説明

脳死状態で心拍がある潜在的臓器提供者に投与するノルアドレナリンとNET阻害剤を具える組成物

組成物、輸液、処置方法、脳死状態で人工呼吸された潜在的臓器提供者を処置する血管投与用キット。組成物は、ノルアドレナリンのために非アドレナリンとNET阻害剤を具える。NET阻害剤は、コカイン、その類似体、又は三環系抗うつ薬でもよい。組成物はさらに、アドレナリン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、インスリン、トリヨードチロニン、ドーパミン、デモプレシンなどの昇圧剤、及びメチルプレドニゾロンを具えてもよい。NET阻害剤とノルアドレナリンの比率は、約1:1である。組成物は、純水、酢酸リンガー液、又は生理食塩水に溶解される。平均動脈圧を約60mmHgに維持する量の組成物を注入する。約1.7ml/時の割合で組成物をポンプにより注入し、24時間後に0.4ml/時まで用量依存的に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳死直後から臓器が摘出されるまでの潜在的臓器提供者を扱う方法、組成物、及び輸液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移植に適した提供臓器が非常に不足していることは良く知られている。
【0003】
心拍のあるドナーの脳死中及び脳死後の血行動態の不安定化は、しばしば移植片の生存率の低下と関連し、臓器排除をもたらす。
【0004】
ドナーから摘出した臓器の拒絶反応率を減少させる脳死後及び臓器摘出前に潜在的臓器提供者を処置する方法が求められていた。
【発明の概要】
【0005】
従って本発明の目的は、上記の欠陥や欠点の1又はそれ以上を単独に又は任意に組み合わせて緩和、軽減、又は除去することである。
【0006】
本発明の態様によると、脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者を処置するノルアドレナリン又はNET阻害剤を具える血管内投与用組成物を提供する。
【0007】
一実施例において、NET阻害剤はコカイン又はその刺激性類似体でもよい。別の実施例において、NET阻害剤は、アミトリプチリン(ELAVIL)、クロミプラミン(ANAFRANIL)、ドキセピン(ADAPIN、SINEQUAN)、イミプラミン(TROFANIL)、トリミプラミン(SURMONTIL)、アモキサピン(ASENDIN)、デシプラミン(NORPRAMIN)、Maprotinile(LUDIOMIL)、ノルトリプチリン(PAMELOR)、及びプロトリプチリン(VIVACTIL)を具えるグループに含まれる少なくとも一つの三環系抗うつ薬でもよい。さらなる実施例において、NET阻害剤は、ベンラファクシン(EFFEXOR)、Atomexetine(WELLBUTRIN)、デュロキセチン(CYMBALTA)、Mirtacapine(REMERON)、Norclomipramine、オキサプロチリン、ロフェプラミン、レボキセチン、Maprotiline、ノミフェンシン、ドキセピン、ミアンセリン、ビロキサジン、ミルタザピン、及びニソキセチンを具えるグループに含まれる少なくとも一つの薬剤でもよい。
【0008】
さらなる実施例によると、組成物はさらに、アドレナリン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、インスリン、トリヨードチロニン、デスモプレシンなどの昇圧剤、及びメチルプレドニゾロンを少なくとも一つ具えてもよい。
【0009】
NET阻害剤は、ノルアドレナリンの量の0.2から5倍の量存在してもよい。コカインについては、コカインとノルアドレナリンの比率は約1:1である。
【0010】
別の態様では、上記の組成物及び純水、酢酸リンガー液、又は生理食塩水などの薬学的に許容される溶媒を具える輸液を提供する。組成物を液体約50ml中ノルアドレナリン約1mg及びコカイン約1mg量で薬学的に許容される溶媒に溶解する。
【0011】
さらなる態様では、組成物は、平均動脈圧を約60mmHgに維持するのに十分な量、上記輸液を注入するステップを具える脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者の処置方法を提供する。
【0012】
さらなる態様では、上記の輸液を具える輸液バッグ、ドナーの血管系に挿入した針に、ドナーに注入する輸液の量を制御して輸液を送り込む輸液ポンプ、及びバッグ、ポンプ及び針を相互に連結する管を具える脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者の処置用静脈内投与キットを提供する。キットはさらに、所定の制御戦略に従い操作されるコンピュータにより1又は複数のポンプを制御するコンピュータを具える。
【0013】
またさらなる態様では、ドナーが脳死であると判定するステップと;血液の酸素化のために呼吸を継続又は開始するステップと;上記輸液を注入するステップと;コンピュータにより注入を制御するステップ;を具える脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者の循環系に溶液を注入する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
さらなる本発明の目的、特徴、及び利点は、図面を参照して以下の本発明の実施例の詳細な説明から明らかになるだろう。
【図1】図1は、神経末端の概略図である。
【図2】図2は、実施例に従った組成物で処置する間の血圧を示した図である。
【図3】図3は、実施例に従った組成物で処置する間の血圧を示した図である。
【図4】図4は、実施例に従った組成物で処置する間の血圧を示した図である。
【図5】図5は、実施例に従った輸液投与用キットの概略図である。
【図6】図6は、実施例に従った別の輸液投与用キットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のいくつかの実施例を述べる。これらの実施例を、当業者が発明を実施できるよう及びベストモードを開示できるよう説明目的で記載する。しかし、この実施例は発明の範囲を限定するものではない。さらに、特定の特徴の組み合わせを開示し論じる。しかし、本発明の範囲内で別の異なる特徴の組み合わせも可能である。
【0016】
定義:本発明の詳細な説明と実施例の文脈において、以下の定義を適用する。用語「コカイン類似体」は、臓器を摘出する前の脳死状態で、心拍があり、人工呼吸されたドナーの臓器を維持するコカインと同じ又は同じように作用する類似体を意味する。用語「薬学的に許容される」は、活性成分の生物活性効果を低下させない無毒物質を意味する。この薬学的に許容されるバッファ、担体、又は添加物はこの分野で良く知られており、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.R Gennaro,Ed.,Mack Publishing Company(1990)と handbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,A.Kibbe,Ed.,Pharmaceutical Press(2000)を参照されたい。用語「生理学的に許容される溶液」は、実質的に体液を阻害しない溶液を意味する。
【0017】
下記に述べる実施例の目的は、脳死を宣告されたものの、それでも心拍があり、人工呼吸器を装着されているドナーからの臓器を摘出及び移植の結果を改良することである。
【0018】
脳死になる過程は、体と臓器の外傷的な体験である。従って、脳死宣告の前、間、又は後の内分泌的、ホルモンの、又は代謝性の事象についての理解に通じることは、医療介入決定の関心となりうる。
【0019】
脳死は、さまざまな原因に起因する脳細胞の大量壊死により始まる。この壊死が脳内の浸透圧を増加させ、血液脳関門による水分吸収を引き起こす。頭蓋骨は拡張できないので、頭蓋内圧が大幅に上昇する。
【0020】
頭蓋内圧が収縮期血圧を上回ると、血液が脳に入ることができないので脳は虚血状態にさらされる。脳は、心拍数と血流を増加させ、全身の血管抵抗を増加させるという反応を示す。
【0021】
さらに副腎は、循環アドレナリン(エピエフリン)及びノルアドレナリン(ノルエピネフリン)のレベルを上昇させる。これをクッシング反射という。
【0022】
心拍数は数百パーセント増加し、最大心拍数となることがある。血圧は200mmHgを超えるまで上昇することがある。この大きな反応は、「カテコールアミン急性発作」又は「交感神経自律急性発作」とも呼ばれる。下記により詳しく述べるように、アドレナリン及び/又はノルアドレナリンレベルは70倍に上昇することがある。
【0023】
この収縮期血圧の上昇が血液を脳へ送るのに不十分だと、脳は虚血状態のままになる。しかし血液の供給がないと、脳は10分以上もたない。
【0024】
例えば浸透圧の上昇により、頭蓋内圧が約300mmHgを超えて上昇すると、脳は高圧に耐えきれず崩れてしまう。その結果、進行性脳腫脹や、脳幹の側圧による海馬回の脱漏が生じ、脳幹機能が欠損し自発呼吸を喪失することがある。これは、大後頭孔を通って脳幹ヘルニアになることがある。
【0025】
他の(脳)死の原因は、若干異なった過程をもたらす。
【0026】
スウェーデンでは、脳死を脳幹を含む脳全体の機能の不可逆的損失と定義する。本発明の実施例にあまり関連のない脳死の兆候がいくつかある。しかし脳死後は、脳血液循環も自発呼吸もしない。体温は33℃を超えてなくてはならず、薬物中毒であってはならない。
【0027】
脳死後は、脳幹を含む脳は回復不能に損傷しているので、その機能を維持することができない。
【0028】
「カテコールアミン急性発作」の間に、アドレナリン及びノルアドレナリンのレベルが大幅に上昇することがある。犬を使った実験で、1−3分以内に血液中のアドレナリン濃度が約0.40から75nmol/lに、ノルアドレナリン濃度が0.40から12nmol/lに上昇する結果を得た。
【0029】
脳死発生後に、視床下部−下垂体−副腎軸が崩壊する。しかし、壊死に続いて副腎にアドレナリン及びノルアドレナリンの生成を促進するサイトカイン、特にインターロイキン6が放出される。最終的にこれらの変力性の生成は減少し、60分後にはアドレナリンとノルアドレナリンのレベルは正常よりも低くなる。このことは交感神経の損失により血管麻痺をもたらす。
【0030】
脳下垂体はまた、水分の再吸収を制御すべく腎臓に作用する抗利尿ホルモン(ADH)、又はバソプレシンを生成する。ADHは、約15分という短い半減期を有するので、約60分後(かなり個人差がある)にADH不足が起こる。ADHの枯渇は尿崩症をもたらし、1時間あたり約数リットルの大量の尿を生成する。体液を補充しないと、尿崩症は血液量の減少を引き起こし、さらに血圧を低下させ最終的に血液循環を喪失させ、すべての臓器に虚血性障害をもたらす。
【0031】
さらに脳下垂体は、糖質コルチコイドの分泌を促進しアドレナリンとノルアドレナリンの合成を促進する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を生成する。
【0032】
さらに、脳下垂体は、甲状腺を刺激してチロキシン(T4)とトリヨードチロニン(T3)を分泌させる状腺刺激ホルモン(TSH)を生成する。T4とT3が枯渇すると、例えば心臓では好気的代謝から嫌気的代謝へ変化して、乳酸塩とピルビン酸塩のレベルが上昇する。
【0033】
脳下垂体は視床下部に依存するので、脳下垂体の働きが弱まったり停止すると、例えばT3、T4、ADH、ACTH、コルチゾール、及びインスリンの循環レベルが減少する。この結果は、好気的代謝の低下、嫌気的代謝の亢進、高エネルギーリン酸の枯渇、及び乳酸塩生成の増加をもたらす。
【0034】
カテコールアミンが高レベルである副作用は、頻脈、心房性及び心室性不整脈だけでなく伝導系異常である。
【0035】
カテコールアミン、特にアドレナリンが高レベルであると肺水腫をもたらす場合がある。
【0036】
カテコールアミンにより生じる血管収縮により臓器は低かん流を引き起こす可能性がある。
【0037】
視床下部は体温を制御するので、視床下部障害は低体温をもたらすことがある。
【0038】
脳死後の臓器の維持について多くのさまざまな戦略が文献に示唆されている。脳死の妊婦を長期に身体サポートすることが可能だという事実が報告されている。完全な呼吸と栄養サポート、血管作用薬、正常体温の維持、ホルモン補充、及び対症療法により母親の脳死後数週間後に胎児が生まれる場合があり、従って胎児の生存の予測が向上する。
【0039】
Kenneth E.WoodとJohn McCartney、「Management of the potential organ donor」、Transplantation Reviews21(2007)出版、204−218頁、及びwww.sciencedirect.comでオンラインで利用可能であり、この技術分野の状態が要約されている。
【0040】
スウェーデンでは、脳死後から臓器を摘出するまで24時間、ドナーの生命を維持することが許可されている。摘出後、臓器の生存性の検査をし、通常移植まで低温条件下で保存する。
【0041】
ADHが急速に低下するので、この問題に対処する必要がある。遅かれ早かれADHの枯渇は、血液減少の原因となる多尿量を伴う尿崩症をもたらす。リンガー液などのコロイド流体又は晶質液を大量に注入することでこれを抑制する。別の方法として、アルギニンバソプレシン、デスモプレシン、DDAVP、又はMinirinなどの昇圧剤の添加がある。
【0042】
代謝を悪化させないよう甲状腺ホルモンレベルの低下に対処しなければならない。上記のようにT4及び/又はT3の添加が適切である。
【0043】
ACTH及びコルチゾールの低下は、メチルプレドニゾロン又は類似体を投与することで対処できる。
【0044】
例えば上記総説を参照されたいが、臓器、特に腎臓の適切なかん流を維持するためには、平均動脈圧MAPを少なくとも60mmHgに維持すべきと考えられている。これはノルアドレナリン及び/又はアドレナリンなどのカテコールアミンを添加することで足りる。しかし、アドレナリン及び/又はノルアドレナリンの添加は一部の臓器の状態を悪化させる場合があることが証明されており、当該技術ではカテコールアミンの添加を避ける傾向にある。心筋又は腎循環へのかん流圧較差を確保するため心拍出量と血管収縮させるのにドーパミンは伝統的に用量増量の適切な変力物質である。
【0045】
カテコールアミンは、血液中循環するときは約数分の半減期を有する。副腎髄質のアドレナリンの正常な分泌は、0.2μg/kg/分、ノルアドレナリンは0.05μg/kg/分である。
【0046】
心臓移植後の心筋障害及び初期非機能性と関連するノルアドレナリンの投与について文献で報告されている。脳死後の「カテコールアミン急性発作」は、心筋虚血又はベータアドレナリン作動性シグナル伝達経路の急速な脱感作を引き起こすと仮定されている。脳死後さらにノルアドレナリンを投与すると、心筋ベータアドレナリン作動性シグナル伝達をさらに脱感作することがある。
【0047】
大量のカテコールアミンの放出下において、取り込み及び不活性化代謝システムが飽和して、ベータアドレナリン作動性心筋受容体(BAR)のダウンレギュレーション、すなわち用量依存性のBAR濃度の減少をもたらすという別の可能性が説明されている。BARの回復可能性は不明だが、臓器機能に影響を与えることがある。
【0048】
さらにカテコールアミンは、スルホ共役することがあり、これは生命体が不活性化誘導体へ遊離血漿カテコールアミンを「プール」し、その後に分離共役又は放出することによる不活性化過程とみられている。
【0049】
上記のように、高レベルのカテコールアミンがアルファ及び/又はベータ受容体の効力を弱めることが証明されている。さらに放出システムが飽和すると、移植片の転帰が不良になる。
【0050】
本実施例の基本的な考えは、生体と比較して死体の脳から既に分泌されない又は実質的に低いレベルで分泌される物質及び/又はホルモンの少なくともいくつかを補うことである。最高の状態でドナー臓器のすべてを維持できる可能性があるので、焦点は心臓血管をサポートすることにより血行動態の安定を維持することである。
【0051】
本発明者は、アドレナリンとノルアドレナリンが添加するのに有益な二つの物質であることを見出しているが、どちらかの物質を添加することは議論の余地があるところであり、上記のとおり望ましくない副作用をもたらす可能性がある。
【0052】
今日において正確なメカニズムは不明であるが、「カテコールアミン急性発作」下のようにカテコールアミンのレベルが高いことが通常神経末端及び副腎髄質で認められるカテコールアミンの貯蔵の枯渇の原因となると考えられる。さらに、神経末端は脳からの信号を受信しないため血管緊張が失われる。
【0053】
通常ノルアドレナリンは、シナプス前神経末端内で、全身に大量に存在するアミノ酸のチロシンから生成される。
【0054】
図1は、交感神経系の神経末端を示す概略図と簡略図である。神経末端は、細胞膜12を有するシナプス前アドレナリン作動性静脈瘤11で終端する。シナプス後エフェクタ細胞膜14は、細胞膜12から少し離れたところに位置している。この距離をシナプス間隙といい、化学シナプスで約20nmの場合がある。
【0055】
チロシンは、輸送体15を介して静脈瘤11に運び込まれ、酵素、チロシン水酸化酵素(TH)の影響を受けてチロシンがDOPAに変化する細胞質に運び込まれる。このステップは、ノルアドレナリンとアドレナリンの合成における律速段階であると考えられている。
【0056】
DOPAは、酵素、芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AAADC)の影響を受けてドーパミンに変化する。
【0057】
比較的非特異的でありノルアドレナリンやドーパミン、及び他の物質のようなさまざまなカテコールアミンを輸送できるVMAT−2(小胞モノアミン輸送体)と呼ばれる活性輸送体17を介してドーパミンは小胞16に取り込まれる。さらに下記を参照されたいが、生成されたドーパミンの約50%のみが通常小胞16に運び込まれ、残りはMAO(モノアミン酸化酵素)と呼ばれる酵素で代謝される。神経末端内には非常に多くの小胞がある。
【0058】
小胞内部には、小胞に入るドーパミンをノルアドレナリン(NA)に変化させる酵素、ドーパミンβ水酸化酵素(DβH)がある。さらに、静脈瘤11の内部にある任意のノルアドレナリンは同じ輸送体17VMAT−2により小胞16に運び込まれる。このように、ノルアドレナリンは再利用される。静脈瘤内部のノルアドレナリンの一部は、小胞16に入らず、酵素MAOにより代謝される。このように、ドーパミンとノルアドレナリンの双方に関して、酵素MAOと活性輸送体17VMAT−2間は競合している。
【0059】
小胞内部のノルアドレナリン濃度は非常に高い。1モル/リットルの範囲内の濃度が報告されている。
【0060】
刺激シグナル到着時に神経細胞膜の脱分極がおこり、いくつかの電位依存性カルシウムイオンチャネル18は、静脈瘤膜12を通してカルシウムイオンを通過させる。カルシウムイオンのレベルが上昇すると、小胞膜と静脈瘤の膜の融合が促進され、ノルアドレナリン、すなわちNAがエキソサイトーシスされる。融合過程は、小胞膜(VAMPs、vesicle−associated membrane proteins)と静脈瘤膜(SNAPs、synaptiosome−associated proteins)に関連する特種なタンパク質の相互作用を伴う。図1の矢印が示すように、小胞はその中身をシナプス間隙に放出し、ノルアドレナリンがシナプス間隙に入り、エフェクタ細胞膜にあるアルファ及びベータ受容体と相互作用することがある。小胞内のノルアドレナリンの濃度がとても高く、シナプス間隙内のノルアドレナリンの濃度が通常とても低く、及びシナプス間隙の距離が約20nmと非常に小さいので、ノルアドレナリンは、多かれ少なかれ高濃度較差により吹き出され、エフェクタ細胞膜の受容体に達する。脱分極電圧を受けることを含む全過程は、カルシウムの流入とノルアドレナリンのエキソサイトーシスにしばしば1/10秒とかからない。
【0061】
放出されたノルアドレナリンはまた、アルファ−2−型及びベータ型のシナプス前受容体と相互作用することがある。アルファ−2−受容体は、小胞に直接影響を与え、ノルアドレナリンの放出を減少させる。ベータ受容体は、ノルアドレナリンの放出を実現させる。このようなノルアドレナリンの放出のこのような直接的な影響についてそのメカニズムははっきりとはわかっていない。
【0062】
しばらくすると、受容体に付着しているノルアドレナリンは受容体からシナプス間隙に放出される。シナプス間隙にあるノルアドレナリンは、NET(ノルエピネフリン輸送体、ノルエピネフリン=ノルアドレナリン)と呼ばれる活性化輸送体19により副腎静脈瘤に運び込まれる。この輸送体は、ノルアドレナリンに対して高い親和性を有する。NETは、シナプス間隙から遊離ノルアドレナリンをしばしば0.1秒内で除去する。しかし、シナプス間隙内の遊離ノルアドレナリンのごく一部は周辺の間質液へ、続いて血液循環へ出る。循環ノルアドレナリンは、通常数分以内に肝臓で素速く代謝される。
【0063】
このように、エキソサイトーシスで放出されたノルアドレナリンのほとんどが再利用される。一部は、小胞16に入る前にMAOで代謝されて循環中に消失し、一部はアドレナリン作動の静脈瘤の中で消失する。上記のように、この消失したノルアドレナリンは、チロシンから生成された新しいノルアドレナリンに置き換えられる。
【0064】
チロシンからノルアドレナリンの合成には負のフィードバック調節が働く。従って、シナプス前アルファ−2−受容体のノルアドレナリンが高濃度だと、律速酵素THが妨げられノルアドレナリンの生成を低下させると解する。
【0065】
シナプス間隙から血液循環までの距離は、約0.1mmから数ミリメートルでありシナプス間隙よりずっと大きい。従って、ノルアドレナリンがシナプス間隙から血液循環に拡散するのに長時間がかかり、逆もまた同じである。その結果、ヒトの生体の血液中のノルアドレナリン濃度は通常低い。さらに、いくらかのノルアドレナリンをシナプス間隙に拡散させ、エフェクタ細胞膜の受容体に影響を与えるために高い血中濃度をとる。
【0066】
アドレナリンは、副腎髄質内で酵素的に促進される特別なステップでノルアドレナリンから生成される。この酵素はフェニルエタノールアミンN−メチル転移酵素(PNMT)と呼ばれており、ノルアドレナリンをアドレナリンに変化させる。この酵素は、原則的に副腎髄質内にのみ存在する。図1に示すように、副腎髄質はアドレナリン作動性静脈瘤に類似する神経末端を具えるが、シナプス後の部分を欠いている。代わりにエキソサイトーシスは血流中に直接行われる。通常、副腎髄質は約80%のアドレナリンと20%のノルアドレナリンを血液中に分泌する。
【0067】
上記の記述はヒトの生体などに当てはまる。体が脳死になるときは、上記に説明したようにこの状態に先立ちカテコールアミン急性発作が起こる。従って、できるだけ多くのノルアドレナリンが交感神経系でエキソサイトーシスにより放出され、エフェクタ細胞のアルファ受容体が血管抵抗の上昇を誘発する。その結果、神経末端16内の小胞は中身をシナプス間隙に放出する。NET輸送体19の取り込み機構が過載積だとシナプス間隙内のノルアドレナリン濃度は、おそらく100倍以上上昇する場合がある。これは、ノルアドレナリンの再利用及びエキソサイトーシス後の小胞の再利用の障害を引き起こす可能性がある。さらに、アルファ−2−受容体により小胞の放出がダウンレギュレーションする可能性がある。さらに、ノルアドレナリンの高シナプス濃度によりノルアドレナリンの新たな生成がダウンレギュレートされる可能性がある。生成されたノルアドレナリンの大部分は、血液循環を通過し肝臓で代謝される。その結果、神経末端でのノルアドレナリンのすべての貯蔵が使い果たされ、神経末端の働きが大幅に阻害される。
【0068】
副腎髄質は、ノルアドレナリンだけでなく、貯蔵されたすべてのアドレナリンも血液に放出する。循環カテコールアミンは素速くに肝臓で代謝される。
【0069】
その結果、カテコールアミン急性発作後、貯蔵されたすべてのカテコールアミン、特にノルアドレナリン及びアドレナリン、が使い果たされる。チロシンからの生成は、新しい状況に適応するのに数時間かかるため、新たなノルアドレナリンはわずかしか生成されない。
【0070】
従って本発明の実施例によると、アドレナリンは通常血液中で見られるのと同様の濃度で添加されることがある。添加されたアドレナリンは、ベータ受容体と相互作用し心拍出量などを促進する。アドレナリンは、当業者によく知られているように体内で他の多くの働きを有する。
【0071】
他の実施例によると、例えばアルファ受容体と相互作用し血管収縮を引き起こすために、血液からシナプス間隙及びここに存在する受容体、通常はアルファ受容体、に拡散をもたらすのに充分な濃度でノルアドレナリンを添加してもよい。ノルアドレナリンは当業者によく知られているように体内で他の多くの働きをする。
【0072】
しかし、ノルアドレナリンは通常血液とは異なる部位で生成され、作用する。これは、血液循環内のノルアドレナリンは体の特定の場所、例えば腎臓で迅速で直接的な効果を有し、その一方で体の別の場所、例えば血管系では時間がかかり効果も少ないことを意味する。このように血液循環へのノルアドレナリンを添加することにより生じる結果は、複雑で不調和である。
【0073】
血液中を循環してシナプス間隙に拡散するアドレナリンの作用を減少させるあるメカニズムは、シナプス間隙に達する任意のノルアドレナリンがNET輸送体に素速く取り込まれ、シナプスの神経末端に運び込まれる、ということである可能性がある。神経末端のノルアドレナリンが枯渇するとこの作用は迅速になる。このようにNET輸送体がエフェクタ細胞受容体が活性化させると、添加された循環ノルアドレナリンの作用が減少する。効果を得るためには、体内で他の働きと互換性を有さない高濃度のノルアドレナリンが体内で必要となる。
【0074】
ノルアドレナリンを血液循環に添加すると、ノルアドレナリンは神経末端により吸収又は吸い取られる。従って、カテコールアミン急性発作後の神経末端の枯渇状態が逆転して、神経末端の通常の働きが回復することがある。しかし、脳死体はいかなる神経信号も発しないので、カルシウムイオンチャネルは刺激されず、エキソサイトーシス及びノルアドレナリンの放出は行われない。
【0075】
本発明者は、コカインをノルアドレナリンと共に添加すると、血液循環中非常に低いレベルのノルアドレナリンの使用を可能にし、さらに所望の血管収縮の効果を得ることを見出した。この結果を説明するある仮説は、コカインがNET阻害剤として作用するものであるというものであり以前から知られていた。シナプス間隙からノルアドレナリンの再取り込みを遮断することにより、NET輸送体はもはやアルファ受容体と競合せず、ノルアドレナリンは血液からシナプス間隙まで拡散し所望の作用を引き起こす。別の説明は、関連するものの組み合わせである。
【0076】
この仮説を検証するために、双方ともNET阻害剤として知られているデシプラミン及びイミプラミンのような他のNET阻害剤を検査した。これらの三環系抗うつ薬により同様の結果が得られたことを示した。しかし、イミプラミンが12時間の半減期及びデシプラミンが30時間の半減期を有するの一方、コカインは約1時間のずっと少ない半減期を有する。ベンラファクシン(5時間の半減期)が同様の効果を有することも示している。従って、NET阻害剤は血液循環ノルアドレナリンの効果を高めるのに少なくとも望ましいといえる。
【0077】
結論は、NET阻害剤とノルアドレナリンの組み合わせが、脳死状態で人工呼吸された体に血管抵抗を維持又は上昇させ、血液循環ノルアドレナリンの効果を高めるために、相乗効果を生じさせるということである。
【0078】
少なくともノルアドレナリンと三環系抗うつ薬(コカインを含む)の組み合わせは相乗効果を有する。
【0079】
同物質はまた、脳死状態で人工呼吸された体におけるアドレナリンの作用に影響を及ぼす。上記を参照されたいが、仮説は例えばベータアドレナリン作動性心筋受容体(BAR)のダウンレギュレーションを防ぐ、すなわちBAR濃度の低下という、コカインが有する同様の作用を三環系抗うつ薬がベータ受容体に有するというもである。
【0080】
典型的なNET阻害剤は、以下の物質である:
アミトリプチリン(ELAVIL)、クロミプラミン(ANAFRANIL)、ドキセピン(ADAPIN、SINEQUAN)、イミプラミン(TROFANIL)、トリミプラミン(SURMONTIL)などの第3級アミン三環系;
アモキサピン(ASENDIN)、デシプラミン(NORPRAMIN)、マプロチリン(LUDIOMIL)、ノルトリプチリン(PAMELOR)、プロトリプチリン(VIVACTIL)などの第2級アミン三環系;
ベンラファクシン(EFFEXOR)、Atomexetine(WELLBUTRIN)、デュロキセチン(CYMBALTA)、Mirtacapine(REMERON)、ノルクロミプラミン、オキサプロチリン、ロフェプラミン、レボキセチン、マプロチリン、ノミフェンシン、ドキセピン、ミアンセリン、ビロキサジン、ミルタザピン、ニソキセチン、及びコカイン。
【0081】
デシプラミン、プロトリプチリン、及びノルクロミプラミンが最も有効性が高いと思われる。
【0082】
一実施例において、コカイン(benzoylmethyl ecgonine)を使用している。コカインは、ノルアドレナリン及びドーパミンNET阻害剤として作用する。神経末端は、カテコールアミンの高い全身レベルから保護される。アドレナリン及び/又はノルアドレナリンを少量注入することで循環血液中のカテコールアミンのレベルを維持することができる。「急性発作」及びそれに続く臓器摘出の前24時間の両方ともに循環カテコールアミンが高レベルで露出したにもかかわらず、神経の作用は保持される。アドレナリン及び/又はノルアドレナリンを添加することで、交感神経と副交感神経の状態が維持され、例えば制御不良の血管拡張及び頻脈を防止する。
【0083】
コカインとNET阻害剤はまた、若しくは代替として、今日知られていないさらなるメカニズムを介して作用し、脳死状態で人工呼吸された体から摘出する前の臓器を保存するのに有益な効果を及ぼす。
【0084】
コカイン類似体は同様に動作する。類似体は任意の上記類似体でもよい。類似体が活性コカインの刺激効果であると考えられるからである。従ってコカイン類似体とは、刺激効果を伴うコカイン類似体を意味する。
【0085】
興奮剤と局部麻酔薬の両方の効果を有するコカイン類似体は、ジメトカイン又はラロカイン(DMC)((3−ジエチルアミノ−2,2−ジメチルプロピル)−4−アミノ安息香酸)、及び3−(p−フルオロベンゾイル)トロパン((1R,5S)−(8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−3−イル)−4−フルオロ安息香酸)である。
【0086】
局部麻酔効果が除去され興奮剤の効果を有するコカイン類似体は、β−CIT(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(4−ヨードフェニル)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、β−CPPIT(3β−(4’−クロロフェニル)−2β−(3’−フェニルイソオキサゾール−5’−イル)トロパン)、FE−β−CPPIT(N−(2’−フルオロエチル)−3β−(4’−クロロフェニル)−2β−(3’−フェニルイソオキサゾール−5’−イル)ノルトロパン)、FP−β−CPPIT(N−(3’−フルオロプロピル)−3β−(4’−クロロフェニル)2β−(3’−フェニルイソオキサゾール−5’−イル)ノルトロパン、Altropane(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(4−フルオロフェニル)−8−[(E)−3−iodoprop−2−エニル]−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Brasofensine((E)−1−[(1R,2R,3S,5S)−3−(3,4−ジクロロフェニル)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタ−2−イル]−N−メトキシメタンイミン)、CFT(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(4−フルオロフェニル−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Dichloropane(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(3,4−ジクロロフェニル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Difluoropine(メチル(1S,2S,3S,5R)−3−[ビス(4−フルオロフェニル)メトキシ]−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Ioflupane(123I)(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(4−ヨードフェニル)−8−(3−フルオロプロピル)−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Nocaine(メチル(3R,4S)−4−(4−クロロフェニル)−1−メチルピペリジン−3−カルボン酸)、Tesofensine((1R,2R,3S,5S)−3−(3,4−ジクロロフェニル)−2−(エトキシメチル)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン)、Troparil(メチル(1R,2S,3S,5S)−8−メチル−3−フェニル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、Tropoxane(メチル(1R,2S,3S,5S)−3−(3,4−ジクロロフェニル)−8−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、(−)−メチル−1−メチル−4β−(2−ナフチル)ピペリジン−3β−カルボン酸(メチル(3S,4S)−1−メチル−4−ナフタレン−2−ylpiperidine−3−(カルボン酸)、PIT(2−プロパノイル−3−(4−イソプロピルフェニル)−トロパン)、PTT(2β−プロパノイル−3β−(4−トリル−トロパン)、RTI−121,IPCIT(プロパン−2−イル(1R,2S,3S)−3−(4−ヨードフェニル)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、RTI−126((1R,2S,3S,5S)−8−メチル−2−(1,2,4−オキサジアゾール−5−メチル)−3−フェニル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン)、RTI−150(シクロブチル(1R,2S,3S,5S)−8−メチル−3−(4−メチルフェニル)−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−2−カルボン酸)、RTI−336((1R,2S,3S,5S)−8−メチル−2−(3−(4−メチルフェニル)イソオキサゾール−5−イル)−3−(4−クロロフェニル)−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン)、WF−23(2β−プロパノイル−3β−(2−ナフチル)−トロパン)、WF−33(2α−(プロパノイル)−3β−(2−(6−メトキシナフチル))−トロパン)である。
【0087】
刺激効果が除去され局部麻酔効果を具えるコカイン類似体は、本実施例の目的で使用することができない。リドカインは典型的な例である。しかし、リドカインの注入は、血管拡張と血圧の低下をもたらす。他のリドカイン類似の局部麻酔薬が同一の血圧降下作用を奏することが予想される。
【0088】
コカイン、コカイン類似体(刺激)、又は三環系抗うつ薬などのNET阻害剤を使用することで、NET阻害剤及びノルアドレナリンの静脈注射により実質的に臓器の生存性を維持し、脳死状態で、心拍があり、人工呼吸されたドナーを24時間維持することができる。
【0089】
心筋過敏症を減少させると解されるNET阻害剤は、特に心臓に有効である。
【0090】
さらにNET阻害剤を使用することで肺水腫を減少させる。これは、これに続く胚移植の結果を向上させる。
【0091】
さらに少量の昇圧剤を添加することにより、腎臓の働きを維持して腎臓移植の結果を向上することが期待される。
【0092】
肝臓及び膵臓、腸などのような他の臓器も同様である。これは、得られた心臓血管の安定性が向上することによりもたらされた。
【0093】
体は酸素と二酸化炭素の分圧を適切なレベルで維持する適切な呼吸換気装置を具えている。脳死体は、通常自発呼吸をせず、これは強制換気が必要であることを意味する。この換気は従来から知られている方法、例えば人工呼吸器、外部圧迫、手動手段又は機械的手段により行われる。
【0094】
体には体液平衡を維持する輸液もまた提供される。腎臓は少なくとも1.0ml/kg/時の望ましい産出レベルで尿を生成する。従って、クレブス・リンガ−溶液のような液体を約1から5ml/kg/時の割合で注入し、腎臓の産出量、汗、呼吸時の体液喪失を相殺する。
【0095】
組成物はさらに、コルチゾン、チロキシン(T4)、インスリン、トリヨードチロニン(T3)などの追加成分、アルギニンバソプレシン、デスモプレシン、又はMinirinなどの昇圧剤、及びメチルプレドニゾロン(コルチゾン)を具える。
【0096】
尿崩症を回避するため、例えば医療介入開始時にボーラス投与し、次いで体により生成されるような正常な持続的投与量を添加するなど、デスモプレシンを出来るだけ早期に添加するのがより好ましい。例えば1.0ml/kg/時の目標を維持するため、尿の生成量に依存してデスモプレシンを増量する。カテコールアミン急性発作後すぐの尿の生成量はとても少ない又は生成されもしないので、尿の生成を開始するためにフロセミド(LASIX)などの利尿薬を添加する必要がある。
【0097】
一実施例において、組成物はコカインなどのNET阻害剤と、さらにアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾン、チロキシン、トリヨードチロニン、及びデスモプレシンを具える。
【0098】
NET阻害剤:ノルアドレナリンの比率は、約1:1でよい。
【0099】
いくつかの実施例において、アドレナリン及び/又はノルアドレナリンの一部又は全を同等の物質で置き換えてもよい。例えば、フェニレフリンはアルファ−1−作動薬であり、ノルアドレナリンと置き換えてもよい。フェニレフリンは、ノルアドレナリンの約1/5の効果と解する。
【0100】
ドーパミンを約0.01mg/kg/分より少ない量添加してもよい。
【0101】
実施例はまた、薬学的に許容される溶媒中に溶解された上記に定義した成分を具える輸液に関する。許容される溶媒は例えば、生理食塩水、ハルマン液、及び(酢酸)リンガー液である。添加される用量が、1.7ml/時(=0.04ml/kg/時)の範囲と非常に少ないときは、滅菌した、非イオン水、すなわち純水HOに成分を溶解する。
【0102】
50ml容量の輸液に存在するさまざまな成分の最終量は、例えば1mg、約0.1から約10mgのノルアドレナリン、1mgなどの0.1から10mgのアドレナリン、1mgなどの0.1から10mgのNET阻害剤である。存在する他の成分は、約0.05から約3mgのトリヨードチロニンであるT3、約100mgから約1000mgのヒドロコルチゾン、インスリン、及びデスモプレシンである。
【0103】
[実験1]
以下の成分:1mg(1ml)アドレナリン、1mg(1ml)ノルアドレナリン、0.3mg(3ml)T3、コルチゾン300mg(3ml)、36mg(9ml)Minirin、及び1mg(3ml)コカインを、50mlの生理食塩水中で溶解した。体重40kgのブタの死体に、静脈内注射によりこの溶液を初速度1.7ml/時で添加し、その後平均動脈圧MAPが約60mmHgを上回るのを維持するため用量依存的に減速させた。注入速度を24時間を通して約0.4ml/時まで下げてもよい。
【0104】
血液量を維持するため、Macrodex補液を100ml/時(2.5ml/kg/時)で添加し、24時間を通して約1.9リットルの尿排出量を維持した。添加した液体の残りは、肺呼吸と汗で体から除去された。
【0105】
浮腫又は任意の血管不安定性を形成する傾向を防ぐためには、デキストラン40又はデキストラン70などの補液にデキストランを添加することが適する。
【0106】
尿崩症のリスクを減らすため、12mgMinirinのボーラスを処置開始に投与した。
【0107】
死体は、臓器機能障害の顕著な兆候を示さなかった。心臓、肺、肝臓、腎臓、及び他の臓器は、移植目的に適していた。
【0108】
実験において体重40kgのブタに上記溶液を投与したときの血圧を図2に示した。上部曲線は収縮期血圧、真ん中の曲線は均動脈圧MAPを算出したもの、及び下部曲線は拡張期血圧である。縦軸は血圧をmmHgで示し、横軸は期間を時間で示した。
【0109】
14時間後に注入速度を上げて明確かつ即座に血圧を上げた。次いで、注入速度を下げてベースライン圧を得た。図1に示すように、すべての臓器が完全に血液のかん流を維持するに十分な80mmHgにMAPを維持する。
【0110】
24時間後の臓器摘出の間、摘出前の30分間に溶液の注入を再度1.7ml/時のベースラインまで上げ、すべての臓器が取り除かれるまで維持した。
【0111】
注入速度1.7ml/時は、副腎髄質の標準生成速度約0.05μg/kg/分より遅いアドレナリンとノルアドレナリンの注入0.015μg/kg/分に対応する。このように血液への注入速度が遅いことは、脳死体の臓器とシステムにより許容されると考えられる。
【0112】
[実験2]
コカインをデシプラミンに置き換えて同様の実験をした。コカイン1mgに代えてデシプラミン3mgを50mlの生理食塩水に添加した。さらに1mgのアドレナリンと1mgのノルアドレナリンをその溶液に加えた。
【0113】
実験1と同様のブタに、一例として21時間でデシプラミン溶液を添加した。注入速度は1.7ml/時にした。一例として22時間で注入速度を3.2ml/時まで上げると血液が上昇し始めた。一例として26時間で注入速度を2.5ml/時に下げた。一例として28時間で注入速度を1.7ml/時に下げた。
【0114】
図3に17時間から35時間までの期間内の血圧を示す。図2と同様上部曲線は収縮期血圧、真ん中の曲線は平均動脈圧MAPを算出したもの、及び下部曲線は拡張期血圧である。さらに平均肺血圧を最下端の曲線で示す。
【0115】
図に示すように、デシプラミン注入して平均血圧を約40mmHgから80mmHgに血圧を上げると脳死体が反応した。注入速度を下げると血圧は約60mmHgまで下がるが、これ以上は決して下がらない。デシプラミンは、長い半減期を有するので、そのNETの阻害効果を長期間通して維持すると考えられる。デシプラミンの注入が減り数時間経っても、デシプラミンは活性だった。
【0116】
[実験3]
コカインをイミプラミンに置き換えて同様の実験をした。この実験で、アドレナリンとノルアドレナリンを定速0.4ml/時で添加した。一例として21時間で、2mgのコカインボーラスを添加すると血圧が上昇した。コカインボーラスの効果は3時間後になくなり、一例として24.5時間でイミプラミンを添加した。イミプラミンボーラスが血圧を約80mmHgから100mmHgに上昇させた。これを図4に示すが、圧力測定管が凝固して洗い流す必要があったため不明確となっている。
【0117】
上記の物質を具える輸液を血液循環に静脈内投与する。図5に示すように、この添加は自動的に制御された輸液ポンプにより行われる。
【0118】
図5は一実施例に準じた注入キットを示す。このキットは輸液を保持するバッグ21を具える。バッグは容量50mlの輸液を含んでもよい。管22はバッグ21の底部と自動運転用の電動機を備えるシリンジである輸液ポンプ23を連結する。管22上で動作する蠕動ポンプを代替的に使用してもよい。脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的なドナーの静脈に挿入するために、第2の管24はポンプと針25を連結する。代替として、静脈内カテーテルのような、血管システムへのアクセス又は連結の任意のタイプを使用してもよい。数時間で50ml程しか注入されないので、バッグとポンプを大きなシリンジに置き換えてもよい。
【0119】
別の実施例では、100kgまでの大きな患者を24時間点滴するに十分な輸液の容量は約100mlである。この場合はいかなる手動の医療介入を必要とせず、全手順が完全に自動で行われる。
【0120】
図6にいくつかの輸液バッグ31、41、51、61、71、及び81を開示する。このバッグは図5の対応するバッグ21と同じである。図6には6つのバッグが提示されているが、必要に応じてバッグはいくつあってもよい。管32、42、52、62、72,82は、バッグの底部とシリンジ又は蠕動ポンプでもよい輸液ポンプ33、43、53、63、73、83を連結する。脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的ドナーの静脈に挿入するために、第2の管34、44、54、64、74、84はポンプと針35を連結する。共通管36は、第2管の各端部と針35を連結する。
【0121】
各バッグは上記の成分を1又はいくつかを含む。例えば、バッグ31はアドレナリンを含み、バッグ41はノルアドレナリンを含み、バッグ51はコカイン又はNET阻害剤を含み、バッグ61はMinirinを含み、バッグ71はT3、T4、コルチゾンなどのようなホルモンの混合物を含み、及びバッグ81はグルコースを含有する等張輸液であるクレブス−リンガー液のような輸液を含む。
【0122】
図6に示すように、各ポンプはコンピュータ90により制御されることがある。コンピュータはセンサ91、92、93などから入力信号を受信する。例えば、ポンプ33は、アドレナリンの添加を制御すべく心拍出量に依存して制御され、ポンプ43は、ノルアドレナリンの添加を制御すべく血圧又は血管抵抗に依存して制御され、ポンプ53は、アドレナリン及び/又はノルアドレナリンの効果に依存して制御されるか、所望で所定の対応戦略に従って制御され、ポンプ63は、尿排出量に依存して制御され、ポンプ73は、所望の対応戦略に従って制御され、及びポンプ83は、尿、汗、及び呼吸により喪失した体液のバランスをとるために制御される。
【0123】
コンピュータは、いくつかの戦略に従って動作する。一つの戦略は、ノルアドレナリンの添加速度に比例した速度でアドレナリンを添加することである。もう一つの戦略は、アドレナリン又はアドレナリンとノルアドレナリンを合わせた添加速度に比例した速度でコカインを添加することである。さらなる戦略は、アドレナリン及び/又はノルアドレナリンの添加に依存せず一定の速度でコカインを添加することである。
【0124】
長い半減期を有する別のNET阻害剤が使用されると、医療介入の開始おけるボーラスは適切であり、約6時間後により少量のボーラスが続く。静脈内ボーラスの後長時間ボーラスの効果を示し、少量のアドレナリン及びノルアドレナリンにより血液行動の安定性を制御することができる。
【0125】
脳死の判定から出来るだけすぐに処置又は医療介入を開始すべきである。実際の死亡と脳死状態と判定された時間の間には時間遅延があるので、この時間遅延をできるだけ短くしなければならない。静脈内ボーラスとともに処置を開始するべきで、特に長時間の時間遅延があると、血圧が約50mmHgを下回る。
【0126】
臓器摘出を行うべきと判定されるまで処置を継続する。摘出直前に点滴を増やし、摘出の間及び摘出の直後に、できるだけ適切な状態で臓器を維持する準備をする。脳死直後から臓器摘出まで処置が行われた。
【0127】
発明者は、アドレナリンとノルアドレナリンと組み合わせてコカインを用いて、ブタを使った実験を20回以上行った。いずれの場合にも、医療介入の開始から24時間にわたり血圧を、例えば70mmHgの一定水準に維持することが出来た。例えば最初の6時間が1.7ml/時で最後の6時間が0.4ml/時になるように、通常、最初に必要な投与量は減少する。しかし、大きな個体差がある。この作用により、医療介入がされなければカテコールアミン急性発作後、通常生じる血圧40mmHg以下となるのを回避することで、カテコールアミン急性発作後すぐに、血圧が十分なレベルで維持されることができる。
【0128】
多くの場合、すべてのパラメータを制御する必要はなく、6つ(又はそれ以上)の制御電源を個々に使用する必要もない。多様な組み合わせは、バッグ81を除きアドレナリンと、バッグ31中のコカイン、バッグ41中のノルアドレナリン及びコカイン、バッグ51中のMinirin、バッグ61中の輸液、及びバッグ71中の成分を有する。
【0129】
さらなる実施例ではバッグ31にアドレナリン、ノルアドレナリン、及びコカイン、第2のバッグ41にはさらなる成分を、及び第3のバッグ51には輸液を含むことがある。
【0130】
代替として、NET阻害剤を具えた輸液と補液は同じバッグ内に配置されてもよく、この場合は、約2.5リットルの容量を有する必要がある。
【0131】
特許請求の範囲において、用語「具える/具えている」は、他の成分又はステップの存在を排除するものではない。さらに、個々に列挙されているが、複数の手段、成分、又は方法のステップが例えば単一ユニットにより実施されてもよい。加えて、個々の特徴を異なる特許請求の範囲又は実施例に含んでいるが、これらを有利に組み合わせることが可能であり、特徴の組み合わせが実行不可能及び/又は不利であると暗示するものではない。さらに、単数に言及しても複数を排除するものではない。用語「一の」、「最初の」、「第2の」などは、複数を除外するものではない。特許請求の範囲の引用符号は、実例を明確にするために規定したに過ぎず、決して特許請求の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0132】
詳細な実施例及び実験に示すように本発明を上記したが、ここに示した特定の形態に限定することを意味するものではない。さらに正確にいえば、添付の特許請求の範囲のみに限定され、上記した以外の実施例も添付の特許請求の範囲内と同等でありうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者を処置するための血管投与用組成物であって、ノルアドレナリン及びNET阻害剤を具えることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記NET阻害剤が、コカイン又はその刺激性類似体であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記NET阻害剤が、アミトリプチリン(ELAVIL)、クロミプラミン(ANAFRANIL)、ドキセピン(ADAPIN、SINEQUAN)、イミプラミン(TROFANIL)、トリミプラミン(SURMONTIL)、アモキサピン(ASENDIN)、デシプラミン(NORPRAMIN)、マプロチリン(LUDIOMIL)、ノルトリプチリン(PAMELOR)、及びプロトリプチリン(VIVACTIL)を具えるグループに含まれる少なくとも一つの三環系抗うつ剤であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記NET阻害剤が、ベンラファクシン(EFFEXOR)、Atomexetine(WELLBUTRIN)、デュロキセチン(CYMBALTA)、Mirtacapine(REMERON)、ノルクロミプラミン、オキサプロチリン、ロフェプラミン、レボキセチン、マプロチリン、ノミフェンシン、ドキセピン、ミアンセリン、ビロキサジン、ミルタザピン、及びニソキセチンを具えるグループに含まれる少なくとも一つの薬剤であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、さらにアドレナリン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、インスリン、トリヨードチロニン、ドーパミン、デスモプレシンなどの昇圧剤、及びメチルプレドニゾロンの少なくとも一つを具えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記NET阻害剤が、ノルアドレナリンの量の0.2から5倍の量存在することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
コカインとノルアドレナリンの比率が、約1:1であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物と、純水、酢酸リンガー液、又は生理食塩水など薬学的に許容される溶媒を具えることを特徴とする輸液。
【請求項9】
前記組成物が、液体約50ml中アドレナリン約1mg及びコカイン約1mg量で薬学的に許容される溶媒に溶解されることを特徴とする請求項8に記載の輸液。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の輸液を平均動脈圧を約60mmHgに維持するのに十分な量注入するステップを具えることを特徴とする、脳死状態にあり、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者の処置方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の輸液を具える輸液バッグ(21)と、ドナーの血管系に挿入された針(25)にドナーに注入される輸液の量を制御して輸液を送り出す輸液ポンプ(23)と、前記バッグ、ポンプ、及び針を相互に結合する管(22、24)とを具えることを特徴とする脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者を処置する血管内投与用キット。
【請求項12】
数組の輸液バッグ(31から81)と、輸液ポンプ(33から83)及び管(32から82、34から84)とを具えることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
所定の制御戦略に従い操作されるコンピュータにより1又は複数のポンプを制御するコンピュータを具えることを特徴とする請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
ドナーが脳死であると判定するステップと;
血液を酸素化するために呼吸を継続又は開始させるステップと;
請求項8又は9に記載の輸液を注入するステップと;
コンピュータにより注入を制御するステップと;
を具えることを特徴とする、脳死状態で、心拍があり、人工呼吸された潜在的臓器提供者の循環系に溶液を注入する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−513992(P2012−513992A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543472(P2011−543472)
【出願日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000541
【国際公開番号】WO2010/077200
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511155132)ヴィーヴォライン メディカル アーベー (1)
【氏名又は名称原語表記】VIVOLINE MEDICAL AB
【Fターム(参考)】