説明

脱墨装置

【課題】パルプ懸濁液中に含まれる繊維が各脱墨室の下部に残留し難い脱墨装置を提供する。
【解決手段】脱墨槽14に供給部16と排出部17とが設けられ、脱墨槽14内が第1の仕切部材29によって複数の脱墨室30に区画され、第1の仕切部材29に連通部32が形成され、第1の仕切部材29に隣接する脱墨室30同士が連通部32を介して連通し、供給部16から各脱墨室30と連通部32とを通って排出部17に至る流路34が水平方向に蛇行している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱墨槽内において、繊維を含むパルプ懸濁液に下部から気泡を放出することにより、パルプ懸濁液から印刷成分を分離する脱墨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の脱墨装置としては、例えば図15に示すように、脱墨槽101に、古紙原料液102を供給する供給口103と、古紙原料液102を排出する排出口104とが設けられ、脱墨槽101の下部に散気装置105が設けられているものがある。脱墨槽101の内部は、複数(第1〜第3)の堰106a〜106cによって複数(第1〜第4)の脱墨室107a〜107dに区画されている。このうち、供給口103に近い上流側の第1の堰106aの下部と排出口104に近い下流側の第3の堰106cの下部とにはそれぞれ連通口108が形成されており、また、両堰106a,106c間にある第2の堰106bの上部にも連通口108が形成されている。
【0003】
第1の脱墨室107aの下部と第2の脱墨室107bの下部とは連通口108を介して連通し、第2の脱墨室107bの上部と第3の脱墨室107cの上部とは連通口108を介して連通し、第3の脱墨室107cの下部と第4の脱墨室107dの下部とは連通口108を介して連通している。これにより、脱墨槽101の内部には、供給口103から各脱墨室107a〜107dと連通口108とを通って排出口104に至る流路110が上下方向に蛇行して形成される。
【0004】
また、脱墨槽101の上端部には、古紙原料液102の液面上に発生する泡(フロス)を槽外へ排出する上端開口部111が形成されている。排出口104には配管112が接続され、配管112には、排出口104から排出された脱墨後の古紙原料液102を後段の処理装置に移送するポンプ113が設けられている。
【0005】
これによると、供給口103から脱墨槽101内に供給された古紙原料液102は、流路110を上下方向に蛇行しながら、第1の脱墨室107aから第4の脱墨室107dに流れ、排出口104から排出される。この際、散気装置105から気泡114を放出することにより、古紙原料液102中の印刷インキの墨粒子が、気泡114に付着して気泡114と共に浮上し、分離除去される。
【0006】
このとき、古紙原料液102の液面上に大量の泡が発生し、この泡は脱墨槽101の上端開口部111から槽外へ排出される。
尚、上記のように上下方向に蛇行した流路110が脱墨槽101の内部に形成されている脱墨装置については、例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−245390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記の従来形式では、脱墨槽101内に供給された古紙原料液102は、流路110を上下方向(鉛直方向)に蛇行しながら、第1の脱墨室107aから第4の脱墨室107dに流れるため、古紙原料液102中に含まれるパルプ繊維が流路110の下部すなわち各脱墨室107a〜107dの下部に残留し易いという問題がある。
【0009】
また、散気装置105から放出された気泡114が古紙原料液102と共に排出口104から配管112内に排出され、ポンプ113が配管112内の気泡114を吸い込んでエア噛み現象が発生し易くなるという問題がある。
【0010】
また、脱墨槽101が大型になると、脱墨槽101の下部床面積と共に上端開口部111の開口面積も大きくなるため、上端開口部111の中央部分の泡(フロス)が槽外へ排出され難くなるという問題がある。
【0011】
本発明は、パルプ懸濁液中に含まれるパルプ繊維が各脱墨室の下部に残留し難く、また、ポンプのエア噛み現象が発生し難く、パルプ懸濁液の液面上に発生した泡が槽外へ排出され易い脱墨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本第1発明は、脱墨槽内において、繊維を含むパルプ懸濁液中に気泡を放出することにより、パルプ懸濁液から印刷成分を分離する脱墨装置であって、
脱墨槽に、パルプ懸濁液を供給する供給部と、パルプ懸濁液を排出する排出部とが設けられ、
脱墨槽内が第1の仕切部材によって複数の脱墨室に区画され、
第1の仕切部材に連通部が形成され、
第1の仕切部材に隣接する脱墨室同士が連通部を介して連通し、
供給部から各脱墨室と連通部とを通って排出部に至る流路が水平方向に蛇行しているものである。
【0013】
これによると、供給部から脱墨槽内に供給されたパルプ懸濁液は、流路を水平方向に蛇行しながら、各脱墨室と連通部とを流れ、排出部から槽外へ排出される。この際、脱墨槽内のパルプ懸濁液中に気泡を放出することにより、パルプ懸濁液中の印刷成分が、気泡に付着して気泡と共に浮上し、分離除去(脱墨)される。
【0014】
脱墨槽内に供給されたパルプ懸濁液は流路を水平方向に蛇行しながら流れるため、脱墨槽内においてパルプ懸濁液の上下方向への流れが抑制され、これにより、パルプ懸濁液中に含まれるパルプ繊維が各脱墨室の下部に残留し難くなる。
【0015】
本第2発明における脱墨装置は、脱墨槽内の底部上面に気泡発生機が設けられ、
気泡発生機は気泡を脱墨槽内に放出する気泡放出面を有し、
気泡放出面は脱墨槽内の底部上面よりも上方に位置し、
排出部は、脱墨槽の底部に形成されて底部上面に開口する下部排出口と、下部排出口の上方に形成され且つ下部排出口に連通するとともに脱墨室内に開口する上部排出口とを有し、
上部排出口の流路断面積が下部排出口の流路断面積よりも広いものである。
【0016】
これによると、気泡放出面から脱墨槽内に放出された気泡はパルプ懸濁液中を浮上する。また、上部排出口の流路断面積が下部排出口の流路断面積よりも広いため、パルプ懸濁液が最下流側の脱墨室から排出部へ流れ込む際、上部排出口を流れる時の流速が下部排出口を流れる時の流速よりも低速になる。これにより、気泡放出面から排出部に向うパルプ懸濁液の流れが緩やかになり、気泡放出面から放出された気泡が気泡放出面に沿って排出部へ向う流れに連行され難くなるため、排出部から槽外へ排出される気泡の排出量が低減され、排出部の下流側に設けられたポンプのエア噛み現象が発生し難くなる。
【0017】
本第3発明における脱墨装置は、脱墨槽内の底部上面に気泡発生機が設けられ、
気泡発生機は気泡を脱墨槽内に放出する気泡放出面を有し、
排出部の近傍で且つ気泡放出面から排出部に至る流路の途中に、気泡放出面よりも高い第2の仕切部材が設けられているものである。
【0018】
これによると、パルプ懸濁液が最下流側の脱墨室から排出部へ流れ込む際、気泡放出面から放出された気泡は、気泡放出面に沿って排出部へ向う流れに連行されたとしても、第2の仕切部材によって遮られるため、排出部に流れ込み難くなる。これにより、排出部から槽外へ排出される気泡の排出量が低減され、排出部の下流側に設けられたポンプのエア噛み現象が発生し難くなる。
【0019】
本第4発明における脱墨装置は、脱墨槽は、上方ほど開口面積が縮小するように傾斜した傾斜部と、傾斜部の上方から泡を排出する上端開口部とを有しているものである。
これによると、気泡がパルプ懸濁液の液面まで浮上すると、液面上に泡が発生し、泡の発生量の増加に伴って、泡は脱墨槽の上端開口部から槽外へ排出される。この際、上端開口部の開口面積は脱墨槽の下部床面積よりも縮小され、パルプ懸濁液中を浮上する気泡は脱墨槽の傾斜部に案内されて上端開口部に集められるため、パルプ懸濁液の液面上に発生した泡が上端開口部から槽外へ排出され易くなる。
【0020】
本第5発明における脱墨装置は、第1の仕切部材は脱墨槽に対して着脱自在であるものである。
これによると、第1の仕切部材を脱墨槽から取り外すことにより、第1の仕切部材と脱墨槽とを容易に保守点検することができる。
【0021】
本第6発明における脱墨装置は、気泡発生機は脱墨槽に対して着脱自在であるものである。
これによると、気泡発生機を脱墨槽から取り外すことにより、気泡発生機と脱墨槽とを容易に保守点検することができる。
【0022】
本第7発明における脱墨装置は、脱墨槽内で気泡が放出されてから脱墨槽内の液面に達するまでに要する時間を気泡浮上時間とし、
パルプ懸濁液が供給部から脱墨槽内の流路を流れて排出部に達するまでに要する時間をパルプ懸濁液移送時間とすると、
気泡浮上時間とパルプ懸濁液移送時間との比は1:30〜1:120の範囲内に設定されているものである。
【0023】
これによると、上記の比を1:30に近付けるほど、パルプ懸濁液移送時間に対して気泡浮上時間が相対的に長くなる。これにより、気泡とパルプ懸濁液中の印刷成分との接触確率が高くなる(接触時間が長くなる)ため、十分に脱墨することができる。
【0024】
また、パルプ懸濁液中のパルプ繊維の一部は、気泡に付着し、気泡と共に浮上して脱墨槽の上端部から槽外へ流出する。この際、上記の比を1:120に近付けるほど、パルプ懸濁液移送時間に対して気泡浮上時間が相対的に短くなり、これにより、気泡とパルプ繊維との接触時間が短くなるため、パルプ繊維が気泡に付着し難くなり、気泡と共に脱墨槽の上端部から槽外へ流出するパルプ繊維の流出量が低減され、パルプ繊維の無駄な流出を抑制することができる。
【0025】
このように、上記の比を調節することによって、脱墨効果とパルプ繊維の流出抑制効果とをバランス良く保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明によると、脱墨槽内に供給されたパルプ懸濁液は流路を水平方向に蛇行しながら流れるため、パルプ懸濁液中に含まれるパルプ繊維が脱墨室の下部に残留し難くなる。
【0027】
また、パルプ懸濁液が排出部へ流れ込む際、気泡放出面から排出部に向うパルプ懸濁液の流れが緩やかになり、気泡放出面から放出された気泡は気泡放出面に沿って排出部へ向う流れに連行され難くなる。このため、排出部から槽外へ排出される気泡の排出量が低減され、排出部の下流側に設けられたポンプのエア噛み現象が発生し難くなる。
【0028】
また、パルプ懸濁液が排出部へ流れ込む際、気泡放出面から放出された気泡は、気泡放出面に沿って排出部へ向う流れに連行されたとしても、第2の仕切部材によって遮られるため、排出部に流れ込み難くなる。これにより、排出部から槽外へ排出される気泡の排出量が低減され、排出部の下流側に設けられたポンプのエア噛み現象が発生し難くなる。
【0029】
また、上端開口部の開口面積は脱墨槽の下部床面積よりも縮小され、パルプ懸濁液中を浮上する気泡は脱墨槽の傾斜部に案内されて上端開口部に寄せ集められるため、パルプ懸濁液の液面上に発生した泡が上端開口部から槽外へ排出され易くなる。
【0030】
また、第1の仕切部材と気泡発生機とを脱墨槽から取り外すことにより、第1の仕切部材と気泡発生機と脱墨槽とを容易に保守点検することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態における脱墨装置を備えた古紙再生処理装置の構成を示す模式図である。
【図2】同、脱墨装置の縦断面図である。
【図3】同、脱墨装置の脱墨槽の斜視図である。
【図4】同、脱墨槽の横断面図であり、図2におけるX−X矢視図である。
【図5】同、脱墨槽の一部と第1の仕切部材との拡大横断面図である。
【図6】同、脱墨槽から第1の仕切部材と気泡発生機とを取り外した図である。
【図7】同、脱墨槽内に取り付けられた気泡発生装置の縦断面図である。
【図8】同、脱墨槽内の気泡発生機の平面図であり、図2におけるY−Y矢視図である。
【図9】同、脱墨槽内の空気供給管路の平面図であり、図2におけるZ−Z矢視図である。
【図10】同、脱墨装置の脱墨槽の供給部に接続された供給配管と古紙パルプ製造装置の攪拌槽に接続された配管と希釈部に接続された配管との合流部分の拡大断面図である。
【図11】同、脱墨槽の排出部の斜視図である。
【図12】同、脱墨槽の排出部の平面図である。
【図13】図12におけるX−X矢視図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態における脱墨槽の排出部の平面図である。
【図15】従来の脱墨装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
先ず、第1の実施の形態を、図1〜図13を参照して説明する。図1は古紙再生処理装置1の構成を示す概略図であり、古紙再生処理装置1は古紙パルプ製造装置2と脱墨装置3と抄紙装置4と仕上げ装置5とを一体的に備える小型のものである。
【0033】
古紙パルプ製造装置2は、古紙7を水および液体状の離解促進剤と攪拌し離解を行って、繊維を含むパルプ懸濁液8を製造するものである。古紙パルプ製造装置2は、攪拌槽9と、攪拌槽9内の古紙7を水とともに攪拌して離解する攪拌装置10と、攪拌槽9内に脱墨剤を添加する脱墨剤添加部13とを有している。尚、攪拌槽9の底部には、パルプ懸濁液8を排出する排出部11が設けられている。
【0034】
また、脱墨装置3は、古紙パルプ製造装置2において製造されたパルプ懸濁液8を脱墨するものである。抄紙装置4は、脱墨装置3において脱墨されたパルプ懸濁液8を抄紙し、抄紙により得られた湿紙を乾燥するものである。仕上げ装置5は、抄紙装置4において湿紙を乾燥したものを所定のサイズに裁断等することにより仕上げを行って再生紙12を得るものである。
【0035】
以下に、脱墨装置3の構成について説明する。
脱墨装置3は、脱墨槽14内のパルプ懸濁液8中に気泡15を放出することにより、パルプ懸濁液8から印刷成分を分離するものである。図2〜図4に示すように、脱墨槽14には、パルプ懸濁液8を槽内へ供給する供給部16と、パルプ懸濁液8を槽外へ排出する排出部17と、槽内のパルプ懸濁液8中に気泡15を放出する気泡発生装置18とが設けられている。
【0036】
脱墨槽14は、上端が開放された四角形状の槽であり、前後一対の端板部20,21と、左右一対の側板部22,23と、底板部24とを有している。さらに、脱墨槽14は、上方ほど開口面積が縮小するように傾斜した傾斜部25と、傾斜部25の上方から泡26(フロス)を排出する上端開口部27とを有している。尚、傾斜部25は側板部22,23の上部に形成されている。
【0037】
また、脱墨槽14の底板部24の中央部には、槽内外に開口する底部開口部48と、底部開口部48を閉じる底蓋49とが設けられている。底蓋49は、複数のボルト50(連結部材の一例)によって脱墨槽14の底板部24に着脱自在に連結され、底部開口部48を閉じている。
【0038】
また、脱墨槽14は、傾斜部25を有する上部槽体14aと、気泡発生装置18を有する槽本体14bとに上下二分割されている。上部槽体14aは、複数のボルト,ナット28(連結手段の一例)によって着脱自在に、槽本体14bの上部に連結されている。さらに、脱墨槽14には、上端開口部27から槽外へ排出された泡26を受ける受泡槽38が設けられている。
【0039】
脱墨槽14内には平板状の第1の仕切部材29が複数枚設けられており、脱墨槽14内は第1の仕切部材29によって複数の脱墨室30に区画されている。各第1の仕切部材29の左右片側部の上下複数箇所には連通口32(連通部の一例)が形成されており、第1の仕切部材29に隣接する一対の脱墨室30同士が連通口32を介して連通している。尚、互いに隣同士にある第1の仕切部材29の連通口32は左右反対側になるように配置されている。脱墨槽14内には、供給部16から各脱墨室30と連通口32とを通って排出部17に至る流路34が水平方向に蛇行して形成されている。
【0040】
図5に示すように、各第1の仕切部材29の取付箇所において、両方の側板部22,23の内面には、複数の固定溝31が上下方向にわたり形成されている。各第1の仕切部材29はそれぞれ、固定溝31に差し込まれることで、脱墨槽14内に固定される。また、図6に示すように、上部槽体14aを槽本体14bから取り外した状態で、第1の仕切部材29の両側縁が槽本体14bの固定溝31に対して上下方向から挿脱可能である。
【0041】
図2,図7に示すように、気泡発生装置18は、脱墨槽14内の底板部24の上面(底部上面の一例)に設置された気泡発生機35と、槽外から気泡発生機35に空気を供給するエアポンプ36と、エアポンプ36から気泡発生機35に連通する空気供給管路37とを有している。
【0042】
気泡発生機35は、複数の気泡放出部材39と、これら気泡放出部材39を保持する枠フレーム体40とを有している。各気泡放出部材39は、枠フレーム体40内に設けられており、上面が開口した四角箱状のフレーム41と、フレーム41の上面開口を閉じるようにフレーム41内に設けられた多孔体42と、フレーム41内に形成された空気供給室43とを有している。多孔体42は、その上端に、気泡15を脱墨槽14内へ放出する気泡放出面44を有している。気泡放出面44は、脱墨槽14の底板部24の上面よりも上方に位置している。
【0043】
尚、図8に示すように、気泡発生機35は、供給部16と排出部17とを除いて、脱墨槽14の底面全面に設けられている。また、多孔体42には、多孔性セラミック、軽石、木材、或は金属や樹脂の板に多数の微小な孔を形成したもの(パンチングメタル等)が用いられる。
【0044】
図7に示すように、枠フレーム体40は、上面が開口した箱状の部材であり、底板に下部開口部52を有している。下部開口部52は底部開口部48の上方に位置しており、枠フレーム体40の底面と脱墨槽14の底板部24の上面との隙間はシール材53によって水密にシールされている。また、図6に示すように、枠フレーム体40は脱墨槽14の槽本体14b内から上下方向へ挿脱可能である。
【0045】
図7,図9に示すように、空気供給管路37は、枠フレーム体40内に設けられて気泡放出部材39の下方を前後方向に通る主供給管55と、主供給管55から分岐して各気泡放出部材39のフレーム41の底部に接続された複数の分岐供給管56と、槽外のエアポンプ36と主供給管55との間に接続された接続管57とを有している。各分岐供給管56は主供給管55内と各気泡放出部材39の空気供給室43とに連通している。
【0046】
接続管57は、脱墨槽14の底蓋49を貫通しており、槽内において、エアポンプ36に接続されたポンプ側接続管57aと、主供給管55に接続された供給管側接続管57bとに二分割されている。これらポンプ側接続管57aと供給管側接続管57bとは継手58によって分離可能に接続されている。
【0047】
図4に示すように、供給部16は、前端(上流端)の端板部20と一方の側板部22とが交差するコーナー部(隅部)に位置しており、下部供給口78と上部供給口79とを有している。下部供給口78は、脱墨槽14の底板部24に形成されており、上端が底板部24の上面に開口するとともに下端が底板部24の下方に開口する円形の孔からなる。
【0048】
上部供給口79は、端板部20と側板部22と気泡発生機35とで囲まれて形成された平面視において四角形の空間であり、下部供給口78の上方に形成されている。上部供給口79の下端は下部供給口78に連通し、上部供給口79の上端は最上流側Aの脱墨室30内の下部に開口している。上部供給口79の流路断面積は下部供給口78の流路断面積よりも広く形成されている。
【0049】
図1,図3,図4に示すように、供給部16の下部供給口78には供給配管61が接続され、攪拌槽9の排出部11には一方の配管62が接続され、希釈水81を貯留する希釈部63には他方の配管64が接続され、図10に示すように、一方の配管62と他方の配管64とは供給配管61に合流するようにY形状に接続されている。図1に示すように、一方の配管62には、攪拌槽9内のパルプ懸濁液8を供給配管61に移送する一方のポンプ65が設けられ、他方の配管64には、希釈部63に貯留された希釈水81を供給配管61に移送する他方のポンプ66が設けられている。尚、供給配管61には供給用バルブ80が設けられている。
【0050】
図4に示すように、排出部17は、後端(下流端)の端板部21と一方の側板部22とが交差するコーナー部(隅部)に位置しており、下部排出口67と上部排出口68とを有している。下部排出口67は、脱墨槽14の底板部24(底部の一部)に形成されており、上端が底板部24の上面に開口するとともに下端が底板部24の下方に開口する円形の孔からなる。
【0051】
上部排出口68は、端板部21と側板部22と気泡発生機35の枠フレーム体40とで囲まれて形成された平面視において四角形の空間であり、下部排出口67の上方に形成されている。上部排出口68の下端は下部排出口67に連通し、上部排出口68の上端は最下流側Bの脱墨室30内の下部に開口している。上部排出口68の流路断面積(水平断面積)は下部排出口67の流路断面積(水平断面積)よりも広く形成されている。
【0052】
最下流側Bの脱墨室30内の下部で且つ最下流側Bの脱墨室30内の気泡放出面44から排出部17の上部排出口68に至る流路の途中には、気泡放出面44よりも高い第2の仕切部材69が設けられている。第2の仕切部材69は、平板状の部材であり、最下流側Bの脱墨室30内の気泡発生機35の枠フレーム体40の上端に設けられており、且つ、最下流側Bの第1の仕切部材29の下部と後端の端板部21の下部との間に配置されて一方の側板部22に対向し、上部排出口68に面している。
【0053】
排出部17の下部排出口67には排出配管71の一端(上流側端)が接続され、図1に示すように、排出配管71の他端は抄紙装置4のヘッドボックス(図示省略)に接続されている。排出配管71の途中には、脱墨槽14内のパルプ懸濁液8を抄紙装置4へ移送するポンプ72と、排出配管71から分岐して脱墨槽14内の液体を槽外へ抜き取る抜取配管73とが設けられている。また、排出配管71と抜取配管73には排出用バルブ74と抜取用バルブ75が設けられている。
【0054】
以下、上記構成における作用を説明する。
図1に示すように、古紙7を攪拌槽9内に投入し、攪拌装置10を作動させて、古紙7を水および離解促進剤と攪拌し離解を行って、高濃度の繊維を含むパルプ懸濁液8を製造する。このようにして製造された高濃度のパルプ懸濁液8は、一方のポンプ65によって移送され、攪拌槽9内から一方の配管62を経て供給配管61に流入する。この際、希釈水81が、他方のポンプ66によって移送され、希釈部63から他方の配管64を経て供給配管61に流入する。これにより、図10に示すように、高濃度のパルプ懸濁液8と希釈水81とが供給配管61内で合流し混合(ミキシング)され、供給配管61内で、パルプ懸濁液8の繊維濃度が低下して低濃度のパルプ懸濁液8となる。このように、高濃度のパルプ懸濁液8と希釈水81とを供給配管61内で攪拌混合して希釈できるため、希釈用のタンクや希釈用の攪拌装置等が不要になり、設置スペースの縮小およびコストの低減を図ることができる。
【0055】
この際、図1,図4に示すように、供給用バルブ80は開かれており、上記低濃度のパルプ懸濁液8は供給配管61を通って供給部16から脱墨槽14内の最上流側Aの脱墨室30内に供給される。このようにして最上流側Aの脱墨室30内に供給されたパルプ懸濁液8は、流路34を水平方向に蛇行しながら、連通口32を通って各脱墨室30内を下流側へ流れ、最下流側Bの脱墨室30内から排出部17を通って排出配管71内へ排出される。このとき、図1に示すように、排出用バルブ74が開かれるとともに抜取用バルブ75が閉じられており、ポンプ72が作動することにより、パルプ懸濁液8は排出配管71を通って抄紙装置4へ移送される。
【0056】
この際、図7に示すように、エアポンプ36を作動することにより、エアポンプ36から吐出された空気は、接続管57から主供給管55を通り、各分岐供給管56を流れて、各気泡放出部材39の空気供給室43に供給され、空気供給室43から多孔体42を通って、気泡放出面44から多数の気泡15として各脱墨室30内に放出される。これにより、パルプ懸濁液8中の印刷成分(トナー成分)が気泡15に付着して気泡15と共に浮上し、分離除去される。この際、気泡15は、供給部16と排出部17とを除いて、脱墨槽14内の底面全面から放出されるため、脱墨効率が向上する。
【0057】
図4に示すように、脱墨槽14内に供給されたパルプ懸濁液8は流路34を水平方向に蛇行しながら流れるため、脱墨槽14内においてパルプ懸濁液8の上下方向への流れが抑制され、これにより、パルプ懸濁液8中のパルプ繊維が各脱墨室30の下部に残留し難くなる。また、脱墨槽14内でのパルプ懸濁液8の移動距離が長くなるため、流路が蛇行していない大容量の脱墨槽と同等の脱墨効果を小容量の脱墨槽14で得ることができる。
【0058】
また、図2に示すように、気泡15がパルプ懸濁液8の液面まで浮上すると、液面上に泡26が発生し、泡26の発生量の増加に伴って、泡26は上端開口部27から脱墨槽14の外部へ排出され、受泡槽38に受けられる。この際、上端開口部27の開口面積は脱墨槽14の下部床面積よりも縮小され、パルプ懸濁液8中を浮上する気泡15が脱墨槽14の傾斜部25に案内されて上端開口部27に寄せ集められるため、パルプ懸濁液8の液面上に発生した泡26は上端開口部27から脱墨槽14の外部へ排出され易くなる。
【0059】
また、図11〜図13に示すように、最下流側Bの脱墨室30内のパルプ懸濁液8が排出部17へ流れ込む際、最下流側Bの脱墨室30内の気泡放出面44から放出された気泡15は、気泡放出面44に沿って排出部17へ向う流れ82に連行されたとしても、その途中で第2の仕切部材69によって遮られるため、排出部17に流れ込み難くなる。これにより、排出部17から排出配管71内(槽外)へ排出される気泡15の排出量が低減される。
【0060】
さらに、排出部17の上部排出口68の流路断面積が下部排出口67の流路断面積よりも広いため、パルプ懸濁液8が最下流側Bの脱墨室30から排出部17へ流れ込む際、上部排出口68を流れる時の流速が下部排出口67を流れる時の流速よりも低速になる。これにより、最下流側Bの脱墨室30内の気泡放出面44から排出部17に向うパルプ懸濁液8の流れ82が緩やかになり、気泡放出面44から放出された気泡15が気泡放出面44に沿って排出部17へ向う流れ82に連行され難くなるため、排出部17から排出配管71内(槽外)へ排出される気泡15の排出量がより一段と低減され、排出配管71に設けられたポンプ72(図1参照)のエア噛み現象が発生し難くなる。
【0061】
脱墨後、図1に示すように、排出配管71を通って抄紙装置4へ移送されたパルプ懸濁液8は、抄紙装置4で抄紙されて湿紙となり、乾燥される。乾燥された湿紙は仕上げ装置5において所定のサイズに裁断されて再生紙12に仕上げられる。
【0062】
また、脱墨装置3を洗浄する際、各ポンプ65,66,72とエアポンプ36とを停止し、排出用バルブ74と供給用バルブ80とを閉じるとともに抜取用バルブ75を開く。これにより、各脱墨室30内のパルプ懸濁液8は、連通口32を通って下流側へ流れ、最下流側Bの脱墨室30から排出部17を通って排出配管71内へ排出され、排出配管71内から抜取配管73内を流れて、脱墨槽14の外部に抜き取られる。
【0063】
このようにして脱墨槽14内のパルプ懸濁液8を全て抜き取って脱墨槽14内を空にした後、抜取用バルブ75も閉じ、脱墨槽14内に洗浄水(清水)を注入して、脱墨槽14の上端まで洗浄水を満たす。その後、エアポンプ36を作動させて気泡発生機35から脱墨槽14内に多数の気泡15を放出する。これにより、洗浄水の水面が一気に上昇して、洗浄水が上端開口部27から脱墨槽14の外部へ溢流する。この作業を複数回繰り返すことによって、脱墨槽14の外面や上端開口部27の周縁に付着した繊維が洗浄水により洗い流されるため、洗浄専用のシャワー装置等が不要となり、コスト低減を図ることができる。尚、洗浄作業完了後、抜取用バルブ75を開いて、脱墨槽14内の洗浄水を抜取配管73から槽外へ排出する。
【0064】
また、脱墨装置3を保守点検等する際、各ポンプ65,66,72とエアポンプ36とを停止し、排出用バルブ74と供給用バルブ80とを閉じるとともに抜取用バルブ75を開いて、脱墨槽14内のパルプ懸濁液8を全て抜き取って脱墨槽14内を空にする。
【0065】
そして、図6に示すように、ボルト,ナット28を取り外して、脱墨槽14の上部槽体14aを槽本体14bから取り外し、各第1の仕切部材29を固定溝31から上方へ脱抜することにより、全ての第1の仕切部材29を脱墨槽14から取り外すことができる。
【0066】
さらに、ボルト50を取り外して、底蓋49を脱墨槽14の底板部24から下方へ取り外し、底部開口部48を開く。作業者は底部開口部48を通して継手58を操作して接続管57をポンプ側接続管57aと供給管側接続管57bとに二分割する。その後、気泡発生機35の枠フレーム体40を脱墨槽14の槽本体14b内から引き上げることにより、気泡発生機35を槽本体14bの上方へ取り外すことができる。これにより、脱墨槽14や第1の仕切部材29および気泡発生機35の保守点検作業を容易に行うことができ、第1の仕切部材29や気泡発生機35を容易に交換することも可能である。
【0067】
保守点検作業完了後、図2に示すように、気泡発生機35を上方から槽本体14b内へ挿入して底板部24上に配置し、継手58を操作してポンプ側接続管57aと供給管側接続管57bとを接続し、ボルト50を用いて底蓋49を脱墨槽14の底板部24に取り付けて底部開口部48を閉じる。
【0068】
次に、各第1の仕切部材29を槽本体14bの上方から固定溝31に挿入することにより、全ての第1の仕切部材29を槽本体14b内に取り付ける。その後、ボルト,ナット28を用いて上部槽体14aを槽本体14bに取り付けることにより、脱墨槽14が組み立てられる。
【0069】
尚、脱墨槽14内の流路34が水平方向に蛇行しているため、上記のように脱墨槽14内のパルプ懸濁液8又は洗浄水を一個の排出部17から抜取配管73へ抜き取ることができ、図15で示した上記従来のように脱墨槽101内の流路110が上下方向に蛇行するものに比べて、抜き取り用の排出部の個数を少なくすることが可能となる。
【0070】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態を、図14を参照して説明する。
脱墨槽14の底板部24には、円環状の磁石84が排出部17の下部排出口67の上端開口部を取り囲むように設けられている。
【0071】
これによると、脱墨槽14内のパルプ懸濁液8が排出部17を通って槽外へ排出される際、パルプ懸濁液8中の印刷成分やパルプ懸濁液8中に混入したステープラの針等の金属成分が磁石84に吸着される。これにより、脱墨槽14から排出配管71を通って抄紙装置4に移送されるパルプ懸濁液8から印刷成分や金属成分を除去することができる。
【0072】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、脱墨槽14の内面と第1の仕切部材29の表面とがフッ素樹脂(例えばPTFE等)でコーティングされている。
【0073】
これによると、パルプ懸濁液8中の繊維が脱墨槽14の内面や第1の仕切部材29の表面に付着するのを防止することができる。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、脱墨槽14内で気泡放出面44から気泡15が放出されてから脱墨槽14内のパルプ懸濁液8の液面に達するまでに要する時間を気泡浮上時間とする。また、パルプ懸濁液8が供給部16から脱墨槽14内の流路34を流れて排出部17に達するまでに要する時間をパルプ懸濁液移送時間とする。下記表1に示すように、上記気泡浮上時間とパルプ懸濁液移送時間との比率は1:30〜1:120の範囲内に設定されている。
【0074】
【表1】




これによると、上記の比率を1:30に近付けるほど、パルプ懸濁液移送時間に対して気泡浮上時間が相対的に長くなる。これにより、気泡15とパルプ懸濁液8中の印刷成分との接触確率が高くなる(接触時間が長くなる)ため、十分に脱墨することができる。
【0075】
また、パルプ懸濁液8中のパルプ繊維の一部は、気泡15に付着し、気泡15と共に浮上して脱墨槽14の上端開口部27から外部へ流出する。この際、上記の比率を1:120に近付けるほど、パルプ懸濁液移送時間に対して気泡浮上時間が相対的に短くなり、これにより、気泡15とパルプ繊維との接触時間が短くなるため、パルプ繊維が気泡15に付着し難くなり、気泡15と共に脱墨槽14の上端開口部27から外部へ流出するパルプ繊維の流出量が低減され、パルプ繊維の無駄な流出を抑制することができる。
【0076】
このように、上記の比を調節することによって、脱墨効果とパルプ繊維の流出抑制効果とをバランス良く保つことが可能となる。
上記各実施の形態では、図2に示すように、連通口32を第1の仕切部材29の左右片側部の上下三箇所に形成したが、三箇以外の複数箇所に形成してもよく、或は、一箇所のみに形成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
3 脱墨装置
8 パルプ懸濁液
14 脱墨槽
15 気泡
16 供給部
17 排出部
24 底板部(底部)
25 傾斜部
26 泡
27 上端開口部
29 第1の仕切部材
30 脱墨室
32 連通口(連通部)
34 流路
35 気泡発生機
44 気泡放出面
67 下部排出口
68 上部排出口
69 第2の仕切部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱墨槽内において、繊維を含むパルプ懸濁液中に気泡を放出することにより、パルプ懸濁液から印刷成分を分離する脱墨装置であって、
脱墨槽に、パルプ懸濁液を供給する供給部と、パルプ懸濁液を排出する排出部とが設けられ、
脱墨槽内が第1の仕切部材によって複数の脱墨室に区画され、
第1の仕切部材に連通部が形成され、
第1の仕切部材に隣接する脱墨室同士が連通部を介して連通し、
供給部から各脱墨室と連通部とを通って排出部に至る流路が水平方向に蛇行していることを特徴とする脱墨装置。
【請求項2】
脱墨槽内の底部上面に気泡発生機が設けられ、
気泡発生機は気泡を脱墨槽内に放出する気泡放出面を有し、
気泡放出面は脱墨槽内の底部上面よりも上方に位置し、
排出部は、脱墨槽の底部に形成されて底部上面に開口する下部排出口と、下部排出口の上方に形成され且つ下部排出口に連通するとともに脱墨室内に開口する上部排出口とを有し、
上部排出口の流路断面積が下部排出口の流路断面積よりも広いことを特徴とする請求項1記載の脱墨装置。
【請求項3】
脱墨槽内の底部上面に気泡発生機が設けられ、
気泡発生機は気泡を脱墨槽内に放出する気泡放出面を有し、
排出部の近傍で且つ気泡放出面から排出部に至る流路の途中に、気泡放出面よりも高い第2の仕切部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の脱墨装置。
【請求項4】
脱墨槽は、上方ほど開口面積が縮小するように傾斜した傾斜部と、傾斜部の上方から泡を排出する上端開口部とを有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の脱墨装置。
【請求項5】
第1の仕切部材は脱墨槽に対して着脱自在であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の脱墨装置。
【請求項6】
気泡発生機は脱墨槽に対して着脱自在であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の脱墨装置。
【請求項7】
脱墨槽内で気泡が放出されてから脱墨槽内の液面に達するまでに要する時間を気泡浮上時間とし、
パルプ懸濁液が供給部から脱墨槽内の流路を流れて排出部に達するまでに要する時間をパルプ懸濁液移送時間とすると、
気泡浮上時間とパルプ懸濁液移送時間との比は1:30〜1:120の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の脱墨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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