説明

脱臭方法

【目的】残留毒性の危険性が無く、物質の製造、保管、使用に際し安全性の確保のための高度の管理を必要とせず、安全で、且つ極めて簡単な装置と低いランニングコストにより臭気成分を分解除去できる脱臭方法を提供する。
【構成】
光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類を担体に固定化し、該有機色素および/またはフラーレン類に酸素を含む気相中で紫外線および/または可視光線および/または近赤外線を照射することにより、一重項酸素を発生せしめ、該一重項酸素を前記気相中の臭気成分と接触せしめることにより該臭気成分を分解する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一重項酸素を用いた臭気成分の分解除去方法に関し、特に担体に固定化した有機色素および/またはフラーレン類に光を当て、そのエネルギーを間接的に酸素が吸収するいわゆる色素増感によって酸素を励起して一重項酸素を発生させ、この一重項酸素を用いて臭気成分を分解除去する方法に関する。
【技術背景】
【0002】
従来、気相中の臭気成分を除去する方法としては、塩素、オゾン、過酸化水素、等を加える方法、活性炭に吸着せしめる方法、あるいは高温のヒーターに接触させて分解する方法が一般に行われてきた。しかしながらこれらの化学物質は発癌性があり、残留毒性の危険性が有った。また、活性炭を用いた脱臭方法は吸着量の増加に伴ない、その活性が低下するため、これを所定時間毎に再生する必要がある。更に、加熱により脱臭を行なう場合は、加熱に多大なエネルギーを必要とするので、高コストとならざるを得なかった。一方、本発明者等は活性酸素を用いた微生物の除去方法を発明している(特許文献1参照)。この方法ではその対象が微生物に限られ、且つ水系内に限られていた。
【特許文献1】特開平10−249364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は従来のこれらの欠点を解決するもので有って、残留毒性の危険性が無く、誰にでも安全に使用でき、且つ極めて簡単な装置と低いランニングコストにより臭気成分を気相のままで除去できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類を担体に固定化し、該有機色素および/またはフラーレン類に酸素を含む気相内で紫外線および/または可視光線および/または近赤外光線を照射することにより、一重項酸素を発生せしめ、該一重項酸素を前記気相中の臭気成分と接触せしめることにより臭気成分を分解する脱臭方法であり、好ましくは前記臭気成分が硫化水素、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、スカトール、インドール、第一アミン類、第二アミン類、第三アミン類、アンモニア、ピリジンよりなる群の少なくとも一つを含む脱臭方法である。
【発明の効果】
【0005】
即ち本発明では、従来水系内において微生物に対する殺菌作用が確認されていた一重項酸素を用いて新たにイオウ系および窒素系の臭気成分を気相で分解除去できることを見出したことに基くものであり、これによって日常生活における臭気成分の大半を占めるイオウ系および窒素系の臭気成分を自然環境に悪影響を及ぼすことなく長期間にわたり簡便且つ低コストで分解除去できる方法を提供するものである。
【0006】
一重項酸素とは、特許文献1に示すように、通常の酸素分子
【化1】

が電子的に励起されてエネルギー的に高い状態になったもので、
【化2】

と書き表される状態をいう。一重項酸素の発生方法としては化学的発生法、物理的発生法等、種々の方法が知られているが、本発明で用いる方法は光を一旦有機色素またはフラーレン類に当てて、色素を基底状態から一重項励起状態、更に三重項励起状態とし、そのエネルギーを基底状態の酸素分子に与えることにより一重項酸素とするものであり、次式の様に表される。
【式1】

【式2】
一重項酸素の存在は一重項酸素がエネルギーを放出して基底状態に戻る際の近赤外光として検出することにより確認できる。この光は特許文献1の図1に示す1270nmの近赤外光である。
【0007】
一重項酸素は活性酸素の一種で、極めて不安定な物質であり、強力な酸化作用がある。しかしながらその寿命が、水中では半減期で3.3×10−6秒、空気中では10−3秒と極めて短いため、担体に固定化された有機色素またはフラーレン類から離れた場所での残留毒性の心配は無くなる。即ち担体に固定された有機色素またはフラーレン類の表面から水中で数センチメートル以内、空気中では数十センチメートル以内の範囲でのみ強力な酸化作用が発生し、それより離れた場所では普通の酸素に戻る。有機色素またはフラーレン類は担体に担持されているから、有機色素またはフラーレン類が環境中に流出することは無く、環境汚染の心配が無い。即ち有機色素またはフラーレン類を担体に固定化することによって始めて有機色素またはフラーレン類と被処理気体との分離が容易となり、一重項酸素を脱臭用として実用化することが可能になったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる有機色素またはフラーレン類としては紫外線、可視光線、又は近赤外光線を吸収して三重項励起状態となりうるものであれば良く、必ずしも可視光領域に吸収が有る必要は無く、紫外領域のみ、あるいは近赤外領域のみで吸収のあるものでも良い。本発明で好適に用いられる有機色素としては、例えば、メチレンブルー、チオニン、ローズベンガル、エリトロシン、エオシンY、フルオレッセイン、プロフラビン、フルオレノン、ローダミンB、テトラフェニルポルフィリン、クロロフィル(葉緑素)類、クロロフィリン、ヘモグロビン類、ヘミン、等の有機色素およびその誘導体がある。また、フラーレン類としては、C60やC70を好適に用いることができる。
【0009】
照射する光は使用する有機色素またはフラーレン類を励起できる波長の光を含めば良く、その光源としては、太陽光、水銀灯(高圧および低圧)、ナトリウム灯(高圧および低圧)、白熱電灯、蛍光灯、LED、タングステン−ハロゲン灯、キセノン灯、等を用いることができる。特に太陽光を用いれば、ランニングコストを殆ど必要としないので、広い場所、例えば屋外での畜産廃棄物の脱臭に好適である。
【0010】
有機色素またはフラーレン類を固定化するための担体としては、処理する気体と光に対して安定な材料からできており、さらに処理する気体との接触面積が広いことが望ましく、例えば、イオン交換樹脂、セルロース、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、シリカゲル、アルミナ、珪藻土、ゼオライト、ガラス等の無機または有機質の多孔体あるいは繊維を用いることができる。また、光の利用効率を高めるために、透明ないしは白色に近い材料が好ましい。また、脱臭する気体との分離を容易にするために、適度の大きさの粒状、板状、フイルム状、ハニカム状、あるいは繊維の束として用いることが望ましい。
【0011】
本発明の方法により除去できる臭気成分は、一重項酸素による酸化で分解される分子、例えば、含イオウ化合物の硫化水素、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、等が有り、また、窒素化合物のスカトール、インドール、第一アミン類、第二アミン類、第三アミン類、アンモニア、ピリジン等が有る。その用途としては、畜産廃棄物、水産物、人糞(し尿)、部屋干しの洗濯物、等の脱臭に広く用いることができる。
【式1】

【式2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類を担体に固定化し、該有機色素および/またはフラーレン類に酸素を含む気相内で紫外線および/または可視光線および/または近赤外光線を照射することにより、一重項酸素を発生せしめ、該一重項酸素を前記気相中の臭気成分と接触せしめることにより該臭気成分を分解することを特徴とする脱臭方法。
【請求項2】
請求項1において、臭気成分が硫化水素、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、スカトール、インドール、第一アミン類、第二アミン類、第三アミン類、アンモニア、ピリジンよりなる群の少なくとも一つを含む脱臭方法。