説明

腐食環境模擬方法及び装置

【課題】 腐食試験溶液を試料に付着させる際に、容易に付着量と付着乾燥後の形状の制御を行う。
【解決手段】 超音波振動子を塩化物などの溶液槽に所定位置に配置し、溶液中での超音波照射により発生した溶液のミストを所定条件のもとに腐食試験片に導くことにより、付着量や付着形状の制御を行う。また、ミスト化工程においては、超音波振動子が、振動面と溶液の液面が3°から60°の角度をなすように配置させるとともに、500Hz以上20MHz以下で動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食試験片に腐食試験溶液や腐食促進成分を均一に付着させるための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腐食試験環境において腐食原因物質の付着と乾湿繰り返しが併行して、金属材料や有機被覆金属材料の腐食が進行する場合が知られている。主として飛来海塩が付着して生じる大気腐食はその腐食例である。各種用途の大気腐食に対する材料選定方法として多様な促進腐食試験が提案され実施されている。
【0003】
その主流を占める複合サイクル試験は、基本的に湿潤、乾燥、腐食原因物質の付着工程を組み合わせて行われる。腐食原因物質は多くの場合、食塩や海塩である。従来の食塩や海塩の腐食試験片への付着方法は、食塩水や海水として腐食試験片に噴霧あるいは浸漬する方法が開示され実施されてきた。
【0004】
一方、実環境での海塩などの飛来量や付着量に関する研究の進歩に伴い、実付着量や付着海塩の形態に関する情報が把握され、これらの要因により腐食試験の結果も影響を受ける可能性が示唆されてきた。
【0005】
しかし、従来の食塩水や海水として腐食試験片に噴霧あるいは浸漬する方法では、付着量や付着形態の制御は不可能で、腐食促進試験への反映が難しかった。このため腐食促進試験の高度化や高精度化を目的として、実環境と同等の付着量や付着形態を制御する検討がなされてきた。
【0006】
このような検討として、特許文献1には空気飽和器と噴霧ノズルにより腐食溶液を付着させる方法が開示されている。また、特許文献2ではエアブラシによる付着が開示されている。
【特許文献1】特開2002−214120
【特許文献2】特開2004−340907
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の腐食試験片への塩化物付着方法は以下に述べる問題を有している。
1)連続的な腐食試験片への付着処理が難しい。
2)試験装置の付着状態が安定化するまでに時間がかかる。
3)付着乾燥後の塩化物付着形状の変更や制御が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は、付着量と付着乾燥後の形状制御が容易な腐食試験溶液の定量付着方法および装置の検討を行った。その結果、超音波振動子を塩化物などの溶液槽に所定位置に配置し、溶液中での超音波照射により発生した溶液のミストを所定条件のもとに腐食試験片に導くことにより、付着量の制御が可能であることを見出した。
【0009】
更に、超音波の周波数あるいは溶液濃度の調整により付着乾燥後の塩化物付着形状の変更や制御が可能であることを見出した。付着量の再現性は、溶液槽と腐食試験片の間に適切な仕切り板を配置し、超音波振動子から水面までの水深の制御や最初の腐食試験片装入の時間を最適化することにより大きく向上することを知見し、本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1)第一の発明は、腐食原因物質を付着させて材料の腐食を模擬する方法であって、腐食原因物質の溶液を超音波振動子によりミスト化させるミスト化手順と、当該ミストに試験体を一定時間暴露する暴露手順と、試験体を乾燥させる乾燥手順を有することを特徴とする腐食環境模擬方法にかかる。
(2)第二の発明は、第一の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、前記超音波振動子が、振動面と前記溶液の液面が3°から60°の角度をなすように配置されたことを特徴とする。
(3)第三の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、前記超音波振動子を500Hz以上20MHz以下で動作させることを特徴とする。
(4)第四の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、前記超音波振動子の振動面と前期溶液の液面との距離が暴露中に1cm以上変動しないように溶液の液面を調整することを特徴とする。
(5)第五の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、ミスト化する塩化物溶液の濃度を0.05〜1.0重量%とすることを特徴とする。
(6)第六の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、腐食物質が乾燥後結晶化する場合に、あらかじめ求めておいた超音波振動子の振動周波数と試験体に付着する腐食原因物質の結晶粒径との関係を参照し、前記超音波噴霧器に備わった超音波振動子の振動周波数を調整することを特徴とする。
(7)第七の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記ミスト化手順においては、あらかじめ求めておいた前期溶液における腐食原因物質の濃度と試験体に付着する腐食原因物質の結晶粒径との関係を参照し、前記溶液における腐食原因物質の濃度を調整することを特徴とする。
(8)第八の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記暴露手順おいては、試験体を暴露時に1方向に一定速度で移動させることを特徴とする。
(9)第九の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記暴露手順においては、試験体を暴露時に1方向に断続的に移動させることを特徴とする。
(10)第十の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記暴露手順においては、試験体にミストを付着させる槽内で試験体を回転させながらミストを付着させることを特徴とする。
(11)第十一の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記暴露手順においては、試験体をミストに暴露する時間を10秒以上10分以下とすることを特徴とする。
(12)第十二の発明は、腐食原因物質を付着させて材料の腐食を模擬する装置であって、 腐食原因物質の水溶液を溜めておく溶液槽と、 溶液槽に配置可能な超音波振動子と、超音波振動子でミスト化された前記水溶液が材料に付着するための溶液付着槽と試料台を備えた
腐食環境模擬装置のうち、前記溶液付着槽と前記溶液槽との間には1以上の隔壁を備えるとともに、 前記溶液付着槽は前記水溶液の液面よりも上方で前記溶液槽と結合することを特徴とする腐食環境模擬装置にかかる。
(13)第十三の発明は、第十二の発明を限定したものであり、前記超音波振動子は、振動面が前記溶液槽における溶液の液面と3°から60°の角度をなすように配置されたことを特徴とする。
(14)第十四の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記試料台は、移動により溶液付着槽を出入りするように構成されることを特徴とする。
(15)第十五の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記試料台は、前記溶液付着層内で回転するように構成されることを特徴とする。
(16)第十六の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記超音波振動子は、[Cr含有量]+[Mo含有量]x3>22 ([含有量]の単位は重量%)を満たす金属材料を振動面に有することを特徴とする。
(17)第十七の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記溶液槽は、液面高さを一定範囲に調節する液面制御手段を有することを特徴とする。
(18)第十八の発明は、上述の発明を限定したものであり、前記溶液槽は、溶液温度を一定範囲に調節する溶液温度調整手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超音波振動子により付着に適した腐食溶液のミストを安定して発生することができ、もって付着量と付着乾燥後の形状制御が容易な腐食試験溶液の定量付着が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る腐食環境模擬方法及び装置の好ましい実施形態を挙げ、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本発明にかかる腐食環境模擬装置を図1に示す。(a)は側面図であり、(b)は上面図である。腐食環境模擬装置は容器20、隔壁24、試料台23、超音波振動子27、電源コード26、ゴム栓25、給水ドレン28、排水ドレン29、液面調節手段30を備える。
【0015】
容器20は隔壁24により溶液槽21と溶液付着槽22に分けられるが、隔壁24は容器20の天井まで達しておらず、溶液槽21と溶液付着槽22は空間的につながっている。隔壁24の上端は溶液付着槽22にある試料台23と接続されるが、この接続点は溶液槽21における液面よりも高くされる。これにより、溶液槽21の溶液が直接溶液付着槽22に流入することを防ぐことができる。
【0016】
溶液槽21には超音波振動子27が置かれる。超音波振動子を駆動するための電源コード26はゴム栓で支持され容器20の外に引き出される。上面図(b)からわかるように、本実施形態では超音波振動子、電源コード、ゴム栓ともに3個備わっているが、本発明はこの個数に限られない。
【0017】
給水ドレン28は液面調節手段から溶液の供給を受け、排水ドレン29は溶液槽内の溶液を容器外へ排出するために使用する。給水ドレン28、排水ドレン29ともに図示しないが弁を備えることが好ましい。
【0018】
溶液槽21にある溶液は、超音波振動子27によりミスト化され、溶液槽21と溶液付着槽22間の空間を通って溶液付着槽に移り、試料台23に設置された試料14に付着する。
【0019】
超音波振動子27の振動面はクロムとモリブデンの配合率が合計で22重量%を超える金属が材料であることが好ましい。これにより、長期間発振しても性能の劣化がおきにくい。
【0020】
試料台23は、バットのようなもので構成されてもよいが(第一の実施形態)、後述するように、移動、回転するように構成されてもよい。
【0021】
図2は試料台23の第二の実施形態を示したものである。
試料台23は駆動機構231を備え、図示するように駆動可能に、溶液付着槽22の外壁を貫くように設置される。
これにより、試料は一定速度又は断続的に溶液付着層に搬入、搬出され、試料ごとの付着量のむらを小さくすることができる。
【0022】
図3は試料台23の第三の実施形態を示したものである。
試料台23は、回転機構232を備え、溶液付着槽22内に回転可能に設置される。これにより、試料は試料台23の回転軸を中心に溶液付着槽22内を回転運動することになり、付着量のむらを小さくすることができる。
【0023】
図4は液面制御手段30の構成を示す図である。(a)は側面図であり、(b)は容器20側から見た正面図である。液面制御手段は主水槽31、副水槽32、蓋33、注水ドレン34、注水ホース35からなる。主水槽31に入れた溶液は貫通孔36を通して副水槽へ流れ、副水槽32から注水ドレン34および注水ホース35を経由して給水ドレン28に供給される。
【0024】
主水槽31の上部は蓋33により閉じられる一方で副水槽32の上部は開放されている。このため、副水槽の液面x2が貫通穴よりも高くなると、主水槽31は密封状態となり、それ以上主水槽31から副水槽32へ溶液が流れず、主水槽液面x1および副水槽液面x2は安定する。
【0025】
超音波振動子27が動作し溶液槽21の液量が減少すると、副水槽液面x2が低下するが、副水槽液面x2が貫通孔36にかかると、主水槽31の密封が壊れ、主水槽31から副水槽32へ腐食液が流れ、副水槽液面x2を上げる。副水槽液面x2が貫通孔36よりも高くなると、主水槽31は再び密封され、それ以上主水槽31から副水槽32へ腐食液が流れず、主水槽液面x1および副水槽液面x2は安定する。
【0026】
以上の機構により、ミストを発生して溶液を消費しても、副水槽液面x2は貫通孔37付近で上下するにとどまる。副水槽液面x2は溶液槽液面x3とほぼ等しくなるので、結果として、ミスト発生中において溶液槽液面x3が一定の範囲で保持される。
【0027】
図5は溶液槽21における超音波振動子27の設置形態を説明する図である。振動面27aは溶液槽液面x3の少し下にあり、x3と一定の角度r1をなすように調整される。なお、振動面27と液面x3の最適距離は周波数および主水槽の形状に依存する。ミスト発生が効率よく生じる位置に振動面27を調整するが、通常は1〜10cmとなる。
【0028】
図6は本発明にかかる腐食環境模擬装置のもう一つの実施形態を説明する図である。腐食環境模擬装置には振動周波数制御手段13および溶液温度調整手段11を備えても良い。
【0029】
周波数制御手段13は超音波振動子27へ供給する電圧や周波数を制御することで振動周波数を制御する。また、溶液温度調整手段11は熱交換用ホース12を介して溶液槽の液温を調整する。
【0030】
本発明にかかる腐食環境模擬方法の手順を図7に示す。
まず超音波振動子27を溶液槽21に設置し(S1)、振動周波数および振動面の角度を調整する(S2)。
【0031】
超音波振動子の周波数は500Hz以上20MHz以下であることが好ましい。500Hz未満の低周波数では塩化物溶液中でミストを生成することができず、また、20MHzよりも高い周波数では水溶液中での減衰が著しく適切な位置に発振面を配置することが難しい。また、超音波振動子の周波数を調整することで、腐食試験体に付着乾燥後の結晶化した付着物の大きさを制御できる。高周波数になるに従い粒径は小さくなる。
【0032】
超音波振動子の振動面の垂線は溶液槽と溶液面より上方に位置した空間方向に対して反対方向に3度から60度傾けて配置することが好ましい。3度未満では超音波振動子から飛び散る飛沫が溶液付着槽に入る可能性が高く、また60度を超えて傾けると振動面から垂直方向の溶液面までの距離が長くなりミストの発生効率が著しく低下する。
【0033】
次に主水槽へ腐食溶液を注入する(S3)。溶液中の付着対象成分濃度を変化させることによって腐食試験体に付着乾燥後の結晶化した付着物の大きさを制御できる。溶液濃度が低下するに従い付着物は小さくなる。また、塩化物において10mg/m2程度の低付着量を精度よく制御する場合にも低濃度の溶液を使用すると有効である
【0034】
具体的には、ミスト化する塩化物溶液中の濃度は0.05〜1.0重量%であことが好ましい。濃度が低いと、十分に溶液が付着しないが、濃度が1.0重量%以上だと短時間で付着過多となり、付着量の制御が難しいからである。
【0035】
超音波振動子を動作させ(S4)、ミストの発生状況を監視する(S5)。安定したミストが溶液付着槽22に流れ込んでいるようであれば(S6)、試料台に試料を設置する(S7)。
【0036】
試料を一定時間ミストに暴露させる(S8)。この際、溶液槽液面x1と超音波発振面の距離を±1cmの範囲に保持することが望ましい。連続的に溶液をミストにすることにより液面が低下するが、溶液の液面から超音波振動子の発振面までの距離の変動が1cmを越えると、試料に対する乾燥後の結晶化した付着物の大きさや単位面積当たりの付着量のばらつきが大きくなる。
【0037】
暴露中に、前述したように、試料台が移動、回転することでより均一な付着が可能になる。
【0038】
また、ミストに暴露する時間は10秒以上10分以下とすることが好ましい。10秒以下では、十分に付着しないが、10分以上暴露すると、付着量の不均一が顕著になってしまう。
【0039】
溶液槽内の溶液温度は、60℃以下に保持されることが望ましい。超音波振動子を連続的に使用すると振動子の発熱により溶液の温度が上昇するが、温度上昇は溶液界面の水蒸気分圧の上昇に起因したミスト粒径や発生量の変動をもたらす。このため腐食試験片への付着量などの変化を生じさせる。
【0040】
暴露後は試料を容器から取り出す(S9)。加えて、試料を恒温恒湿槽内で乾燥させることにより所定形状の付着物を腐食試験体へ一定量かつ均一に付着することが可能である。
【0041】
(実施例)
本発明により、7X7cm、厚さ2mmのステンレス板に対する付着試験を以下に示すように行った。なお、単位面積当りの塩化物付着量は付着後、純水で洗浄し洗浄溶液中の塩化物濃度をイオンクロマトグラフで測定することで算出した。また、乾燥後の塩化物結晶形状は、塩化物溶液を付着した試験板を相対湿度20%以下に保持した恒温恒湿槽に入れSEMにて観測した。
【0042】
(実施例A1)
3%NaCl溶液を入れた樹脂性容器の中に3MHzの超音波振動子を水面の鉛直方向に対して4度傾けて浸漬し、超音波振動子を5分以上連続作動させた。
(実施例A2)
超音波振動子を10度傾け、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
(実施例A3)
超音波振動子を45度傾け、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
(比較例A1)
超音波振動子をゼロ度(垂直方向)とし、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
(比較例A2)
超音波振動子を2度傾け、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
(比較例A3)
超音波振動子を65度傾け、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
(比較例A4)
超音波振動子を80度傾け、それ以外は実施例1と同じ条件で超音波振動子を動作させた。
【0043】
図8に、実施例A1〜A3、比較例A1〜A4のミストの発生状況を示す、ミストが安定して発生した場合を○、ミストが発生しない、あるいは連続して安定した発生が得られない場合を×とした。図5に示すように、本発明範囲にある超音波振動子の発振面の垂線を溶液面に対して3度から30度傾けて振動子を配置することにより腐食試験溶液においても安定したミストが得られることが判る。振動子を傾けた方向には水面から溶液の飛沫が生じるため、振動子を傾ける方向は、溶液槽と溶液面より上方に位置した空間方向に対して反対方向にとすることが好ましい。
【0044】
(実施例B1)
3%NaCl溶液を入れた樹脂性容器の中に超音波振動子を垂直方向から5度傾けて浸漬し、800Hzで5分以上連続作動させた。
(実施例B2)
超音波振動子の動作周波数を10kHzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
(実施例B3)
超音波振動子の動作周波数を1MHzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
(実施例B4)
超音波振動子の動作周波数を4MHzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
(実施例B5)
超音波振動子の動作周波数を18MHzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
(比較例B1)
超音波振動子の動作周波数を400Hzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
(比較例B2)
超音波振動子の動作周波数を100MHzとし、あとは実施例B1と同じ条件で5分以上連続作動させた。
【0045】
実施例B1〜B5及び比較例B1、B2のミストの発生状態を図9に示す。ミストが安定して発生した場合を○、ミストが発生しない、あるいは連続して安定した発生が得られない場合を×とした。図9に示すように、本発明範囲にある超音波振動子の周波数が500Hz以上20MHz以下では、腐食試験溶液においても安定したミストが得られることが判る。
【0046】
(実施例C1)
溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用して、溶液温度を30℃として超音波振動子を動作させ、初期からの液面変動がゼロであるときの付着量を測定した。
(実施例C2)
溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用して、溶液温度を35℃として超音波振動子を動作させ、初期からの液面変動が−0.5cmであったときの付着量を測定した。
(比較例C1)
溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用して、溶液温度を35℃として超音波振動子を動作させ、初期からの液面変動が−1.5であったときの付着量を測定した。
(比較例C2)
溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用して、溶液温度を30℃として超音波振動子を動作させ、初期からの液面変動が1.5であったときの付着量を測定した。
(比較例C3)
溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用して、溶液温度を65℃として超音波振動子を動作させ、初期からの液面変動がゼロであるときの付着量を測定した。
【0047】
図10に実施例C1からC3、比較例C1からC3の付着量を示す。
溶液槽の液面と超音波振動面の距離には最適範囲が存在し、該装置の稼動中に±1cmの範囲に制御するように液面計などを設けることにより、連続稼動においても安定して一定の付着量を得ることができる。また、溶液槽内の溶液温度は超音波振動子の作動に伴う発熱により温度上昇するが、60℃を超えると付着量の制御が難しくなった。安定した付着量を連続作動中に確保するためには60℃以下に保持可能な冷却装置を有することが必要である。
【0048】
(実施例D1)
3%食塩水において、振動面が[Cr重量%+Mo重量%]が24から26の範囲にある材質(SUS310S)からなる超音波振動子を発振させた。
(実施例D2)
3%食塩水において、振動面が[Cr重量%+Mo重量%]が22から27の範囲にある材質(SUS316L)からなる超音波振動子を発振させた。
(実施例D3)
3%食塩水において、振動面が[Cr重量%+Mo重量%]が18から20の範囲にある材質(SUS304)からなる超音波振動子を発振させた。
(比較例D1)
3%食塩水において、振動面が[Cr重量%+Mo重量%]が1以下である材質(SS)からなる超音波振動子を発振させた。
【0049】
図11に1ヵ月後の超音波振動子の不具合状況を示す。ここで、○は不具合がなかったこと、×は不具合により動作しなくなったことを示す。比較例のみ不具合が生じている。
【0050】
(実施例E1)
溶液には0.3%食塩水を、3MHzの超音波振動子を使用して、2つの試料にミストを15秒間暴露した。
(実施例E2)
実施例E1と同条件で、ただし暴露時間を15秒間とした。
(実施例E3)
実施例E1と同条件で、ただし暴露時間を30秒間とした。
(実施例E4)
実施例E1と同条件で、ただし暴露時間を330秒間とした。
(比較例E1)
実施例E1と同条件で、ただし暴露時間を5秒間とした。
(比較例E2)
実施例E1と同条件で、ただし暴露時間を630秒間とした。
【0051】
図12に塩分付着均一性を示す。ここで、2つの試料間で付着量に2倍以上のばらつきのあるものを×、2倍未満のばらつきを○とした。
比較例のみ、付着量のばらつきが2倍以上となっている。
【0052】
(実施例F1)
2つの試料を試料台に設置し、溶液には0.05%食塩水を、3MHzの超音波振動子を使用して、塩付着量が10mg/m2以上となるまで、ミストを暴露した。
(実施例F2)
2つの試料を試料台に設置し、溶液には0.3%食塩水を、3MHzの超音波振動子を使用して、塩付着量が10mg/m2以上となるまで、ミストを暴露した。
(実施例F3)
2つの試料を試料台に設置し、溶液には0.8%食塩水を、3MHzの超音波振動子を使用して、塩付着量が10mg/m2以上となるまで、ミストを暴露した。
(比較例F1)
2つの試料を試料台に設置し、溶液には3%食塩水を、3MHzの超音波振動子を使用して、塩付着量が10mg/m2以上となるまで、ミストを暴露した。
【0053】
図13に食塩水濃度と、付着量均一度の関係を示す。
ここで、2つの試料間で付着量に2倍以上のばらつきのあるものを×、2倍未満のばらつきを○とした。比較例のみ、付着量のばらつきが2倍以上となっている。
【0054】
図14に 本発明による定量付着装置で実施した乾燥後塩化物付着量と暴露時間の関係を示す。溶液には3%食塩水を、超音波振動子には本発明範囲に設置した3MHzの超音波振動子を使用した。図より暴露時間に比例して付着量が制御できることが判る。また、本発明による付着方法は再現性も良好であることがわかる。
【0055】
図15に 本発明による定量付着装置で実施した付着乾燥後塩化物形状と本発明内の付着条件の関係を示す。超音波振動子は5°垂線に傾けて設置した。図Eより超音波振動子の周波数、および溶液の濃度に応じて付着乾燥後塩化物形状が制御できることが判る。また、本発明による付着方法は形状の再現性も良好であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明にかかる腐食環境模擬装置の構成を示す図((a)側面図、(b)上面図)。
【図2】本発明にかかる試料台の実施形態を示す図。
【図3】本発明にかかる試料台の実施形態を示す図。
【図4】本発明にかかる液面制御手段の構成を示す図((a)側面図、(b)正面図)。
【図5】本発明にかかる腐食環境模擬装置の実施形態を示す図 。
【図6】本発明にかかる腐食環境模擬装置における超音波振動子の設置形態を説明する図 。
【図7】本発明にかかる腐食環境模擬方法の手順を示すフロー図 。
【図8】異なる振動面と溶液槽液面の角度における実施例を示す図 。
【図9】異なる振動周波数における実施例を示す図 。
【図10】異なる超音波振動子と液面の距離および溶液温度における実施例を示す図 。
【図11】異なる金属材料による振動面を有する超音波振動子の不具合状況。
【図12】異なる暴露時間の実施例における付着量均一性を示す図。
【図13】異なる食塩水濃度の実施例における付着量均一性を示す図。
【図14】実施例における乾燥後塩化物付着量と暴露時間の関係を示す図 。
【図15】実施例における付着乾燥後塩化物形状と暴露条件の関係を示す図 。
【符号の説明】
【0057】
11 溶液温度調整手段
12 熱交換用ホース
13 振動周波数調整手段
14 試料
20 容器
21 溶液槽
22 溶液付着槽
23 試料台
231 駆動機構
232 回転機構
24 隔壁
25 ゴム栓
26 電源コード
27 超音波振動子
27a 振動面
28 給水ドレン
29 排水ドレン
30 液面制御手段
31 主水槽
32 副水槽
33 蓋
34 注水ドレン
35 注水ホース
36 貫通穴
x1 主水槽水面
x2 副水槽水面
x3 溶液槽液面
r1 溶液槽液面と超音波振動子振動面の角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食原因物質を付着させて材料の腐食を模擬する方法であって、
腐食原因物質の溶液を超音波振動子によりミスト化させるミスト化手順と、
当該ミストに試験体を一定時間暴露する暴露手順と、
試験体を乾燥させる乾燥手順を有することを特徴とする
腐食環境模擬方法。
【請求項2】
前記ミスト化手順においては、
前記超音波振動子が、
振動面と前記溶液の液面が3°から60°の角度をなすように配置されたことを特徴とする
請求項1に記載の腐食環境模擬方法。
【請求項3】
前記ミスト化手順においては、
前記超音波振動子を500Hz以上20MHz以下で動作させることを特徴とする
請求項1又は2に記載の腐食環境模擬方法。
【請求項4】
前記ミスト化手順においては、
前記超音波振動子の振動面と前期溶液の液面との距離が暴露中に1cm以上変動しないように溶液の液面を調整することを特徴とする
請求項1から3の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項5】
前記ミスト化手順においては、
ミスト化する塩化物溶液の濃度を0.05〜1.0重量%とすることを特徴とする
請求項1から4の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項6】
前記ミスト化手順においては、
腐食物質が乾燥後結晶化する場合に、
あらかじめ求めておいた超音波振動子の振動周波数と試験体に付着する腐食原因物質の結晶粒径との関係を参照し、
前記超音波噴霧器に備わった超音波振動子の振動周波数を調整することを特徴とする
請求項1から5の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項7】
前記ミスト化手順においては、
あらかじめ求めておいた前期溶液における腐食原因物質の濃度と試験体に付着する腐食原因物質の結晶粒径との関係を参照し、前記溶液における腐食原因物質の濃度を調整することを特徴とする、
請求項1から6の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項8】
前記暴露手順おいては、
試験体を暴露時に1方向に一定速度で移動させることを特徴とする
請求項1から7の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項9】
前記暴露手順においては、
試験体を暴露時に1方向に断続的に移動させることを特徴とする
請求項1から7の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項10】
前記暴露手順においては、
試験体にミストを付着させる槽内で試験体を回転させながらミストを付着させることを特徴とする
請求項1から7の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項11】
前記暴露手順においては、
試験体をミストに暴露する時間を10秒以上10分以下とすることを特徴とする
請求項1から10の何れかに記載の腐食環境模擬方法。
【請求項12】
腐食原因物質を付着させて材料の腐食を模擬する装置であって、
腐食原因物質の水溶液を溜めておく溶液槽と、
溶液槽に配置可能な超音波振動子と、
超音波振動子でミスト化された前記水溶液が材料に付着するための溶液付着槽と
試料台を備えた腐食環境模擬装置のうち、
前記溶液付着槽と前記溶液槽との間には1以上の隔壁を備えるとともに、
前記溶液付着槽は前記水溶液の液面よりも上方で前記溶液槽と結合することを特徴とする
腐食環境模擬装置。
【請求項13】
前記超音波振動子は、
振動面が前記溶液槽における溶液の液面と3°から60°の角度をなすように配置されたことを特徴とする
前記請求項12に記載の腐食環境模擬装置
【請求項14】
前記試料台は、
移動により溶液付着槽を出入りするように構成されることを特徴とする
請求項12又は13に記載の腐食環境模擬装置。
【請求項15】
前記試料台は、
前記溶液付着層内で回転するように構成されることを特徴とする
請求項12から14の何れかに記載の腐食環境模擬装置。
【請求項16】
前記超音波振動子は、
[Cr含有量]+[Mo含有量]x3>22 ([含有量]の単位は重量%)
を満たす金属材料を振動面に有することを特徴とする
請求項12から15の何れかに記載の腐食環境模擬装置。
【請求項17】
前記溶液槽は、
液面高さを一定範囲に調節する液面制御手段を有することを特徴とする
請求項12から16の何れかに記載の腐食環境模擬装置
【請求項18】
前記溶液槽は、
溶液温度を一定範囲に調節する溶液温度調整手段を有することを特徴とする
請求項12から17の何れかに記載の腐食環境模擬装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−121263(P2007−121263A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107487(P2006−107487)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】