説明

脳波誘導装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、脳波センサでピックアップした被験者の脳波信号をバンドパスフィルタを通した後に光信号に変換し、この光信号を被験者にフィードバックして脳波を誘導するようにした脳波誘導装置に関する。
【0002】
【従来の技術】人間の脳波とその生理的・心理的状態との間には密接な関係があることが知られている。例えば、リラックス状態にあるときはα波(約8〜13Hz)が多く発生し、活動状態にあるときはβ波(約14〜30Hz)が多く発生し、眠たくなったときなどにはθ波(約4〜7Hz)が多く発生する。また、これとは逆に、所定の脳波が多く発生するように誘導してやれば、対応する生理的・心理的状態になり易くなる。
【0003】このような脳波とその生理的・心理的状態との間の相互作用を利用し、外部から身体に光刺激を与えることによってα波を誘導してリラックス状態に導き、ストレスの軽減や精神統一などを図ることができる。このような目的のために用いる従来の脳波誘導装置は、脳波センサでピックアップした脳波信号をそのまま光信号に変換し、被験者にフィードバックすることにより光刺激を行っていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述したように、従来の脳波誘導装置は脳波センサでピックアップした脳波信号を直接光信号に変換してフィードバックしていたため、効率的に脳波を誘導することができなかった。
【0005】本発明は前記事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、被験者にとって目的の脳波を誘導するに最も適した周波数を自動的に求め、この最適周波数を中心とする所定の帯域範囲の脳波信号のみを用いて光刺激を行うことにより、目的とする脳波を効率よく誘導するようにした脳波誘導装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明は、脳波センサでピックアップした被験者の脳波信号をバンドパスフィルタを通した後に光信号に変換し、この光信号を被験者にフィードバックすることにより脳波を誘導するようにした脳波誘導装置において、前記バンドパスフィルタとして通過帯域を可変可能なフィルタを用い、該バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数を所定の周波数範囲で掃引して可変制御する中心周波数可変手段と、前記中心周波数の掃引時にバンドパスフィルタから出力される脳波信号中の掃引中心周波数の振幅レベルを求める脳波振幅算出手段と、該脳波振幅算出手段で得られた各掃引中心周波数の振幅レベルに基づいて目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数を算出し、前記バンドパスフィルタの中心周波数を当該最適中心周波数に設定する最適周波数算出手段とを備えることにより構成した。
【0007】
【作用】中心周波数可変手段は、バンドパスフィルタの中心周波数を所定の周波数範囲、例えばα波誘導の場合を例に採れば、α波帯域たる8〜13Hz範囲で変えながら掃引する。脳波振幅算出手段は、この中心周波数の掃引時にバンドパスフィルタから出力される脳波信号中の当該掃引中心周波数の振幅レベルを求める。
【0008】最適周波数算出手段は、前記中心周波数の掃引が終了した時点で、前記脳波周波数算出手段で得られた各掃引中心周波数の振幅レベルに基づいて目的とする脳波を最も効率良く誘導するに最適な周波数を算出し、中心周波数可変手段を制御してバンドパスフィルタの中心周波数をこの最適周波数に設定する。
【0009】以上のように被験者の脳波信号中から目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数を求め、バンドパスフィルタの中心周波数をこの最適周波数に固定して脳波の誘導を行うので、目的とする脳波を効率的に誘導することができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例につき図面を参照して説明する。図1は本発明になる脳波誘導装置の1実施例のブロック図を示す。図において、1は電極などの脳波センサであり、人体の脳波をピックアップする。2は生体アンプであり、脳波センサでピックアップした脳波信号を処理に適した信号レベルまで増幅する。3は可変帯域型のバンドパスフィルタであり、例えばクロックCLKの周波数を変えることによってその帯域中心周波数を変えることのできるスイッチト・キャパシタ・フィルタ(以下「SCF」と略称)が用いられる。
【0011】4は自動利得制御回路(AGC)であり、前記SCF3より出力される脳波信号を一定レベルに自動制御する。5は自動利得制御回路4から出力される脳波信号に基づいて発光ダイオード(LED)6を点滅制御するLED駆動回路である。LED6から発光される点滅光は被験者にフィードバックされ、目的の脳波を誘導するための刺激光となる。
【0012】7はマイクロコンピュータ、8はアナログ信号をディジタル信号に変換するA/Dコンバータである。マイクロコンピュータ7内には、CPU,ROM,RAMなどを用いて図示するような中心周波数可変手段9、脳波振幅算出手段10、最適周波数算出手段11がソフトウェア的に構成されている。中心周波数可変手段9は、クロックCLKの周波数を変えることによりSCF3の中心周波数f0を可変制御する。
【0013】脳波振幅算出手段10は、前記中心周波数可変手段9によるSCF3の中心周波数の掃引時に、SCF3から出力される脳波信号中の当該掃引中心周波数の振幅レベルを求める。また、最適周波数算出手段11は、前記中心周波数の掃引が終了した時点で、前記脳波振幅算出手段10で得られた各掃引中心周波数の振幅レベルに基づいて目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数を算出し、SCF3の中心周波数f0 が当該最適中心周波数になるように中心周波数可変手段9を制御する。
【0014】前記実施例の動作を、図2の動作フローチャートおよび図3の掃引状態説明図を参照して説明する。
【0015】処理S1: 掃引開始指令が与えられると、中心周波数可変手段9は中心周波数を周波数可変範囲の上限周波数fH にセットするとともに、SCF3に対してこの中心周波数fH を与えるクロックCLKを送る。例えば、α波誘導の場合を例に採ると、fH =13Hzが選ばれる。これによりバンドパスフィルタ3は掃引開始中心周波数が図3に示すようにfH =13Hzに設定される。
【0016】処理S2: 脳波振幅算出手段10はこのfH =13Hz時においてSCF3より出力される脳波信号中から当該掃引中心周波数fH =13Hzの振幅レベルを求め、内部メモリに格納して記録する。
【0017】処理S3: 次いで、中心周波数可変手段9は前記fH =13Hzを予め定めた周波数Δfだけ小さくし、SCF3の掃引中心周波数をこのΔfだけ小さな周波数に設定する。
【0018】処理S4: 新たに設定された掃引中心周波数が予め定めた周波数可変範囲の下限周波数fL 以下であるか否かの判定を行なう。例えば、α波誘導の場合にはfL =8Hzが選ばれる。この判定結果がNOの場合は処理S2に戻り、YESの場合は処理S5に移行する。このようにして、図3中に点線で示すように、fH=13HzからfL =8Hzに至るまで上記S2〜S4の処理を繰り返し実行する。
【0019】処理S5: fH =13HzからfL =8Hzまでの掃引が終了すると、最適周波数算出手段11は脳波振幅算出手段10に格納記録されている各掃引中心周波数fi とその振幅レベルAi を読出し、下記(1)式に基づいて目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数fO を決定する。
O =(ΣAi i /ΣAi )±FB (1)
ただし、Fi :第i番目の掃引中心周波数Ai :第i番目の掃引中心周波数Fi の振幅レベルFB :バイアス周波数
【0020】(1)式中の右辺第1項は掃引した周波数範囲(fH 〜fL )における脳波の加重平均周波数であり、第2項は目的とする脳波をより効率よく誘導するためのバイアス周波数である。前述したように脳波には引き込み現象があるが、誘導すべき脳波周波数よりも僅かに低い周波数で刺激した方がより効果的にリラックス状態に導き易く、また誘導すべき脳波周波数よりも僅かに高い周波数で刺激した方がより効果的に覚醒状態に導き易くなる。そこで、前記(1)式はこのような引き込み効果を考慮して最適中心周波数を算出するようにしたものである。なお、(1)式中のバイアス周波数FB が不要な場合には、第1項のみを用いて最適中心周波数を算出してもよい。
【0021】処理S6: 最適周波数算出手段116は、前記最適中心周波数を算出すると、中心周波数可変手段9に指令を与え、図3に示すように、SCF3の通過帯域の中心周波数f0 がこの算出された最適周波数となるように変更する。中心周波数可変手段9はSCF3にこの最適周波数を与えるクロックCLKを送り、SCF3の中心周波数を該最適周波数に設定する。これにより、目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数に基づいて効率的に脳波が誘導される。なお、図3は前記(1)式におけるバイアス周波数として−FB を採用した場合の例である。
【0022】なお、前記実施例はα波誘導の場合を例に採ったが、θ波やβ波も同様にして誘導できる。θ波誘導の場合には掃引周波数範囲をθ波帯域たる4〜7Hz程度に設定し、またβ波誘導の場合には掃引周波数範囲をβ波帯域たる14〜30Hz程度に設定すればよい。
【0023】
【発明の効果】以上説明したところから明らかなように、本発明によるときは、被験者にとって目的の脳波を誘導するに最も適した中心周波数を自動的に求め、この最適周波数を中心とする所定の帯域範囲の脳波信号のみを用いて光刺激を行うようにしたので、目的とする脳波を効率よく誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる脳波誘導装置の実施例のブロック図である。
【図2】上記実施例の動作フローチャートである。
【図3】脳波誘導のための中心周波数の掃引状態説明図である。
【符号の説明】
1 脳波センサ
3 SCF(バンドパスフィルタ)
5 LED駆動回路
6 LED
7 マイクロコンピュータ
9 中心周波数可変手段
10 脳波振幅算出手段
11 最適周波数算出手段
0 バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数
CLK クロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】 脳波センサでピックアップした被験者の脳波信号をバンドパスフィルタを通した後に光信号に変換し、この光信号を被験者にフィードバックすることにより脳波を誘導するようにした脳波誘導装置において、前記バンドパスフィルタとして通過帯域を可変可能なフィルタを用い、該バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数を所定の周波数範囲で掃引して可変制御する中心周波数可変手段と、前記中心周波数の掃引時にバンドパスフィルタから出力される脳波信号中の掃引中心周波数の振幅レベルを求める脳波振幅算出手段と、該脳波振幅算出手段で得られた各掃引中心周波数の振幅レベルに基づいて目的とする脳波の誘導に最適な中心周波数を算出し、前記バンドパスフィルタの中心周波数を当該最適中心周波数に設定する最適周波数算出手段とを備えたことを特徴とする脳波誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3292735号(P3292735)
【登録日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【発行日】平成14年6月17日(2002.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−123687
【出願日】平成3年5月28日(1991.5.28)
【公開番号】特開平4−352969
【公開日】平成4年12月8日(1992.12.8)
【審査請求日】平成10年3月27日(1998.3.27)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【参考文献】
【文献】特開 昭64−87167(JP,A)
【文献】特開 平2−302271(JP,A)