説明

脱塩廃液の利用

塩水廃液を二酸化炭素およびアンモニアと反応させてソーダ灰を生成させる工程を含む、塩水廃液からソーダ灰を生成させる方法であって、該アンモニアの少なくとも一部を、反応中に生成される塩化アンモニウムから再生させる、方法。再生は、理想的には、弱塩基アニオン交換樹脂の使用によってなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この国際特許出願は、2008年、11月21日に出願された、オーストラリア国特許仮出願第2008906021号の優先権を主張するものであり、該出願の内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、脱塩処理由来のものなどの塩性廃液流を利用した価値が付加された材料の生成方法に関する。より具体的には、本発明は、塩性廃液流および任意に燃焼発生源由来の二酸化炭素(CO2)廃ガスを利用した、ソーダ灰(炭酸ナトリウム、Na2CO3)の生成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
淡水供給の充分な提供は、世界中で大きな課題となっている。多くの国で、淡水を供給するために海水、淡海水または塩性工業廃水などの塩性水の脱塩処理が使用されている。オーストラリア単独で、2013年までに1年間に約460ギガリットルの飲料水が脱塩プラントから生成されると期待されている。
【0004】
典型的に、海水、淡海地下水および/または塩性工業廃水を脱塩するために、脱塩プラントでは逆浸透(RO)膜が使用されている。脱塩処理の主な目的は、飲料水に適するように、1リットル当たり0.5グラム(g/L)未満まで塩性水の塩(塩化ナトリウム、NaCl)濃度を下げることである。海水の塩濃度は通常35〜45g/Lである。
【0005】
不幸にも、塩性水から淡水を生成するための脱塩処理の使用には、多くの環境的な問題が提示されている。例えば、脱塩処理の副生成物の一つが、通常約70g/Lの塩濃度を有する塩水廃液である。高度に塩性の液である塩水廃液流は処分する必要があり、それに使用される典型的な方法としては、海洋への排出、下水施設での処分、深い井戸への射出、陸地への散布、または蒸発した池への移送が挙げられる。それぞれの場合に、廃液の処分には、経済的および/または環境的な大きなコストが課される。
【0006】
理想的には、脱塩処理由来の塩水廃液は、他の価値の付加された材料の形成に使用され得るものである。
【0007】
本明細書における任意の先行技術の参照は、該先行技術が任意の国において周知の一般常識の一部を形成することを示唆する承認または任意の形態ではなく、そのように捉えられるべきでない。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、燃焼発生源由来の塩水廃液および任意に二酸化炭素廃ガスを、ソーダ灰の生成方法における開始物質として使用できるという発見から生まれた。
【0009】
本発明は、塩水廃液からのソーダ灰の生成方法を提供し、該方法は、塩水廃液と二酸化炭素およびアンモニアとを反応させてソーダ灰を生成する工程を含み、該アンモニアの少なくとも一部は、該反応中に生じる塩化アンモニウムから再生される。
【0010】
典型的に、該方法は、反応中に生じた重炭酸ナトリウムを回収する工程、および回収された重炭酸ナトリウムを加熱してソーダ灰を生成する工程を含む。さらに、該反応中に生じた塩化アンモニウムは、好ましくは塩基アニオン交換樹脂(弱塩基アニオン交換樹脂など)で処理されて、アンモニアが再生される。この再生は、好ましくは反応中に生じた塩化アンモニウムのさらなる処理(濃縮等)後に行う。
【0011】
本明細書において使用される場合、用語「塩水(brine)廃液」は、約50g/L〜約250g/L(上限、下限を含む)の濃度の塩化ナトリウムを有する塩性(saline)水溶液のことをいう。好都合には、塩水廃液は、逆浸透脱塩プラントなどの脱塩プラント由来の廃液(waste)流であり得る。
【0012】
該方法はまた、塩水廃液を処理して、二酸化炭素およびアンモニアとの反応前に、塩水廃液中に存在する少なくとも数種類の好ましくない無機カチオン(例えばカルシウム、マグネシウムおよびストロンチウムのイオン)を除去する工程を含み得る。塩水廃液中に存在する好ましくない無機カチオンは、カチオン交換樹脂などの結合剤にこれらのイオンを選択的に結合させることにより一部または全部のいずれかで除去され得る。
【0013】
本発明の方法に使用される二酸化炭素は、好ましくは、石炭もしくはガスもしくはディーゼル火力発電所、製鋼所または石油精製所などの燃焼発生源に直接または間接的に由来する廃ガス流から得られる。この形態において、二酸化炭素を、該廃ガス流中に存在し得る気体混入物の一部または全部を除去するために処理してもよい。
【0014】
ソーダ灰を生成する塩化ナトリウムと二酸化炭素の反応はアンモニアにより触媒され、本発明において、触媒として使用されるアンモニアの少なくとも一部は、該反応中に生じる塩化アンモニウムから再生される。上述のように、該反応中に生じる塩化アンモニウムは、理想的には、重炭酸ナトリウムの回収後、逆浸透膜などの高圧フィルターによりろ過され、再利用可能な精製水を生じ、同時に残りの塩化アンモニウム溶液が濃縮される。さらに、濃縮塩化アンモニウム溶液は、その後塩基で処理されて反応での再利用に適したアンモニアが再生され、一形態において該塩基はアニオン交換樹脂である。
【0015】
上述のように、塩水廃液と二酸化炭素の反応に使用されるアンモニアの少なくとも一部は、再生アンモニアである。これについて、再生アンモニアは、該反応に必要とされるアンモニアの少なくとも10%、好ましくは20%〜80%の間のいずれかであり得る。理想的には、再生されたアンモニアの全てが反応器に戻され、該反応に必要な程度のアンモニア溶液強度になるための量の新鮮なアンモニアが反応器に添加される。従って、反応器中で使用される新鮮なアンモニアの量は、本発明の方法を利用し得るそれぞれ個々の操作の操作パラメータに依存する。
【0016】
本発明の方法に関与する基本的な化学反応は、現在ソーダ灰の生成に工業的に使用されているソルベー法と同等である。従来のソルベー法では、(塩化ナトリウム(NaCl)の供給源として)濃縮塩水および(炭酸カルシウム(CaCO3)の供給源として)石灰岩からソーダ灰が生成される。
【0017】
しかしながらあいにくなことに、従来のソルベー法はエネルギー大量消費型の方法である。第1に、反応体の二酸化炭素ガスは、炉の中で石灰岩を加熱して二酸化炭素ガスを放出させることにより得られる。これはエネルギー大量消費工程であり、大量の熱エネルギーを消費するだけでなく(通常、ソーダ灰1トン当たり2.2〜2.8GJを必要とする)、余分な温室効果ガスである二酸化炭素を生じ(通常、ソーダ灰1トン当たり200〜400kg)、通常は大気に放出される。
【0018】
上述のように、従来のソルベー法において開始材料として使用される塩水は、濃縮塩水溶液であり、通常、約300g/Lの塩濃度を有する。しかし、本発明者らは、有意に低い塩濃度を有する塩水が、改変ソルベー法に成功裡に使用されて、ソーダ灰を生成し得ることを発見した。これにより、ソーダ灰生成の開始材料として、塩水廃液を使用し得るという環境的に良好な結果がもたらされる。
【0019】
好都合には、本発明の方法において、塩水廃液は、脱塩プラント由来の廃液流であり得る。脱塩プラントは、海水、淡海水、塩性工業廃水等の塩濃度を下げるために使用される。脱塩プラントは、逆浸透脱塩プラントであり得、その場合、塩水廃液は、約50g/Lより高く約250g/Lより低い濃度の塩化ナトリウムを含み得る。本発明のいくつかの形態において、塩水廃液の塩化ナトリウム濃度は、約50g/Lより高く、約250g/Lより低い。他の形態において、範囲の下限は60g/L、70g/L、80g/L、90g/Lまたは100g/Lであり得る。
【0020】
従って、本発明はまた、ソーダ灰の生成方法を提供し、該方法は、
a) 約50g/L〜約250g/Lの塩化ナトリウム濃度を有する塩水廃液を準備する工程;
b) 該塩水廃液を処理して、存在する任意の好ましくない無機カチオンの少なくとも一部を除去し、前処理塩水廃液を提供する工程;
c) 少なくとも一部が工程(g)由来の再生アンモニアであるアンモニアの存在下で、該前処理塩水廃液と二酸化炭素を反応させる工程;
d) 塩水廃液と二酸化炭素の反応時に生じた重炭酸ナトリウムを反応混合物から分離し、回収重炭酸ナトリウムと、塩化アンモニウムを含む第1母液とを提供する工程;
e) 回収重炭酸ナトリウムを加熱してソーダ灰を生成する工程;
f) 第1母液をろ過して精製水と、濃縮塩化アンモニウムを含む第2母液とを生成する工程;ならびに
g) 第2母液を処理して工程(c)の反応における使用に適したアンモニアを再生する工程
を含む。
【0021】
もちろん、本発明は、上述の方法により生成されたソーダ灰を提供する。ソーダ灰は重要な工業用化学物質である。ソーダ灰は、多くの化学プロセスの流れにおいてpHを調節するために使用される。例えば、ソーダ灰は、他のアルカリ生成物、ナトリウム塩、ガラス、石鹸、ケイ酸塩、洗剤、重炭酸塩、重クロム酸塩、セルロースおよびレーヨン、鉄および鉄鋼、アルミニウム、洗浄化合物、織物および染料、薬物ならびに多くの他の材料の生成に最も広く使用されている固定アルカリである。また、ソーダ灰は、家庭用のアルカリとして、およびクリーニング屋の洗浄粉末としても使用される。ソーダ灰は、ガラス、ケイ酸ナトリウムやリン酸ナトリウムなどの化学物質、パルプおよび紙工業製品の生成、洗剤の生成ならびに水の処理のために使用される。苛性ソーダと比べてソーダ灰は優れた緩衝能力を有するので、プラント廃水pH範囲の調節に利点をもたらす。
【0022】
本発明は、ソーダ灰生成のためのより持続可能なアプローチを提供する。第1に、本発明の方法は、開始物質として塩水廃液を使用するので、それにより典型的な様式での脱塩プラント由来の塩水廃液の処分の必要性が改善される。第2に、本発明はまた、塩水廃液に含まれる少なくとも一部の水を再利用のための精製水として放出し得る。第3に、本発明は、石炭もしくはガスもしくはディーゼル火力発電所、製鋼所または石油精製所などの燃焼発生源からの排気から得られる二酸化炭素を、反応の開始物質として使用し得る。最後に、従来のソルベー法とは対照的に、石灰岩やその後の石灰乳(lime milk)を本発明の方法に使用する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
次に、本発明は、好ましい態様に関して記載するが、そのいくつかの局面は添付の図面中に図示される。
【0024】
【図1】図1は、本発明のソーダ灰の生成方法の一般的なフロー図である。
【図2】図2は、本発明のソーダ灰の生成方法の詳細なフロー図である。
【図3】図3は、イオン交換樹脂のための再生溶液としての使用のための炭酸ナトリウムの種々の濃度の比較を示すグラフである。
【図4】図4は、種々の開始塩水濃度での重炭酸ナトリウム(NaHCO3)変換速度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好ましい態様の説明
本発明は、塩水廃液からソーダ灰を生成するための方法を提供する。該方法は、塩水廃液を二酸化炭素およびアンモニアで、ソーダ灰を生成する条件下で処理する工程を含む。これに関して、用語ソーダ灰は、主に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を含む組成物を意味する。ソーダ灰は純粋な炭酸ナトリウムでなくても良く、例えば重炭酸ナトリウム(NaHCO3)などの他の化合物を含んでもよい。
【0026】
図1を参照すると、脱塩プラント12由来の塩水廃液10は、反応容器14に供給される。塩水廃液10は、脱塩プラント施設内で本発明の方法に供され得るか、または処理施設外への輸送のために保存および/または封入され得る。もちろん、輸送のコストおよび環境への影響を下げるために、塩水廃液は、理想的には脱塩プラント施設内で処理される。
【0027】
実際に、塩水廃液は、多段階フラッシュ蒸留(MFD)、多重効用(Multiple Effect)蒸留(MED)および機械的蒸気圧縮(MVC)などの熱脱塩方法を使用するプラントなどの他の脱塩プラント由来の廃液流から入手可能であることも理解されよう。これらの方法は全て、本明細書に記載されるソーダ灰生成に利用できる濃縮塩水流を生成する。
【0028】
燃焼発生源18からの排気から得られる二酸化炭素16は、反応容器14に導入され、塩水廃液10を通過して容器中に入る。理想的には、二酸化炭素16は、炭素またはガスまたディーゼル火力発電所、製鋼所、石油精製所等からの排気から得られる。アンモニア20も、反応容器14に導入されて塩水廃液10を通過する。典型的に、まずアンモニア20が反応容器14に導入され、続いて二酸化炭素16が導入される。全反応プロセスは:
NaCl + CO2 + NH3 + H2O → NaHCO3 + NH4Cl
である。
【0029】
塩水廃液10と二酸化炭素16およびアンモニア20との反応は、2段階で実施することもできる。第1段階で、アンモニア20を塩水廃液10に通して泡立たせると、アンモニアは塩水廃液に吸収されてアンモニア化塩水が生じる。第2段階で、二酸化炭素16をアンモニア化塩水に通して泡立たせる。
【0030】
反応中または反応後、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)が溶液から沈殿する。塩基性溶液中で重炭酸ナトリウムは塩化ナトリウムよりも水に溶解しにくいので、重炭酸ナトリウムが沈殿する。アンモニア(NH3)は、溶液を塩基性pHに緩衝するが、アンモニア無しでは塩酸副生成物が溶液を酸性にして沈殿を抑える。
【0031】
反応中に沈殿した重炭酸ナトリウムは、フィルター24を用いてろ過され、その後乾燥されて乾燥炭酸ナトリウム沈殿物22を形成する。この乾燥炭酸ナトリウム沈殿物22は、その後焼成(160〜230℃)によりソーダ灰に変換され、以下のプロセス:
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
のように、副生成物として水と二酸化炭素が生じる。
【0032】
この最終焼成工程中に生じた水と二酸化炭素(図1には示さず)は捕捉され、該プロセスの開始物質として再利用され得るか、または必要に応じて該プロセスに直接供給され得る。
【0033】
反応容器14からの残留溶液には塩化アンモニウム(NH4Cl)が含まれる。従来のソルベー法では、ろ過後に得られる母液は生石灰(酸化カルシウム(CaO))と反応して、焼成工程後に残り(CaCO3→CO2 + CaO)、アンモニアが生じ、アンモニアはリサイクルされて最初の塩水溶液に戻される。あいにく上述のように、この工程により大量の固形塩化物が生成されるが、これは通常水路に流されて処分される。図1に図示される本発明の一般的な方法では、塩化アンモニウムを含む溶液を、アニオン交換樹脂26などの再生工程に通すことにより、塩化アンモニウムからアンモニアが再生される。この再生工程では固形廃液は生じないので、該プロセスの環境への影響はさらに低くなる。
【0034】
次に図2のさらに詳細なフロー図を参照すると、いくつかの態様において、該方法には、塩水廃液10を処理して、反応器14中の二酸化炭素およびアンモニアでの該処理前に塩水廃液中に存在する任意の望ましくない無機カチオンの少なくとも一部を除去する工程も含まれ得ることが分かる。ソーダ灰生成方法に干渉し得る望ましくない無機カチオンの例としては、限定されないがカルシウム、マグネシウムまたはストロンチウムのイオンが挙げられる。
【0035】
塩水廃液10中に存在する望ましくない無機カチオンの少なくとも一部は、これらのイオンを結合剤と選択的に結合させることで除去され得る。従って、図2のフロー図には、二重カチオン交換処理プロセスを移動する塩水廃液が示され、ここで該塩水廃液は、カルシウムイオンに選択的に結合する結合剤、マグネシウムイオンに選択的に結合する結合剤、および/またはストロンチウムイオンに選択的に結合する結合剤で処理される。この態様では、結合剤はカチオン交換樹脂である。例えば、該カチオン交換樹脂は、カルシウム、マグネシウムおよびストロンチウムに高い選択性を有するイミノ2酢酸キレートカチオン交換樹脂であるAMBERLITE IRC748であり得る。
【0036】
さらに、一部の逆浸透脱塩プラントでは、膜汚損を防止するため、供給海水にポリアクリル酸などのスケール防止剤(antiscalant)を加えることが標準的な実務である。スケール防止剤は、濾過膜によって拒絶され、塩水廃液中に残留する。また、これらのスケール防止剤および他の有機物を除去するためにアニオン交換樹脂が使用され得る。この工程は、代替的に、活性炭吸収工程、促進酸化工程またはこれらの記載のすべての工程の組合せであってもよい。
【0037】
反応に使用される二酸化炭素ガス16は、その供給源から、アンモニア含有塩水溶液を含む反応槽14に直接ポンプ輸送され得る。あるいは、二酸化炭素ガスを外部で捕捉し、反応が行なわれる場所への輸送に適切な槽(シリンダーなど)内に保存してもよい。
【0038】
いくつかの場合において、二酸化炭素ガスが廃液流に由来する場合、廃液流を洗浄して、該流れに存在し得るいずれかのガス状の汚染物質の一部または全部を除去することが望ましいことがあり得る。除去される必要があり得るガス状の汚染物質の例としては、窒素酸化物(NOx)および二酸化硫黄(SO2)が挙げられる。いくつかの場合において、不純物NO2およびSO2は、硝酸イオンおよび硫酸イオンに変換され得る。これらのイオンのナトリウム塩は重炭酸ナトリウムよりも溶解性であり、そのため、該塩は溶液中に残留し、最終的に、例えば、水の再利用の前での膜濾過によって除去され得る。
【0039】
塩水廃液を処理するために使用されるアンモニア20の少なくとも一部分は、任意の適当な供給源から得られ得る。しかしながら、反応槽14内での反応中に生成された塩化アンモニウムからアンモニアを再生させ、次いで、再利用することが可能であり、したがって、このようにして再生させたアンモニアを再利用することは有利であり、そのため、反応に使用されるアンモニアの少なくとも一部分は再生アンモニアである。
【0040】
図2のフロー図において、反応中に生成された塩化アンモニウムは、膜フィルター27内で濾過され(槽14内の塩水廃液、二酸化炭素およびアンモニアから形成された重炭酸ナトリウムを収集するための濾過26後)、塩化アンモニウム溶液を濃縮する。次いで、この濃縮液は、イオン交換プロセス26において塩基で処理され、反応での再利用に適したアンモニアが生成され得る。このイオン交換プロセスには任意の適当な塩基が使用され得る。有利には、塩基は弱塩基アニオン交換樹脂である。
【0041】
例えば、高度に多孔質の粒状弱塩基アニオン交換樹脂であり、ともにアンモニア再生の目的で使用されるのに充分なアルカリ能を示すAMBERLYST A23もしくはAMBERLITE IR 45などのアニオン交換樹脂、または強塩基アニオン交換樹脂であるAMBERLITE IRA 400などを含むカラムに、濃縮塩化アンモニウムを通してもよい。濃縮液中の塩化物イオンは吸収され、ヒドロキシルイオンは樹脂からの濃縮液に交換される。アニオン交換樹脂カラムの流出液は、アルカリ度の高いアンモニアを含み、(流れ29によって)炭化反応器に戻され得る。
【0042】
また、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)は、図2にステージ31によって概略的に示すように、それ自体を、消費されたアニオン交換樹脂の再生に使用してもよい。弱塩基アニオン交換樹脂は、1%の炭酸ナトリウムなど(推奨再生濃度は5%炭酸ナトリウムであることに注意)の、ずっと弱い炭酸ナトリウム溶液によって、効率的に再生され得る。実験により、最初の差の後、両方の樹脂からの流出液は急速に同じpHに安定化することが示された。これは、樹脂が両方の再生条件下で同じ利用能を有することを示唆する。低濃度の利点は、廃棄される物質がずっと少なくなるということである(化学物質の消費の5倍の低減)。これに関して、弱塩基カチオン樹脂の再生(ステージ25)で生成されたアルカリ性の廃液は、弱塩基アニオン交換樹脂を再生させるため(ステージ26)に使用され得ることも認識されよう。
【0043】
有利には、上記のように、本発明では、従来のソルベー法の場合のように、
アンモニア再生のためにエネルギー集約的な石灰乳および水蒸気蒸留を使用する必要性が回避される。弱塩基アニオン交換樹脂は、褐炭燃焼由来のアルカリ性フライアッシュまたは製鋼所からのスラグなどのいくつかの産業から利用可能な弱アルカリ廃液によって再生され得る。
【0044】
特に、塩基アニオン交換樹脂の使用に関して、弱塩基アニオン交換樹脂が弱アルカリ廃液によってほぼ再生される可能性を示すことを確認するために、該樹脂に対して試験作業が行なわれている。
【0045】
このことを念頭に、本発明者らはAMBERLITE IR 45を、推奨再生濃度5%の炭酸ナトリウム、また、ずっと弱い1%炭酸ナトリウム溶液の両方で試験した。必要とされる再生物の量および樹脂の再生度の両方を試験した。これは、流出液が実用上できるだけ再生物のpHに近くなるまで再生物溶液を樹脂に通すことにより行ない、次いで、流出液が中性になるまで脱イオン水ですすいだ。両方の溶液で、これは、8床容量の再生物溶液であった。次いで、5%塩化ナトリウム溶液を導入し、流出液のpHをモニタリングした。
【0046】
これらの実験プロット(図3参照)は、最初は差があるが、両方の樹脂からの流出液は急速に同じpHに安定化することを示す。これは、樹脂が両方の再生条件下で同じ利用能を有することを示唆する。
【0047】
低濃度の利点は、廃棄される物質がずっと少ない(化学物質の消費の5倍の低減)ことである。これは、おそらく、炭酸ナトリウムの5%溶液のpHは11.5であるが、1%溶液は11.1であるためである。この小さい差は、炭酸塩と水の平衡解離により水酸化物アニオンが生成されるためである。この溶液中の活性物質はナトリウム(Na+)でなく水酸化物イオン(OH-)であるため、実際の濃度に差はほとんどなく、どちらも必要とされる分より過剰である。
【実施例】
【0048】
実施例の説明
本発明の態様を説明するために、以下の実験研究を行ない、その結果を以下の表に報告する。作業は主に、CO2濃度および塩水濃度の効果を調べるために行なった。
【0049】
実験手順は以下のとおりとした。
1 )反応溶液の作製 - 異なる濃度レベルで調製したNaClの重量を測定し、216g/l、147g/lおよび100g/lの濃度でフラスコ内に入れた。125mLの28%アンモニウム水および275mLのmiliQ水をフラスコに添加した。フラスコに蓋をし、磁気攪拌器の使用によってNaClを溶解させた。この溶液をガス洗浄瓶に移し、覆いをし、15分間、洗浄瓶を温度20℃に設定した浴内に入れた。
【0050】
2)ガス混合物 - CO2、N2、SO2およびNO2を供給するガスシリンダーを、特定の流速および所望の混合比のための質量流量制御装置により(「マルチバス」概念に基づいて)設定した。予測される工業条件をシミュレーションするためにCO2の割合を5%、7.5%、10%および15%に設定し、したがって、N2の割合は、それぞれ95%、92.5%、90%および85%に設定した後、ガスチューブをガス洗浄瓶に接続した。
【0051】
3)化学反応 - 化学反応を進行させて平衡(約15時間)にした後、ガスを停止し、ガスチューブを外した。反応させた溶液を結晶化のためにガス洗浄瓶内に一晩置いた。
【0052】
4)濾過 - 反応させた溶液をガス洗浄瓶内で充分に混合し、反応させた溶液を膜濾過デバイス内に放出した。30分後、フィルターによって回収された物質を除去し、蒸発皿に入れた。
【0053】
5)乾燥 - 蒸発皿を、乾燥のために298Kのヒュームカップボード内に入れ、2日間の乾燥後に生成物の重量を測定した。
【0054】
実験研究により、プロセス反応速度に関して以下のCO2濃度とNaCl濃度の関係が示され、反応速度は、約7.5%より上のCO2濃度および約147g/Lより上のNaCl濃度で理想的であること示す。
【0055】

【0056】
さらに、実験研究では、CO2濃度とNaCl濃度との関係から以下の比較回収率が示され、異なるNaCl濃度およびCO2濃度でのNaHCO3の生成が確認される。
【0057】

【0058】
図4は、その初期Na+濃度に対する重炭酸ナトリウムへの変換速度を表すことは認識されよう。図4は、(C0-Ce)/C0で表される変換速度は、Na+濃度が増大するとともに対数形状傾向で増大したことを示す。
【0059】
最後に、本明細書に記載の本発明の方法および組成物の種々の修正および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に自明であることは理解されよう。本発明を特定の好ましい態様に関して説明したが、特許請求の範囲に記載の発明は、かかる特定の態様に不当に限定されるべきでないことを理解されたい。実際、本記載の発明を実施するための形態の当業者に自明の種々の修正は、本発明の範囲に含まれるものとする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水廃液を二酸化炭素およびアンモニアと反応させてソーダ灰を生成させる工程を含む、塩水廃液からソーダ灰を生成させる方法であって、該アンモニアの少なくとも一部分を、反応中に生成される塩化アンモニウムから再生させる、方法。
【請求項2】
塩水廃液と二酸化炭素およびアンモニアとの反応によって、重炭酸ナトリウムおよび塩化アンモニウムが反応混合物中に生成され、反応混合物から重炭酸ナトリウムを分離して重炭酸ナトリウムと、塩化アンモニウムを含む第一母液とを生成させる工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第一母液を処理して、精製水と濃縮塩化アンモニウムを生成させる請求項2記載の方法。
【請求項4】
第一母液が、第一母液を高圧濾過工程に供することによって処理される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
濃縮塩化アンモニウムを塩基(base)アニオン交換樹脂で処理し、反応における使用に適したアンモニアを再生させる、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
反応混合物から分離された重炭酸ナトリウムを加熱してソーダ灰を生成させる、請求項3〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
反応に使用されるアンモニアの20〜80%が再生アンモニアである、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
反応に使用されるアンモニアの少なくとも10%が再生アンモニアである、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項9】
塩水廃液が、約50g/Lより高く約250g/Lより低い塩化ナトリウム濃度を有する、請求項1〜8いずれか記載の方法。
【請求項10】
塩水廃液が、脱塩プラントからの廃液流であるか、または脱塩プラントからの廃液流に由来する、請求項1〜9いずれか記載の方法。
【請求項11】
反応に使用される二酸化炭素が燃焼発生源からの排ガスから得られる、請求項1〜10いずれか記載の方法。
【請求項12】
二酸化炭素およびアンモニアでの処理の前に、塩水廃液を前処理して、塩水廃液中に存在するなんらかの望ましくない無機カチオンの少なくとも一部を除去する工程を含む、請求項1〜11いずれか記載の方法。
【請求項13】
望ましくない無機カチオンがカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびストロンチウムイオンからなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
塩水廃液中に存在する望ましくない無機カチオンが、該イオンを結合剤で選択的に結合させることにより、一部または全部のいずれかで除去される、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
結合剤がカチオン交換樹脂である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
a)約50g/L〜約250g/Lの塩化ナトリウム濃度を有する塩水廃液を準備する工程;
b)塩水廃液を処理して、存在するなんらかの望ましくない無機カチオンの少なくとも一部を除去し、前処理塩水廃液を得る工程;
c)前処理塩水廃液を二酸化炭素と、少なくとも一部が再生アンモニアであるアンモニアの存在下で反応させる工程;
d)塩水廃液と二酸化炭素との反応中に生成される重炭酸ナトリウムを、反応混合物から分離し、収集重炭酸ナトリウムと、塩化アンモニウムを含む第一母液を得る工程;
e)収集重炭酸ナトリウムを加熱してソーダ灰を生成させる工程;
f)第一母液を濾過して、精製水と、濃縮塩化アンモニウムを含む第二母液とを生成させる工程;ならびに
g)第二母液を処理し、工程(c)の反応における使用に適したアンモニアを再生させる工程
を含む、ソーダ灰の作製方法。
【請求項17】
工程(f)の処理が高圧膜濾過により行なわれる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(g)の処理が塩基アニオン交換樹脂を用いて行なわれる、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
塩基アニオン交換樹脂が弱塩基アニオン交換樹脂である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19いずれか記載の方法によって生成されるソーダ灰。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−509237(P2012−509237A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536704(P2011−536704)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001512
【国際公開番号】WO2010/057261
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(501345909)ユニバーシティ オブ サウス オーストラリア (5)
【氏名又は名称原語表記】University of South Australia