説明

脱硫剤及びその製造方法、並びに脱硫方法

【課題】 被処理ガスの温度低下を抑制しつつより効果的に硫黄成分の除去を行なうことが可能となる脱硫剤及びその製造方法を提供すると共に、その脱硫剤を用いた脱硫方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスや石炭等をガス化して得られる合成ガスのような被処理ガス中の硫黄成分を除去する脱硫剤及びその製造方法、並びに脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇や価格高騰などの影響から、食品廃棄物や資源作物等のバイオマスの利用や、化石燃料の効率的な利用についての検討がなされている。例えば、バイオマスや化石燃料をガス化剤(水蒸気や酸素、空気など)を用いてガス化炉内でガス化し、生成する合成ガス(一酸化炭素、水素及びメタンを高濃度に含有するもの)を発電設備などの燃料として利用したり、合成原料として利用したりする試みがなされている。特に、ガス化・合成ガスの利用は、従来の燃料を直接燃焼させる場合に比べて小規模な設備で効率的に行うことができ、地域分散型のバイオマス資源等の有効利用を図れることや、合成ガスから製造した燃料/ケミカルズは貯蔵、輸送が可能であることから、注目されている。
【0003】
上記のような合成ガスは、バイオマスや化石燃料からなる有機原料をガス化炉に導入し、ガス化剤と共に1000℃程度の高温で処理することで得られるものである。斯かる合成ガス中には、水蒸気が30〜70vol%程度含まれる。この水蒸気は、原料に含まれる水分、原料に含まれる水素原子が酸素や空気と反応し生成された水蒸気、ガス化剤として用いた水蒸気の未反応分などに由来するものである。
【0004】
上述した合成ガス中には有機原料に由来する硫黄成分(二酸化硫黄や硫化水素等)が含有されている。このため、環境汚染や設備の腐食を防止すると共に、後にIGCC(石炭ガス化複合発電技術)やBTL(バイオマスガス化合成液体燃料化技術)などに利用した際に反応(触媒反応など)を阻害しないようにするために硫黄成分の除去が行なわれる。
【0005】
上述した合成ガスのような被処理ガスから硫黄成分を除去する方法(脱硫方法)としては、種々の方法が知られているが、例えば、脱硫塔内において、石灰(炭酸カルシウム)を脱硫剤として用いた吸収液に合成ガスを接触させることで硫黄成分を除去する湿式の石灰石膏法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
また、他の方法としては、脱硫塔内において、粒子状の炭酸カルシウムや消石灰を脱硫剤として用い、該脱硫剤と合成ガスとを接触させることで硫黄成分を除去する乾式の石灰石膏法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−57397号公報
【特許文献2】特開2007−91787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、吸収液との接触によって被処理ガスが冷却されてしまうため、後工程で被処理ガスを加熱する必要がある場合、より多くのエネルギーが必要となってエネルギー効率を低下させる要因となる。
【0009】
一方、特許文献2記載の方法は、乾式の脱硫方法であるため、特許文献1記載の方法よりも被処理ガスの温度低下は抑制されるが、一般的に、脱硫率が30〜40vol%程度であり、硫黄成分を100ppm程度までしか除去できない。また、脱硫剤の粒子を微細にするなどした場合であっても、脱硫率は、せいぜい70〜80vol%程度であり、硫黄成分を20〜30ppm程度までしか除去できない。
【0010】
そこで、本発明は、被処理ガスの温度低下を抑制しつつより効果的に硫黄成分の除去を行なうことが可能となる脱硫剤及びその製造方法を提供すると共に、その脱硫剤を用いた脱硫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
斯かる課題に鑑みて本発明者らが鋭意研究したところ、セメント系水和物が水蒸気雰囲気下で加熱処理された処理物が、水蒸気雰囲気下の高温状態であっても優れた脱硫作用を有する脱硫剤となることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
即ち、本発明にかかる脱硫剤は、セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理されてなることを特徴とする。
【0013】
斯かる構成によれば、セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理されることで、水蒸気雰囲気下の高温状態であっても優れた脱硫作用を有する脱硫剤となる。このため、例えば、生成した直後の合成ガスのような被処理ガスから脱硫を行なうような場合であっても、被処理ガスの温度低下を抑制しつつ優れた脱硫効果を得ることができる。
【0014】
具体的には、例えば上記のような合成ガスが脱硫対象ガスである場合、該合成ガスは、有機原料が水蒸気雰囲気下において高温で処理されることで生成されるものであるため、生成直後では、水蒸気を含んだ高温状態となっている。本発明に係る脱硫剤は、このような状態の合成ガスに対しても優れた脱硫効果を示すものであるため、脱硫剤と合成ガスとを直接接触させる方法(乾式の方法)で、硫黄成分の除去を行なうことができる。これにより、合成ガスの温度低下を抑制することができると共に効果的に硫黄成分の除去を行なうことができる。
【0015】
本発明にかかる脱硫剤の製造方法は、セメント系水和物を水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理することによって脱硫剤を得ることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の脱硫剤および脱硫剤の製造方法においては、前記セメント系水和物が多孔性であることが好ましく、また、前記セメント系水和物がALCであることが好ましい。
【0017】
本発明にかかる脱硫方法は、水蒸気および硫黄成分を含有する被処理ガスと上記の脱硫剤とを接触させることにより、前記被処理ガスから硫黄成分を除去することを特徴とする。
【0018】
斯かる構成によれば、セメント系水和物を水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理して得られた脱硫剤は、水蒸気雰囲気下であっても優れた脱硫作用を有するものとなる。このため、水蒸気を含有する被処理ガス(例えば、上述したような合成ガス)と接触させること、即ち、乾式の脱硫処理を行なうことで、脱硫を行なう際の被処理ガスの温度低下を抑制することができると共に効果的に硫黄成分の除去を行なうことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、例えば合成ガスのような被処理ガスの温度低下を抑制しつつより効果的に硫黄成分の除去を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】前処理時に加熱炉から放出される窒素ガス中のH2S濃度の経時変化を示したグラフであって、ALC板とエアモルタルとの差異を示したグラフ。
【図2】前処理時に加熱炉から放出される窒素ガス中のH2S濃度の経時変化を示したグラフであって、前処理温度の影響を示したグラフ。
【図3】前処理時に加熱炉から放出される窒素ガス中のH2S濃度の経時変化を示したグラフであって、水蒸気濃度の影響を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
【0022】
本発明に係る脱硫剤は、硫黄成分を含有する種々のガス(被処理ガス)から硫黄成分を除去する際に用いられるものであり、特に、水蒸気を含有する高温の被処理ガスから硫黄成分を除去する際に用いられるものである。
【0023】
斯かる脱硫剤は、セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において加熱処理されてなるものである。セメント系水和物としては、多孔性のものを用いることが好ましく、具体的には、起泡剤や発泡剤等を用いて気泡を含有させた状態で水和硬化させたセメント系水和物を好適に用いることができる。また、空隙率が15vol%以上となるものを用いることが好ましい。多孔性のセメント系水和物としては、ALCや、多孔性のコンクリート、ポーラスコンクリート、これらから形成された耐火被覆材等を用いることができる。また、これらの廃材(ALC端材やコンクリートスラッジ粉末等)などを用いることもでき、特には、ALC端材を用いることが好ましい。なお、ALCとは、オートクレーブ養生(高温高圧下で養生)した軽量気泡コンクリートであり、一般的に、JIS A 5416で規定されているものである。
【0024】
セメント系水和物の水蒸気雰囲気下における加熱処理は、400℃以上800℃以下で行われ、好ましくは650℃以上800℃以下、より好ましくは700℃以上750℃以下の温度で行なわれる。また、被処理ガスの温度よりも高い温度で加熱処理されることが特に好ましい。また、水蒸気雰囲気としては、水蒸気濃度が10vol%(常圧下)以上90vol%(常圧下)以下であることが好ましく、50vol%(常圧下)以上90vol%(常圧下)以下であることがより好ましい。水蒸気が10vol%未満でもよいが処理時間が長くなり、効率が劣る。また、被処理ガスの水蒸気濃度よりも高い水蒸気濃度であることが特に好ましい。
【0025】
水蒸気雰囲気下の加熱処理の具体的な手順としては、例えば、前処理としてハンマーなどの粉砕機を用いてセメント系水和物を5〜20mm程度の大きさに粉砕する。そして、粉砕したセメント系水和物を加熱炉内に配置し、上記のような水蒸気雰囲気下において上記の温度範囲で加熱処理を行なう。加熱処理を行なう時間としては、2〜5時間程度であることが好ましい。加熱処理を行なう際には、水蒸気を含むガスを加熱炉内に連続的に流入させることで上記のような水蒸気雰囲気を維持するようにしてもよく、或いは、加熱炉内を密閉状態にすることで上記のような水蒸気雰囲気を維持するようにしてもよい。好ましくは、連続的にガスを流入させる方法が用いられる。加熱処理後のセメント系水和物は、加熱炉内から取り出され、常温にまで冷却されると共に乾燥されて脱硫剤として用いられる。
【0026】
本発明の脱硫剤は、水蒸気を含有する高温の被処理ガスと接触させる方法で使用される。即ち、本発明の脱硫剤は、乾式の脱硫方法において使用されるものである。被処理ガスの温度としては、400℃以上800℃以下であることが好ましく、脱硫剤を形成する際の加熱温度(前処理温度)以下の温度であることがより好ましい。また、被処理ガスは、5vol%以上の水蒸気を含有することが好ましく、30vol%以上70vol%以下の水蒸気を含有することがより好ましく、50vol%の水蒸気を含有することがさらに好ましい。また、脱硫剤を形成する際の水蒸気濃度以下の水蒸気を含有することが特に好ましい。このような範囲の前処理温度や水蒸気濃度とすることで、良好な脱硫作用を得ることができると共に、脱硫剤の形状が被処理ガスの熱によって崩壊してしまうのを抑制することができる。
【0027】
本発明に係る脱硫剤が好適に用いられる被処理ガスとしては、例えばバイオマスや化石燃料などの有機原料から生成される合成ガスが挙げられる。該合成ガスは、有機原料を水蒸気雰囲気下で加熱してガス化させることで得られるものである。一般的には、ガス化炉内に、ガス化剤として水蒸気を導入し、ガス化炉内で有機原料を水蒸気と共に1000℃程度で加熱してガス化することで得られるものである。ガス化によって得られる合成ガスの成分としては、主に、CO2、CO、H2、CH4が挙げられる。
【0028】
生成直後の合成ガス(H2/CO=1.5〜3.5、通常は約2)は、30vol%以上70vol%以下、好ましくは50vol%の水蒸気を含有すると共に、温度が400℃以上800℃以下、或いは650℃以上800℃以下の高温状態となっている。また、合成ガスには、有機原料に由来する硫黄成分(硫化水素や二酸化硫黄など)が含有されている。合成ガス中の硫黄成分の含有量は、有機原料の成分によって異なるが100〜10万ppm程度である。
【0029】
本発明の脱硫剤が用いられる脱硫装置の構成としては、特に限定されるものではなく、当業者が被処理ガスの状態(流量や硫黄成分量など)に応じて適宜選択することができる。例えば、固定層式の吸収塔を備える装置を採用することができる。吸収塔内に設置される脱硫剤の状態も、特に限定されるものではなく、例えば、φ2mm程度の貫通孔を複数備えるパンチングメタル板の間に脱硫剤を充填することで、脱硫剤の固定層を形成するようにしてもよい。また、固定層式のみならず、流動層式の装置を採用することも可能である。
【0030】
このような脱硫装置を用いて処理を行なうことで、被処理ガス(処理ガス)の温度低下を抑制しつつ、処理ガス中の硫黄成分を除去することができ、硫黄成分の濃度を例えば5ppm以下まで低下させることが可能となる。なお、吸収塔内の脱硫剤は、使用頻度に応じて脱硫効果が低下するため、所望する脱硫効果が得られなくなった際には、吸収塔内から抜き出してセメント原料等として再利用することができる。
【0031】
以上のように、本発明にかかる脱硫剤及びその製造方法、並びにその脱硫剤を用いた脱硫方法によれば、例えば、合成ガスのような被処理ガスの温度低下を抑制しつつより効果的に硫黄成分の除去を行なうことが可能となる。
【0032】
即ち、セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理されてなる脱硫剤を用いることで、水蒸気雰囲気下の高温状態であっても優れた脱硫効果を得ることができる。このため、水蒸気を含んだ高温状態の被処理ガスと脱硫剤とを接触させる方法(乾式の方法)で硫黄成分の除去を行なうことができる。これにより、被処理ガスの温度低下を抑制することができると共に効果的に硫黄成分の除去を行なうことができる。
【0033】
また、水蒸気雰囲気下において上記の温度範囲、好ましくは650℃以上800℃以下で加熱処理を行なうことで、セメント系水和物(具体的には、ALC)の重量が低下し過ぎて強度が低下してしまうのを防止することができる。
【0034】
また、脱硫剤を形成する際の加熱温度以下の温度であり且つ400℃以上である被処理ガスと、脱硫剤とを接触させることにより、脱硫剤からの硫黄成分の放出を抑制することができる。具体的には、脱硫剤は、前処理温度においては硫黄成分が放出され尽くしているため、前処理温度以下の被処理ガスと接触しても自身からは硫黄成分が放出され難い。このため、脱硫剤から硫黄成分が放出して処理ガス中の硫黄成分の濃度を増加させてしまうのを抑制することができ、効果的に脱硫を行うことができる。つまり、前処理温度が高い程、高温の被処理ガスと接触した際にも硫黄成分の放出が少ないため、前処理温度が低い脱硫剤よりも高温の被処理ガスの脱硫を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
イ:第1試験
1.前処理
<実施例1>
ALC板(住友金属鉱山シポレックス社製、品名:シポレックス)を10mm程度の大きさに粉砕し、加熱炉内に50g配置した。
次に、加熱炉内の温度を800℃とし、該加熱炉内へ水蒸気を90vol%(常圧下)含む窒素ガスを連続的に流入しつつ加熱処理を行なった。前記窒素ガスの流量は500cm3/min(常温常圧換算)とした。
そして、加熱処理開始直後、2時間後及び5時間後に加熱炉から放出される前記窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量を測定した。硫黄成分の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行なった。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0037】
<実施例2〜4>
加熱炉内の温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行ない、同一の試験方法で硫黄成分(H2S)の含有量を測定した。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0038】
<比較例1>
加熱炉内へ水蒸気を供給しなかったこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行ない、同一の試験方法で硫黄成分(H2S)の含有量を測定した。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0039】
<比較例2>
加熱炉内の温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行なったが、形状が崩壊してしまい、脱硫剤を得ることができなかった。このため、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量の測定を行わなかった。
【0040】
【表1】

【0041】
表1において実施例1〜4と比較例1とを比較すると、各実施例の方が加熱処理後のガス中のH2Sの含有量が低くなっていることが認められる。つまり、水蒸気雰囲気下において加熱処理を行なうことで、水蒸気の作用によりALCからの硫黄成分の除去を効率的に行ない得ることが認められる。水蒸気が共存しない雰囲気下で加熱された比較例1では、熱の影響によってALCが変質し、硫黄成分を多量に放出し続けるのに対し、各実施例のように、水蒸気共存下で前処理されることで、硫黄成分が効果的に除去されるため、ガス中のH2Sの含有量が低くなるものと推測される。
また、表1の実施例1〜4の結果と比較例2とを比較すると、各実施例の方が脱硫剤として用い得る程度の強度を有するものを得ることができた。つまり、各実施例の温度で加熱処理を行なうことで、脱硫剤として用い得る程度の強度を維持し得るものと認められる。
【0042】
2.脱硫試験
前処理を5時間行なった実施例1及び比較例1の脱硫剤を加熱炉内に配置し、該加熱炉内へ水蒸気を50vol%(常圧下)、H2Sを100ppm(常圧下)含む窒素ガス(被処理ガス)を連続的に流入しつつ脱硫試験を行なった。そして、加熱炉から放出される前記窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量をJIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて測定した。脱硫試験結果については下記表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2において実施例1と比較例1とを比較すると、比較例1では、被処理ガスの温度が低い範囲(450〜600℃)では脱硫効果が得られるものの、温度の高い範囲(600〜750℃)では、脱硫効果が得られなかった。一方、実施例1では、被処理ガスの温度に影響されることなく、各温度範囲において良好な脱硫効果を得ることができた。
つまり、セメント系水和物を水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理することで得られた脱硫剤を用いることで、広い温度範囲において硫黄成分の除去を効率的に行なうことができると認められる。
【0045】
ロ:第2試験
1.前処理(脱硫剤の作製)
<実施例5>
ALC板(住友金属鉱山シポレックス社製、品名:シポレックス)を10mm程度の大きさに粉砕し、加熱炉内に50g配置した。
そして、加熱炉内の水蒸気が下記表3に記載の割合(水蒸気濃度)となるように、水蒸気を含む窒素ガスを加熱炉内に連続的に流入しつつ、下記表3に記載の温度(前処理温度)で加熱処理を行なって脱硫剤を作製した。前記窒素ガスの流量は、500cm3/min(常温常圧換算)とした。
【0046】
脱硫剤の作製に伴って、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量(H2S濃度)の測定を行った。該含有量の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行った。なお、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量が1ppm以下となった状態を前処理が完了した状態とし、斯かる状態となるまでの時間を前処理時間として下記表3に示す。
【0047】
<実施例6〜11>
前処理温度及び水蒸気濃度を下記表3に記載の通りに設定したこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行なって脱硫剤を作製し、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量(H2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0048】
<実施例12>
実施例5のALC板に代えて、エアモルタル(住友大阪セメント社製高炉セメントB種、気泡剤品名:スミシールド)を用い、前処理温度及び水蒸気濃度を下記表3に記載の通りに設定したこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行なって脱硫剤を作製し、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量(H2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0049】
<比較例3>
水蒸気の存在下で加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行ない、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量(H2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0050】
2.窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量の変化
各実施例の脱硫剤を作製する際に測定された窒素ガス中の硫黄成分(H2S)の含有量(H2S濃度)を測定時間に対してプロットし、図1〜3のグラフを作製した。具体的には、図1のグラフは、ALC板(実施例5)を用いた場合とエアモルタル(実施例12)を用いた場合のH2S濃度の変化を示したグラフである。また、図2のグラフは、前処理温度の影響によるH2S濃度の変化を実施例5〜8を用いて示したグラフである。また、図3のグラフは、前処理時の水蒸気濃度によるH2S濃度の変化を実施例5,10,11及び比較例3を用いて示したグラフである。
【0051】
【表3】

【0052】
図1のグラフを見ると、実施例5および12の両方で、H2S濃度が効果的に減少していることが認められる。つまり、ALC板以外のセメント系原料(エアモルタル)を脱硫剤の原料として用いた場合であっても、水蒸気雰囲気下で効果的に前処理が行えることが認められる。
また、図2のグラフを見ると、前処理温度が高い実施例の方が、H2S濃度の減少量が大きいことが認められる。つまり、前処理温度が高い方が、ALC板からのH2Sの除去を効率的に行うことができる。特に、700℃以上で前処理することでH2Sの除去をより効率的に行うことができる。
また、図3のグラフを見ると、各実施例のように水蒸気雰囲気下で前処理されることで、前処理が完了するまでの時間が短くなることが認められる。
また、水蒸気濃度が高い実施例の方がH2S濃度の減少量が大きいことが認められる。つまり、水蒸気濃度が高い環境で前処理される方が、ALC板からのH2Sの除去を効率的に行うことができる。
【0053】
2.脱硫試験
各実施例で作製された脱硫剤、及び前処理を行っていないALCからなる脱硫剤(比較例4)を用いて脱硫試験を行った。具体的には、各脱硫剤を加熱炉内に配置し、下記表4に示す被処理ガス(水蒸気およびH2Sを含有する窒素ガス)を連続的に加熱炉内に流入させて所定の温度における脱硫試験を行った。その際、加熱炉から放出される窒素ガス中のH2Sの含有量を測定した。
【0054】
【表4】

【0055】
加熱炉から放出される窒素ガス中のH2Sの含有量の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行った。具体的には、各実施例に関しては、加熱炉内の温度を各脱硫剤に対する脱硫試験の最高温度に設定し、加熱炉内の温度が斯かる温度に到達した段階で被処理ガスを加熱炉内に供給した。そして、約10分後に加熱炉から放出される窒素ガス中のH2Sの含有量の測定を行った。その後、加熱炉内の温度を最高温度から段階的に低下させ、最高温度未満の各試験温度について、温度の高い順位に同様の測定を行った。一方、比較例4に関しては、脱硫試験の最低温度から順に測定を行ったこと以外は、各実施例と同一条件で測定を行った。脱硫試験の温度については、下記表5に示す通りである。
そして、得られた測定結果から下記(1)式を用いて脱硫率を算出した。脱硫率については、下記表5に示す通りである。

脱硫率(%)=(被処理ガスのH2S濃度−加熱炉から放出される窒素ガス中のH2S濃度)÷被処理ガスのH2S濃度×100・・・(1)
【0056】
【表5】

【0057】
各実施例と比較例4とを比較すると、比較例4は、400℃以上の被処理ガスの各温度に対して、各実施例よりも脱硫効果が低いことが認められる。つまり、上述のような前処理を行うことによって、400℃以上で水蒸気を含む被処理ガスに対して効果的な脱硫作用を有する脱硫剤を得ることができる。
また、前処理温度が高い実施例の脱硫剤の方が、400℃よりも高温側の広い温度範囲の被処理ガスに対して、脱硫作用を有するものとなる。
また、前処理を行った際の加熱温度以下および水蒸気濃度以下の被処理ガスに対して、特に有効な脱硫作用を有するものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系水和物が水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理されてなることを特徴とする脱硫剤。
【請求項2】
前記加熱処理は、水蒸気濃度が10vol%以上90vol%以下の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の脱硫剤。
【請求項3】
前記加熱処理は、650℃以上800℃以下で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱硫剤。
【請求項4】
前記セメント系水和物が多孔性のセメント系水和物であること特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の脱硫剤。
【請求項5】
前記セメント系水和物がALCであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の脱硫剤。
【請求項6】
セメント系水和物を水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理することによって脱硫剤を得ることを特徴とする脱硫剤の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理を水蒸気濃度が10vol%以上90vol%以下の雰囲気下で行うことを特徴とする請求項6に記載の脱硫剤の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理を650℃以上800℃以下で行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の脱硫剤の製造方法。
【請求項9】
前記セメント系水和物が多孔性のセメント系水和物であること特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の脱硫剤の製造方法。
【請求項10】
前記セメント系水和物がALCであることを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の脱硫剤の製造方法。
【請求項11】
水蒸気および硫黄成分を含有する被処理ガスと請求項1乃至5の何れか1項に記載の脱硫剤とを接触させることにより、前記被処理ガスから硫黄成分を除去することを特徴とする脱硫方法。
【請求項12】
前記被処理ガスの温度が400℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項11に記載の脱硫方法。
【請求項13】
前記被処理ガスの温度が650℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項11に記載の脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−224557(P2011−224557A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74940(P2011−74940)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】