説明

脱落防止ねじ

【課題】確実な抜け止め防止作用と安価で且つリサイクル性を向上させた脱落防止ねじを提供する。
【解決手段】脚部10の先端側に締結ねじ山部11を形成し、頭部側に締結ねじ山部11とは反対で且つこれより大きいねじ山外周軌跡円を有する係止ねじ山部12を形成し、一方、被締結部材に締結ねじ山部11より大径で係止ねじ山部12より小径の抜け止め穴32を設け、被締結部材への取付時には締結ねじ山部11を抜け止め穴32に貫挿させ、係止ねじ山部12を締結ねじ山部11のねじ込み方向とは逆回転させ、頭部2と係止ねじ山部12との間に抜け止め穴32を係止する構成の脱落防止ねじであるので、緩んでワークの下穴から締結ねじ山部が抜けても、ねじは抜け止め穴から抜け出ることがなく確実に脱落が防止される。また、ねじは単一素材で構成されているのでリサイクル性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電盤、監視盤等の電源及び制御基板等を含む電装ユニットを収納する電装ボックスの蓋を開いたとき、あるいは手作業によるユニットの取り付け取り外し等において、電装ボックスやワークへの固定が解除された蓋あるいはユニットからねじが落下して紛失するのを防止するようにした脱落防止ねじに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に配電盤、監視盤等を内蔵する電装ボックスの蓋は、ねじのみで固定しているかあるいは、開閉ハンドル(図示せず)とこの上下においてハンドルが外れても蓋30が開かないようにねじを使用して固定している。このようなねじは振動等によっても緩みやすく、これが脱落すると、紛失する恐れがある。そのため、従来から各種の脱落防止構造が提案され実施されている。また、欧州安全規格では、点検カバーや保護カバーを固定するねじ類はパネルから脱落しないという要件が設けられている。そのため、緩めて外したねじが脱落しないように現在では種々の工夫がなされている。その代表的なものとして図7及び図8に示されたようなねじの脱落防止構造が知られている。
【0003】
図7は、ねじ101の雄ねじ部111と頭部102との間に小径部115を設け、あらかじめパネル130に形成したタップ穴132及びフレーム120のねじ穴121に前記雄ねじ部111をねじ込んでパネル130をフレーム120に固定するようにしたものである。ねじの雄ねじ部をタップ穴から突出させて小径部がタップ穴を挿通した状態におくと、ねじが緩んでもタップ穴が雄ねじ部の抜け防止穴を形成するため、ねじの脱落を防止することができる。また、図8は、パネル230のねじ取付穴232よりフレーム220のねじ穴221にねじ込まれる通常のねじ201に抜け止めリング240を取り付けたものである。この抜け止めリングとしてはEリング、樹脂等によって形成され、ねじの外径より小さい穴径の穴を有し、この穴に前記ねじがパネルの取付時にねじ込まれ、パネルとフレームとの間に位置される。したがって、抜け止めリングはパネルによって移動を規制されており、ねじの緩み、脱落を防止する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−310725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記従来例に示したようなねじの脱落防止構造においては、例えば、図7に示すようなねじの場合、ねじ込み時にはパネルのタップ穴からフレームのねじ穴にねじ込むようになっており、一方、これを緩めるときにはこのねじの小径部がタップ穴に嵌った状態となるようにしたものであるが、このねじの雄ねじ部の後部がタップ穴の雌ねじに螺合することがあり、これがためにねじがパネルから脱落することもあった。また、図8に示すようなねじの場合、即ち、ねじに抜け止めリングを取り付けて抜け止め作用を得るようにした場合は、ねじを緩めてフレームからねじを緩めていくと、この抜け止めリングがねじ山に沿い回転して抜けたり、特にこの抜け止めリングが樹脂製であると、ねじを引き上げることでパネルに作用されて外れることがあり、どちらも脱落防止作用が不安定であった。更に、資源の有効活用の点から前記のようにねじに樹脂製の抜け止めリングを組み合わせた場合、これらを廃棄する際には分別処理をしないとリサイクルできないこともあり、コストが上昇する等の課題も生じている。
【0006】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともに確実なねじの抜け止め防止作用と単一素材から構成することにより安価で且つリサイクル性を向上させた脱落防止ねじを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、頭部2とこれと一体の脚部10とからなり、この脚部10にねじ山を形成した雄ねじ部を設け、ワーク20の下穴21にこの雄ねじ部をねじ込むようにしたねじであって、前記脚部10の先端側に締結ねじ山部11としての雄ねじ部を形成し、この締結ねじ山部11を有する脚部10の頭部側に前記締結ねじ山部11とは反対で且つねじが回転したときに前記締結ねじ山部11のねじ山外周軌跡円より大きいねじ山外周軌跡円を有する係止ねじ山部12を形成し、一方、前記ワーク20に固定する被締結部材に前記締結ねじ山部11より大径で係止ねじ山部12より小径の抜け止め穴32を設け、被締結部材への取付時には締結ねじ山部11を抜け止め穴32に貫挿させ、係止ねじ山部12を締結ねじ山部11のねじ込み方向とは逆回転させ、頭部座面と係止ねじ山部12との間に被締結部材の抜け止め穴32を係止する構成の脱落防止ねじを提供することで達成される。
【0008】
前記発明において、係止ねじ山部はねじ山の基部側13と頂部側14とのフランク角が異なる複合角を有し、ねじ山外周頂部側14のフランク角がねじ山基部側13のフランク角より小さくてねじ山基部側13のフランク角の1/2以上の角度となった構成なので、被締結部材の厚みが薄くても十分に雌ねじを形成することができる。また、係止ねじ山部は頭部座面との間に被締結部材が嵌るのに十分な間隔を有しているので、被締結部材に対してねじの軸方向への移動が制限され、被締結部材からねじの脱落が阻止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被締結部材への係止ねじ山部のねじ込みをねじの締結ねじ山部をワークへねじ込むときのねじ込み回転方向(正方向)とは逆回転方向(負方向)でねじ込み、頭部と係止ねじ山部との間に被締結部材が嵌って係止されるようになっているので、このねじを正方向に回転させることでワークに被締結部材を取り付け固定することができる。また、このねじを逆転させて締結ねじ山部が緩んでワークの下穴から締結ねじ山部が抜け出しても、このねじは被締結部材の抜け止め穴から抜け出ることがなく確実に被締結部材からの脱落防止作用が得られてねじの紛失がなくなる。また、この脱落防止ねじはリングや樹脂チューブ等の抜け止め材をねじに嵌め込む構成ではなく、単一素材で構成されているので廃棄時にねじと抜け止め材とを分別する必要がなく、リサイクル性が向上する。更に、被締結部材にあらかじ雄ねじ部をねじ込んでから抜け止め材をねじの脚部に嵌める工程が不要になるので、安価な脱落防止ねじを供給することができる等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の脱落防止ねじの使用状態を示す要部拡大正面図である。
【図2】本発明の脱落防止ねじ全体を示す正面図である。
【図3】図2の底面図である。
【図4】本発明を被締結部材に取り付ける状態を示す一部断面正面図で、(イ)は取付開始状態を、(ロ)は取付完了状態を示している。
【図5】ワークと被締結部材の関係を示す斜視図である。
【図6】ワークの下穴に被締結部材に取り付けたねじをねじ込む状態を示す要部断面図である。
【図7】本発明の従来例を示す断面図である。
【図8】本発明のもう一つの従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図6に基づき説明する。図2及び図3において、1は脱落防止ねじであり、このねじ1の頭部2にはドライバビット(図示せず)と係合可能な係合部としての十字穴3が形成されている。この実施の形態では係合部を十字穴3としたがこれに限定されるものではなく、これ以外例えば、頭部外周が六角形状、六角穴形状あるいは−溝形状であってもよい。この頭部2は外周にねじ山が形成された締結ねじ山部11としての雄ねじ部を有する脚部10と一体となっており、この締結ねじ山部11は脚部10の先端側に形成されている。
【0012】
また、図1に示すように、締結ねじ山部11を有する脚部10の頭部側には前記締結ねじ山部11とは反対で且つワーク20の下穴21に締結ねじ山部11をねじ込んだとき即ち、ねじが回転したときに前記締結ねじ山部11のねじ山外周軌跡円より大きいねじ山外周軌跡円を有する係止ねじ山部12を有している。具体的にはこの締結ねじ山部11は通常右ねじとなっており、これに対して係止ねじ山部12は左ねじとなっている。この係止ねじ山部12はねじ山の基部側13とねじ山の頂部側14とのフランク角が異なる所謂、複合角のねじ山形状となっている。即ち、係止ねじ山部12はねじ山外周頂部側14のフランク角がねじ山基部側13のフランク角より小さくてねじ山基部側13のフランク角の1/2以上の角度で形成されており、この実施例ではねじ山外周頂部側14のフランク角は30°に、ねじ山基部側13のフランク角は60°に形成されている。また、この係止ねじ山部12のねじ山外周頂部側14のフランク角は40°であってもよく、これら締結ねじ山部11と係止ねじ山部12はその脚部が図3に示すように、略三角形状となっている。一方、この締結ねじ山部11は下穴21に雌ねじを形成しながらねじ込まれ、他方、係止ねじ山部12は図4に示すように、抜け止め穴32に逆回転させてねじ込まれるタッピンねじであり、このように略三角形状に構成することで雌ねじ形成時における抵抗が比較的低減できる。本実施の形態では脚部断面を略三角形状としたが、タッピンねじであれば特に脚部断面が略三角形状でなく円形であってもよく、この脚部断面形状にこだわるものではない。
【0013】
更に、図5及び図6に示すように、このねじ1の締結ねじ山部11がねじ込まれる下穴21はワーク20に穿設されており、一方、前記係止ねじ山部12はこのワーク20に蝶番31を介して開閉自在に取り付けられている被締結部材としての蓋30に形成された抜け止め穴32にねじ込まれる構成となっている。図1に示すように、この蓋30に形成されている抜け止め穴32の穴径(A)は前記締結ねじ山部11の軌跡円直径(d)より大径で係止ねじ山部12の軌跡円直径(D)より小径であり、即ち、(d≦A≦D)の関係となっている。このため、被締結部材への取付時には締結ねじ山部11を抜け止め穴32に貫挿させ、係止ねじ山部12を締結ねじ山部11のねじ込み方向とは逆方向に回転させて抜け止め穴32に雌ねじを形成しながらねじ込むことにより蓋30には雌ねじを形成した抜け止め穴32が形成されるようになっている。しかも、係止ねじ山部12は前記頭部2との間にねじ無し部15が設けてあり、このねじ無し部15は前記蓋30の厚みより広い幅となって被締結部材である蓋30が嵌るのに十分な間隔を有している。
【0014】
このような構成において、ワーク20に取り付けられて対をなす被締結部材としての蓋30にあらかじめ脱落防止ねじ1の係止ねじ山部12をねじ込み可能な抜け止め穴32を形成し、図4(イ)に示すように、この穴32に対して蓋30の上面からねじ1の脚部10を挿入する。このとき、脚部先端側に形成されている締結ねじ山部11の外周軌跡円直径は前記抜け止め穴32の穴径に対して僅かではあるが小さいので、抜け止め穴32に係合することなく貫挿される。
【0015】
このようにして抜け止め穴32を締結ねじ山部11が貫挿すると、この締結ねじ山部11と頭部2との間にある係止ねじ山部12を抜け止め穴32が係止する。この後、ねじ1の頭部2に形成されている十字穴3にこれに適合するドライバビットを係合させ、締結ねじ山部11とは反対方向の回転を加えると、係止ねじ山部12は前記抜け止め穴32に雌ねじを形成しながらねじ込まれる。そして、図4(ロ)に示すように、係止ねじ山部12が抜け止め穴32を貫挿すると、蓋30は頭部2と係止ねじ山部12との間に嵌ることになる。この状態において前記係止ねじ山部12で形成された雌ねじは塑性変形されていることから前記抜け止め穴32の内径より雌ねじの内径がその雌ねじ成形による塑性変形に応じて僅かではあるが小さくなる。このため、ねじ1は確実に蓋30からの脱落が防止される。
【0016】
また、この状態においてねじ1は頭部2と係止ねじ山部12との間に設けられているねじ無し部15に位置していることからねじ1のねじ無し部15と抜け止め穴32との間には隙間が形成されており、ねじ1はこの穴内において自由に回転且つ傾斜状態となることが可能である。
【0017】
このようにして脱落防止ねじ1が保持されている蓋30を図5に示すように、前記ワーク20に嵌め合わせてねじ1をドライバビットで前記係止ねじ山部12をねじ込んだときの回転方向とは反対方向に回転させると、図6に示すように、抜け止め穴32に対してねじ1の頭部2と係止ねじ山部12との間のねじ無し部15はこの抜け止め穴32に何らの作用をすることなく回転し、締結ねじ山部11はワーク20の下穴21に雌ねじを形成しながらねじ込まれて蓋30はワーク20に固定されることになる。一方、何らかの必要性が生じてこの蓋30を開ける場合や振動等によりこのねじ1が緩んでもねじ1は抜け止め穴32と係止ねじ山部12との係止作用により脱落することがない。
【0018】
尚、この実施の形態における脱落防止ねじ1の実施例として被締結部材を電装ボックスの蓋30により説明したが、これ以外に例えば、ユニット部品を他のワークに固定する場合でも使用可能であることは勿論、蓋30の抜け止め穴32を円錐形状とした形状に変えて平坦な面に抜け止め穴32を形成してもよく、この場合のねじ1の座面は被締結部材の面に沿う形状となることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の脱落防止ねじ1はこれら実施例以外の多くの使用用途を有するものであり、例えば、部品等を保管している収納ボックス等において頻繁に蓋30あるいは扉を開閉するときにこれらが外れて開かないようにするねじの紛失を防ぐ必要がある場合にも当然適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 脱落防止ねじ
2 頭部
3 十字穴
10 脚部
11 締結ねじ山部
12 係止ねじ山部
13 基部側
14 頂部側
15 ねじ無し部
20 ワーク
21 下穴
30 蓋
31 蝶番
32 抜け止め穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(2)とこれと一体の脚部(10)とからなり、この脚部にねじ山を形成した雄ねじ部を設け、ワーク(20)の下穴(21)にこの雄ねじ部をねじ込むようにしたねじであって、前記脚部の先端側に締結ねじ山部(11)としての雄ねじ部を形成し、この締結ねじ山部を有する脚部の頭部側に前記締結ねじ山部とは反対で且つねじが回転したときに前記締結ねじ山部のねじ山外周軌跡円より大きいねじ山外周軌跡円を有する係止ねじ山部(12)を形成し、一方、前記ワークに固定する被締結部材に前記締結ねじ山部より大径で係止ねじ山部より小径の抜け止め穴(32)を設け、被締結部材への取付時には締結ねじ山部を抜け止め穴に貫挿させ、係止ねじ山部を締結ねじ山部のねじ込み方向とは逆回転させ、頭部座面と係止ねじ山部との間に被締結部材の抜け止め穴を係止する構成としたことを特徴とする脱落防止ねじ。
【請求項2】
係止ねじ山部はねじ山の基部側(13)と頂部側(14)とのフランク角が異なる複合角を有し、ねじ山外周頂部側のフランク角がねじ山基部側のフランク角り小さくてねじ山基部側のフランク角の1/2以上の角度となった構成としたことを特徴とする請求項1記載の脱落防止ねじ。
【請求項3】
係止ねじ山部は頭部座面との間に被締結部材が嵌るのに十分な間隔を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の脱落防止ねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97789(P2012−97789A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244613(P2010−244613)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)