脱色および水質浄化方法
【課題】着色した産業排液を脱色すると共に、同時にリンイオンを除去する等、その水質を浄化する方法を提供する。
【解決手段】カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去する。
【解決手段】カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色した産業排液、中でも産業排水についてその脱色を図り、同時にその水質の浄化を図る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産業から排出される産業排液は、生物処理などの排液処理を行ってから河川などに放流される。また、水産加工業から排出される産業排液は、曝気、化学薬品による中和、凝集剤による分離等の処理を経て、産業排水として放流される。さらに、リンを使用する各種産業(例えば、メッキ、食品加工、搾乳場、厨房、養魚場、水産加工など)から排出される産業排液は、国が定める水質基準以内に排液処理を行うことが義務付けられている。
【0003】
しかしながら、脱色しにくい産業排液の場合、廃液処理後の水質が環境基準を満足していたとしても、茶色あるいは紫色になっていることが多い。このように着色していては、環境に与える影響が全くないとはいいきれず、やはり、河川や海などに放流される排水は、限りなく無色透明であることが望ましい。
上記のような脱色しにくい産業排液としては、畜産業から発生する産業排液がある。この処理排水を放流する場合に、水質は各自治体が定める基準内とすることは当然であるものの、色という観点から見ると、脱色しきれずに放流していることがある。
【0004】
これに対し、今までにも畜産関係の産業排液の脱色に関しては、様々な技術が開発されてきた。それらは、特許文献1〜6に記載されているように、薬液やオゾンによる酸化脱色、または光触媒による脱色技術である。
しかしながら、上記した脱色技術には、薬液によって環境を汚染すること、エネルギーを大量に使用すること、または過剰な殺菌による環境への新たな負荷が生じることなどの問題があった。また、光触媒の場合には、スケールアップに難があった。など、何れの技術についてもその実用化には、種々の問題を残していた。
【0005】
そこで、発明者らは、これまでにも、畜産関係の着色排液の脱色、およびかかる着色排液に不可避的に混入するリンの除去を図るべく鋭意研究を行ってきた。その結果、着色している養豚排液に鉄粉と炭素材粉末(活性炭)を加え、撹拌混合すると、およそ10分〜1時間で脱色することができる技術を開発し、特許文献7において開示した。この技術は、短時間で、排液中のCOD、全窒素、全リンを低減させることができ、また、養豚排液特有の臭いも低減することができるものである。
【0006】
また、畜産農家によっては、処理時間がある程度かかっても、特別な装置を用いずに、排液の脱色や浄化を行ないたいという要求もある。この要求に対し、発明者らは、炭素繊維と鉄板とから構成される浄化材「すーぱーぴーとる(登録商標)」の適用を試み、上記の要求に対し満足のいく成果を挙げている。なお、この浄化材は、アオコ発生防止剤としてはすでに利用されている(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−337761号公報
【特許文献2】特開2008−229450号公報
【特許文献3】特開2009−022940号公報
【特許文献4】特開2001−321772号公報
【特許文献5】特開2002−011483号公報
【特許文献6】特開2003−024957号公報
【特許文献7】出願番号PCT/JP2009/068634号明細書
【特許文献8】特願2009−018799号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献7に記載の技術は、上述したように専用設備としての撹拌機が必要であり、また、消耗品として大量の鉄および炭素の粉を必要とする。また、特許文献8に記載の浄化材「すーぱーぴーとる(登録商標)」は、リン除去、COD低減などには効果的であるが、排液の脱色に関して必ずしも十分とはいえなかった。
【0009】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、着色した産業排液を効果的に脱色すると共に、併せてリンイオンを効率よく除去することができる、水の浄化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明を完成に至らしめた実験について説明する。
(撹拌による、し尿排液の脱色および浄化)
畜産からのし尿排液を、撹拌による混合によって脱色できるかを検討した。具体的には、し尿の入った容器に鉄および炭素を装入し、混合ボールミル架台にし尿の入った容器を載せて回転させ、し尿と鉄および炭素とを混合した。ここに、使用した排液は、ファイバーボール脱臭装置から排出された脱臭排液であった。この排液の液質を分析した結果は、pH:8.77、COD:660mg/L、全リン:10.9mg/Lおよび全窒素:1882mg/Lであった。撹拌混合するボールミルの回転数は10rpmであった。また、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、後述する実施例に記載のパックテストで分析した。
上記した脱臭排液:1000mLと、金属鉄網(エキスパンドメタル64mm×157mm)2枚の間に炭素繊維織物を挿入したものを回転容器(プラスチック製、容量:2L)に入れ、所定時間回転後、容器の内容物の色および臭いを観察した。pH、COD、硝酸、アンモニアおよびリン酸の各濃度は、上記のようにパックテストで分析した。なお、エキスパンドメタルの質量は、1枚が14.40g、2枚で28.79gであった。炭素繊維織物(64mm×187mm)の質量は6.68gであった。
分析結果を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
同表に示したとおり、排液のpHは8.7から6.1へと酸性側に変化した。リン酸濃度およびCODは、やや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下した。硝酸濃度は2倍にまで増大した。しかしながら、排液の色は消えなかった。
【0013】
(曝気によるし尿排液の脱色および浄化)
畜産からのし尿排液を、曝気による混合によって脱色できるかを検討した。使用した排液は、ファイバーボール脱臭装置から排出された脱臭排液であった。この排液の液質を分析した結果、pH:8.77、COD:660mg/L、全リン:10.9mg/L、全窒素:1882mg/Lであった。なお、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、前記したパックテストで分析した。
上記した脱臭排液:5Lと、エキスパンドメタル(64mm×157mm)3枚を炭素繊維織物に包んだものとを、容器(プラスチック製、容量:5L)に入れた。エキスパンドメタルの重量は、33gが3枚(101g)であった。炭素繊維織物(64mm×187mm)は、6.68gであった。比較として別の容器には、脱臭排液:5Lのみを入れた。なお、曝気速度は、1L/分で行った。
所定時間経過後、容器の内容物の色および臭いを観察した。なお、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、上記のようにパックテストで分析した。
分析結果について、排液のみの場合を表2−1に、排液に炭素繊維と鉄材を加えた場合を表2−2に示す。
【0014】
【表2−1】
【0015】
【表2−2】
【0016】
表2−1および表2−2に示したとおり、排液のみの場合は、pHは8.8から8.4へとやや変化し、CODは、やや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下。硝酸濃度は1.2倍にまで増大した。また、排液の色は消えなかった。
一方、排液に炭素繊維と鉄材を加えた場合は、pHは8.8から8.3へと若干変化した。リン酸濃度は変化なし。CODはやや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下し、硝酸濃度は1.2倍にまで増大した。また、排液の色が消えることはなかった。
【0017】
以上、2つの実験結果から、排液の脱色は、鉄と炭素材を用いて、撹拌や曝気を施すだけでは、実現できないことが分かった。
【0018】
上述したように、有色の排液に鉄と炭素材を加え、さらに撹拌や曝気等の操作で、し尿排液の脱色を試みたが実現しなかった。
ここに、塗装工程から排出される排液は、黒褐色に着色している。この着色の除去は困難で、脱色できないのが現状である。そこで、炭素繊維織物に鉄釘を差し込んだ浄化材を、排液中に設置した。すると、経時的に色が薄くなり、4日後には、処理前に比べて着色度合いが緩和していた。
すなわち、鉄と炭素材とから構成される浄化材を使用した場合には、長い時間を必要とするものの、有色の環境水は脱色される傾向にあることが判明した。
【0019】
(添加剤による、し尿排液の脱色)
上記の結果を受けて、長時間を必要とするものの、鉄と炭素材との組み合わせでも脱色作用がある可能性が示唆された。そこで、発明者らが、さらに検討を重ねたところ、何らかの電解質物質を排液中に添加すれば、金属鉄の溶解速度が大きくなり、脱色および浄化の処理速度が大きくなるのではないかと考えた。
そこで、電界質物質として塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩酸を選定し、これらの電界質物質を、排液に加えて撹拌し、脱色および水質浄化への影響を検討した。具体的には、4本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭装置から排出された排液:1Lを入れ、ついで、この中に炭素繊維織物を巻きつけた鉄パイプ(以下、ニップルという、図1(a)参照)を入れた。使用したニップルの大きさは、呼び径:32mm、長さ:125mmであった。ニップル材の表面をサンドペーパーで研磨し、表面に被覆されている亜鉛層を除去し、金属鉄層を露出させた。
このニップル表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけ、各容器内に1本づつ入れた。
【0020】
さらに、容器aに、排液:1Lを封入し、容器bに、排液:1L、塩化ナトリウム:10.0g(添加量:1mass%)を封入し、容器cに、排液:1L、塩化カルシウム:10.0gを封入した。
塩化カルシウムは、一般的に入手し易く、取扱いにも安全な電解質物質であり、融雪剤や乾燥剤として広く使用されている。なお、上記実験で使用した塩化カルシウムは、(株)トクヤマ製の2水和物で、塩化カルシウムを73mass%以上含み、残部は不可避不純物であった。従って、容器cに使用した塩化カルシウム量は7.3gとなり、添加率は0.73mass%となる。
また、容器dには、排液に塩酸を加え、排液全体のpHを4.5に調節した液を封入した。
上記の容器a〜dを、ボールミル架台にて100rpmで回転し、2時間経過後のpHおよびリン酸濃度を、前述したようなパックテストで測定した。また、ニップルに炭素繊維を巻きつけ、し尿排水中で2時間撹拌させた後の炭素繊維を取り外した様子を、図1(b)に示す。
【0021】
上述した実験の結果、塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排液は、薄い黄色へと変化をした。
ここに、塩化カルシウムのみでは、色の変化は見られなかったが、上記したように、炭素材と鉄とを共存させた場合には、脱色が進み2時間後にはほぼ無色となった。
容器a〜dの水質分析結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
2時間経過後の各容器のリン酸濃度は、添加剤の種類によって大きく異なる結果となった。すなわち、容器bでは、リン酸濃度が21.0mg/Lであったが、容器dでは9.0mg/Lと1/3にまで低下した。ここで、最も変化が大きかったのは容器cで、リン酸濃度が3.5mg/Lにまで減少していた。
【0024】
(添加剤の種類による水産加工場排水の浄化)
水産加工業からの排水は、リンを高濃度で含む。この排水を環境基準内にするには、経費と時間とを必要とすることから、簡便でリーズナブルな新しい技術の開発が望まれていた。
ここに、前述の実験結果から、塩化カルシウムを加えることで、リン酸濃度が低下することがわかったが、これはリン酸カルシウムが生成することで、リン酸濃度が低下したことによるものと考えられる。しかしながら、塩化物イオンが入ることは、最終放流地が海であるならば問題にはならないが、内陸部であると河川への放流となり、塩化物イオンの処理が必要になる。
【0025】
そこで、塩化カルシウム以外のカルシウム化合物について検討した。また、カルシウムは、周期律表では第2族元素であるので、同じ族であるマグネシウムの化合物についても検討した。
その結果、入手しやすさ、取り扱いやすさ、また価格などの点から、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムを実験対象の候補として選定し、これらを用いてリン酸除去の性能について検討をした。
【0026】
まず、200mLのビーカーを3個用意し、それぞれに水産加工工場からの排水:100mLを入れた。各ビーカーには、炭酸カルシウム:1.02g、水酸化カルシウム:1.02g、水酸化マグネシウム:1.02gをそれぞれ加え、マグネチックスターラーで、30分撹拌した。使用した排水のpHは6.8、CODは100 mg/L、リン酸濃度は60mg/L、塩分が0.5mass%であった。
上記した各添加剤を加えると、それぞれのビーカー内容物が白濁したため、30分後にスターラー停止し、沈殿物を沈降させた。
【0027】
約30時間が経過して、十分に沈殿した後に、上澄みを採水し、その上澄み水溶液の水質分析を行った。
測定結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
同表に示したとおり、pHは炭酸カルシウムでは8.0、水酸化カルシウムでは14.0、水酸化マグネシウムでは9.0であった。
CODの測定結果は、炭酸カルシウムでは140 mg/L、水酸化カルシウムでは80 mg/L、水酸化マグネシウムでは80 mg/Lであった。リン酸濃度の測定結果は、炭酸カルシウムでは60 mg/L、水酸化カルシウムでは0.1 mg/L、水酸化マグネシウムでは3mg/Lであった。
【0030】
この実験結果から、排液の脱色および水質浄化効果は、カルシウムの塩化物のみならず、マグネシウムでも、また、化合物では水酸化物および炭酸塩であれば、同等の効果を得られることが分かった。
【0031】
(水酸化カルシウムによるし尿排水の脱色・脱リン)
強烈なアンモニア臭と赤褐色を帯びている脱臭排液に、カルシウムの添加、特に水酸化カルシウムの添加で脱色、脱リン、脱CODが進行するかを検討した。処理容器に脱臭廃液:100mLに、塩化カルシウム:1.0g(CaCl2として0.73g)、水酸化カルシウム:1.0gを加えた。すなわち、排液に対する割合は、塩化カルシウムでは0.73mass%、水酸化カルシウムでは1.0mass%である。次いで、ボールミル架台にて100rpm、5分間回転させた。
処理物を濾過した後の様子を図2に示す。処理直後の内容物の色は、塩化カルシウムの場合、暗褐色であったが、水酸化カルシウムでは褐色であった。これを濾紙で濾過すると、濾過速度は、水酸化カルシウムの方が極めて早かった。また、塩化カルシウムの濾過物は、(赤みが有る)焦げ茶色であったが、水酸化カルシウムの濾過物は、茶色であった。
これら処理物の水質を、上述のパックテストで分析し、それぞれの結果を表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
同表に示したとおり、pHは、塩化カルシウムではやや低くなり、水酸化カルシウムでは高くなった。リン酸イオンは共に激減し、特に水酸化カルシウムでは0.3mg/Lとなった。また、CODは塩化カルシウムでは200 mg/Lであったが、水酸化カルシウムでは100mg/Lにまで低下した。
【0034】
(水酸化カルシウム添加量によるし尿の脱色・脱リン)
上記した脱臭廃液は、水酸化カルシウムを添加することによって、色は除去され、リン酸およびCODは低下した。次に、水酸化カルシウムの添加量を変化させ、脱色、脱リン、脱CODにおよぼす状況を確認した。上記した脱臭廃液:100mLに、水酸化カルシウム(1.0g、0.7g、0.3g、0.1g、排液に対する添加率は、1.0mass%、0.7mass%、0.3mass%、0.1mass%)また、塩化カルシウム1.0gを加え、100rpmで5分間回転混合した。処理液の様子を図3に示す。回転直後の内容物の色は、塩化カルシウムの場合、暗褐色であったが、水酸化カルシウムの場合、脱色が進んでいた。これを濾紙で濾過すると、水酸化カルシウムを1.0g添加した場合、淡黄色の沈殿物が残った。また、水酸化カルシウムの添加量が少なくなると、沈殿物の色は黄色から褐色へと濃い色に変化した。
これらの上澄み液の水質を、前述のパックテストで分析し、その結果を表6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
同表に示したとおり、pHについては、塩化カルシウムでやや低くなり、水酸化カルシウムでアルカリ側へシフトした。水酸化カルシウムの1.0gの添加で、リン酸濃度は減少し、0.1mg/Lになった。一方、水酸化カルシウムの添加量が少なくなると、リン酸濃度は高くなる傾向にあった。塩化カルシウムの場合と比較すると、水酸化カルシウムの方が添加効果は大きい結果となった。また、CODは、塩化カルシムでは200mg/Lであったが、水酸化カルシウムでは100 mg/Lにまで低下した。
また、着色したし尿排液は、塩化カルシウムを添加した後、丸棒形状の金属鉄に炭素繊維を巻きつけた浄化材を、排液中に装入することで、濃褐色の排水が淡黄色あるいは無色になることが分かった。すなわち、上記した実験の結果、畜産農家の方々が最も困っている、排液着色の問題を解決できることが判明した。
【0037】
ここに、発明者らは、上記した排液の脱色のメカニズムは、以下のとおりと考えている。
一般に、脱色のメカニズムには、酸化剤による酸化脱色、オゾンによる酸化脱色、鉄と過酸化水素との共存下でおこるフェントン反応、塩素化合物による漂白脱色などが知られている。しかしながら、本発明における脱色メカニズムは、上記の何れの技術とも全く異なり、鉄イオンの凝集作用に由来するものと考えられる。
すなわち、塩化カルシウムを添加することによって、排液の電気導電性が高まり、その状態で鉄材と炭素材とを接触させると一種の電池反応が活発化する結果、鉄イオンの生成量が通常より効果的に増大し、これが有効に作用するものと考えられる。
【0038】
他方、排液中には、種々の微粒子、例えば,糞および分解物、尿中の不溶性成分、砂、粘土、飼料滓、汚泥滓、食品滓など、様々な浮遊物が存在する。通常、それらはマイナス電位を持っている。これに対し、上記電池反応で生成した鉄イオンはプラス電位を持っているため、クーロン力により凝集剤として作用し、水中に浮遊している種々の物質を効果的に凝集することができる。その結果、着色成分も凝集され、排液が無色となるのである。
【0039】
従って、本発明による排液の脱色は、塩化カルシウムの添加による排液の電気導電性の向上で、鉄材と炭素材との電池作用が活性化し、大量の鉄イオンが溶け出すことにより生成した鉄イオンが排液中の着色成分をクーロン力により凝集する、といった種々の現象が相乗的に効果を発揮することにより発現するのである。
【0040】
上述したように、発明者らは、着色しているし尿排液などに、塩化カルシウム等の化合物を添加し、ついで、鉄材と炭素材からなる浄化材、例えば、鉄板と炭素繊維とからなる浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)を併用することで、格段に脱色能力が高まり、リン濃度およびCODがさらに効果的に低減できることを知見した。
【0041】
また、塩化カルシウムの代わりに水酸化カルシウムや炭酸カルシウムを使用することによっても、脱色、脱リンおよびCODの低減が可能であることが分かった。しかし、水酸化カルシウムを用いた場合、処理水がアルカリ性になるため、このままでは自然界に放流することができない。このような場合、酸を加えて中和する方法もあるが、CODの増大になるので好ましいことではない。しかし、水酸化カルシウムを添加後、適切な追加処理を行えば、pHも、リン酸濃度も、CODも、着色程度も、何れも環境基準の範囲内にすることは可能であることも確認した。
本発明は上記知見に立脚するものである。
【0042】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.着色した産業排液に、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去することを特徴とする脱色および水質浄化方法。
【0043】
2.前記カルシウム化合物が水酸化カルシウム、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム化合物が水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムであることを特徴とする前記1に記載の脱色および水質浄化方法。
【0044】
3.前記浄化手段の炭素材が、炭素繊維、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックからなることを特徴とする前記1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【0045】
4.前記浄化手段の炭素材が炭素繊維であり、該炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束からなることを特徴とする前記1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、導電性イオンの存在下で、産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させることができるため、鉄イオンによる着色した産業排液の脱色および水中のリンの除去を迅速かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)および(b)は実験に使用したニップルおよび炭素繊維を示す写真である。
【図2】処理液の所定時間経過毎の状況を示す写真である。
【図3】処理液の所定時間経過毎の状況を示す写真である。
【図4】浄化材の例を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、浄化材の設置例を示す図であり、(c)は千鳥配置の模式図である。
【図6】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図7】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図8】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図9】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図10】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図11】処理液の時間経過毎の状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、着色した産業排液を脱色しつつ、同時に処理水の水質を浄化することができるが、そのために、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を着色した産業排液に添加しつつ、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させるものである。
【0049】
(カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物)
カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物としては、環境水への溶解性の高い、水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム)および塩化物(塩化カルシウム、塩化マグネシウム)が好ましい。また、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)も含まれる。
着色している産業排液などに対して、塩化カルシウム等の化合物を0.1〜1mass%程度を添加すると、排液の電気伝導性が上がり、電気抵抗は低下する。そこで、廃液および塩化カルシウムを添加した廃液の電気抵抗を測定した。
電気抵抗の測定は、テスター(HIOKI 3030-10)を使用し、電極間隔を1cmに固定して行った。例えば、ファイバーボール脱臭装置からの廃液の電気抵抗は、400Ω・cmであったが、塩化カルシウムを0.5 mass%添加すると電気抵抗は380Ω・cmとやや低下した。さらに、添加する塩化カルシウム量を0.75 mass%、1.0 mass%と増加すると、電気抵抗は360Ω・cm、340Ω・cmとより低下した。これらの実験結果から、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させることができ、格段に脱色能力が高まるのである。なお、発明者らは、上記した塩化カルシウム等の導電性化合物の添加比率が、排液に対して0.1〜2mass%程度とすることが、鉄イオンの溶出促進に有利であることを確認している。
【0050】
(鉄材)
本発明に用いる鉄材は、純鉄、軟鉄、鋼鉄、銑鉄および鋳鉄など、炭素含有量が10mass%以下の鉄材であれば、使用可能である。また、炭素含有量が10mass%以下の鉄を70mass%以上含む鉄基合金であれば、使用可能である。
また、鉄材の形状は、メッシュ状、網状、板状、貫通孔を保有している板状、線状、筒状、箔状およびフィルム状などから選択される。特に、環境水中に設置する場合、水の抵抗を少なくするような構造、メッシュ状、網状、貫通孔をもつ板状、線状などが好ましい。
【0051】
(炭素材)
本発明に用いる炭素材は、織物状炭素繊維、不織布状炭素繊維、ペーパー状炭素繊維、フィルム状の炭素繊維/プラスチックあるいは炭素繊維フィラメントをまき付けたものなどや、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックが好適に使用できる。特に、鉄材と炭素材とが、接触しやすい構造であることが好ましい。
また、この炭素繊維の形状は、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状などが好ましい。
【0052】
本発明において、鉄材と炭素材とを接触させる手段に特段の限定はないが、輪ゴムやインシロック等による固縛が好適である。
例えば、「すーぱーぴーとる」(登録商標)のように、炭素繊維織物の間に鉄板を挿入し、インシロックなどを使用して両者を固定して接触効率を高める形態や、棒状の金属鉄の表面に炭素繊維織物をまきつけ、その外側から伸縮性を持つゴムのような材料で固定する形態で、鉄と炭素材との接触効率を高めるという形態が好ましい。
【0053】
また、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を排液に添加し、鉄材および炭素材とを浸漬する手段も特段の限定はなく、従来公知の添加方法および浸漬手段を用いることができる。
例えば、上記の化合物にあっては、化合物が固体の場合は、そのまま添加してもよいが、水に希釈させて添加することもできる。
【0054】
鉄材および炭素材にあっては、前記したような接触状態で、排液に浸漬させるが、この時、振動を与えるまたは撹拌するバッキするなどを行うと、より鉄イオンの発生が顕著になり、本発明の脱色能力がより効果的に発揮される。
【0055】
従って、本発明の具体的な実施形態は、以下のケース1〜3が好適事例である。
ケース1 畜産排水→生物処理槽→固液分離→塩化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
ケース2 畜産排水→生物処理槽→固液分離→水酸化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
ケース3 畜産排水→生物処理槽→固液分離→水酸化カルシウム添加→塩化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
なお、本発明では、上記した塩化カルシウム添加と「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬とを、同時に行っても良い。
【0056】
また、本発明では、前述したように、「すーぱーぴーとる」(登録商標)に代えて、図4に示す鉄材と炭素材を一体化した浄化材を使用することは特に有利である。この浄化材は、炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束をそなえているので、上述した効果に加えて、好炭素菌が付着しやすく、難分解性有機物を効率的に分解することが可能という利点がある。
【0057】
さらに、本発明の有利な実施形態としては、図5(a)および(b)に示すように、浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)をFRP槽に縦に設置し、水中ポンプ(撹拌機)にて排液を循環する設備とすることもできる。なお、円筒形の浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)の配置は、図5(c)に示すように千鳥配置とすることが好ましい。また、図中、放流口が水槽の下部に付設されているが、上部に付設することもできる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら
限定されるものではない。なお、以下の実施例において、pH、リン濃度、COD、色度および全窒素濃度は、下記の方法で測定した。
【0059】
(pH)
パックテスト(KR−pH、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(リン濃度)
パックテスト(WAK−PO4、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(COD)
パックテスト(WAK−COD、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(色度)
分光光度計(島津製作所(株)製、UV-mini-1240)を用い波長456.8nmで測定した。なお、本発明では、この色度が、500以下程度を脱色ができたと評価している。
(全窒素)
ポータブル簡易全窒素、全リン計(TOA(株)製、TM−10型)を用いて測定した。
【0060】
〔実施例1〕
(塩化カルシウムの添加(1mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加えた。別の容器 IIは、排液:1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけた金属パイプ(ニップル)を1本入れた。
【0061】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図6(a)および容器IIは図6(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色して薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材とを共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/10程度にまで低下した。しかしながら、塩化カルシウム添加のみではリン酸濃度のさらなる低下はない。一方、鉄材と炭素材を共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.4 mg/L、5時間後には0.1mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0064】
〔実施例2〕
(塩化カルシウムの添加(0.75mass%)によるし尿排液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、実験を行った1個の容器Iは、排水1Lに塩化カルシウム7.5g(CaCl2として5.5g、添加率:0.55mass%)を加えた。
別の容器IIは、排水Lに塩化カルシウム7.5g(CaCl2として5.5g、添加率:0.55mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0065】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図7(a)および容器IIは図7(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表8に示す。
【0066】
【表8】
【0067】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/10程度にまで低下した。ここに、塩化カルシウム添加のみの場合、リン酸濃度のさらなる低下はないが、鉄材と炭素材とを共存させると、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.15 mg/L、5時間後には0.1mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0068】
〔実施例3〕
(塩化カルシウムの添加(0.5mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排水を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム:5.0g(CaCl2として3.7g、添加率:0.37mass%)を加えた。別の容器IIは、排水1Lに塩化カルシウム:5.0g(CaCl2として3.7g、添加率:0.37mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0069】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図8(a)および容器IIは図8(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。但し、塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるのみで一気に1/6程度にまで低下した。しかしながら、塩化カルシウム添加のみの場合、これ以上のリン酸濃度の低下は認められないが、鉄材と炭素材とを共存させると、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.15 mg/L、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0072】
〔実施例4〕
(塩化カルシウムの添加(0.25mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム2.5g(CaCl2として1.83g、添加率:0.18mass%)を加えた。別の容器IIは、排液:1Lに塩化カルシウム2.5g(CaCl2として1.83g、添加率:0.18mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0073】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図9(a)および容器IIは図9(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表10に示す。
【0074】
【表10】
【0075】
リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/4程度にまで低下したが、それ以降の濃度低下はなかった。しかしながら、鉄材と炭素材とを共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、1時間後には0.90 mg/L、5時間後には0.75 mg/L、24時間後では0.30 mg/Lまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0076】
〔実施例5〕
(鉄材と炭素材との接触面積によるし尿廃液の脱色と浄化)
鉄材と炭素材との接触面積による脱色および浄化能力への影響について検討した。3本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ニップルの長さを変化させ、炭素繊維と鉄との接触面積による影響について検討した。試料および排水の入った容器は、ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加えた。別の容器IIは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップル(呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長 76mmおよび直胴部面積:102cm2)を1本入れた。
さらに別の容器IIIは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップル(呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長:101mmおよび直胴部面積:135cm2)を1本入れた。
【0077】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図10(a)および容器IIIは図10(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表11に示す。
【0078】
【表11】
【0079】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるのみで一気に1/10程度にまで低下したが、それ以降の濃度低下は認められない。しかしながら、鉄材と炭素材とを共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、直胴部面積が135cm2のもの(容器III)は2時間後に0.15 mg/L、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。また、直胴部面積が102cm2のもの(容器II)は2時間後に0.45 mg/Lであったものの、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。すなわち、鉄材と炭素材との接触面積は大きい方が好ましいが、上記程度であれば顕著な差は見られなかった。
【0080】
〔実施例6〕
(乳牛排液の脱色)
搾乳用の乳牛から排出される排液の脱色について検討した。乳牛を1200頭ほど飼育している牧場では、生物処理などによって排水処理を行い、基準値内に浄化して放流している。しかし、その排水は黄色に着色しており、放流段階で2倍に希釈し毎日200トンの処理水を放流している。
そこで、ポリビン(広口、容量:2L)に、上記排水:1L、塩化カルシウム:10.0g、鉄ニップル(白、長、表面研磨品)の表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製)を巻いたもの1本{「すーぱーぴーとる」(登録商標)}を入れボールミル架台にて100rpmで回転させた。
【0081】
所定時間経過後、色、pH、CODおよびリン酸量を前記したパックテストでそれぞれ測定した。使用したニップルは、鉄製、呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長:76mm、直胴部面積:102cm2であった。処理液の状況を図11に示す。
水質の分析結果を表12に示す。
【0082】
【表12】
【0083】
リン酸濃度は、塩化カルシウムおよび鉄材と炭素材とを共存させることで、わずか0.1時間後には0.1mg/Lにまで低下した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と水質の浄化とが同時に達成できていることが分かる。
【0084】
〔実施例7〕
(水酸化カルシウムの極少量添加)
水酸化カルシウムは、固体であるため、少量を正確に添加することは極めて困難である。そこで、水酸化カルシウムの飽和溶液を作製し、その飽和溶液を水で希釈することによって、水酸化カルシウムの少量添加の効果を確認した。
具体的な水酸化カルシウムの飽和溶液の作製手順は、まず、純水:100mLに水酸化カルシウムを約0.4gを加え撹拌する。その後、2時間程度放置し、上澄み液のみをくみ出し、飽和溶液として使用する。なお、水酸化カルシウムの溶解度は、0.17g/100 mL水である。
以下、飽和溶液の2倍希釈(0.085g/ mL)および10倍希釈(0.017g/ mL)を試験に使用した。各希釈液のpHは、2倍希釈液は12、10倍希釈では9であった。
水産加工会社の排水:100mLに飽和溶液:20mLを加え、スターラーで撹拌した。各排水処理液中の水酸化カルシウムの濃度は、2倍希釈では1.7mass%、10倍希釈では0.34mass%であった。
静置後、pHおよびリン酸濃度を前記したパックテストでそれぞれ測定した。各処理液のpHおよびリン酸濃度を表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
リン酸濃度は、0.34mass%程度の添加でも低減効果があることが分かった。すなわち、希釈添加でも本発明の効果があり、上記した手順で水酸化カルシウム等の少量添加が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、産業排液を効果的に脱色すると共に、その水質を浄化することが可能となり、もって、工場、農業、畜産、水産加工業、厨房排水、食品加工業および染色業などの産業排液のみならず、環境水(淡水、汽水、海水)、浄化槽、し尿処理場等の下水、養魚場やいけす等の飼育水、プール、高層建造物の水タンク、ビルピットなどの各種排液の脱色およびその処理水の水質浄化に貢献する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色した産業排液、中でも産業排水についてその脱色を図り、同時にその水質の浄化を図る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産業から排出される産業排液は、生物処理などの排液処理を行ってから河川などに放流される。また、水産加工業から排出される産業排液は、曝気、化学薬品による中和、凝集剤による分離等の処理を経て、産業排水として放流される。さらに、リンを使用する各種産業(例えば、メッキ、食品加工、搾乳場、厨房、養魚場、水産加工など)から排出される産業排液は、国が定める水質基準以内に排液処理を行うことが義務付けられている。
【0003】
しかしながら、脱色しにくい産業排液の場合、廃液処理後の水質が環境基準を満足していたとしても、茶色あるいは紫色になっていることが多い。このように着色していては、環境に与える影響が全くないとはいいきれず、やはり、河川や海などに放流される排水は、限りなく無色透明であることが望ましい。
上記のような脱色しにくい産業排液としては、畜産業から発生する産業排液がある。この処理排水を放流する場合に、水質は各自治体が定める基準内とすることは当然であるものの、色という観点から見ると、脱色しきれずに放流していることがある。
【0004】
これに対し、今までにも畜産関係の産業排液の脱色に関しては、様々な技術が開発されてきた。それらは、特許文献1〜6に記載されているように、薬液やオゾンによる酸化脱色、または光触媒による脱色技術である。
しかしながら、上記した脱色技術には、薬液によって環境を汚染すること、エネルギーを大量に使用すること、または過剰な殺菌による環境への新たな負荷が生じることなどの問題があった。また、光触媒の場合には、スケールアップに難があった。など、何れの技術についてもその実用化には、種々の問題を残していた。
【0005】
そこで、発明者らは、これまでにも、畜産関係の着色排液の脱色、およびかかる着色排液に不可避的に混入するリンの除去を図るべく鋭意研究を行ってきた。その結果、着色している養豚排液に鉄粉と炭素材粉末(活性炭)を加え、撹拌混合すると、およそ10分〜1時間で脱色することができる技術を開発し、特許文献7において開示した。この技術は、短時間で、排液中のCOD、全窒素、全リンを低減させることができ、また、養豚排液特有の臭いも低減することができるものである。
【0006】
また、畜産農家によっては、処理時間がある程度かかっても、特別な装置を用いずに、排液の脱色や浄化を行ないたいという要求もある。この要求に対し、発明者らは、炭素繊維と鉄板とから構成される浄化材「すーぱーぴーとる(登録商標)」の適用を試み、上記の要求に対し満足のいく成果を挙げている。なお、この浄化材は、アオコ発生防止剤としてはすでに利用されている(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−337761号公報
【特許文献2】特開2008−229450号公報
【特許文献3】特開2009−022940号公報
【特許文献4】特開2001−321772号公報
【特許文献5】特開2002−011483号公報
【特許文献6】特開2003−024957号公報
【特許文献7】出願番号PCT/JP2009/068634号明細書
【特許文献8】特願2009−018799号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献7に記載の技術は、上述したように専用設備としての撹拌機が必要であり、また、消耗品として大量の鉄および炭素の粉を必要とする。また、特許文献8に記載の浄化材「すーぱーぴーとる(登録商標)」は、リン除去、COD低減などには効果的であるが、排液の脱色に関して必ずしも十分とはいえなかった。
【0009】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、着色した産業排液を効果的に脱色すると共に、併せてリンイオンを効率よく除去することができる、水の浄化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明を完成に至らしめた実験について説明する。
(撹拌による、し尿排液の脱色および浄化)
畜産からのし尿排液を、撹拌による混合によって脱色できるかを検討した。具体的には、し尿の入った容器に鉄および炭素を装入し、混合ボールミル架台にし尿の入った容器を載せて回転させ、し尿と鉄および炭素とを混合した。ここに、使用した排液は、ファイバーボール脱臭装置から排出された脱臭排液であった。この排液の液質を分析した結果は、pH:8.77、COD:660mg/L、全リン:10.9mg/Lおよび全窒素:1882mg/Lであった。撹拌混合するボールミルの回転数は10rpmであった。また、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、後述する実施例に記載のパックテストで分析した。
上記した脱臭排液:1000mLと、金属鉄網(エキスパンドメタル64mm×157mm)2枚の間に炭素繊維織物を挿入したものを回転容器(プラスチック製、容量:2L)に入れ、所定時間回転後、容器の内容物の色および臭いを観察した。pH、COD、硝酸、アンモニアおよびリン酸の各濃度は、上記のようにパックテストで分析した。なお、エキスパンドメタルの質量は、1枚が14.40g、2枚で28.79gであった。炭素繊維織物(64mm×187mm)の質量は6.68gであった。
分析結果を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
同表に示したとおり、排液のpHは8.7から6.1へと酸性側に変化した。リン酸濃度およびCODは、やや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下した。硝酸濃度は2倍にまで増大した。しかしながら、排液の色は消えなかった。
【0013】
(曝気によるし尿排液の脱色および浄化)
畜産からのし尿排液を、曝気による混合によって脱色できるかを検討した。使用した排液は、ファイバーボール脱臭装置から排出された脱臭排液であった。この排液の液質を分析した結果、pH:8.77、COD:660mg/L、全リン:10.9mg/L、全窒素:1882mg/Lであった。なお、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、前記したパックテストで分析した。
上記した脱臭排液:5Lと、エキスパンドメタル(64mm×157mm)3枚を炭素繊維織物に包んだものとを、容器(プラスチック製、容量:5L)に入れた。エキスパンドメタルの重量は、33gが3枚(101g)であった。炭素繊維織物(64mm×187mm)は、6.68gであった。比較として別の容器には、脱臭排液:5Lのみを入れた。なお、曝気速度は、1L/分で行った。
所定時間経過後、容器の内容物の色および臭いを観察した。なお、pH、COD、リン酸および窒素の各濃度は、上記のようにパックテストで分析した。
分析結果について、排液のみの場合を表2−1に、排液に炭素繊維と鉄材を加えた場合を表2−2に示す。
【0014】
【表2−1】
【0015】
【表2−2】
【0016】
表2−1および表2−2に示したとおり、排液のみの場合は、pHは8.8から8.4へとやや変化し、CODは、やや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下。硝酸濃度は1.2倍にまで増大した。また、排液の色は消えなかった。
一方、排液に炭素繊維と鉄材を加えた場合は、pHは8.8から8.3へと若干変化した。リン酸濃度は変化なし。CODはやや低下した。アンモニア濃度は、1/2程度にまで低下し、硝酸濃度は1.2倍にまで増大した。また、排液の色が消えることはなかった。
【0017】
以上、2つの実験結果から、排液の脱色は、鉄と炭素材を用いて、撹拌や曝気を施すだけでは、実現できないことが分かった。
【0018】
上述したように、有色の排液に鉄と炭素材を加え、さらに撹拌や曝気等の操作で、し尿排液の脱色を試みたが実現しなかった。
ここに、塗装工程から排出される排液は、黒褐色に着色している。この着色の除去は困難で、脱色できないのが現状である。そこで、炭素繊維織物に鉄釘を差し込んだ浄化材を、排液中に設置した。すると、経時的に色が薄くなり、4日後には、処理前に比べて着色度合いが緩和していた。
すなわち、鉄と炭素材とから構成される浄化材を使用した場合には、長い時間を必要とするものの、有色の環境水は脱色される傾向にあることが判明した。
【0019】
(添加剤による、し尿排液の脱色)
上記の結果を受けて、長時間を必要とするものの、鉄と炭素材との組み合わせでも脱色作用がある可能性が示唆された。そこで、発明者らが、さらに検討を重ねたところ、何らかの電解質物質を排液中に添加すれば、金属鉄の溶解速度が大きくなり、脱色および浄化の処理速度が大きくなるのではないかと考えた。
そこで、電界質物質として塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩酸を選定し、これらの電界質物質を、排液に加えて撹拌し、脱色および水質浄化への影響を検討した。具体的には、4本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭装置から排出された排液:1Lを入れ、ついで、この中に炭素繊維織物を巻きつけた鉄パイプ(以下、ニップルという、図1(a)参照)を入れた。使用したニップルの大きさは、呼び径:32mm、長さ:125mmであった。ニップル材の表面をサンドペーパーで研磨し、表面に被覆されている亜鉛層を除去し、金属鉄層を露出させた。
このニップル表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけ、各容器内に1本づつ入れた。
【0020】
さらに、容器aに、排液:1Lを封入し、容器bに、排液:1L、塩化ナトリウム:10.0g(添加量:1mass%)を封入し、容器cに、排液:1L、塩化カルシウム:10.0gを封入した。
塩化カルシウムは、一般的に入手し易く、取扱いにも安全な電解質物質であり、融雪剤や乾燥剤として広く使用されている。なお、上記実験で使用した塩化カルシウムは、(株)トクヤマ製の2水和物で、塩化カルシウムを73mass%以上含み、残部は不可避不純物であった。従って、容器cに使用した塩化カルシウム量は7.3gとなり、添加率は0.73mass%となる。
また、容器dには、排液に塩酸を加え、排液全体のpHを4.5に調節した液を封入した。
上記の容器a〜dを、ボールミル架台にて100rpmで回転し、2時間経過後のpHおよびリン酸濃度を、前述したようなパックテストで測定した。また、ニップルに炭素繊維を巻きつけ、し尿排水中で2時間撹拌させた後の炭素繊維を取り外した様子を、図1(b)に示す。
【0021】
上述した実験の結果、塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排液は、薄い黄色へと変化をした。
ここに、塩化カルシウムのみでは、色の変化は見られなかったが、上記したように、炭素材と鉄とを共存させた場合には、脱色が進み2時間後にはほぼ無色となった。
容器a〜dの水質分析結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
2時間経過後の各容器のリン酸濃度は、添加剤の種類によって大きく異なる結果となった。すなわち、容器bでは、リン酸濃度が21.0mg/Lであったが、容器dでは9.0mg/Lと1/3にまで低下した。ここで、最も変化が大きかったのは容器cで、リン酸濃度が3.5mg/Lにまで減少していた。
【0024】
(添加剤の種類による水産加工場排水の浄化)
水産加工業からの排水は、リンを高濃度で含む。この排水を環境基準内にするには、経費と時間とを必要とすることから、簡便でリーズナブルな新しい技術の開発が望まれていた。
ここに、前述の実験結果から、塩化カルシウムを加えることで、リン酸濃度が低下することがわかったが、これはリン酸カルシウムが生成することで、リン酸濃度が低下したことによるものと考えられる。しかしながら、塩化物イオンが入ることは、最終放流地が海であるならば問題にはならないが、内陸部であると河川への放流となり、塩化物イオンの処理が必要になる。
【0025】
そこで、塩化カルシウム以外のカルシウム化合物について検討した。また、カルシウムは、周期律表では第2族元素であるので、同じ族であるマグネシウムの化合物についても検討した。
その結果、入手しやすさ、取り扱いやすさ、また価格などの点から、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムを実験対象の候補として選定し、これらを用いてリン酸除去の性能について検討をした。
【0026】
まず、200mLのビーカーを3個用意し、それぞれに水産加工工場からの排水:100mLを入れた。各ビーカーには、炭酸カルシウム:1.02g、水酸化カルシウム:1.02g、水酸化マグネシウム:1.02gをそれぞれ加え、マグネチックスターラーで、30分撹拌した。使用した排水のpHは6.8、CODは100 mg/L、リン酸濃度は60mg/L、塩分が0.5mass%であった。
上記した各添加剤を加えると、それぞれのビーカー内容物が白濁したため、30分後にスターラー停止し、沈殿物を沈降させた。
【0027】
約30時間が経過して、十分に沈殿した後に、上澄みを採水し、その上澄み水溶液の水質分析を行った。
測定結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
同表に示したとおり、pHは炭酸カルシウムでは8.0、水酸化カルシウムでは14.0、水酸化マグネシウムでは9.0であった。
CODの測定結果は、炭酸カルシウムでは140 mg/L、水酸化カルシウムでは80 mg/L、水酸化マグネシウムでは80 mg/Lであった。リン酸濃度の測定結果は、炭酸カルシウムでは60 mg/L、水酸化カルシウムでは0.1 mg/L、水酸化マグネシウムでは3mg/Lであった。
【0030】
この実験結果から、排液の脱色および水質浄化効果は、カルシウムの塩化物のみならず、マグネシウムでも、また、化合物では水酸化物および炭酸塩であれば、同等の効果を得られることが分かった。
【0031】
(水酸化カルシウムによるし尿排水の脱色・脱リン)
強烈なアンモニア臭と赤褐色を帯びている脱臭排液に、カルシウムの添加、特に水酸化カルシウムの添加で脱色、脱リン、脱CODが進行するかを検討した。処理容器に脱臭廃液:100mLに、塩化カルシウム:1.0g(CaCl2として0.73g)、水酸化カルシウム:1.0gを加えた。すなわち、排液に対する割合は、塩化カルシウムでは0.73mass%、水酸化カルシウムでは1.0mass%である。次いで、ボールミル架台にて100rpm、5分間回転させた。
処理物を濾過した後の様子を図2に示す。処理直後の内容物の色は、塩化カルシウムの場合、暗褐色であったが、水酸化カルシウムでは褐色であった。これを濾紙で濾過すると、濾過速度は、水酸化カルシウムの方が極めて早かった。また、塩化カルシウムの濾過物は、(赤みが有る)焦げ茶色であったが、水酸化カルシウムの濾過物は、茶色であった。
これら処理物の水質を、上述のパックテストで分析し、それぞれの結果を表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
同表に示したとおり、pHは、塩化カルシウムではやや低くなり、水酸化カルシウムでは高くなった。リン酸イオンは共に激減し、特に水酸化カルシウムでは0.3mg/Lとなった。また、CODは塩化カルシウムでは200 mg/Lであったが、水酸化カルシウムでは100mg/Lにまで低下した。
【0034】
(水酸化カルシウム添加量によるし尿の脱色・脱リン)
上記した脱臭廃液は、水酸化カルシウムを添加することによって、色は除去され、リン酸およびCODは低下した。次に、水酸化カルシウムの添加量を変化させ、脱色、脱リン、脱CODにおよぼす状況を確認した。上記した脱臭廃液:100mLに、水酸化カルシウム(1.0g、0.7g、0.3g、0.1g、排液に対する添加率は、1.0mass%、0.7mass%、0.3mass%、0.1mass%)また、塩化カルシウム1.0gを加え、100rpmで5分間回転混合した。処理液の様子を図3に示す。回転直後の内容物の色は、塩化カルシウムの場合、暗褐色であったが、水酸化カルシウムの場合、脱色が進んでいた。これを濾紙で濾過すると、水酸化カルシウムを1.0g添加した場合、淡黄色の沈殿物が残った。また、水酸化カルシウムの添加量が少なくなると、沈殿物の色は黄色から褐色へと濃い色に変化した。
これらの上澄み液の水質を、前述のパックテストで分析し、その結果を表6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
同表に示したとおり、pHについては、塩化カルシウムでやや低くなり、水酸化カルシウムでアルカリ側へシフトした。水酸化カルシウムの1.0gの添加で、リン酸濃度は減少し、0.1mg/Lになった。一方、水酸化カルシウムの添加量が少なくなると、リン酸濃度は高くなる傾向にあった。塩化カルシウムの場合と比較すると、水酸化カルシウムの方が添加効果は大きい結果となった。また、CODは、塩化カルシムでは200mg/Lであったが、水酸化カルシウムでは100 mg/Lにまで低下した。
また、着色したし尿排液は、塩化カルシウムを添加した後、丸棒形状の金属鉄に炭素繊維を巻きつけた浄化材を、排液中に装入することで、濃褐色の排水が淡黄色あるいは無色になることが分かった。すなわち、上記した実験の結果、畜産農家の方々が最も困っている、排液着色の問題を解決できることが判明した。
【0037】
ここに、発明者らは、上記した排液の脱色のメカニズムは、以下のとおりと考えている。
一般に、脱色のメカニズムには、酸化剤による酸化脱色、オゾンによる酸化脱色、鉄と過酸化水素との共存下でおこるフェントン反応、塩素化合物による漂白脱色などが知られている。しかしながら、本発明における脱色メカニズムは、上記の何れの技術とも全く異なり、鉄イオンの凝集作用に由来するものと考えられる。
すなわち、塩化カルシウムを添加することによって、排液の電気導電性が高まり、その状態で鉄材と炭素材とを接触させると一種の電池反応が活発化する結果、鉄イオンの生成量が通常より効果的に増大し、これが有効に作用するものと考えられる。
【0038】
他方、排液中には、種々の微粒子、例えば,糞および分解物、尿中の不溶性成分、砂、粘土、飼料滓、汚泥滓、食品滓など、様々な浮遊物が存在する。通常、それらはマイナス電位を持っている。これに対し、上記電池反応で生成した鉄イオンはプラス電位を持っているため、クーロン力により凝集剤として作用し、水中に浮遊している種々の物質を効果的に凝集することができる。その結果、着色成分も凝集され、排液が無色となるのである。
【0039】
従って、本発明による排液の脱色は、塩化カルシウムの添加による排液の電気導電性の向上で、鉄材と炭素材との電池作用が活性化し、大量の鉄イオンが溶け出すことにより生成した鉄イオンが排液中の着色成分をクーロン力により凝集する、といった種々の現象が相乗的に効果を発揮することにより発現するのである。
【0040】
上述したように、発明者らは、着色しているし尿排液などに、塩化カルシウム等の化合物を添加し、ついで、鉄材と炭素材からなる浄化材、例えば、鉄板と炭素繊維とからなる浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)を併用することで、格段に脱色能力が高まり、リン濃度およびCODがさらに効果的に低減できることを知見した。
【0041】
また、塩化カルシウムの代わりに水酸化カルシウムや炭酸カルシウムを使用することによっても、脱色、脱リンおよびCODの低減が可能であることが分かった。しかし、水酸化カルシウムを用いた場合、処理水がアルカリ性になるため、このままでは自然界に放流することができない。このような場合、酸を加えて中和する方法もあるが、CODの増大になるので好ましいことではない。しかし、水酸化カルシウムを添加後、適切な追加処理を行えば、pHも、リン酸濃度も、CODも、着色程度も、何れも環境基準の範囲内にすることは可能であることも確認した。
本発明は上記知見に立脚するものである。
【0042】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.着色した産業排液に、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去することを特徴とする脱色および水質浄化方法。
【0043】
2.前記カルシウム化合物が水酸化カルシウム、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム化合物が水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムであることを特徴とする前記1に記載の脱色および水質浄化方法。
【0044】
3.前記浄化手段の炭素材が、炭素繊維、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックからなることを特徴とする前記1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【0045】
4.前記浄化手段の炭素材が炭素繊維であり、該炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束からなることを特徴とする前記1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、導電性イオンの存在下で、産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させることができるため、鉄イオンによる着色した産業排液の脱色および水中のリンの除去を迅速かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)および(b)は実験に使用したニップルおよび炭素繊維を示す写真である。
【図2】処理液の所定時間経過毎の状況を示す写真である。
【図3】処理液の所定時間経過毎の状況を示す写真である。
【図4】浄化材の例を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、浄化材の設置例を示す図であり、(c)は千鳥配置の模式図である。
【図6】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図7】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図8】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図9】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図10】(a)は塩化カルシウムを添加した処理液、また(b)は塩化カルシウムに炭と鉄を添加した処理液について、所定時間経過後における処理液の色の変化を示す写真である。
【図11】処理液の時間経過毎の状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、着色した産業排液を脱色しつつ、同時に処理水の水質を浄化することができるが、そのために、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を着色した産業排液に添加しつつ、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させるものである。
【0049】
(カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物)
カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物としては、環境水への溶解性の高い、水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム)および塩化物(塩化カルシウム、塩化マグネシウム)が好ましい。また、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)も含まれる。
着色している産業排液などに対して、塩化カルシウム等の化合物を0.1〜1mass%程度を添加すると、排液の電気伝導性が上がり、電気抵抗は低下する。そこで、廃液および塩化カルシウムを添加した廃液の電気抵抗を測定した。
電気抵抗の測定は、テスター(HIOKI 3030-10)を使用し、電極間隔を1cmに固定して行った。例えば、ファイバーボール脱臭装置からの廃液の電気抵抗は、400Ω・cmであったが、塩化カルシウムを0.5 mass%添加すると電気抵抗は380Ω・cmとやや低下した。さらに、添加する塩化カルシウム量を0.75 mass%、1.0 mass%と増加すると、電気抵抗は360Ω・cm、340Ω・cmとより低下した。これらの実験結果から、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させることができ、格段に脱色能力が高まるのである。なお、発明者らは、上記した塩化カルシウム等の導電性化合物の添加比率が、排液に対して0.1〜2mass%程度とすることが、鉄イオンの溶出促進に有利であることを確認している。
【0050】
(鉄材)
本発明に用いる鉄材は、純鉄、軟鉄、鋼鉄、銑鉄および鋳鉄など、炭素含有量が10mass%以下の鉄材であれば、使用可能である。また、炭素含有量が10mass%以下の鉄を70mass%以上含む鉄基合金であれば、使用可能である。
また、鉄材の形状は、メッシュ状、網状、板状、貫通孔を保有している板状、線状、筒状、箔状およびフィルム状などから選択される。特に、環境水中に設置する場合、水の抵抗を少なくするような構造、メッシュ状、網状、貫通孔をもつ板状、線状などが好ましい。
【0051】
(炭素材)
本発明に用いる炭素材は、織物状炭素繊維、不織布状炭素繊維、ペーパー状炭素繊維、フィルム状の炭素繊維/プラスチックあるいは炭素繊維フィラメントをまき付けたものなどや、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックが好適に使用できる。特に、鉄材と炭素材とが、接触しやすい構造であることが好ましい。
また、この炭素繊維の形状は、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状などが好ましい。
【0052】
本発明において、鉄材と炭素材とを接触させる手段に特段の限定はないが、輪ゴムやインシロック等による固縛が好適である。
例えば、「すーぱーぴーとる」(登録商標)のように、炭素繊維織物の間に鉄板を挿入し、インシロックなどを使用して両者を固定して接触効率を高める形態や、棒状の金属鉄の表面に炭素繊維織物をまきつけ、その外側から伸縮性を持つゴムのような材料で固定する形態で、鉄と炭素材との接触効率を高めるという形態が好ましい。
【0053】
また、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を排液に添加し、鉄材および炭素材とを浸漬する手段も特段の限定はなく、従来公知の添加方法および浸漬手段を用いることができる。
例えば、上記の化合物にあっては、化合物が固体の場合は、そのまま添加してもよいが、水に希釈させて添加することもできる。
【0054】
鉄材および炭素材にあっては、前記したような接触状態で、排液に浸漬させるが、この時、振動を与えるまたは撹拌するバッキするなどを行うと、より鉄イオンの発生が顕著になり、本発明の脱色能力がより効果的に発揮される。
【0055】
従って、本発明の具体的な実施形態は、以下のケース1〜3が好適事例である。
ケース1 畜産排水→生物処理槽→固液分離→塩化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
ケース2 畜産排水→生物処理槽→固液分離→水酸化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
ケース3 畜産排水→生物処理槽→固液分離→水酸化カルシウム添加→塩化カルシウム添加→鉄+炭:「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬→放流。
なお、本発明では、上記した塩化カルシウム添加と「すーぱーぴーとる」(登録商標)の浸漬とを、同時に行っても良い。
【0056】
また、本発明では、前述したように、「すーぱーぴーとる」(登録商標)に代えて、図4に示す鉄材と炭素材を一体化した浄化材を使用することは特に有利である。この浄化材は、炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束をそなえているので、上述した効果に加えて、好炭素菌が付着しやすく、難分解性有機物を効率的に分解することが可能という利点がある。
【0057】
さらに、本発明の有利な実施形態としては、図5(a)および(b)に示すように、浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)をFRP槽に縦に設置し、水中ポンプ(撹拌機)にて排液を循環する設備とすることもできる。なお、円筒形の浄化材「すーぱーぴーとる」(登録商標)の配置は、図5(c)に示すように千鳥配置とすることが好ましい。また、図中、放流口が水槽の下部に付設されているが、上部に付設することもできる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら
限定されるものではない。なお、以下の実施例において、pH、リン濃度、COD、色度および全窒素濃度は、下記の方法で測定した。
【0059】
(pH)
パックテスト(KR−pH、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(リン濃度)
パックテスト(WAK−PO4、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(COD)
パックテスト(WAK−COD、(株)共立理化学研究所製、商標)を用いて測定した。
(色度)
分光光度計(島津製作所(株)製、UV-mini-1240)を用い波長456.8nmで測定した。なお、本発明では、この色度が、500以下程度を脱色ができたと評価している。
(全窒素)
ポータブル簡易全窒素、全リン計(TOA(株)製、TM−10型)を用いて測定した。
【0060】
〔実施例1〕
(塩化カルシウムの添加(1mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加えた。別の容器 IIは、排液:1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけた金属パイプ(ニップル)を1本入れた。
【0061】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図6(a)および容器IIは図6(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色して薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材とを共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/10程度にまで低下した。しかしながら、塩化カルシウム添加のみではリン酸濃度のさらなる低下はない。一方、鉄材と炭素材を共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.4 mg/L、5時間後には0.1mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0064】
〔実施例2〕
(塩化カルシウムの添加(0.75mass%)によるし尿排液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、実験を行った1個の容器Iは、排水1Lに塩化カルシウム7.5g(CaCl2として5.5g、添加率:0.55mass%)を加えた。
別の容器IIは、排水Lに塩化カルシウム7.5g(CaCl2として5.5g、添加率:0.55mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0065】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図7(a)および容器IIは図7(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表8に示す。
【0066】
【表8】
【0067】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/10程度にまで低下した。ここに、塩化カルシウム添加のみの場合、リン酸濃度のさらなる低下はないが、鉄材と炭素材とを共存させると、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.15 mg/L、5時間後には0.1mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0068】
〔実施例3〕
(塩化カルシウムの添加(0.5mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排水を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム:5.0g(CaCl2として3.7g、添加率:0.37mass%)を加えた。別の容器IIは、排水1Lに塩化カルシウム:5.0g(CaCl2として3.7g、添加率:0.37mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0069】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図8(a)および容器IIは図8(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。但し、塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるのみで一気に1/6程度にまで低下した。しかしながら、塩化カルシウム添加のみの場合、これ以上のリン酸濃度の低下は認められないが、鉄材と炭素材とを共存させると、リン酸濃度はさらに低下し、2時間後には0.15 mg/L、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0072】
〔実施例4〕
(塩化カルシウムの添加(0.25mass%)によるし尿廃液の脱色と浄化)
2本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排液:1Lに塩化カルシウム2.5g(CaCl2として1.83g、添加率:0.18mass%)を加えた。別の容器IIは、排液:1Lに塩化カルシウム2.5g(CaCl2として1.83g、添加率:0.18mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを1本入れた。
【0073】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図9(a)および容器IIは図9(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表10に示す。
【0074】
【表10】
【0075】
リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるだけで一気に1/4程度にまで低下したが、それ以降の濃度低下はなかった。しかしながら、鉄材と炭素材とを共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、1時間後には0.90 mg/L、5時間後には0.75 mg/L、24時間後では0.30 mg/Lまで達した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と浄化が同時に達成できていることが分かる。
【0076】
〔実施例5〕
(鉄材と炭素材との接触面積によるし尿廃液の脱色と浄化)
鉄材と炭素材との接触面積による脱色および浄化能力への影響について検討した。3本のポリビン(広口、容量:2L)を用意し、それぞれに脱臭排液を1L入れた。この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップルを入れた。使用したニップルは、呼び径:32mm、長さ:125mmであり、表面をサンドペーパーで研磨した。このニップルの表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製、14cm×15cm)を巻きつけた。 ニップルの長さを変化させ、炭素繊維と鉄との接触面積による影響について検討した。試料および排水の入った容器は、ボールミル架台にて100rpmで回転させた。所定時間経過後のpH、CODおよびリン酸濃度を上記のパックテストで測定した。
なお、容器Iは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加えた。別の容器IIは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップル(呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長 76mmおよび直胴部面積:102cm2)を1本入れた。
さらに別の容器IIIは、排水1Lに塩化カルシウム10.0g(CaCl2として7.3g、添加率:0.73mass%)を加え、この中に炭素繊維織物を巻きつけたニップル(呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長:101mmおよび直胴部面積:135cm2)を1本入れた。
【0077】
所定時間経過後の処理液の色の変化を容器Iは図10(a)および容器IIIは図10(b)に示す。塩化カルシウムを加えることで、赤褐色の排水は、脱色され薄い黄色になった。塩化カルシウムのみでは、さらなる色の変化は見られないが、鉄材と炭素材を共存させた場合には、さらに色が消えて2時間後にはほぼ無色となった。
水質の分析結果を表11に示す。
【0078】
【表11】
【0079】
同表に示したとおり、リン酸濃度は、塩化カルシウムを加えるのみで一気に1/10程度にまで低下したが、それ以降の濃度低下は認められない。しかしながら、鉄材と炭素材とを共存させることで、リン酸濃度はさらに低下し、直胴部面積が135cm2のもの(容器III)は2時間後に0.15 mg/L、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。また、直胴部面積が102cm2のもの(容器II)は2時間後に0.45 mg/Lであったものの、5時間後には0.1 mg/Lにまで達した。すなわち、鉄材と炭素材との接触面積は大きい方が好ましいが、上記程度であれば顕著な差は見られなかった。
【0080】
〔実施例6〕
(乳牛排液の脱色)
搾乳用の乳牛から排出される排液の脱色について検討した。乳牛を1200頭ほど飼育している牧場では、生物処理などによって排水処理を行い、基準値内に浄化して放流している。しかし、その排水は黄色に着色しており、放流段階で2倍に希釈し毎日200トンの処理水を放流している。
そこで、ポリビン(広口、容量:2L)に、上記排水:1L、塩化カルシウム:10.0g、鉄ニップル(白、長、表面研磨品)の表面に炭素繊維織物(フクオカ機業製)を巻いたもの1本{「すーぱーぴーとる」(登録商標)}を入れボールミル架台にて100rpmで回転させた。
【0081】
所定時間経過後、色、pH、CODおよびリン酸量を前記したパックテストでそれぞれ測定した。使用したニップルは、鉄製、呼び径:32mm、長さ:125mm、直胴長:76mm、直胴部面積:102cm2であった。処理液の状況を図11に示す。
水質の分析結果を表12に示す。
【0082】
【表12】
【0083】
リン酸濃度は、塩化カルシウムおよび鉄材と炭素材とを共存させることで、わずか0.1時間後には0.1mg/Lにまで低下した。すなわち、塩化カルシウム添加後、鉄材と炭素材を共存させることで、効果的な脱色と水質の浄化とが同時に達成できていることが分かる。
【0084】
〔実施例7〕
(水酸化カルシウムの極少量添加)
水酸化カルシウムは、固体であるため、少量を正確に添加することは極めて困難である。そこで、水酸化カルシウムの飽和溶液を作製し、その飽和溶液を水で希釈することによって、水酸化カルシウムの少量添加の効果を確認した。
具体的な水酸化カルシウムの飽和溶液の作製手順は、まず、純水:100mLに水酸化カルシウムを約0.4gを加え撹拌する。その後、2時間程度放置し、上澄み液のみをくみ出し、飽和溶液として使用する。なお、水酸化カルシウムの溶解度は、0.17g/100 mL水である。
以下、飽和溶液の2倍希釈(0.085g/ mL)および10倍希釈(0.017g/ mL)を試験に使用した。各希釈液のpHは、2倍希釈液は12、10倍希釈では9であった。
水産加工会社の排水:100mLに飽和溶液:20mLを加え、スターラーで撹拌した。各排水処理液中の水酸化カルシウムの濃度は、2倍希釈では1.7mass%、10倍希釈では0.34mass%であった。
静置後、pHおよびリン酸濃度を前記したパックテストでそれぞれ測定した。各処理液のpHおよびリン酸濃度を表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
リン酸濃度は、0.34mass%程度の添加でも低減効果があることが分かった。すなわち、希釈添加でも本発明の効果があり、上記した手順で水酸化カルシウム等の少量添加が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、産業排液を効果的に脱色すると共に、その水質を浄化することが可能となり、もって、工場、農業、畜産、水産加工業、厨房排水、食品加工業および染色業などの産業排液のみならず、環境水(淡水、汽水、海水)、浄化槽、し尿処理場等の下水、養魚場やいけす等の飼育水、プール、高層建造物の水タンク、ビルピットなどの各種排液の脱色およびその処理水の水質浄化に貢献する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色した産業排液に、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去することを特徴とする脱色および水質浄化方法。
【請求項2】
前記カルシウム化合物が水酸化カルシウム、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム化合物が水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の脱色および水質浄化方法。
【請求項3】
前記浄化手段の炭素材が、炭素繊維、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックからなることを特徴とする請求項1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【請求項4】
前記浄化手段の炭素材が炭素繊維であり、該炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束からなることを特徴とする請求項1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【請求項1】
着色した産業排液に、カルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を添加し、少なくとも一部が接触している鉄材および炭素材とからなる浄化手段を浸漬させることにより、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンの存在下で、該産業排液の電気導電性を高めつつ、鉄イオンの溶出を促進させ、上記着色した産業排液を脱色すると共にリンイオンを除去することを特徴とする脱色および水質浄化方法。
【請求項2】
前記カルシウム化合物が水酸化カルシウム、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムであり、前記マグネシウム化合物が水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の脱色および水質浄化方法。
【請求項3】
前記浄化手段の炭素材が、炭素繊維、炭素含有導電性ゴムまたは炭素含有導電性プラスチックからなることを特徴とする請求項1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【請求項4】
前記浄化手段の炭素材が炭素繊維であり、該炭素繊維が炭素繊維網の本体とその周りに付設した炭素繊維束からなることを特徴とする請求項1または2に記載の脱色および水質浄化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−35183(P2012−35183A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176635(P2010−176635)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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