脱塩後の蛋白質加水分解物溶液が希釈され、その後の濃縮工程に多大な時間とコストがかかるという問題があった。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、ナノフィルタレーション(NF) 膜を用いた乳原料の脱塩方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法で蛋白質加水分解物の脱塩処理を行うと、乳原料よりも分子量の小さい蛋白質加水分解物がNF膜から漏出してしまい、収率が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−266221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、NF膜を用いた収率の高い、脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、使用原料及び各工程等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、酸剤によりpH4.5〜6.5に調整し、NaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行うことで、脱塩された蛋白質加水分解物の収率を高められること見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、酸剤によりpH4.5〜6.5に調整し、NaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行う工程を少なくとも含む脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
(2)ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも高い(1)記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
(3)ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも0.5以上高い(1)または(2)に記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
(4)蛋白質加水分解物の分子量が200〜2000である(1)乃至(3)のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
(5)酸剤が有機酸である(1)乃至(4)のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
(6)逆浸透処理を圧力0.8〜2MPaの条件下で行う(1)乃至(5)のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、特定の条件下で逆浸透処理を行うことで蛋白質加水分解物の収率を高めた、脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法を提供でき、脱塩された蛋白質加水分解物の効率的な製造が可能となることで、商品の原価低減および更なる需要拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0013】
本発明は、脱塩された蛋白質加水分解物を製造する際に、蛋白質加水分解物の収率を高めるために、蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、酸剤によりpH4.5〜6.5に調整し、NaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行う工程を少なくとも含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の脱塩された蛋白質加水分解物とは、処理前と比較して無機塩類の含量が低減されたものであれば良く、脱塩処理後の無機塩類の濃度を特に限定するものではないが、加工食品、化粧品及び医薬品の原料としての汎用性を高める観点から、逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量が逆浸透処理前のNa含量の70%未満となることが好ましく、50%未満となることがより好ましい。
【0015】
本発明で用いる蛋白質加水分解物の蛋白質源としては、種々の動物性蛋白質または植物性蛋白質の1種または2種以上を組合せて使用することができる。例えば、動物性蛋白質としては、卵白蛋白質、乳蛋白質などが挙げられ、植物性蛋白質としては、大豆蛋白質、小麦蛋白質などが挙げられる。
【0016】
蛋白質を加水分解する方法は、特に限定するものではないが、蛋白質をプロテアーゼ処理、酸存在下で加熱処理、アルカリ存在下で加熱処理する方法等が挙げられる。蛋白質をプロテアーゼ処理する場合、用いるプロテアーゼは、特に限定するものではないが、例えば、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチンなどの動物由来プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、フィシンなどの植物由来プロテアーゼ、微生物(乳酸菌、枯草菌、放線菌、カビ、酵母など)由来のエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼならびにこれらの粗精製物および菌体破砕物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0017】
このうち、本発明の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法において、プロテアーゼとして酸性プロテアーゼを使用して蛋白質を加水分解すると、処理後の中和処理により食塩が生成しやすいため、本発明に好適である。このような酸性プロテアーゼの市販品としては、例えば、商品名:ニューラーゼA(起源:Aspergillus niger、天野エンザイム社製)、商品名:スミチームAP(起源:Aspergillus niger、新日本化学工業社製)、商品名:モルシンF(起源:Aspergillus niger、キッコーマン社製)等が挙げられる。
【0018】
プロテアーゼにより蛋白質を加水分解する方法としては、例えば、卵白をアスペルギルス属菌起源の酸性プロテーゼで加水分解する場合を例に挙げると、卵白をpH2.5〜4.5、好ましくはpH3〜4に調整し、この卵白にアスペルギルス属菌起源の酸性プロテアーゼを添加し、ゆっくりと撹拌しながら、30〜60℃、好ましくは35〜55℃にて2〜24時間反応させればよい。
【0019】
プロテアーゼにより蛋白質を加水分解する場合、pH、温度条件および加熱時間は、使用するプロテアーゼの種類および組合せに応じて適宜調整するのが好ましい。
【0020】
蛋白質を酸存在下で加熱処理する場合、用いる酸剤は特に限定するものではないが、例えば塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸などが挙げられ、安価であり分解力が強い点から塩酸を用いることが好ましい。また、処理条件は特に限定されるものではないが、求める加水分解の程度によって任意に選択することができる。例えば、塩酸濃度0.1〜3mol/L、加熱温度30〜100℃、加熱時間1〜50時間の範囲で適宜条件を選択すればよい。
【0021】
蛋白質をアルカリ存在下で加熱処理する場合、用いるアルカリ剤は特に限定するものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられ、その中でも安価で入手可能な水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、処理条件は特に限定されるものではないが、求める加水分解の程度によって任意に選択することができる。例えば、水酸化ナトリウム濃度0.1〜3mol/L、加熱温度30〜100℃、加熱時間1〜50時間の範囲で適宜条件を選択すればよい。
【0022】
プロテアーゼ処理、酸存在下で加熱処理、またはアルカリ存在下で加熱処理をした蛋白質加水分解物の平均分子量は、特に限定するものではないが、200〜2000が好ましく、250〜1500がより好ましい。蛋白質加水分解物の平均分子量が前記値より低いと、本願発明の方法により蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、逆浸透処理したとしても、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるため好ましくない。また、蛋白質加水分解物の平均分子量が前記値よりも高いと、本願発明の方法によらなくても蛋白質加水分解物の収率は低くなり難いため好適でない。
【0023】
得られた蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理し、不溶物を除去する。ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHは、後述の逆浸透処理時のpHよりも高いpHであることが好ましく、より好ましくはpHの差が0.5以上、更に好ましくはpHの差が1〜5である。蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが逆浸透処理時のpHよりも低い場合、NF膜が目詰まりを起こし逆浸透処理できなくなる場合があり好ましくない。一方、pHの差は大きいほど本発明の効果が得られやすいが、上記範囲よりも大きいと、生成される食塩の量が増加するため、その後の脱塩効率の観点から好ましくない。
【0024】
具体的な、ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHは、特に限定するものではないが、pH5〜9が好ましく、pH6〜8がより好ましい。蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが前記値より低く、特にpHが3以上5未満であると、蛋白質加水分解物が不溶化してしまい、ろ過処理時に蛋白質加水分解物の収率が低下する場合があるため好ましくない。また、蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが前記値よりも高くても、生成される食塩の量が増加するため、その後の脱塩効率の観点から好ましくない。なお、蛋白質を加水分解処理した後のpHが上記範囲内である場合は、pHの調整を行わずにろ過処理を行えばよい。
【0025】
本発明において、蛋白質加水分解物を含有する溶液のろ過処理の方法は、特に限定するものではないが、ケイソウ土などのろ過助剤を用いたフィルターろ過を行うことが好ましい。
【0026】
次いで、ろ過処理した蛋白質加水分解物を含有する溶液を酸剤によりpH4.5〜6.5、好ましくはpH4.8〜6に調整した後、逆浸透処理を行う。蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが前記値より低いと、用いる蛋白質の種類によってはNF膜が目詰まりを起こし逆浸透処理できなくなる場合があるためである。また、蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが前記値よりも高いと、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるためである。
【0027】
蛋白質加水分解物を含有する溶液のpH調整に使用する酸剤としては、特に限定するものではないが、有機酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等、無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜選択して使用すると良い。その中でも有機酸を用いると蛋白質加水分解物の収率を高めることができ好ましく、クエン酸、グルコン酸を用いるとより好ましい。
【0028】
本発明は、上述のpH調整をした蛋白質加水分解物を含有する溶液をNaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行う。
【0029】
NF膜とは、ろ過膜の一種であって孔の大きさが2nm以下である逆浸透膜の中で、イオンや塩類などの阻止率が概ね70%以下と低いものをいう。本発明で用いるNF膜の構造および材質は、特に限定されるものではないが、構造としては、例えば、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラー膜等が挙げられ、材質としては、例えば、ポリスルホン、芳香族ポリアミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらを適宜選択して使用すると良い。
【0030】
本発明で用いるNF膜は、NaCl阻止率が30〜70%であり、好ましくは40〜70%である。NF膜のNaCl阻止率が前記値より低いと、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるためである。また、NF膜のNaCl阻止率が前記値よりも高いと、脱塩効率が低下するためである。なお、NF膜のNaCl阻止率は下記の式で求められる。
【0031】
阻止率(%)=(1−透過液中のNaCl濃度/原料液中のNaCl濃度)×100
【0032】
逆浸透処理する際の蛋白質加水分解物の濃度は、特に限定するものではないが、0.2〜12%が好ましく、0.4〜10%がより好ましい。蛋白質加水分解物の濃度が前記値より低いと、処理時間が長くなるため好ましくない。また、蛋白質加水分解物の濃度が前記値よりも高いと、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0033】
逆浸透処理時の圧力条件は特に限定するものではないが、0.8〜2MPaが好ましく、1.3〜1.8MPaがより好ましい。逆浸透処理時の圧力が前記値より低いと、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるため好ましくない。また、逆浸透処理時の圧力が前記値より高くても、蛋白質加水分解物の収率が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0034】
また、逆浸透処理における、逆浸透処理時の温度は常法に従って任意に設定することができるが、蛋白質加水分解物の収率、脱塩の効率、およびNF膜の耐熱性を考慮して、10℃〜50℃で処理することが好ましい。
【0035】
以上の工程により本発明の脱塩された蛋白質加水分解物が得られるが、必要に応じて更にろ過処理を行い、スプレードライなどで乾燥してもよい。
【0036】
本発明の逆浸透処理を行うことで、逆浸透処理時の蛋白質加水分解物の収率を高めることができるが、本発明では、逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度、つまり逆浸透処理によって漏出した蛋白質の濃度を測定することによって、蛋白質加水分解物の収率を測定する。逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度は、低いほど、蛋白質加水分解物の収率が高くなるため好ましいが、0.05%未満が好ましく、0.02%未満がより好ましい。
【0037】
以下、本発明について、実施例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
乾燥卵白1kgを清水25Lに溶解し、10%塩酸を用いてpH3.5に調整した。次いで、酸性プロテアーゼ(ニューラーゼA、天野エンザイム社製)10gを添加し、40℃で12時間プロテアーゼ処理を行った後、水酸化ナトリウム溶液を用いてpH7.0に調整し、85℃で10分加熱することでプロテアーゼを失活させた。この液にケイソウ土150gを加え、撹拌ろ過を行って不溶物を除去した。得られた蛋白質加水分解物の平均分子量をTNBS法に従い測定したところ、平均分子量は300であった。また、得られた蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量をIPC発光分析装置(VISTA−PRO、バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド社製)を用いて測定したところ、固形分100gあたり337mgであった。
次いで、得られたろ液に水を加え蛋白質加水分解物の濃度を2%に調整した後、クエン酸を用いてpH5.0に調整した後、NaCl阻止率45%のNF膜を用いて圧力1.5MPaで逆浸透処理を行い、濃縮液を回収することで脱塩された蛋白質加水分解物を得た。
【0039】
逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量を上述の発光分析装置で測定したところ、固形分100gあたり155mg(逆浸透処理前のNa含量の約46%)であり、充分に脱塩されたものであった。
また、逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度を測定したところ、0.013%であり、蛋白質加水分解物の漏出は少なく、蛋白質加水分解物の収率は高いものであった。
【0040】
[試験例1]
実施例1の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法において、ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHと、逆浸透時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で脱塩された蛋白質加水分解物を得た。なお、サンプルNo.7は、水酸化ナトリウムを用いて逆浸透処理時のpHを調整した。
次いで、逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度を測定し、蛋白質加水分解物の収率を下記の評価基準で評価した。なお、得られた逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量は逆浸透処理前のNa含量の50%未満であり、充分に脱塩されていた。
【0041】
「逆浸透処理後の蛋白質加水分解物の収率」の評価
ランク:基準
A:逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度が0.02%未満であり、蛋白質加水分解物の収率は充分に高いものであった
B:逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度が0.02%以上0.05%未満であり、蛋白質加水分解物の収率は問題ない程度に高いものであった
C:逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度が0.05%以上であり、蛋白質加水分解物の収率は高いものではなかった
D:NF膜が目詰まりを起こし、逆浸透処理できなかった。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも高く、逆浸透処理時のpHを4.5〜6.5に調整して得られた脱塩された蛋白質加水分解物は、蛋白質加水分解物の収率が高く、ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも0.5以上高く、逆浸透処理時のpHを4.8〜6に調整して得られた脱塩された蛋白質加水分解物は、蛋白質加水分解物の収率がより高いことが理解できる。
【0044】
[試験例2]
実施例1の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法における逆浸透処理前のpH調整において、用いる酸剤の種類を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で脱塩された蛋白質加水分解物を得た。次いで、逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度を測定し、蛋白質加水分解物の収率を試験例1と同様の評価基準で評価した。なお、得られた逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量は逆浸透処理前のNa含量の50%未満であり、充分に脱塩されていた。
【0045】
【表2】

【0046】
表2より、有機酸(クエン酸、酢酸、グルコン酸)を用いて逆浸透処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHを4.5〜6.5に調整して得られた脱塩された蛋白質加水分解物は、無機酸(塩酸)を用いたものより蛋白質加水分解物の収率が高いことが理解できる。また、有機酸の中でもクエン酸、グルコン酸を用いて逆浸透処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHを4.5〜6.5に調整して得られた脱塩された蛋白質加水分解物は、充分に収率が高いことが理解できる。
【0047】
[試験例3]
実施例1の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法において、用いるNF膜の種類、逆浸透処理時の圧力を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で脱塩された蛋白質加水分解物を得た。次いで、逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度を測定し、蛋白質加水分解物の収率を試験例1と同様の評価基準で評価した。なお、得られた逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量は逆浸透処理前のNa含量の50%未満であり、充分に脱塩されていた。
【0048】
【表3】

【0049】
表3より、NaCl阻止率が30〜70%のNF膜を用いて、圧力が0.8〜2MPaの条件で逆浸透処理することで得られた、脱塩された蛋白質加水分解物は、蛋白質加水分解物の収率が高いことが理解できる。また、圧力が1.3〜1.8MPaの条件で逆浸透処理することで得られた、脱塩された蛋白質加水分解物は、蛋白質加水分解物の収率がより高いことが理解できる。
【0050】
[実施例2]
分離大豆蛋白質1kgに1.5mol/L塩酸溶液10Lを加え、90℃で2時間処理した。次いで水酸化ナトリウム溶液を用いてpH7.0に調整し、この液にケイソウ土150gを加え、撹拌ろ過を行って不溶物を除去した。得られた蛋白質加水分解物の平均分子量をTNBS法に従い測定したところ、平均分子量は1000であった。
次いで、得られたろ液を実施例1と同様の方法で逆浸透処理を行い、濃縮液を回収することで脱塩された蛋白質加水分解物を得た。
【0051】
逆浸透処理後の膜透過液の蛋白質濃度を測定したところ、0.018%であり、蛋白質加水分解物の漏出は少なく、蛋白質加水分解物の収率は高いものであった。なお、得られた逆浸透処理後の蛋白質加水分解物を含有する溶液のNa含量は逆浸透処理前のNa含量の50%未満であり、充分に脱塩されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質加水分解物を含有する溶液をろ過処理した後、酸剤によりpH4.5〜6.5に調整し、NaCl阻止率30〜70%のNF膜を用いて逆浸透処理を行う工程を少なくとも含むことを特徴とする脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項2】
ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも高いことを特徴とする請求項1記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項3】
ろ過処理時の蛋白質加水分解物を含有する溶液のpHが、逆浸透処理時のpHよりも0.5以上高いことを特徴とする請求項1または2に記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項4】
蛋白質加水分解物の分子量が200〜2000であるである請求項1乃至3のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項5】
酸剤が有機酸である請求項1乃至4のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項6】
逆浸透処理を圧力0.8〜2MPaの条件下で行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の脱塩された蛋白質加水分解物の製造方法。