説明

腕時計の防水構造

【課題】 10気圧防水性能が得られるケースとカバーガラスとの防水構造を提供する。
【解決手段】 金属素材からなるケース1とカバーガラス2とを接着剤8を介して接着固定してなる腕時計の防水構造において、ケース1のカバーガラス落着面1bに凹溝からなる接着剤溜溝1dを設ける。この接着剤溜溝1dはケースの側壁面1aと面一にして設け、また、接着剤溜溝1dの溝幅を400〜700μmにし、溝深さを50〜200μmの範囲に設定する。溝を設け、接着剤層を厚く、幅広く設けることで高い防水性能が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕時計の防水構造に関し、特に、カバーガラスとケースとの防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計は、古くから、5気圧防水保証、10気圧防水保証と云われているように、その防水構造については特に注意を払った構造を取ってきている。また、カバーガラスとケースとの係合部における防水構造は外観として見える所でもあり、材質の異なる2部品との係合であることから特にその防水構造には注意を払っている。
【0003】
図3は、シンプルな構造を成した腕時計の要部断面図を示したものである。この腕時計100の構成を簡単に説明すると、ケース101の内部に表示パネルである文字板103とムーブメント104を内蔵し、プラスチックで形成した弾性を有した内枠107でもって固定している。そして、その内枠107を押し付けるようにして裏蓋105でもっケース101の裏面側を塞ぐ構造を取っている。一方、文字板103の表示面側は、長針や短針などの指針106をムーブメント104から突出して設けられた指針軸104aに取付け、更にその上に、透明なカバーガラス102をケース101に取付けてケース101の表面側を塞ぐ構造を取っている。尚、図示はしていないが、指針106の移動調整ができるリューズやバンドなどが取付いた構造を取っている。更に、カバーガラス102とケース101との係合部には防水パッキン108を圧縮して挟設し、裏蓋105とケース101との係合部にも防水パッキン109を設けて、ケース101の内部に水分が進入しないような防水構造を取っている。
【0004】
ここで、ケース101とカバーガラス102との係合部の防水を図るために用いる防水パッキン108は、合成樹脂からなって厚みが均一で弾力性を有するパッキンを用いている。しかしながら、この防水構造は、充分な防水性を得るためには防水パッキン108をある程度厚くする必要性があること、また、ケース101及びカバーガラス102に所定の剛性を必要とすること等の問題からケース101の外形や厚み、カバーガラス102の厚みなどの大きさを大きくする必要性が生じ、自然と時計自体の大きさが大きくなると云う問題があった。また、防水パッキン108の部品コストもかさんで、時計自体の価格も高くなると云う問題があった。このため、安価物の時計や薄型時計には、この防水構造は不向きとなっていた。そこで、安価物の時計や薄型時計にはケースとカバーガラスとを接着剤を介しての接着固定する構造、即ち、接着による防水構造が取られるようになってきた。しかしながら、この接着構造も5気圧防水は保証できるもののそれ以上の高気圧下での防水耐久性や耐衝撃性の面で今一満足する内容にはなっていなかった。
【0005】
このため、高圧下での防水耐久性や耐衝撃性などを改良する接着剤の開発研究が行われた。その1つとして下記の特許文献1に開示された技術を見ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−251602号公報
【0007】
上記の特許文献1に示された接着剤は、主鎖がポリテトラメチレンオキサイドを有し、該主鎖の両端もしくは側鎖にメタアクリル基もしくはアクリル基を備えたプレポリマー樹脂を100重量部と、イソボロニルアクリレートもしくはイソボロニルメタアクリレートの単独または混合物を含むアクリル単量体またはメタアクリル単量体から選ばれた少なくとも一種を50〜300重量部と、シランカップリング剤と、を含有成分として構成した硬化性接着剤である。また、この接着剤を450〜6500cps(25°C)の粘度で、2〜600μmの範囲の厚みでもって用いるのが好ましいとしている。
【0008】
図4は、上記特許文献1に示された所の時計のケースとカバーガラスとの係合部の要部拡大図で、ケース111とカバーガラス112とを上記の接着剤120でもって接着固定した取付構造を示したものである。ここでは、カバーガラス112としては、ソーダガラス、サファイヤガラス、スピネルガラスなどの無機ガラスや、合成樹脂、その他の透明材料で構成されたものが適用できるとされており、また、ケース111としては、チタニウム、ステンレススチール、黄銅、洋白等の銅合金、アルミニウム、あるいはこれらにメッキ等の表面処理を施したもの、金、銀、プラチナ等の貴金属等の各種金属、もしくは炭化物、窒化物、酸化物、各種セラミックス、各種硬質樹脂材料などで構成されたものが適用できるとされている。
【0009】
特許文献1によれば、上記の接着剤を用いることによって、静加圧防水性も15気圧、長期防水性m1000時間、その他衝撃防水性や耐熱防水性、接着強度耐久性などにおいても良好な結果が得られたとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
安価物の時計にはプラスチックの素材や亜鉛素材が良く使われる。例えば、プラスチック素材を使用する例としては、カバーガラスはアクリル樹脂などが良く用いられる。また、ケースはポリカーボネイト樹脂や、メッキが可能なABS樹脂なとも良く用いられる。また、その他に、ケースにはエンジニアリングプラスチック樹脂なども利用される。亜鉛素材を使用する例としては、ケースを亜鉛のダイキャスト成型で形成し、メッキなどの表面処理を施して用いている。亜鉛素材は成形性も良いことからダイキャスト成型で高い寸法精度が得られ、追加加工が余り必要としない長所がある。また、種々の表面処理ができることから貴金属感の得られるケースに仕立てられる長所がある。ケースを亜鉛素材で形成した時計は、ステンレスや黄銅で形成した時計と遜色のない金属感が得られ、しかも、安いコストで製造できることから安価物の時計用として数多く利用されるようになってきている。
【0011】
しかしながら、この亜鉛素材で形成したケース(以降、略して亜鉛ケースと云う)とカバーガラスとの係合に上記特許文献1に示された接着剤を用いたところ、10気圧防水保証に満足する結果が得られなかった。その原因としては次の2つの要因が考えられた。
【0012】
第1要因として:亜鉛素材は柔らく剛性が小さいために、10気圧なる圧力を加えると亜鉛ケース自体が変形し、これにより、硬化した接着剤に応力が加わって接着剤に部分的な亀裂やハガレ現象が発生し、その部分を介して水分の進入を容易にしてしまう。
【0013】
第2の要因として:接着剤の塗布はディスペンサーを用いて機械的に行うが、その塗布量の設定はカバーガラスを取付けたときに亜鉛ケースからのはみ出しが発生しない程度の量に設定する。そして、亜鉛ケースを回転させながら塗布する。しかしながら、機械的に塗布するとは云え、未塗布部分が発生しないようにするために塗布スタート箇所と塗布終了箇所は重なりをもって塗布する。従って、この箇所の塗布量は多目になってしまう。また、亜鉛ケースを回転させながら塗布するが、ディスペンサーによる接着剤の押し出す圧力や亜鉛ケースの回転スピードなどにおいての機械的精度のバラツキなどにより接着剤塗布量に多少のバラツキが発生する。このようなことから、全く均一な量での接着が行われておらず、接着強度にバラツキが発生する。これが基で、接着強度の弱い部分の所から水分の進入を容易にしてしまう。この点について更に図5を用いて詳しく説明する。図5は接着剤の塗布状態を説明する説明図で、図5(a)はディスペンサーでもって接着剤を塗布している状態を説明する断面説明図、図5(b)は接着剤塗布後のカバーガラスを取付けたときの要部平面図を示している。尚、図5(b)は分かり易く説明するために少し誇張して描いてある。図5(a)より、ディスペンサー140による接着剤の塗布方法は、先端に設けた針140aから接着剤を押し出して塗布する。亜鉛ケース121のカバーガラス取付けの丁度コーナ部、即ち、側壁面121aとカバーガラス落着面121bとが交差するコーナ部にディスペンサー140の針140aの針先を向けて接着剤130を押し出して所定の量を塗布する。図5(b)はカバーガラスを取付けた状態を示しているが、カバーガラス122を取付けると、接着剤130は側壁面121aとカバーガラス落着面121bとに引き延ばされる。このとき、接着剤130の塗布量にバラツキがあると、塗布量が少ない所は接着剤130が充分に回り切らず、符号Aで示すように、塗布未済部Aが発生する。これは、側壁面121aにおいても同様なことが起きる。このように、塗布未済部が発生すると、この部分の接着強度は弱くなると共に、この部分から水分が浸透し易くなり、防水性能を低下させる。更に、塗布未済部Aが発生する中で上述した第1要因が重なると、硬化した接着剤の亀裂などが著しく早まり、防水性能が著しく低下するようになる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上のような問題を有することから、本発明はこの問題を解決するために行われた。そして、この問題を解決するための手段として、本発明の請求項1に記載の防水構造は、金属素材からなるケースとカバーガラスとを接着剤を介して接着固定してなる腕時計の防水構造において、前記ケースのカバーガラス落着面に凹溝からなる接着剤溜溝を設けたことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の防水構造は、前記の接着剤溜溝が、カバーガラスの取付け面の一部であるケースの側壁面と面一にして設けたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の防水構造は、前記の接着剤溜溝は、溝幅が400〜700μm、溝深さは50〜200μmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
発明の効果として、カバーガラス落着面に凹溝からなる接着剤溜溝を設けることによって、溜溝の中に接着剤が溜まり、接着剤の接着層が厚くなる。これによって、接着強度が強くなる。また、金属素材からなるケースに圧力変形が生じても、接着層が厚いが故に応力吸収が行われ、接着剤の部分的な亀裂とか剥がれなどは発生し難くなる。また、仮に接着剤、並びに、接着剤とケース或いはカバーガラスとの界面から水分の進入が生じても、接着剤溜溝が凹溝形状をなしていることから水分は溝の形状に沿って進入していくので、密封した内部に水分が到達するには相当な時間が掛かる。このようなことから、凹溝からなる接着剤溜溝を設けることによって防水性能が格段と高められる。
【0018】
また、凹溝からなる接着剤溜溝をケースの側壁面と面一にして設けると、ディスペンサーの針先による接着剤の塗布がコーナ部を狙って塗布することができるので、塗布の仕方が非常にやり易くなる。また、接着剤の塗布時には、コーナ部を含めた溜溝に接着剤が厚みをもって溜まるので、多少接着剤の塗布ムラが生じても表面張力の作用が働いて一周の溜溝に均一に分散した状態になって塗布される。このことより、カバーガラスを取付けたときに、カバーガラス落着面全体に均一に接着剤が引き延ばされて、従来技術で生じた塗布未済部が発生することがなくなる。これにより、接着強度を高めると共に、防水性能を高める効果を生む。
【0019】
また、接着剤溜溝は、溝幅を400〜700μm、溝深さを50〜200μmに設定している。溝幅が400μmより狭いと接着強度も弱くなると共に、10気圧下における防水性能が得られない。また、700μmより大きいと研磨工程でのカバーガラス落着面の形状が崩れ、落着面の平坦性が得られないのと同時に丈方向の所定の寸法が得られなくなる。また、溝の深さについては、50μmより小さいと、接着剤層の厚みが薄くなり、接着強度が弱くなると共に、高気圧力によるケースの変形で硬化した接着剤に応力が発生し、部分的に亀裂などが発生して防水性能を低下させる。また、深さを200μmより深くしても防水性能は殆ど変わらず、逆に、接着剤を多く使用することになって好ましくない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1、図2を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に係る腕時計のケースとカバーガラスとの接着構造を示した要部断面図で、図2は図1におけるケースのカバーガラスとの接着部の形状と接着剤の塗布状態を説明する要部断面説明図を示している。図1において、1は金属素材で形成したケースで、金属素材のケースとしては、亜鉛素材を用いてダイキャスト成型でブランクを形成したケース、黄銅素材のケース、ステンレス素材のケースなどが適用される。2はカバーガラスで、青板ガラスや白板ガラス,ソーダガラス,サファイヤガラスなどのガラスから形成したものである。8は接着剤で、ケース1とカバーガラス2との一周に渡る係合部に接着剤8で接着固定している。使用する接着剤としては、金属とガラスの接着に向いている接着剤を用いるのが望ましく、金属とガラスの接着に向いている接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤で商品名:セメダインCS−2340−5(メーカ名:セメダイン(株))などがある。
【0021】
ここで、図1、図2より、ケース1には、カバーガラス2との係合部において、カバーガラス落着面1b側に凹溝からなる接着剤溜溝1dを一周に渡ってリング状に設けてある。この接着剤溜溝1bは、接着剤を充填させて所要の厚みと幅を持った接着剤層を形成して、接着強度を強くすると共に、高気圧によるケースの変形などによって生じる応力を吸収して、硬化した接着剤の部分的な亀裂や剥がれなどの発生を極力押さえるために設けるものである。特に、亜鉛素材を用いた形成したケース(以降、亜鉛ケースと呼称する)は柔らかくて剛性も弱いことから高気圧の圧力に対して変形などが起きる。そして、それが基で接着剤にも影響を及ぼし、接着剤に応力が発生する。また、この接着剤溜溝1dは、側壁面1aと面一になって形成されており、カバーガラス落着面の幅Mよりも狭い幅nで形成してある。また、溜溝1dの深さは所要の深さを持っている。図1に示すように、この接着剤溜溝1dに充分接着剤8が充填されていると共に、カバーガラス2を取付けたときに、接着剤8がケース1の側壁面1a、並びに、カバーガラス落着面1bに引き延ばされて一周に渡って均一な状態で付着している。本発明の防水構造は上記構成の接着構造を取るが、水中などにおいて高い圧力が加わると接着剤8の付着した係合部から水分が進入する危険がある。本発明の接着構造は10気圧防水性能が得られる防水構造になっている。
【0022】
接着剤8は最初、図2に示すように、接着剤溜溝1d部にディスペンサーで針先から接着剤8を押し出して塗布する。接着剤溜溝1dが側壁面1aと面一になって形成されていることから、針先をコーナ部(カバーガラス落着面と側壁面とのコーナ部)にめがけて配設し、コーナ部めがけて接着剤8を塗布すれば良いので塗布作業がやり易い。また、接着剤8もコーナ部を含めた溜溝1dに塗布されるので、カバーガラス2を取付けた時に接着剤8が側壁面1aにも引き延ばされ易くなり、側壁面1aとカバーガラス落着面1bとにまんべんなく接着剤8が引き延ばされる。更にまた、一周に渡る接着剤溜溝1dに充填された接着剤8はその量も多くなることから表面張力の作用が働き、部分的に塗布量のバラツキがあっても表面張力の働きで一周に渡って均一にならされる。このため、カバーガラス2を取付けた時に側壁面1aとカバーガラス落着面1bに引き延ばされる量は一周に渡ってどの部分においても均一となる。従って、一周に渡っての側壁面1aとカバーガラス落着面1bに付着する接着剤8は一様で、且つ、均一になる。尚、接着剤8の塗布量は、側壁面1aとカバーガラス落着面1bのほぼ全面に渡って付着し、且つ、そこからはみ出しが発生しない量に設定する。そして、ディスペンサー140を固定し、ケース1を回転させながら接着剤溜溝1d部に接着剤8を塗布する。そして、カバーガラス2を取付けて接着剤8を硬化させる。硬化方法は用いる接着剤によって異なるが、熱硬化型の接着剤を用いれば加熱処理を施し、紫外線硬化型の接着剤を用いれば紫外線照射を施して硬化させる。
【0023】
接着剤溜溝1dの大きさは、図2に示すように、溝幅nは400〜700μmの範囲に設定する。また、溝の深さhは50〜200μmの範囲に設定する。カバーガラス落着面1bの幅Mの設計は、耐気圧力によって異なるが、概ね、600〜1000μmの範囲に設計する。例えば、5気圧防水のものは600μm近くの幅を選択し、10気圧防水のものは1000μm近くの幅を選択する。このように、高い気圧防水を要求されるものほど幅を広く設定している。ここで、接着剤溜溝1dの溝幅nは防水性能に大きく影響を及ぼす。10気圧防水の場合、溝幅が狭いと防水性能が充分得られないので、400μm以上必要とする。また、接着剤溜溝1dの幅は広くするほど防水性能が高まるので好ましいのであるが、しかしながら、亜鉛ケースを用いた場合にはバフ研磨による表面研磨を施すので、表面研磨で形が崩れない範囲でカバーガラス落着面1bを確保する必要がある。溝幅を700μm以上取ると残された部分のカバーガラス落着面1bは小さくなり、表面研磨で形が崩れてしまい所要の寸法精度が得られなくなる。所要の寸法精度を得る範囲として200〜300μmの残された部分を確保しておく必要がある。溝の深さhも防水性能に大きく影響する。深さhが50μmより浅いと接着剤層が薄くなり、高気圧によりかかる応力に対して充分応力吸収ができずに部分的に亀裂などの発生を促進して、進水性を早めて10気圧防水性能が得られない。また、深さhは200μmあれば10気圧防水性能が充分得られ、それ以上深くしても防水性能は余り変わらない。深くすればするほど接着剤の使用量は増え、コストアップ要因となって好ましくない。
【0024】
このような接着構造を取ることにより、即ち、カバーガラス落着面1bに接着剤溜溝1dを設け、その溝幅nを400〜700μmの範囲に、また、溝の深さhを50〜200μmの範囲に設定することで、10気圧防水性能が充分得られ、且つ、接着剤の使用量ムダを最小限に押さえる効果を得る。また、接着強度性や耐衝撃性も増して良い効果を得る。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例を図1、図2を用いながら説明する。図1に示した接着構造において、ケース1は軟質で剛性の弱い亜鉛ケースを用いた。亜鉛素材を用いてダィキャスト成型でケースブランクを形成し、一部分追加加工などを行った後に外形の肌面を綺麗に仕上げるためにパフ研磨からなる表面研磨を行い、更に、Cu、Niなどの下地メッキを施し、その上にAu、Cr、Pdなどの仕上げメッキを施して完成した亜鉛ケースに仕上げている。カバーガラス2は青板ガラスを用いた。スクライバーで切断してブランクを形成し、その後に外形研磨、上下面研磨などを施して所要の寸法に仕上げる。ケース1及びカバーガラス2との係合部の寸法は、カバーガラス落着面1bの幅Mは1000μm、接着剤溜溝1dの幅nは500μm、接着剤溜溝1dの深さhは100μm、ケース1のカバーガラス嵌合丈(ケース1の側壁面1aの高さ)は800μm(これは、接着剤溜溝1dの深さhを含めない寸法)、カバーガラス1の外径面とケース1の側壁面1aとの隙間は50μm、の寸法に仕上げている。このケース1は10気圧防水保証を狙っているので、カバーガラス落着面1bの幅を1000μmと大きく設定している。接着剤8は、硬化剤の入った二液性エポキシ樹脂系接着剤で、商品名:セメダインCS−2340−5(メーカ名:セメダイン(株))を用いている。この接着剤は主剤と硬化剤との混合割合は100:15のもので、粘度は5Pa・s(23°C)のものである。
【0026】
ケース1を回転させながら接着剤溜溝1d部一周に渡って、図2に示すように、ディスペンサーの針先から接着剤8を出しながら塗布し、その後にカバーガラス2を取付け、80°C、90分の加熱処理を施して接着剤を硬化させている。
【0027】
このようにケース1とカバーガラス2とを接着剤8を介して接着固定して形成した腕時計を防水試験を行った結果、10気圧防水性能の保証を得た。腕時計で防水構造を取る所は、ケースとカバーガラスの係合部の所以外に裏蓋とケースの係合部、リューズとケースの係合部があるが、何れも防水パッキンを用いた防水構造を取っている。本防水試験に用いた腕時計は、裏蓋とケースの防水及びリューズとケースの防水は充分10気圧防水に保証を得たものを使用している。防水試験は次のA方法とB方法の2通りの方法で行っているが、試験結果はA方法、B方法共に概ね同じ結果が得られたので、主観的判断が入らないB方法の試験結果を評価として採用した。
A方法:水没式と云われる方法で、水中の中に時計を入れて、検査したい所要の気圧圧力を10分間加える。その後水中から時計を取り出して60°Cに加熱したホットプレート上に載せ、そして、20°C位の温度の水を含んだ濡れ布を被せて、カバーガラス内面での水分の結露状態を目視にて判定する。結露が見られるとNG、結露がないとOKの評価。試験に要する時間が掛かると同時に目視による評価なので検査人の主観的判断が入り、評価のバラツキが現れる。
B方法:空気圧による時計の歪みを検出して防水評価を行う乾式試験方法で、ウォータプルーフチェッカー試験器(ハムロン製、WPC8022H15(商品モデル名)・・15気圧まで検査可能)を用いて検査。時計のカバーガラス中央表面に検出端子をセットし、密封状態にして検査したい所定の空気圧を1分間付与し、OK、NGで防水性能評価が表される。操作方法が簡単で評価結果が短時間で出る。
【0028】
上記2通りの方法で10気圧の防水試験を行った所、ケース1の接着剤溜溝1dの幅nを500μm、接着剤溜溝1dの深さhを100μmに形成したものは、全く問題ない防水性能を得た。
【0029】
更に、ケース1のカバーガラス落着面1bが1000μmのものについて、接着剤溜溝1dの溝幅nと深さhの許容範囲を調べることにした。そこで、溝幅(n)と深さ(h)の寸法を色々変えたものを製作し、B方法による10気圧防水試験を行った。その結果を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記の表1において、溝幅(n)は200μmから700μmまで100μm飛びに設定し、溝深さ(h)は30〜300μmの範囲の中で表1に示す如く8段階の寸法を設定して実験サンプル製作して防水試験を行った。×、○、◎印は評価結果を示しており、その評価は次の通りである。
×:10気圧の防水性能が得られなかった。
○:10気圧の防水性能は得られたが、その保証上限が+10%に至っていない。即ち、10〜11気圧の範囲の防水性能であった。
◎:11気圧以上の防水性能が得られた。即ち、10気圧に対して+10%以上の防水性能が得られ、充分な10気圧防水保証が得られた。
【0032】
表1の結果から、溝幅が大きく防水性能に影響することが判明した。溝幅が400μm以上になると溝深さが浅目であっても10気圧防水性能が得られる。一方、溝深さの影響度は小さいことが判明した。上記の結果から、溝幅nが400〜700μm、溝深さhが50〜200μmの範囲が10気圧防水性能が得られて、且つ、接着剤の使用量ムダをできるだけ押さえた範囲と判断した。尚、溝幅nが700μm以上になってくるとカバーガラス落着面が表面研磨により形状が乱れ、所要の寸法精度が得られないことから700μm止まりとした。
【0033】
また、10気圧防水性能が得られた溝幅n400〜700μm、溝深さh50〜300μmの範囲の試験サンプルを1000時間の長期防水試験を行った所、何れも問題ない評価を得た。この長期防水試験は、50時間常温水に浸漬して、50時間毎に上述したB方法による防水試験を行う試験である。トータル時間として1000時間の水中浸漬を行う。
【0034】
比較例として、接着剤溜溝1dを設けない構造のものを防水試験を行った結果は、5気圧防水性能は充分得られたが10気圧防水性能は得られなかった。
【0035】
本実施例は高気圧に対して変形が発生する亜鉛ケースを対象にして防水性能を見た。高気圧に対して殆ど変形を見ない黄銅やステンレス素材などで形成したケースを用いたものであっても、同様に、その防水性能は向上するものである。
【0036】
また、平常時用に使用される5気圧防水保証の腕時計であっても、本発明の防水構造を採用できることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の防水構造は腕時計のみならず、耐高圧防水が要求される工業用装置や機器、或いはまた、産業用機器などにおいても、その防水構造として適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る腕時計のケースとカバーガラスとの接着構造を示した要部断面図である。
【図2】図1におけるケースのカバーガラスとの接着部の形状と接着剤の塗布状態を説明する要部断面説明図である。
【図3】シンプルな構造を成した腕時計の要部断面図である。
【図4】特許文献1に示された所の時計のケースとカバーガラスとの係合部の要部拡大図である。
【図5】接着剤の塗布状態を説明する説明図で、図5(a)はディスペンサーでもって接着剤を塗布している状態を説明する断面説明図、図5(b)は接着剤塗布後のカバーガラスを取付けたときの要部平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ケース
1a 側壁面
1b カバーガラス落着面
1d 接着剤溜溝
2 カバーガラス
8 接着剤
n 溝幅
h 溝深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属素材からなるケースとカバーガラスとを接着剤を介して接着固定してなる腕時計の防水構造において、前記ケースのカバーガラス落着面に凹溝からなる接着剤溜溝を設けたことを特徴とする腕時計の防水構造。
【請求項2】
前記接着剤溜溝は、前記カバーガラスの取付け面の一部である前記ケースの側壁面と面一にして設けたことを特徴とする請求項1に記載の腕時計の防水構造。
【請求項3】
前記接着剤溜溝は、溝幅が400〜700μmであり、溝深さが50〜200μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の腕時計の防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−105654(P2006−105654A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289725(P2004−289725)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)