説明

脱穀装置

【課題】送塵ガイドの開き過ぎによる3番飛散の増加を防止しつつ、脱穀する材料に応じて送塵ガイドの初期開度を変更し、処理物の送り速度を適正化する。
【解決手段】扱室10の内面側に、処理物の送り速度を調節する送塵ガイド15を設けると共に、該送塵ガイド15を、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路に対する開度を変更可能とし、さらに、スプリング17の付勢力で送塵ガイド15を初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、スプリング17の付勢力に抗して送塵ガイド15を退避回動させる脱穀装置において、送塵ガイド15の退避回動方向の最大開度を規定するフレーム部材16と、送塵ガイド15の初期開度を設定する開度設定レバー18とを備え、該開度設定レバー18は、送塵ガイド15の最大開度を変更することなく、送塵ガイド15の初期開度のみを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン、ハーベスタなどの脱穀装置に関し、特に、扱室の内面側に、扱室内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する送塵ガイドが備えられた脱穀装置に関する。
【背景技術】
【0002】
扱室の内面側に、扱室内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する送塵ガイドを設けた脱穀装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の脱穀装置では、通常、送塵ガイドを、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路に対する開度を変更可能とし、さらに、付勢部材の付勢力で送塵ガイドを初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、付勢部材の付勢力に抗して送塵ガイドを退避回動させるように構成されている。このようにすると、扱室内の負荷に応じて処理物の送り速度を自動的に調節することができるので、脱穀性能が向上するだけでなく、処理物の詰りや、過負荷による部品の破損を防止することが可能になる。
【特許文献1】実公昭61−45789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される脱穀装置では、送塵ガイドの回動範囲が固定されているので、脱穀する材料の種類などに応じたきめ細かな送り速度の調節を行うことは困難であった。例えば、枝梗付着粒が多い場合は、処理物の送り速度を遅くして脱穀作用時間を長くし、また、藁屑が多い場合は、処理物の送り速度を速くして藁屑のはけを良くすることが好ましいが、特許文献1に記載される脱穀装置では、このような調節が困難であった。
【0004】
そこで、送塵ガイドの回動範囲を変更可能にすることが提案される。しかしながら、送塵ガイドの回動範囲を変更すると、送塵ガイドの退避回動方向の最大開度も変更され、3番飛散が増加する惧れがある。つまり、送塵ガイドの退避回動方向の最大開度が開き側に変更された場合には、送塵ガイドが開き過ぎて処理物の送り速度が過剰に速くなる惧れがあり、このような状況が発生すると、処理物の流れ過ぎにより、3番飛散が増加する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、扱室の内面側に、扱室内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する送塵ガイドを設けると共に、該送塵ガイドを、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路に対する開度を変更可能とし、さらに、付勢部材の付勢力で送塵ガイドを初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、付勢部材の付勢力に抗して送塵ガイドを退避回動させる脱穀装置において、前記送塵ガイドの退避回動方向の最大開度を規定する最大開度規定手段と、送塵ガイドの初期開度を設定する初期開度設定手段とを備え、該初期開度設定手段は、送塵ガイドの最大開度を変更することなく、送塵ガイドの初期開度のみを変更することを特徴とする。
このようにすると、脱穀する材料に応じて送塵ガイドの初期開度を変更できるので、処理物の送り速度を適正化して脱穀性能を向上させることができる。
例えば、枝梗付着粒が多い場合は、送塵ガイドの初期開度を閉じ側に変更することにより、処理物の送り速度を遅くして脱穀作用時間を長くすることができ、また、藁屑が多い場合は、送塵ガイドの初期開度を開き側に変更することにより、処理物の送り速度を速くして藁屑のはけを良くすることができる。
しかも、送塵ガイドの初期開度を変更しても、送塵ガイドの最大開度は変わらないので、送塵ガイドの開き過ぎによる3番飛散の増加も防止することができる。
【発明の効果】
【0006】
以上のような本発明によれば、送塵ガイドの開き過ぎによる3番飛散の増加も防止しつつ、脱穀する材料に応じて送塵ガイドの初期開度を変更し、処理物の送り速度を適正化することができるので、脱穀性能の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は本発明の脱穀装置を備えるコンバインであって、該コンバイン1は、茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部3と、選別された穀粒を貯留する穀粒タンク4と、穀粒タンク4内の穀粒を機外に排出する排出オーガ5と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部6と、運転席7や各種の操作具が配置された操縦部8とを備えて構成されている。
【0008】
図2に示すように、脱穀部3は、茎稈の株元部を挟持して後方に搬送する脱穀フィードチェン9と、脱穀フィードチェン9が搬送する茎稈の穂先側が導入される扱室10と、扱室10内に回転自在に内装され、外周部に設けられる扱歯11aで茎稈の穂先側から穀粒を脱穀する扱胴11と、扱胴11の下側に沿って設けられ、扱室10から主に穀粒を漏下させる受網12と、受網12から漏下した穀粒を選別する選別室13とを備えて構成されている。
【0009】
扱室10の上部は、開閉自在なシリンダカバー14で覆われており、該シリンダカバー14を開き操作すると、扱室10の上方が開放されるので、扱室10内の清掃、点検、整備などを容易に行うことが可能になる。そして、シリンダカバー14の下面側、すなわち扱室10の内面側には、本発明の要部である送塵ガイド15が設けられている。
【0010】
送塵ガイド15は、扱室10内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度(扱胴回転軸方向の送り速度)を調節する部材であり、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路(図3の矢印参照)に対する開度を変更できるようになっている。また、送塵ガイド15に付勢部材を接続し、該付勢部材の付勢力で送塵ガイド15を初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、付勢部材の付勢力に抗して送塵ガイド15を退避回動させるように構成されている。
【0011】
例えば、図3の(A)に示すように、送塵ガイド15が処理物の流動路を閉じる姿勢のときは、処理物の後方への送り速度が遅くなるので、処理物が扱室10内で脱穀作用を受ける時間が長くなり、また、処理物から受ける負荷が大きいときは、図3の(B)に示すように、付勢部材の付勢力に抗して送塵ガイド15を退避回動させることにより、処理物の送り速度を速くし、藁屑などのはけを良くすることができる。因みに、負荷が大きくなる状況は、水分の多い材料(青材、倒伏材、濡れ材など)を処理している場合に発生しやすい。その理由は、乾燥した材料よりも、水分の多い材料の方が稈が切れやすく、切れ藁が大量に発生して扱室10内が飽和状態となりやすいからである。そして、このような状況において、送塵ガイド15が退避回動することにより、処理物の移送を速くし、藁屑のはけを良くすることができる。
【0012】
このような送塵ガイド15によれば、扱室10内の負荷に応じて処理物の送り速度を自動的に調節することができるので、脱穀性能が向上するだけでなく、処理物の詰りや、過負荷による部品の破損を防止することが可能になる。
【0013】
次に、本発明の実施形態に係る送塵ガイド15の支持部構造について、図4及び図5を参照して説明する。これらの図に示すように、送塵ガイド15の支持部には、フレーム部材(最大開度規定手段)16、スプリング(付勢部材)17、開度設定レバー(初期開度設定手段)18及びポテンショメータ19が設けられている。
【0014】
送塵ガイド15は、その一端部から斜め上方に突出する回動支点軸20と、回動支点軸20の先端部に固設されるアーム21と、アーム21の中間部から斜め上方に突出する回動規制ピン22とを一体的に備えて構成されており、シリンダカバー14を貫通する回動支点軸20を中心として前後回動自在に支持されている。
【0015】
フレーム部材16は、シリンダカバー14の上面側に設けられる部材であり、回動支点軸20の軸心を中心とする円弧状の長孔16aが形成されている。この長孔16aには、送塵ガイド15の回動規制ピン22が挿入されており、回動規制ピン22が長孔16aの両端に接当することにより、送塵ガイド15の回動範囲が制限されるようになっている。
【0016】
つまり、送塵ガイド15の閉じ方向の最小開度は、回動規制ピン22と長孔16aの後端との接当にもとづいて規定され、送塵ガイド15の開き方向(退避回動方向)の最大開度は、回動規制ピン22と長孔16aの前端との接当にもとづいて規定されるようになっている。
【0017】
スプリング17は、送塵ガイド15を閉じ方向に付勢するための部材であり、その一端側は、フレーム部材16に位置調節自在に設けられるボルト23に引っ掛けられ、他端側は、送塵ガイド15のアーム21に引っ掛けられている。アーム21には、スプリング17の他端側を引っ掛けるための孔21aがアーム長さ方向に並んで多数形成されており、スプリング17を引っ掛ける孔21aを変更したり、或いは、ボルト23の前後位置を変更することにより、送塵ガイド15の付勢力を広い範囲で調節することができるようになっている。
【0018】
開度設定レバー18は、送塵ガイド15の初期開度を設定するための部材であり、フレーム部材16に設けられる回動支点軸24を中心とし、送塵ガイド15と同一軸心で回動すると共に、ボルトとナットからなる固定具25を用いて、任意の回動位置に挟持状に固定できるようになっている。開度設定レバー18には、回動規制ピン22に後方側から接当して送塵ガイド15の初期開度を設定する溝状の接当部18aが形成されており、開度設定レバー18の回動により接当部18aの位置を変更することで、送塵ガイド15の初期開度が変更されるようになっている。
【0019】
例えば、枝梗付着粒が多い場合は、送塵ガイド15の初期開度を閉じ側に変更することにより、処理物の送り速度を遅くして脱穀作用時間を長くすることができる。また、藁屑が多い場合は、送塵ガイド15の初期開度を開き側に変更することにより、処理物の送り速度を速くして藁屑のはけを良くすることができる。そして、開度設定レバー18は、上記のような送塵ガイド15の初期開度設定を行うにあたり、回動規制ピン22に対して後方側からのみ接当するので、送塵ガイド15の最大開度には何ら影響を与えることなく、送塵ガイド15の初期開度のみを変更することができる。
【0020】
ポテンショメータ19は、送塵ガイド15の開度を検出するためのもので、送塵ガイド15と同一軸心で回動するポテンショアーム19aを有し、該ポテンショアーム19aを回動規制ピン22に弾圧的に接当させることにより、送塵ガイド15の開度が検出可能となっている。そして、送塵ガイド15の開度は、扱室10の処理状況に応じて変化するので、扱室10の処理状況に応じて実行される各種の自動制御において、ポテンショメータ19の検出値を利用することができる。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、扱室10の内面側に、扱室10内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する送塵ガイド15を設けると共に、該送塵ガイド15を、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路に対する開度を変更可能とし、さらに、スプリング17の付勢力で送塵ガイド15を初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、スプリング17の付勢力に抗して送塵ガイド15を退避回動させる脱穀装置において、送塵ガイド15の退避回動方向の最大開度を規定するフレーム部材16(長孔16a)と、送塵ガイド15の初期開度を設定する開度設定レバー18とを備え、該開度設定レバー18は、送塵ガイド15の最大開度を変更することなく、送塵ガイド15の初期開度のみを変更するので、脱穀する材料に応じて送塵ガイド15の初期開度を変更することにより、処理物の送り速度を適正化して脱穀性能を向上させることができる。例えば、枝梗付着粒が多い場合は、送塵ガイド15の初期開度を閉じ側に変更することにより、処理物の送り速度を遅くして脱穀作用時間を長くすることができ、また、藁屑が多い場合は、送塵ガイド15の初期開度を開き側に変更することにより、処理物の送り速度を速くして藁屑のはけを良くすることができる。しかも、送塵ガイド15の初期開度を変更しても、送塵ガイド15の最大開度は変わらないので、送塵ガイド15の開き過ぎによる3番飛散の増加も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】コンバインの平面図である。
【図2】脱穀部の正面断面図である。
【図3】(A)及び(B)は送塵ガイドの作用説明図である。
【図4】送塵ガイドの支持部構造を示す脱穀部の要部正面拡大断面図である。
【図5】送塵ガイドの支持部構造を示すA矢視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 コンバイン
3 脱穀部
9 脱穀フィードチェン
10 扱室
11 扱胴
14 シリンダカバー
15 送塵ガイド
16 フレーム部材
16a 長孔
17 スプリング
18 開度設定レバー
20 回動支点軸
21 アーム
22 回動規制ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扱室の内面側に、扱室内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する送塵ガイドを設けると共に、該送塵ガイドを、その一端側を支点とする回動にもとづいて、処理物の流動路に対する開度を変更可能とし、さらに、付勢部材の付勢力で送塵ガイドを初期開度に維持すると共に、処理物から受ける負荷が大きいときは、付勢部材の付勢力に抗して送塵ガイドを退避回動させる脱穀装置において、
前記送塵ガイドの退避回動方向の最大開度を規定する最大開度規定手段と、送塵ガイドの初期開度を設定する初期開度設定手段とを備え、該初期開度設定手段は、送塵ガイドの最大開度を変更することなく、送塵ガイドの初期開度のみを変更することを特徴とする脱穀装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−55797(P2009−55797A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223749(P2007−223749)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】